久しぶりの休日。繁華街に出ると、俺の足は自然と葉鍵楼に向かった。美凪さんに
また会える。そう思うと足取りも軽い。
「美凪さんはいるかい?」
すでに顔なじみとなった、受付の青年に声をかける。
「はい、支度をさせますので先にお部屋へご案内します」
青年は愛想良く笑いながら、俺を奥へと案内した。
「おじゃましまーす」
通された座敷で待っていると、襖の向こうから妙に元気な声が聞こえた。女の声だが、
明らかに美凪さんではない。
襖が開き、生意気そうな少女が入ってきた。藍色の木綿の着物、背の丈は俺の胸くらい。
腰まである長い髪を、上の方で二つに分けて結び、横に垂らしてある。
少女は酒肴を運んできたようだった。美凪さんの姿は、無い。
「? お前は確か、いつも美凪さんにくっついてたガキ」
「みちるのことガキって言うな!」
そう、たしかそんな名前だった。しかし、自分のことを名前で呼ぶとは、やはりガキだ。
「おまえなんかガキで充分だ。それより美凪さんはどうした」
「美凪はいそがしいの。あんたなんかの相手してる時間、ないの」
「なにぃ?」
「ほらほら、みちるが遊んであげるから。美凪をあんまり困らせたらダメだよ?」
「な ま い き い う の は こ の く ち か」
頬をつまんで、一音ごとに左右に引っ張った。みちるの顔はよく伸びて、けっこう
楽しかった。
「いま白状すれば、罪は軽くて済むぞ」
「うにゅ、『あとから行くから、お酒飲んでてもらいなさい』っていわれた……」
涙目になりながら、みちるは白状した。
「ま、そんなところだろうな」
「あ、みちるがやるよ」
俺が酒を飲もうとすると。みちるは俺より先に銚子を手にした。意外に目ざとい。
杯を差し出すと、みちるは危なげない手つきで酌をしてくれた。
とりあえず、飲む。
「おいしい?」
「お前みたいなガキに酌されてもなぁ」
手酌よりマシだが、とは口に出さなかった。
「あ〜 またガキって言った!」
頬を膨らませ、口をとがらせて抗議する様子は、どっから見てもガキだ。
「美凪さんに比べたら、まだまだ」
「そりゃあ美凪には負けるけど、あんたの相手なんかみちるでじゅうぶんだよ」
「はっ、お前相手じゃ俺の方がその気にならん」
「むむむむむ、言ったな〜」
何を思ったか、みちるは立ち上がると俺に背を向けた。
しゅるり、という衣ずれの音と共に、みちるの腰から帯が落ちる。そろり、と肩を
はだけ出しながら、こちらに流し目を送る。そのまま、崩れるように横座りになり、
みちるは薄く笑った。
「ほう」
我知らず、感心のため息が出ていた。
彼女の動きは非常に洗練されており、明らかに男の視線を計算に入れていた。
昨日今日に習い覚えたものでないことは、俺にも判った。
美凪さんが同じ事をやったら、俺は鼻血噴いて倒れていたかも知れない。だが、相手は
所詮みちるである。色気より、微笑ましさが先に立つ。
それでも、面白い芸には違いない。俺はしばらく見ていることにした。
俺の反応に気をよくしたのか、彼女の笑みが深くなった。俺に見せつけるようにして、
細い指先を舐めてから、体の前に持っていった。俺から見えない位置で、彼女の手が体の
上を這い降りていく。喉、胸の間、鳩尾、腹、そして
「はぅん」
俺に聞こえる最小限の音量で、みちるは喘いだ。
自分が唾を飲む音で我に返った。身を乗り出しそうになっているのに気づき、慌てて
姿勢を正した。
その間も、みちるは休まず動き続けていた。着物はすっかりはだけきって、
腰のまわりにまとわりついているだけだ。折り重なった布の中心で、みちるの
小さな背が揺れる。
「んっ、はあっ、あぁんっ」
息を殺すようにして、みちるの微かな喘ぎ声を聞く。俺のことを意識しているのか、
