葉鍵的 SS コンペスレ 2

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79真夏の夜の 冬の夢1/5

 ジタバタ
「あぅーっ、かゆいーっ」
 ボリボリ
「ちくしょう、かゆすぎるっ」
「一つ、二つ……あぅー、七つも蚊に刺されてる……」
「俺なんか九カ所もだぞ、あー、かいーなー」
 ゴソゴソ
「はぅー、こんなとこまで――」
「どれどれ、どこを刺されたって?」
 ポカッ
「あぅーっ、見ちゃダメーっ」
「いてて、殴ることないだろうが」
「いきなり覗き込むのが悪いーっ!」
「……いきなり、じゃなけりゃいいのか?」
「えと、それは……」
「昨日の夜だって、しっかりたっぷり、互いの姿を堪能したというのに――」
「あぅーっ、く、暗くてよく見えなかったもんっ」
「いやいや、月明かりに照らされた白い肌というのも綺麗だったぞぉ」
「あうぅぅぅ……」
80真夏の夜の 冬の夢2/5:02/07/12 01:02 ID:gu7Ie8LZ

 ポリポリ
「そのかわりこれだけ蚊に刺されまくったわけだが」
「祐一が遅いのが悪いのよぅ」
「大体お前が『外で』なんていいだしたのが、そもそも悪いんじゃないのか?」
「そんなこと言ってないっ」
「いっただろー、縁日の帰り道に――」
「ものみの丘で、って言ったもん」
「同じようなもんだ」
「違うわよぅ!」
 ブンっ
「わっ! っと危ないなぁ、そんなに怒ることか?」
「……祐一、忘れちゃったんだ……」
「……何をだ?」
「昨日。何の日だったか覚えてないの?」
「えーと、昨日は七月二十四日で、商店街が縁日で、それからそれから……」
「ちょうど……半年前……のこと――」
「えっ――!」
81真夏の夜の 冬の夢3/5:02/07/12 01:03 ID:gu7Ie8LZ

 ガバっ
「真琴っ、お前あの時の事、覚えてるのか?」
「うん……他の事はよく覚えてないんだけど、あの夜のことは覚えてる。祐一が温もりをくれた日」
「…………」
「でもあの時は寒かったし、それに……痛かったし」
 ギュ
「……すまなかった」
「いいのっ! 祐一、優しかったし、真琴もして欲しかったんだから」
「そう……だったのか?」
「真琴も不安だったのよぅ。祐一にどう思われてるのか――」
 なでなで
「バカだなぁ。俺はお前がこんなに――」
「あぅー、だって祐一、そういうこと何も言ってくれなかった」
「……そういえばそうだったな」
「だからあれはホントに夢のような出来事で――」
「大げさだなぁ」
「あぅー、あれのお陰で帰ってこれたかもしれないのよ?」
「それで、半年ぶりに……か?」
82真夏の夜の 冬の夢4/5:02/07/12 01:03 ID:gu7Ie8LZ

 コクリ
「大切な想い出だから」
「だからってわざわざ場所まで同じにしなくてもよかったのに」
「あぅーっ、同じ場所なのが重要なのよぅ」
「そんなもんなのかなぁ。解るような解らんような」
「女の子ってそうなのっ」
「女の子、ねぇ」
 ジロ
「なによぅ、何か文句あるのっ?」
「『女の子』って言う割には、昨日の乱れ方はすごかったよなぁ」
「な――――!」
「自分から上に乗って――」
 ドガッ、ゲシゲシゲシッ、ゴッ!
「……きゅう」
「祐一なんてもう知らないんだからーっ!」
 ダンダンダン、バンッ
「…………」
 シーン
 プツッ
83真夏の夜の 冬の夢5/5:02/07/12 01:04 ID:gu7Ie8LZ

――――――――――――――――――――――――――――――――

 奇妙な形の目覚まし時計を前に、困惑する少女が一人。
「うー、祐一に貸してた目覚まし、変なのが録音されちゃってるよー。
 一昨日の喧嘩の原因が分かったのはよかったけど……。
 どうしよう……」
 顔を赤らめつつどうしよう、どうしようと繰り返す彼女の独り言は、
まだまだ終わりそうもなかった。
「やっぱり防虫スプレーとか必須だよね。あ、でも今要るのは虫さされの
 薬かなぁ。きっと仲直りしたらまたするんだろうし……。
 じゃあやっぱり……『明るい家族計画』の方がいいかなぁ……。
 えーっ、でもそんなの、買えないよー。うー、どうしよう――」