高倉みどりさんって・・・

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365 ◆..ZunpanHk
流石におれも、このあしらひは無いであらうと後悔した。
このままではまづいと云ふ事は分かつてはゐる、分かつてはゐるのだ。
分かり切つてゐるにも関はらず、引ッ込みがつかなくなつてゐるのだ。
取るに足らない意地が、おれを意固地にさせてゐるのだ。
さうだ、スフィイの言ふ通ほり、今のおれはただの腑抜けである。
スフィイもスフィイなりにおれの事を応援してくれやうとしてゐるのに、おれと云ふ奴は。

おれは何とかスフィイを呼び戻して宥めすかし、改めて対策を練る事にした。
冷静に考へて、おれのやうな商ひのいろはも知らぬ若僧が、一朝一夕に売り上げを
伸ばす事が出来るのであれば、親父辺りが疾ふの昔にやつていて然るべきであらう。
ここは一つ、その道の大家に助言を仰ぐのが良からう。
斯くして、長瀬さんに頼つてみやう、と云ふ結論に達したのである。


だうぞお引取りください、と云ふのが長瀬さんの返事であつた。
366 ◆..ZunpanHk :03/02/26 02:00 ID:Mi10tjjk
おれが何を言つても、それ以上長瀬さんは聞く耳を持たず、おれとスフィイは外に
放り出されるやうにして追ひ出された。
選りにも選つて、長瀬さんにこのやうな形で拒絶されるとは思ひもしていなかつた
おれとスフィイは、置かれてゐる状況が直ぐには掴めず、暫しの間ひだ呆然と
そこに座り込んでゐた。
おれが金儲けに走つたとでも思はれたのだらうか。ならば、このまヽ引き下がる訳には
行くまいと、おれは再び扉を開けて、奥に居るであらう長瀬さんに呼び掛けた。
足音も荒く長瀬さんが現はれた一瞬を見計らひ、おれは土間に膝を突き頭を垂れて
一気に捲くし立てた。
断じて私利私欲の為では御座いません、と或る人の為に為さねばならぬ事なのです、
長瀬さんに断はられては、おれはスフィイ共共首を括る外に無いのです、後生ですから
力をお貸しください、と誇張を交へて義理人情に訴へる。おれも後が無いのだ、必死である。
頭に血が昇つてゐる様相の長瀬さんも、ここまでやられては振り上げた拳を下ろさざるを
得ないやうであつた。