1 :
仮想FAN:
2 :
名無しさんだよもん:02/04/21 17:13 ID:vAhD6CZj
おつかれー
3 :
名無しさんだよもん:02/04/21 17:14 ID:7eZY2b9Y
4 :
仮想FAN:02/04/21 17:18 ID:gi0Qn9JG
どうもです。後はもうすべてを書き手に任せると言う方向で
お願いいたします。
書き手さんが見てくれて乗せてくれることを信じて・・・
復活おめでとうございます。
ええ、本当に書き手さんが戻ってきてくれることを信じましょう。
単なる読み手だけど、復活おめ。
書き手の皆さん、見てますか……?
僕が中尾さんの所へ居着いてどれくらいが経つだろうか…
『コナミを倒す!』と中尾さんは言ったが、そういう素振りすら見せない。
ただ飯を食べては寝る。
そんな惰眠ライクな毎日を過す。
そういう日々を満喫する度に思う。
(こういうのもアリかな…)
と
そんな、平穏を満喫する日常から
朝
僕はいつものように中尾さんの8畳程度の畳部屋でゴロゴロする。
新大阪に来て僕がやる事といえば、御飯の買い出し・銭湯通い・そして中尾さんが
くれた(無理矢理貰ったとも言う)皮の鞭を扱う練習だ。
ああ、あとネットサーフィンもしてたな。(楽しい程度に)
中尾さんはまだ僕の隣で寝ている。何と無防備な寝顔だろうか…
普通、よだれを垂らしてニヤニヤしながら寝る人間なんてそうはいない。
まあこれは中尾さんが僕にそれだけ心を許してくれているのだろうと…勝手に思って
おこう。
台所へ行く、とりあえずは飯だ。
僕は二段式冷蔵庫の冷凍庫の方を開ける。
中には冷凍食品のそばめし(そばと御飯を混ぜた奴)が2つしか入っていない。
「まあ、朝から食うものではないな。」
冷凍庫を閉め、冷蔵庫の方を開ける。
数の子が少しと、シーチキンの缶詰が2つしか無い…
(また買い出しだな。これは)
僕は棚にある御碗を取り出し、昨日の残りの御飯を注ぐ。
そして皿にシーチキンと縮緬雑魚(ちりめんじゃこ)に醤油をかける。
質素だが、朝はこんなものだろう。
そして台所の卓袱台にそれを乗せると僕は中尾さんを起こしにかかる。
「中尾さん……」
体をゆするが中尾さんは起きない、しかたがない。
僕は…
「朝〜あさだよ〜」
ガバッ!
僕が名雪の真似(全然にてないが)をすると布団から彼は目覚めた。
「おはよう、中尾さん。」
中尾さんは起きたばかりのせいか目がまだショボショボしてる。
「ああ、今何時です?」
「えっと、8時半ですね。もう朝御飯作ったから起こしました。」
「うぃ」
中尾さんはそう返事すると台所で蛇口をひねり顔を乱雑に洗う。
水で濡れた顔をもう何日も洗っていないタオルで顔を拭く。
意識をすっきりさせると卓袱台にあぐらをかき御飯に目をやる。
「かなり質素になりましたね。」
「まあ、ここ数日は何も買っていませんでしたからね。とりあえずこんなもんで」
「そうですね。」
僕らは丁寧に手を合わせ
「いただきます」
そういって手を付けた。
飯を手を付けながら談笑する。
「TVの無い生活は不便ですか?原田さん」
彼は縮緬雑魚を御飯に乗せながら尋ねる。
ああそういえば中尾さん家にはTVなんてなかったんだな…と
この部屋にあるものと言えば卓袱台とそれなりの性能のパソコンと布団だけだからだ。
しかし僕は…
「まさか、中尾さんが家に僕を置いてくれるだけで有り難いと思ってる、
気にする事は無いよ。それにTVが無いからって人間は死ぬ訳じゃない。
むしろだ、余計な情報が入ってこなくて気分が良いくらいだよ。んふん。」
「原田ならそういうと思ってましたよ。」
中尾さんはそう言って笑う。にこやかに、自然な…
愛想笑いなんかじゃない顔
いいな。こういう感じも……悪くない。
と、ふと気になったことがある。
そう極めて重要な事だ。
「そういえば気になったことがあったんだけど…」
「ん?にゃんでふか?ふぁらださん。(ん?なんですか原田さん。)」
御飯を口に入れながら言う中尾さん。
「中尾さん。働いていないみたいだけど金は大丈夫?」
そうなのだ。数日いてわかったのだが…中尾さんは働いていない。(僕もなのだが)
今の生活費も僕が出している訳じゃなく中尾さんが全てやってくれている。
かなりリアルな質問をすると、中尾さんは御飯を飲み込んで言った。
「まあ、その時は原田さんの貯金をふんだくりますから…ペイオフも解禁されたし」
(ペイオフは関ねぇよ!)
中尾さんが僕の貯金をあてにするので持って来たバッグから自分の通帳を開ける。
そして……
残高…870円
ああ、コレハ違う。これは2年前のLeafにいた頃だ日付が違う。
あの時は公共料金も払えなかったけな…懐かしい日々だ。
さて…今の金額は……………と。
残高…2,976,004円
うーん。流石貴族出身の僕だ。親族の遺産が転がると違うもんだなぁ〜。
一歩間違えればもう一生働かなくても生きていけそうだよ。
そんな気はサラサラ無いが…
とりあえず、僕は伝える。
「少なくともペイオフには引っかからない程度であるので心配しなくてもいい。」
僕はそう言うと中尾さんは
「もし財政が『観鈴ちんピチン』ぐらいになったときは本当にお願いしますね。」
「ああ、その時はまかせたまえ。但し…中尾さんの体でね。」
「……………」
「……………」
瞬間、僕らの空間の時が止まった。
「……………」
「……………」
二人はただお互いを見つめ合う
「またまた、原田さんったら………」
「僕は本気だ!」
「え、……」
うむ。とりあえず彼は思いっきり勘違いをしている。
(勿論そういう意味合いで言ったんだがね)
「中尾さんがどう思っているかは知らないが…そんな耽美系の意味ではないので
あしからず」
「……な、なぁんだ!ハッハッハ!もう原田さんったらびっくりさせないで下さいよ」
中尾さんは再び食を進める。
からかいがいがあるな、中尾さんは…
「ともかく、まあ色々な意味では言ったが僕は至ってノーマルだから中尾さんが想定
した意味合いではないからあしからず。」
「はい。承知してます。」
中尾さんは一瞬こう想像したのだろう。
きっとね。
「ほ、本気なんですか?原田さん。」
「原田さんなんて呼ばないでくれ……」
「えっ」
「僕は…僕は中尾さんに『ウダル』って呼ばれたいんだ!」
「…………」
「僕が追いかけて来たのは何故だかわかるかい?コナミ?違うよ。本当はコナミなんか
どうでもよかったんだ。そんな事なんかどうでもいい。あの時、中尾さんが僕から
離れたあの時…僕のココは張り裂けそうだった…」
「えっ!!ちょっと待って下さいよ原田さん。手を股間に持ってかないで下さい…」
「僕の事…嫌いかい?」
「いや…そんなことは」
「じゃあいいじゃないか、コナミの事なんて忘れて僕とここでずっと暮らそう!金は
何もしなくても一生入って来る。僕らだけの二人の永遠の世界を……」
「は、原田さん」
「『ウダル』って呼んでれないと…僕泣くよ」
「ウダル……」
「けいすけ…」
(オェ……)
気色悪いな…やっぱり。
僕ながらトンデモなく普通の耽美系妄想をしてしまったな。
まあ、僕も中尾さんもそんな素振りは120%ないから言ってもお互い冗談とわかって
るからこそなのだが…
「??」
中尾さんが目を丸くして不思議そうに僕の顔を見つめる。
「どうしたんだい?」
「いや、何か変な事考えてそうだったので…」
「気のせいだよ。」
「だといいんですけど」
「信用していないのかい?」
「いや、少なくとも銀行よりは信用してますよ。」
(低いなぁ)
中尾さんなりのギャグなのだろう、笑えないが。
と、何かもう一つ忘れていたような話題が……
「なか…」
「そういえば、そろそろ冷蔵庫も品粗になってきましたねぇ」
中尾さんの声に僕の言葉遮られた。
「そうだね。流石にそばめしだけじゃなんとも…」
「だから、もうそろそろ外食に転換してもいいんですけどね…自分としては」
「駄目だ!」
語気を強めた口調で僕は言い放つ。
「ここは新大阪なんだ。只でさえLeafの社員とKeyの奴等と遭遇するかも
しれないというのに…」
「心配性だなぁ。原田さんは…杞憂ですって」
軽くあしらう中尾さん。
「そういう配慮は嬉しいですけど…たまには、何か違う飯も食べたいじゃないですか。」
「ほほ〜う」
僕はスクっと立ち上がり台所にある文化包丁(穴空き)を右手で握り…刃を中尾さんに
向ける。
「どうやら中尾さんはコナミよりも僕に殺られたいみたいだねぇ?んふん。」
「やだなぁ。僕が原田さんの手料理(たまに冷凍食品)が毎日食べられるなんて幸せを
放棄すると思いますか?あふーん」
何だ最後の語尾は?まあいい。ひきつった顔をしながらも中尾さんは納得してくれたよ
うだ。(半分脅しとも言うがね)
「ごっそさん」
「うむ。」
僕も中尾さんも飯を食べ終えたので食器を流しへ運び、洗う。
皿を洗いながらふと考える。
まあ、なんというか…何故僕は中尾さん家でこんな主婦まがいをしているのだろうか?
なんとも言えない日常だ。これがずっとつづけばそれはそれで『永遠』と呼ぶに値する
ものになるのだろうか?いや、ただの平穏だろう。
本当はここに陣内や閂くんや高橋さん達もいれば僕的には永遠と呼べるのだが…
まあ陣内も閂君もこっちに来て以降連絡を取っていない。
多分とれば彼等もこの戦いに加わろうとするだろう。
残念だがそれは駄目だ。これ以上関係のない人を巻き込む訳にはいかない。
何よりも陣内には陣内の、閂君には閂君の生活がある。
そんな彼等の生活を邪魔してまでこの戦い巻き込むわけにはいかない。
そう、こんな戦いに参加するのは…
ずっと・・・Leafに呪縛された者達だけでいいのだ。
洗い物が終る。
時間はまだ昼前か……
八畳程度の部屋を見ると、中尾さんはパソコンを動かしてネットを見ている。
僕も国分寺の自宅から持って来たMDウォークマンを聞こう。
イヤホンを両耳に付け、曲を流す。
Cocco・BUMP OF CHICKEN・筋肉少女隊・ビートルズ等等
74分に凝縮するには十分なラインナップだな。
古ぼけた柱を背もたれにして曲を聞く。
そして中尾さんをずっと観察する。
音楽がかかっているので彼が何か独り言のような事を言っているかもしれないが
それは聞こえない。
ただ右手が忙しくクリックし、くいるように画面を見つめる彼を僕も同じ様に
くいるように見つめる。
そして思う。
(修羅場を生き抜いた男は顔つきが違うな)
と
そう、ホームズや金田一のように見ればそれは判る。
中尾さんの顔つき、半袖Tシャツから見える腕の筋肉の締まり具合・背筋をピンと
伸ばした姿勢・やっぱり戦場を体験した人間の体だと…
僕も戦場を知っている。ただそれは彼が知っているような肉弾戦のような、直接的な
リアルファイトではなく、大人の世界によくある間接的『人間関係のもつれ』だ。
戦いのリングは違うが…修羅場としてはまあ同じようなもんだ。
少なくとも精神的なダメージ換算や苦痛などは…
肉弾戦を求められた場合どうしようか?
実はこんな僕でも実は柔術を心得ている。
そう、マウントポディション(人の上に乗っかって)とってボコスカなぐる『アレ』だ。
本当はもっと色々あるんだが、一般的な解釈を求められて言えばこんな感じだろう。
まあ、どちらにしろ僕が望んだ居場所だ。コナミがどんな仕掛けをしようとも…僕は
笑顔で受けてやるつもりだがね。
曲が一巡する。
結構時間が過ぎたようだ…
中尾さんもネットをやめ、メールチェックをしようとしている。
その時中尾さんの顔が僕に向き、近くに寄る。
そして彼の手が僕のイヤホンにかかり耳から離すと
「メールは見ないで下さい。っていってもこのパソコン使ったら後で見れますけど…
まあ、新着で来たのぐらいは一人でじっくり読ませて下さい」
なるほど、一理ある。
「そうだね、でも誰から来るんだい?」
「えっと、どっからか自分のメルアド知った2ちゃんの方々と一部知り合いから」
「それはタマランね前者が…」
「ええ、所で昼ですけど…どうします?昼飯」
もうそんな時間か。ふと時計を見やる
針は12時を指していた。
なんだかさっき食べたばっかりのような気がして実は腹は減っていない。
しかし、冷蔵庫にそばめしと数の子だけと言うのも由々しき事体だ。
「僕が買い出しに言って来るよ。何が食べたいかね?」
と聞く。
中尾さんは笑顔で
「う〜ん。原田さん!」
「死ネ」
即答で言い返した。
「いや〜冗談じゃないですか〜」
「…………………………………」
魚が死んだような目で彼を見る。そして話を戻し
「ほら、アレ…うーんと、そうそう関スー!関西スーパーで決まり!」
「関スーかぁ」
懐かしい響きだ。
伊丹在住の頃、あの辺の銭湯と関西スーパーにはお世話になったものだ。
しかし新大阪近くには残念ながら存在しない。
(あるかもしらないが知らない)
「僕が知っているのは伊丹と尼崎にある2つしか知らないぞ。そこに行けと?」
「ここで世話になっているんですから、それぐらいの事聞いてくれてもいいじゃない
ですかー」
「いや、近くでいいと思うんだが…」
「たまにはあの関スーの袋見たいじゃないですか」
ああ、用は少し一人になりたいと言う訳だね…まあ無理もないか。一人暮らしに『僕』
という『居候』が増えたのだから。一人の時間も欲しいだろうしね
「仕方が無いなぁ、了解。」
僕は納得する。
「で、何が食べたいのかね?」
「うーんそうですね。数の子はまだあったから」
「から?」
「たいやきで行きましょう。」
「うぐ…うー」
僕らしくない、極めて迂闊な一言を吐いてしまった。
「おやおや、原田さん的に珍しい言葉を」
「気にしないでくれると嬉しい。まあ、とりあえず行って来るよ。」
「いってらっしゃーい」
そういうと僕は中尾さん家を出る。
空を見上げる。雲一つ無い春のポカポカした陽気が包む天気…ああ太陽の陽射しが
こんなにも暖かいなんて…
と、のたうちまわって言っている場合じゃないな。
とりあえずJR新大阪駅行き、伊丹までの切符を購入する。
まあ尼崎でもいいがあの辺はあまり行った事がないから僕としてもかつて住み慣れた
伊丹の方がいい。
尼崎で宝塚線に乗り換え、塚口・猪名寺と駅を越え伊丹に着く。
久しぶりに伊丹の大地に降り立つ。
約1年半ぶりの伊丹…
そして僕は駅前のバス停留所でバスを待ち、阪急伊丹駅前まで向かう。
そこに関西スーパーがあるのだ。
・
・
・
10分程度バスに揺られ関西スーパーに着く。
そして入る。
懐かしい、全てにおいて久しぶりだ。
見ず知らずのおばちゃんの世間話・独特のレジ音
駅前で集まる族まがいのヤンキー
ノスタルジーに浸りながらも僕はカゴをもって中に入る。
まずはたいやきを探す。
何故か寿司が売っている場所にある。
(4個120円か…安いな。普通のより小さいけど)
そして2パックほどカコ入れる。
「こういうのも悪くないな。」
小さく呟く。とりあえず久しぶりの関スーを堪能する事にした。
関西スーパの雰囲気を堪能したその後、適当に飲料水・インスタントラーメン・
スナック菓子・等々の食料品をカゴに入れる。
(後は個人的にヨーグルトでも買うか。お金出すの…僕だし)
そしてヨーグルトが置いてある場所へ直行しようと小走りした時
ドスッ!
「あっ!」
「おうっ…」
不意に人にぶつかる…前をみていなかった。(カゴの商品に集中してたな…)
「すいません。大丈夫ですか?」
そう言ってぶつかった相手に言う。少し髭の生えた初老のような姿をしている。
「ああ、大丈夫じゃ………ん?」
相手の語尾が疑問系になる。
「あっ!!」
僕も意識とは無関係にたまらず声を出す。相手の顔がはっきりと判った時、
その意味が飲み込めた。
そして僕はこう呼びかける。
「おやびん!」
「は、原田……」
・
・
・
To be Continue
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!
25 :
名無しさんだよもん:02/04/21 19:43 ID:qaldiC3t
26 :
名無しさんだよもん:02/04/22 02:49 ID:x8Xp18cl
新スレ告知age
お、新作ですね。頑張って下さい!
28 :
名無しさんだよもん:02/04/24 00:19 ID:AM5k8SBT
今ごろ気づいた
新スレ ワショーイ
29 :
名無しさんだよもん:02/04/24 17:09 ID:d9mbH9pV
今更ながら新スレ キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!