いないのか、湿った物音に混ざる声の中には、男を誘う艶が、確かにあった。
体を支えきれなくなったのか、みちるの上体が次第に横に傾いていった。それにつれて、
背中に隠されていた彼女の肢体が、少しずつ俺の目に入ってくる。
微かな胸のふくらみ、その上で息づく桜色の突起。しっとりと汗ばんだ腹の上で、
二本の腕が忙しなく動き続ける。
濡れたみちるの目が、こちらを向いた。
みちるが、笑った気がした。
「はぁうぅぅぅぅんっ」
固く目を閉じ、わずかに大きな声を出したあと、みちるはくたり、と弛緩した。
呼吸を忘れていたのに気づき、俺は大きく息を吐いた。二人分の荒い呼吸音が、
静かな部屋に満ちた。
「どう? グッと来た?」
仰向けのまま俺の顔を見上げ、みちるは聞いてきた。
「まだまだだな」
俺は内心の動揺を隠そうと、わざとらしく酒を呷った。
「ふぅん、こんなにしちゃってるのに。それでもまだまだなんだ?」
いつの間にか俺の懐に潜り込んでいたみちるが、ズボンの上から人差し指で俺の股間を
なぞり上げた。杯を取り落としそうになるのを、俺は必死でこらえた。
「だいじょうぶ、みちるが最後までめんどう見てあげるから」
彼女はそう言って笑うと、俺のものを取り出し、先端に軽く口づけた。
指先を雁首に絡めながら、唾液を塗り広げるようにしてみちるは竿全体を舐めまわした。
「おっきすぎて、みちるの口には入りきらないけど……がまんしてね」
先端部を唇で包み、みちるは俺の上で舌を踊らせた。口の端からこぼれた唾液が、
糸を引いて落ちる。そのとき、
「失礼します」
涼やかな女性の声が、襖の向こうから聞こえてきた。
俺が返事をする間もなく、襖が開いた。そこには、廊下に座る美凪さんの姿があった。
彼女は室内の様子を一瞥すると、無表情のまま一礼した。俺は声をかけようと口を
開いたが、なんと言おうか迷っているうちに、襖がぱたりと閉じた。
「あ、ちっちゃくなった」
みちるの声が、遠くで聞こえた。
美凪さんの後を追おうかとも思ったが、みちるを振り払うのも気が引けて、俺は
結局その場に座り直した。
「ほら、がんばれ〜」
俺がため息をついている間も、みちるは熱心に奉仕を続けていた。俺が頭を
撫でてやると、みちるは顔を上げ、にへら、と嬉しそうに笑った。
一度は萎えかけた俺の欲情も、彼女の的確な刺激で再び滾り立ってきた。みちるの頭に
置いた手にも、つい力がこもってしまう。
「そろそろ……だ」
終わりが近いことを、俺はみちるに告げた。彼女は目線で頷くと、一層激しい動きで
俺を責めはじめた。
「くっ」
みちるの口の中に、吐き出す。
臆する風もなく、みちるは俺の欲望を受け止めた。雁首のまわりを指でしごき上げ、
射精をうながす。管の中に残った分も吸い出すと、みちるは少し上を向いて、
小さな喉をこくりと動かした。
「んに、いっぱいでたね〜」
頭を撫でてやると、みちるは気持ちよさそうに目を細めた。
「ところで、さっき美凪の声しなかった?」
そう、俺は美凪さんに大恥をかかせてしまったのだ。無表情で去っていった
彼女のことを思いだして、俺は気が重くなった。
「帰ったよ」
やっとの事で、そう答えた。
「なんで?」
「どう考えてもお前の……いや、俺のせいか」
怒鳴りそうになったが、みちるの怯えた顔を見て、自分を抑えた。
「もういい、寝る」
「ん、わかった」
灯りを消して布団にはいると、みちるは当然のような顔で隣に潜り込んで来た。
「お前、ここで寝る気か?」
「ダメ? 二人の方があったかいよ?」
「……そうだな」
夜中、寒さで目を覚ますと、みちるに布団を奪い取られていた。
一人の方が暖かかったな、と思った。