はわわ〜っ。マルチのこと忘れないでくださいっ5.5

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それは、看板に偽り有りというべきか… う〜ん (w

遅れ馳せながら「わたし」と「私」の物語 12章 行きます〜
>199の続きですぅ〜

今回は「初月」も「三冬」も登場しないけど
いいんかなぁ… こんなのマルチスレに投下して… オコラナイデクダサイ


[12章]

 暫く沈黙していた奥様ですが、

「…セリオ 久しぶりね」
「はい、奥様もお変わり無いようで」

 嘘だ。
年齢を感じさせないほど若々しく、はつらつだった奥様は見る影もなく
年齢相応、いや、それ以上に老け込んでしまっている。
 私が最初に見誤ったのも、無理もない。

 奥様がゆっくりと、しかしおぼつかない足取りでこちらに歩いてくる。
そして、墓前に手向けられた花束に目がいったのか
「セリオ、あなた… 毎日ここへ?」

 毎日ここに来ているのかという問いなのだろう 私は
「はい… でも、なぜ?」
「ここに並んだ花束の数と、あなたの性格からしてね」
奥様はそう言いながら墓前へ持ってきた花を置き、線香に火を灯しました。

 暫く時間が流れた後、奥様はふいに私の方に振り向き
「今のあなたのご主人さん、とてもいい方ね」

「はい、とても… 私なんかのためにここまでしてくださって…」
初月様が奔走してくださらなかったら
私は、今ここに立っている事すら叶わなかったのだから。

「この間、あなたのご主人さんがうちに来たの、知ってる?」

「はい、初月様は私におっしゃっては下さりませんでしたが
おおよそは…」
私は奥様の顔を見つめながら頷く。

 私の答えに寂しそうに微笑みながらも奥様は
「あの時一緒に来ていたロボットに説教されちゃってね
私もこの年になって初めてよ、ロボットに説教されるなんてね…」

 私が見守る中、奥様の言葉は続きます。
「「主を、あなたの息子さんを守りきれなかった事で
自分を責めているセリオさんに、そんな追い討ちをかけるような言葉を…」だって…」

 少しずつ奥様の表情が曇っていき、そして…
「でも、そうなのよね… 私はセリオに酷いことをしてしまったのだから」
その言葉とともにその場に泣き崩れ落ちた。
「奥様、お気を確かに」
 私は奥様に駆け寄りました、が、奥様は私の腰にしがみつくと
「…セリオ… ごめん…ごめんなさい…」
と、泣き叫んでいる。

 私はどうしたらよいのか少し迷った後
奥様の頭に右手を、背中に左手を置き、そっと撫でて差し上げました。

 叫び声のような嗚咽が響く墓所

 私は奥様を撫でる手は止めずに
「奥様、お顔をお上げ下さい。 私は、そのお言葉だけで報われましたから」
奥様の肩がぴくりと動き、やがて私からゆっくりと手を離し
顔を上げ、信じられない面もちで私を見つめています。

「…私を… 裕の葬式にも出席させなかった私を、ゆ、許してくれるというの…?」
奥様の声は弱々しく、消え入りそうな声でしたが、私は

「裕さんと、お別れできなかったことは残念ですが
墓地の場所を教えて下さっただけで、私は十分です」
微笑みながら私がそれだけ言うと、奥様は感極まったのか
またもや、その場で泣き崩れてしまわれました。

奥様がようやく落ち着かれた後、私は奥様のご提案で
久しぶりにお家の方に寄らせていただきました。

私が居たときとは比べ物にならないくらい荒れてしまったお庭。
家自体も、あちこち痛んでいる様子で、私は少し悲しくなってしまい
そのまま急いで家の中に入ります。

そして…
久しぶりに訪れた裕さんの部屋。
本当にあのときのままで、ドアを開けたら裕さんがいそうな…
でも、いないんですよね。

 応接室で待機していたら、ドアが開いた後
小さな小箱を2つ持った奥様が現れました、そして
「セリオ、これを持っていってちょうだい」
 私は箱を1つを受け取ると中を開きます。
中には… 見覚えのあるカフスボタンがありました。
 真ん中にエメラルドの石が入った 裕さんがいつも身につけていた品物。
「奥様、これは!」
奥様は大きく頷くと
「そう、事故の時に付けていたやつよ、あなたに形見分けしておこうと思って」
そんな大事な物を受け取るわけには…。

「いいから、受け取って、ね。 私はそれぐらいしか出来ないから、あなたがそのカフスを
そして私がこのネクタイピン。 二人で分けた方が、裕も喜ぶと思う」
 奥様がもう一つの箱を開くと、そこにはエメラルドの石が入ったネクタイピン
カフスボタンとセットになった品物です。

 暫く躊躇していた私でしたが、結局奥様に押しつけられてしまいました。
「それと、もう一つ、あなたに返しておかないと」
奥様はそう言った後、ポケットの中から指輪を見せてくれました。

 私を買って余裕のない裕さんが、初めてプレゼントしてくれた指輪。
私にとっては何よりの宝物…。

 気がついたら私は、涙を流しながら指輪を見つめていました。
止めどなく流れる涙を抑えきれずに、私がただ、静かに泣いていると
奥様は私を抱きしめ、涙声で
「もう一つ、私は酷いことをしていたのね…
 気がつかなかった私を許して… セリオ…」

私達は、暫くそのまま抱き合ったまま涙を流しました。

 しばし時が流れた後、奥様は
「セリオ、あなたこれからどうする気なの?」
と、私に問い掛けた。

 私は…。

「今からお墓の方に戻ります。 そして、裕さんにお別れを」
私がそれだけ言うと奥様は
「そうね、それが良いと思うわ、元気でね… セリオ」
「はい、奥様もお元気で」

サテライトから時刻表を取り出すと、時間はあまり有りません。
 私は家の前で見送る奥様と懐かしき家をしばし見つめ
内部メモリーに納めると、急いで裕さんのお墓へ戻りました。

 墓前で手を合わせた後、私は… そこにいるであろう裕さんに微笑みながら
「裕さん… 私、もうここへは来ません。 そろそろ前に進まないといけませんから」

 そう、裕さんが亡くなったあの日から、止まってしまった私
その私に手を差し伸べて下さった、初月様。
「ですから、お別れです」
 私は自分が涙を流していることを自覚しながら言葉を続ける。
「でも… 私、裕さんのことが大好きでした。 主とかメイドロボとか関係なく…」

 私は立ち上がり、お墓に向かって一礼すると、その場を後にします。

今は無き… 私の「本当の主」本当に大好きだった人の墓を…。
さて、次回投稿で終われるかなぁ… ちと心配だが

では、お目汚しでした〜。