30 :
前スレ1:02/04/25 10:00 ID:d8CBCSEW
復活しましたか……
前スレがdat落ちしたのと、四月に入って忙しくなったのとが重なり、
続きが書ける状況ではありませんでした。
忙しさに一段落がついたので、再開できるかもしれません。
まずは今週末中に一本。
31 :
名無しさんだよもん:02/04/25 17:24 ID:hTU8mwO5
今度は絶対に落とさせないィィィィ!!!
土器土器
34 :
名無しさんだよもん:02/04/27 23:43 ID:htkO6d72
あげ。
>>30 キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!
マジ待ってました!
期待してます。
このスレは絶対保守するぞ!ホシュだ、ホシュ!
ホシュ━━━━━━━━━━━━!
誰かが保守しといてくれてるだろうとか思ってたら落ちてたからなあ。
もう落とさせません。職人さん頑張って!
37 :
名無しさんだよもん:02/04/28 23:25 ID:cqi4TR4G
禿げ。
メンテ
39 :
名無しさんだよもん:02/04/29 20:05 ID:t5aamXQE
うたわれるもの・・・
で、何か話をキボンヌ
━━━━(゚∀゚)━━━━
ホシュ。
シュッシュッポッポッ
━(゚∀゚)━(゚∀゚)━(゚∀゚)━━━━
保守sage
45 :
鮫牙:02/05/02 14:37 ID:ySCw4dsv
SSスレが乱立して書き手が分散しているからねえ。気を抜くと即DAT落ち
保守
48 :
sage:02/05/04 00:21 ID:tup5SjX+
新作&続編期待保守
∧,,∧
ミ,,゚Д゚彡 仮想戦記ってマーベラス?
(ミ ミ)
ミ ミ
∪ ∪
50 :
名無しさんだよもん:02/05/04 10:32 ID:WlRzro1h
ageてみる。
51 :
R:02/05/04 17:37 ID:I9zi/oRT
お久しぶりです。
最近書いてはいるのですが自分自身の書き方に納得ができず
ちょっとスランプです。
基本的に葉中心ですが、自分で蒔いた種は責任をもって処理するので・・・
地味に意見・批判がある人がいるようなので
ホットメール作りました。
[email protected] でお願いします。
では、来週までくらいにアップしますのでそれまで失礼いたします。
52 :
名無しさんだよもん:02/05/04 23:37 ID:yomRn+lc
なんだか超先生がクビになったらしいんで
ここがおもしろくなりそうな予感age
マジで?
ソース(以下略
∧,,∧ カタ
ミ,, ゚Д゚彡 __カタ_
ξミ つ || ̄  ̄ ̄ ̄|
|\||... SOTEC ...|
'\,,|==========|
危ない危ない
56 :
鮫牙:02/05/06 11:07 ID:RdSJq2/q
>>52 いなきゃいないで、寂しい…。やっぱはた迷惑だけど憎めない存在だったね。
一気にメンテ
∧,,∧
ミ,,゚Д゚彡 新作って胸キュン?
(ミ ミ)
ミ ミ
∪ ∪
メンテ母さん
メンテ父さん
メンテ兄さん
たまにはね♪
中尾って今何処にいるの?
仄暗い水の底にいる可能性が高いかと。
そこからほのかにあたたかい世界に旅だったかと
ほしゅでしゅ
メンテ妹さん
メンテ叔父さん
メンテ爺さん
70 :
凉元:02/05/12 12:05 ID:KalCscRy
本日は、不肖、私が保守致しましょう。
71 :
戸越:02/05/13 00:41 ID:5t4jICc2
まごめ
72 :
しのり:02/05/13 15:05 ID:jetlBnoc
全身タイツ
ウンコ
なんか
>>73の名前欄の表示がおかしい
麻枝は普通どおりの表示で、准だけがIDの後に来てる。
コレって俺だけ?
>74
あんた可愛い
…吊ってくる
78 :
74:02/05/14 00:36 ID:yGdb6ePa
な、何故!?
>74 自分もやり方は知らないがこれは意図的にできることだそうな。
えっと
メンテついでのテストsage.
82 :
久弥:02/05/15 00:28 ID:d2eRdSGZ
>73-81
Macだと記号の羅列に見えるんだけどね。
俺、まだいるよ…。
職人さん、俺はまだ待つよ。
85 :
KEY:02/05/15 22:13 ID:G4lfzQk1
散り始めた桜の花びらを蹴散らすようにして、白色の自動車が道路を疾走する。急速に流れてゆく
景色を横目に、折戸伸治は気の無い表情でアクセルを踏んでいた。ステアリングを握る右手を時折
動かすと、車はそれに応じて針路を変えていく。平日の昼間、ただでさえ交通量の少ない道路に折戸
の走行を妨げるものは無かった。
(あいつと初めて出会ったのも、この季節だったな)
心地よいスピード感に浸りながら、折戸はふとそう思った。
「ったく、ヒステリー起こしやがって。あれくらいの事で同棲相手の男を叩き出すか、普通?」
赤く腫れた右頬をさすりながら、折戸は独り深夜の街を歩いていた。冷たさを残した夜の風が折戸
の体を通り過ぎていく。
「……誕生日プレゼント買うの忘れたら、そりゃ怒るか」
頬に帯びた熱が夜気に溶け消えると、頭にのぼった血の気も急速に冷えていくのが感じられた。
折戸は、ビルの前で立ち止まり、視線を上に向けた。
(いつ家に帰ってるんだ、あいつ?)
折戸の視線の先には、煌々と照明が灯るTactics開発室があった。折戸の記憶している限り、麻枝が
定時に開発室から退出したことは一度も無い。家で眠っているかどうかさえ怪しかった。
(帰らないんじゃなくて、帰れないのかもな)
脳裏をよぎる邪推を打ち払うように、折戸は首を振った。痴話喧嘩の果てに部屋を追い出され、
開発室の仮眠室で夜を凌ごうとする男など自分くらいのものだ。
馬鹿げた妄想に気恥ずかしさを覚えながら、折戸は非常口の鍵穴に鍵を差し込んだ。
86 :
KEY:02/05/15 22:14 ID:G4lfzQk1
「仕事できる男、それが彼女の好み〜」
蛍光灯の光と一緒に、機嫌の良さそうな歌声が廊下に洩れ出ている。開発室のドアを開けようと、
折戸がノブを握った瞬間、
「彼女って誰やねーん!」
歌声が叫び声に転調した。何が起こったのか分からない折戸は、ドアをほんの少しだけ開いて中の
様子をうかがう。隙間から見える狭い視界の向こうで、麻枝が椅子を背中できしませていた。背もたれ
に体重を掛けては戻し、掛けては戻していた麻枝だが、やがて立ち上がると大きく背伸びをした。
「誰もいないな……と」
ぐるりと三百六十度を見回し、確認するように呟く。歩き出すと、折戸の机に近づいた。
麻枝が何をやろうとしているのか、折戸には理解できなかった。Tacticsに参加してまだ日の浅い
折戸は、麻枝の事をよく知らなかった。前の職場で社長と衝突し、職を失っていた所を吉沢務に拾い
上げられた事くらいしか知らない。
困惑する折戸とは裏腹に、麻枝は実に陽気な調子で折戸の机に近づき、椅子に腰を下ろす。勝手
知ったる我が家のように、机の上の機材に電源を入れた。しばらくの間の後、ディスプレイに灯がともる。
折戸の困惑は深まる一方だった。自分の机で麻枝が何かをやろうとしている。しかも、手慣れた機材
の扱い方から判断するに、今日や昨日に始まった事ではないらしい。
「ふっふっふっ。今夜もハジけるぜ」
不敵にそう呟くと、麻枝は折戸が昨日新調したばかりのキーボードに指を置いた。
「おい、人の机で何やってんだ」
扉を全開にして、折戸が問う。
「どわぁぁっ!」
背中に掛けられた声に、麻枝は椅子から飛び上がった。
87 :
KEY:02/05/15 22:14 ID:G4lfzQk1
(あの頃から変な奴だったな、あいつも)
いつの間にか桜並木は途絶え、左手には土手がずっと先まで延びていた。折戸はアクセルを踏む足
を緩め、車を道路の端に寄せる。やがて車は完全に土手の側に停止した。
折戸がキーを回し、エンジンを止めると車内は静けさで満たされた。
「さて、行くか」
懐に手を差し入れ、懐中に収めたCDケースの存在を確認すると車から出た。雑草が生えるに任せた
土手を登り切ると、目の前に河原が広がる。曇りがちな空の下、川はいつもと同じ水面を折戸に見せ
てくれた。水の流れる音を耳で感じ取りながら、折戸はすり鉢のように窪んだ河原を見回した。
やがて視線が止まり、その視線の先に向かって折戸は歩き出す。
視線の先には久弥直樹が立っていた。
前後編の前半の予定です。
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!
折戸カコイイ!
そして麻枝は何をしようとしてたんだ?
あげわすれてた。
新作あげ!
91 :
名無しさんだよもん:02/05/15 22:24 ID:1b0H5ibd
またあげわすれた…何やってんだ俺。
今度こそあげ!
帰ってきた…(感涙)
ありがとう、ありがとう。
保守してて、良かった…。
職人サンキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!
影ながら応援してマス!!
>>89 インタヴューで麻枝は
「残業手当もつかないような深夜に折戸さんの機材を借りてせこせこと
作曲してた」とか言ってたから、それじゃないかな?
がんま×だーまえ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!
がんま×ひさやん━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!
長い間待ってたですよ……
96 :
名無しさんだよもん:02/05/15 23:58 ID:6t0FZMXN
━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!
新作お疲れ様です。
待ってましたよ、ええ。
長い間待ってたかいがあったもんだなあ。
わーい、新作だ。
折戸パソコンで音楽作成やってたのか。でもだーまえも音屋からじゃなかったっけ。
うろおぼえスマソ。
折戸は楽器まったくだめとか聞いたよ。
だーまえは音屋志望でゲーム会社受けたら全部落ちて、
しょうがないから次にやりたかったシナリオでこの世界入ったトカ。
メンテ帝国
そういや、折戸の車種はなんなのだろう?
どっかの車雑誌に、本人ごと載ったらしいが…。
昨日初めてさゆりん☆サーガ編読んだんだけど、ほんと超おもしろいね。
これ書いてる人、プロのライターさんですか?
> にこやかに微笑みながら指をぽきぽきと鳴らすしのり〜に、麻枝は恐怖した。
> 麻枝はコメツキバッタのように、ただ頷いた。
> コーヒーカップが麻枝の頭にヒットする。カップは砕け、散乱する破片が蛍光灯の光に乱反射した。
この3ヶ所、激ワロタ。
その車雑誌を買ってしまった人がここにいます。
探してくるわ…
>>104 遺産ってヒントのやつだよねぇ?
ストレートでLegacyだったような記憶が
時に、僕は幻覚を見る傾向がある。それもかなりの数がある。
が
どうやら、この幻はどうやら『現実』に覆われよく出来たものだ。
そして目の前の男は僕にこう言う。
「久しぶりじゃのぅ・・・」
一一(にのまえはじめ)[おやびん]
そんな、過去の亡霊にとらわれ続ける人間達の織り成す世界へ
原田宇陀児
関西スーパーで出会った僕等は品物の精算を済ます。
買い物袋を両手に抱え僕とおやびんは人気の無い公園へ行く。
そしてどちらがと言うわけでもなく塗装の剥げた背もたれの無いベンチに座る。
・
・
・
ただ二人の男が似合わない関西スーパーのビニール袋を手にかけてぼーっとする。
その空間に耐え切れなかったのかおやびんが声を発する。
「原田」
「何ですか?」
「お前さんは確か伊丹引き払って国分寺に戻ったはずではないのか?」
ああ、そうか。おやびんはそんな事知らないんだな。まあそれもそのはず、何故なら
そんなことは僕のHPを見ているかごく親しい友人にしか話さないからね。
「ええ、国分寺に住んでいますよ」
「だったら何故お前さんがここにいるのじゃ?」
「いてはいけませんか?」
すこし悪意を込めて言ってみる。
「そうではなない。ただお前さんをみるのが久しぶりじゃったからな。」
そう言うおやびんのトーンは優しく聞こえる。
そしてそれが僕にはとても悲しく・淋しい心にする。
(僕が人の温もりを必要とするあの時に貴方は側にいてくれなかったのか?)
いや、そもそも僕とおやびんの接点なんてKY(ら〜YOU)よりも薄い。
そんな人間にそういう事を求める僕が酷なのだろうか?
ふとおやびんの顔を覗く。
そして知る。
正直老けたと思った。
手入れされていない無精髭・乱れた頭髪・痩せ細った肉体。
おやびんもだいぶ年をとったんだな・・・と
でも、目だけはギラギラとしていた。まだ希望を失っていない・むしろ活力に溢れている眼・しかしそれに肉体が伴っていないが故にひどく悲しくおやびんのシルエットを
映す。
「どうした?ワシに何かついとるのか?」
「いえ。」
顔を背ける僕。恥ずかしいからではなく思考を悟られるのが嫌だからだ。
別段気にせずおやびんは
「まあ、お前さんが何故ここにいるのかなどという質問をするのは愚問じゃろうから
聞かないでおこう。今はただ久しぶりの再開を喜ぼうではないか?」
そういうとおやびんは自分のビニール袋からジュースを二本取り出す。
「ホレ、飲め」
そういってポイっと投げる
僕はそれを軽く受け止める。
350mlのポカリスエットを
プシューと言う音が同時に発生し、同じタイミングで喉に流し込む。
「やっぱワシにはユンケルよりポカリじゃわい。」
「はぁ」
気の無い返事をする僕
唐突に
「元気か?」
「普通はそれが最初に来るでしょう?その質問は」
「気にするな。若いんじゃから・・・」
(いや、僕はもうすぐ三十路だがな…)
「ご覧のとおりです。ちゃんと生きていますよ。」
愛想笑いLV0で僕は言う。
「それならいいのじゃ。それなら・・・」
ウンウンと頷いておやびんは手元のポカリスエットに口をつける。
僕は特に何か言葉を発することもなく受け取ったポカリを飲み、ボーっと公園全体に
視界を広げる。
誰も使っていないブランコ
錆びた滑り台
手入れがされていない砂場
だれもいない公園。僕とおやびんだけの空間
そんな空間を眺めていると
「どうしたんじゃ?公園の風景がそんなにめずらしいか」
「いえ、そうじゃないですけど」
「相変わらずマイペースじゃな」
「そうですね」
「ワシはそうじゃな…」
突然、おやびんが自分の事を話し始める。
「お前さん達が去って以降、Leafはボロボロじゃ。ワシ一人の力ではどうにもなら
ないくらいに」
「…」
僕はただ黙っておやびんの顔を見つめ話に耳を傾ける。
「今のLeafにまともな奴はおらん。いや、居たとしてもゲームのイロハも知らん経営連中に無茶苦茶されて本業に専念出来ん。こんな場所じゃぁ誰もいたくないのも解
るわい。だがな!」
「!!」
突如おやびんが僕の両肩をガッシリと掴む。僕とおやびんの目の距離が縮まる。
そして言う
「ワシはお前さん達のように簡単に辞めることができん。いや、したくても上の心情
が解ってしまった身だからかもしれんが・・・」
「それは…奴のことですか?」
固有名詞は出さない。敢えて曖昧に訊ねる。
「まあそうじゃな。おまえさんが一番憎しみを抱いている人物というべきじゃろう」
「そんな話聞いても僕の心に染み付いた憎しみと恨みは消えませんよ」
「そんな事はいわんでも解っておるわい。お前さんにゃ高橋や水無月とは違う意味での
信念をもっておるからな。その眼差しをみれば一目瞭然じゃ。」
「……」
「なあ原田よ」
「……」
「お前さんがここにいてワシと会うのも何かの縁じゃ…こんな事を頼める義理は毛頭
無いがお前さんに頼みたい事がある」
「…話だけは聞きましょう、返事はそれからです」
「ありがとう」
そっと肩から手を離し、そして距離を保つ。
缶に残っていたポカリスエットを全部飲み干して喉を潤わせるとこう言った。
「また、Leafの為に・・・働いてくれないか?」
のうのうと言い放つその言葉に僕は怒りを覚えた。
心は平静を保ちながらも語気を強くして
「んふん?よくそんな事がいえるもんだな!僕を精神的に追い詰め正当な評価もくれず
奴隷のように酷使していて悶絶タマラン台詞が吐けるな!いや、知らないから言えるの
かもしれないけどね!それでも今の発言は許せないぞ!組織ぐるみで僕や陣内や閂君達
に必要以上の苦しみを与えておいて…」
「…」
「たとえおやびんと言えども無責任じゃないか!冗談じゃない!」
「は、原田…」
落胆の目を向けるおやびん
「そんな顔しても僕の悲しみと憎しみはエベレスト山よりも高くマリアナ海溝よりも
深い。たとえおやびんがあの場所では良識人とわかっていたとしても組織として活動している限り僕が今の内容に頷く事は無い!」
「…」
そして僕はスーパーのビニール袋を持ちベンチから立ち上がる。
「ま、待つんじゃ原田!話は終わっていない」
おやびんがその言葉を発した時であった。
『そうですよ。まだ帰ってもらっては困りますね、こちらとしても』
僕とおやびんが声のする方向を向く。
そこには黒ずくめの衣装におかっぱ頭の男が一人いた。
突然の訪問者に僕たちは
「誰?おやびんの知り合い?」
「いやワシも存ぜぬが…」
そういうとおかっぱの男が
「ホワイトアルバム脚本・原田宇陀児。そしてLeaf開発部主任の一一さんですね?」
「人の名を聞く前に自分から名乗るのが礼儀ってもんじゃないですか?」
さっきの事の怒りも忘れ僕は冷静に男に問うと
「ああ、私ですか?そうですねー。ミキハラとでも名乗っておきましょうか」
そう乗る男は不敵な笑みを浮かべて言った。
「いや、僕は君なんか……」
その時だった。
「ま、まさかお主は!」
おやびんが素っ頓狂な声をあげると・・・ミキハラは
「思い出しましたか?そうです。コナミ特殊部隊・ときめき12人衆・ミキハラです」
コナミ?ときめき12人衆?
