さっぱり天野美汐とか 拾壱乃巻

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897名無しさんだよもん
祐一・美汐の「オレンジ色とゆびきり」

夕暮れ時
道行く人々、軒を連ねる家々、電信柱も街路樹も、目に映るものすべては
今まさに遠くの山陰に隠れようとする夕陽に照らされ、街はオレンジ色に包まれる
息を吸い込めば体の中の隅々までそのオレンジ色で満たされるような
そんな中を歩く二人
一人は盛んに何事か話しかけ、もう一人は・・・

「聞いてますか、相沢さん?」
と言われたところでようやく祐一は我に返った
隣でこれ見よがしに口を尖らせるみしおたん
二人で一緒に買い物を満喫した帰り道、よほど嬉しかったのか
「あれが欲しかった」だの「これは安く買えて良かった」だのと
いつもより饒舌なみしおたんなのだったが、相手が全くの上の空ではせっかくの楽しい一日が台無しだ
「ちゃんと私の話を聞いてるんですか?」
今度は少々刺を含んだ口調でもう一度尋ねた
「あ、ああ・・・ごめん」
祐一はあっさりと謝罪の言葉を口にし、気まずそうに黙りこくる
たいていの場合、祐一はみしおたんが何か文句を言ってもすぐに冗談でごまかし
むしろ怒らせて楽しんでる様子でもあったりするところだが・・・
「・・・もういいです」
みしおたんは怒りのやり場を失くしたように目を伏せて、それだけ言った
さっき祐一が見つめていた視線の先にあるものは、夕陽を背にしたものみの丘

彼はまだ待っている
こうして二人でいることが自然になり、周囲から冷やかされるのにも慣れ始めてきたけれど
二人は恋人同士なんて言えるだろうか?
このままずっとこんな関係が続いていくのだろうか?
祐一がこんな風に申し訳なさそうな顔をする度、みしおたんはいつも自問するのだ・・・
898名無しさんだよもん:02/09/28 05:12 ID:zmb3NUJd
「今日買えなかった分は今度また来ましょうね?」
せっかくの二人の時間を気まずいまま過ごしてはしょうがない、と
何事も無かったようにさっきの話を続けるみしおたん
が、祐一の返事は無い
再び祐一の視線が凍りついていた
「もうっ、ちゃんと聞いて・・・」
と、言いかけたところでみしおたんも気がつく
振り返ると、家路を急ぐ人込みの中にぽつんと見覚えのある少女が立っていた

たった一度だけ会ったことのある少女
祐一さんにとっては今でもきっと一番大切な存在
もう一度出会えた奇跡、それはきっと喜ぶべきこと
そして、少しずつ少しずつ築いてきた二人の関係はここで終わりを告げるのだ・・・

「真琴・・・」
祐一が乾いた声を上げる
すぐにでも行って抱きしめるものだとみしおたんは思っていた
しかし、祐一はひとこと言ったきり金縛りにでもあったように動かない
いや、動けないのだろうか
ずっと待ち望んでいた瞬間が今ここにあるはずなのに
透明なオレンジ色に染まった空気が密度を増したように思えた
長い静寂が訪れる
が、それはほんの一瞬のことだった
「真琴!」
と誰かの呼ぶ声がして、その少女はパッと笑顔になると声をかけた男の方に駆け出して行ったのだ
「・・・」
「・・・」
後に残された祐一とみしおたんは顔を見合わせて、お互い複雑な表情をしていた

おそらくあれは“本家本元の”沢渡真琴だったのだろう、と祐一が納得したのはずいぶん経ってからのこととなる
899名無しさんだよもん:02/09/28 05:13 ID:zmb3NUJd
その後も二人は付き合いを続ける
しかし、以前と全く同じようにとはいかない
真琴は今でも祐一にとって大切な存在であり、同時に今大事に想ってる人がいる
もう「恋人同士」かどうかなんて何の意味も無くなった
今の二人の関係はこれからも続いていくのだから
だからこれからもきっとあの子の帰りを待ち続けることができるのだろう

二人はまた一緒に買い物へ行く
祐一はいつもみしおたんを見てくれる
みしおたんは照れたような微笑みでそれに応える

そして息が止まるほど美しい夕焼けに出会う度、みしおたんはあの時のことを思い出すのだ・・・