私と彼が正式に付き合うようになって初めての2月14日
付き合うと言ったって、それまでの20年間ずっと一緒にいて
形式が実態に整ったと言うのが本当だ。でもそれはそれ
今日はやはり付き合って初めてのバレンタイン・・・
3時を過ぎると、学校帰りのお客さんが増える。ちょっとした書き入れ時だ
今日は私が3年の時に1年だった後輩が進路が決まったからと言って、
3人ほど報告に来てくれた。私がおめでとうとお祝いの言葉を言い、いくつか
昔の思い出話にひたっていると、後輩が急に
「そう言えば先輩、宮田先輩とどうなったんですか?」
と聞いてくる。私が返答する前に
「もう、ラブラブなんでしょ?」
「今日も終わったらデートなんですか?」
と次々に言ってくる。私たちが正式に付き合うようになったのは、確かに去年なんだけど
昔から周りからは 夫婦だとかからかわれてきた。この子たちはその急先鋒みたいな存在だった
「で、どうなったんですか、お二人の関係は?」
ええい、散々からかってくれたお礼だ。私は胸を張って言ってやった
「私たち付き合ってるんだ。去年告白されたんだ・・・やっと。」
反応は一瞬無であった。5秒くらいしてようやく
「うっそー。ショック〜。宮田先輩結構カッコよかったのに〜」
「ここだったら会えると思ったから、来たのになぁ・・・」
それは初耳だ。あいつ結構人気あったんだ。
「2人とも何言ってるの。素直におめでとうと言って上げなさいよ。」
「う、うん。おめでとうございます、先輩。」
「あ、ありがとう。」
照れ隠しで頭をかきながら私は言った。
「ちぇ、絶対ないと思ってたのに・・・」
「賭けは私の勝ちね。今日はあなた達の驕りだからね。」
・・・おーい、あんた達そんなこと賭けにしてたの?
内はねのショートカットの女の子が少し長身な男の子と一緒に来た
二人は窓際に座り、女の子が押し付けるようにに紙包みを渡す。男の子は
さらに面倒臭そうに受け取る
「ああ、ありがとよ。」
「何よ、ヒロ。もっと感謝しなさいよね。いい?お返しはちゃんと10倍だからね」
「じゃあこれ返す」
「ちょ、ちょっと、わ、わかったわよ、5倍でどう?」
「・・・・・・・・・」
「ええい、今ならバーゲンセールの2倍返しにしといてあげるわ、これでどう?」
「考えとく。」
思わずその光景にカウンター越しに笑ってしまった。それが横目で見えたのか
女の子が睨み付けるようにこっちを見る。私はすぐに仕事の振りをしながら目線をそらす
結局彼は営業時間内には来なかった。連絡の一つもくれりゃいいのに。
「よぉ、来てやったぞ」
・・・やっと来た。どれだけ待ったと思ってるんだ?
健太郎は私の心中なんておかまいなしに、いつものように来たのだった
そんないつも通りのこいつにちょっと苛立ちを覚える
「遅いわよ、一体何してたのよ!!」
「仕入れの伝票が合わなくてよ、今までかかっていたんだ。」
それじゃあしょうがない。叔父さん達から店を一人で任されてるから・・・
でも私は許さないフリをした そうしたら彼は頭をわざとらしく深く下げて謝る
「しょうがないわね。はい、今年の分のチョコよ。」
「おっ、サンキュ。」
もう少し言い方がないのか。と思ってたら、突然、不意をついて唇を重ねてきた
「愛してるぜ、結花」
「・・・バカ。もう、今日だけよ。」
「来月は楽しみにしとけよ。アッっと言わせてやるからな。」
それはそれは。せいぜい楽しみにしておきます しょうもないモノだったら蹴る!!
「結花、結婚しよう」
ホワイトデーのお返しは指輪とプロポーズだった。
「あっ・・・。」
「見ろ、あっ、って言わせて見たぞ。」
本当にちょっとだけビックリした 私は何を渡されても健太郎の一ヶ月前の言葉通り
あっ と言ってやろうと思ってた。でも今の あっ は本当にごく自然に出た言葉だった
「・・・・・・・・・。」
私は声にならない言葉を口に飲み込んだまま、次に彼に言うべき言葉を必死に
紡ごうとしていた。本当ならずっと前から用意していた言葉だったのに、いざとなると
出てこない。永遠のような静寂のあと、出した言葉は
「ありがとう・・・うん。」
もう何も言えなかった。後で言われたのだが、このとき私は大きく泣きじゃくって彼に
抱きついたらしい。そのときの私は無我夢中でそんな事覚えてる余裕なんてなかった
「ずっと一緒・・・なのね」
「ああ、一緒だ。これからずっとな」
Fin