いや、コナミは解るんだが、普通そういう女の名前ってのは男性が名乗っても仕方が
ないのだがな。僕の脳内でのときめきがガラガラと音を立てて崩れていったよ。
まあいい。これはどうやら中尾さんが言っていた例の奴であるということがわかった。
「Leafの残党達が何やら不穏な動きをしているという情報があったから調べてみた
らこういうことですか?いやはや困ったものです」
憎たらしいくらいに紳士気取りなミキハラ
「残党とは酷い言い方だ」
「ああ 気にしないでください。気にしたところでお二人とも地獄へ連れて行きますの
で・・・・・・考えるのはそれからにしてください。」
「!!」
「!!」
僕とおやびんは彼の手に握られているものを凝視する。
バタフライナイフと呼ばれるものだった。
(ナイフか・・・)
かなり冷静な自分がいる。いや、むしろそういうレヴェルの問題なんだという事に
すこしホッとする。
そりゃあそうかもしれない。ヤクザ紛いに銃でドンパチやられた日にはマスコミにも
載りかねない。まあどうやら再起不能程度(それでも嫌だが)の戦いだという事に僕は
安心する。
「おとなしくしてくれれば仕事が出来ない程度で許してあげますが・・・抵抗するのな
ら命の保証はありませんが・・・」
かなり紳士的だが、どうやらこいつは馬鹿であるということがわかった。
そうして僕はミキハラに聞こえないようにおやびんに
「なんか知らないですけど・・・こういう頭の弱い奴は僕に任せてください」
「原田…」
「仮に僕がやられた時はお願いしますね」
「あっ、原田!」
そういうと僕はおやびんを遠ざけて前に出る。
ミキハラとの間合いはさしずめ3m弱だろうか。
「とりあえずいきなりナイフで何かしようと仕出かす輩に『警察を呼ぶ』なんて無粋
な行動ととらないだけ感謝したまえ。」
精神的優位を取るために挑発をする。
「呼んでも構いませんよ?そんな事としたところで私たちの組織には辿り着けないでしょうから。ひ弱な金髪眼鏡さん。」
「そうか、まあ何が目的かは謀りかねるが…かといって黙ってやられるわけにもいかないので・・・応戦だ」
そして僕はミキハラに対して両手を大きく広げて構える。
柔術スタイルで…
人気の無い公園で静かに戦いは始まった。
すこし悔やむ。中尾さんのムチでも持ってくるべきだった。こんなことになるなら…
そんな事いまさら言っても仕方が無い。
ミキハラはバタフライナイフを僕に向けながらも攻めてこない。
攻めあぐねているのだろう。隙をさそうように僕はスーッと手を降ろす。
ピクっと反応するミキハラ
そして僕は格闘ゲームのキャラのように
「来ないのかい?んふん」
手招きをして挑発した時だった
Dun!
直後、ミキハラが一直線で僕に向って腰にナイフを吸えて突進する
(素人?それとも実戦経験に乏しい奴か)
いやそんな事はどうでもいい。まあすこし考えれるほどの余裕があるほどの
攻撃内容にとりあえず僕はバタフライナイフ目掛けて右足から蹴り上げる。
シャッ!
カィーン!
金属音が響く。僕の靴は鉄が仕込んであるからだろう。
ナイフが空を舞いミキハラの突進を避け上げた僕は右足をそのまま彼の脳天に
落とす。
ガスッ
「うげっ!」
紳士口調の人間とは思えないまるで北斗の拳にでてくるモヒカンの雑魚のような悲鳴を
上げる。
踵落とし・・・柔術とは関係ないがとりあえず決まる。
ミキハラの体が仰向けに地面に沈む。
そしてその隙に僕がミキハラの体の上に乗る。
マウントポディションの完成だ
おやびんはこの一連の動作をただ見守っている。(できればはじいたナイフとか拾ってほしいのだが・・・まぁ仕方が無い)
「うぅ・・・」
卑しい目線で僕を見上げるミキハラ.。蔑む僕。
もはや優劣は決まった。あとは簡単だ
右拳を振り上げる。
ミキハラは右よりに腕を構え守る。
バコッ!
「うげっ」
逆に予備動作無しの左拳でミキハラの顔面を殴る。
また右拳を振りかぶる。
今度は左よりに構える。
ガシッ
「ぐっ!」
そのまま右で殴る。
右左右左右左右左右右右左右左
すべての攻撃がヒットし、かなり顔面が腫れ上がるミキハラ
そして僕は言う
「今ならもれなく降参を受け付けるが・・・んふん」
「・・・」
哀れな目をするミキハラしかし何も答えない
「ここまでしておいてなんだが出来れば僕やLeafに関してはあまりちょっかい
出さないで欲しいんだが・・・ホラ、仮にも昔いた会社だし。まあ君らの所がVN
(ビジュアルノベル)の版権を欲しているのは解るけど・・・それはお門違いじゃ
ないのかい?」
「・・・・・・」
「何か言おう・・・よっ!」
Gushu!
にこやかな笑顔で僕はミキハラの鼻を殴りつける。
「ブッ!」
僕をひ弱な人間と勝手に解釈するからこうなるのだよ。
119 :
じゃいきじだい:02/05/19 16:41 ID:vHms+UNE
ギリギリ
「うぐぐ・・・」
ナイフが弱弱しく地面に落ちる。
もがくミキハラ。しかしおやびんのか細い腕を振り解くことができずミキハラはそのまま意識を失う。
あっけない出来事だった。
そしてミキハラをそのまま放置して自分の買い物袋を持つおやびん
「うむ。行こうか」
「いや、おやびん?」
「何じゃ?」
「まあつっこむ所はいくつかあるんだけど、とりあえずあれは放置プレイの方向?」
「なら何処に持って帰ると言うのじゃ?」
「いや、まあそうだけど」
「なら気にするな」
「いや、気にはするが僕としても今は早く帰りたいので敢えて聞かない事にする」
僕がそういうと
「お前らしいわ。じゃが逆に普通の奴と型にはまらんから対応しにくいがな」
「いや、今回の事はどうやら僕にも矛先が向けられているみたいだ。」
(結局、僕はLeafから逃れられない運命なんだな)
小さく呟く
「ん?何か言ったか?」
「独り言さ。とりあえず今日はここでお別れですね。携帯は変わっていないから
何かあったら電話してきてくれれば…」
僕がそういうとおやびんは
「わかった、この事は出来るだけ他言無用じゃぞ」
「そうだね、そうする」
確認するとおやびんはスタスタと僕の元から去って言った。
僕も、意識を失ったミキハラを放置して公園を出て行く。
そして、僕は中尾さんの家へ普通に戻った。
もう後戻りできない戦いの場に足を踏み入れた事を感じつつ…
To be Continued
121 :
R:02/05/19 16:45 ID:vHms+UNE
一言
「やっぱり稚拙でしょうか?」
122 :
名無しさんだよもん:02/05/19 17:11 ID:EwtU0FXv
umu
んなこたーない。
良スレsage
更新おつかれー
葉っぱ側の新作ですな。お疲れです。
>>119 タイトルがよく分からないひらがなになってるから、最初割り込みかと思ってしまったw
傍観していたはずのおやびんがいきなり登場(『おやびんのか細い腕』)してるから、
その辺も何事かと思った。
舞い上がったナイフが、やっと地面に落ち立ってのは読み返して分かったけど、
他の二つのせいで理解が遅れた感じ。
客観的に見てこの辺はちょっとどうかなと思う部分じゃないかと思う。
とはいえ、楽しみにしていました。そして、楽しませてもらいました。
R氏が名乗ってから(スレ自体はそれよりも前から)ずっと見てるので、
氏の活躍にも期待している。これからもがんばって欲しいと思う。
あと、個人的に残念だったのは、ときめき12人集の扱いかなぁ。
読み手として勝手に期待していた展開とは違ったのでw
以下は勝手な言い分、ね。
個人的にはやっぱり、物理的な刺客として存在してしまうと、
現実と虚構の狭間を『仮想戦記』で楽しんでいた身としては
虚構感が強くなりすぎるように感じた。
だから、物理的な対抗手段をどうこういってるだーはらたちを見ながらも、
物語としてどう『ときめき12人衆』を処理するのかが注目対象だった。
で、結局のところ今回のような物語だったので、
その点に関してはちょっと残念でした。
今後の関心としては、このまま虚構色を強めていくのか、
地に足がついた物語になっていくのか、というところ。
どっちに進んでいくにせよ、楽しませてもらうつもりですけどね。
もう一度書きますけど、期待はしてるし、楽しませてはもらっています。
だから、このレスでへこたれずにがんばって欲しいです。よろしく。
(読み手ってのは本当に身勝手な立場だよなぁ……)
ヽ(´ー`)人(´ー`)ノ
(´・ ω ・`)
mente
130 :
名無しさんだよもん:02/05/21 18:18 ID:NAuAcQKX
保守。
( ´_ゝ`)
∠´×`)ニャーン
急にメンテさんが減りましたな
メンテメンテ
メンテよりネタ投下きぼーん
(゚д゚)ウマー
剛田の鍵シナリオライターインタビューはなかなか面白いめんて。
それはいつの日だったか。
雑踏の中に立ち竦む男がいた。
目の前には駅。
男の手には大きな鞄が一つ。
虚ろな目と酷く曲がる背中は男の雰囲気を十二分に怪しいものへと装飾していた。
男は心なしか狭い歩幅で、地面を見詰めながら進み、
まるで自分の影を追いかけているようだった。
男は横断歩道を渡った後、一度立ち止まった。
そうして少し弛んだ腹に濁った空気を一杯に吸い上げ、
空を見上げ、頭上を駆け抜けていく黒い鳥を凝視した。
黒い鳥は翔けてゆく。
空の彼方へと。
鳥がビルの陰に隠れ、もう一度姿を見せたが、直ぐに見えなくなった。
男は視点を空へと戻し、再び静止した空間へと戻る。
やがて男は雲に手を伸ばした。
昼夜、タイピングを繰り返している腕の細胞は軋み、叫びを上げながらも、
ぽかりと浮かぶ目標へと伸びていく。
”いいかげんにしろ―――”
響く声が胸を打つ。
”お前の所為だ―――”
骨が鳴った。
”お前は必要ないんだ―――”
筋肉の張りと腕にかかる重力を感じながら、男は一つ息を吐いた。
高く上げた手はいつの間にか堅く握られていた。
”青紫、貴様―――”
男の名は青紫。
馬鹿にされ、罵倒され、時にはネタにされる男である。
旅行鞄に詰められているのは生活用具に服、そしてなけなしのお金である。
青紫は今日、自らの故郷へと帰ろうとしているのであった。
駅の前に立った時、青紫はふと空を見上げた。
空から降ってきたのは様々な声であった。
それも多くは批難と罵倒の声である。
ここ数ヶ月、それ以外の声を聞いたことは無い。
あとは慰めの言葉ぐらいであろう。
賞賛の声など一つも聞き覚えていない。
青紫はそう考えると空の青が酷く黒ずんで見えた。
「いや、違うかな」
青紫は思い出したかのように呟いた。
「かあさんは、多分」
あのシナリオを喜んでくれているのだろう。青紫はそう思った。
空に漂う雲は行き先もわからず、優しくなびく風に身を任せながら、
凡庸な日々を繰り返しているかのようだった。
―――同じだな、僕と。
青紫はそう口を動かした。
「かあさん、僕は」
青紫は太陽の光で翳る拳を見上げた。
「今日、帰りますね」
血色の悪い腕の先、拳の先には果てしなく蒼い空が広がっていた。
「約束、果たせなかったけど―――」
白と蒼で彩られた空は昔見たあの風景を青紫に思い起こさせるには十分な役目を果たしたのであった。
時を遡って、数十年。青紫9歳の頃である。
小学校四年生の夏、湿気と熱気で蒸し蒸しと暑い日であった。
もう直ぐ夏休みだと浮き足立つ生徒たちに混じり、少年青紫はそこに居た。
授業中、突然の放送が鳴り響いた。
青紫は職員室へと呼び出された。
あまり知らない先生、恐らくは教頭先生から聞かされた言葉は、
数十年経つ今も、青紫の耳に残っている。
”君のお母さんが倒れたそうだ”
端的で業務的な言葉だった。
その分、耳に残っているのかもしれない。
それからは余り覚えていない。
車に乗せられ、病院に着き、気が付けば母親の隣にいた。
いつも以上に血色の悪い母親はベッドへと横たわり、
後ろでは父親がこれまで見せた事の無い涙を零していた。
子供心ながら、これは酷い事態なのだと少年は直観した。
母親は苦しそうに連続して咳を吐いた。
母の命が危ないのだと、その時に青紫少年は確信をもった。
同時に、心臓に皹が入ったような痛みを感じた。
これまで味わった事の無い痛みに涙が溢れそうになったところで、
少年は頬に温かみを感じ取った。
それは繊細で真白な、見慣れた母親の手の熱であった。
「わたしのこども…」
母親がそう呟いた。
「ぼく、ぼくだよ、お母さん!」
「うん……二度も言わなくても分かるわよ…」
いつも二度返事する少年に諭す、いつもの言葉であった。
「母さん、大丈夫だからね…大丈夫だから…」
これもまた『いつも』の言葉であった。
母親が貧血で倒れそう担ったとき、
少年は必ずいつも「大丈夫?」と声をかける。
今回もそのようないつものやり取りである。
場所が病院で、悲愴な雰囲気に包まれている以外は、いつもの。
少年は自分が一番に気になったことを母親へと尋ねた。
「ねぇ、お母さん! 死なないよね? 僕を一人にしないよね?」
「ばかな子ね……母さんが死ぬわけ無いでしょ…?」
息も絶え絶えに言ったその台詞には全く説得力をもっていなかった。
少年もそれを感じたのか、母親の腕を掴み、強く激しく揺さぶった。
「お母さん、もうすぐ夏休みだよ! お昼ご飯、毎日作ってよ!
もう、僕、給食厭きちゃったから!」
「あらあら、そうねぇ……。毎日、作るのは大変だわね…」
病弱で、毎日のように病院に通い、
暇があればいつも日向で小説を読んでいた少年の母は、
時折料理を作るものの、殆んどは少年の祖母が行っていたのであった。
少年は母親の味を、十分に感じた事は少なかった。
「お母さん、ぼく、ぼくね、今日学校で誉められたんだ、先生に。
お前は国語が得意だな、って。本読み、うまいな、って」
「それは……よかったわね」
徐々に力の色を失っていく声に少年は叫びつづける。
「本読みうまいのは、毎日お母さんに聞いてもらってるからなんだって、
先生に自慢したんだよ。そしたら先生なんていったと思う?」
「さあ……わたしにはわからないわ…」
「お前、もっと頑張れば、小説書きになれるぞ、って、先生言ったんだ」
「よかったわね…」
「だから…ね、ぼくね、…、べんきょうして、本を書くん…だって、きめたんだ。
お母さんの、好きな、本、……を、書くから、ぜったい」
声を出すのも苦しくなってきたのか、母親は頷きで返してきた。
少年は涙声になりながらも、語り続けた。
「お母さん、よく読んれる本、れんあいしょうせつ、らよね。
ぼく、書くから、…ったい、よんでね。
ろこでもよめるように、いっぱい、いっぱい、うれるのを書くからね」
頷き返す母親。少年は口元に無理のある笑いを浮かべながら言葉を続けていく。
「とっれもつよい人が主役で、タイムスリップしたり……、
敵も無茶苦茶つよくて、女の子は、……うちのクラスの美穂ちゃん…みたいな子で、
超能力とかで敵をやっつける……んだ」
啜り声と息を殺す音が支配する空間で、母親は優しい微笑を形作り、最後の言葉を吐き出した。
「……あなたならできる。…ぜったいにできるわ。
だってあなたは―――、あなたは私のこどもですもの。
わたしが残した、たったひとつの希望ですもの―――」
母は最期に少年の頬に温もりを与え、腕は重力に沿ってうなだれた。
「かあ、さん」
青紫は頬に流れる雫を感じた。
過去に残る一つの痕と一つの約束を思い出した。
あの日の少年の心が蘇ってくるようであった。
周りを歩くの誰も彼もが奇異の眼で涙を流す青紫を見ていった。
「僕は負けるわけにはいかないんだ―――」
青紫はそれだけを口にして、また空を視る。
掲げた腕を下げ、身を翻し雑踏の中へと舞い戻る。
駅へと向かう人の流れに逆らって、彼は再び歩んでいく。
空に浮かぶ雲は、自分の確固たる存在を誇示していた。
うわっ!!
超先生が出てきた時点でギャグSSかと思ったが、不覚にもジーンときてしまった
じゃねぇか!!畜生、MbWY/J/yさんハァハァ。
ところでMbWY/J/yさんは、鍵編か葉編の作者サンですか?
