葉鍵サバイバル 公開4日目

このエントリーをはてなブックマークに追加
1名無しさんだよもん
リアルリアリティを求め、暴走を続ける超先生。
その一方で参加者の魂と魔力を集めようとする天使、ユンナの目的とは?
様々な思惑と迫り来るモンスターの中、果たして島に残された彼等は無事脱出する事ができるのか?
ジュ○シックパーク 各種漂流モノを元ネタとした葉鍵キャラによるリレー小説。
本編はまだ2日目にもなっていない所もあるが、第4スレ突入!
・書き手のマナー
* これはリレー小説です。特に、キャラの死を扱う際は1人で殺さず上手くストーリーを誘導しましょう。
* また過去ログを精読し、NGを出さないように勤めてください。
* 同人作品からの引用はキャラ、ネタにかかわらず全面的に禁止します。
* マイナーモンスター、武器を登場させる場合は話の中か後に簡単な説明をなるべくつけて下さい
* 投稿の最後に、【】で簡潔にキャラクターの現状を簡単にまとめて下さい。
* 初心者の方は作品を上げる前に誤字脱字や文法の間違いが無いか確認しましょう。
 
・読み手のマナー
* 自分の贔屓しているキャラが死んだ場合、あまりにもぞんざいな扱いだった場合だけ、理性的に意見してください。
* 頻繁にNGを唱えたり、苛烈な書き手叩きをする事は控えましょう。
関連スレ
【前スレ】
http://wow.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1023201795/l50
【葉鍵ロワイヤル2】(現在感想スレとして再利用中)
http://wow.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1012216672/l50
【RTO氏による編集サイト】
http://www23.tok2.com/home/hakasaba/
【超先生のSS講座】(初心者の方は一度目を通す事をお勧めします)
http://www23.tok2.com/home/hakasaba/kai007.htm
2名無しさんだよもん:02/06/10 02:27 ID:HxkJmxqt

    ,.´ / Vヽヽ
    ! i iノノリ)) 〉
    i l l.´ヮ`ノリ   だお〜だお〜
    l く/_只ヽ            
  | ̄ ̄名雪 ̄|    
3名無しさんだよもん:02/06/10 02:55 ID:KFN8GDv9
 
4名無しさんだよもん:02/06/10 02:59 ID:e38AQ0Z4
まず名雪か……
5名無しさんだよもん:02/06/10 03:11 ID:22HwPvzj
   /         ドッカン
  / /    ,,_     ドッカン
 ━━━━━'), )=         ☆ゴガギーン
      ∧_∧ヽ\         /          / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
     (   ) 〉 〉_ _ ____      ∧_∧ ∠  おらっ!出てこい、さわたし幼女!
     / ⌒ ̄ / "'''"'|    ||     (`∀´ )  \___________
      |   | ̄l    |    |/      /     \
.      |    |  |     |    ||      | |   /\ヽ
       |   |  .|     |    |     へ//|  |  | |
      (   |  .|   ロ|ロ   ゙!l''ヽ/,へ \|_  |   | |
       | .lヽ \ |    |   ヽ\/  \_ / ( )
      | .|  〉 .〉    |    |        | |
     / / / / |     |    〈|      | |
     / / / / |     |    ||      | |
    / /  / / └──┴──┘       | |  
6名無しさんだよもん:02/06/10 03:26 ID:+nFDxK+n
>>2
名雪キモイ、ウザイ。 氏ね!
7名無しさんだよもん:02/06/10 08:35 ID:kRLP1W4B
 
8名無しさんだよもん:02/06/10 16:41 ID:N7oTZV5r
保全
9名無しさんだよもん:02/06/11 12:40 ID:SyukYi81
保全
10おしかけお供:02/06/12 00:26 ID:ACYfE14A
控えめな木の匂いが、彼の心身を癒していく。
 それでも、相変わらずその心はあせっているばかりだったが。
(もうそろそろ、ここを発たなくちゃ)
 そう、自分はここに長く居過ぎた。
 今こうしている間にも、自分の愛する親友達は、ここに救う怪物どもに命の危機にさらされているかもしれないのだ。
「何こわいカオしてるの?」
「うわ!?」
 気がつけば、目の前にはあのソフィアという少女の姿があった。
 少女、という表現は正しくないのかもしれない。背格好は自分とほとんど同じ程度であったからだ。
「はい、あなたの服。とりあえずヘンな汚れは全部落としておいたけど……」
 ソフィアが差し出した服は、つい先ほどまでバケモノの血で汚れていたとは思えないほど……それどころか、
 クリーニングでも果たしてここまで見事な仕上がりになるかどうか。
「あ……」
 ありがとう、と言って雅史は服を受け取った。新品同様、あるいはそれ以上に着心地の良くなった服は、
 やはり彼の心を癒していく。
11おしかけお供:02/06/12 00:26 ID:ACYfE14A
「行くの?」
 ソフィアが尋ねる。
「うん……友達を探さなきゃ。服とお茶、ありがとう」
 服から頭を出した雅史は、そこではたと気付く。
「?」
 ソフィアの姿が見えない。部屋から出ていった気配はないのだが。
 きょろきょろと部屋を見渡してみたが、やはりそれらしき人影はない。
「ここよ、こ・こ」
 耳元で声がする。だが振りかえってみても、誰の姿も見ることかなわず。
 いや……
「まさか……」
雅史の右肩に乗った、たんぽぽの綿毛のようなもの。声の発生源はまさかこれなのか?
「そ。とまあこうすればあなたの邪魔にはならないって訳。もちろん断ったところでこの姿で服にくっついていくだけだからいいんだけどねー」
「君は……」
12おしかけお供:02/06/12 00:26 ID:ACYfE14A
「君は何故、そうまでして外に出たがるんだ? ここにだってあの優しいおじいさんがいるじゃないか。なのに……」
「……でも、あなたは聞いたわよね。あたしの種族……緑のエルフは絶滅の危機だって。
 ……エルフは外見上……ひょっとしたらすこしだけ人間にはない力が備わってること以外は人間と何ら変わらないかもしれない。
 ……あたしはね、見たくなったの。緑のエルフは本来森にこもって暮らすものだけど、それだと先がないでしょ?
 だから……みたくなったんだ。外の世界、人間の世界。」
「そんなにたいしたものじゃないと思うよ……僕らの世界は」
「いいのよ。これはあたしが自分で決めたこと。森の外に出て後悔することになっても、
すぐに死んでしまうことになっても、それは、あたしが自分で決めたことの代償なの。
だから、あなたの世界が対したものじゃなかったと失望することになっても、あなたが気に病むことはないわ」
「……強いんだね、君は」
「そう? がさつだって事は自分でも分かってるんだけど。それに、どうせ長くないんだったら……」
「……?」
「命の恩人に惚れてみるのだっていいとおもわない?」


「それじゃ、お世話になりました」
「いえいえ。何もおもてなしが出来ませんで」
 森の出口。ヨゼフという老人と雅史は、別れの挨拶を交わしている。
「お友達を探しておられるのでしたな……さて……さして遠くないところにいるような気がいたしますぞ」
「そう……ですか?」
「風や、木々が教えてくれますのでな。であるなら急いだほうがいい。今すぐに探し始めれば、出会えることもありましょうに」
「……ありがとうございます。ヨゼフさんもお元気で」
「ほほ。それでは、雅史殿、縁がありましたらいずれ……」
13おしかけお供(了):02/06/12 00:27 ID:ACYfE14A
「……挨拶も無しで良かったのかい?」
『まあ、ね。 前から出て行くとはいってたし、何とかなるでしょ』
「楽観的だね……」
『そうそう、あたし夜の間は元の姿に戻っちゃうからよろしくね』
「……なんだかシンデレラみたいだな」


【雅史 ソフィアをつれて出発 時刻午後三時ごろ】
14名無しさんだよもん:02/06/12 19:33 ID:vNJMwwux
保守
15光差す彼方へ:02/06/12 20:53 ID:IQvD0lEO
「うむ……こんなものか」
 と、その男は身に付けていた学ランを羽織りなおして、手近にあった岩に腰を下ろした。
 この立川雄蔵と名乗った男は、化物に襲われていた俺と千紗の前に突然現れたおかしな奴だ。
 だが、足元に転がっている化物の半分はこの男が倒してくれている。 
「悪いな、助けてもらって」
 例え変な奴にしろ、俺達を助けてくれたことには変わりない。
 ここは素直に、感謝の気持ちを表しておいた。
「なぁに、俺が好きでやった事だ。おまえが気にすることではない。それよりお前た…」
「ああ〜っ! ひょっとして、郁未ちゃんのお兄さんじゃないですか?」
 男が喋り終える前に、横にいた千紗が大きな声を上げる。
「お前……妹を知っているのか?」
 郁美、という言葉に露骨な反応を見せる男。
 どうやら、やっとコイツの知り合いに出会えたようだな。
16光差す彼方へ:02/06/12 20:54 ID:IQvD0lEO
 この男、どうやら郁美という妹を探していたようで、
 千紗の口から妹の姿を見ていないと聞いた時、落胆の表情を浮かべ
「そうか……妹とは会っていないのか……」
 はぁ、とため息をつきながら男は俯く。見事な落ち込みっぷりだ。
「まあ、そう気落ちする事もないだろ。島のどこかには必ずいるんだし、
 端から端まで探せば見つかるさ」
 根拠無しに、気休めの言葉をかける。

「そうだな……他の場所を当たってみるか」
 冗談半分の言葉を真に受け、すぐさま男は別の方角を捜しにいこうとする。
「オイオイ、随分といきなりだな……まぁちょっと待てよ」
「まだ何かあるのか? 手早く頼むぞ」
 迷惑そうな表情を見せ、男は首だけをこちらに向ける。
「……一人で探すより二人、二人で探すより三人のほうが、見つけ易いと思わないか?
 それに俺たちの目的も人探しでな、ここは一つ、交換条件といこうぜ」

「……お前らの探している奴も、俺が見つけたら守ってやれというのか?」
 言葉から往人の意図を読み、確認を取るような口調で、男は聞いてくる。
「ああ、その代わりお前の妹も見つけたら俺達が保護してやる。
 悪い条件じゃないと思うんだが、どうだ?」
 その言葉に、男は少し考えた後、再度こちらに近づき、
「今は藁にでもすがりたい所だ……その話、乗らせてもらおう」
 と、右手を差し出してきた。
「決まりだな」
 笑いながら腕を伸ばし、俺達はがっちりと、手を握り合った。
17光差す彼方へ:02/06/12 20:55 ID:IQvD0lEO
 その後、互いの探し人の特徴、
 何かあった時の連絡方法と集合場所を決めるのにさほど時間はかからなかった。
「これで全部だな。早速だが時間が惜しい、俺はもう行くぞ」
「ああ、あんたも気をつけろよ」
 最後に短く言葉を交わした後、男は今度こそ振り返らず、男は去っていく。

「行っちゃいましたね、立川さん……」
 雄蔵に手を振っていた振っていた千紗が、悲しげな顔で往人のほうを見る。
 そんな千紗に、往人は優しく肩に手を置いて呟く。
「なぁに、生きていれば、また会えるさ。生きていればな……」
 その言葉に、千紗は笑顔で答える。
「そうですよね! 希望を捨てずに千紗たちも頑張りましょう!」
 
 千紗の、その表情があまりにも可愛らしく、俺はつい一緒に笑ってしまう。
 そして少しの間だけ、目を閉じる。

 ――そう、どんな時にだって、希望はある。

 ――それが例え、どんなに小さい物だって、俺達は諦めない。 
 
 ――絶対に、だ。


【立川雄蔵 往人たちから離脱】
18へタレ書き手だよもん:02/06/12 20:56 ID:IQvD0lEO
レス間は全て二行空けで、RTO氏お願いします。
19名無しさんだよもん:02/06/12 21:00 ID:ZTtvCxyu
(・∀・)メンテ!
20名無しさんだよもん:02/06/13 16:22 ID:8m8pXnqS
保全
21名無しさんだよもん:02/06/14 01:24 ID:G1suAz4t
保守。
22名無しさんだよもん:02/06/14 13:17 ID:G1suAz4t
保守
23名無しさんだよもん:02/06/14 15:42 ID:nHEXJoZy
メンテ
24名無しさんだよもん:02/06/14 18:42 ID:zeO4qkQu
そろそろ圧縮だな
25名無しさんだよもん:02/06/14 19:55 ID:BBei8nuj
メンテェ
26名無しさんだよもん:02/06/14 21:43 ID:XWxKX8s2
メンテ
27懺悔:02/06/14 23:49 ID:I5Svoytn
 落ちつくにつれて、徐々に雅史をある感情が包んでいった。
「どうしたの?」
 変身を解き、どこから調達してきたのかカジュアルな服に身を包んだソフィアが、彼の顔を心配そうに覗き込んだ。
「いや……なんでもないよ」

 彼女達は、無事だったのだろうか?
 あのメスを持つ女の人がどれほど戦えるのかは知らない(その片鱗は感じたが)。
 果たして、女の子二人を守りつつこの島で生き延びることが出来るのだろうか?
 あそこで、僕は逃げるべきではなかったのではないか?


 親友に会うために見捨てて逃げた。
 それは、言いかえれば逃げたのをその「親友」のせいにしているのではないか?


「ねえ……さっきから様子がおかしいよ? どうしたの?」
 依然、歩きながら顔をのぞいてくる少女。その顔には、いささかの作為も感じられない。
 だが……だが、どうだろうか?
 先ほど彼女は自分に惚れたと言った。それは、「ゴブリンから彼女を救った自分」に対しての感情だ。
「女の子を見捨て、遭遇するモンスターを徹底的に殺戮した自分」に対する感情ではない。
 だったら、話しておくべきだろう。
 この島で過ごした短い時間に、自分が何をしてきたのか……
28懺悔:02/06/14 23:49 ID:I5Svoytn
そのとき、ソフィアはどんな顔をするのだろうか?
 雅史は、ふとそんな事を考えて、その考え自体の持つ「違和感」に首をかしげた。
 しかし、彼にはその違和感を解くための明が少しだけ欠けていた。
 昨日までの彼なら、こんなことなど考えもしなかっただろうし、自らの行為を悔いるようなことなどなかったに違いない。
 それは、このソフィアという少女の持つ----あるいは彼女対して彼が感じている---魅力のためであったのだが、雅史にはそれ がまだわからなかった。
「……ちょっと、いいかな」
 雅史は、足を止めた。



 話を終えた雅史は、ゆっくりと顔を上げた。
 ソフィアは、表情の読み取りにくい顔で、じっとこちらを見つめている。
「……それで?」
 冷たい声で、ソフィアが言う。雅史はそれを、判決を待つ囚人のような面持ちで聞いていた。
「それを聞かせて、あたしに嫌われたい? あなたはあたしが邪魔?」
「えっ……そ、そんなこと!」
 そんなことは、ない。そうは言いきれるだろうか?
 彼女に嫌われ、去られることで、自分は身軽になろうとしていたのではないか?
「……言ったわよね? 自分の決めたことで後悔することになっても、それは代償だって。
 自分の意思が通ることに対する、代償。後悔すること、それは多分しかたがないわ。
 でも、後悔して……うんと後悔したら、また前に進むの。
 そうやって生きていくものだって、母さんが言ってたから。
 後悔して、傷ついて、挫折して……でも、そこに至る行為そのものが、『実り』だから、って」
「……実り……」
「それに……あたしじゃ、あなたの『実り』にはなれない?
 あなたがそこで「逃げた」結果として、あたしがここにいるんだから」
 雅史が今も聖達とともにいたとするなら、ソフィアは恐らくゴブリン達に襲われ命を落としていたのだろうから。
29by RTO:02/06/14 23:52 ID:I5Svoytn
「……ありがとう」
 長い沈黙の後、雅史は彼女に礼を言う。
「どういたしまして」
 にっこりと笑って、ソフィアはそれに応えた。
「よし……!」
 先程よりは、恐らく迷いの取れたであろう表情で、雅史はゆっくりと立ち上がる。
 目の前の少女が、代価だというのなら。
 守り抜こう……必ず。
 それは、雅史の胸のうちに宿った、小さな、だがとても強い……意志の炎だった。


(代償というには、すこし豪華過ぎるというか、そんな言い方は似合わないけどね……)


【雅史 進展(?)】


レス間二行空け
30羅生林:02/06/15 00:25 ID:uoOxFp7c
「木の実…きのこ。思ったよりもあるもんだな」
 そんなことを言いながら、北川はそれらを袋につめいていく。
「よし、もうこれ以上は入らないな。へへへ、これだけあれば2日はもつな」
 満足げに袋を持つ。
「けど、つめこんだのはいいが、全部食べれるのだろうか。いや、たぶん大丈夫だろう。
 火さえ通せばまず死ぬことはないな」
 そんな楽観的な考えで納得した北川は近くにある石に腰をかける。
 さっきからずっと木の実など拾っていたので、いささか疲れたようだ。
 だが、それもつかの間、北川の背後でガサガサと草の揺れる音がする。
「誰だ!」
 北川はすぐに立ち上がり、音のした方を見る。もし、これがモンスターだったら、
 そう考えると自然と緊張感が増す。
「あ、なんだ。北川か」
 そう言って現れたのは、同じく袋を持った祐一だった。
「ふうー、相沢か。びっくりした」
「なぜ、びっくりしたのかは知らんが、どうだ? そっちは?」
「ああ、ばっちりだ。お前は?」
「ぼちぼちかな。食べれるかどうかは別として」
 たぶん、祐一も火を通せば食べれると考えたに違いない。
 北川はそう思った。
「北川…お前、誰と話してんだ」
 急に背後で声がする。北川は反射的に後ろを見ると、そこにはさっきまで目の前にいた祐一がいた。
 北川は一瞬、なぜ後ろに祐一がいるのか理解できなかったが、すぐさま前を見直す。
 そして、その先にはやっぱり祐一がいる。
「祐一が2人?」
「くそ! 間に合わなかったか」
31羅生林:02/06/15 00:29 ID:uoOxFp7c
 すると、また別の方向から声がする。北川は声のする方向を見た。そこには息を切らせた久瀬がいた。
「気をつけろ、北川。そいつらは妖怪の狸みたいに姿を変えてくるモンスターだ」
 久瀬は息を切らしながらで苦しそうではあるが、言葉を言いきった。
 しかし、北川にはそれよりももっと気になることが目に映っている。
「久瀬…お前と後ろにいる奴、どっちが本物なんだ?」
 北川のその言葉に久瀬は後ろを振り返る。すると、そこには間違いなく、
 うり2つの自分が息を切らして立っている。
「困ったな…」
 後ろの久瀬がそうつぶやいた。

「おい、どういうことだ、久瀬。もっと細かく説明してくれ」
 混乱している北川はちょっと大声気味で言う。
「説明はさっきした通り、こいつらはいわゆる狸だ。こうやって化けることにより騙して、 獲物を狩るらしい」
「なるほど…しかし、久瀬。なぜ、お前はこいつらが狸と?」
「ああ、それはさっきまで僕が別の狸と闘っていたからさ」
 前の久瀬はすでに息は整ったらしく、普通にしゃべっている。
「じゃあ、弱点は…」
 北川の質問に対して、前の久瀬が答えようとした時、後ろの久瀬が先に言う。
「身体的弱点は知らないが、化けるのに関しては細かいところまではわからないらしい。
 例えば、口調とかがそうだ」
「そうか…」
 5人に沈黙が流れる。
「よし、それじゃあ、俺が質問をして偽者を見破ってやる」
 その沈黙を破ったのは北川の目の前の祐一だった。
「おい、久瀬! お前の好きな人は誰だ?」
 そのあまりに聞きなれない質問に2人の久瀬は動揺した。しかし、すぐにいつもの久瀬に戻り、
「「なぜ、君にそんなことを言わなくてはいけないんだ。第一、君は僕の好きな人を知らないだろ」」
 2人の久瀬は同時に発した。
「いや、うん……そうだね(佐祐理さんだろ)」
 祐一はそう言ったが、久瀬の好きな人はすでにバレていた。
32羅生林:02/06/15 00:33 ID:uoOxFp7c
「ふ、しかし、君の馬鹿な質問のおかげで冷静さを取り戻せたよ」
好きな人を尋ねられ、不覚にも動揺してしまった男に馬鹿と言われてもあまり悔しくはなかった。
祐一がそんなことを思っていると、後ろの久瀬は武器の入れてあるバッグに手を入れ、何かしている。
そして、取り出したのは閃光手榴弾。
「北川と相沢。武器の説明は一通りしたな。それじゃあ、これが何かわかるよな?」
そう言いながら、後ろの久瀬は閃光手榴弾のピンを抜いた。そして、ちょっと間をおき、それを5人の中心に投げる。
手榴弾が5人の中心に来た時、5人は光と轟音に包まれた。

「危ないじゃねぇーか! もうちょっとで死ぬところだったぞ」
前にいた祐一が後ろにいた久瀬に叫ぶ。
「ちゃんと説明を聞いていたのか? この手榴弾には殺傷力はない。」
「もの例えだよ、例え。それに聞いてなかったら、こいつらのようになってるだろ」
2人が会話している中、2匹の狸がのた打ち回っている。

ダン! ダン!

久瀬はその2匹の頭に弾丸を撃ちこんだ。
「こいつら閃光手榴弾のことは知らなかったのか?」
久瀬が近づいてきたのを見て北川が言った。
「ああ、前に倒した狸も手榴弾の説明を聞いてきたしな」
「しっかし、面倒なモンスターだったな」
背伸びをしながら、北川が言う。
「あ、そういえば、こうやって化けるモンスターに関してだが」
突然、祐一が思い出したように言う。
「こういうモンスターの中でたまに2組に別れるモンスターがいるらしい」
「2組というと」
久瀬が言う。
33羅生林:02/06/15 00:35 ID:uoOxFp7c
「なんでも1組目は今のように真っ向から騙す役。2組目は草木に化けて不意打ちをしたり、
1組目がやられたときに代わって狩りの続きしたりするらしい」
「ほー、だったらこの狸達もその仲間だというのか?」
久瀬が冗談まじりに言う。
「うん、そういうことだ」
その言葉と同時に久瀬の左腹部に激痛が走る。
久瀬はゆっくりと自分の腹を見る。すると、腹には長い爪が4本刺さっており、
その爪をつたって血が流れている。そして、その爪の持ち主はすでに祐一の姿をしておらず、
術を解いて狸の姿をしていた。
久瀬はすぐにベレッタを狸の方に向けようとするが、狸の動きの方が速く、
さらに爪を深く押し込まれそうになった。

ダン!

しかし、その瞬間、誰よりも早く動いたのは北川だった。
北川はSPAS12とは別に久瀬からもう1つもらった銃(コルトガバメントM1911A1)を発砲していた。
弾丸は空を切り、木にぶつかる。狸は弾丸をなんとかかわしており、久瀬達と距離をとる体勢になっていた。
「大丈夫か! 久瀬」
北川が駆け寄る。
「大丈夫だ。そこまで深くは刺されてない。それよりもだ…」
久瀬は北川の方を見た。
「今度、発砲する時は僕がモンスターの近くにいない時にしてくれないか。
間違って僕に当たったんではシャレにならない」
久瀬がまじめな顔で言う。しかし、
「久瀬…お前。せっかく助けてやったのに素直に感謝できねぇのか」
北川はその言葉に笑顔で答える。
「いや、僕はもしものことを思って言っているのだ。君の射撃能力はなかなかのものだったぞ」
久瀬もそれに答え、ちょっと笑顔で言う。
しかし、そんな会話の途中、急に爪の鳴る音がする。
34羅生林:02/06/15 00:39 ID:uoOxFp7c
「しゃべれるようじゃ少し甘かったな」
狸は血のついた爪をすり合わせて言った。
「爪が甘かったってことだ。今度は確実にしとめくれよ」
「言われなくてもそうする。お前はこの短時間に仲間を3人も殺しているからな。生かしておくわけにはいかない」
「2回戦開始か…」
北川がそう言った直後に横で草の揺れる音がした。
北川と久瀬は反射的にそちらを見る
「なんか話し声が聞こえると思ったら、やっぱり久瀬と北川か」
そこには袋をかついだ祐一がいた。
「相沢!」
北川が駆け寄ろうとしたが、久瀬がそれよりも早くベレッタを祐一に向ける。
「おい、久瀬」
「忘れたのか、北川。こいつらが2組に分かれて行動することを」
「でも、本物かもしれないぜ」
「正体がわからない以上は敵とみなすのがセオリーだ」
北川と久瀬が話している中、祐一だけは話が見えてこないでいる。
「お前らさっきから何言ってんだ? それと久瀬。お前けがしてんのか?」
「『何言ってんだ』だって、しらじらしいやつだな。この状況を見れば
誰でもモンスターと闘っているようにしか見えないと思うが」
「え、モンスターって? そんなやつどこにいるの?」
久瀬は祐一の言葉に疑問を抱いたが、すぐ狸のいた方を見る。すると、もうそこには狸はいなかった。
「どういうことだ、久瀬」
北川が慌てて言う。
「しまった。どうやら、注意がそれたことをいいことに何かに化けたらしい」
「何かって何に?」
「さあな、そこらへんにある草木とかだろ。しかし、これであいつがどこから狙っているのかわからなくなったな」
久瀬と北川は周りを見た。草木が揺れて、岩が点々とある。普段なら気にもとめないことだが、今の彼らにはそれら全部が自分たちにとって存在感のあるものに見えた。
35まかろー:02/06/15 00:40 ID:uoOxFp7c

【久瀬 左腹部に刺し傷】
【北川 コルトガバメントを持つ】
【祐一 現状把握できず(本物かどうかは不明)】


今度はNGになりませんように…
36名無しさんだよもん:02/06/15 12:43 ID:03EHiAlz
保守
37名無しさんだよもん:02/06/15 21:02 ID:03EHiAlz
保守
38名無しさんだよもん:02/06/16 18:59 ID:pxYc+DsF
メンテ
39ヒトノココロ:02/06/17 02:41 ID:IEXbBRZF
(あたしは、なんて馬鹿なんだろう)
(あたしは、なんでこんな場所でずっと迷っていたのだろう)
(あたしは、何を望んでいたんだろう……)

 柏木梓は、泣いていた。
 自分が今、何を叫んでいるのかは分からないが、ただひたすら、泣き叫んでいた。
 鬼の感覚で、意識しなくともハッキリと分かってしまった、柏木耕一の、死。
 彼が命の炎を燃やして戦っている間、自分は何をしていたのか。
 そう、自分はここ人魚の園で、ただ何もせず、迷っていただけだったのだ。

────何を泣いているの?
────わたし達の友達になれば、何も悲しいことはないよ?

