葉鍵的 SS コンペスレ 2

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606再会の約束(1/3)
あゆ「ほんとはボクね、祐一君のこと好きだったんだよ」
栞「え・・・?」
あゆ「でも祐一君は気付いてくれなかった。ボクとの思い出も祐一君は忘れちゃってたみたい。だから・・・」

秘密を打ち明けて照れくさそうに微笑んでいるあゆ。
微笑んでいるはずなのに―――
どういうわけか栞には、顔をくしゃくしゃにして泣いているようにしか見えなかった。

あゆ「祐一君がね、約束してくれたんだ。なんでもみっつ願いをかなえてくれるって。ボクはふたつもお願いを聞いてもらったから、それだけで充分」

ひとつ目のとびきりのお願いをかなえてくれた。
ふたつ目のお願い。
全部じゃないのが寂しかったけど、祐一君はちゃんとボクのことを憶えていてくれた。

だから、ボクの、最後のお願いは―――

栞「あゆさん・・・」
あゆ「栞ちゃん、祐一君をお願いね。祐一君は意地悪だけど・・・」

あゆの声が震え、微笑んだまま表情を隠すようにうつむく。

あゆ「とっても、やさしいから」
607再会の約束(2/3):02/08/06 04:50 ID:DPOkXg3X
栞「・・・」

栞にはなにも言えなかった。
この告白にどれほどの想いが込められているのか想像もつかない。
自分が安っぽい考えでなにか言葉を掛けるのは赦されない気がした。

あゆ「ボクもう行かなきゃ」

ベンチから立ちあがるあゆ。
そして、ゆっくりと背を向けて歩き出す。

栞「あ、あの・・・」

自分がなにか言うのは赦されない。
しかし、なにも言わないのはもっと赦されないのではないか。
そんな気がして、栞はあゆの背中に声を掛けた。
ゆっくりと振り向くあゆ。

栞「また、一緒におしゃべりしてもらえますか・・・?」

そのときのあゆの表情を、栞は一生忘れることは出来ないだろう。
泣いているような、怒っているような、そしてこの上なく喜んでいるような―――
そんな表情を。

あゆはちょっと逡巡した後、はっきりと言った。

あゆ「うん。もちろんだよ」

・・・それは、消え行く少女の、とても悲しい最後の嘘。
しかし、あゆの表情はこの上なく晴れやかだった。
608再会の約束(3/3):02/08/06 04:52 ID:DPOkXg3X
栞「お友達、と思っていいんでしょうか・・・?」
あゆ「ひどいなあ、ボクは最初からそのつもりだよ」

そして二人で吹き出すように笑う。

・・・栞にも嘘だとわかっていた。
本当の理由は知らなくても、もうあゆと会えないことは薄々わかる。
わかっていても、微笑むあゆに何を言えるだろう。
栞に出来るのは再会の約束。
けして果たされることのない・・・・

あゆ「じゃあまたね、栞ちゃん」
栞「はい。また会いましょう」

今度こそ背を向けて歩き出すあゆ。
微笑む二人の目には、溢れ出そうと湧き上がってくるものが光っていた。



最後まで、笑っていよう・・・
残された人たちを悲しませないように・・・
ボクの大好きな人たちを・・・