不覚にも超先生に萌えてしまった…
オレの感じてる感情は(以下略
149 :
名無しさんだよもん:02/05/24 22:22 ID:/1r/IyeY
もしかして初代1さんとか…
それはともかく、青紫がかっこいい。
麻枝、久弥に負けてない。
今後も期待あげ。
続きに期待。
・・・まさか超先生をかっこいいと思ってしまうなんて・・・。
こういうのがあるから、超先生を嫌いになれないんだよなあ。傑作。
過去の七夕ネタとかもそうだけど、理想の超先生だな
蔑まれ罵られてるが、ちょっぴり応援したくなる様な
>MbWY/J/y
あんたの勝ち、俺の負け
まさか超先生がこんなに格好良くなるとは…
ちゃんとあの顔を思い浮かべながら読んでたのに…何で…
超先生にこれだけの筆力があれば・・・
>>147 新人ッス。スレ自体はずっと前から見てました。
書き込みが少なかったので、手前で書いてみた次第で御座います。
皆様から御好評を頂き、感謝感涙で御座います。
葉・鍵の作者さん達の邪魔にならないよう、
出番の少ないキャラに絞って書かせていただきます。
今後とも、よしなに。
今後とも宜しく保守。
コンゴトモヨロシクホシュ
ヒルヤスミホシュ
後編まだかな〜
ほっしゅほっしゅ
めーんて
痕リメイク保守。
痕リメイクで高橋水無月がリーフに戻ってくる話を書いていると予想
うだるが葉に戻ってくる話は無理だろうか…
うだるちんが逆恨みして葉に殴り込まれるも敗退。
そこに138-146で新たな決意を秘めた超先生に出会い意気投合。
…だめ?
晴れ渡った青空の下、緑の木々がやさしい風で軽やかに踊り、自然の音を紡ぎ出していた。
幼い子供の甲高い遊び声が緑木の音と絶妙な協奏曲を奏でていた。
太陽は子供らを祝福し、いつにも増して清い耀きを放っていた。
そんなある日のことだった。
高橋龍也はその日溜りの中に居た。
高橋は『雫』、『痕』、『To Heart』というゲームを製作した後、
友人の水無月と共にLeafを去った。
何か、自分の中で引っ掛かるものがあった。
Leafを去ってからも日夜その原因を突き止めるよう努力し、
何とかしてシナリオを書こうと思うものの、
筆の進みは今までにないほど遅延であった。
思案する高橋の目の前をはしゃぐ子供達が通り過ぎていく。
数人の子供らが通り過ぎた後、
一番末尾にいた5歳ぐらいの女の子が突然高橋の目の前で倒れた。
恐らく石に躓いたのだろうと、持ち前の冷静な思考で高橋は分析した。
程なく少女は立ち上がり、少女の友達らの元へと駆けて行った。
尚も無表情にその光景を傍観し続けている高橋の後ろから、
少し高めの男の声が響いてきた。
「助けてあげてもいいんじゃないかな」
男はそう云うと、壮大な空の青を背後に、高橋の横へと歩んできた。
「なんだか死んだような顔だね」
微笑を浮かべて近づいてくる男が高橋に問い掛けた。
「…ッ」
高橋は出来うる限りの睨みを利かせ、男の方へと振り向いた。
が、男は少しも動揺せず口を動かした。
「死んでるっていうか、人を殺してきました、って感じかな?」
冗談めいた声で男は高橋に尋ねる。
微笑みは絶やさずに。
その問いに高橋は、
「俺はもう、既に何人も殺してる―――」
そう吐き捨てた。
太陽の光は空の一点で輝き、やがて白く長い雲に覆われた。
奇妙な男のカップルはベンチに座り、
一人はうなだれ、もう一人は心配そうな笑みを浮かべて相棒の横顔を見詰めていた。
やがて男が口火を切った。
「もう二度と会わない奴になら、いろいろと話せる事もあるんじゃないかい?」
高橋は心底嫌そうなしかめ面をしたあと、
「ふん……あんたも物好きだな」
と、野太い声で言った。
「君も変わった人だよ。
僕が話し掛けると、大抵の人は、逃げる」
「そりゃあ逃げるだろ、普通」
「うぐ…。面と向かって言われると悲しいな」
小太りの男は少し悲しそうな顔をしてそう応えた。
高橋は男に何かを感じていた。
―――こいつは何か、俺と同じ物を持っているのだろうか。
高橋はそう思った。
「この手の中で幾人もの死を看取ってきた。
お前は経験した事ないだろう、人を殺すってのは」
「―――失礼ながら、君の職業は何かな」
「人殺しさ」
「本気かい?」
男は少し悲しんだような眼をして高橋に尋ねた。
その眼線を浴びると、高橋はなんだか酷く自分が哀れに思えた。
「ふんッ……俺はしがない物書きだよ。物書き」
高橋はこの言葉を境目に、続けて心情を吐露していった。
「俺はこれまで、多くの登場人物を殺してきた。
自分が生んだ、自分の子供達を自らの手で殺してきたんだ。
俺はそれで賞賛を得た。そう、得たんだ―――」
高橋は続けて言葉を紡いでいった。
「でもな、絶大な賞賛は俺を駄目にした。
物書きなのに、何も書けなくなった。
人が求めるものを俺は書けなくなった。
そうして俺は、みんなの期待を裏切った」
男ははるか遠い青空に視線を泳がせた後、高橋に向かって言った。
「怖かった。
”前作以上のものを創らなければならない”という不安がそこにあったと思う。
俺は―――それに耐え切れなかったんだ」
「―――君は優しいね」
「ああ、自分に優しい、自分に甘い人間だ」
男は顔を横に振った。
「そういう意味じゃない。
君は自分のこと以上に、自分の作品を読んでくれる人のことを考えているじゃないか。
やさしい人は、往々にして人を傷つけるのを怖がるものだ。
君もきっと、その範疇だろうね」
男はそう言いきった。
そんなものかな、と高橋は諦めにも似た表情で言い返し、曇った空を仰ぎ見た。
雲から漏れる陽の光が少しだけ眩しかった。
高橋は暫くの間雲を見詰め、こう言った。
「俺は、やりなおせるかな。
みんなを裏切って、自分の子供を殺して、それでも無為に生きている俺は―――」
「人はやり直せるよ。必ず。
それだけは、僕も確りと知っている」
「そうかな…」
「痕は残るかもしれないけれど、傷はいつか癒えるんだよ。
問題はその痕を自分が気にするか気にしないかだと、僕は思う」
ふぅ、と高橋は溜息をつくと、微笑みを浮かべ男にこう言った。
「―――お気楽だな」
「ポジティブと言ってくれないか」
「……ふん」
横を向いた高橋の顔は少しだけ、嬉しそうだった。
こうして男二人の間に静寂が訪れた。
次に時が動き出したのは高橋の感謝の言葉からだった。
「あんた、ありがとな」
「いや、どうってことないよ」
「延々と愚痴を聞いてもらっちゃってさ。
本当に、すまない」
「いいんだって。
僕も君と似たようなものさ。
何度も迷った。これでいいのかって」
「あんた、名前は―――」
「名前は聞かないって約束だろう。もう二度と会わないんだから」
「そうだな…」
「でももしもう一度会いたかったらここに来ればいい。
僕はこの公園が好きだから、よくここに居る」
「…ああ、分かった」
「じゃあ僕は帰るよ。心地よい時間をありがとう。さよなら」
「ああ、また」
高橋は少しだけ手を上げ、横に二、三度振って男を見送った。
途中、男は一度立ち止まり、
「始まりは、いつだって小さな勇気から、だぞ!」
と高らかに声を張り上げた。
男が去った後も、高橋は同じ場所に座っていた。
暫くすると子供達の遊び声が近付いてきた。
前屈みになっている高橋の目の前を何人かの子供が駆けて行った。
先ほど転んだ少女も、膝に傷を持ちながらも楽しげに笑い、友人らを追いかけているようだった。
その時、少女は再び勢いよく転倒した。
―――ドジだな、この子は。
高橋はそう思う。
何度も何度も躓いて、汚らわしい土埃を纏って、傷の痛みを抱きながらも歩んでいく。
少女の友人らは既に先へと行っており、違う場所から少女へとエールを送っていた。
少女は確りと友達らの行き先を見詰め、痛みをこらえながら、そこへ向かうために立ち上がろうとしていた。
その時高橋は立ち上がり、己の太い腕を少女に伸ばして―――
白く長い雲は暫くの間、照りつける太陽を隠していたが、やがてその場を退いた。
―――太陽は永遠と思える時間を耀き、そうして悔やまれながら滅んでいくのだろう。
―――青空は人の心を澄み渡らせ、毎日違う自分を見せるのだろう。
―――雲は、星は、樹は、草は―――
「―――さあ、シナリオでも書くかな」
高橋は再び歩き出した。
もうここには来ない。そう心に決めて。
―――二度と会わない親友というのも、悪くない。
高橋は木々のゲートを通り抜けてゆく。
「今からあそこに戻っても、俺はやっていけるかな。
みんな許してくれるかな。勝手に出て行った俺を。
みんな―――」
高橋は退社した時から思い出の中にありつづけていた仲間の顔を思い描いた。
―――あいつらなら、きっと笑顔で迎えてくれるだろう。
少しだけ笑顔が漏れた。
―――始まりは、小さな勇気から、か。
先ほどの男の言葉を反芻すると同時に高橋はポケットの中に手を突っ込み、携帯電話を取り出した。
携帯の履歴には残っていない番号、かろうじてアドレス帳に残っていた番号に彼はコールした。
幾つかの信号音が繰り返された後、相手が電話を取った音がした。
高橋は相手が話し出す前に、こう言った。
「水無月―――久しぶりだな」
その刹那、高橋の頬に涼しく強い風が吹いた。
高橋が公園を去った後、
少女とその友人達は、燦々と輝く陽の下で、尚も元気に走り続けていた。
少女は転んだ時の傷も痛みも何もかも忘れて駆けていた。
先ほど高橋と話していた男は、子供達の近くの木陰から空を見上げていた。
「麻枝、君の言葉を少し借りたよ。
”はじまりはいつだって、小さな勇気から”。
―――いい言葉だね」
男は高橋の背中を見送ると、産まれたばかりの小さな葉を樹からもぎ取った。
「さあ、僕も、物語を書こうかな」
男こと久弥直樹は手に包まれている小さな木の葉を青空へと投げ上げた。
「そう、難しく考えちゃあいけないんだ。
知識も力も、やさしさの前では無力だ。
時も大地も、この大空をも包み込む、あの男のようなやさしさと、
ほんの少しの、前に進む勇気さえあれば―――」
新緑の葉は涼しくも強い、優しげな風に乗って何処までも運ばれていった。
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!
久弥が出てくるとはニクイですな。
ある程度予想はしていたけど、ホントに来るとは。次回も期待!
やっぱりこのスレいいなぁ。
こんなかっこいい物語を読むことが出来て幸せです。
職人のみなさまこれからも頑張ってください。
久弥直樹の名前は出さない方が個人的にはよいと思ったけど、うん、仮想戦記はやっぱ最高の読み物です。
183 :
名無しさんだよもん:02/05/31 10:46 ID:zsqjcEjS
下がりすぎなのでage
良い話だなあ…
お互いに誰とも知らぬ相手と出会い、
それぞれが何かを学んで別れてゆく・・・
人との出会いとはかくありたいものです。
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━━━━━━━!!!!
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━━━━━━━━━━━━━!!!!
うわ・・・かなり良い話だ。職人サンマンセーーーーー!!
ありがとう御座います。
わたくしの取材力不足で、現実の流れと反する部分が多々あると思います。
その点は今更乍ら申し訳なく思う次第で御座います。
今後は高橋水無月コンビの現実の流れを追いつつ、
わたくしの好きな風味に脚色して一、二週間に一度ほどうぷさせて頂きます。
過去の偉大な書き手様とは比べ物にならないぐらい稚拙な文章ではありますが、
どうぞ最後まで御見守りくださいますよう、宜しくお願い致します。
187 :
KEY:02/05/31 20:18 ID:m+2SkZy5
東から垂れ込める灰色の雲に太陽は遮られ、北から吹き付ける湿った風に川面が揺れる。
殺風景な河川敷はひっそりと静まり、電車の警笛が遠くに聞こえるだけだった。
「お前に会うのも久しぶりだな。少し、痩せたか?」
「何も変わってはいません。僕は僕のままです」
折戸の問いに、久弥は吐き捨てるように答えた。不審と苛立ちの混じった言葉は続く。
「一体どういうつもりですか。突然こんな所に呼び出したりして。その上、『Keyを辞める事にした』
だなんて……」
「言葉の通りだよ。Keyを辞めて、一から出直す事にしたんだ。お前と同じように」
最後の言葉に、久弥の視線が険を帯びる。
「僕と折戸さんとは違う。折戸さんがいなくなったら、Keyは本当にばらばらになります。折戸さん
のいないKeyなんて、もうKeyじゃない」
「お前が出て行った時から、もうKeyはKeyじゃなかったよ。何のために俺達はKeyを作ったんだ?
誰一人欠ける事無く、皆で一緒にやっていける場所を作りたかったからだ」
自嘲的な笑いを顔に貼り付け、折戸は呟く。久弥は何も応えず、ただ表情を硬くした。
「馬場社長は、麻枝さえいれば他はどうなっても構わないと考えている。初めから麻枝を手に入れる
事だけが目的だったみたいだな、あの人は」
漆黒の雲が二人の遥か頭上を横切り、地面を暗く濁らせる。
「社長の判断は、多分正しい。麻枝はこの業界の頂点に立てる男だ。お前も気付いているだろう?