 人魚の囁き。
 柏木梓は、今まで泣叫んでいたのが嘘のように、静かに、その囁きに答える。
「あたしは……恐かった。あんた達の仲間になって、人間でなくなってしまうことが」
 立ち上がり、水面に揺らぐ『人魚の肉』を見た。
「でも今になって気づいた。人間だとか、鬼だとか、それよりももっと大切なものがあたしにはあったんだ……」
 肉を、手に取り。
「鬼だろうと、化け物だろうと! 人の心を捨てない限り……あたしは柏木梓だ!」

 肉を、齧った。
40ヒトノココロ:02/06/17 02:42 ID:IEXbBRZF

 身体に何かが広がっていく感覚。それは、鬼の力を解放する感覚に似ていて、体中に力が沸いてくるのがわかった。
 異変はない、大丈夫だ。梓は自分に言い聞かせて、人魚たちを睨み付けた。

「それと、一ついっておかないとね。耕一を助けられなかったのは、全部……あんたらのせいなんだよ」

 その言葉を言い終わるのと、謎の血飛沫が上がるのと、ほぼ同時だった。
 そこにいた大多数の人魚は、何が起きたのかがわからなかった。
 そして、何が起きたのかを理解出来た時は、死ぬ瞬間だった。

(初音、楓、千鶴姉、心配しなくても大丈夫、あたしが守る。この島の魔物たちから、あたしが守るから……)

 逃げまどう人魚の悲鳴と血飛沫の中、柏木梓は安堵していた。
 この肉が自分にくれた、この充実した力。
 これさえあれば、姉に、そして妹に近付く全てのものを、亡きものにできるから。

 人魚の肉は、彼女の肉体に異変を起こすことはなかった。
 しかし、その力は、確実に彼女のココロを侵蝕していった……。

【柏木梓、人魚の肉を口にして精神を侵蝕される】
【人魚の園ほぼ壊滅】
41クノッソス:02/06/18 04:21 ID:+VUY8bQk
 ――時間は少し前に遡り。

 ホテル西棟10F通路でガタガタと怪しい音が鳴り響いている。
 近づいて見れば、自動販売機からリズミカルにペットボトルが落ちてきているのが見えるだろう。
 河島はるかが私財を投入して飲料水を買い込んでいるのだ。
 彼女は淡々と流れ作業の様に、落ちてきたボトルをいくつかのバッグに分けて詰めている。
 そうこうしながら、手始めに全種類を一本づつ制覇したあたりで一端作業を止める。
 そして、はるかは背後に気配を感じ不意に振り返った。
「ん、皆揃ってどうしたの?」
 見れば先程エレベーターで一緒した3人の少女達が通りかかったので、はるかは声をかけた。
 この巨大さの割りに全然人の居ないホテルでは、偶然人と会うのも珍しい。
「あ……はるかさん、今晩は」
「郁未の所にお見舞いに行くのよ」
 彩が少し驚いたような仕草を見せた後控えめに挨拶して、真琴が質問に答える。
 残る名雪は少し離れた所を、フラフラしていた。
 どうやら立ったまま寝ているらしい。
「ふーん、じゃ私も行って良い?」
 あまり興味なさそうにしながら、はるかが尋ねる。
 ちょうど良い事に、これ以上の荷重を持つのは辛くなってきた所だ。
 更に見舞いに託けて、医薬品を確保しに行くのも良いかと考えた為でもある。
「皆で行った方が郁未も喜んでくれるよね」
「……ええ、一緒に行きましょう」
 こうして割合あっさりと少女達の間で話がまとまった瞬間、奇しくも少年達と朝鮮製の話が決裂し――
42クノッソス:02/06/18 04:22 ID:+VUY8bQk
(1行空け)
 突然、機械的な音を立てながら、少女達のすぐ横に何か分厚く幅広い物がかなりの早さで落ちた。
 驚きの声を上げる間も無く、それは通路全体を遮断した。
 恐ろしく間の悪い事に、水瀬名雪の姿が落下物に遮られ見えなくなっていた。
「……名雪さん」
 彩が落下物――何か扉のような物、の向こうに消えた少女の名を呆然と呟いた。
「これは、対モンスター用の隔壁だね」
 一方ではるかはその扉を見て確認する様に呟いた。

 対モンスター用の隔壁。
 本来、観光施設として造られたこの島に置いて、安全性は集客の為に外す事の出来ない要素であった。
 特に実際に寝泊りするホテルに関しては、絶対の安全性が求められていた。
 元よりセキュリティが正常に作動していれば、ホテルのあるエリア一帯にはモンスターは近寄れない事になっている。
 なってはいるが、それでも不安を感じてしまうのが人間である。
 そこで観光客の不安に対して島の運営側が用意したのが、この過剰とも言える質と量を備えた防災設備だ。
 そして今、大型モンスターの攻撃にも耐え、コンピューター制御で効率良く侵入者を防ぐとされていたそれが、朝鮮製の手によって悪意を持って起動されていた。

「あ、あぅー、どうしよう!?」
「……ええと、ええと、こういう時は落ちついて……」
 突然の分断に半ばパニック状態に陥った2人と、冷静なだか無関心なんだかな一人を前に、状況はさらに悪化。
 通風孔からベチャリと半固形状の生き物、スライムが次々と落ちてくる。
 それらは動作こそ緩慢なものの、次第に彼女達の方へと迫ってきていた。
43クノッソス:02/06/18 04:23 ID:+VUY8bQk
(2行空け)
 一方その頃。
「……クソッ! 気に入らんなあ」
 動き出したエレベーターの中で高槻が毒づいた。
 エレベータのパネルは12階と1階のみが点灯している。
 乗ったは良いが動作しないパネルに対して業を煮やした高槻が、手当たり次第にボタンを押した結果がこれだ。
 どうにも、思い通りにならず面白くない。
 ――3階
 他の階は反応ゼロ。開ボタンに閉ボタン、非常用の停止ボタンも応えない。
 天沢郁未の部屋は7階にある。
(これでは、ハッキリ言ってエレベーターを使う意味が殆ど無いぞおおおお!)
 いや、それよりも。
「罠……かな」
 ――6階。
 少年が表情を少し険しくして言う。
 ……ごくり、と高槻の喉が鳴る。
 ――9階。
 高槻は素早くドアの横に張り付き、ドアに向かい拳銃を構える。
 少年も半身になりながら正面に意識を集中する。
 ――12階。
 キンッ、と古風な音を立てて開いたエレベーターの扉の前には――
44クノッソス:02/06/18 04:24 ID:+VUY8bQk
(2行空け)
 そして――。
「こりゃかなわんな……」
 長瀬刑事は4階の床と熱烈なディープキスを交わしながら独り呟いた。
 健康の為にとエレベーターを使わず階段を昇っていた最中だったのだが、直ぐ後ろで突然隔壁が落ちてきて、危うく潰されかけた所だったのだ。
 誰にも見られてなくて良かった等と心の片隅で思いながらも、深い溜め息をついた。
 それは自分の無様な姿にと言うよりも、それ以前の不注意さについてだ。
 思ってみれば、ホテルに着いても誰もいないという時点で途方もなく怪しかったのだ。
 こんな事態だ、従業員が居ない事自体は覚悟していたし、スンナリ納得も出来る。
 しかし、彼らが存在した――逃げたにせよ、殺されたにせよ――その痕跡が全く見うけられないのは、今思えば余りに不自然だ。
(ここまで辿り着けば一先ず安全だと思って、少し気を緩めすぎたな)
 反省する。しかし、後悔で時間を無駄にはしない。
 気を取り直して、緊張と僅かな恐怖を感じながら腰の銃を抜き、構えた。
 下……と言うより後ろは今し方塞がれた。
 上を見れば、同じ様に隔壁が邪魔をして通行は出来ない様だ。
 どう動くにせよ、ここは少し状況を整理して見る必要があるかもしれない。

 このホテルには入り口のある中央棟を中心にして、渡り廊下で繋がった東棟・西棟が存在する。
 そして各棟は、2つの階段、1箇所に2基あるエレベーター、1つの非常階段を持つ。
 現在位置はホテル中央棟4F東側階段付近。
 同所の3−4F間、4−5F間は通行不能。

 現在わかっているのはこれだけと言った所か。
(これじゃ情報が少なすぎて動けんな。)
 と言うことで長瀬刑事は探索を開始する。
 動く方向は中央付近へ。
 エレベーター、もしくは更に先にある階段で、未だ階下に残っていた二人との合流を考えた為だ。
45クノッソス:02/06/18 04:26 ID:+VUY8bQk
 しかし、少し動いた所で再び行き止まりにぶち当たった。
 隔壁が中央棟を真っ二つにするかのように行く手を阻んでいる。
 それでも、一応ギリギリの範囲で目当てであるエレベーターの片割れに手は届く。
「ふむ……」
 色々弄って見るが残念ながらエレベーターは動作しなかった。
 いや、実際は上に向かって動いてはいるのだが、何故かランプが付かず止まってもくれない。
 やがてエレベーターが12階に止まったのを見ながら、彼はここに閉じ込められた線で考えをまとめ始め――
 
 そこまで考えて長瀬刑事はあることに思い当たった。
 この状況、一見すると閉じ込められてる様にも見えるが果たしてそうなのだろうか、と。
 確かに階段は封鎖されているが、通路は使える状態にとどまっている。
 さらに言えば、途中の天井を見ても隔壁自体はあるにも関わらず、作動していない箇所が多々見うけられる。
 少し考え方を変えれば、まるで何処かに誘導されている……かのようにも見える。
 が、実際に動いてみると移動出来る場所にそれなりの自由度があるのにも気付く。
 閉塞的な状況と移動における選択肢。

「……あ!」

 そこに到って長瀬刑事は思わず声を上げた。
 ――ホテルという建物は基本的に窓のない部屋を極力作らないという構造になっている。
 ――その特徴のせいで、いかに隔壁を下ろそうとも、一階毎の複雑さは左程にはならない。
 ――しかし、複数の階段とエレベーターによる階の複雑さがそれを補う。
 つまり、これは縦横と高さの概念が入れ替わった迷路。


 怪物の侵入を防ぐ為に最新技術の粋を尽くして造られたホテルは、今や守るべき人間を逃がさない為の迷宮と化していた。
46クノッソス:02/06/18 04:27 ID:+VUY8bQk
(2行空け)
 現時点でのパーティーと現在地
【少年・高槻 → エレベーター(12Fに到着)】
【はるか・真琴・彩 → 西棟10F通路(スライムと遭遇)】
【名雪 → 西棟10F通路(上パーティーとは分断)】
【長瀬刑事 → 中央棟4F廊下】
【その他のキャラは後に一任】
47策士:02/06/18 18:21 ID:FhxOa/Zt
白衣の女性が横っ飛びに跳ね、一瞬の後、その地面ににクレイモアの刃が食いこんだ。
天より降り注ぐ冷たい雨粒を受けながら一進一退の攻防を続ける白衣の女性と鎧という構図は、
ともすればとてもシュールなものにみえたのではなかろうか。

「えい!」
やや間延びした声が鎧の中から響き、またその声には似合わない物騒な刃が白衣の女性に襲いかかる。
「……っ!」
声の代わりに気迫を発し、紙一重か、はたまた余裕を見てか、ともあれ動く鎧の刃は今のところその白衣にすら触れられず。
雨粒を跳ね飛ばし、またその手にメスを握りながら、白衣の女性は飛びまわる。
(しびれも取れてきた……)
次の一瞬が勝負どころか。女性は右手に力をこめた。その指先には、トランプのカードのように握られた鋭いメスが、冷たい光を放っている。

あるいはその格好に慣れているのかもしれないが、鎧の重さをものともしないようなその主------恐らくは少女-------に
敬意に似たものを感じながら、女性はさきほどとは違う表情をうかべ、疾駆する。


もうあと一刻の後に、この闘いは、おわる。
48by RTO:02/06/18 18:21 ID:FhxOa/Zt
空振りを続ける自分の攻撃に、鎧の少女------名をアレイという------は、少しづつ苛立ちを募らせていた。
怪我をする経験、ましてそれが致命に至るものとなれば、彼女のそれは皆無に等しい。
だから、彼女は気付かない。初めに目の前の女性が自分に与えた一撃が、その体に如何な変化をもたらしたかを。
ことごとく空振る攻撃に、「何故攻撃が外れるのか?」分析することが出来たなら、あるいは。


腰を落とし、白衣に闘気を纏ったまま、女性は一気に駆け出した。
アレイは悟る。「捉えた」と。
いささかの回避行動も見せず、白い軌跡を引きながらまっすぐこちらに向かってくる敵に、最高のタイミングで両手の刃を振り下ろす。
アレイの握る白い刃は、白衣に負けぬ白い尾を引いて、だがその白衣にかすりもせずに、止まって、それきり動くことはなかった。


彼女は、ただ避けていただけだ。
刃が振り下ろされるたび。おおげさに飛び跳ねて回避していただけ。
敢えて付け加えるならば、少しづつ刃と自分との距離を遠ざけていただけなのだ。
……片目の潰れた相手の、距離感覚を狂わせるために。


「遠近感の概念に無知だったのは……命取りだったな!」
開かれた鎧の顔面。その奥にある「モノ」にメスの刃を突き立てながら、女性は吐き捨てるように言った。
その鎧から刃が落とされる。白い刃が、その足もとの鎧とかち合い、不愉快な音を立てた。
女性は走り出す。危機は退けた。次は……アイツだ。あの男なのだ。そう思い浮かべながら。
たった今感じた柔らかく肉の裂ける感覚を、次はアイツで味わうのだ。その瞬間を思い浮かべ、唇の端がつりあがる。


空が、少しずつ闇に染まっていく、そんな時間の出来事だった。


【聖、離脱 アレイは生死不明】
49名無しさんだよもん:02/06/19 15:30 ID:P4mjKM5i
メンテ
50希望(1/2):02/06/19 22:58 ID:EsEP548A
「……」
「……」
 二人の間に流れる沈黙…。
「…ガス欠というやつですか?」
「…言わないで…」
 滝のように落ちる雨が更に心を寒くする。
 友里はハンドルに顔を突っ伏したまま、葉子は目を瞑ったまま動こうとしない。
 あてもなく、ノンストップでジープを走らせたツケであろうか。
「……」
「とりあえず、降りましょうか」
 というか、それしか選択肢がない。
 そそくさと降りる葉子続いて、友里もだるそうに降りる。
(もしかしてあの時、手堅く来た道戻った方がよかったのでは…?)
 後悔先立たず(?)である。
「あまり考えないことです。非常時だったんですから、仕方のなかったことです」
 葉子がフォローに入る。
 だが、もし葉子が判断していたのだったら、こうはならなかったであろう。
「でも、これからどこに行くの?」
 雨の中、とぼとぼと歩く友里が、まだしかっりとした歩きの葉子はしっかりと前を見据えて答えた。
「どこか、できれば屋内で雨宿りできるところを探します」
 そう言いつつ、茂みをかき分けた。

(2行空けてください)
51希望(2/2):02/06/19 22:59 ID:EsEP548A

 雷の光がまた二人を照らす。
 それに合わせるかのように、葉子は急に歩みを止めた。
 続いて友里も止まる。
「聞こえましたか?」
 葉子が険しい顔で友里を見る。
「…ええ、空耳じゃないことを祈るわ」
 二人は駆け出す、その『音』がする方向へ。
 茂みをかき分け足にまとわりつく泥を払いのけ、二人はその一つの場所に向かった。
 目的地には、意外と早くついた。
 開けた土地に、一本の長いアスファルトの道路、そして『音』の主は主人を乗せてすでに飛び出していた。
「あ!!」
 友里が叫ぶ、その人類が作り出した翼に向かって。
 だが時はすでに遅かった、一機のセスナはすでに浮上して、嵐の空を飛び立っていた。
「…なんてことを…でもまだ…」
 友里が呆然と呟いた、しかし格納庫がある。
 まだ、飛行機が中に存在する可能性もある。
「行きましょう、まだ望みがあります…」
 葉子が友里を促した。
52R1200:02/06/19 23:03 ID:EsEP548A
【葉子&友里。深夜の雨の中、飛行場を発見。セスナ一機確認操縦者は不明】

 久々の新作です。
 放置されてたので、書かせていただきました 
 この規模の施設で飛行場などもあってもいいと思い、脱出の鍵なりえると思い登場させていただきました。
 おかしな文法指摘やつっこみよそしくお願いします。
 
53名無しさんだよもん:02/06/19 23:14 ID:vfspuboe
新作age
54名無しさんだよもん:02/06/21 00:07 ID:XOEQ/MUg
麺天
55名無しさんだよもん:02/06/21 21:44 ID:Dto0L3MR
そしてメンテ
56E-O:02/06/22 14:22 ID:kiV+uqA5
「ワクチン……か」
誰にともなく、矢島はそうつぶやいた。


彼らが医療施設を出たのが一時間前。もうそろそろ、目当ての施設が見えてきてもよさそうな頃合いだった。
その間、会話らしい会話がなかったかと思えば、ときおり取り止めのない会話も交わし、妙な空気が、四人を包んでいた。
(矢島、両手で持ちきれないほどの花を抱えてどうするんだ?)
……藤田がこの場にいたならば、あいつはこんなことを言うだろうか。あいつは、今頃神岸さんとうまくやっているのだろうか?
あいつにしろ、神岸さんにしろ、夏休みのイベントにとこの島に来る可能性は高いだろう。
もともと矢島がこの島でのバイトを決めたのは、こんな平凡な動機だった。
(置かれた状況は、全然平凡じゃないがな)
昨日人体標本のバケモノにやられた傷にしろ、同じく昨日カラスにつつかれた背中にしろ、けして完治しているとは言えなかった。
(馬鹿だよなぁ)
そう思う。怪我人なのだから、ここでワクチン回収の同行を断ったところで咎められることはなかったろう。
無論、ふところで出番を待っている、この無機質な凶器を持ち歩く事だってなかったのだ。
(ああそうさ。俺は見栄を張っている)
それがどうした。と彼は思う。空元気なのは分かっている。だが本気で今の状況を考えたなら、正気でいられる自信はなかったのだ。
懐の武器……コンバット・ナイフは、そんな彼を無愛想な輝きとともに見つめているようだった。
57E-O:02/06/22 14:22 ID:kiV+uqA5
茜が扉の脇の端末を叩いた。妙な合成音声がパスワード照合の旨を告げ、扉がゆっくりと開いていく。
理科室の匂いを少しばかり強くしたような薬品臭が、矢島の鼻を刺激した。
「二階以降はすべて研究員エリアになっているので私達では入れません。
一般用の薬品は全て一階のどこかにあるはずです。……これを」
手短に説明を終えて、茜は全員に一枚のメモを差し出す。舌を噛みそうなカタカナが羅列されている。誰かが「う」と声をあげた。
「それが薬品の名前です。薬品は全部で三つ。一つみつけたらこの入り口にもどってくることにしましょう」
何があるかわかりません、気をつけて。茜の説明はそこで終わる。別に誰も異論を挟まなかったし、そんな時間がないのは明白だった。


脇で見ていて思う。この太田という女の子にとって、瑞穂という女の子は至上の友人なのだろう、と。
一回フロア内で恐らく一番広いであろう薬品置き場をこの少女と二人で捜索しながら、矢島は改めてそう思った。
わき目も振らず、黙々と棚や引出しの薬品と手もとのメモを交互に見つめる。早い。
(負けてられないな)
矢島も作業に戻る。


棚をあける音と、薬瓶のかち合う音。時折、ため息。
そんな音の間に、「みつけた」という声が混じったのは、それから30分ほどたってからだった。
「これで……これで、瑞穂を……」
「よし、戻ろうぜ。……ん?」
矢島は、些細な違和感にその足を止めた。

ドアが空いている。俺がこの部屋に入ったときに、間違いなく閉めたはずだ。
薬の捜索に夢中でドアが空いたのに気がつかなかったのか? それなら、入ってきた奴はまだこの中にいる?
「ねえ」
その時、扉から晴香が顔を出した。
「見つかった? こっちはもう二つとも見つけて入り口で待ってるんだけど」
ああ、こっちも見つけた。今行きますよ、晴香さん--------------

58E-O:02/06/22 14:23 ID:kiV+uqA5
矢島の脇を、俊敏な足音が通り過ぎていく。犬のような足音だ。
足音は、部屋の机を潜り抜けてまっすぐ晴香の元に向かっているようだった。
「晴香さ--------」
晴香さん、逃げろ。その半分も言い終わらないうちに、晴香は何かに押し倒され、腹のあたりから夥しい量の血を噴出した。
「な……っ!?」
その場に居合わせた二人は、同時におなじ声を発した。晴香だけが、ごぼ、と血を吐いた。
その間にも、見えない「何か」は晴香に攻撃を加えていく。
ぐしゃっ……ぐしゅっ……
肉の食いちぎられる音、内臓の噛み裂かれる音が、広い部屋に響いた。
(食われてる……!)
吐き気を押さえながら、矢島はその場にかけつける。見えない「何か」は、
まるでゾンビ映画の哀れな犠牲者役のような姿に巳間晴香を変貌させていた。
「く……」
(「何か」は晴香さんの体に夢中だ。俺のナイフでやるなら今しかない。今しか……)
矢島が覚悟を決めて飛びかかろうとしたときだった。

けたたましい銃声が、部屋の中に響いた。
59E-O by RTO:02/06/22 14:24 ID:kiV+uqA5
銃弾は矢島の体を掠め、奥の壁に突き刺さる。
「ギャウ!」
それと同時に、「何か」がいたあたりから血がふきだし、「何か」が吹き飛ばされてきた。間違いない、犬の声だった。
矢島の位置の一歩手前に落ちたそれは、そこからぴくりとも動かなかった。
「晴香さ……」
矢島は晴香のほうを見る。筆舌に尽くし難い姿となった晴香は、その何も見ていない虚ろな瞳とともに、
彼女が生きていないことを明確に語っていた。
銃が発砲されたのは、たまたま指が痙攣したとか、そんな理由だったのだろう。
「くそ!」
矢島は香奈子のほうを見る。ショックでなのか、立ったまま気絶しているようだった。
それでも、手に持った薬瓶を離していないのは賞賛に値するかもしれない。
(ここから連れ出すには好都合かもな……)

香奈子を抱えて部屋を出ようとした矢島はふと思い立ち、晴香のそばにかがみこむ。
(……借りますよ)
晴香が手に持っていたデザート・イーグルを、矢島は恭しい手つきでそっと離させた。
それからちょっと考え込んで、晴香の目を閉じてやる。顔だけは、無傷だった。


矢島が立ち去り、既に部屋には動くものは何もない。
晴香が銃弾を撃ち込む前、赤い「緊急自体」の文字が踊っていた壁のサブモニターも、
今は何も映し出さず、表面に割れたガラスと深い闇を湛えたままである-----------


