そこはちょっとした広場。町の片隅に静かに佇む、忘れられた空間。
広場には、50を超える数の男たちが輪を作っていた。中には女や車も混じっている。
そしてその輪の中央、申し訳程度に敷かれたマットの上に、燃えるような赤い服の、一人の少女が座っていた。
少女は青く輝く空を見上げて考える。
約束は、守らなければならない。
真実を、誠実に、確実に。ニュース連盟に身を置く自分の、それが信念だったはずだ。
それに、自分は決して後悔してはいない。
これが、自分の同胞のために出来る、自分の精一杯だったのだから。
やがて意を決したように、少女は立ち上がる。
輪を作る男たちの間にひろがるざわめき。ヒートアップする車。
そして少女は口を開いた。
「葉鍵の皆さん、今日はニュース速報+板への投票、ありがとうございました……」
そこで少女は言葉を詰まらせる。それを言ってしまっては、もう昔には戻れなくなる予感を覚えて。
しかし、止まることは出来ない。もう崖から飛び出したのだから。あとは転がり続けるだけなのだから。
ざわめきも去った広場。静けさの中で、少女はしっかり前を向いて、言った。
「お約束通り、私のことを……す、好きにして……ください……」
その瞬間。
一気に広場が騒がしくなった。
「いやっほーう、紅蓮タン最高!」と叫ぶ者。
唐突にウェーブを始める連中。
狂ったように爆音をあげて暴走を始めた(右)と書かれた車からは、白い液体が漏れている。
皆バカのように騒ぎながら、しかしその視線は中央の少女、紅蓮の方を向いて離れない。
「さあ、始めようか」と誰かが言った。
そして、紅蓮の、今までで一番長い一日が始まる。