麻枝が信じられない程の速さで成長している事に」
肯定を意味する沈黙で、久弥は応えた。
「麻枝は上を目指せばいい。馬場社長の用意した大舞台で、力を存分に発揮すればいい。あいつなら
きっとうまくやっていくだろう。でも、俺は違う。お前や吉沢さんをないがしろにしてまで、俺は
Keyを大きくしようとは思わない」
そう言うと、折戸は懐中からCDケースを取り出した。
188 :
KEY:02/05/31 20:19 ID:m+2SkZy5
「あの時、吉沢さんの面接を受けた時は、テープだったんだけどな」
「就職活動をしていた時ですか?」
「あぁ。書き溜めた曲をテープに録音して、履歴書代わりにあちこち回ったんだ。あの頃、音楽を
やろうとしていた奴は、皆そうだった」
遠い昔を懐かしむような折戸の言葉は、人気の絶えた河原によく響いた。
「このCDに録音された曲には、今の俺にできる全てが込められてある。もう一度、お前と一緒にゲーム
を作る時、その時のためだけに作ったんだ。俺と同じ音楽班の戸越も、そして麻枝も、このCDの事は
知らない」
決意を込めた態度で、言葉を続ける。
折戸は気付いているのだろうか。
「俺と一緒に行こう、久弥。俺だけじゃない、吉沢さんも力になってくれる。そして見返してやるん
だ。お前を切り捨てた馬場社長と、Keyを」
自身のその強い口調の奥底に、微かな罪悪感が潜んでいる事に。
189 :
KEY:02/05/31 20:19 ID:m+2SkZy5
空を覆う暗雲は勢力を増し、空を見上げれば今はもう、一面の灰色だった。雨の匂いの混じった風
が河原の砂を巻き上げる。
「折戸さん」
久弥がゆっくりと口を開いた。
「やっぱり、折戸さんはKeyにいないと駄目です。例え麻枝がKeyに復帰しても、そこに折戸さんがい
なかったら、麻枝は何もできない」
「俺はもう、あいつの助けにはなれない。お前がKeyに居場所を失っていったように、俺にも居場所
は無いんだ」
地面に視線を落とし、折戸は首を振る。目を逸らす折戸に向かって、久弥は一歩踏み出した。
「でも、あいつは折戸さんの事を音楽の師匠だって慕って……」
「それが重荷なんだよ!」
足元に転がる小石に、言葉を叩き付けた。久弥から視線を逸らしたまま、肩を震わせる。
「あいつは俺をとうに追い越している。俺にだってプライドはある。俺には音楽しかないんだ。人に
自慢できるものなんて何も無かった俺が、たった一つだけ胸を張れるもの。それも麻枝は奪っていく」
言葉をそこで区切ると、折戸は天を仰いだ。
一面の灰の天井が圧し掛かってくるかのような錯覚に、目が眩む。
足元がふらつくのを堪えながら、言葉を続けた。
「麻枝の信頼が、俺には苦痛だった。例え冗談でも、師匠だなんて呼ばれたくない。俺は次第に麻枝
と距離を置くようになった。お前をないがしろにした事が許せないなんて綺麗事だ。麻枝に嫉妬した
んだ、俺は」
空の圧力に耐えかねたように、折戸は目を閉じた。無表情な空はどこまでも無表情なまま、ただ
雲だけが流れてゆく。河原に立つ二人の間を沈黙が隔てた。
190 :
KEY:02/05/31 20:20 ID:m+2SkZy5
沈黙を破ったのは、久弥の方だった。
「だから今、こうして麻枝から音楽を奪うんですか?」
「何だと?」
久弥の問いに、折戸は訝しげに言葉を返す。
「折戸さんが麻枝を捨てれば、麻枝はもう二度と音楽に触れる事はないです。あのプライドの高い麻枝
がどうして自分の曲を『KEY』という名義で発表するのか、分からないんですか?」
「……」
静かな憤りを帯びた久弥の言葉を、折戸は沈黙とともに受け止める。
久弥が伝えたい事は、折戸にも理解できた。
「分かっているよ。俺がそうしろと言ったからだ。シナリオの作業で手一杯だったあいつのために編
曲をしたのは、この俺だ。『KEY』は、俺と麻枝との合作の証だ」
「それだけじゃない。あなたは麻枝に名前を与えたんだ。一度音楽の道を見失った麻枝は、もう自分
の名前では曲を作れない。そんな麻枝に、あなたは新しい名前を与えたんです」
今でこそシナリオライターとして活躍する麻枝だが、初めは音楽の道を志していた。折戸がそうし
たのと同じように、書き溜めた曲をテープに録音し、あちこちの会社を回った。
折戸と麻枝とを分かつものは、たった一つの違いしかない。
折戸は認められ、麻枝は認められなかった。
音楽の道を絶たれた麻枝は、それでも意気消沈しなかった。シナリオ案を持ち込み、いくつかの会社
から採用通知を受けた。シナリオライターとして業界に身を投じた麻枝は、紆余曲折を経てTactics
の一員となり、今のKeyに至る第一歩を踏み出すことになる。
「麻枝はあんな性格だから何も言わないけど、きっと悔しかったんだと思う。僕はシナリオしかでき
ない人間だけど、麻枝の悔しさは分かります。お前には向いていないんだから諦めろ、と言われて
諦められるようなものじゃない」
久弥の言葉は真実なのだろう。少なくとも折戸は真実だと信じた。
191 :
KEY:02/05/31 20:21 ID:m+2SkZy5
Tacticsに入った麻枝は、すぐに『Moon.』の製作に取り掛かった。吉沢に企画の全てを一任された
麻枝は、残業手当の付かない超過労働の繰り返しの日々を送ることになる。
「仕事できる男、それが彼女の好み〜」
その夜も、麻枝は独り開発室に残っていた。
「彼女って誰やねーん!」
思わず自分で自分にツッコミを入れていた。浮いた話はおろか、この業界に入ってからというもの、
私生活という言葉が失われている。
(……いや、別にいいけどな。俺は仕事に生きるのだ。女などいらぬ)
内心呟きながら、椅子を背中できしませる。しばらくの間、麻枝はそうやって椅子を前後させてい
たが、やがて何かを思い出したように立ち上がった。
「誰もいないな……と」
背伸びをしながら、周囲を見回す。開発室に誰もいない事を確認すると、折戸の机に向かって歩き
出した。
折戸の机の上には、音楽製作用の機材がきちんと整理整頓されて並べられてある。塵一つ被ってい
ない機材に電源を入れ、PCを起動させた。
こうして麻枝が深夜に無断で折戸の機材を使うようになって、一ヶ月が経つ。シナリオライターと
して、麻枝はTacticsに身を置く事を認められたのであり、音楽の才能は期待されていない。
『Moon.』の製作でも音楽担当は折戸に一任され、麻枝には機材の一つも用意されなかった。
自分の実力ではどこにも通用しないことを、麻枝は自覚していた。折戸のいるTacticsでは、尚更
麻枝の出る幕はないだろう。
理由を付けて諦められるような夢なら、とっくの昔に捨てている。一度志した音楽の道を捨てる事
は、麻枝にはできなかった。
世に送り出せる形にできなくても構わない。少しでもいいから、音楽の世界に関わっていたかった。
希求はあっさりと罪悪感を飛び越える。折戸の不興を買う事は恐ろしかったが、他に方法が見つから
なかった。
192 :
KEY:02/05/31 20:22 ID:m+2SkZy5
折戸の椅子に腰掛け、電源の入ったディスプレイに向かう。机の上に置かれたキーボードは真新しく、
白鍵と黒鍵の規則正しい配列が蛍光灯の光に照らされていた。
「ふっふっふっ。今夜もハジけるぜ」
悪い事をしていると思いつつも、胸の高鳴りは抑え切れない。自分を鼓舞するように呟くと、白鍵
の上に指を置いた。その瞬間、
「おい。人の机で何やってんだ」
「どわぁぁっ!」
背中から聞こえてくる声に、麻枝は飛び上がっていた。慌てて体を百八十度回転させると、そこには
折戸が立っていた。両腕を胸の高さで組み、折戸は麻枝を見据えている。その視線はいつになく鋭く、
麻枝は自分の行動が折戸の怒りを買ってしまったことを直感した。
「すいませんすいませんすいませんっ。折戸さんの仕事道具を勝手に弄ってたんじゃないんです……
って、いや実際弄ってたんですけど、悪気があった訳じゃなくって……」
ぺこぺこと何度も頭を下げる麻枝の横を、折戸は通り過ぎていく。そのまま自分の机に近づき、
ディスプレイに目を凝らした。
「これ……お前が作ったのか?」
「え? そ、そうですけど……」
ディスプレイに映し出されたシーケンスから目を離さずに問い掛ける折戸に、麻枝は恐る恐る反応
する。その言葉に何も答えず、折戸は眉間に皺を寄せてディスプレイを凝視している。
「おい麻枝。お前、本格的に音楽をやってみる気は無いか?」
その言葉に、麻枝は視線を床に落とした。手拍子で答えられるほど、挫折した過去は軽くない。
「いえ……俺は、音楽は駄目でしたから」
「お世辞にも上手いとは言えないが、磨けば光りそうだ。お前がその気なら、俺の仕事を少し回して
やってもいいぞ」
「本当ですか?」
麻枝の表情にぱっと喜色が差す。
「ただ、今のままでは人様に聴かせられる代物じゃないぞ。曲作りのイロハからみっちり勉強しない
とな」
「よろしくお願いします!」
193 :
KEY:02/05/31 20:22 ID:m+2SkZy5
「折戸さんの教えを受ける事で、俺は再び音楽に関わる事ができた。作曲者としての麻枝准は誰にも
認められなかったけど、折戸さんの編曲があれば、俺の作った曲を皆に聴いてもらう事ができる」
『Kanon』の製作が佳境に入った頃、深夜の開発室で麻枝はそう久弥に語った。
「『KEY』は俺にとって、もう一つの名前だ。折戸さんが俺にくれた、もう一つの名前なんだ。この
名前以外では、俺は曲を作らない。これから先どうなるかなんて俺にも分からないけど、俺はずっと
『KEY』だ」
折戸さんには絶対言うなよ、と付け加えて、麻枝は照れ臭そうに鼻を掻いた。
音楽に疎い久弥には、麻枝が言っていることの大半は分からなかった。折戸の助けが無ければ音楽を
作れないと言い、しかもそれを誇りにさえ思っているような麻枝の言葉は、当時の久弥には弱さの暴
露にしか思えなかった。
ただ、何故か湧き上がった微かな嫉妬心が棘のように心を刺した。
棘の痛みが記憶となり、今日に至るまで久弥は麻枝の言葉を忘れることが無かった。
その記憶を今、久弥は折戸に伝えている。それは、折戸さえも知らない真実の一部だった。
194 :
KEY:02/05/31 20:24 ID:m+2SkZy5
「折戸さんに出会ったから、今の麻枝があるんです。あなたがいなければ、『KEY』は生まれなかった
んですから」
久弥の言葉を聞いている間中、折戸は地面を眺めていた。日の射さない地面に根を生やした雑草が
風に揺れるのを、ただ呆然と眺めていた。
「俺は……俺は、そんな風に麻枝に信頼される資格は無い。麻枝に嫉妬して、麻枝を突き放した。
そして今、俺は……」
「折戸さんがどう思っていても、麻枝にとって一番必要な人は、あなたなんです」
「お前にとって、俺は必要な人間じゃないのか? お前と一緒に行きたかったんだ、俺は」
絞り出された問いは、哀しみの陰を帯びている。問われた久弥の表情も、哀しみを帯びていた。
「僕は独りでいいんです。でも麻枝は違う。麻枝には未来がある。そして、折戸さん達にも」
折戸に背を向け、久弥は歩き出す。
「麻枝は絶対にKeyに戻ります。戻った事を後悔するような大変な仕事が、麻枝を待っています。
折戸さんが側にいて支えてやってください」
折戸は顔を上げようとはしない。地面に落ちた久弥の影が遠ざかっていくのを、ただ見送った。
遠ざかる背中から、再び声が聞こえてくる。
「ありがとうございます。僕と一緒に行こうって言ってくれた時、本当に嬉しかった。その言葉が
あれば、僕は胸を張って終わる事ができます」
「馬鹿野郎!」
CDケースを握った手を大きく振り上げ、思い切り地面に叩き付ける。
無機質な破壊音が、一瞬だけ周囲に反響した。
「どいつもこいつも、俺も、皆、大馬鹿野郎だ!」
叫んでも、影は振り返らない。
遅れまくりましたが、後編です。
何を書くかは決まっているので、気合で終わらせます。
>>195 お待ちしてました。新作お疲れ様です。
頑張って下さい。期待して待ってます。
久弥、終わらないでくれ。
ああ、なんか格好いいなぁ。よし、このネタもらいっ(えー)。
197 :
かませ犬:02/05/31 21:18 ID:zmZwJFdS
>195
感涙。
ありがとうございます。
素晴らしい。
ほんとうに。
>>195 ああ、待ったかいがあるってもんだよ…。ワショーイ!
KEY編キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!
自分だけ今日は祭り気分です。
>195
また書いてくれてありがとう。
読めて、すごく嬉しい。
やべえ、久弥抱きたい抱かれたい。
凄すぎ。このSSの前ではどんな言葉も嘘になる。
いやなんつーか、なんつーか……
自分は何の為にSS書いてんだろーな、ったくよー(;´ー`)y-~~
と思わずにはいられんですな……
久弥がかっこよすぎて吐くほど震えた……
男とは斯くある可きだなと痛切に思う。
204 :
京大繭:02/06/01 17:21 ID:RxVXFFyq
>195
ずっと待ってました。
続きを読めて本当に嬉しいです。
最終回期待保守。
がんがれ
207 :
名無しさんだよもん:02/06/02 20:51 ID:865U7Cv7
126>>
R氏に関しては少し同意。
トータルの話になってそれるが・・・
ちなみに俺の意見として、だーはらの時の一人称(中尾もあったね)の時と
その他の3人称を比べるとどうも一人称の方がしっくりきている。
(つまりだーはら中心に書いている時が内容の濃度があるって事)
R氏の書く話自体は嫌いじゃないのでこれからも期待するところ。
一読者としてこれからも楽しんで読ませてもらいます。
それにしてもよく無料で書くね。好きじゃないとやっていけないか・・
あげです
保守
メンテ
sage
保守
メンテ
俺、ID:m+2SkZy5さんが
今までのを編集して(つまり同人誌で)売ってくれたら、
買うけどなあ。マジで。
紙媒体には、ディスプレイにはない価値があるし、
いいもん読ませてもらったんだもの、還元しないと。
でも、コレに目をつけて騙りが、勝手に作って売りやがったら
我々はそいつらを力任せにブン殴りつづけることだろう。
sage
ホシュ
保守
Leaf木村氏ネタ希望保守
保守
無人となった河原に、折戸が一人立ちつくしたその頃、麻枝も果物屋の店頭で立ちつくし、途方に
暮れていた。
「……一体何を買っていけば、いい見舞いになるんだ」
世界中から輸入された果物が陳列された店頭は、さながら果物の万国博覧会のようだ。
(体調を崩した人への見舞いなんだから、精の付く物を買った方がいいか。例えば……)
「涼元さん、本当にすまない。俺が涼元さんに仕事を押し付けたりしなければ、こんな事にはならな
かったのに」
「気になさらないでください。季節の変わり目は、いつもこうなんです。ただ今回はちょっと重かった
だけです」
「とにかく、今はゆっくりと休んでいてください。一日でも早く体を治すのが先決だ」
「はい……ところで、あの、麻枝さん?」
「どうかしましたか?」
「麻枝さんが持ってこられたあの籠の中に、何か入っていますか?」
「あ、忘れてた。今日は涼元さんに見舞いを持ってきたんだ」
がさごそと籠を漁ると、中から子供の頭ほどの大きさの球体を取り出した。
「何ですか……それは?」
涼元は思わず口元を手で押さえる。
「ドリアンです。ビタミンが豊富で強精効果のある、果物の王様だ」
「いえ、成分を聞いているんじゃなくって、その、臭いは」
「これですか? 確かにうんこの臭いがしますけど、中身はうんこじゃないですよ。ほら」
懐から金づちを取り出し、果殻を叩き割る。もわっと音がして、臭いの煙が病室に充満した。
「丁度食べごろみたいですね。早速切り分けて、一緒に食べましょう……って涼元さん?」
涼元は白目を剥き、口から泡を吹いていた。
「涼元さんっ! 涼元さーんっ!」
(……何故、俺は見舞いに行って体調を悪化させているんだ?)