【巳間晴香 死亡】
【太田香奈子 気絶】
【矢島 デザートイーグル入手】
60名無しさんだよもん:02/06/22 23:29 ID:wpc0tcQR
保守
61名無しさんだよもん:02/06/23 06:08 ID:GG+/I1IJ
保守
62名無しさんだよもん:02/06/23 10:57 ID:bBMJFrHo
保守っとくよ
63名無しさんだよもん:02/06/23 16:41 ID:9NDa8/WY
保守
64名無しさんだよもん:02/06/24 21:52 ID:uqZ/A2e1
保守
65フラッシュバック:02/06/25 01:36 ID:OCK+480N
「里村さん!」
香奈子を抱えて、矢島は入り口まで全力で駆けた。
「見つけましたか?」
少しだけ焦りの表情が見えた茜は、矢島の手に持つ薬瓶を確認すると、口元を緩ませた。
「晴香さんは、どうしました?」
矢島の表情が、曇った。
「……詳しいことは後で話すけど、見えない……犬みたいな化物に殺された。太田さんはその時のショックで気絶してるんだ」
「……そう、ですか」
くるりと振り向くと、茜は出口の端末を操作する。また、あの重そうな扉が開いた。
「では、早く出たほうがいいでしょう」
「……ああ」
茜の冷静さに、矢島は内心舌を巻いていた。なんだよ、これじゃ俺の出る幕が……


突如として館内が赤いランプに染まり、けたたましい警報が鳴り響いたのはその直後のことだった。
なんだ、と矢島が叫ぶ前に、合成音声の女性アナウンスが冷たい響きで宣告する。
『第一級警報発令 第一級警報発令 所員は速やかに退避せよ 繰り返す 第一級……』
がしゃん、がしゃんという音が聞こえる。どこかで隔壁が下がってきているのだろうか?
「矢島さん!」
先に外に出ていた茜が声を上げる。見れば扉は閉まりだし、上からは特大の隔壁が降りる時間を待っている。
「しまっ……クソ!」
既に体は通らない。無理に通ろうとしても、もたついているうちに隔壁でサンドイッチになるのが落ちだ。
「里村さん、こいつを!」
矢島は何とか腕を通し、薬瓶を茜に手渡した。
「先に行ってくれ、俺も必ず------」
それ以上茜の耳には、矢島の声は聞こえなかった。
66フラッシュバック:02/06/25 01:36 ID:OCK+480N
「ち……」
警報もなくなり、静まり返った館内に、俺は一人佇んでいた。
薬の事は里村さんに任せて、俺は太田さんと何とか脱出路を確保するしかないらしかった。
「二階には……行けないんだった、よな」
さしあたっては一回を探索するしかない。裏口でも見つければしめたものだ。
……さっきの、見えない敵がこれ以上居なければ、だがな。
「ねえ」
びくっとして、俺は振り向いた。うつむきかげんに、太田さんが立っている。目がさめたらしい。
「太田さ……」
その時、太田さんはすいと顔を上げた。
俺は息をのむ。その眼。正気と、光を失ったようなその眼。
吸い込まれそうな深い闇と、そこに湛えられた絶望の色を、俺は生涯忘れないだろう。
背中に冷や汗が伝うのを感じる。差し出しかけた俺の手は、握ってもいないのにじっとりと汗ばんでいく。
「太田、さ……」

-----ちり
「……?」
ちりりっ
「う……?」
電気……俺は最初そう感じた。
「……!!」
脳みその芯が、電気に浸食されていく感覚。
脳髄に直接電極を差し込まれて電流を流されているような錯覚が、俺を支配していった。
「う……うああああああ……!」
俺は悲鳴をしぼりだす。絞り出すような声しか出なかったというのが本音だが。
「お……おおたさん……やめ……」
そう。どういうわけか、これが太田さんによるものだということだけは分かる。
……いや、それだけじゃない……これは……
67フラッシュバック:02/06/25 01:36 ID:OCK+480N
これは……記憶だ。
何かの漫画で読んだことがある。他人の中に抑圧された記憶が噴出し、
それに巻き込まれた主人公が見た風景は、丁度こんなだった気がする。
断片。欠片。破片。……かけら。
映像だったり、音声だったり、あるいは感情だったりするその記憶を、俺は一気に体験していた。
夜の校舎。暗い生徒会室。裏口。侵入。人。肉の匂い。むせ返る濃密な性の匂い。男。乱交。
朝。授業。発狂。痛み。血。病院。脱出。学校。部屋。ツキシマ。ミズホ。シンジョウ。ナガセ---------


電波。


「……!」
床の白いタイルが見える。天井の切れかけた電灯がじりじりと音を立てている。
どうやら、「帰って」きたらしい……おれはほうっと息を吐いた。
頬を、涙が伝ったあとがある。冷房の効いた施設の中で、じっとりと汗ばんだ俺の服は、たちまち俺の体温を奪っていく。
俺の中に、記憶が植え付けられた。俺ではない、他の誰かの記憶。太田さんの記憶だ。
電波の力だ。記憶の中の男……月島拓也はそう言った。このチリチリが、その電波とやらなのだろうか。
それを浴びているうち……あるいは、その電波使いとやらと何度も……シテいるうちに、太田さんもキャリアになっちまったということなのだろうか。
俺は太田さんのほうを見た。
68フラッシュバック:02/06/25 01:37 ID:OCK+480N
何で忘れていたのか分からない。
これは、あたしの記憶だ。ほかならぬ、自分の。
そうだ、あたしは壊れていたんだ。あの時。
この顔の傷は、その名残。
そして、あたしは瑞穂に、なにをした?
この記憶の中で、あたしは、なにを------?
傍観? それとも-------加担といえるだろうか?
怖い。
自分が、自分を見る人の目が。


怖い。


「太田さん?」
意を決して、俺は太田さんに声をかけてみた。
「!」
びくっと体を震わせて、太田さんはこちらを見た。右手で、頬の傷を覆い隠しながら。
「来ないで……」
怯えきった声が、俺を静止する。
「来ないで、見ないでよ……お願い……」
この怯えは、どうだろうか? 正気に戻ったと見てもいいのだろうか?俺が考えているときだった。
「……そんなに、あたしとせっくすしたいの?」
俺を凝視するその眼は、どこまでも暗く、深い、あの眼だった--------
69by RTO:02/06/25 16:37 ID:OCK+480N
目の前が紅く染まり、暖かいものが頬を流れる。--------錯覚だ。また。

きっかけは……晴香さんの血を見たことだろうか?
血が-------狂気の記憶を蘇らせた?
この---いや、あの頬から流れたものと同じ、血が---



「ねえ……せっくす、するの?」



【太田香奈子 狂気に墜ちる】
【矢島 電波の力により香奈子の記憶を垣間見る】
【その力を香奈子が「扱える」のかどうかは不明】


と、このレスを送信しようとした瞬間ケーブルが切れました。
ご迷惑をおかけしました……
70魔島へ:02/06/25 20:36 ID:IAxPcXx4
 暗闇に覆い尽くされた空の下で、二機の輸送ヘリのローターが爆音と強風を巻き起こしていた。
 すぐ近くから潮の香りが漂ってくるヘリポート。 そこには三十数名もの武装した兵士達が右へ左へと走り回っていた。
 見る者が見れば、彼等の装備が自衛隊のものではないことが一目で判るだろう。
 犬飼は目の前にいる物騒な集団を見やりながら、背後に控えている下川に声をかけた。
「時間がかかったな」
 それだけで下川はドキリと身を震わせ、「申し訳ありません」と頭を下げた。
 犬飼に命じられて非合法の兵隊達を集めたのは彼だが、その仕事を済ませるのに半日近い時間を要してしまっていた。
「しかし国内に使えるような部隊は無く、わざわざ国外から…」
「言い訳はいい」
 犬飼はピシャリと下川の言葉を封じ、その場に立ったまま兵士達の準備が終わるのを待った。

 考えなければならない事は沢山あった。
 
 まず、超先生こと竹林明秀が何を企んでいるのか。
 否、これはやはり考えても解からないことだろうか。
 リアルリアリティなどと意味不明の言葉を吐く者の思考など、健常者である(本人はそう思っている)犬飼には想像もつかぬ。
 何とかに刃物と言うやつで、力を得た狂人は何をしでかすか解からない。 
 それはつまり、彼が島に何らかの罠を仕掛けて待ち受けている可能性も充分にあるということだ。
 決して油断は出来ないだろう。
71魔島へ:02/06/25 20:40 ID:IAxPcXx4
 もう一つ気になるのは、竹林が先行招待客という名目で呼び寄せた103人の男女である。
 犬飼の手元にある名簿を見れば、中には来栖川等の聞いた名も混じっているものの、大半は知らぬ者ばかりだ。 恐らく只の民間人だろう。
 しかし、中にはどうしても見逃せない名前がある。
 坂神蝉丸、光岡悟、御堂、岩切花枝、二人の杜若きよみ。
 竹林に何の考えがあってこれらの人物を呼んだのかは解からない。 しかし呼ばれた側が何らかの意図を持って島へ向かったことは容易に想像出来る。
 民間人に混じって安穏と暮らしている蝉丸やきよみは、只の観光目的なのかも知れぬ。
 しかし光岡や御堂、岩切は未だに安住の場所も持たぬままさ迷っている。 自分達にただの民間施設の招待状などが届いたことに疑問を抱き、真実を調べようとすることもあるだろう。
 ならば、島での混乱に乗じて、仙命樹研究の事を何か突き止めているかも知れない。
 事によっては、生かしておく訳にはいかない連中だ。

 そして、杜若きよみ。
 犬飼がどうしても個人的な情念を断ち切ることの出来ぬ、二人の女性。
 彼女達が島で怪物達によって生命の危機に晒されていると考えると、頭が痛む。
 しかし自分達は島にいる民間人を救助しに行く訳ではない。 輸送ヘリに何十人もの人間を乗せる余裕は無いし、仕事の事だけを考えれば最優先すべきは研究データの確保だ。
72魔島へ:02/06/25 20:43 ID:IAxPcXx4
(……どうすればいいんだ?)

「あの…」
 おずおずと下川が声をかけてきて、思考に耽っていた犬飼は顔を上げた。
「何だ」
「準備、出来たみたいですけど…」
 見れば、兵士達は出発の準備を終え、犬飼とブリーフィングをするために島の地図を広げて待っていた。

 犬飼は彼等に幾つかの指示を下した。
 
 竹林は発見次第に捕らえること、それが無理な状況ならば逃がさずに抹殺すること。
 坂神蝉丸、光岡悟、御堂、岩切花枝も同じく、拿捕が不可能なら抹殺。 遭遇することなくこちらが研究データを入手したなら、そのまま放置して帰還する。

 それから長い間を置いて、犬飼は最後に杜若きよみの名を口にした。
 そして、彼女達に関する下知を言い渡した。

 ややあって、二機の輸送ヘリは轟音と共に飛び立った。 うち一機には犬飼と下川が乗っている。


 彼等は知る由も無い。
 かの島は、もはや「怪物達の拘束が解かれたモンスターパーク」などではなく、人外の野望に翻弄されるこの世の魔界と化してしまったことを。


【犬飼と下川、兵士三十名は夜のうちに輸送ヘリ二機で出発】
【杜若きよみに関する命令の内容は不明】
73名無しさんだよもん:02/06/25 20:44 ID:IAxPcXx4
以上、「魔島へ」です。
レス間は一行空けでお願いします。
74名無しさんだよもん:02/06/26 23:45 ID:C+gASOKz
メンテ
75名無しさんだよもん:02/06/27 22:30 ID:rAU7fqpk
メンテさせていただく
76名無しさんだよもん:02/06/27 23:12 ID:Rx7GzRyX
──────────ここまで読んだ──────────
77名無しさんだよもん:02/06/28 01:52 ID:kx7/lXHA
メンテ
78胎動:02/06/28 13:05 ID:0qMkxgO3
そこに、鎧は立っていた。
濡れたクレイモアを握り、ふりしきる雨を払おうともせず。


そこに、鎧は立っていた。


話は少し遡る。
この鎧を着けた少女------アレイの命の灯火は、風前、といって差し支えない状況だった。
致命には至らぬものの、かといって治療手段があるわけでもなく、
アレイは、ゆっくりと死を待つよりなかった。
「ル……ミラさ……ま」
そんな彼女を繋ぎとめるは、その身の仕えし主の姿。
「死ぬ……わけには」
あと9人。あと9人殺さなければ。ルミラ様は……
79胎動:02/06/28 13:07 ID:0qMkxgO3
そしてそれを冷ややかに見つめる眼が二つ。
(頃合いか)
異形-----ガーゴイルと呼ばれる化物は、横たわるアレイを中心として、地面に文様を描き出す。
「……--…---……」
ヒトの耳には聞き取れぬ、冥界の死者との契約の言葉。
そして、化物の描いた魔方陣は、暗く闇色に輝き出す。
------これで、この娘は私の僕だ。
ガーゴイルはほくそえむ。今こそ、この新たな闇の眷属に最初の指令を与えるときだ。
「さあ-------」
言いかけたその口を、クレイモアが切り裂いた。


なぜ? ガーゴイルは誰ともなく問う。
しもべを作ることが出来れば、あの女への立ちまわり方も多少変わってきたはずだ。
それなのに、なぜ?

アレイの呟きが化物の耳に届き、彼は僅かながらその問いの答えを見出すことが出来た。
そしてそれと、体が石となり崩れ出すのは、恐らく同時だったように思う。


「あと……はち、にん……」
80by RTO:02/06/28 13:09 ID:0qMkxgO3

鎧は、そこに立っている。
今や何も残らない、だがその記憶の水底に僅かに残った使命を成すため。
「ルミ……様、……あと……8人」
あと……8人。


そして鎧は歩き出す。


糧とする、イノチをみつけるために。


【ルミラ 死霊化 残された思考は「ルミラ様」「8人殺害」】
【ガーゴイル 死亡】


ちょっとNG覚悟で。
「キャラ復活」にあたるんじゃねえかアァン? とのことでしたらNGで構いません。
81名無しさんだよもん:02/06/28 15:32 ID:p5DHDxj5
>>80
>【ルミラ 死霊化 残された思考は「ルミラ様」「8人殺害」】
今すぐこの発言を撤回しろ
もしくは首吊ってこい
アレイに対してあまりにも失礼だ
これに関しては見ているだけの俺が言える義理ではない事もない
もし貴様がルミラだとしてもだ
82RTO:02/06/28 19:58 ID:0qMkxgO3
>>81
……申し訳ない。大変申し訳ないです……撤回ならびに以下の通り修正させていただきます

【アレイ 死霊化 残された思考は「ルミラ様」「8人殺害」】


んでは、吊って来ます……
83名無しさんだよもん:02/06/29 03:10 ID:t1p5HIdA
>>81 は何を言いたいんだか?
まあいいや。感想スレ見てこよう。
84名無しさんだよもん:02/06/29 21:03 ID:hTmc+8kT
アフォは無視メンテ
85寂しき心:02/06/30 02:33 ID:73mPmX8U
「長森さ〜ん、そんなにむすっとしないでくださ〜い」
 サトリが、モンスターとは思えないような軽い口調で、長森に話し掛ける。
 これまで何度か繰り替えしたような、いわゆるセクハラ行為は、しない。
 これ以上頬に赤い手形を増やしても仕方ない、と、考えたのだろう。
「長森さ〜ん? 何をそんなに怒っているのですか〜?」
 サトリには、何を言っても……いや、何も言わなくても無駄だと言う事は長森も解っていた。
 だから、長森はまっすぐにサトリの目を見て、もしかしたら生まれてはじめて人をこんなに睨んで、正直な心を、言い放った。
「貴方はッ! こんな地獄のような島をつくった人の仲間なんでしょうッ! なんで、なんでその貴方を憎まないでいられるんですかッ!」
 息をついて。
「リアンちゃん…何も…してないのに……」
 それだけで、もう声が出なかった。
 その代わり、初めて出会う人物に怒鳴ってしまった自分が悲しくて、どうしようもないこの事態が悲しくて、もう何が悲しいのかもわからないけど、ただ、悲しくて……。
 涙が、止まらなかった。
「……貴方は本当に、心の優しい人なのですね〜。大丈夫、私は、リアンさんを殺すようなことはありませんよ」
 憎いはずのサトリの言葉が、少しだけ暖かかった。
 裏に隠された意味にも気付かずに。
86寂しき心:02/06/30 02:39 ID:73mPmX8U
「……さて。本当ならここで長森さんを心行くまで慰めてあげたいところなのですが、そうも行かないようで〜す」
 サトリは、室内には長森しかいないというのに、必要以上に声をあげて話しだした。
「今までずっとそこで話を聞いていたのでしょ〜う? 言っておきますが、わたしを闇討ちなんて、出来ませんよ? 折原さ〜ん」
 折原、という言葉に、長森はハッとして、顔をあげる。
 壊れかけた倉庫の扉から、舌打ちをしながら入ってくるその姿は、まぎれもなく、自分が一番今求めていた人。
「……浩平、遅いよ……」
「すまない、ちと交通事故に巻き込まれてな。で、サトリ、だったか」
 長森、サトリ、浩平、ちょうど正三角形になる位置で、浩平はサトリに顔を向けた。
「話は聞いた。そして、心を読む化け物なんかに、おれたちが手を出せないことも、わかる」
 浩平は、長森に一瞬だけ目を向け。そして、次の瞬間には長森を見ないようにして。
「だから、さっさとリアンを連れていってくれ……」
 長森が息を呑む音だけが、倉庫内に妙に響き渡った。
 気がつけば、雨はもう止んでいる。
87寂しき心:02/06/30 02:43 ID:73mPmX8U
「折原浩平さん、冷静な判断で〜す。そう、あなたのような一般人、しかも手負いの……には、勝ち目はありませんね〜」
 サトリはにっこりと笑い、リアンを抱えて立ち上がる。
「でも、心の中ではそう……『人を集めて、絶対助けにいく』とも思っている。なかなかの勇気と言えるでしょう」
 長森はもう、何も言わない。言えない。
 サトリは、浩平を無視するかのように、浩平が立つ出入り口からリアンを連れて出て行こうとする。
 が、浩平の横に立ち止まり、小さく囁くように、言った。
「私は、ユンナ様には逆らえないんで〜す。恩があり、契約がありま〜す。ユンナ様を止める権利すら……ないんで〜す」
「そして私はこれから命令通り、塔に彼女を連れていくだけで〜す」
 そして、沈黙。
 二人の人間が何も言わないことを確認して、続ける。
「コロシアムに、行ってあげなさ〜い。彼女たち、最期まであなたたちの身を案じていましたから……。軽い埋葬くらい、できるでしょ〜う?」
「……さて、と。私はこれから、パートナーを探してユンナ様の元へと戻らなければ。また機会があれば、会えるでしょ〜う」

 ユンナという人物を止めること……。
 記憶に無い、『少なくとも自分には見えていない』塔があること……。
 そして、最期まで自分達の身を案じていた、『彼女たち』が、いること……。

 浩平がそれらの言葉を飲み込むときには、すでにサトリの姿は消えていた。
88名無しさんだよもん:02/06/30 02:45 ID:73mPmX8U
【長森と浩平、再び合流】
【リアン、サトリに連れ出される】
塔とかサトリの設定とか、問題があったらごめんなさい。
レス間は2行空きで御願いします。
89名無しさんだよもん:02/06/30 19:13 ID:tmnJsYWi
メンテ
90この島で愛を語る者:02/07/01 00:18 ID:0VrV81yI
 モニターの明かり以外は何もない真っ暗な部屋で、セバスは呆然と立っていた。
 少し上の角度から映されているモニターには炎に包まれている綾香の様子が映しだされている。
(私は一体今まで何を迷っていたのだ)
 何かに気づいたかのようにそう思ったセバスは総括管理室のどこかからか持ってきた武器と治療品を
 1つの袋に入れ始めた。
「どうしたセバスよ。もう見飽きたのか?」
 1つのモニターに上半身だけが映っているメイドロボの姿が現れた。
 モニター越しに朝鮮製が話しかけてきたのだ。しかし、セバスはモニターの方を見ることもなく、
 ただただ袋に武器と治療品をつめこんでいった。
 朝鮮製はちょっとした冗談を言ったつもりだったが、そのセバスを見て、すぐに本題に入ることにした。
「いやいや、今のは冗談だ。わかっているぞ。今から来栖川姉妹を助けに行くのだろ。
 やめておけ、お前も見ただろう。あの妖狐の恐ろしさを」
 朝鮮製はセバスに忠告をする。しかし、それは別に優しさからきた忠告ではなかった。
 忠告した理由は違うところにあった。
 この男は間違いなく、モニターに映る世界を楽しんでいた。そう、この朝鮮製の作り出した島の
 価値を十分にわかる存在だった。よって、朝鮮製は忠告したのだ。自分と同類の者に。
 しかし、セバスは忠告を全く聞きいれることなく、物をどんどん袋につめこんでいく。
「本当に行く気か?やめた方がいい。お前は強いだが、あの妖狐には及ばん」
 セバスは武器等を袋につめ終わると立ち上がり、
「確かに私ではあの妖狐にはかなわん。しかし、刺し違えることならできよう」
 まっすぐモニターを見ながら、そう言った。
 そのセバスの目はこの島に来た時と同じく来栖川家の執事の目をしていたことは
 朝鮮製にもはっきりとわかった。
91この島で愛を語る者:02/07/01 00:22 ID:0VrV81yI
 しかし、朝鮮製もその馬鹿な考え方に対して、引き下がることはしなかった。
「刺し違える?馬鹿なことを考えたものだ。いいか、よく聞け。この島で今のお前の状況は全知全能の神なのだ。
 その神の座をわざわざ降りる必要がどこにある。もっと神の視点を楽しんでいけ」
 朝鮮製が鼻で笑うように言う。
 しかし、それを見ているセバスの顔には動じる様子など全くなかった。
「若僧、1つだ教えてやろう。大切なのはお主ように他を嫌い、自分を愛することではない。
 自分以外の者を愛すことなのだ。自分以外の者を愛し、例え自分がその犠牲になったとしても愛することを守り抜く、
 それが大切なのじゃ」
「……」
「この島で起きたことをよく思い出してみるのじゃな。他者のために犠牲になった者がたくさんいたはずじゃ。
 もちろん、その犠牲が正しいどうかはわからん。だがそれでも、それら全ての者達は後悔の念だけ抱かずにおる…
 愛されることしか知らぬ人間にはわからない話じゃがな」
「この島の者達を見て悟ったか…いや、悟りなおしたの方が正しいか」
 セバスは黙って聞いている。
「…確かに、私には全く理解できない話だ。しかも、自分を犠牲にしてまで大切なものとも思えんしな、
 そんなもの」
 朝鮮製はふざけた口調で言う。
「大切だからこそ自分を犠牲にできる…」
 セバスは朝鮮製をまっすぐ見て言い、袋を持ち、モニター室から出ようとする。
 結局、この島で起きている価値を理解できるのは自分だけだと朝鮮製は思った。
「行くならとっとと行け。わざわざセキュリティーを解除してやったんだからな」
 セバスは朝鮮製のその言葉に足を止めた。
「なぜ、セキュリティーを?」
「見たくなっただけだ。お前の言う愛をおまえ自身がどこまで貫き通せるかがな」
 無気味な笑いをうかべる朝鮮製。
「無論、どこまででも…」
 この命が犠牲になろうとも……
92まかろー:02/07/01 00:25 ID:0VrV81yI

【セバスチャン 綾香達の所に向かう】
【セキリティーシステム 一時全解除】

久々だ…
93正義の味方:02/07/01 02:28 ID:aHVYeIYI
 正義の味方に憧れていた。
 子供達に正義を広めたくて、漫画家を目指した。
 でも、本当に正義の味方はいる? ピンチのときに駆けつけてくれるヒーローは、いる?
 否。
 本当は、そんな都合のいい正義の味方なんて、いないと分かっていた。
 だから、せめて自分は、正義の味方になりたかった……。


「ここはすばるが時間を稼ぎますから、きよみさんは逃げてほしいですの」
「なッ、何を言ってるの?! そんなことをしたら……」

 遺伝子の改良で作られた、巨大熊。
 木々をなぎ倒して迫りくるそれは、あと数十秒もしないで、自分達に追い付いてくるだろう。
 しかし、雨でぬかるんだ森を逃げるのは、やはり無理があったのだ。
 きよみがぬかるみと木の根に足をとられ、右足首を挫いてしまった。
 もう、その足で走り続ける事は、不可能だった。

