ジタバタ
「あぅーっ、かゆいーっ」
ボリボリ
「ちくしょう、かゆすぎるっ」
「一つ、二つ……あぅー、七つも蚊に刺されてる……」
「俺なんか九カ所もだぞ、あー、かいーなー」
ゴソゴソ
「はぅー、こんなとこまで――」
「どれどれ、どこを刺されたって?」
ポカッ
「あぅーっ、見ちゃダメーっ」
「いてて、殴ることないだろうが」
「いきなり覗き込むのが悪いーっ!」
「……いきなり、じゃなけりゃいいのか?」
「えと、それは……」
「昨日の夜だって、しっかりたっぷり、互いの姿を堪能したというのに――」
「あぅーっ、く、暗くてよく見えなかったもんっ」
「いやいや、月明かりに照らされた白い肌というのも綺麗だったぞぉ」
「あうぅぅぅ……」
ポリポリ
「そのかわりこれだけ蚊に刺されまくったわけだが」
「祐一が遅いのが悪いのよぅ」
「大体お前が『外で』なんていいだしたのが、そもそも悪いんじゃないのか?」
「そんなこと言ってないっ」
「いっただろー、縁日の帰り道に――」
「ものみの丘で、って言ったもん」
「同じようなもんだ」
「違うわよぅ!」
ブンっ
「わっ! っと危ないなぁ、そんなに怒ることか?」
「……祐一、忘れちゃったんだ……」
「……何をだ?」
「昨日。何の日だったか覚えてないの?」
「えーと、昨日は七月二十四日で、商店街が縁日で、それからそれから……」
「ちょうど……半年前……のこと――」
「えっ――!」
ガバっ
「真琴っ、お前あの時の事、覚えてるのか?」
「うん……他の事はよく覚えてないんだけど、あの夜のことは覚えてる。祐一が温もりをくれた日」
「…………」
「でもあの時は寒かったし、それに……痛かったし」
ギュ
「……すまなかった」
「いいのっ! 祐一、優しかったし、真琴もして欲しかったんだから」
「そう……だったのか?」
「真琴も不安だったのよぅ。祐一にどう思われてるのか――」
なでなで
「バカだなぁ。俺はお前がこんなに――」
「あぅー、だって祐一、そういうこと何も言ってくれなかった」
「……そういえばそうだったな」
「だからあれはホントに夢のような出来事で――」
「大げさだなぁ」
「あぅー、あれのお陰で帰ってこれたかもしれないのよ?」
「それで、半年ぶりに……か?」
コクリ
「大切な想い出だから」
「だからってわざわざ場所まで同じにしなくてもよかったのに」
「あぅーっ、同じ場所なのが重要なのよぅ」
「そんなもんなのかなぁ。解るような解らんような」
「女の子ってそうなのっ」
「女の子、ねぇ」
ジロ
「なによぅ、何か文句あるのっ?」
「『女の子』って言う割には、昨日の乱れ方はすごかったよなぁ」
「な――――!」
「自分から上に乗って――」
ドガッ、ゲシゲシゲシッ、ゴッ!
「……きゅう」
「祐一なんてもう知らないんだからーっ!」
ダンダンダン、バンッ
「…………」
シーン
プツッ
――――――――――――――――――――――――――――――――
奇妙な形の目覚まし時計を前に、困惑する少女が一人。
「うー、祐一に貸してた目覚まし、変なのが録音されちゃってるよー。
一昨日の喧嘩の原因が分かったのはよかったけど……。
どうしよう……」
顔を赤らめつつどうしよう、どうしようと繰り返す彼女の独り言は、
まだまだ終わりそうもなかった。
「やっぱり防虫スプレーとか必須だよね。あ、でも今要るのは虫さされの
薬かなぁ。きっと仲直りしたらまたするんだろうし……。
じゃあやっぱり……『明るい家族計画』の方がいいかなぁ……。
えーっ、でもそんなの、買えないよー。うー、どうしよう――」