シミュレーションは失敗に終わった。
「何にするんだい?」
次のシミュレーションに取り掛かろうとする麻枝に、果物屋の店長が声を掛けてきた。
「見舞いに果物を買っていきたいんだが、店長のオススメは何だ?」
麻枝の質問に、店長は破顔一笑する。
「特にオススメはないな。強いていえば全部オススメだ。うちは自信のあるものしか店には出さない」
ぐるりと店内を見回して、言葉を続ける。
「何でも薦められるんだが、やっぱり好き嫌いはあるからな。あんたが見舞おうとしている人はどん
な果物が好きなんだ? 好きな物を買って行くのが一番だろう」
店長の言葉に、麻枝は一瞬面食らったような表情を浮かべる。
「……分からない」
「分からないのか?」
「分からない。涼元さんは何が好きで、何が嫌いなのか分からない。俺はあの人の事を、何も知らない」
そう呟くと、麻枝は俯いた。
「おいおい。見舞いに行こうって人間が、そんな辛気臭くってどうする。兄さんは今から病気の人
を元気付けに行くんだろう? それならもっと明るくしねぇと」
言いながら、店長は麻枝の背中をぽんと叩く。麻枝もそれに応えて、顔を上げた。
「あぁ、そうだな、おっさんの言う通りだ。でも、結局何を買って行けば良いのか、全然決まらないぞ」
「相手の好みが分からなければ、絨毯爆撃しかないな」
「ぐお……重い」
背中にずっしりと圧し掛かる籠の重みに、麻枝はふらついた。一昔前の薬売りが背負っていたような
巨大な籠は、背負う麻枝自身よりも大きい。
「あの親父に騙された気がするぞ……」
店長の言う絨毯爆撃とは、店に置いてある果物を全種類一個ずつ買っていくことだった。確かに
この方法なら、どれか一つは涼元の好きな食べ物に当てはまるだろう。店長自慢の豊富な品揃えを
一通り収納するだけの籠は、とんでもない大きさになってしまったが。
バランスを崩さないように一歩一歩を踏みしめながら、ゆっくりと麻枝は歩いていく。この籠の大
きさではバスにもタクシーにも乗ることができない。走っていけば五分も掛からない病院への道のり
が、今の麻枝には無限の長さに思えた。
一時間は掛からなかっただろうか、麻枝はようやく病院の玄関前に辿り着き、荒い息を吐いていた。
足元に籠を下ろし、紐の食い込んだ肩を手でさする。自動ドアの向こうから、母子が怪訝そうな視線
を麻枝と籠に送っていた。
「二○三号室だったよな、確か」
そう呟いて、麻枝は病院の建物を見上げる。昨日は深夜だったため分からなかったが、昼間の今見
ると、いかにも病院らしい真っ白な建物だった。玄関前に植えられた大きなクスノキが、三階建ての
病院とほとんど変わらない高さにまで背丈を伸ばしている。太い幹に支えられて樹幹は広がり、枝が
病室の窓にほとんど覆い被さっていた。
「面会時間はまだ終わってないよな」
曇り空から今の正確な時間を推測することはできないが、まだ空には明るさが残っている。
麻枝は再び籠を背負い、自動ドアの前に立つ。ドアは音も無く開き、病院特有の薬の匂いが麻枝
の鼻腔を刺激した。
「面会謝絶……って、一体どういう事ですかっ!?」
涼元のいる二○三号室に行こうとした麻枝を引き止めた医師に、麻枝は噛み付いていた。
「言葉の通りです。涼元さんは今、誰とも面会できる状況にありません。申し訳ありませんが、今日
はお引き取りください」
医務室の椅子に腰掛け、若い女の医師は無機質に答える。
「そんなに、そんなに悪いんですか?」
「いえ、入院原因は過労による精神と肉体の疲労です。特に悪い病気を患われているという事では
ありません」
不安を剥き出しにする麻枝に、医師は諭すような口調で説明する。だが、麻枝はそれに納得しない。
「それなら別に面会謝絶にすることは無い。今すぐ会わせてくれ」
「ついさっき、鎮静剤を注射したばかりです。涼元さんは今ぐっすりと眠っておられます。ですから、
貴方が会っても何にもなりません」
「鎮静剤だと? 何故、過労で入院した涼元さんに鎮静剤が必要なんだ」
医師は少しだけ眉をひそめると、やはり無表情な言葉で麻枝の問いに応じた。
「酷く暴れられたからです。絶対安静の容体なのに、今すぐ退院しようとして、ベッドに寝かし付け
ようとする看護婦を突き飛ばしました」
「いい加減な事を言うな。涼元さんがそんな事をするはずがないだろう」
麻枝の視線が敵意を帯び始める。まるでそれを意に介さない様子で、医師は言葉を続けた。
「いえ、事実です。主治医の私が実際にその現場に立ち会っています。鎮静剤を注射したのも私です。
涼元さんはこう叫んでおられました。『こんな事で休むような人間に、麻枝さんのパートナーが務ま
るものか。例え四十度の熱があっても、あの人は仕事を放り出しはしない』、と……どう思いますか、
麻枝さん」
「……」
「涼元さんが倒れられた原因は、貴方にあるのではないですか? 病気を治す事だけが医師の務めで
はありません。病気の原因を調べ、その原因を患者から取り除く事も医師の仕事です。今の涼元さん
に貴方を会わせるわけにはいきません。私の務めは涼元さんの望みを叶えることではなく、涼元さん
の健康を回復させることです」
唇を噛み、拳を握り締める麻枝を、麻枝と年のほとんど変わらない女医は冷たく眺めていた。
「貴方が持ってこられたお見舞いの品々は、私が涼元さんに渡しておきます。今日はもうお帰りくだ
さい」
がさっと音がして、夜の闇に葉が揺れた。葉擦れの音に紛れるようにして、麻枝は枝を伝い、木を
登る。小枝が頬を引っ掻き、葉が顔に張り付く。子供の頃によくしたのとは、まるで勝手が違った。
「いてっ」
小枝が右の眼球に引っ掛かった。目をこすりながらも、足がかりになりそうな木の枝を探す。
体重を預けても大丈夫そうな太い木の枝に体を預け、ゆっくりと前に進む。眼前を覆う葉の密度が
次第にまばらになり、視界が開けた。
目の前には病室の窓があった。自分の目視が正確であったことに、麻枝はほっと息を吐く。
枝の根元が軋む嫌な音を背中で聞きながら、ゆっくりと窓に近づく。運のよいことにカーテンは開
けられていて、病室の中は外からでも見ることができた。
窓枠に切り取られた病室の光景は、静けさと冷たさに満ちていた。電気の消えた病室内を、月の光
だけが照らしている。海の底のようにほの暗い空間に一人、涼元は眠っていた。
「……っ!」
麻枝は思わず窓ガラスを叩きそうになるのを堪えた。震える手が窓ガラスにそっと触れる。
白いシーツの敷かれたベッドの上で涼元は眠っている。寝息に合わせて胸の辺りが上下するのが窓
ガラスの向こうからでも確認できた。
「涼元さん……」
窓の鍵は閉められていて、麻枝には窓ガラスの向こう側から涼元の名を呼ぶことしかできない。
呼びかけにもなっていない、か細い呟き。それが今の麻枝に許された唯一の行動だった。
「分かっていたんだ。俺の勝手な行動が、あんたを追い詰めていたことは」
鎮静剤によって強制的に眠らされた涼元に、麻枝の言葉は聞こえていない。ひびわれた唇の隙間
から寝息がもれ、痩せこけた頬が月に照らされていた。
「あんたが小説家の地位を捨て、Keyに来たのは久弥に会うためだ。俺のためじゃない。それなのに、
あんたは俺の助けになってくれた。それなのに、俺は」
自分は何を涼元に報いたのだろう。
べき。
窓ガラスに張り付いた麻枝の後ろで、何かが折れる音がした。
「何だ?」
悪い予感を抱きながら、麻枝は後ろを振り返る。
悪い予感は的中していた。麻枝の体を乗せている枝が、麻枝の体重に耐えかねて根元から折れ始め
ている。剥がれるようにして根元が揺らぎ、枝がいびつにしなった。
「マジか……」
呆然と呟いた瞬間、一気に根元がもげた。
「誰だ!?」
警備員の叫びが反響する。病院のシンボルでもあるクスノキから、何かが勢い良く落下したようだ。
音のした方向へ、警備員は慌てて駆け寄る。懐中電灯で地面を照らすと、そこにはぽっきりと根元
から折られた太い木の枝が転がっていた。
「誰かいるのか?」
叫んで、懐中電灯を上に向ける。光に照らされて、木の葉が鮮やかな緑色を見せていた。
警備員は懐中電灯であちこちを照らしたが、人がいる様子はどこにもない。
「元から腐っていたのか?」
疑わしげに呟くと、木の枝を手に取る。樹木の知識に乏しい警備員には、その枝が自然に折れたもの
か、何らかの物理的要因が折ったものか分からなかった。
不審に首を傾げながら、警備員は木の下から立ち去っていく。懐中電灯の光が遠ざかると、辺りは
再び暗闇に包まれた。
夜に溶け込んだ大木のてっぺんで、麻枝は空を眺めていた。折れた枝からとっさに飛び移り、警備員
の目の届かない場所に逃げ込む過程で、体のあちこちに引っ掻き傷ができていた。頬に引かれた赤い線
からはまだ血が流れている。頬を伝う血を拭いもせず、麻枝はただ空を眺めていた。
「馬場は俺をKeyに復帰させると言った。吉沢さんも久弥も切り捨て、俺一人を自分の手駒にするつもりだ。
あの男にとっては、涼元さんがこうなった事さえも計算の内かもしれない」
言葉は空に消え、何も返ってこない。汚れた空に半月が浮かび、くすんだ光を放っていた。
「俺は嫌だ。大切な人を苦しめ、踏みにじってまで、この世界に生き残りたくはない」
それが絵空事でしかないことも、麻枝は知っていた。自分が意志を貫いていく限り、自分に関わる
人は傷付いていく。まるで、それが当然の理であるかのように。
「許してくれとは言わない。憎んでくれて構わない。だから」
空に浮かぶ半円に、祈りを捧げるように呟く。
「だから、これ以上の苦しみを、誰にも与えないでくれ」
錆びた金色が滲んでちぎれて、雲影に消えた。
後一話。
気合じゃーっ!
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!
夜の月が朧げな光を放ち、景色は荘厳な雰囲気を醸し出している。
黒い空を動く灰色の雲は徐々に月明かりを遮り、辺りは闇に包まれた。
目を凝らすと、雲の隙間から幾つもの星が見える晩だった。
暗闇に映える幾千万もの星の下、男たちは再会した。
軽やかな足音と柔らかな風を纏い、高橋龍也は約束の場所へと辿り着いた。
「高橋、何の用だ」
夜空に散りばめられた星の元に、水無月徹は招かれた。
水無月は顔に彼特有の笑みを浮かべて、高橋に近寄っていった。
高橋と会えた事に対する彼の喜びが伺えるかのような、特徴的で朗らかな笑みであった。
「まあ、本題に入るのはそこらを散歩してからでも構わんだろう?
とりあえず、歩こう」
高橋はそう言って、水無月は共に歩き出した。
夜も蒸し暑くなってきているな、と歩きながら高橋は思った。
歩き出して二分ほど経った。会話はまだない。
水無月は待ちきれないかのように口火を切った。
「そろそろいいだろう、高橋。オレもそんなに暇じゃないんでね」
「そうか。じゃあ、言おう」
高橋は蒸せる空気を吸い込んだ後、こう言った。
「水無月。もう一度、やってみないか。俺たちのこの手で、ゲームを作ってみないか」
高橋はそう言って、水無月の手を取った。
そうして高橋は水無月の眼を視る。
高橋の眼を一度凝視した水無月は、その強い眼光に耐えられないかのように目線を虚空へと反らし、高橋の手を振り
払った。
「オレは嫌だね。もういいじゃないか。オレたちの時代は、終わったんだ」
水無月は目線をあらぬ方向へと向けたまま、そう言った。
月がその身を雲に隠した。
黒一面の空間の中、高橋はもう一度水無月の手を取った。
固く強く、二度と離さぬように。
「お前の眼はそう言ってない。お前の手はそうは言ってないぞ」
「なん、だと」
水無月の反応に、高橋は拳に力を入れた。
鍛え上げられた力の中には優しさが込められていた。
高橋は水無月の眼をじっと視た。
「お前の眼はまだ開いている。逸らしているだけで、死んじゃあいない。
俺たちが一緒にいた、あの頃の眼だ」
赤子を諭すような優しく低い声で、高橋は水無月へと話し出した。
「違う、俺は変わった!」
高橋の言葉が気に障ったのか、水無月は声を荒げて反論する。
顔は強張っていた。
「手が震えてる。俺にまで震えが伝わってくるぐらいに」
必死に振りほどこうとする水無月の手を、高橋はぎゅっと握り締めていた。
水無月の冷たい手に、高橋の手の温度が奪われていった。
「そんなことは、ない……!」
口元を吊り上げ、水無月は必死に否定した。
縦に横に、二つの腕は振り回される。でも、まだ離れない。
まるで自分の命を水無月に託すかのように、高橋はさらに強く握り締めた。
雲は変わらずぬるい風に流されていた。
「お前の描くキャラには魅力があった」
「離せ!」
「決して巧いとはいえないが、人を幸せにする魅力があった」
「早くこの手を離せ!」
言うと同時に水無月は高橋に蹴りを入れた。
それでも手は離れない。
「お前の手は絵を描いていたあの頃のままの手だ」
「離して、くれよ…」
水無月は握られていない片方の手で必死に高橋の腕をもぎ取ろうとしていた。
でも、まだ。
「生き生きとしたキャラを創っていた、あの頃とちっとも変わっちゃいない」
「オレは変わったんだ! 変わったんだよ!」
「いいや、変わっちゃいないんだ。お前が気付いてないだけで。
だって、お前―――」
漆黒に塗られた雲が動いた。
月明かりが差し込んだ。
天の一角に満月が耀いた。
「会った時、あの頃の笑顔のままだったから。
そして今、あの頃の顔のまま、泣いてるからさ―――」
月光に照らされた男の頬には冷たい雫が流れ落ちていた。
男は手を握り締められたまま、微笑を浮かべながら泣いていた。
「馬鹿、泣く奴があるか」
複雑な感情が絡み合い、水無月は幾粒かの涙を流した。
己の本心を気付かされた。自分の未熟さを知った。
自己の仕事から逃げてきた自分が悔しかった。
そして何より、高橋がこのような言葉をかけてくれたことが嬉しかった。
未だ自分達の友情は続いているのだと確信した。
そう、あの頃のままに。
「ああ、オレは馬鹿だ。どうしようもないぐらい、救い様の無い馬鹿だよ」
でも、そう水無月は付け加えた。
「オレはとんでもない馬鹿だから、もう一度、夢を見ようと思ってしまったじゃあないか―――」
水無月が月を見上げた。
満月はその光を水無月の眼に移し変えていた。
「水無月…」
高橋は強く握り締めていた拳を漸く解放した。
そうして、帰ってきた友人に祝辞を送った。
「お前は変わらないな、水無月。
会った頃とちっとも変わっちゃいない馬鹿さ加減だ」
水無月はその顔に笑みを形作り、高橋に言い返した。
「お前もだよ、高橋。いや、前以上だ。お前はさらに馬鹿になったな」
「うん。そうだな、俺は少しだけ変わったと思う。
以前の俺は、功名心と名誉欲で動いていたが―――。今は何よりも、シナリオを書きたい。
ちっぽけな俺の手だが、この手で人に何かを与えたい」
「はは…、馬鹿は馬鹿同士、考える事も同じということか」
彼らはこうしてお互いの強い思いを確認した。
再起を決意した水無月の耳に、高橋の声が木霊した。
「俺たちが目指した未来はまだあそこにある。
行こう。Leafに」
月が満ちた夜、二つの影は共に歩き出した。
key編
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!
と、思ったら・・・
leafもキタ━━(゚∀゚)━━( ゚∀)━━( ゚)━━( )━━( )━━(゚ )━━(∀゚ )━━(゚∀゚)━━━!!!
頑張って下さい、お二方!
だーまえも高橋もキタ━━(゚∀゚)━━( ゚∀)━━( ゚)━━( )━━( )━━(゚ )━━(∀゚ )━━(゚∀゚)━━━!!!
最高。抱かれたい。
238 :
名無しさんだよもん:02/06/07 22:48 ID:FKtIz1e1
保全age・・・みんな最高ダヨ・・・
このスレッド超最高。
神々が舞い踊るスレッド……
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!