「大丈夫、すばるは実は、正義の味方なんですのよ?」
「……馬鹿よ……信じられないくらい馬鹿よ……あなた1人なら逃げられるでしょうに……」

 きよみの言葉に、すばるは困ったような笑顔を向けて。
 それでも、逃げることなく、前を見て、ゆっくりと巨大熊へと向かっていった。
94正義の味方:02/07/01 02:29 ID:aHVYeIYI
『熊との戦いかたも、習っておくべきだったですの』

 巨大熊のその爪は、まるで暴風のようにすばるに襲い掛かって来た。
 今でこそ、その動きを見て斬撃をかわしているが、足場の悪い森の中で、いつまでもそれをかわせるはずがない。
 それに、逃げているだけでこの熊を倒す事など、むろん不可能だ。
 誰か、熊との戦い方を教えてくれる人物さえいれば、もしかしたら倒せる可能性はあった。
 すばるは、それだけの才能を持ち合わせていたのだから。

『でも、もう遅いですのね。せめて、きよみさんが逃げてくれれば……本望ですの』

 すばるは、不思議と満足だった。
 きよみがこの間に遠くまで逃げおおせたかどうかは、分からない。
 が、自分が、最期に正義の味方になれたことが、嬉しかった。
 さっきまで全力で逃げていたのが祟ったのか、体がすでに鉛のように重い。もう、避けられない。
 それでも、すばるは、嬉しかった。
 人を救うために死ねるのだから、もう死んでも悔いはない、そう思った。
 そして、自分に振りかかる熊の爪が、だんだんスローに見えてきて……すばるは目を瞑った。
95正義の味方:02/07/01 02:30 ID:aHVYeIYI
 激しい衝撃。
 木々がなぎ倒される轟音。

『ぱぎゅう……死ぬのって、結構痛くないんですのね? それに、不思議な光景が見えますの……』

 すばるの視界に入ってくるのは、自分を抱きかかえる1人の女性と。
 木々の向こうで、小さい少女に支えられている、きよみの姿。
 そして、その女性のぼやきが、妙にはっきりと聞こえる。

「やれやれ。巨大イカの次は、巨大熊とはな」

 すばるは理解した。

 正義の味方は、本当に来てくれたのだ。
96名無しさんだよもん:02/07/01 02:32 ID:aHVYeIYI
【森の中にて、すばる&きよみ、岩切&初音と合流】
【巨大熊との戦闘開始】

レス間は2行空きで御願いします。
97機械(1/3):02/07/01 21:43 ID:Dw1KS/ym
 少し時間を遡る。
 ホテルのボーイの一人が部屋の掃除のため、一人歩いていた。
 誰もいないエレベーターでボーイは目的の階を押し、閉まるの押した。
 そこで彼は、足元が濡れていることに気づいた。
「ちっ!誰だよ、飲みモン溢した奴は」
 ボーイは客がいないことを知っていたため、地を丸出しにして毒ずいた。
 彼がその水溜りに背を向けた、エレベーターの進みが遅く感じられる。
 また、それが彼をいらだたせた…。

 ぴちゃ…。

 水の音がした。
「あん?」
 振りかえる、だが全てが遅かった。
 全裸の男がたっていた。
 何かが眉間を貫く、ボーイは何が起きたのかわからない。
 何が眉間に刺さっているのか?
 目の前の人物が一体誰なのか?
 何故、自分と同じ顔なのか?
 ボーイはそれ以上考えることができなくなってしまった、何故なら死んだのだから。

 ボーイがエレベーターから降りた、肩には裸の男を背負っているその顔は担いでるボーイと同じ顔だったが、違った部分は眉間に血の流れてない穴が存在した。
 ボーイは彼を担いで、トイレに赴き彼を清掃具入れに投げ捨てた。
 彼がトイレから出た後にあの放送が流れた。
『よく集まってくれた、103人の…』
98機械(2/3):02/07/01 21:49 ID:Dw1KS/ym
 長瀬主任は真っ先にホテルの1Fのコントロールシステムのある部屋に走った。
「ダメ元だが、行ってみるだけいってみるか」
 主任は銃を抜き、安全装置が外れてるのを確かめ、一気に二階から一階に階段をかけおりた。
 その間、何体かスライムもいたが全速力の人間に反応することもできず、主任は対した苦労もせずに一階のフロントまで来ることができた。
 フロントにつくや否、今や無人の事務所の引出しと言う引出しを開けてホテルの地図を探し出した。
「やはり、だめか…」
 まるで期待もしてなかったかのうように一息ついて、PCの電源をいれた。
(電源は生きてる、ハッキングできるのか…)
 主任がPCに向かい作業を始める、流石に本業がコンピュータ関連なだけある、ホテルの地図をプリントアウトしたのち、瞬く間にコントロールシステムに侵入をかけた始めた。

パキ…

「む…?」
 振りかえる、事務所の入り口にあのボーイがたっていた。
「従業員かね…?まだ避難してなかったのか…」
 再び主任は作業にはいる。
 ボーイはそのまま近づき、主任を射程圏内に入れる。
 音もなく、その右腕をナイフに変える。
(狙うは即死…)
 淡白かつ任務に忠実なコンピューターは次の行動に移そうとした。
99機械(3/4):02/07/01 21:50 ID:Dw1KS/ym
「長瀬さん!!」
 荒荒しくドアが開けられる。
 ボーイは慌てることもなく、ナイフを元の手に戻す。
 橘が息を荒立てて、捲くし立てる。
「ここっ!ここが、完全に…!変なのがうようよっ!」
 完全に混乱をしている、日本語がまるでなっていない。
「はい、深呼吸をして落ち着いて」
 まるでマイペースだ、さっきまで凄いスピードでハッキングしていたなんて思えない。
「な…長瀬さん…これからどうしましょう?」
 完全に橘は弱気になっていた、それを見たボーイは橘を敵戦力から外した、到底この男は戦力になると思えないからだ。
「この地図通りに最上階目指し、コンピューターを制圧しよう」
 柔和な笑みを浮かべつつ、ゆったりと西棟に向かって長瀬は歩きだした。
 橘もそれに付いていくしかなかった。
(この自信は、一体どこからくるんだ?)
 ボーイは彼らの次の隙を伺うために無言でついて行った。
100機械(4/4):02/07/01 21:51 ID:Dw1KS/ym
(2行開けてください)
「スライムは振動で反応する」
 主任は微笑みながら、どこから調達してきたのかモップを道を塞ぐスライムの近くに投げ捨てる。
 スライムはそれに合わせてそのモップを取りこむ、その間に彼ら(ボーイも)通りすぎる。
「これでスライムは怖くなくなった」
 橘はそれを見ていることしかできない。
 一体いつの間に、そこまで分析をしたのかわからないが、橘は彼の分析能力の高さに驚きを隠せない。
 ボーイは次の階段に差し掛かったら、行動に移そうと決めた。
 ラチが明かないからだ。
 そして、6体目のスライムをかわし、階段が近づいた。
 だが、ここでまた邪魔が入る。
「…主任」
 そこにはニ体のメイドロボ、丁度主任達が昇ろうした階段から降りてきた形だ。
「セリオ、よくこの階段を使うことわかったね」
「いえ…、普段の主任行動パターンから推測しただけです」
 と、セリオは続けて、
「現在中央5棟階にいる怪我人の護衛は柳川さんが引き受けてくれました。今、リザードマン相手に防衛に入っているところです」
 簡潔に状況を説明した、それを聞いた長瀬主任は地図を広げ。
「救援に行こう。ここから真っ直ぐ五階に向かって、渡り廊下で中央棟に」
 地図を見ている、主任と橘からセリオは後ろに佇む無表情なボーイと目が合った。
 彼女は少し目を細めて、ボーイに軽くお辞儀をした。
(ばれたのか?)
 マルチはその奇妙な二人のやり取りにハテナマークを出すしかなかった。
101R1200:02/07/01 21:53 ID:Dw1KS/ym
【ドッペルベンガー(仮称)。ボーイになりすまし、参加者の殺害を企む。】
【主任、橘、セリオ、マルチ合流。柳川の救援、その後、西棟最上階にあるコンピューターの制圧を画策】
【柳川。怪我人(郁未+佳乃)と高子をリザードマンから防衛中(?)】
【セリオ、ドッペル(仮称)の正体にきずく?】
 1レス目と2レス目の間は(2行あけてください。)この一文を入れ忘れました、申し訳ない。
 ドッペル(仮称)は性能的にターミネーター2の液体金属の彼を思い浮かべてください。
 デキ的にイマイチかも・・・(〜_〜;
102狩猟者である前に……:02/07/02 00:43 ID:FUuDm5xV
『狩りたいのでしょう?』

 俺を呼ぶ、知らない女の声が聞こえる。
 いつから聞こえていただろうか。
 たった今初めて聞こえたのかも知れないし、この島に入った瞬間から響いていた声かも知れない。
 その声は、俺の心に囁きかける。

『狩猟者として、人間を自由に狩りたいのでしょう?』

 違う! 俺は……狩猟者である前に、人間だ!
 もうあんなみじめな思いはしない!
 もう俺は、鬼の心を制御できている!!

『私につけば、あなたは狩猟者として自由に狩りを行えるわ』

 柳川は気付いていただろうか。

 その声は、己ではなく、己の中の封印したはずの鬼へ、と。向けられていたということを。
103狩猟者である前に……:02/07/02 00:45 ID:FUuDm5xV
「柳川さんも中へ!」
「構わん、こいつは俺が相手をする。君たちは室内で、救援がくるまでたえるんだ」
 柳川は、安全な室内へと高子を避難させ、自らは廊下へ躍り出た。
 室内には高子だけでなく、霧島佳乃、天沢郁未の二人の怪我人がいる。
 そして、廊下をゆっくりと歩いてくる連中は、ワニと人間をかけあわせた姿をした化け物、リザードマン。

「お前や俺と、あのワニの化け物ども。どちらの方がが化け物なのだろうな、耕一」
 高子が室内に避難したのを確認し、ここにいない人物へと小さく語りかける。
 俺のような化け物が、ワニ人間を化け物呼ばわりするのも滑稽だ。
 そう、心の中で笑う。

「だがな、化け物ども」
 柳川は、ホテルの客室で手に入れたスーツの上着をゆっくりと脱ぎ捨て、その姿を見やる。
 その瞳は、狩猟者の瞳。
 しかし、それはいつかとは違う、まぎれも無く人の心を持った瞳。
「俺は、化け物である前に警官なんだ……」

 そして、その体はじわじわと巨大化し、『鬼』のそれとなり……。

「貴様等に、ここの娘たちを殺させる訳にはいかない!」
104狩猟者である前に……:02/07/02 00:46 ID:FUuDm5xV
 一閃、だった。
 先頭に立つリザードマンがその手に持った斧を構えるよりも早く、柳川が跳び、切り裂いた。
 着地と同時に、腕をふるう。2度、3度。
 たったそれだけで、リザードマンたちの命は途絶え、娘達の安全は、守られたはずだった。

 だが。

 柳川は、聞いてしまった。
 扉の隙間から聞こえる、さきほどの娘が息をのむ音を。
 そして、見てしまった。
 恐怖におびえる、高子の瞳を……。


『柳川祐也。あなたを仲間としてくれる人間なんて、存在しないのよ……』

 ユンナの声は、確実に心の奥へと侵入してきていた。
105名無しさんだよもん:02/07/02 00:50 ID:FUuDm5xV
【高子、鬼となった柳川を目撃】
【リザードマン、撃破】
レス間、2行空けてお願いします。
106名無しさんだよもん:02/07/03 00:38 ID:82VNgBje
こちらはメンテage。
107デジャ・ヴ:02/07/03 15:42 ID:9//Iiyoo

 昨晩の豪雨とは打って変わって、マナの頭上の太陽は、忌々しいまでに照り輝いていた。
 ジープ用に固められた地面は歩き難い程ではなかったが、彼女の息はすでにかなり上がっている。
 立て続けに起こった衝撃的な事件は、一夜明けた後も、マナの全身に深い疲労を残していた。

「ちょっ……楓ちゃん、もう少しゆっくり歩いて……」
「……」
 言われて初めて気付いたのか、瑠璃子とマナの遥か先を歩いていた楓は、ようやく足を止め、振りかえった。
 あの屋敷を出てから、楓は一言も口を利いていない。
 初めて出会った時は、どこかしら神秘的な、澄んだ水のような雰囲気を楓は纏っていたように思う。
 だがそれが今は、限界にまで張り詰めた絹糸のような、危うく儚い鋭さに代わっていた。
 始めの内はマナも、なんとか場を和ませようと、瑠璃子や楓に話し掛けていた。
 だが、一向に口を開かない楓と、何を考えているのかわからない瑠璃子を前に、疲労が蓄積するにつれて、そんな余裕は失われている。
 その結果、華奢な身体からは想像もつかない速さで、楓が先に先に進んでしまい、その後を二人が追うという形に落ち着いていた。

「楓ちゃん、そろそろ休憩しない?朝からずっと歩きっぱなしだし……」
「………。わかりました」
 何かを言いかけた楓は、思い止まるように口をつぐむと、小さな溜息を漏らした。

 2人は原始の羊歯の森にほど近い、備え付けのベンチに腰を下ろす。
 楓も一応瑠璃子とマナの近くに戻って来はしたものの、休むでもなく、周囲に目を光らせていた。
 マナは密かに溜息をついて、隣でぼんやりしている瑠璃子に話しかける。
「……瑠璃子ちゃん、今どのくらいまで来たのかな」
「さっき看板に、恐竜公園って書いてあったから、多分後半分くらいだよ」
「まだ半分も……」
 マナはうんざりと肩を落とし、空腹にくぅぅ、と鳴るお腹を押さえた。
「お腹減ったな……ホテルに食べ物があるといいけど」
「その前に、私達がモンスターの食べ物にならないように、気をつけなきゃね」
108デジャ・ヴ:02/07/03 15:43 ID:9//Iiyoo

 皮肉でもなんでもなく、ただ純粋にそんな事を言う瑠璃子に、マナは沈黙した。
 確かに、今まで一度も凶悪なモンスターに襲われなかったのは、奇跡に近い。
 途中、幾度か檻から抜け出しているモンスターを見かけたが、彼らは人間に興味を示さず、あっさりと立ち去っていた。
 だが、今後もそんな幸運が続くとは、到底マナには思えなかった。
「……恐竜公園?」
 ふと何かが引っ掛かるような表情で、楓はこの羊歯植物の森を眺める。
 見覚えがある……そんな予感を胸に、再び楓はふらふらと歩き始めた。
「あ、ちょっと楓ちゃん!」
「行ってみよう、マナちゃん」
 大して休息も取れず、二人は慌ただしく楓の後を追う。

 原始の森……そう、恐竜公園の名の通り、ここは太古の恐竜時代に合わせた場所なのだ。
 時々羊歯の陰から、は虫類ともつかない何かの鼻息が聞こえてくる。
 だが、楓はそれらの一切を無視し、何かに憑り依かれたかのように、ふらふらと歩を進めていた。
「この辺り……見覚えがあります」
「え?」
 唐突にそんな事を呟いて、楓は羊歯植物の森に入っていく。
「あ……ちょ、ちょっと! 中に何がいるかわからないのに!」
「行ってみよう」
 二の足を踏むマナを他所に、後からきた瑠璃子も、それが当然のように森の中に足を踏み入れる。
「うそ……ぅぅぅ……もう、やだっ!」
 半べそをかきながら、それでも一人残されるよりはマシだと思ったのか、マナは二人の後を追った。
109デジャ・ヴ:02/07/03 15:45 ID:9//Iiyoo

 先を歩く瑠璃子にしがみつくようにして、マナは気味悪そうに森の中を見回す。
 幸いにして……マナはそう思った……出くわすのは小物ばかりで、恐ろしい恐竜が現れることはなかった。
 そうはいっても、平然とした顔で楓の後を追う瑠璃子は、マナの目にはとても頼りになるように見えた。

 ……そして実際、瑠璃子は大型の恐竜を退けるように、電波の障壁を張り巡らせていたのだ。

 森を抜け、小高い丘にたどり着いた二人を待っていたのは、ぼんやりと佇む楓の姿だった。
「ちょっと楓ちゃん、一人でこんな所に来るなんて、どういうつもり……」
 楓に詰め寄ろうとしたマナは、そこではっと息を呑む。
「……ええ」
 何か……大切な何かを思い出した表情で、楓は穏やかに微笑んでいた。
「ようやくわかりました。この既視感の正体が……」

 初めて見せた、楓の微笑。
 だが、その表情に、マナはぞくっと背筋に震えが走った。
 その正体がなにかはわからない……だが、あきらかに別の……ヒトではない、何かの笑み。

 楓は首を巡らせると、小高い丘の上から、草を食む草食恐竜たちの向こうに聳える、岩山を見つめた。
「そうなんですね、耕一さん……ここが、そうなんですね」
「へ…?」
 ぽつりと呟かれた言葉に目を向けたマナは、はっと息を呑む。
 笑みを浮かべ、その岩山を凝視する楓の目から、幾筋もの涙が零れ落ちていた。
110長瀬なんだよもん:02/07/03 15:47 ID:9//Iiyoo
【マナ、瑠璃子、楓、恐竜公園の前に到着】
【楓、耕一が死んだ場所を発見】

時間が……無いです。
今見返したら、あちこち変ですね。すいません。
それでは、誤字脱字修正ありましたら、指摘よろ。
111名無しさんだよもん:02/07/03 20:29 ID:nZJRbdoY
一応メンテ。
112見据えるべきは、現実:02/07/04 01:33 ID:8qrL8hHf
「なぁ川澄さん。本当にこっちから声が聞こえたのか?」
「……本当」
「先程からうるさいぞマイ同志よ。そもそも世界征服を目指す者が、この程度で弱音を…」
「わかったわかった、だから大志も黙ってくれ」

 三人の人影が、坂になった林の中を歩いている。
 黙々と進む先頭は川澄舞。続いて九品仏大志と千堂和樹。
 先頭を歩く舞とは対照的に、後ろを歩く二人、特に和樹はうるさかった。

「くそ、大志じゃなくて倉田さんに来てもらえばよかったぜ」
「なんとマイ同志よ、貴様はか弱き女性にこの悪路を歩かせる気か?」
「冗談だよ、冗談。……ま、こういう朝の散歩も、何かのネタになるならいいけどな」

 軽口でも叩いていないと、もう帰ってはこない友人への思いを、拭い切れないから。
 それがわかっていたから、大志も、舞も、和樹の態度に何も言わなかった。普段通りに接した。
 しかし、そうだとしても、和樹は後に、この会話を後悔することとなる。
113見据えるべきは、現実:02/07/04 01:34 ID:8qrL8hHf
 時を少し戻して。

 九品仏大志、千堂和樹、高瀬瑞樹、大庭詠美、川澄舞、倉田佐祐理、牧村南。
 一夜を過ごしたトンネルと、猪名川由宇の墓に別れを告げて、ホテルへと歩き出した。
 徒歩でなくジープの方が安全だったのであろうが、七人という人数と、残念ながらエンジンの故障を直す技術もなかったため、徒歩となった。
 そして、どのくらい歩いただろうか。
 とある林の横に差し掛かったとき、それまで無言だった川澄舞が、口を開く。

「……子供が、泣いてる」
「まいの仲間が……泣いてる」

 そのときは、他のメンバーには子供の泣き声なぞは聞こえはしなかった。
 そして、『まいの仲間』というのも意味はよくわからなかった。心の力で生み出された存在なぞ、知るよしもないのだから。
 が、この島の状況を考えると、子供が泣いているとなれば万が一のことを考えて確認しないわけにもいかない。 
 これ以上、人の死は見たくない。
 誰も口にはださなかったが、それが共通の見解だったから。

 結局、その行き先は悪路な上に、何があるか分からないという理由もあり、川澄舞には男二人が付き添う形となった。
 女性陣は坂の下で、何かあればすぐに逃げられるように待機しているハズである。

 そして、現在。
114見据えるべきは、現実:02/07/04 01:36 ID:8qrL8hHf
「川澄さん、もしかして行き先はあそこか?」
「……あそこにいるのを感じる……」

 舞が頷き、ペースをあげて駆ける。
 先の調子で坂を昇ったそこには、木々の間から差し込む朝日の筋の中、1つの大きな大木があった。
 これが日常生活の一部であれば、それは素晴らしく神々しい景色。

「ったく、これがこんなどうかしちまったテーマパークじゃなかったら、いいデッサンが描け……」
「黙れ! マイ同志!!」

 景色に見とれていた和樹は、大志の怒りの理由が分かっていなかった。
 そして自分を突然怒鳴る大志に怒りを感じ、言い返そうと口を開いたそのとき、しかし和樹はその行為を後悔した。
 大志の怒りの理由を、知った。
 ネタだ、デッサンだ、と、結局自分がこの現実を見据えていなかったことを、思い知らされた。

 舞が駆け寄る、そこにいたのは。
 泣きじゃくる1人の子供と。

 片腕を無くし、体中が血に塗られて。

 そして今、命の火が消えようとしている、1人の少女だった。


「…真希が…死んじゃ…よぉ………美凪…返事…してよ……美凪………真…希が……」


 静かな朝に、見知らぬ子供の嗚咽だけが響き渡っていた。
115名無しさんだよもん:02/07/04 01:37 ID:8qrL8hHf
【舞&大志&和樹、みちる&真希を発見】
【真希、すでに虫の息】
【高瀬瑞樹、大庭詠美、倉田佐祐理、牧村南の4人は林の手前で待機中】
レス間は2行空きで御願いします。
みちる=美凪の件ですが、魂の同化でみちるの命をつなげるのは賛成ですが、人格まで残るのはどうかとも思ったので、最後のセリフです。
でも一応、判断は後の執筆者様にゆだねるつもりです。
116名無しさんだよもん:02/07/04 02:19 ID:8qrL8hHf
修正。
 
瑞樹→瑞希

です。ごめんなさい(涙
117不可思議な知性:02/07/04 18:40 ID:dYDLEtq+
「相沢! 僕の渡した銃を見せてみろ!」
 油断無く周囲を見渡しながら、首だけを相沢に向けて叫ぶ。
「銃? これのことか?」
 頭ごなしの命令に腹を立てたのかであろう。ムスッ、とした表情をみせながらも、
 相沢は懐に仕舞っていた銃――グロッグ17を取り出し、僕にそれを見せる。
 ――銃を持っている、という事は本物の相沢か……。

「よし、そのまま辺りを見張るんだ。この辺りに、化物が隠れている」
「バケモノ……って、なんも見えないじゃねえか。お前らよ、なんか見間違えたんじゃないのか?」
 こいつ……事情も知らないで、勝手なことばかり言ってくれるじゃないか。

「いいから、僕の反対側に回って銃を構えろ!」

 思わず、声を張り上げてしまう。
 いけない。本来ならこんなときだからこそ、冷静に物事を考えなければいけないのに。
「説明は後でする。頼む……」
 こんな奴に頼み込むのは嫌だったが、この際仕方ない。

「……わかったよ」
 幾分か不満が残っているようではあったのだが、それでも相沢は僕の背面に回って、
 銃を茂みに向ける。
 
 そのまま黙り込む三人――視線はバラバラだが、その額には汗が滲み出る。

『ほぅ、無闇に動かず一ヶ所に固まるとは、人間にしては中々賢い判断だな……』
 突如、僕らの耳に聞こえてきたのは、あの忌々しい狸の声。
118不可思議な知性:02/07/04 19:04 ID:fO7mORIP
「当然だ、僕達は君等のような畜生とは違う。理性に基づいて、冷静な判断ができるからね」
 ――無論、これは挑発。
 さあ、ムキになってかかって来い、鉛の弾を浴びせてやる。
『フン……いいだろう、貴様の煽りに乗ってやる』
 
 そう言いながら、姿を現す狸。
「出て来たな!」
 姿を確認した僕、その言葉にとっさに反応した北川が、
 それぞれお互いの得物を狸に向け、撃つ。
 
 ズダダンッ! パラララララララッ!
 
 二丁の銃からから放たれた弾丸が、狸を襲う。
 だがこちらの動きを予想していたのか、すぐさま身体を木の幹に隠し、狸は再び姿を消す。

「くそっ! 外した!」
「落ち着け、どこに隠れているか解かっただけでも大収穫だ。次は蜂の巣にしてやる」
 チチャンスを逃し、怒りの声を上げる北川に、
 僕は絶対の自信を持って、そう言い切る。
 
(そうさ、化ける事しか出来ない――そしてその手段もこの状況では何の意味も成さない。
 これであの狸にできる事は、せいぜい慌てふためいて逃げ回る事だけさ)
 そう考え、己の勝利を確信したその時。

 ガサッ! ガサガサッ!

