ガララッ
「はぁーい、おまたせー」
その底抜けに軽い声を聞いた瞬間、俺は床の畳ごとひっくり返り、反
対側の障子に頭からつっこんだ。
「ダイナミックな人ね〜」
誰のせいだ、誰の……
これが友人とか、ただの恋人とかの待ち合わせだったらこんなリアク
ションをとる必要はなかったんだろうが……
少なくともここがどこかを考えれば凄まじく場違いである。
――ここは娼館なのだから。
『葉鍵楼』
それがこの娼館の名前だったか?
「2」で始まって「る」で終わる、某巨大インターネット掲示板で、
一時、噂に持ち上がったのを俺は見ている。……ニュー速板だったか?
(違います)
いくつかの条件を満たすものの前にだけあらわれるという、かげろう
のような娼館。
しかし、俺は特に、葉鍵、というジャンルに造詣が深いわけでもなか
った。ああ、あるなぁ、と言う程度は知っていたが、ゲームそのものを
入手したことさえなかった。
だから、俺を迎えた柏木とか言う支配人も、俺がキャラの名前さえ知
らないと言うことを知ると、
「それは妙だな……」
と、真剣な表情で、首をかしげていた。
「まぁ、こちらの手違いで巻き込んでしまったんでしょう、申し訳あり
ません。その気がお有りでしたら、指名じゃなくてもいいですよ、いろ
んな娘、揃っておりますから……」
支配人は気まずそうに苦笑しながら、そう言った。