紙媒体で読みたいな…これ。
利権とかうまくまとめて出版できんだろか。
「利権」はまずいやろ。この場合は「権利」と思われ。
捕手
___ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
/´∀`ヽ < 落とすわけにはいかないです、はい。
|.|メ /:;|::| \
~|_Y_|~ \
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
245 :
名無しさんだよもん:02/06/10 00:00 ID:M6Tg2CmK
LEAFもKeyもいいね。
246 :
名無しさんだよもん:02/06/10 19:24 ID:/OYMZfRL
age
まだおちんよ
メンテ
涼元ちんってニチャンネラなのね。HPにかいてあったメンテ。
メンテ
良スレ保全sage
まだまだ
保守
完結するまでは落としてはならぬ。
「行くぞ、水無月」
自らの居場所を探して流転してきた男達は、かつて己が進んで身を置いた場所へと帰還しようとしていた。
「ああ」
確りと顔を上下に振り、水無月は肯定の意志を示した。
一歩一歩、踏み締めて行くかのように、二人の男は巨大な建造物へと歩み寄って行く。空には無慈悲にも照り付ける陽が存在し、彼らの背中を熱していた。
手には微熱を、胸には決意を抱きながら、男達は数年前自分達が跡にした建物の前へと向かって行く。酷く湿った空気を肩で斬りながら。
厭に懐かしい歩道を二人並んで歩き、目的地である会社から出てきた何人かの人物とすれ違う。しかし彼らはその歩みを止める事無く、扉の前に立った。
自動式のドアが開くのを少し待った後、男達は同時にその扉を潜り抜けた。
暫く待たされた後、彼らは面談の了承を得た。案内されて辿り着いた先は忘れもしない彼の部屋であった。案内してくれた女史は、ここです、と言った後、もと来た道を帰っていった。
「ここからはオレ達二人で行けという事か…」
扉の前で水無月は呟いた。高橋はそれに頷くと、扉の取ってに手を掛け重々しい扉を徐々に開いていった。二人とも、何故か心臓が跳ねていた。
やがて二人の眼に入ってきたのは懐かしい男の顔であった。手を組み、片方の口元を微妙に吊り上げながら、男は、
「お、久しぶりやなあ」
と陽気な声を張り上げた。
「…ああ、久しぶりだな、社長」
こうして再会劇の幕は切って落とされた。
「あんたに話があってここまで来た」
部屋に入ると同時に、高橋は静かに男へと呼びかけた。下川は微笑を高橋へと投げ掛ける。その表情は高橋に懐かしい不快感と、少しの罪悪感を与えた。
「相変わらずせっかちな奴や。で、用件てのはなんや、高橋、水無月」
下川は破顔して両者に質問をした。
「社長、俺たち、ここに戻っても良いだろうか」
「―――うん?」
突然の願い出に得心出来ないかのように、下川は首を斜めに傾ける。念を押すように、水無月がもう一度同じ言葉を繰り返した。
「もう一度、雇ってくれないかと言っている」
「雇う…? お前らを? 嫌気が差して辞めたお前らを?」
「…そうだ。何とか出来ないか?」
「出来ないっちゅうこともないんやがなぁ…」
下川は眉間に皺を寄せて高橋の方を睨み見た。
「お前ら、ここが厭で辞めたんやろ? 今更、何で戻って来るんや?」
下川の問いも真っ当なものだと高橋は思った。勿論、それは聞かれるだろうと事前に予測はしていたが、どうもそれを言う事は憚られた。どうも気恥ずかしいところがあるからだ。だが、言わねばならない。そう高橋は思った。
「……創りたい」
高橋は小声でそう言った。
「ん? 何て言った?」
「ゲームを、創りたい」
今度は明瞭な声でそう宣言した。
「何やて?」
それでも聴こえなかったのか、下川は再度言うように促した。
「ゲームを創りたいんだ!」
高橋の代わりに水無月が大声でそう叫んだ。その声の度量はこの部屋の壁を越えて、廊下を歩く社員にも聴こえてしまうぐらいの大きさであった。
「そうか……」
と、下川は漸く彼らの意志を汲み取った。それから少し考えて下川はこう言った。
「でもな、それなら何でここである必要があるんや? Leafでなくともお前らなら引く手数多やろ」
その答えも既に彼らの心中にあった。自分達のあるべき場所は此処であるという確信があった。
「仲間、だよ」
力強く水無月がそう断言した。
「うん? もう一度言ってくれへんか?」
下川は再び答えることを促した。この辺りで、高橋は奇妙な違和感を覚えた。しかしそれを気の所為だと思い直し、こう言った。
「仲間と一緒に仕事がしたいんだ。駄目だろうか」
「すまん、もう一回」
ふざけているんだろうか、と高橋は思った。下川が自分達に聞き返す回数が多すぎる。高橋の胸中にある不安がよぎった。まさか。
―――試してみよう。
高橋はそう思った。
「かつての仲間と一緒に仕事がしたい」
今度は高橋がわざと小さめの声でそう言った。案の定下川は、
「もう一回」
と聞き返してきた。
この答弁で高橋は益々不安になった。己の予想が当たっていれば、彼は。水無月もそれに気付いたのか、強張った表情の中に戸惑いの色を見せていた。高橋は下川にこう問うた。
「社長、いや、下川さん、あんた―――」
一息置いて、高橋は続けた。そうであって欲しくないと思いつつも。
「あんた、もしかして、耳が」
高橋は悲愴な声でそう言った。反論して欲しかった。だが、下川は彼の問いにこう答えた。
「うん? 何や?」
悲しくも、彼の予想は的中していたのだった。
「……分かってしもたか。
まあ、いつか分かるか」
ふぅ、と胸に詰まった空気を吐きながら、下川は高橋の疑問に答えた。
「ああ、そうや。俺、耳悪なってん」
あっけらかんと下川は言った。しかしそれは高橋らにとって衝撃的な言葉であった。
「いつの間に―――」
彼を哀れんでいるかのような眼をした水無月は下川にそう問うた。
「さぁなぁ、まあ心辺りが無いといったら嘘やな。
To Heartの製作中、ちょっと金が足りんようになってなあ。そん時、ちょっとヤバい所にお金を借りに行ったんや。
で、期日までに返せへんかって、相手に殴り蹴りされてなあ」
いい思い出やなあ、と下川は笑った。
高橋は過去の製作時のことを思い出した。製作期間中も給料は貰っていたことは慥かに覚えている。
そして平社員であった高橋にもその時の会社の状況が切迫しているものだと実感はしていた。しかし、気に留めることは無かった。大丈夫だ、と社長と下川が言っていたので、それをそのまま鵜呑みにしていた。
下川の話が本当だとすると、彼は自分達の知らないところで酷い苦労をしていたことになる。
―――まさか。そんな。でも、彼はこうして―――
「どうして。どうして!」
水無月は叫んで、下川の胸倉を掴んだ。座っていた下川を上から睨むような形になった。
凄味のある顔で睨まれているにも関わらず、下川は呑気にうーん、と一唸りし、水無月を見上げた。その表情は一瞬にして真面目になり、筆舌し難いほどの覇気に満ち溢れていた。
「あんな、水無月。男の仕事っちゅうのは、命懸けでやるもんやで」
そう下川が言うと、水無月はその手を放した。彼は目の前の人物への不可解な言葉に戸惑いを感じているようだった。下川はそんな水無月を上目遣いに優しく睨み、こう言った。
「俺が傷を負ったのは慥かや。
でもな、それだけやない。この傷には誇りがある。それは命を賭けたという誇りや。
やからこれは一生自慢できる傷なんや。…どうや、羨ましいやろ」
ふふん、と息を漏らした後、高橋に眼を向け、下川は続けた。
「俺はこの痕を恥じてないし、後悔なんてしてない。むしろ勲章やと思っとるんやで。
お前らが気にする必要はいっこも無い」
わっはっはと彼は笑った。その声は実に軽やかな彼らしい声であった。
その笑いを遮るかのように、高橋は大声で叫んだ。今日少しだけ持ち合わせてきた彼への憎しみは既にどこかに破棄されていた。
「…あんたは馬鹿だ。大馬鹿だ!」
「くくく、”類は友を呼ぶ”や、高橋。
こうして戻ってきたお前も大馬鹿もんっちゅうことやな」
下川の軽口を無視して高橋は続けた。
「あんたは音楽屋だろう! 耳が聴こえなくなったら、もう―――」
「聴こえなくなったんやないで。聞こえにくくなっただけやがな。
ちょっと人様に大きな声で話し掛けてもらうかすれば大丈夫や」
「でも、音楽は―――」
「うん。たしかに俺はもう音楽を創るのは難しい。やけど、ゲームを創る事は出来る。
何も、ゲームの開発に携わるのだけがゲームを創る事やないことを、お前らも知っとるやろ」
陽気に彼はそう言った。
「広告やら資金繰りやら、色々せなあかん。俺はそういう黒子の仕事も遣り甲斐があると思とるよ。
何より―――そうやって人を支える事が出来るのって、素晴らしいと思うんや。
それに気付くまで、俺は一人の力だけでこの仕事やってきたと思ててんけど、そうやなかった。やっぱり一人じゃ何も出来んと分かった。必ず支えは要る。今まで無茶やって支えてもらってきた分、今度は俺が支える番になろうと思たんや」
彼は微笑を浮かべ、そう言った。
「うーん、久々にお前らと話したなぁ……」
下川は一旦気伸びすると、黙っている高橋達に強めの声でこう言った。
「それじゃ高橋、ユーザ様への落とし前、きちんとつけてこいや」
「じゃ、じゃあ―――」
「ああ、お前らのやりたいもんやらしたる。
やりたいもん、言うてみい。すぐにプロジェクトチーム創ったるわ」
くくく、と別れた頃と代わらない笑い方で彼は笑った。心底嬉しそうな笑みだった。
「社長、いや、下川さんと呼ばせて貰う。俺たちは」
一呼吸置くと、高橋は目を大きく見開き、自分の考えを口に出した。
「もう一度、痕を創りたい」
「…なんやて。
今更何で痕なんや。もっと違う、例えばビジュアルノベルの新作とかあるやろ」
「いや、下川さん、俺たちはもう一度此処から始めるべきだと思う。
仲間たちと過ごしたあの日々を取り返したいと思うんだ。
前に進むのは、それからでも遅くない」
ふむ、と下川は数秒考えた後、高橋らにこう返答した。
「そうか……。
分かった。OKや。今すぐに手配する。そうやな………五月末あたりに発表できるよう、手はずを整えておこか」
「……ありがとう」
「いいんや。
俺はお前らが戻ってきてくれて本当に嬉しいと思ってるねん。
そうや。ついでにVNの新作も発表しよう。お前、何か案はあるか」
「そう言うかと思って、用意してきた。
―――ルーツ。R,o,u,t,e,s。俺たちが歩んでいく”道”。新たな始まりには丁度いいと、俺は思う」
青空の下、果てしなく続く道を想像し、下川は一人溜息をついた。希望と喜びに溢れた道を、再び自分達が歩んでい
く様を描くと、自然に顔が綻んだ。
「うん、それがいい。それでいこ」
にこりと微笑んで、下川は彼らの提案を飲み込んだ。
彼らが辿る道は何処までも続いていく。それは決して平坦ではなく、きっと苦難も待ち受けているだろう。
「…今夜は肩を並べて飲もか、久々に」
山があって、谷があって。時には誰かが転ぶかもしれない。
「そうだな、下川さん。いいよな、水無月」
でも隣には大勢の仲間が居る。彼らが必ず助けてくれる。彼らと分かつ喜びがある。
「ああ」
彼らは同じ思いを胸中に秘め、紅く赫く日輪に目を細めた。
「さあ、行くで!
馬鹿たちの再出発や!」
三人の影が交わったと同時に、扉を開く強烈な音がした。
「た、高橋さん―――!」
さて、こちらも後一回。気合気合。
あんまり俺を感動させないでください。・゚・(ノД`)・゚・。
日本勝利記念保守
ヤベェ・・・鍵編も葉編も良すぎる・・・・・・。
下川はん・・・
るおおおおおお!
激しく萌え燃えッ!!
……しかし。
現実も、これくらい綺麗だったらいいのに……。
……そう思わないかい……美咲さん……
順調にsagaってきてるねぇ。
なんで、こんなに、熱いんだろう。
たぶん展開的にはありきたりだし、文章技法とかもダントツに上手いわけでもないと思うんだよ。
それなのに……なんでこんな、心動かされるんだろうなあ。
これは仮想戦記以外にも、スタロワとかでも思ったことなんだけどさ。
271 :
口火:02/06/16 17:06 ID:G453OJwJ
夕日が沈み白色光の街灯だけが僕を照らす。
中尾さんが住んでいるアパート周辺は、立地条件としてはいいものの薄暗くて適わない。
トロトロと関西スーパーの袋をぶら下げ歩く。
本当ならあんな事があった日っていうのはもっと警戒してもいいのだがそういう気分でもない。
そうこう考えているうちにアパートに着く。
古ぼけた木製のドアノブを捻って開ける。
「ただいまー」
僕は何事も無かったかのように淡々とした口調で言うと中尾さんも普通に言う
「お帰りなさい原田さん、いやーすいませんねぇ。遠出してもらって」
「気にしない事です、ここでお世話になっているのですから。僕は」
靴を脱ぎ買い物袋を机に置く。
そんな、日常と非日常が入り混じる世界から…
原田宇陀児
272 :
口火:02/06/16 17:07 ID:G453OJwJ
袋から飲料水・インスタントラーメン・スナック菓子を取り出し中尾さんに渡す。
ああ…そうそう
「鯛焼き買ってきましたよ。ホラ、ちょっとミニですけど4つもあれば十分ですよね?」
「4つもあれば十分『うぐぅうぐぅ』できますよ」
ニヤニヤしながら笑う中尾さん、ちょっと怖い。
「これで当面は食糧難にはならずに済むね」
「まったくです。買出しご苦労様でした」
そういって飲料水を冷蔵庫に入れる。
「んじゃ早速ですけど、どうしましょうか?時間も7時ちょいと夕食には丁度
いい感じですけど」
「そうですね、それじゃお用意の方、お願いします」
中尾さんは台所から奥の部屋へ行ってしまう。
そして僕は買ってきたばかりの鯛焼きを二つばかり取り出しレンジに入れる。
流石にこれだけでは夕食とは言い切れないのでインスタントラーメンでもしようかと思ったがちょっとだるいので冷蔵庫にあったそばめしをフライパンに入れて火を通す。
何事も無かったかのように時は過ぎて言った。
273 :
口火:02/06/16 17:08 ID:G453OJwJ
ふと思う。
おやびんと出会った事、まあおやびんはいいとして
問題なのは突如現れたミキハラと言う男。コナミサイドの事だ。
前に中尾さんが言っていた『ときめも12人衆』というのが実在した事、
そして僕の前のその一人が現れた事(いや、弱かったが・・・)
とにかく、これから何があってもおかしくない。そしてこれが戦いの序曲なの
だろうと考える。
まだ、あと11人残っているのかと思うと少し気が滅入る。
今日は一人だったからなんとかなった。
だが、仮に複数が一挙に僕に襲い掛かって、しかも強さ的にもミキハラよりも
上だったらどうしようか?イヤイヤ、既に結論は出ている。
戦う・倒す・排除する
それだけの事だ。
274 :
口火:02/06/16 17:09 ID:G453OJwJ
ただ、問題はその先の事だ、『ときめも12人衆』を全員倒したとしても、その先には何があるというのだろうか?いや、ただの報復合戦にもなるかもしれないし案外、闇に葬って事実を消して手を引いてくれるのかもしれない。
または他のコナミサイドが首を突っ込んで泥仕合になるとも考えられる。
その時に僕は終わりなき影の戦争に勝利できるだろうか?
案外、leafがVNの版権を放棄すればすんなり解決するのかもしれないが
そうもいかないのが企業倫理というやつだ。
別にLeafを辞めたことにもう後悔はないしあの会社がどうなろうとも僕に
害はない。
ただ、一つ言うのなら気分は悪い。
色々あったが、やはりかつては務めていた会社なのだ。
それをなんとなく高台から見下ろすように侮辱しているみたいで嫌な気分にさせる。
そして自分の身に振りかかる選択肢は考えうる限り出して想定しておいたほうが僕としても動きやすい。
そうこう考えているうちに体はそばめしを完成させ、鯛焼きをレンジから取り出している。
皿にそばめしを乗せて奥の部屋へ持っていく。
「出来ましたよ」
鯛焼きとそばめしを中尾さんの目の前に置く。
「どうも、それにしても微妙な食い合わせですね。中々こういう人はいないでしょうね」
「そうだね」
こうして僕と中尾さんは夕食を口にした。
275 :
口火:02/06/16 17:10 ID:G453OJwJ
淡々と食べ物を口に運ぶ中尾さん。鯛焼きを口に運び
「うーぐー」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
冷たい視線で僕は中尾さんを見つめる
「…ん!何ですか原田さん?」
「いや、楽しそうだなって」
「そうですか?ただ食事をしているだけですが…」
「僕にはそう映ったんだ。気にしないでくれ」
「…はぁ」
気の無い返事を返す中尾さん。
そうして再び食事に戻る。
そして考える。先程の事を中尾さんに伝えるべきだろうか?それとも自分で解決すべきだろうか…
いや、ここはやはりどうあれ伝えるべきだろう。
そう決意すると僕は口を開き
「中尾さん」
「はい」
「聞いて欲しい事があるんだけど…」
「何ですか?」
真剣な顔をして僕は
「『ときめも12人衆』って本当にいたんですねぇ〜」
「……」
突然、食事をしていた中尾さんの手が止まり僕の顔を見つめた。
それも少し怖い表情で
276 :
口火:02/06/16 17:14 ID:G453OJwJ
「いや、まあ明瞭簡単に言うとだね、実は伊丹の関西スーパーで買い物して
た時にだね、おやびん(一一)と会ったんだ。まあそのまま無視するのもな
んだし『少し話さないか』なんていわれたんで僕はそのまま買い物を済ませ
て近くの公園に言ったんだ。そしてくだらない話をしていた時にさ突然おや
びんが『もう一度Leafの為に働かないか?』だよ!まったく無神経とい
うか何と言うか・・・流石の僕も怒って帰ろうとして時に『ときめも12人衆』
の一人に出会ってさ、えーと名前はなんだっけ?そうそう『ミキハラ』だ。
そのミキハラという男が僕とおやびんの話に割って入って来て襲い掛かって
きたんだ。まあ、そいつ自体は弱かったんだけどさ。まいっちゃったよ、
ハハハ」
「……」
「で、あっけなかったんで何で僕達を襲ったのか聞いたんだけど用はあれだ。
[VN版権]だったよ。既にLeafの社員でもないのに、迷惑も甚だしいっ
たらありゃしないよ。僕を襲って何になるというのかいやはや、まあそいつ
自体はよわかったから馬乗りでガシガシ殴ってさ、倒したよ。完膚なきまでに
やっつけたけど…んでおやびんとその時は何もその事で語る事無く別れたけ
ど…これってもう戻れない領域に入ってしまったかな?」
と、ひとしきり中尾さんに言うと頭を抱え
「もう、その時がやってきたんですね…」
短く呟いた。
277 :
口火:02/06/16 17:15 ID:G453OJwJ
一つ溜息をつき僕を見つめる
「本当は、俺は今の今まで原田さんにはこう言う戦いになる前になんとか手を
引いてもらいたかったんです。何気ない日常を延々と送っていてくれれば原田
さんも気が変わって国分寺に帰ってくれるかなと淡い期待を持っていたのです
が・・・でもそれは今の話でオジャンになってしまいました」
「……」
「話の経緯は大体解りました。簡単に言うと原田さんは『ミキハラ』を倒した
んですね?」
「うん」
「それは、どうじにコナミに対する宣戦布告と受け取られても仕方の無い事実だってのは承知してますね?」
「勿論だ。元々僕はそのつもりでここに居る」
「その強い意志を持っているのならこれ以上は何もいうことはありません。一言でいうなら原田さんはもう後にもどれない非現実の世界に足を踏み入れてしまったという事です」
そう一言告げて中尾さんは立ち上がり背中を向ける。
「ただ、聞く限り原田さんはどうやら相手を殺してはいないみたいですね」
「うん」
「ですが忘れないでください。相手はどうあれ、その気になればこっちなんて意図も簡単に廃人に出来るような奴らばかりです。その辺は注意してください」
(廃人ねぇ)
その言葉だけには甚だ疑問だ。
確かに一人相手にしただけでは比較などできはしない。しかし今後もあの程度
の奴らだと言うのならはっきし言おう。
(所詮塵じゃないか)と
278 :
口火:02/06/16 17:16 ID:G453OJwJ
決して自分の力を過信していると言うわけではない。相手も弱いとは思ってはいない。ただ、決定的なのはあの程度の力量ならば負けはしないという事だ。
僕はプロレスラーの様なゴツイ奴を想像していたが案外頭はとろそうだし凶器に頼る輩ならさして強くもない。そう踏んだだけの事なのだ。
そう、ただそれだけの事
食事を終え、その食器を流し台に運ぶ。
夕食以降、中尾さんは神妙な面持ちで口を開く事は無かった。
僕も何も言う事はなかったので特に話しかける事はない。
ただ時間だけが過ぎ、そしてその日はお互いに寝床に就いた。
まるで嫌な事を忘れるかのように。
だが確実に戦いの口火は切られたのを僕も中尾さんも肌で感じていた。
To be Continued
279 :
R:02/06/16 17:24 ID:G453OJwJ
>>126さんへ
色々と参考になりました、ありがとうございます。
やっぱり良かったのか悪かったのか反応がないとこっちも
反省すべき点が明確に見えないのではっきりといってくれるとありがたい
次第です。
>>207さんへ
一人称の方がいいですか・・・複雑な気持ちです。
しばらく現実世界が忙しくて書いていませんでした。一部楽しみにしていた方
申し訳ありませんでした。(まあ、いたらですけど)
では、また載せる時に・・・
Leaf編、こっちも来たーッ!!
良かったんだよ〜。
よもや、放り出してしまうんじゃないかと心配してた。
とりあえず、今回は日常パートっぽいけど、
どうやら全面抗争の火蓋は切って落とされた感じ?
訥々と語る例のスタイルはある意味読んでいて安定感がある。
(とはいえ、今回はちと、ヤマが足りない気もするが、
まぁ、毎回クライマックスの話なんてないさ……)
こうなったら、その行き着く先を、最期まで見届けるぜぇッッッ!!