 真後ろに一つ、物の動く気配。
 それに気付いたのも、三人の中では僕一人。
「ちっ、もう一匹の方か!」
 ――油断した!近くに居る事に気が付かなかったなんて!
119不可思議な知性:02/07/04 19:07 ID:fO7mORIP
 そうして茂みの中から現れたのは久瀬の予想通り、もう一体の狸。ただ、
「な……なんで狸が?」
 二足歩行で文明の利器――拳銃を持っている、奇妙な狸だった。

『殺す! 人間はすべて、殺す!』
 
 その狸は憎しみの表情でこちらを睨み、銃口を向ける。
 だが、二人にその事を伝えている時間は無い。

 ――許せよ、二人とも!
 一応、心の中で謝罪の言葉を述べた後、北川の頭を押さえつけ、
 最初の狸のいた方を見ていた相沢の足を払う。

「うわっ!」
「にょわ!」
 頭を押さえつけた方に軽い違和感を感じたが、当然無視。
「久瀬! てめぇなにを……うわあっ!」
 僕に対して文句を言おうとしていた相沢の頭を銃弾が横切り、地面に跳ね返る。
「いちいち喚くな! 走れ!」
 状況を飲み込めず混乱する二人を無理やり立たせ、久瀬達は一気にその場を離れた。

『逃すか!』
 声のした方に視線を移すと、そこにいたのは最初の狸。
 しかもどこから持ち出してきたのか、大型ガトリングガンをこちらに向けている。
「おい、そりゃあ反則だろ!」
 あまりの非常識ぶりに、思わず叫んでしまう。
 
 ――さあさあお立会い! 世界でたった二匹、銃を撃つ狸! 的はそこのお客さんです!
120不可思議な知性:02/07/04 19:09 ID:9/+0+azx
「しゃ、洒落になってないぞ!」
 悲鳴をあげながら、今度は久瀬が木に身体を滑り込ませる。
 
 ズダダダダダダダダッ!
 一瞬遅れて、先程久瀬のいた場所をは銃弾の雨を浴び、土を飛び散らせる。

「な、何故だ? 何故狸が銃を扱える?」
 考えれば考えるほどおかしい。そもそも狸が銃を扱えるなど有り得ない。
 だが、今の久瀬にはその理由を考えている暇はなく、
『さあ、追い詰めたぞ人間……』
 幹の向こう側では、勝ち誇った声でこちらを見据えている狸。

(さて……どうしたらいいもか……)
 この狸共と決着が付くのは、まだ先のようだ。
121へタレ書き手だよもん:02/07/04 19:12 ID:9/+0+azx
【久瀬秀一 相沢祐一 北川潤 戦闘中】
*久瀬が木の幹に姿を隠したときの祐一、北川の行動は次の書き手にお任せです。

レス間は二行空けけでRTO氏お願いします
122名無しさんだよもん:02/07/06 02:00 ID:fYBQgxTk
123名無しさんだよもん:02/07/06 11:59 ID:1KBuaK2C
124名無しさんだよもん:02/07/06 14:01 ID:dw3Kxqpt
125名無しさんだよもん:02/07/06 20:57 ID:uksp4+8i
めんーて
126額縁の中の暇な彼女:02/07/07 04:00 ID:p8gd8oQo
 少女は、とても暇な時間をすごしていた。
 その部屋は、窓も無く、自由に出入り出来る扉も無く、もちろんテレビもラジオも無く。
 あるものと言えば、壁に飾られた、一枚の、絵。
 そう、その少女はその『絵』の中にいた。
 そして……。

「ふぃーりんぐは〜〜♪」

 歌っていた。

「……はぁ〜〜暇だわ〜〜〜」
「こんな額縁の中じゃ、歌でも歌うしか暇つぶしの方法ってないわよねぇ」

 そう、その少女は絵の中で、メイフィアという魔族の身替わりになっていた。
 身替わり、とは言っても、決して一方的に強制されたものではない。
 なぜならば……。

「あのメイフィアっていう人、ことが済んだらこのあたしをちゃんと生きた体に返してくれるって言ってたけど……」

 メイフィアが身体を借りる代わりに、その身体の傷を癒す。
 すると、事が全て済み少女との身替わりを解除したとき、その死ぬはずだった少女も死ぬ運命から逃れられる。
 そんな、契約が成り立っていた。

「でも今思うとな〜んか、信用ならないのよね〜」

 契約は成り立っていても、信頼関係はあまり成り立っていない様子ではあるのだが。
127額縁の中の暇な彼女:02/07/07 04:02 ID:p8gd8oQo
 一方その頃、その少女の身体を借りているメイフィアは……。

「行きますよ、志保ちゃん」
「おっけー!」
「っておぼぼおまえらあぁぁっぶッッッッ!!」

 人間の身体を借りている間は、その人間の性格までが大きく影響してくるのだろう。
 御堂を簀巻きにして、なんだか楽しそうに岩場を駈けていた。
128名無しさんだよもん:02/07/07 04:03 ID:p8gd8oQo
【志保(メイティア姿)、額縁の中で暇な時間をすごしている】
【メイフィア(志保姿)、千鶴&御堂と共に行動中】
レス間は2行空きでお願いします。
今までも志保=メイフィアの伏線と思われる描写が出ていたので、違和感が出てこないうちに正式にしてみました。
129名無しさんだよもん:02/07/07 04:15 ID:p8gd8oQo
修正。
【志保(メイティア姿)、額縁の中で暇な時間をすごしている】
じゃなくて、
【志保(メイフィア姿)、額縁の中で暇な時間をすごしている】
ですね。
130名無しさんだよもん:02/07/08 10:50 ID:BnfPFZV8
131名無しさんだよもん:02/07/08 23:42 ID:/PTiXbON
132名無しさんだよもん:02/07/08 23:50 ID:GHT0n2KZ
133名無しさんだよもん:02/07/09 00:45 ID:wgmaJdL8
がんがれめんて
134額縁の中の暇な彼女作者:02/07/09 02:24 ID:tCqNsd8S
ごめんなさい、NGです。
詳細は感想スレにて。
135名無しさんだよもん:02/07/09 16:01 ID:fUvHm4Dy
めんつゆ?
136〜その時に至るまで〜(1/4):02/07/09 19:48 ID:48L4WxT/

 話は前後する。


 島内に幾つか点在する休憩所、その一箇所でガツンガツンという異様な打撃音が鳴り響いていた。
 既に機能を停止した自動販売機に再び容赦無い攻撃が加えられ、辺りには飲料の缶が幾つか転がっている。
「あの… 岩切お姉ちゃん?」
 ベンチに座っていた初音が小さな声を出し、自販機を何度も蹴り付けていた岩切は足を止めて振り返った。
「もう、それくらいでいいんじゃないかな… わたし、水はちょっとぐらい我慢出来るよ」
 どこか元気の無い初音が静かに意見するが、岩切は溜め息を付いてから言葉を返した。
「あたしが飲むんだ」
「え?」
「だんだん気温が上がってきている。 日中になればかなりの猛暑になるだろう。 水分が足りなければ仙命樹が働かなくなる…どころか、死ぬ可能性すらある」
「死…」
 初音の顔がサッと蒼白になる。 岩切はまた自販機に顔を向けたので、その事には気付かなかった。
(昨夜から雨が続いていれば良かったものを… こういう時は火戦躰の御堂が羨ましいな)
 また自販機が衝撃に揺れる。
 ゴンと重い音が鳴って、『天然水』のラベルが貼られたペットボトルが落ちて来た。
 岩切はそれを最後に落ちている缶を拾い集め、自販機に付いていたビニール袋の中に押し込んだ。
137〜その時に至るまで〜(2/4):02/07/09 19:49 ID:48L4WxT/
「本当はこんな飲料水ではなく、完全な自然の水が良いんだが… まあ、無い物ねだりをしても仕方が無い」
 そこまで言って岩切は、初音の異変に気付いた。
「…初音?」
 初音は小刻みに震える自分の身体を抱き締めていた。
 歯はカチカチと音を立て、目からは止めど無く涙が溢れ出てきた。
「…嫌…だよ」
 発音も危うく、小さな口が言葉を紡ぐ。
「もう、人が死んじゃうなんて… 嫌だよぉ… 嫌だ…」
「…初音」
 岩切はビニール袋をその場に置いて、初音に歩み寄った。
 そして、その震える小さな身体を、優しく抱き締めてやった。
「…安心しろ、もう誰も死なない。 千鶴も、梓も、楓も、あたしも… そしてお前も、このあたしが死なせたりはしない」
 それは母親が子を諭すような優しさと、それでいて強固なる決意を含んだ言葉だった。 岩切が子供の相手をすることなど滅多に無いが、自分でもこんな物の言い方が出来るとは思っていなかった。
「……うん」
 少しの間を置いて、初音は短く答えた。
138〜その時に至るまで〜(3/4):02/07/09 19:51 ID:48L4WxT/
 二人がクラーケンから逃れて森に入ってから、それほど長い時間は経っていない。
 岩切はすぐに昨夜の休憩所に戻ると言い出し、腰の痛みを堪えて歩き出した。
 初音は別方向に逃げていった千鶴の身を案じてしきりに振り向いていたが、それでも岩切に肩を貸して共に足を進めた。
 歩きながら岩切は「あの女は誰だ」と千鶴のことを尋ね、その時に初音は自分に三人の姉がいること、柏木には鬼の血が流れていることを伝えた。
 それを受けて岩切もまた、自分が水戦試挑躰と呼ばれる強化兵であることを明かした。
 梓が人魚の住処に捕らわれていることを話したのは、その後だ。
「そんな… 梓お姉ちゃん…」
 初音は力無くしゃがみ込んで、泣き出した。
 耕一の死からまだ間も無いのに伝えられた姉の危機に、もはや初音が正気を保つのも限界に近かった。
 岩切はそんな初音に、梓を人魚の園から救出することを約束した。
「万難を排して、お前と姉を無事に再開させてやる。 必ずだ」
 それは初音を慰めるための言葉でもあったし、かつてお国の為に戦った防人としての精神によるものでもあった。
 その場では何とか初音も立ち直ったが、やはり精神的な動揺は大きく、少し情緒不安定になってしまったようだった。

 結局この時、初音は柏木耕一の名前を岩切に教えることはなかった。
139〜その時に至るまで〜(4/4):02/07/09 19:52 ID:48L4WxT/
「落ち着いたか?」
 岩切は頃合を見て、腕の中の初音に訊いた。 小さく、「うん」と答えが返ってくる。
 ゆっくりと、二人の身体が離れた。
「よし… なら、行くか。 歩けるな?」
「…うん」

 そして岩切と初音は休憩所を出た。 一歩外に出ると、むわっと熱い空気が二人に襲いかかる。
 目指す場所はホテルだ。 ひとまず初音を安全な場所に置いてから、岩切が梓の救出に行くという手筈である。 休憩所に置いてあったチラシの裏に大雑把な地図がプリントされているので、道順はそれで事足りると思われた。
 地図を頼りに森の中を行く二人は、一言も言葉を交わさなかった。
 初音の頭の中では姉達への様々な想いが渦巻いていた。 時節、「もしかしたら」という最悪の展開を予想してしまうが、そんなものはすぐに首を振って頭から追い払った。
 一方の岩切はそんな初音を横目に、定期的に飲料水を口にしていた。 強い日差しが身体を焼くこの天気は、水挑躰にとってかなり過酷である。 水の用意が無ければ野垂れ死んでいても不思議では無かった。
(全く、つくづく厄介な事態に巻き込まれたものだ)
 決して声には出さないが、岩切は頭の中でぼやいていた。 
 
 
 彼女達が得体の知れぬ咆哮を耳にするのは、今暫くしてからのことである。



【岩切は多量の飲料水を所持】
【初音は度重なるショックから情緒不安定に】

【「正義の味方」に続く】
140〜その時に至るまで〜:02/07/09 19:54 ID:48L4WxT/
編集する時は、138の前後だけ2行空けてお願いしますです。
141名無しさんだよもん:02/07/10 00:41 ID:wQDozV1R
142名無しさんだよもん:02/07/10 00:48 ID:t2CRCS1T
143魔女と契約(承前):02/07/10 18:17 ID:OREWmsSS

 それは、驚愕だった。
 死の淵に沈んでいくはずの魂は、何故か幾重にも巻き付いて来る呪縛によって、その行き先を遮られている。
 死を迎えてさえ、恐怖を感じるとは思わなかった。
「……!?」
 無い筈の背筋を、冷たい戦慄が駆け上っていく。
 必死で伸ばした手は、一瞬、僅かに指先が触れただけに終わった。
 どろどろとした紅い渦のようなものが、小さな友人を飲み込んでいく。
「――――――!!!」
 自分もその渦に飛び込もうとしたその瞬間、別の何かが身体を縛り付けた。

「待ちなさいってば……そんな事をしても、その子と一緒にはなれないわよ」

 赤黒い闇を足元に見据え、顔を上げたその先に、鈍く光る誰かがいた。
「………?」
「来なさい、あたしの所に」
 不思議と抗えない声は、蛾を引き寄せる明かりのようだった。
 声に導かれるままに、赤黒い闇に背を向ける。

「そう、いい子ね……いらっしゃい」
 どれほど歩いたのだろうか。気が付けば、鍵のかかった小さな部屋に立っていた。
 目の前にあるのは、古めかしい女性を描いた、一枚の絵だけ。
 だが、その絵の彼女がくすりと笑うと、いきなり額縁の中から顔を覗かせる。
「さて、契約の言葉を貰おうかしら。……あら大丈夫よ、取って食ったりはしないから」
 こちらが驚いているのがわかったのか、彼女はなだめるような口調になった。
「あなたの肉体を、ほんの少しの間借りたいだけ。その代わり、貴女の望みも叶えてあげるから」
144魔女と契約:02/07/10 18:23 ID:OREWmsSS


 肺の中いっぱいに溜め込んだ煙を、溜息と共に吐き出す。
 紫煙が僅かに渦を巻き、すぐさま風に飲まれて流れていった。
「……ふぅ」
 湿気をたっぷりと含んだじめじめした風が、腰まである彼女の髪をなびかせる。

 彼女は、無残なまでに破壊され、用を成さなくなったジープのボンネットに腰掛けていた。
 服のあちこちが破け、血の染みが滲んでいたが、不思議と怪我一つしていない。
 彼女は飽きもせず紫煙を燻らせると、何度目かの吐息を漏らした。

「……そう、困ったものね」

 短くなったタバコを投げ捨て、彼女は新しいタバコを口に咥える。
 その先端に人差し指を押し付けると、ぽっ、と小さな炎が点った。
 タバコに火が付いた事を確認してから、彼女は再び大きく煙を吸い込む。
 もし“生前”の彼女なら、タバコなど触りもしなかっただろう。
 だが、彼女はさも美味しそうにタバコの煙を吸い込むと、満足げに目を細めた。

 建物の中にもタバコの自販機はあったのだが、さすがに中で吸う気にはならなかった。
「さて、これからどうしましょうか」
 独り言のように呟いて、彼女はジープの横に転がる異形の死体に、ちらりと目をやる。
 猿の頭に虎の手足をした化物は、物言わぬ死骸となって横たわっていた。
「……わかってるわよ」
 ぼそり、と囁かれた言葉は、誰もいない虚空へ向けて紡がれる。
145魔女と契約:02/07/10 18:24 ID:OREWmsSS

「契約は契約……第一、うちのアレイが迷惑をかけたとなれば、事は顧客と契約主じゃ済まないものね」
 苦笑を浮かべながら、勢いをつけてぽんとジープから身体を起こした。
 そのままうーん、と伸びをし、いつもの癖で肩をこきこきと鳴らす。

「別にサボってたわけじゃないのよ。ただ、ちょっと肉体のダメージが大きかったから、直してただけ」
 自分の腕を伸ばし、身体を見下ろしてから、彼女は少しだけ愉しげな声を出した。
「でもまぁ、やっぱ若いっていいわね。身体に満ちる生命力が違うわ」
 うんうん、と頷いてから、ちょっと年より臭かったかな、と苦笑した。
「……はいはい、わかってるって。約束は守るわよ」
 今度は少し辟易した調子で呟いて、ポケットから取り出したリボンで、髪を後ろ手に束ねる。
 元の彼女の肉体がしていたツインテールにするには、残念ながらリボンが足りなかったのだ。

「まったく、アレイにも困ったものよね……ルミラを助ける為だなんて、あんな天使の口車に乗るんだから……」
 咥えタバコのまま、彼女は久しぶりの大地の感触を確かめるように、ゆっくりと歩を進める。
「けどま、私も人の事言えないか」
 ここのモンスターを生み出すノウハウを教えたのも、召喚の手助けをしたのも、すべて自分だ。
 鵺に殺された少女……アレイに殺されたこの彼女……そのどちらにも、間接的にとはいえ責任がある。

「アレイも……悪い娘じゃなかったのだけれど。少し、思い込みが激し過ぎたのね。
 だからあんな天使なんかに騙されて……可哀想な子」
 すっと、彼女は指先を自分の身体に触れさせる。
 先ほどまで、無残な痕を示していた身体……それは、アレイの剣によるものだった。
146魔女と契約:02/07/10 18:30 ID:OREWmsSS

 アレイは彼女の家族同然だった。
 ならば、その彼女の手にかかったこの少女には、借りがある事になる。

 セブンスターの箱をポケットに押し込むと、彼女は微苦笑を漏らす。
「言ったでしょう、契約は守るって。繭……って言ったその子の魂、必ずユンナの元から解放してあげるわ」

 魂を扱う稀代の魔女として……そして、この計画に荷担してしまった者の一人として。

「それに、折原浩平と長森瑞佳…広瀬真希だったかしら。彼女達も出来る限り助ける努力はする」
 この身体の本来の持ち主……今は、自分の身代わりとして、額縁の中にいる少女が、懇願するような思念を送ってきた。
 瑞々しいほどの若さを備えていた少女に、少しだけ羨望を感じる。
 けれど同時に、それが彼女の家族によって手折られたという事実が、胸の奥に僅かな罪悪感を覚えさせた。

「あなたの大切な人達は、できる限り助けてあげるから」
 それが偽善であると知りながらも、必要悪と割りきれる位の年月を、彼女は生きてきている。

「だけど、その為にもユンナを倒す必要があるのよ…ええ、そうよ」
 くす、と底意地の悪い笑みが、彼女の顔を彩る。
 それは、本来の肉体の持ち主なら、決して浮かべる事のないだろう微笑。

「おイタが過ぎる子には、お仕置きが必要だものね」

 七瀬留美の身体を借りた魔女、メイフィア・ピクチャーの表情だった。
147長瀬なんだよもん:02/07/10 18:34 ID:OREWmsSS
【メイフィア、七瀬の身体を借りて行動】

NG出させてしまった責任をとって、メイフィア書いてみましたです。
額縁〜の作者さん、すいませんでした。
それでは、誤字脱字修正ありましたら、指摘よろ。
148名無しさんだよもん:02/07/12 04:07 ID:gEEeGLRc
メンテ
149名無しさんだよもん:02/07/13 15:29 ID:8ixG2Wh7
もうだめんて
150必殺仕事びと:02/07/13 23:44 ID:7yHgyDmf
唐揚げ
151石原麗子の領域:02/07/14 01:51 ID:BaAcLVN3

 ばんっ

 という、水風船か何かが割れた時の様な低い破裂音がなった。

「────え?」

 目の前の光景に、江藤結花はひどく間の抜けた声をあげた。
 今まさに彼女に襲いかからんとしていたゾンビの首から上が、何時の間にか無くなっていたからである。
 結花が持つショットガンの銃口は確かにゾンビの頭部を狙ってはいたが、まだ引き金は引かれていなかった。

「なんで?」

 結花はぽかんと口を開けて、周囲に首を巡らす。
 動かなくなったのは結花の前にいたゾンビだけではなかい。
 彼女と石原麗子を包囲していた全てのゾンビ達が頭を失い、今や只の腐った肉の塊となっていた。
 完全に「死んだ」ゾンビ達はバタバタとその場に崩れ落ちていく。
 結花は訳が分からず、麗子の横顔を見つめた。

「……どうしちゃったんでしょう?」

 麗子はすぐには答えなかった。
 しかし何故か、突然の事態を前にしても、その顔には何の驚きも表れてはいなかった。

「……さあ、何が起こったのかしら?」

 麗子は「訳が分からない」という風に肩をすくめて見せると、銃身が変に捻じ曲がったショットガンを放り出して、左腕を負傷している桜井あさひの元へ駆け戻った。
 それを見た結花もハッと我に帰って、慌てて後を追った。
152石原麗子の領域:02/07/14 01:51 ID:BaAcLVN3
「ゾンビは!?」
「もういないわ」 
 
 あさひを看ていた柚木詩子の声に麗子は即答し、すぐさま服の裾を引き千切って即席の包帯にした。
 詩子もなんとか止血しようとしていたが、傷は大きく、素人の応急処置では事足りぬ状況だった。

(……マズいわね)
 
 何とか出血を止めたものの、流れ出てしまった血液の量はかなり多い。 既にあさひの意識は無く、このままでは生命が危うかった。
 流石の麗子も焦りを感じていたが、表情だけはあくまで冷静なままだった。

「どうなの、麗子さん?」
「麗子さん」

 結花と詩子が聞いてきた。 ここで良好だと答えれば当然ウソになる。
 だが麗子はふっと一息付いてから、二人の顔を見つめ返し、

「大丈夫、治るわ」

 どこか自身有り気な微笑を浮かべ、そう答えた。

「ちょっとだけ時間がかかるから、あなた達は辺りを見張っていて。 まだゾンビか何かがいるかも知れないわよ」
「わ、わかりましたっ」

 結花と詩子は言われた通りにその場から離れ、油断無く周囲を警戒した。
 そして麗子は、二人の目が自分達に向けられていないことを確認すると、じっとあさひの傷を見つめて──
 
 作業を開始した。
153石原麗子の領域:02/07/14 01:52 ID:BaAcLVN3
「ああっ!」

 それから三十分ほど経ったころ、固い床の上で寝かされていたあさひが跳ね起きた。
 先刻までうなされていたせいで、目を見開き、顔中に汗を流している。

「あら、目が覚めた?」
 すぐ側で看病していた麗子が、その顔を覗き込む。
 するとあさひはヒステリックに叫びながら麗子に寄りかかった。

「れ、麗子さん! 化け物、化け物が──!」
「ゾンビはみんな消えちゃったよ〜」
「え?」

 唐突に聞こえた声に振り向くと、結花と詩子が腰を下ろしていた。

「あさひちゃん、血がどばどば出てさあ! もうだめぽって思ったわよ〜」
「ぽって何よ、ぽって」
「え、血? え、え?」

 詩子の言葉にあさひは混乱して、キョロキョロと辺りを見回す。
 すぐに自分の左腕に巻かれた包帯に目を止めた。

「こ、これ… 麗子さんが?」
「これでも医師だから」
「あ、ありがとうございますっ!」
「礼なんていらないわよ。 医師が人の怪我を治すのは特別なことじゃないわ」

 麗子は軽い笑みを浮かべて、そう言った。
154石原麗子の領域:02/07/14 01:53 ID:BaAcLVN3
「……でも、ここは…?」

 あさひは今度は冷静に、ぐるりと周囲を見回した。
 そこは、あさひが気を失う前にいい森ではなかった。 ジープは小さいガレージの様な建物の中に駐車されており、下ろされたシャッターの外からは激しい雨音が聞こえてくる。

「近くに建物があったのよ。 あさひちゃんを雨の中で寝かせておく訳にはいかないからね」
 結花が説明した。
「小っさな倉庫みたいなのが3つ並んでて、いちばん右がガランドウだったからそこに止めてるわけ」
「倉庫と言うよりは物置かしらね」
 麗子が続ける。
「隣りには工具品とかが置いてあったから、たぶんこの島のスタッフはここで自動車の整備なんかをしてたんじゃないかしら」
「じゃ〜ん、しかもこんなのも見つけたわよ」
 詩子が勿体ぶって手にしたのは、手斧と、電動釘打ち機、それにマチェットと呼ばれる刃物だった。
「ショットガンはもう弾が少ないみたいだけど、もしもの時のために武器は手に入ったってわけ」

「……じゃあ、今晩はここで?」
 一通り現状の説明を受けたあさひは、ポツリと呟くように聞いた。
「そうね、夜に出歩くのも危険だもの。 朝を待って、もっと安全な場所に移動しましょう」
 麗子がそう言った途端、三人の少女達は一斉にその場に寝転んだ。

「ああ〜 疲れた〜〜」
 詩子が声を上げる。 その一言があさひと結花の心境を代弁していた。

 三人は疲労のせいもあって、それから間も無く寝息をたて始めた。
 しかし彼女達が眠りに落ちる直前に頭の中にあったのは、寝場所を手に入れた安堵ではなく、この島の何処かで同じ目に遭っているであろう友人や知人の無事だった。
155石原麗子の領域:02/07/14 01:54 ID:BaAcLVN3
「こんな状況だっていうのに、根を上げないのは結構なことね」
 
