葉鍵的 SS コンペスレ 2

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623名無しさんだよもん
外は日が落ち、皆が次々と帰宅してもなお仕事にいそしむみしおたん
金曜日までには傍らに山と積みあがっている書類を仕上げなければならないのだ
(今日は木曜日、下手すると徹夜かなあ・・・)
ふと手を止め、みしおたんは天井を見上げる
朝からずっと何か忘れているような気がしていた
白い蛍光灯がずらっと並ぶ無機質な天井
「あっ」
突然声を上げてみしおたんは立ち上がった
まだ残っている同僚たちが驚いて一斉に振り向く
「あ・・・」
真っ赤になって椅子に座るみしおたん
しかし、すぐに深刻な表情に戻って心の中で叫んだ
(なんてことでしょう!祐一さんの誕生日を忘れるなんて!)
仕事に追われていたとは言え、毎年二人で祝っている大切な日を忘れるなど
みしおたんには考えられないことだった
時計を見る
祐一はもう帰る頃だろう
無理やり仕事にキリをつけ、みしおたんは慌てて外へ出た
祐一の携帯電話はつながらない
帰宅中だろうか
みしおたんは泣きそうになりながら祐一の部屋に向かった

(ケーキ、どうしよう・・・)
途中、デパートの前で立ち止まり、みしおたんはまた涙が出そうになるのをこらえていた
毎年みしおたんは趣向を凝らした手作りケーキで祐一の誕生日を祝っている
今さら店のケーキを買うのは悪いような気がした
でも何かプレゼントは買わなければ、と目に止まった香水を買うみしおたん
ブランド名がプリントされた綺麗な紙に包まれた香水を見て、みしおたんは後悔した
いつも一週間以上前から悩み続け、自分なりに心を込めたものを贈ってきたつもりだ
が、その高価なプレゼントにはそれが一欠片もなかった・・・
624名無しさんだよもん:02/08/08 23:28 ID:25FcDcUU
どんな顔をして祐一に会えばいいのだろう?
祐一の部屋の前でみしおたんは途方に暮れていた
誕生日を忘れるなんて、もう好きな気持ちは薄れたのだろうか?
そう思われることがとても怖かった
カツ、カツ、カツ・・・
階段を上る足音がして、みしおたんは顔を上げた
「美汐?」
そこには驚いた顔の祐一がいた
「あ・・・」
何も言えず黙りこくってしまうみしおたん
「中に、入ろうか」
祐一は少し戸惑った様子だったが、そっとみしおたんをうながした

「・・・あの、おめでとうございます・・・」
しばらくためらった後、やっとお祝いの言葉は言うことができたみしおたん
「あ、そうか、今日は俺の誕生日か」
祐一は毎年同じようにとぼけてみせるのだ
(でもごめんなさい、ケーキを途中で落としてしまって・・・)
みしおたんは続いて用意していた言い訳のセリフを口にしようとしたが
「でも、ごめん・・・なさ・・・」
それ以上言葉が出てこなかった
代わりに、涙がこぼれた
「・・・私・・誕生日・・・忘れ・・・ケーキ・・・」
涙声で言葉にならないみしおたん
それでも祐一には見当がついた
最近はずっと仕事が忙しいと言っていたことを思い出す
「嬉しいよ、来てくれて」
みしおたんの肩を抱いて髪をなでる
「祐一さん・・・」
不思議なくらいに大きな安心感に包まれて、みしおたんは静かに目を閉じた・・・
625名無しさんだよもん:02/08/08 23:30 ID:25FcDcUU
「私・・・今日祐一さんの誕生日だということ、忘れてしまっていて・・・」
みしおたんはありのままを話した
祐一はニコニコとその話を聞いている
これほどまでに思ってくれていることが嬉しいのだ
「それだけ忙しかったんだからしょうがないさ」
「でも、こんな大切な日を・・・」
また涙がこみ上げてくるみしおたん
「そういう仕事に一生懸命な所も美汐の・・・
 あ、まさか今日、仕事ほっぽり出して来たんじゃないだろうな?」
急に気が付いたように祐一が声を上げた
「だって、今日は祐一さんの・・・」
「やれやれ」
祐一は肩をすくめて、戸惑いを見せるみしおたんを玄関に連れて行く
「ほら、バイクで送るから」
「でも・・・」
祐一の袖を掴んで離さないみしおたん
「まったく、俺のことはいつでもいいんだからさ・・・」
そう言って祐一は少し考え込むと
「今度いつ会える?」
と聞いた
「え?あ、土曜日には・・・でも今日は・・・」
みしおたんはまだ渋っている
「じゃあ、土曜は俺の誕生日だからな、忘れるなよ?」
はっとして顔を上げるみしおたん
祐一がいたずらっぽく笑っている
「ええ、絶対に!」
みしおたんにも笑顔が戻った
「忘れませんからっ!」
ぱっと祐一に抱きつくみしおたん
さっきまでの涙の跡がきらりと光った・・・