真琴と美汐はこの世に取り残された寄る辺ない身の上だった。
二人は姉妹よりもこまやかな友情に結ばれていた。美汐はとある雪深きまちの生まれで
あり、真琴はものみのおか生まれの狐であった。年月を重ねた事からいえばほぼ同年であ
ったが、しかし、一方がまだ幼いのに、片一方はすでにとしよりであった。
中略――祐一に顧みられなくなった真琴はいっそうの悪戯に狂奔するがついに、てだて
は尽きた。祐一が振り向いてくれる奇跡を期待して、真琴はよろめく足を踏みしめて勤め
を始めたが――現実に打ちのめされた真琴は美汐に言った。「全部、終わってしまったの
よう、美汐。いっさいが終わったのよう」
美汐の肩を借りながら真琴は一歩一歩歩いた。美汐はそっと彼女の頬に触れ、絶えざる
微笑を浮かべて優しく支える。
「あたしのことはもういいんだよ、美汐?」
「私があなたを見捨てるなんて、そんな酷な事をする者だと思ったのですか? この私が?」
真琴は美汐をひしと抱きしめて囁いた。
「あたしたち二人だけは一緒に、ね。皆は私たちには用がないのよ。二人だけなのよう」
返事の代わりに美汐は優しくその髪を撫でた。その瞳に大粒の涙が浮んだ。自分を憐れ
んでの涙ではない――美汐自身は幸福だったのである。
「さいごにひとつだけ、願いがあったんだけど…でも、無理かな」
もう、目をあけている事もできなかった。自分がどこにいて、どこへつれて行かれよう
としているかもわからなかった。ただ美汐の導くまま、脚の動く間だけはと、頑張ってい
ただけだった。
「そうでもありませんよ。ほら、真琴、目をあけて、笑って?」
ぱしゃ。閃く光に真琴は目が眩んだ。
何が起こったのかも解らなかった。ただつかれて、眠くて、もう横になりたい。その思
いだけが彼女の中にあって、そのほか全てはもう凍りついていた。
「ほら、真琴? ごらんなさい」
真琴はどうにか目をあけた。街の灯りが滲んで、はっきりしなかった。突然、空が晴れ
て月明かりがさしこんだ。その輝きは、ぼんやりとしていた美汐の手元をあかあかと照ら
し出した。
それは、美汐と、そして真琴が並んで写った――念願の、プリクラ写真。
真琴は震える両手を差し伸べた。静かな涙がその頬を伝って光る。
「とうとう、写れたんだ」彼女は細い声で呟いた。「美汐、ありがとう。もう十分だよ」
真琴の手足には力がなかった。彼女を抱く美汐の腕もまた震え、その笑顔は余りにもは
かなく、崩れ落ちそうだった。真琴は美汐の頬に手を述べる。
「あたしたちはまた、会えるよね――また。決して、あたしたちもう、離れ離れにはなら
ないんだよね」
満足げに、彼女は写真をもう一度眺めた。
あくる日、電源を落とさなかったことに気付いたゲーセン店員が、プリクラ機の前で冷
たくなった美汐を発見した。彼女は一人、胸にプリクラをかき抱いたまま死んでいた。そ
の写真を見ても、皆はことの次第が解らなかった。ただ一人、遅れてやってきた青年が、
呆然と立ち尽くした後で、どうすればいいかこれから一緒に考えようと思っていたのに、
と呟いた。
しかし口許に微笑を浮かべて、まるで赤ん坊を守るように体を丸めた美汐の顔は、彼ら
に「もう間に合わない」と答えていた。