 麗子は一人だけ壁にもたれかかったまま、スヤスヤと眠る三人の顔を眺めた。
 彼女自身は睡眠をとらず、寝ずの番をしているつもりだった。

「いえ、現実感が沸いていないのかしら… まあ、どうでもいいことね」

 それよりも麗子には、あさひ達が眠りについて安心できることがあった。
 
(ゾンビを倒したことも、桜井さんの怪我を治したことも… 突っ込まれないで良かったわ)



【あさひの傷は完治】
【一同は倉庫(ガレージ代わり)で就寝】
【麗子は寝ずに見張りをする】
156名無しさんだよもん:02/07/14 01:55 ID:BaAcLVN3
各レス間は二行開けでお願いします。
157名無しさんだよもん:02/07/14 11:55 ID:BaAcLVN3
しまった、重要なの忘れてた。

【手斧・電動釘打ち機・マチェットを入手】

これも追加おながいします…(;´Д`)
158伝わりしもの、その名は:02/07/15 01:44 ID:lHcNXrHc
蒼白……いや、土気色と言うべきか。
弱々しく胸を上下させる広瀬に、みちるが必死ですがりつく。
「だれか……来た……? みちる……」
うっすらと目を開けて、広瀬はみちるに問うた。広瀬が意識を取り戻したことでみちるはにわかに活気付く。
「そう! そうだよ! ひと、人が来てくれたよ!」
「そう……」
背にした大木にもたれかかり、広瀬はわずかに身を起こす。
「……そこの人、悪いとは思うんだけど……」
振り絞るようにして、広瀬は言葉を紡いだ。
「この子……おねがいできるかしら……」
広瀬の手が、何かを探るように空をさまよう。二回ほど虚空を切り、ようやく、探し物であるみちるの頭に手を乗せた。
「みちるって、いうんだけど」


「あんた……目が……?」
「分かった。この少女は我輩たちが責任を持って引き受けよう」
和樹の発しかけた言葉を大志が遮る。大志が、ちらと和樹を睨みつける。しまった、と和樹は思った。
自分は、目の前の少女の残り少ない時間を無為に使わせるところだったのだ。和樹は、大志と少女に目で詫びた。
「ありがと……」
これで、七瀬に顔向けできるかしらね。広瀬はそう言うと、ふっと力無く笑った。
「やだよう……そんな事言わないでよ、真希ぃ……」
そこで、先ほどから広瀬の容態を見ていた舞が腰を上げた。


もう、無理。舞の表情が、全てを物語っていた。
159伝わりしもの、その名は:02/07/15 01:45 ID:lHcNXrHc
「みちる……これ」
あたしは、傷口を縛っていたリボンを外し、多分みちるが居るであろう場所に向かって差し出した。
それがあたしの手からとられるのを待って、あたしは言う。
「これ……持ってって。あたしが持ってくわけにはいかないし、さ」
「真希は!? ねえ一緒に来るんでしょ?」
満ちるの金切り声が、なんだか遠く聞こえる。耳にかすみがかかったような、そんなかんじ。
無理言わないでよね。言おうとしたけど、馬鹿馬鹿しくなってやめた。言う体力も残っていなかった。
「……そのリボンを、あたしと留美だと思って頂戴」
いいわよね、留美。
「……わかった……」
観念したのか、それとも美凪という人物になだめられたのか、みちるはそれを承諾した。
「そう……いい子」
あたしはゆっくりと目を閉じた。もともともう霞んで見えたものじゃなかったけど、要は気分の問題だ。
みちる頭をもう一度なでてやろうかと思ったけど、あいにく、もう腕が動かなかった。


いつからそんなに面倒見のいいお姉さんになったか、ですって? そうね……留美、あんたは……人に言えた立場だったかしらね……
160伝わりしもの、その名は:02/07/15 01:45 ID:lHcNXrHc
「ひっく……ひっく、真希ぃ……」
真希の首がことり、と音を立てて、それから二度と動かなくなってから、どれくらいの時間がたったろうか。
みちるは、まだ広瀬にすがりついたまま、声を上げて泣いている。
和樹達はどうすることもできずに、その様子を見つめていた。。
「泣くのはおよし、お嬢ちゃん」
ふいに降ってきた頭上からの声に、みちるは眼前の大木を見上げる。
絵本やアニメで良く見るような、やけにデフォルメされた顔が、いつのまにか大木に現れていた。
「お嬢ちゃんが泣いていては、君のお姉さんはいつまでたっても安心して眠れないよ」
お姉ちゃん。みちるは考える。

木のおじさんの言うお姉ちゃんとは、誰のことだろう?
でも、それは今更問うものでもない。自分のお姉ちゃん……お姉ちゃん達は……

右手のリボンが、にわかに輝き出した気がする。
「お嬢ちゃんはそのリボンに込められた、魂と意志を受け継いだのじゃ。
それを……また誰かに伝えなさい。おじょうちゃんや、お姉さん達が「死んで」しまわないように」
みちるは、リボンをじっと見つめた。このリボンに、留美と、真希が詰まっているのだろうか?
このリボンに、自分がしてあげられることは?

みちるは涙をふくと、ツインテールの片方をとめていた輪ゴムを外し、
代わりにそのリボンを器用に巻いた。
その様子を見て、大木はにっこりと笑う。
「それでいい」
それきり、大木は顔を表に出さなかった。
161伝わりしもの、その名は:02/07/15 01:47 ID:lHcNXrHc
数刻の後、真希の体は、顔だけ残して地面に埋葬されていた。
その顔を、先ほどとは明らかに違う表情で、みちるがじっと見下ろしている。
最期の土をかけるのは、この少女の役目だ。
和樹達は、その時が来るのをじっと待っていた。
やがて、みちるが呟いた。
「じゃあね、真希」
言うなり、握っていた土をその顔にかけた。真希の体は、優しき大木の根元へと埋まった。
「もう、いいの?」
舞が声をかけた。みちるは、力強く頷いた。

風にふかれて、黄色いリボンがふわりと揺れた。


【広瀬真希 死亡】
【みちる 七瀬と真希の「リボン」を受け継ぐ】
162RTO:02/07/15 01:48 ID:lHcNXrHc
以上、「伝わりしもの、その名は」でした……
各キャラの呼び方に自信がありません……他、突っ込みありましたらお願いします。
163ヤミ:02/07/15 18:37 ID:RPQvNG27
「ゆういち〜 朝だよ〜 朝ごはん食べて学校行くお〜」
 九割がた睡眠し、残り一割だけ起きている。 簡単に言うと寝惚けている名雪は、フラフラとホテルの廊下を歩いていた。
 目が線になっている彼女は、先刻までそこに、はるかや彩、真琴がいたことにさえ気付いていなかった。
 天井から下りてきた隔壁によって自分と彼女達とが分断されてしまったことも、もちろん知る由も無い。

 どこからともなく現れたスライム達は、そんな夢遊病者同然の名雪に向かった。
 彼等には特に、前後不覚な相手を狙ったという意識は無い。
 「腹が減れば喰う」本能にはそれだけしかなく、そこに名雪がいるから襲う。 それだけの事であった。
 そしてこの場には、スライムの捕食行動を阻害する何物も存在しない。
 獲物である名雪が逃げも隠れもしないので、あと数十秒もすればスライム達が彼女を喰べてしまう。
 この場に傍観者がいるとすれば、それは誰もが予想できる展開であった。

 赤い色をしたスライムの一匹が、ぶよぶよと床を這って名雪に近づく。
 名雪の方は「あ、イチゴジャムだお〜」と緊張感のかけらも無い寝言を洩らし、自分からスライムに歩み寄って行った。
 両者の間隔はみるみる縮まっていく。
 5メートル、3メートル、1メートル。
 お互いの身体が接触しようとした、その時──

「名雪さん! 大丈夫、名雪さん!」
 はるかの声と共に、隔壁が向こう側からドンドンと乱暴に叩かれた。
 名雪を狙っていたスライム達は、そこでぴたりと動きを止めた。
 別の場所で長瀬主任がやった様に、彼等は名雪ではなく、より大きな振動を起こす隔壁に気を向けたのだ。
 スライム達は名雪の隣りを通り過ぎ、ぞろぞろと隔壁の方へ向かって行った。
 
 一方の名雪はその場に突っ立ったまま、顔を真っ青にしていた。
 それは幸か不幸か、はるかの大声が彼女の意識を起こしてしまったのだ。

 はるかの悲鳴が聞こえたのは、すぐ後のことだった。
164ヤミ:02/07/15 18:37 ID:RPQvNG27
 苦しい。
 口も鼻も塞がれてしまって、呼吸が出来ない。
 痛い。
 全身にチリチリと弱火で炙られている様な痛みがある。
 気持ち悪い。
 どろどろしたゼリー状の物体が全身を覆い、その感覚が余りにも不快だ。

 ああ、死ぬ、このままでは死んでしまう。
 こんな筈じゃないのに、このホテルに来ればもう安全だと思っていたのに。
 なんでこんなところで、訳も分からないことに巻き込まれて死ななきゃいけないの。
 悔しい、悔しい。 皆で生きて帰れるって信じてたのに。
 知り合ったばかりのコが二人、怯えた目でこっちを見てる。
 助けようとはしてくれない。 助けようとしたら彼女達も同じ目に遭ってしまうだろう。
 でも、本当は助けてほしい。 誰にも手を差し伸べられずに死んでいくなんて、やっぱり悔しい。

 意識が薄れてきた。 もう駄目なんだ。
 悲しくて怖いけど、どろどろした中で動きにくいけど、それでも彼女達の方を見てやる。
 わたしを助けようとしないんだったら、あなた達だけでも、絶対に助かりなさいよ。

 真っ暗なところに落ちていくような感覚。 これが死ぬってことなんだ。

 冬弥の顔、もう一度だけ、見たかったなあ──
165ヤミ:02/07/15 18:38 ID:RPQvNG27
「あ、あ、あ」
 腰を抜かした真琴はその場に尻をついて、意味を持たぬ声を口を洩らしている。
 彩は隔壁にもたれてかろうじて立っていた。 その目からは止めど無く涙が溢れ、恐怖に震えるせいで歯がカチカチと音を立てていた。
 生き延びろというはるかの最期の意志も、恐慌状態の二人に届く筈は無かった。

 ずるりと、他のスライムが真琴と彩にも近付いて来る。 その動きは余りにスローリーだ。
 逃げようと思えば逃げられるのに、二人の身体は完全に硬直してしまい、その場から動けなかった。
 少しも動けぬように拘束された死刑囚が首切り役人の参上を待つ、二人の心境はそれにも近かった。

 しかし彩は目にしてしまった。
 スライムに取り込まれたはるかの躰が、徐々に、徐々に、人としての輪郭を失っていく様を。
 正視に堪えなかった。
 彩の生存本能が働いた。

「ああああああああああああああっ!!」
 彩は、普段の彼女を知る者なら想像出来ないほどのヒステリックな声で叫び、ばっと走り出した。
「あ、あ、待って!」
 真琴も突き動かされて、慌てて走る。
 スライム達はのろのろと二人を追いかけた。

 彩が向かった先は、彼女と知り合いの数名が宿泊する予定の部屋だった。 幸運なことに、そこに至る道には隔壁が下りていなかった。
 部屋の前まで来ると、持っていた鍵をドアに差し込んだ。 回そうとするが、焦り過ぎてなかなか上手くいかない。
(早く、早く──!)
 神にも祈る気持ちでいると、ガチャリ、と音が鳴った。 ドアが開く。
 彩も、追いついた真琴も、部屋の中に飛び込んだ。
166ヤミ:02/07/15 18:38 ID:RPQvNG27
 中にスライムはいなかった。
 室内の安全をざっと確認した彩は、急いで中から鍵を閉めて、チェーンも掛けた。
 何者もこの部屋に入れてはならない、そんなことを考えていた。

 彩の思惑通りに、スライム達の動きはドアの前で止まった。
 人の肉を解かして喰する彼等だが、ドアの材質はそうもいかない様だった。
 しかし諦めて引き下がるということはなかった。 スライム達は部屋の前に集まったまま、そこで動きを止めたのである。

 覗き穴から廊下の様子を見た真琴は、悲鳴をあげながら部屋の奥まで逃げた。
 これでは逃げ場が無い。
「なんなの、なんなのよぅ、あいつら…」
 涙を流しながらの言葉に答える者は誰もいない。
 彩はベッドの上で膝を抱え、何も見たくないという風にきつく目を閉じ、ひたすら祈り続けていた。

(助けて和樹さん助けて和樹さん助けて和樹さん助けて和樹さん助けて和樹さん────)

 
 同じ頃。
 千堂和樹は自らの手で猪名川由宇を殺めたという事実に苦悩していた。
 


【名雪、目を覚ます】
【彩と真琴は宿泊室(彩と他数名の部屋)に逃げ込む】

【河島はるか 死亡】
167ヤミ:02/07/15 18:40 ID:RPQvNG27
以上、「ヤミ」ですた。
164の前後は二行開け、165から166は一行開けでおながいします。
168T2(1/3):02/07/16 00:35 ID:yfeRAN8+
「長瀬主任、その前に質問をよろしいでしょうか?」
 
 場所はホテルの西練1階。
 自分が造ったメイドロボ2体と合流を果たし、いざ行かんと階段に足をかけた長瀬主任に、セリオがいつもの落ち着いた口調で質問の許可を求めた。
「ん、なんだね?」
 拒否する理由など何もなく、長瀬主任はくるりと振り向いた。 マルチと橘も何事かとセリオに目を向ける。
 そのセリオは長瀬、マルチ、橘らの顔を順に見回した後、最後にホテルのボーイの方を見た。
 ボーイ、否、殺害したボーイに化けたドッペルゲンガーは、微かに身構えた。
(この女、まさか気付いたのか?)

 その通りだった。

「そちらの方には人間とは別の生命反応が見られますが、主任のお知り合いでしょうか?」
 やはりいつもと変わらぬ口調で、セリオは長瀬にそう尋ねた。
 えっ、と皆の視線が一度セリオに集まり、次にボーイに向けられた。
 
 その時にはボーイは動いていた。 人のそれと変わらなかった左腕が流動的に形を変化させ、鉄の杭となって真っ直ぐに伸びた。
 標的は橘だった。 彼は自分が攻撃されようとしている事には気付いたが、並の人間の反射神経ではそれを避けることは出来なかった。
 だからセリオが代わり、橘の身体を突き飛ばした。
 
 異音。

 ボーイの左腕は、セリオの右腕を根本から断ち切った。 マルチが悲鳴混じりにセリオの名を叫ぶ。
 長瀬主任も彼らしくない怖い顔をして、「私のセリオに何をする!」と声を上げながらボーイに向かった。
 僅かな間を置いて、今度はボーイの左腕が変化した。
 先刻と同じように鉄杭を形作り、今度は外側に滑らかなカーブを描いて伸びた。 今度の狙いはマルチの顔面だった。

 それを止めたのは、またしてもセリオだった。
 彼女はボーイに体当たりし、そのまま力任せに押し倒した。 その拍子に狙いは大きく外れ、ボーイの右腕は天井に突き刺さった。
169T2(2/3):02/07/16 00:35 ID:yfeRAN8+
「セリオ!」
「セリオさん!」
 長瀬主任とマルチが叫ぶ。 床に倒れた橘も、まだ覚えていない少女の名を呼びかけた。

「皆さん、至急この場から離れて下さい」
 ボーイの上に圧し掛かったセリオが静かに、しかし強い口調で言う。
「しかし」
「柳川さんがお待ちしています。 お急ぎ下さい」
 珍しいことに、セリオは長瀬主任の言葉を遮って自分の判断を伝えた。
 「親」である長瀬主任には、それだけで充分だった。

「マルチ、橘くん、行こう」
 長瀬主任はそう言って、再び階段に足をかけた。
「で、でもっ」マルチが何か言おうとするが、
「セリオがそう言ってるんだから、仕方無い」
 今度は長瀬主任がマルチの言葉を遮り、彼はそのまま階段を駆け上がって行った。
 マルチはオロオロと足踏みをした後、「がんばって下さいっ」と微妙な言葉を残して階段に向かった。
 そして橘も後に続き──

 階段のすぐ手前で、一度振り返った。

「…セ、リオ」

 怯えるような悲しいような、そんな目をして、自分を守ったメイドロボの名を呼んだ。

「お急ぎ下さい」
 セリオはあくまで冷静に言葉を発する。
 橘は振り払うように前を向くと、そのまま階段を駆け上がって見えなくなった。
170T2(3/3):02/07/16 00:36 ID:yfeRAN8+
 その次の瞬間、セリオの下で足掻いていたボーイの左目部分から鋭い杭が飛び出した。
 セリオは咄嗟に顔を横に逸らす。
 だが完全には避けきれず、杭は彼女の右目からこめかみにかけてを抉った。
 人工の目と皮膚が剥がれ、痕からは赤い光を宿すカメラアイと鉄の頭蓋とが覗いた。

「邪魔をするなら──排除する」

 ボーイ… 否、ドッペルゲンガーは、セリオのそれにも似た事務的な口調で敵の排除を宣言した。

「私を排除するのは結構ですが、人間に対する攻撃行動はお控え下さい」

 セリオもやはり同じ口調で、ドッペルゲンガーの行動を否定した。



【西館1F  セリオVSドッペルゲンガー 交戦中】
【長瀬主任、マルチ、橘は2Fへ】
171名無しさんだよもん:02/07/16 00:38 ID:yfeRAN8+
T2、編集の時はレス間は一行開けでお願いします。
172残酷な現実:02/07/16 00:57 ID:jes5HLZU
「うーん……それじゃあこれはどうや?」
 と、今度は院内から失敬したトマトを二人に見せ、反応を調べる。
「えっと、何も変わんないよ……」
「私も、特にはなにも……」
 その匂いをかいでいたあゆちゃんと藍田さんは、言葉の通り全く平気なようであった。

 ――アカン、お手上げや。
 
 肩をすくめながら、持っていたトマトをゴミ箱に放り投げる。
 あの後、この二人と共に吸血鬼の弱点を調べる為、ありとあらゆる実験を智子は繰り返していた。
 
 それも十字架、ニンニクなどのメジャーな物から、墨、札などの少し方向性の違う物まで試したが、
 これといって効き目のありそうな物は見つからなかった。
「よし、二人ともちょっと休もうで! もうお昼やし、なんか口にせえへんと」
 気分転換のつもりで、そう言って手を叩く。

「うん、ボク喉が渇いちゃった……」
 何回目かの、渇きを訴えるその言葉。
(しかも、水を飲む間隔がだんだん短くなってきた気がするし、早くしないとホンマにヤバイで……)
 ペットボトルの水を大量に飲み干す二人を見て、智子の頭に暗雲が立ち込める。
(いや、矢島君たちが必ずワクチンを持って来てくれる筈や! しっかりせぃ! 保科智子!)
 迷いを振り切るように、勢いよく立ち上がりる。
「なんか食べるもんもってくるから、二人ともここに居るんやで」
 そうってドアノブに手を掛け、扉を空けたその時、
 ドン、という音と、目の前に転ぶ影。
「だ、だれや?」
 突然の事に驚きを隠せず、少々どもりながらも足元に視線を移す。
「が、がお……鼻ぶつけちゃった……」
 そこに倒れていたのは、先程あゆが病院を飛び出していくのを知らせてくれた、金髪の少女だった。
173残酷な現実:02/07/16 00:59 ID:jes5HLZU
「はい、フルハウス」 
 その言葉と共に、藍田さんは五枚のカードをテーブルに広げる。
「アカン、ウチはツーペアや。そっちの二人は?」
「ま、またわたしブタさん……」
「うぐぅ……ボクも」

 ゲームを始めてから三十分。一向にブタが続くあゆちゃんと神尾さんに、智子は笑いながら肩を叩く。
「二人とも弱すぎや、まだウチと藍田さんしか勝ってないで」
「うぐぅ……このゲームが難しすぎるんだよ……」
 涙目になりながら、力なく弁解するあゆ。

「難しいって……じゃあなんなら互角に戦えるんや?」
 正直何をやっても負ける気がしなかったが、一応聞いてみる。
「ううんと……じゃあババ抜き! ババ抜きならボクも観鈴さんも大丈夫だよ! そうだよね?」
「にはは、あゆちゃんがいいなら私もそれでいいよ」
 隣でトランプを切っていた神尾さんも、笑いながら賛成する。

 ――正直、助かった。

 カードを受け取りながら、そんな考えが胸の中をよぎる。
 進展のない吸血鬼対策、いつ戻ってくるかも解からない里村さんたち。
 そして一歩この病院から足を踏み出せば、そこらじゅうを闊歩しているモンスター。
 精神的にもかなり張り詰めていたし、適度な息抜きは必要だと思っていた。
 それに、本人は気付いていないかも知れないが、吸血鬼の下僕になりかけている二人を、
 そんな事はお構いなしに遊びに来てくれた神尾さんの優しさが、
 今はただ――有難かった。
174残酷な現実:02/07/16 01:00 ID:jes5HLZU
「なんや……このトランプババが二枚あるで! 神尾さんババを抜いておかなかったんか?」
「が、がお……ごめんなさい、抜くの忘れてた……」
 あっ、とした表情で慌てる神尾さん。
 その様子があまりにも可笑しくて、三人は笑ってしまう。
 だから、次の瞬間、
「観鈴!」
 その叫びが、束の間の夢を壊していくというのだけは、何故か確信していた。


「観鈴、こんな所でなにやってるんや」
 入ってきたのは、神尾さんの母親で、晴子さんとかいう人だ。
「い、今あゆちゃんたちと遊んでいて……」

「部屋に戻り」
 多くは言わせない、といった所であろう。静かに言い切る。
「早く戻るんや、観鈴」
「で、でも……」
 叱られた飼い犬のようになりながらも、何とか言い返そうとする神尾さん。 

「いいから! そんなバケモンに成りかけの奴らといたらアンタまで危険やろが!」 
 その言葉に、あの二人はビクッ! と肩を震わせる。

「ちょ、ちょい! そんな言い方は……」
 しかし、反論の言葉を最後まで言い切る前に、智子は目の前に銃口を突きつけられる。

「この銃、上月さんのバッグに入っていたんや、あの娘はあんな可愛い顔して、
 自分の為に銃を隠してたんや。ようやるで……」
 それは違う、と思ったが、今のこの人に何を言ってもムダだと思い、押し黙る。
175残酷な現実:02/07/16 01:01 ID:jes5HLZU
「あんたらもそうや。なんか人に隠れてコソコソやってるみたいやけど、
 観鈴を巻き込むのは許さへん。あんたらで勝手にやり」
 
 そう言って観鈴の手を引っ張りながら晴子さんはあゆちゃんと藍田さんを一瞥した後、
 扉を乱暴に閉め、部屋を出て行った。


「くそっ! 勝手なことばかり言ってるんやないで!」
 座っていた椅子を乱暴に蹴り上げ、毒づく。

「やっぱりボクは、バケモノなんだ……」
 その声を聞き、智子が振り向いた先には、一言も言葉を発せず黙りこくった瑞穂と、
 両目から大粒の涙を流す、あゆの姿。
「ううっ……いやだよぉ……いやだよぉ……吸血鬼になんて、なりたくないよ……」
 その光景は、あまりにも辛く、
「祐一君助けて……助けてよぉ……」
 観鈴いなくなっただけで、妙にがらんとなった部屋に、
 あゆの嗚咽だけが、いつまでも響いていた。


【吸血鬼対策 行き詰まる】
【神尾晴子 澪のバッグの武器を入手】
176へタレ書き手だよもん:02/07/16 01:02 ID:jes5HLZU
レス間はすべて二行空けで、RTO氏お願いします。
177存在論(1/3):02/07/18 00:14 ID:qA/qxG6+
 彼らは朝焼けを見ていた。
「結局、誰とも会わなかったな」
 冬弥の膝の上では猫の姿になったタマが丸くなって寝ている。
「…雨もあがりましたし、もう少ししたら出発しますか?」
 フランソワーズは正座をして冬弥の横にちょこんと座っている。
 冬弥とは逆隣に葵と彰が木にもたれかかる様に寝息を立てている。
 三交代で見張りをしていたのである、それでも流石に疲れたのか二人とも完全に熟睡をしてしまっている。
 もっとも、フランソワーズは『自動人形ですから』と言って一睡もしてないが。
 実際に、彼らがモンスターと遭遇しない理由は多数あった。
 まずは、たまたま彼らが強暴なモンスターがいる場所にいなかったこと、そしてもし近くにいてもタマとフランゾワーズの人では無い気配が相手を遠ざけてしまうからだ。
「由綺、理奈ちゃん美咲さんたちが心配だなぁ…」
 大きく溜息。
 雨と暗闇で先日は断念してしまったが、今日こそ見つけるという思いは彼と彰にはあった。
「彰、葵ちゃん起きて。朝だぞー?」
 そう言って、二人の体を揺らす。
「…ん?」
「朝練の時間…」
 二人ともまだ少し寝たり無いという様子でゆっくりと起きた。 
「おはよう、もう少ししたら出発するよ?」
 冬弥は微笑みつつ、朝の挨拶を交わした。
「今日もこのまま、怪物と遭遇しないでいきたいね」
 彰が微笑みを返した。
 
