【AAカップ派も】折原みさおスレッド4【A+カップ派も】
酔い潰れた皆に毛布を掛けながらお片付けをしているあたし。たはは…なんか野戦病院みたい。
「みさお、ちょっといいか?」
「うひゃあっ! び、びっくりしたあ…」
「何故そこまで驚く」
「だって、お兄ちゃんも討ち死にしたと思ってたから…起きてたんなら手伝ってよぅ」
それには答えず、ソファーに寝転んだままちょいちょい、と手招きするお兄ちゃん。なにか企んでる顔。
「片付けは後にして、ちょっと二階に上がるぞ。もうすぐイブが終わるからな、急げ」
「…?」
気付けば時計の針は11時半近くを指していて。楽しかった夜も、あと少しで日付が変わろうとしていた。
お兄ちゃんの後に付いて階段を昇り、寝室に入る。……し、しんしつにっ? え、あ、えと…うぁぁ。
まさかお兄ちゃんそんなっだめだよぅ下に皆居るし、あたしまだお風呂入ってないし、それにそれに
心の準備だってまだだし、あ、でもでも……嬉しい、し……
「みさお、こっちに来てみろ。渡したいものが……みさお?」
「は、はいっ!? 当方ばっちり、か、覚悟完了でありますっ!」
「……いきなり固まったりおろおろしたりにへら笑いしたり、一体どうした? あと、覚悟ってなんだ?」
「なんていうか…出来れば、とっておきのぱんつに着替えたかったなあ、とか思うあたしもいるわけで…」
「…なーにを考えとるかお前は。まあいい、ちょっと待ってろ…」
呆れたような顔のお兄ちゃんが、ポケットから何か小さな包みを取り出す。綺麗にラッピングされた箱。
悪戯っぽく笑いながら、あたしに『それ』をそっと差し出す。もしかして、これ…
「メリークリスマス。良い子のみさおに、兄ちゃんからプレゼントだ」
「あ…………ちょ、ちょっと待って、すぐ戻るからっ!」
「どした?」
そうだ、そうだった。あたしだってお兄ちゃんにあげたい物があったのに。
タイミング計ってるうちに忘れちゃうなんて、ホントばかみたいだ。
急いで階下に戻って、クッションの下に隠しておいた包みを手に取る。踵を返して二階へ猛ダッシュ。
…途中、住井さんを踏んじゃったけど。ごめんなさい急いでますのでこれにてっ。
「はあはあ…ご、ごめんなさいお兄ちゃん…あたしも、これ、お兄ちゃんにプレゼント…」
「何を慌ててるのかと思えば…俺から貰った後でもよかろうに」
「そんなのだめっ! ちゃんと交換しないとっ」
「律儀なやつめ。よし、では改めて…メリークリスマス」
「メリークリスマス♪」
小箱と包みを交換する。なんだか照れくさくて、でも暖かい気持ちで胸がいっぱいになって。
少しだけ泣きそうになるあたし。えへへ…うれしいな…お兄ちゃんからの、贈り物…
「ねえお兄ちゃん、開けてみてもいい?」
「ああ。これも開けていいか?」
「もちろんっ。あ、でも気に入って貰えるかなぁ…」
「それは兄ちゃんも同じことだ」
そうして二人、丁寧に丁寧に包みを解いていく。そこから現れたのは。
「…指輪? これ、指輪だよねっ そうだよね?」
「手編みのマフラーか…よく出来てるな、大したもんだ」
お兄ちゃんの手には、あたしが懸命に編んだマフラー。あたしの手には、とても綺麗なプラチナリング。
「ねえ、お兄ちゃん…これ、どの指に」
「みさお、その指輪は『ピンキーリング』だからな。勘違いせんように」
「…はあい」
小指かあ…ちょっと残念。えへ、嬉しいのには変わりないけどね。
そしらぬ顔でマフラーを巻き始めるお兄ちゃん。あ、あれっ? なんか、ヘン…
「みさお…これ長すぎやしないか? どうみても三メートル近くあるぞ」
「うあ、や、やっぱり? 突貫作業失敗…」
「やっぱり、て。判ってたんなら程々の長さで止めておけば…」
「うううぅ…間に合わないかもと思って、夕べラストスパートかけたら…」
「かけたら?」
「うっかりやりすぎちゃったみたいで…直してる時間もなくて、その…ごめんなさいぃ…」
自然と消え入りそうな声になる。お兄ちゃんは素敵なリングくれたのに…あたし、だめだめだぁ…ぐすっ。
「な、泣くなみさお。そんなことより指輪嵌めてみろ。なっ? よし、兄ちゃんが嵌めてやるから…」
「う、ん…」
お兄ちゃんは慌ててあたしの手を取り、リングを嵌めようとする。
伸ばした小指に、何の抵抗も無くリングが……あれ? ホントに抵抗ないよ?
