「おっりはっらく〜ん」
三時間目終了後。お兄ちゃんのクラスを覗きこんだ私は、その声を聞いて慌てて頭を引っ込めた。
ええっと、確かあの人は……里村さんのお友達の、
「げげっ、詩子」
そう、詩子さんだ。
「女の子に対して『げげっ』はないと思うよ。あたし、深く傷ついちゃったな」
「お前がそんな繊細かよ」
「それもそだね。はい、チョコだよっ」
そうしてぽんっと机に置いたのはケーキの箱。でもあれって確か……。
「立ち直り早いな。で、オレの見る目が確かならこれは不二屋で売ってるケーキだったと思うが?」
「うん、そうだよ」
「なにか手を加えたのか?」
「ううん。そのまま」
「なんだそりゃあ」
詩子さんは店で買ってきたケーキをそのままお兄ちゃんに渡したみたい。あれっ、なにか差し出してる。
「はい、これ」
「あん、レシート?」
「そ。ホワイトデーに3倍返ししなくちゃいけないでしょ? だから明細、取っといたから」
「お前それは……んぐっ。今、なにを口に入れた?」
「おまけだよ、おまけ。どう、美味しかった?」
「お、おう」
「うん、良かった。じゃあ来月よろしくねっ。あっ、あっかね〜」
後に残されたのは狐につままれたような表情のお兄ちゃん。
……私には、詩子さんがお兄ちゃんの口に入れたものがよく見えた。
あれは多分トリュフチョコ。手作りで、恐らく本命の。
こうして、お兄ちゃんへの四個目のチョコも私の目の前で渡された。