 その十分後、彼らはゆったりとしたペースで歩きはじめた。
178存在論(2/3):02/07/18 00:15 ID:qA/qxG6+
 だが、彰の願いもすぐに絶たれることになる。
 先に述べた、タマやフランソワーズと同じ気配のモノならどうなるか…?
 もし、彼女たちの気配がその危険を呼び寄せてしまっても、誰も彼女達を責めることができないであろう。

 さっきまで寝ていたタマがふと顔をあげる。
「…仲間が近くにいるニャ!」
 葵の腕から飛び降りると同じに、人型に変化して周囲に注意をくばる。
 それにつられて他の4人も周りを凝視する。
「こっちニャ!」
 タマが走り出した、ソレはすぐに見つかった。
 何故なら、相手もこちら向かっていたからだ。
「アレイ!」
 タマが走り出した。
 だが、帰ってきたのは再会の抱擁ではなく、憎悪だけの一撃だった。
「にゃぁ!?」
 タマが下段からの顔への突きを体を捻らせて避ける。
 そして、タマは態勢を崩して倒れる瞬間に地面を片腕で叩き大きくはね、木の枝にしがみついた。
「アレイ!にゃにすんにゃ!?」
 驚きより怒気をはらんだ声で彼女に問い掛ける、アレイはそれに答えない。
 そこに、葵とフランソワーズがやってきた、どうやら男性陣は普段走ることをしてないから、出遅れてしまったようだ。
「たまちゃん、彼女は味方ではないんですか!?」
 葵は本能からアレイに対して構えをとった。
「わからなにゃいにゃ!…アレイにゃにがあったんにゃ!!」
 だがタマの叫びをを聞かずに、アレイは能面のような顔で葵に剣を振り下ろした。

(2行開けてください)
179存在論(3/3):02/07/18 00:17 ID:qA/qxG6+
「あーははは!可笑しいわ、ダメ元で使った駒が大物を持ってくるとはね!」
 部屋の一室では、空からアレイを追跡させたガーゴイルから送られてくる映像をみて、ユンナは大笑いをした。
 その足元に戒められている、ルミラが転がっていた。
「アレ…イ…やめ……さ…」
 ルミラは声がでない、ユンナが一時的に戒めを強くし魔力を吸い取る量も増やしたのだ。
 これによって、本人は声すら出せない状態になったのだ。
「一時的に、貴方の戒めを強くして正解だったわ、横で騒がれたら喜劇すらみてられないもの」
 と言って、彼女はアレイの経歴を一通り読んだ。
「でも、淫売の貴族の蛆虫騎士もこうなったら、人間同様蛆以下ね」
 と経歴を読んだ感想を一言で言い捨てた。
 ユンナはルミラを見た、映像から顔を背けている。
「折角の、100年にあるから無いかの喜劇よ、遠慮せずに貴方もみなさいよ」
 ユンナがルミラの髪を引っ張り顔をむりやり映像に向けさせた。
「…あ…なた…だけ…は…ゆ……るさ…な…い…」
 かすれた声でルミラはユンナの耳にささやいた。
「…ゴミのクセに生意気いっているのんじゃないのよ!」
「っ!」
 ユンナはルミラの髪の毛をはなし、彼女の横っ腹に蹴りをいれた。
「…淫売の分際で…気分を害した…」
 ユンナは言うなり、部屋を出ていってしまった。
 ユンナが出ていくのを確認した、ルミラは声も無く泣いた。
180R1200:02/07/18 00:21 ID:qA/qxG6+
【死霊アレイ、たま達の判別をつかずに襲いかかる】
【ルミラ、未だに拘束中】
【ユンナ、未だに目的不明】

久々の投稿です。
結構長いこと放置されてたキャラを使いましたので、苦労しました。

後半は、NG覚悟でユンナの危ない思考を際立たせてみました。

つっこみなどよろです
181名無しさんだよもん:02/07/18 04:34 ID:6f9eIUrJ
age
182名無しさんだよもん:02/07/20 01:29 ID:a/jpzF/l
メンテナンス
183朝鮮製回想:02/07/20 04:20 ID:rvWZLtTy
 まったく、面白くない展開であった。
彼女のマスターであった天才科学者、超先生。
その彼が全身全霊をもって作り上げた人工島「葉鍵アイランド」
そこで繰り広げられるはずだった絶体絶命の生存競争、サバイバルゲーム。
だが、その血なまぐさい期待はあっさりと裏切られていた。
 予想外の要素、鬼の力を持つものたち、そして、仙命樹をその身に宿した強化兵。
さらには異世界からの勇者なる理不尽極まりない存在によって、このゲームは著しくバランスを崩されているのだ。
ど う す れ ば い い ん だ。
朝鮮製ならずとも、これは頭の痛い問題だった。
 そもそもあの女、ユンナもだらしが無い。
恩着せがましく技術供与を持ちかけてきた割に、出来上がったモンスターは役立たずと来ている!
自分の無能を棚に上げ、他人に責任転嫁を行う愚かさを省みることもせず、朝鮮製は虚空に思いをはせる。
 思い返せば、数ヶ月前のことだった。
超現実的な空想上のモンスターを科学的に再現した夢の楽園。
その実現を目指していた超先生は、計画の行き詰まりを激しく感じていた。
彼の卓越した科学的知識をもってしても、伝説にある怪物たちを完全再現する事は科学的に不可能であったからだ。
現代科学の限界、それを強く感じた超先生は、やがてオカルティックな方面、あやしげな魔術知識にその解決策を求めていった。
 そして、そんな彼のうわさをどこから聞きつけたのか、彼女がやってきたのだ。
天使、そんな非科学的な存在を、己が黒魔術に傾倒していたことも忘れて否定する超先生だったが、事実。
すなわち天使の翼を眼前に付きつけられてはその認識を大きく改めざるを得なかった。
(あるいは、そのときユンナの魔力によって心操られていたのかもしれなかった)
 そして、彼女がもたらした天界の秘儀と、彼女が連れてきた魔女(メイフィア)の魔道知識によって、彼の理想の楽園は実現した。
 そのときには、いくつかの交換条件をそのと気持ち出されたような気もするが、
超先生ならぬ朝鮮製のメモリーにはそれはまったく残っていなかった。
あの、天使(モンスター)も少しは役に立ってくれないと困るではないか、そう朝鮮製は身勝手にも思うのだった。
184名無しさんだよもん:02/07/20 04:22 ID:rvWZLtTy
【朝鮮製、超先生とユンナとの出会いを回想する】
とりあえず書いてみましたが、朝鮮製パートはこれまで一度も触れていなかったので
矛盾点等あったらアナザー送りにしてください。
185闇へ:02/07/20 14:01 ID:Ol1ru/aO
―この島で大切なこと…。
―それは希望を捨てないこと。先を勝手に想像して絶望しないこと。
―しかし、現実とはいつも希望通りにいくとは限らない。
―希望を持ち、その先の現実を知り、絶望する。
―それがやはり事実であり、この島なのだ。
―そして、彼らもまたその現実を知り、絶望する者達…。

「葵ちゃん!!」
 やっとのことで追いついた冬弥達だが、一番初めに目に入ったのは
 剣を振り下ろす鎧とその振り下ろす先にいる葵であった。
 今までモンスターが出てこなかった分、あまりにも突然のできごとに冬弥は思わず
 葵の名前を叫んでしまった。しかし、当の葵はその剣をかわし距離をとっている。
「大丈夫か、葵ちゃん!」
 冬弥と彰が駆け寄ってくる。
「ついにモンスターと会っちまったか。動く鎧ってやつか」
 冬弥が鎧を見ながらそう言った。
 確かに今の状況を見ればそれが妥当だろうが、実際はモンスターという
 言葉で収まるようなことではなかった。
「今の攻撃してきた人ですが…どうやらタマちゃんの味方らしいですよ」
 その葵の言葉に冬弥も彰も一瞬耳を疑った。
186闇へ:02/07/20 14:02 ID:Ol1ru/aO
「え…味方ってどういうこと?」
 彰が現状を把握できないといった表情で葵を見る。しかし、現状を把握できないのは
 彰だけではなくみんな同じことだった。
「さっき言った仲間がそこにいるやつのことニャ」
 タマはそう言うと、木の枝から飛び降り、彰の隣に来る。
「じゃあ、さっきの攻撃は?」
「わからないニャ。ただ、いつものアレイと雰囲気が違うニャ」
「なんか話し合おうにも、できないって感じだね」
 そう言って彰がアレイの方を見る。アレイはというと、ゆっくりと彰達の方へ近づいてくる。
 もちろん、いつでも剣を振り下ろせるように構えて。
「どうします?このままだとまた攻撃されそうですよ」
「でも、このままでいいわけないニャ」
「なあ、とりあえず逃げるってのはどうだろう。現状を把握できてないなら、
 逃げて様子を見るということで…」
 この冬弥の意見に誰もがうなづき、誰となく走り出した。

……《へぇ〜、葵ちゃんも誰か探してんだ。》
  《はい、冬弥さん達もですか?》
  《うん、そうなんだけど、一向に見つからなくてね。葵ちゃんは一体誰を探してんの?》
  《えーと、昔やっていた空手道場の先輩2人です。》
  《ふーん…もしかして、どっちか好きな人とか》
  《そういうわけじゃあ…2人とも女性です》
  《あ、そうなんだ。それで2人とも葵ちゃんと同じくらい強いの?》
  《い、いえ!2人とも私なんかよりもずっと強いですよ》
  《…ふーん、さらに強いのか》
  《冬弥話すのもいいけど、雨宿りのできる場所を早く探そう》
  《あ、そうだった。悪い悪い》
187闇へ:02/07/20 14:03 ID:Ol1ru/aO
 走り出してから1、2分たっただろうか。
 冬弥達は森を抜け、1つの建物が見えるところにいた。
「あの建物の中に逃げこもう。ただ走ってるだけでもだめだしな」
 冬弥は建物を指さして言い、後ろを確認する。アレイはぴったりと付いて来ていた。
「まさかこんな形で時間をくうとは…」
「そうだね、冬弥。早く探し出さないといけないのに」


―しかし、彼らはもう会うことはなかった。
―二度と生きて会うことはないのだ。
―それが相手の死か、自分の死か、または両者の死か、それはわからない。
―ただわかっているのは、この人探しの旅路の果てに存在する、
 絶望という場所に辿り着くことだけである。
―そして、彼らはそのことを知らない。
―知らないまま彼らは進んでいくだけである。
―希望の光あふれる幻想の地から、絶望の闇が広がる現実へ。
―光を失っても、闇を知るため絶望の淵を目指す。
―その先に何があるのか見ることができない闇の淵へ……
188闇へ:02/07/20 14:04 ID:Ol1ru/aO
「はぁはぁ…」
 冬弥達はようやく建物に着いた。
 走ってる途中ではあったが、彼らはこの建物についての看板を目にしていた。

『ここは島のはずれの高原に立つ屋敷…………』

「早く中に入りましょう。彼女もすぐそこまで来てますよ」
 葵は門を開きつつ言う。確かにアレイも冬弥達を見失うことなく、付いて来ているようだ。
「葵ちゃん…けっこう体力あるんだね」
 苦しいながらも、息を整えつつ彰が言った。
 そして、一行は葵を先頭に建物の中に入って行く。
 しかし、誰もが知る由もなかった。その先が闇であることを。


―松原葵


 まずはこの子が闇に足を踏み入れた。


【葵一行 屋敷に入る。アレイの現状把握できず】
【アレイ 葵達の後を追っている】
【ジープ ほったらかし】
189まかろー:02/07/20 14:05 ID:Ol1ru/aO
誤字脱字がありましたら、指摘お願いします。
190二つの望〜希と絶:02/07/20 20:53 ID:yYVJYY23
 全身を焼く炎、その対象となった綾香は声を上げる間もなく、地に倒れていた。
「ウッ!……ウウッ……」
 それを見ていた琴音は、その凄まじい光景と肉の焦げる匂いを感じ、口元を抑える。

「ふん……所詮は人間ね……」
 既に声も上がらなくなった綾香と、その様子を呆然と眺めている芹香を一瞥しながら、
 妖孤である『彼女』は、小さく笑う。
 
 脆弱な、人間を。
 そしてあの時、その人間に心を開きかけた自分を思い、笑う。
 あの天使に与えられた力は、それを消し去るのには
(さぁ……とっとと残りの三人も)

 そこで、彼女は気付いた。
 ここに潜んでいた人間は、全部で四人。
 一人はすぐ目の前、その後ろにもう一人は居る。
 足元で焦げているこの女を入れても、計三人。

(一人少ないじゃない! どこに消えたのよ!)
 出会った人間は全て殺すつもりだったから、逃がしたというのは癪に障る。
(どこに逃げたっていうのよ……あっち?)
 
 と、『彼女』が視線を背後に移すと、その視界に一直線飛び込んできた物は、
 轟音と、黒の塊。
191二つの望〜希と絶:02/07/20 20:53 ID:yYVJYY23

 次の瞬間、バン! と、何かを突き飛ばしたような音の後、妖孤は宙を舞い、
 頭から地面に叩きつけられる。
 激突先からほんの4、5メートル横にいた琴音は、
 いきなり近づいた危険に叫びを上げ、地面にへたり込む。

 急な出来事に混乱していた芹香の耳に聞こえてくるのは、誰かの声。

「二人共、乗ってください!」
 
 見れば、ジープに乗っているのは水瀬さんだ。
 車体の正面が少しへこんでいる所を見ると、あのモンスターを撥ねたのはあの人であろう。

 無茶をする人だ、と思いながらも助手席に身体を滑り込ませる。
 そして、もはや燃える部分も無くなった綾香の亡骸を見て、語りかける。

 ――必ず、生きると。

 自分達の代わりに、その身を焦がした妹に、そう誓いながら。
192二つの望〜希と絶:02/07/20 20:55 ID:yYVJYY23
「琴音さん! 早くジープに!」
 一方、秋子の方は何回も琴音を呼びかけるが、彼女は震えながら座り込んだままで、
 一向に動く気配がない。
 かといってこちらから琴音を助けい行けば、間違いなくジープが危険に晒される。 
 
 見捨てるか、助けるか。
 考えたのは、ほんの一瞬。
 導き出した結論を、秋子が実行に移そうとしたその時、
 
 琴音もまた、炎に包まれた。


「アアアアアアアアアアッ! アッ! アアアアッ!」

 顔が、腕が、腹が、背中が、足が熱い。
 まさに、地獄だった。

 全身を焼く痛みと炎に転げ回りながら、琴音の脳裏には一人の人物が浮かび上がる。

(藤田さん……!)

 孤独であった自分に話し掛け、希望を与えてくれた。
 こんな自分を一生懸命励まし、支えてくれた。

 そして、2週間程前。 

「琴音ちゃん、一緒に南の島に行って見ない?」
193二つの望〜希と絶:02/07/20 20:56 ID:yYVJYY23
 嬉しかった。
 待ちきれずにパンフレットを何度も読み返した。
 服だって色々と買い揃えた。

 そして最後の日に、彼にはっきり言う気だった。
 好きです、と。

(それなのに……それなのに!)
 
 どうして今、自分は燃えているんだろう。
 まだ自分は、彼に何も言っていないのに。

(いや……死にたく…ない、死にたく……ない、死にたく……な…い……)

 絶望の言葉を何度も述べながら、ゆっくりと琴音の意識に、闇が覆い被さった。
194二つの望〜希と絶:02/07/20 20:57 ID:yYVJYY23
「芹香さん、わたしは冷酷かしら」
 全速力でジープを走らせながら、独り言のようにも聞こえる声で、秋子は呟いた。

「……(ふるふる)」
 頭を振って、必死に否定する。
 少なくとも姫川さんが燃えるまで、水瀬さんは彼女を助けにいこうとしていた。
 そんな人間が、冷酷であるはずが無い。

 そう、信じたかった。


【来栖川綾香 死亡】
【姫川琴音 死亡】
【水瀬秋子 来栖川芹香 ジープで逃亡】


 レス間は全て2行あけで。
195異質の力:02/07/22 17:17 ID:hCNJ+2Mk
 どろりとした粘性の物体が、脳の裏側にこびり付いてくる。
 憎悪、絶望、憤怒……それらに似て、しかしあまりにも異質なもの。

「………っ!」
 吐き気を催すような異様な感覚に、千鶴は急に頭を押さえ、その場に膝をついた。
「ちょっ……千鶴さん!?」
 どさ、と地面に放り出された御堂が抗議の呻き声を上げるが、2人ともそれどころでは無い。
 急に頭を押さえてその場に座り込んだ千鶴に、志保は慌てて駆け寄った。
 うずくまった千鶴の肩に手を置いた志保は、びくりとして手を離す。
「震えてるの、千鶴さん?」
「……ぁ……いえ、この感じは……」
 ただでさえ色白の彼女の顔は、今や紙の様に白くなっていた。

「まさか……でも、これはあまりにも……」

 こめかみに手を当て、千鶴はのろのろと顔を上げた。
 その視線の先には、今しがた逃げてきた海がある。
「千鶴さんっ、千鶴さんてば!」
「……志保ちゃん、御堂さんを見ていてあげてください」
 千鶴は志保の声を無視すると、いきなりぱっとその場を駆け出した。
 鬼の力を解放しているのか、その後姿は瞬く間に見えなくなる。
「あっ……ち、千鶴さんてば……うー、どうしよう」
「お、おい志保……」
 足元から聞こえるくぐもった呻き声に、志保はようやく御堂の存在を思い出した。
「い、いい加減……服を解け。千鶴を追いかけるぞ…」
196異質の力:02/07/22 17:18 ID:hCNJ+2Mk
 蹴った足元の地面が、銃弾でも受けたかのように弾け飛ぶ。
 先ほどから感じる、精神感応……それは、鬼の間にのみ行使されうる能力である。
 胸騒ぎで身内の危機を感じ取ったり、繋ぎ合わされた心を通じて、相手と五感を共有したり……
 今感じているそれは、千鶴がよく知っている波動………のはずだった。

 ぶちっ……ぐじゅっ……

 湿ったゴムを引き千切るような音が、海から響いてくる。
 岩場を駆け上がり、ようやくその頂上にたどり着いた千鶴が見たものは、よく知った彼女の妹だった。

「……ぁ……ずさ」
「ああ、千鶴姉。そこにいたんだ」
 まるで何事もないかのような、そんな日常的な挨拶。
 梓は蒼ざめた千鶴にちょっと首を傾げて、手にしていた丸太ほどの触手を放り出す。
「無事みたいでよかったよ。ま、千鶴姉の事だから、しぶとく生きてるとは思ったけどさ。
 初音と楓は一緒じゃないんだ。じゃあ、まずそっちから探さないとね」
「梓っ!!」
 弾かれたように叫んだ千鶴に……梓は僅かに目を細め、静かに千鶴を見つめ返した。
 全身を、引き裂いたクラーケンの体液で汚して。

 梓の足元に長々と横たわるそれは、間違いなく先程のクラーケンだった。
 ただ、丸太ほどあった触手は半分近くが引き千切られ、胴体には巨大な穴が開いている。
 そこから掻き出された内臓が、そこら中に飛び散っていた。
 まだ僅かに息があるのか、クラーケンは全身をびくびくと痙攣させている。
「……あ、これね。邪魔だったから、ちょっと千切ってやったんだ。ハンペンみたいに、簡単に千切れたよ」
197異質の力:02/07/22 17:20 ID:hCNJ+2Mk
 屈託なく笑う梓の笑顔は、千鶴の知る彼女と少しも変わらず……だからこそ、その奥に潜む狂気を感じさせた。

 梓は確かに、四姉妹で最も腕力が強かった。だが、これはあまりにも度を越えている。
 全長数十メートルを超えるクラーケンを、素手で引き千切り、屠ってしまうなど。
 例え耕一であろうとも、これほどの力を発揮できないだろう。
「凄いだろ、千鶴姉。あたしは力を手に入れたんだ。だから、もう大丈夫だよ」
「……ちから」
 カラカラに乾いた唇が、何とか掠れた声を押し出す。
「そう、力だ。だから、あたしが千鶴姉も楓も初音も守ってやるよ。……耕一の二の舞にはさせない」
 耕一、と呟いた瞬間、梓の瞳が異様な光を湛え……だが、すぐさま屈託の無い笑顔に戻る。
「だから、さっさと行こう、千鶴姉。初音と楓を探しに」
「………」

 よいしょ、と岩場に足を掛け、梓は少しずつ千鶴のいる足場まで登ってきた。
 深海に住む大型のイカは、ほとんどが体内にアンモニアを持っている。
 その強烈なアンモニア臭が、ようやく千鶴の鼻を刺激し始めた。
「千鶴姉、どうした?」
「………ひっ!?」
 無造作に伸ばされた梓の手を、千鶴は反射的に弾いていた。
「わっと……なんだよ、千鶴姉。そんなに臭いかな?」
 ふんふん、と自分の体の臭いを嗅いで、梓は思いっきり顔をしかめる。
「確かに臭いかもね……んじゃ、ちょっと体を洗ってくるよ」
 ひょい、と真横を歩いていった梓が背を向け……千鶴はその場にへたり込む。
 千鶴は小刻みに震える自分の体を抱きしめ、自らの「血」が波打つのを感じていた。
198異質の力:02/07/22 17:21 ID:hCNJ+2Mk
 理屈ではない。
 柏木の中の“鬼”が、目の前にいるそれを、全く別の物だと判断したのだ。
 人でもなく、鬼でもない……何か。

「ちょいと待ちな、そこの乳のデカイ姐ちゃん」
「!?」
 少し斜めに構えたその声に、千鶴ははっと我に返り、振り返った。
「なに、おじさん。あたしはさっさと体を洗いたいんだけど」
「悪いが……ちょいと聞きたい事があるんだがね」
「御堂……さん」
 全身を血に染めながらも、御堂は何とか両足で立っていた。
 その後ろから志保がぱたぱたと千鶴の元に駆けて来る。

「お前の身体から、よーく知った臭いがぷんぷんしやがるんだよ……食いやがったな、仙命樹を」
「仙命樹? あたしが食べたのは、人魚の肉だよ」
「人魚?」
 意外そうな声をあげ、それでも人魚から何かを連想したのか、御堂の表情に苦笑が混じる。

「人魚……人魚ねぇ。で、お前、その人魚とやらはどうした」
「別に……海の中の島に行けば、いくらでもあるよ。人魚の肉」
 梓は淡々とそう言って肩を竦めると、すたすたと御堂の横を歩いていく。
 そして振り返ると、岩の上に座り込んでいる千鶴に声をかけた。
199異質の力:02/07/22 17:22 ID:hCNJ+2Mk
「千鶴姉、あたしは初音と楓を探しに行くから。ついて来ないんだったら、先にホテルで待っててよ」
「………あ、梓! ちょっと待ちなさい!」

 慌てて引き止めようとする千鶴を無視し、梓はすたすたと森の中に入っていく。
 それをじっと見詰め、千鶴は唇を強く噛み締めた。
「どうなってるの……耕一さんも……梓も……もう、わけがわからない………!」
「後を追わなくていいの、千鶴さん? 今の人って、千鶴さんの妹なんじゃないの?」
 志保の言葉に、千鶴の表情に躊躇いが浮かぶ。
「でも、まるで別人のようで……いったい、あの子に何が……?」
「仙命樹だ」
 どこか愉しげに御堂は呟くと、問い掛けるような千鶴の視線から目をそらし、梓が消えた森に目をやった。
「正直、犬飼がこの島に来てるって噂は、話半分にしか聞いてなかったんだが……どうやら当りみてぇだな」
「ちょっとぉ、おじさん一人で納得してないで、あたし達にも説明しなさいよ!」
 ぶーぶー、と膨れる志保に苦笑を向け、御堂は口を開いた。