「…おや? こ、こんなはずは…おやあ?」
「お兄ちゃん、なんか、すかすかしてるよ…?」
「…まあ、その、なんだ…もう少し大きくなってからのお楽しみということで…」
「そんなあーっ!」
やたら長いマフラーを引きずるお兄ちゃんと、抜け落ちそうな指輪を嵌めたあたし。聖夜のお間抜け兄妹。
しばらく戸惑ったまま顔を見合わせて、やがてどちらからともなく。
「…ぷっ…くくっ…くすくすくす」
「ははっ…わはははははっ!」
「…もうっ! ちゃんと指のサイズくらい測ってよぅ! あ、あははははっ!」
「お、お前が言えるかっ! 縄跳びできるようなマフラー編みやがって…わはははマジで長えっ!」
そうしてひとしきり笑っているうちに、なんだかうじうじしてたのが馬鹿らしくなって。
少し笑いが収まったあたしは、いまだ可笑しそうに笑い続けるお兄ちゃんを眺める。
優しくて、頼りがいがあって、まるでお父さんみたいで、でも悪戯な子供みたいな、あたしのお兄ちゃん。
…うん。やっぱりあたしは、お兄ちゃんのことが好きみたいだ。
「ねえ、お兄ちゃん」
「ん?」
「大好き、だよ」
ぽかんと口を開けたお兄ちゃんの顔が、みるみるうちに真っ赤になる。不意討ち成功っ♪
硬直するお兄ちゃんに近づいて。「ありがとう」とか「すき」とか「これからもよろしく」とか。
あたしの気持ち全部を詰め込んで。
―ちゅっ …もう一度、不意討ちした。
「しかし『賢者の贈り物』じゃあるまいし、どちらも使えないというのはなあ…」
「…ふふっ、実はそうでもないのであります…ほらっ♪」
「お? ちゃんと指に嵌って……て、おひおひ。まちたまい。その指は…」
「左手の、薬指だよ?」
「だよ? でなくて。そこはその、なんていうか、アレだ。……駄目だ駄目だそんなんっ! 不許可だっ!」
「聞こえませーん。なんにも聞こえなーい。えへへ…この指に決定っ♪」
「くっ…何時からそんな聞き分けの無い子にっ…! そんなことするなら兄ちゃんにも考えがあるぞ…」
「えっ? ななな何? …きゃあああああっ」
ぐるぐるぐる
「…これが世にも恥ずかしい『一本のマフラーを共有』だっ! ど、どうだみさお、恥ずかしいだろっ!」
「うん……恥ずかしい………すごく、恥ずかしいっ♪ (ぎゅっ)」
「……ぬかったああああっ! 『まんじゅう怖い』状態にっ!」
「…こら、そこのバカップル兄妹」
「「ゆ、由起子さん見てたのっ!?」」
皆で大騒ぎしたことも。お兄ちゃんとプレゼント交換したことも。泥酔した由起子さんにお説教されたことも。
…こんなに、なにもかもが楽しいクリスマスなんて初めてで。だから。
―あたしはきっと、2002年の12月24日を、一生忘れない―