「ああ、そうだな。ここまで関係しちまったら、知らないままではいられねぇよな。
 話してやるよ……仙命樹とは何か、何で俺が仙命樹を探してんのかをな」


【梓、人魚の園から脱出。初音と楓を探しに行く】
200名無しさんだよもん:02/07/22 23:09 ID:QDZJESH+
age
201イレギュラー(1/4):02/07/23 01:32 ID:ESgw/Lo1
 小さな水滴が地を打つその音が、シャッター越しに聞こえてくる。 低く、くぐもった音だ。
 時折、その中に混じる大きく重い音は、遠雷であった。
 倉庫の壁に背を預けて腰を下ろしている石原麗子は、外界から聞こえてくる自然の音に耳を傾けていた。
 
「変わらないわね」

 麗子は誰にも聞こえない様な小さな声で、呟いた。
 人間の営みは長い時間の中でその様子を劇的に変化させるが、自然というのは遥かな昔から変わらぬプロセスで、大地に雨を降らせる。
 なんとなく思い浮かんだそんな事柄を、麗子は口にしていた。

 ふう、と一息。

 固い床の上で横になっている三人の女性に目を向ける。
 江藤結花、柚木詩子、桜井あさひ。
 この島を観光するはずだった自動運転のジープで、一緒に乗ることになった少女達。
 今は安らかな寝息をたてている彼女達も、まさかこんな事態になるとは予想していなかったろう。
 本当ならばこの時間帯、彼女達は一日目の観光を終えてホテルの部屋に戻り、各々寝るなり夜更かしなりしているのであろう。

(大変でしょうに… よく寝てるわね)

 麗子を含めた四人は、ジープに乗る時に初めて顔を合わせた。
 若い三人はすぐに仲良くなった。
 真っ先に声をあげたのは詩子だった。 あさひは若くしてアニメ番組の声優をやっているらしく、視聴者の詩子は彼女の顔を雑誌等で前もって知っていたのだ。
 興奮する詩子に、あさひの名を知らない結花が「?」マークを出すと、凄い勢いで「カードマスターピーチ」とやらの説明を受けることになった。
 その様子を見て、あさひ自身も恥ずかしそうに、仕事中にあった色んな出来事について話し出した。
 
 盛り上がる彼女達の横で、ただ一人だけ疎外されたような気持ちになった麗子は、それでも苦笑を浮かべながら若い娘達を見守っていた。
202イレギュラー(2/4):02/07/23 01:32 ID:ESgw/Lo1
 倉庫の天井には仄かな灯りが点いている。
 麗子はそこを見上げながら、自分の過去を思い出そうとした。
 自分にも、あさひや詩子、結花の様な、明るく青春を過ごしたそういう時代があったのかと。

 いや。

 麗子はすぐに考えるのを止めた。
 昔のことなど、もう忘れてしまった。 頭を悩ませてまで思い出すのは億劫だし、自分には「少女」時代など、あったと言えるのか…

(どうでもいいことね)

 麗子は微かに笑みを浮かべた。 他人が見たら、どこか憂いを秘めた、そんな顔に見えるかも知れない。

「さてと」
 声をあげると、麗子はゆっくりと腰を上げて立ち上がった。
 すぐ側に置いてあったマチェットを右手に取っている。 ハンドガード付きのグリップをしっかりと握り、その感覚を確かめるように、軽く振るような動作をした。
 そして、少女達の寝顔を今一度だけ眺めてから、シャッター横にある戸口から出ようとした。

 だが、取っ手を握ったところで、小さく呼ぶ声がした。
「麗子さん」
 振り向くと、詩子が上半身を起こしていた。
 麗子は首を傾げて、すまなさそうに笑う。
「ごめんなさい、起こしちゃったかしら?」
「いえ… あの、どこに行くんですか?」
 詩子は目をこすりながら質問した。
「ちょっと外を見回りにね。 安心して、別に一人で逃げようって訳じゃないわ」
「雨、まだ降ってるみたいですけど…」
「これでもそうそう病気にならない身体なのよ。 医師が風邪をひいてたら笑い話でしょう?」
203イレギュラー(3/4):02/07/23 01:33 ID:ESgw/Lo1
「…………」
 詩子はまだ合点のいかない顔で麗子を見詰めていた。 それは麗子の言葉を信用していない、というのではなく、もっと別の不安要素があるような顔だった。
「大丈夫よ、私に任せなさい。 それより寝ておいた方が良いわよ、こんな状況だし次にゆっくり眠れるのはいつになるか分からないわ」
「…は〜い」
 詩子は気の無い返事をして、両腕を頭の下に置いて横になった。
 麗子はそれを見てクスリと笑うと、今度こそ戸口を開けて出ていった。


 それから詩子はぼんやりと、天井の灯りを見つめていた。

 目が覚めたのは偶然だった。 今日は少し眠りが浅かっただけのことである。
 だが起きてから、出て行こうとする麗子を見て、何か悪い予感を覚えたのは何故だろう。
 見張り番が自分達の枕元から離れることへの不安、だけではなかった。 もっと別の、奇妙で曖昧な感覚があった。
 それが何かは分からない。 気のせいかとも思う。

 気のせい、だろう。
 そう結論づけた。 

 だから詩子はそのことよりも、ジープに乗る前に別れた親友のことを考えた。

「茜、無事だよね…」
204イレギュラー(4/4):02/07/23 01:34 ID:ESgw/Lo1
 強くもないが弱くもない、そんな雨が麗子の全身を打った。
 倉庫内に水が入らないうちにさっさと戸口を閉めて、彼女は歩き出した。

 車庫代わりに使われていたという予想は当たっているようで、倉庫の周囲は自動車が幾つか入るほどの開けた場所になっている。
 さらに周りには森が広がっているが、麗子達がジープでここに来たように、車一台通れる程の道が舗装されていた。
 その道に沿って行けば、そのうちもっと大きな施設に行き着くだろう。 朝になればそうする予定だった。

 麗子は濡れた草と土を踏み締めて歩き、詩子達のいる倉庫から30メートル近く離れたところで足を止めた。
 そこには木が立っていた。 周りの森から少しだけ距離を置いた位置に、一本だけ立っていた。

 麗子は目線を上げて、それなりの高さがある木の、半ばから突き出ている枝を見上げた。
 
 そこに、人影があった。 何者かが枝に座って、麗子を見下ろしているのである。
 麗子が少し驚いたように目を見開いたのは、その人影の背中に、人間では有り得ないモノがあったからである。

 純白の、羽であった。

「やっぱり来たわね。 あなただけは気付くように、気配を垂れ流してたのよ」
 
 翼を持った人影… ユンナは、嬉しそうに言葉を吐いた。

「あなたは誰? こんな夜中に何の用かしら」

 対照的に、麗子はどこか呆れたような言い方をした。



【深夜  ユンナ、麗子に接触】
205名無しさんだよもん:02/07/23 01:36 ID:ESgw/Lo1
イレギュラー、投稿完了です。

201-202と203-204は二行開け、
202-203は行間無しでお願いしますた。
206名無しさんだよもん:02/07/23 21:31 ID:U+XuWjSx
一応保全
207休息:02/07/24 01:37 ID:CX/AxAdM
 静かに行き来を繰り返す波が、この島での出来事をほんの少しだけ、忘れさせてくれる。

「アジィ……」
 まぁ、どちらかというとこの異様なほどの暑さをどうにかして欲しいというのが、
 本音では有ったが。

「しっかし湖と来て今度は海か……どうにもなぁ……」
 足元に荷物を放りながら、欠伸をかみ殺す。
 先程までの喧騒が嘘のような静けさは睡眠欲を掻き立てられ、眠気を覚える。
 事実、目を閉じてしまえばあっさりと意識は闇に落ちそうだ。
 まぁ、そんな勇気ある――むしろ無謀といえる試みは絶対御免だが。

 しかし、その穏やかな時間も、近くの岩場に目を向けた時、終わりを告げる。

 ――あれは……。

 なんの気なしに目を向けたその先にあったものは――赤。
 ゴツゴツとした岩場には、あまりにも異彩を放つ色。
「血……だよな、ありゃあ……」
 誰かが倒れてるのかもしれないし、もしくは死んでいるのかもしれない。
 トラブルは面倒だが、生きている可能性を考えるとそうも言っていられない。

「千紗、どこかに隠れていろ!」
 S&Wを持ち、背後にいるであろう千紗に一声掛け、
 往人は岩場に向けて走りだした。
208休息:02/07/24 01:38 ID:CX/AxAdM
 さほど距離があるわけでもない、一気に問題の地点までたどり着く。
「うわっ、想像以上だな……」

 人間の身体ほどある大きさの岩に、血はべっとりと附着していた。
 これほどまでに血を出しているというのなら、当人は恐らく死んでいるであろう。
「おかしいのは、死体がないことなんだが……、
 一緒にいた奴が埋めたか、それとも……喰われたか?」

 言葉と同時に往人はS&Wを構え、岩場の一角に銃口を向ける。

「誰だ! 人間だったら出て来い!」

 矢のように鋭い目線と厳しい口調でそこを見据えながら、叫ぶ。
 しかし、それに対する返事も、動きも、この場には存在しない。
「ちっ……やっぱりバケモンか」
 
 舌打ちしながら岩場を見る。
 どうやら向こうもこちらを警戒しているのか、容易に飛び出してくることはない。
 そう、思っていた時。

『ぴこぴこ!』
「て……てめぇか!」

 目の前に現れたのは、自分の良く知っているバケモノだった。
209休息:02/07/24 01:38 ID:CX/AxAdM
『ぴこっ! ぴこ〜』
 相変わらずの奇妙な鳴き声と動きで、バケモノ――もといポテトは俺の足によじ登ってくる。

 ――ジャマだ……。

 そう感じた瞬間、俺はその首根っこを、ムズッと捕まえ、大きく振りかぶって、
「ドオオオオッ……って、流石にマズイか……」
 いつものノリなら遠慮なしに思いっきり投げ飛ばしてやるのだが、
 これでもし普段と違い戻ってこなかったら、あの二人に何を言われるか解かった物ではない。

「そういえばポテト、お前飼い主はどうした? 遂に捨てられたか?」
『ぴこ! ぴこぴこ!』
 往人の言葉に大きく身体を震わせ、頭を振るポテト。

「違う……のか? じゃあ逸れたとか?」
『ぴこっ!』
 今度は急に縦に頭を振る。どうやらその通りのようだ。
「って、俺普通に犬と会話してるし……ダメダメじゃん」
210休息:02/07/24 01:39 ID:CX/AxAdM
 だが、再び砂浜に戻ってきた往人は、更に愕然とする事実を知る事になる。

「返事が聞こえないと思ったら、寝てるし……」
 確かにそこにあったのは、砂浜に体を預け、ぐっすりと眠る千紗の姿。
「まったく、よく眠れる……」

 だが、不思議と怒る気にはなれない。

 ――なぜなら、感じてしまったから、
 
 淀みもなく、無垢で純粋な彼女の寝顔を見た時。
 そんな気持ちなど、一瞬で吹き飛んでしまった。


「ったく、ガキ相手に俺は何を考えてるんだか……」
 毒づきながら辺りを見回し、一応の安全を確かめる。

「三十分、だけだからな」
 だれとにも無くそう言うと、自分も千紗の隣に寝転び、
 そのまま身体を砂浜に投げ出す格好になる。

 ――こういうのも、悪くはないか……
 
 近くから聞こえてくる得体の知れない鳴き声も、頬に当たる夏の風も、
 今はただ、心地よかった。
211へタレ書き手だよもん:02/07/24 01:40 ID:CX/AxAdM
【国崎往人 塚本千紗 砂浜で休憩】
【ポテトと合流】
212名無しさんだよもん:02/07/24 20:44 ID:Ju530qGa
メンテ
213名無しさんだよもん:02/07/25 18:20 ID:04hT4Dq1
保守
214名無しさんだよもん:02/07/25 23:23 ID:0nMpiHIy
age
215名無しさんだよもん:02/07/28 01:47 ID:z7/1WxbV
216名無しさんだよもん:02/07/28 05:42 ID:/taF4AZO
217名無しさんだよもん:02/07/28 08:48 ID:xmeUMap5
218名無しさんだよもん:02/07/28 10:03 ID:w4AsWgvb
219名無しさんだよもん:02/07/28 10:30 ID:a13quuEH
220鬼の心は:02/07/28 17:08 ID:JHqKso1A
ブ〜〜〜〜〜ン、ブ〜〜〜〜ン
周波数の高そうな羽音が、高槻の背後から聞こえてくる。
「まだいやがるのかっ!」
振り向きざま、高槻は銃の引き金を引く。狙い過たぬその銃弾は、羽音の発生源を正確に捉えていた。
「いやあ、お見事」
その脇で、いつもの(高槻にとって)憎たらしい笑みを浮かべながら、少年がぱちぱち、と拍手を送る。
「おまえはぁぁぁぁっ! 何故傍観しているぅぅぅっ!」
「そんなことはないさ。10匹くらい潰したよ」
「ふん! ……しかしこれで全部か? あの馬鹿でかい蜂どもは」


開いたエレベーターの扉の向こうで高槻達を待ちうけたものは、巨大蜂の群れであった。
二人ともそろそろ怪異に慣れてきたのか、さしたる混乱にも陥らずにさっさと蜂を処理していく。
もっとも、高槻は本能的に発生する全身の鳥肌を押さえるのに必死だったのだが。

221鬼の心は:02/07/28 17:09 ID:JHqKso1A
「しかし、そうなると下に高子たちを残してきたのは失敗だったかな」
僅かに表情を曇らせて、少年がぼそりと口走る。
「連れて行こうとしたのに無理やり俺をエレベーターまで引っ張ってきたのは貴様だろう……」
ぶつぶつ言いながら、高槻は階段へと足を向ける。
「高槻、そっちは下り階段だよ」
「分かっている」
滅多に表情を崩すことのない少年だが、この時ばかりは目を丸くする。
「……どういう風の吹きまわしだい?」
「勘違いするな……俺が死にそうな思いで二人ともここまで連れて来てやったんだからな、
こんなところで死んでもらっちゃ割に合わんのだ」
貴様はとっとと天沢郁未を連れて来い。そう言って、高槻はすたすたと階段を降りていってしまった。
「へえ……」
高槻が見えなくなった後で、少年はそんな言葉を漏らす。
(あの高槻がね……)
ともあれ、ああ言われてしまった以上は早く郁未を連れて行かなければならない。次に彼を怒らせてしまったら、
ホテルに遅刻したときのようにうまくかわせる自信がないのだ。
少年は、ゆっくりと上り階段をあがっていった。


(医務室……か。ここを曲がって……む?)


恐らく医務室であろう扉から顔を出した高子と、ズボンをはいた怪物がにらみ合っているのを高槻は見た。
高子の顔は、恐怖に引きつっている。
丁度、自分は怪物の背後に回っている。高槻は、ゆっくりと怪物に銃口を向ける。引き金を、引いた。
222鬼の心は:02/07/28 17:09 ID:JHqKso1A
------かちんっ……


怪物がこちらに目を向ける。高槻は思わず叫んでいた。
「お……俺としたことがぁぁぁぁぁっ!!」
身悶えしながら弾倉の取替えに移る高槻。だがその隙を怪物が見逃すはずはなく……


怪物の注意は高子から逸れた。逃げるなら、今しかない。
いや、逃げないまでもさしあたってこの女の子は……
ベッドに寝かせてある少女------霧島佳乃------に駆け寄り、高子は声をかける。
「う……ん……」
どうやら気がついたようだ。だが安堵してもいられない。とにかく、ここから--------

ひやり

「ッ!!」
足先に冷たいものが触れ、高子は慌てて振り向いた。
そして、絶望する。
ベッドを、スライムが取り囲んでいた。
「あ……ああ……あ」
ベッドの上では、目を覚ました少女が、恐怖にうち震えていた。
何も、何も出来ない。じわじわと距離を詰めつつある形を持たぬ怪物を前に、二人は、あまりに無力だった。
「……た」
助けを呼ぼうとしても、声が出ない。ここまでか------高子は目を閉じた。
223鬼の心は(了):02/07/28 17:10 ID:JHqKso1A
ズシン! という振動が高子を包んだ。随分と派手な「死」だ------と高子は思った。
「おい」
頭上から男の声。聞き覚えがあり、そのうえでまた聞き覚えのない声。
ゆっくりと高子は目を開ける。鬼と化した柳川が、高子を見下ろしていた。
「ここモンスターには「核」がある。簡単にモンスターを倒したければ、そこを攻撃することだ。あの男に伝えておけ」
言い終わると、鬼は窓に向かって駆ける。
「あっ……ま、待ってください!」
高子の声に、鬼は足を止めた。
「あなたは……あなたは、柳川さんなんですか……?」


あなたは、柳川さんなんですか------?


「俺は鬼だ。今も、昔も……」
「鬼……」
柳川の言葉をうまく理解できない高子は、鬼、と言う言葉を反芻するにとどまった。そして……
「高子無事かああぁぁぁぁっ!!!」
一種能天気ともとれる高槻の声に一瞬だけ気を取られ、再び窓に目を向けたときには、鬼の姿はなくなっていた。


【高槻、1F医務室へ 少年は引き続き郁未の部屋へ】
【柳川、ホテルから離脱】
224みさきの絆(1):02/07/29 14:10 ID:0pgyq1YX

 出会ってからまだ十分と経っていないのに、もはや二人は10年来の親友のように打ち解けていた。
「そうなんだ、あなたもみさきって言うんだね」
「うん。でも、凄い偶然だよね。こんな島で出会った人が、同じ名前なんて」
 食べ物が無いので、やはり缶ジュースを手に、3人は長椅子に車座になって座っていた。
 日が昇り、暑くなってきたので、三人とも冷たいジュースである。
「それで、美咲さんはその、彰とはるかって人とはぐれちゃったんだ」
「ええ……無事でいるといいけど……」
「………」
 そんなみさきの膝の上で、座敷童が足をぶらぶらさせながらジュースを飲んでいる。
 それを遠巻きにしながら、弥生は複雑な表情を美咲に向けていた。
 由綺の居場所を真っ先に聞き、すぐさま否定されたばかりである。
 彼女によると、彰と別れてからトレントという樹の精霊に休ませてもらい、すぐここに来たらしい。
 一人だった彼女は、当然理奈や英二の消息も知らなかった。

「……それで、これからどうしましょうか」
 ジュースを飲み終わり、弥生は小さく溜息をついた。
 消息を絶った梓も気になるが、今彼女の頭の中にあるのは、由綺の無事だけだ。
 だが、彼女を探そうにも、この島では容易にはいかないだろう。
 弥生は心の中で、頼りない冬弥の顔を思い浮かべ、再びため息をつく。
(まぁ、彼も一応男だし、由綺さんを守るくらいの事はするでしょうけど……)
 そんな事を考え……ふと、弥生の脳裏に不吉な想像が浮かぶ。
 もし由綺が死んでいたら……自分は冬弥にどのような顔を向けるのだろうか?

 背筋に冷たいものを感じ、弥生は慌ててその想像を振り払った。
 そう、いくら彼が頼りなく思えても、由綺を守れないなんて事、ありえるはずがない。
225みさきの絆(2):02/07/29 14:12 ID:0pgyq1YX

「取り合えず、人がいて安全そうな場所に、向かうのがいいと思うんですけど」
 言いながら、美咲が差し出した地図を弥生は覗き込む。
「……えっと、美咲さん」
『はい?』
 みさきと美咲、両方が同時に返事をし、ぷっと苦笑した。
 弥生も困った顔で笑いながら、フォローをいれる。
「ご、ごめんなさい。同じ名前だから、つい……えっと、澤倉さん」
「はい」
 まだ僅かに笑いを残しながら、美咲は返事をした。
「あなたが七瀬さん達と別れたのは、どの辺りでしたか?」
「ええっと、少し前にこの川が見えたので、多分この“武器博物館”の少し先あたりだと思います」
 ついで、トレントと出会った場所にも言及する。
 トレントの事を聞いて、みさきと弥生は互いに顔を見合わせた。
「……それなら、その場所に行ってみるのもいいかもしれませんね」
「案外、誰か知ってる人と会えるかもしれないし」
 二人の賛成を受けて、美咲は小さく頷いた。
「わかりました。それじゃあ、取り合えずその場所に行ってみましょう」

 今までいた休憩所を離れ、歩く事30分あまり。
 ようやく、美咲は見慣れた森の中に足を踏み入れていた。
「そろそろ……だと思います」
 美咲の言葉に、みさきの手を引いていた弥生は周囲を見回す。
 樹齢数百年はあろうかという、大木が幾つもその巨体を連ねていた。
 この森もまた、人工の産物なのだろうか。
 それとも、テーマパークが出来る以前から、この島に存在していたのだろうか。
226みさきの絆(3):02/07/29 14:16 ID:0pgyq1YX

「………あ」
 今まで一言もしゃべらなかったみさきが、小さく声を出した。
「どうしました、みさきさん」
「えっと、その……昨日からジュースを結構飲んだから……」
 もじもじしていたみさきは、恥ずかしそうにそう呟く。
 事情を察した弥生は、一瞬硬直した。
「澤倉さん、この辺りに……」
「……ごめんなさい、トイレは無いみたいです」
「………」

 そうして、思わず二人ともみさきをじっと見詰める。

 もし彼女が盲目でないのなら、樹の影でもすればいいのだろう。
 だが、目が見えないみさきを放置して、万一何かに襲われでもしたら……
「……澤倉さん、少しだけここで待っていて下さい」
「え。は、はい」
 弥生に言われ、美咲は慌てて頷いた。
 そうして、弥生はみさきの手を引いて、大きそうな大木の裏に歩いていく。
 美咲はしばしそれを見送ってから、何となく足元の座敷童と見詰め合った。
「……弥生さん、どうするつもりなんだろ……まさか……うーん」
 考えれば考えるほど怖い想像になりそうだったので、美咲は思考を取りやめた。
 と、いきなり座敷童が、ぱっと走り出す。
「あ……ちょっと!」
 慌てて追いかけたその先には……美咲の見覚えのある巨木が、聳えていた。
 誰もいない静かなその樹の風景には、しかし何時の間にか、不吉な墓ができていた。
227みさきの絆(4):02/07/29 14:17 ID:0pgyq1YX

 弥生に手を引かれる事しばし、みさきはどこかの樹の裏側に来ていた。
「……それではみさきさん、この辺りは安全そうですから」
「……う、うん」
 強引な所は、ちょっと雪ちゃんに似てるな、と思いつつ、みさきは自分のスカートに手をやり……動きを止めた。
 まさか、とは思いつつ、恐る恐る弥生を呼んでみる。
「え、えと……弥生さん?」
「はい、何ですか」
「うぇっ!?」
 彼女の声は、何故かみさきの間近から聞こえてきていた。
「え、えっと……あの、私、これから……その」
 上手く言えずにもごもごするみさきに、弥生はきっぱりという。
「気にしないで。我慢すると身体に毒ですよ」
「気にしないでと言われても……やっぱり恥かしいし……」
「けれど、あなたは回りを警戒する事はできないでしょう?」
 冷酷なまでに事実を突き付けられ、みさきは沈黙した。

「ほら、早く……ぐずぐずしていると、澤倉さんにも危険が及びますよ」
「………う〜」
 そう言われてしまっては、みさきに返す言葉はなかった。
 いくら優しそうで、同性の弥生とはいえ、数日前は顔も知らなかった相手だ。
 その前でするというのは、明らかに抵抗がある……が、事態はそんな甘えを許さない状況である。

 みさきは覚悟を決めると、スカートをそろそろと巻き上げ、自分のパンツに手をかけた。
「………や、弥生さん?」
「はい」
 声は、やはりすぐ側から聞こえてきた。
228名無しさんだよもん:02/07/29 14:24 ID:0pgyq1YX
反省第三回目って事で。
誤字脱字修正、ここが変だ、と言ったところがありましたら、指摘よろ。

【美咲 再びトレントの場所へ】
【みさき 人生最大のピンチ】
229なんとなく座敷わらし:02/07/29 23:01 ID:HwQX8FHt
          ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;
        jjjjjjjjjjjjjjjjjjjjjjjjjjjjjjjjjjjjjjjjjjjj
        ///|//////iiiiiiiiiiiiiiiiiiiijjjjjjjjjjjjjjjjjj
       /       '''''''''''''''''''''`''''''巛i;;;|><|
     l  ●              《巛《巛
      |     ヽ、_  ●     ..巛《巛《巛
      》>,           (⌒) ..:::巛《巛《巛《
      》》》> ,, _       `´.:::;;;,《巛《巛《《《
         /"'''=ー;‐---‐‐'';';"- ::\ー-、
         ;' ヽヽ/ :/::::::::::::i :::::::ヽ ::';::::::ヽ
         i  / / ::::::::::::|  :::::::ヽ;:i::::::::}
         |'; ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄::|   :::::::l::|::::::::}
         |※※※※※※※|      |:::ノ
         | ̄| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|       |
230名無しさんだよもん
大丈夫だとは思うが、一応メソテ。