頑張ってくれ、R氏!!
保守
めんて
mente
空を見上げた視界の先に、金色の半円が雲に滲んでいる。
まるで泣いているようだ、そう思った。夜は更け、既に日付も変わっている。
昼間の喧騒からは想像もつかない静かな街に一人、久弥は歩いていた。寒さを残した夜の風が体に
吹き付けても何も感じない。洞穴を風が吹き抜けていくような空白感が久弥を支配していた。
残業を終え、家への帰路を急ぐサラリーマン、夜になってようやく活動を始める若者。今の街に久弥
を知る者はない。誰もが見知らぬ者のまま、久弥とすれ違っていく。
歩きながら、久弥はずっと月を見上げていた。俯いた瞬間、何かが壊れるような気がしていた。
『どいつもこいつも、俺も、皆、大馬鹿野郎だ!』
折戸の叫びが耳から離れない。一生離れないかもしれない。
自分のためにKeyを捨てる決意までした折戸に背を向けた。CDケースが砕ける音と一緒に、自分と
Keyを結ぶ最後の糸が切れる音も聴こえた。
あの瞬間、今度こそ本当に、自分はKeyとの関係を断ち切ったのだ。
雑居ビルの前で、久弥は立ち止まった。三ヶ月前、Keyを飛び出した麻枝ともう一度ゲームを作る
ために吉沢が用意した借り物の開発室。機材も資金も無く、あるのはただ再起への情熱だけだった。
光の消えた夢の跡は、夜に溶け込むようにして薄汚れた外観を晒している。息の固まりを一個だけ
吐き出すと、久弥は階段を上っていった。
ドアを開けた瞬間、アルコールの臭いが鼻を突いた。こみ上げる不快感に顔をしかめながら、久弥
は手探りで壁のスイッチを押す。数瞬の明滅があって、部屋に蛍光灯の光が満ちた。
「よう」
右手にウィスキーの入ったグラスを握りながら、麻枝は左手を振った。窓ガラスに背中を預け、床
に散らばった空瓶を足で転がしている。
吉沢が用意した機材や机はもうどこにもなく、がらんどうの空間だけがそこにはあった。
「馬場社長の仕業か」
空っぽになった部屋の中心まで進み、久弥は呟く。
「あぁ。俺が戻ってきた時はもう、何も無かった。いたる達もここにはもう、二度と来ないように厳命
されたらしい。たかがシナリオライター一人を押さえるために、随分と大げさな事だ」
麻枝の言葉には、明らかに自嘲が込められていた。
「……馬場社長は、お前の能力を認めている。だから、こんな真似をしてまで、お前を手に入れよう
とするんだ」
麻枝に近づくにつれて、アルコールの臭気が濃さを増す。床に転がるウィスキーの瓶を見るだけで、
久弥は胸が悪くなるような気がした。
「やめてくれ。あの男が求めているものは、俺の作品が生み出す金だけだ。馬場にとって、俺はビジ
ネスの手駒の一つでしかない」
久弥の言葉を振り払うように、麻枝は首を振る。面倒くさそうに空瓶を蹴り飛ばした。
「面倒な話はもうなしだ。俺は酔っていたいんだ。お前もつきあってくれ」
そう言って、久弥の手にグラスを握らせた。自分の右手に握ったグラスと、久弥が握るそれに
ウィスキーを注ぐ。二人のグラスを満たした琥珀色の液体が、蛍光灯の光にゆらゆらと揺れた。
「こんなものに逃げるなよ」
グラスを握り締め、久弥は苛立ちを露にする。
「それに僕はお酒が飲めない。前にも言っただろ」
「それはお前がまだガキだからだ……これも前に言った記憶があるな」
険しい顔つきの久弥とは対照的に、麻枝は頬を赤らめ表情を緩めている。
手に握られたグラスを机の上に置こうとして、もうどこにも机がないことを久弥は思い出した。
仕方なしに体をかがめ、床の上にグラスをそっと置く。
「麻枝、Keyに戻れ。ここにはもう、何もない」
「お前と吉沢さんを置いて、俺独りでKeyに戻るのか」
何かを堪えるような、ひび割れた声だった。久弥は一瞬だけ躊躇したが、はっきりと頷く。
「そうだ。お前はもう、吉沢さんや僕に囚われてはいけない。お前の未来は、やっぱりKeyにしかな
かったんだ」
「俺が、そしてあいつが望むと思うのか。お前のいない未来を」
麻枝の顔に酔いの色はなく、ぞっとするほどの蒼白が張り付いていた。
「お前がいなくなった後のKeyで、俺がどんな思いをしてきたか、お前は知らない。お前なんかいなく
ったって構わない、俺独りでKeyはちゃんとやって行ける。そう自分に言い聞かせて、無理やりに自分
に言い聞かせて、俺は」
そこで、言葉がぶつんと切れた。さっきまでの酔態は完全に影を潜めていたが、言葉と共に吐き出
される息には強いアルコール臭が漂っている。その臭いだけで、普段の久弥なら胸をむかつかせて
いただろう。
「やめろ麻枝。酒の勢いで思ってもいない事を言うのはよせ」
「思ってもいない、だと? やっぱりお前は分かっていない。何も分かっていないんだ」
強くなる麻枝の語気に、久弥は思わず気圧された。
「この二年間、俺はずっとお前の幻影と闘い続けてきた。お前がいなくなって日が経てば経つほど、
お前の不在がKeyに落とす影も大きくなった。責任を感じていたんだろう、いたるは酷く落ち込んで
しまって、このまま仕事を辞めてしまうんじゃないかと思った。俺はあいつを元気付けてやりたくて、
もう一度あいつの笑顔が見たくって、必死に仕事をした。お前がいなくなっても、俺がいれば大丈夫
だ、Keyは何も変わらないって事を証明できれば、きっとあいつも元に戻ってくれると思ったんだ」
いつのまにか麻枝の手からグラスが落ちて、床に茶褐色の染みが広がっていた。
「結局、俺はいたるを立ち直らせることはできなかった。あいつが本当の笑顔を取り戻したのは、お前
と再会してからだ。ほんの短い間だったけど、ここでお前と一緒にいた時のあいつは本当に楽しそう
だった。あんなに楽しそうに笑うあいつを、俺は知らない」
聞きながら、いつしか久弥は拳を握り締めていた。血が滲むほどに強く握り締めた拳が、小刻みに
震えている。
「涼元さんだってそうだ。あの人がKeyに入ったのはお前と一緒に物を作りたかったからだ。俺とじゃない。
俺は最後までお前の影を振り切ることができなかった。生まれて初めて、本気で欲しいと思った人は
いつだってお前の方を向いていた」
言い尽くすと、麻枝は俯いて首を振った。
それまでとは打って変わった弱々しい声が、唇から絞り出される。
「お前と吉沢さんと一緒にもう一度やり直そうとした、ここでの日々は楽しかったよ。馬鹿な事ばっかり
やって、でも作品に対してだけはいつだって真剣だった。金なんて要らない、名声なんて欲しくもない。
ただ俺は、皆がいつも一緒で、楽しく笑っていられれば、それでよかったんだ」
「麻枝……」
久弥の足元に、赤い雫が一滴落ちた。一歩だけ、麻枝の元に歩み寄る。
俯いた麻枝の胸倉を掴み、ぐいと引き寄せた。
「だからもう、何もしたくないって言うのか。お前は」
麻枝は何も答えない。視線を床に落とし、久弥から目を逸らしている。
「それでもお前は麻枝准か。ただ一人、僕がライバルと認めた、あの麻枝准か!」
怒鳴り声が、部屋中に反響する。びくりとして、麻枝は顔を上げた。
「こんな所でお前の終わりを見るために、僕はお前とやり直そうとしたんじゃない。どんなに辛くても
逃げ出さず、諦めようとしないお前となら、僕はもう一度前に進めると思ったからだ」
岩の塊を叩き付けるような、久弥の言葉だった。
「ここで終わったら、お前は本当の大馬鹿野郎だ。こんな物を作ることのできる才能を自分から潰す
なんて、僕は絶対に許さない」
そう言って、久弥は上着の内ポケットから一枚の紙切れを取り出した。
『さゆりん☆サーガ(仮題)』とタイトルの付けられた一枚の企画概要書。
正式な題名さえ決まらなかった物語は、その未完成さ故に無限の可能性を秘めていた。
麻枝の思い描く世界観は分厚い紙の束に綴じられ、それを読むたびに久弥は、ここではないもう
一つの世界に自分自身を投げ込まれた。想像力の翼が羽ばたき、どこまで飛んで行くのか自分でも
予想できない。そんな高揚感を得ることは、自分独りでシナリオを書こうとしていた時には決して
無かった。
麻枝の創造力が生み出した、この物語を完成させたい。
もし叶う望みであるのならば、自分自身の筆で。
飢えにも似た衝動に背中を押されて、久弥は今ここにいた。
「麻枝、例え金が目的であっても、馬場社長がお前を手厚く処遇することに変わりは無い。Keyに与
えられた開発力があれば、どんな作品だって作れる。どこまででも、Keyは成長していける。でも、
それは麻枝がいないとできない事なんだ」
久弥の言葉に、麻枝は首を振る。
「俺にはそんな力はない。今までだって精一杯だったんだ」
「これからも精一杯やっていけばいい。自分にできる事を繰り返し、繰り返しやって行くことでしか、
未来は開けないんだ。お前みたいな不器用な馬鹿にできる事なんて、精一杯頑張る事だけだ」
痛烈な言葉に、麻枝は思わず苦笑した。
「口が悪いな、お前は。俺にそんな事を言う奴は、お前だけだ」
「僕だってこんな事、麻枝にしか言わないよ」
久弥も笑うと、企画書を麻枝の手に握らせた。
「この企画書を持って行けば、馬場社長の体面も立つだろう。社長と衝突して、『CLANNAD』の作業
を放棄していたお前がKeyに復帰するためには、それなりの手土産が必要だ」
Keyはビジュアルアーツの抱えるゲーム製作チームの一つにすぎない。馬場が過剰に麻枝を特別扱い
すれば、他ブランドのスタッフに不満が生じる恐れがある。久弥はその事を言っていた。
麻枝は震える手で企画書を握り締めた。
「すまない、俺のために」
「お前のためなんかじゃないさ。皆のためだ」
「俺はお前を絶対に忘れないからな。今は無理だとしても、いつか必ず、お前も一緒にKeyにいられる
ようにする。その時まで、待っていてくれ」
麻枝の言葉に、久弥は微笑みで答える。
「ああ。期待しているよ」
「絶対だからな!」
叫ぶように言うと、麻枝は走り出した。そのままドアを開け、階段を一気に駆け下りる。
くすんだ夜空の下に飛び出すと、二度と後ろは振り返らずに走り去っていった。
街灯の瞬きに溶けるようにして、急速に小さくなっていく麻枝の背中を、久弥は窓越しに見詰
めていた。
「麻枝。君は独りなんかじゃない。辛さから逃げなかった日々は、無駄ではないんだ」
過酷を背負って一歩一歩を踏み締めていく人間には、必ず側で支えとなってくれる人が現れる。
「君になら、彼女を任せられる。どんな困難でも、君達なら乗り越えていける」
久弥はもう、その事を知っていた。
床に目を落とすと、さっきのグラスがそのまま置かれていた。中身もこぼれることなく、琥珀色の
液体がグラス半ばにまで満ちている。
久弥は身をかがめ、そっとグラスを手に取る。漂うアルコールの臭いは、やはり気持ちのいいもの
ではなかった。
「もう少し早くに気付いていれば、僕もやり直せたかもしれないな」
一度瞑目して、立ち上がる。
麻枝の姿はもう、久弥の目には捉えられなくなっていた。窓の向こうでは、街灯の光だけが等間隔
に浮かび上がる。奇妙に光が歪んで見えて、久弥は思わず両目を手の甲で擦った。
左手に握ったグラスを、口元に運ぶ。一息でグラスを空けると、苦味だけが舌に残った。
「おいしくない。やっぱり、おいしくないよ」
無人の部屋に立ち尽くした久弥の呟きを、誰も知らない。
「さゆりん☆サーガ編」最終話です。
半年間お付き合いいただき、ありがとうございました。
まさかリアルタイムで読めるとは…………
お疲れ様でした。
一読み手としてあなたに捧げる言葉はただ一つ
ありがとう
これ以外に何もいらない。
そういえば、もう一つ。
次回作も期待していいですか?
296 :
名無しさんだよもん:02/06/19 02:16 ID:4VlyLOPG
新作age
新作が読めて嬉しい。
でも、「さゆりん☆サーガ編」が終わってしまって悲しい。
つーかこの状態で次回作が出なかったら激しく悶えますので、
暇を見て少しずつでも書いて頂ければ本当に幸せです。
ゲーム・「さゆりん☆サーガ」はどうなるの?
久弥は? YETボスは? そして、麻枝を始めとするkeyの面々は?
お金払ってでも先が読みたくてたまらないです。
今まで読んできて良かった。
ええ、真剣に感動しました。
ありがとうございました、半年間死ぬほど楽しませてもらいましたわ。
そうなんだよな……keyは結局麻枝と久弥の会社なんだよな……。と一人感慨に浸る。
二人がいなかったら鍵にはまる訳がなかったわけで。
結局三人で始めた企画は潰れた。
だがここでくすぶってる吉沢務と久弥直樹じゃあない。と思う。
次回作も期待してますでつ!
このような作品を無償で発表していただき、本当にありがとうございました。
>>295-296 エピローグとしてのプロットが三話分ありますが、これを文章にして
投稿するかどうかはまだ決められません。
個人的事情ですが、最近かなーり忙しいわ、資格試験が八月にあるわ、
で文章書きに割く時間が取れなくなっています、すいません。
元々はリレー小説スレッドだったので、誰かが話を引き継いで、どんどん
膨らましていってくれればいいなあと思っています。
リクエストしたい人がいるんだけどな〜。
誰ですか?>リクエストしたい人
あなたほどの人が推したい人とは誰か、是非聞きたい。
エピローグ三話ですか……我々は気長に待ちますので、
時間が空いたらで良いので書いてくれたら嬉しいなあ。
日輪を背景に佇む三人の男達の手は互いに重なり合い、己の温かみを他の二人に分け隔てなく与えていた。
そしてその手を放さぬまま、三人は扉の側に立つ闖入者へと振り向いた。
そこにはどこか悲しげな眼を携え、特徴ある前歯をした男が息を切らせて立っていた。
青紫であった。
苦しそうに息をする青紫は高橋の顔を見上げ、安堵の表情を浮かべてこう言った。
「た、高橋さん、帰ってきたんですね!」
「ああ」
はぁはぁと息をきらせながらも、その表情は嬉々たるものとなった。
口元は弧を描き、目を細めて、夕焼けが照り付ける窓に向かってこう言った。
「これでLeafも安泰だ―――」
青紫の心からの言葉であった。
そう言った瞬間、高橋の表情は鬼気迫るものとなり、温め合っていた手を勢い良く抜き取ると、
青紫の方へと近寄っていって、渾身の力で彼を殴った。
「馬鹿か、お前は」
不意に衝撃を受けた青紫が一瞬にして状況を把握するのは不可能であった。
水無月も下川も、高橋のその行動に愕いていた。
高橋は青紫の側に寄ると、剛胆なその腕を伸ばし、彼の胸倉を掴んで引っ張り上げた。
「俺達が居ない間、お前は何をした?」
青紫は息を呑んだ。己の所業の結果を彼らは十二分に知っていた。
彼にどんなプライドがあろうとも、返答出来ない問いだった。
「ここは誰かに護ってもらう場所か? 誰かに与えられた場所か?」
高橋は問い続ける。
「俺達だけが作ったんじゃないだろう。お前も一緒に作り上げてきたんだろうが」
その表情は強面のままではあるが、徐々に優しさを含むものへと変貌していた。
「俺はお前が居たから頑張れたんだよ。
お前の直向な姿勢が刺激となって、俺はシナリオを書き続けることが出来たんだ」
「そ、そんな…」
「嘘じゃない。嘘じゃないぞ、青紫。
お前は自分の事をLeafの荷物だと思っているかもしれないが、それは絶対に違う」
水無月と下川は高橋の後方で青紫を見詰めていた。
「だが、今のお前はどうだ。俺達が帰ってきたから安泰だ―――? 馬鹿馬鹿しい」
高橋は拳に力を入れ、青紫の身体をたくり上げた。
「誰かに何かをしてもらおうとするな。
自分一人の力で何とかしろ。それが出来て初めて、男は一人前になる。
お前がもし、自分を律してLeafを護ろうとしないのなら、今すぐ辞めろ」
その場に居たもの全てにとって、時が止まったように感じる一瞬だった。
水無月と下川も息を呑んでその行方を見守っていた。
しかし、彼らは知っていた。彼がどう答えるかを。
そうして青紫は痛みをこらえ、悲しげな眼で彼を見上げてこう言った。
「僕は―――僕は、ここに居たいです」
そのような言葉が返された。
高橋は一呼吸置いた後、
「そうか」
と呟いた。そう言った高橋の眼には喜びと慈愛に満ちていた。
「じゃあ、立ち上がれ」
高橋はその手を彼の腕へと伸ばすと、手を開き、彼の手を固く握った。
その拳は思わぬほど温かく、青紫の心を癒していった。
彼の頬に、何故か涙が零れた。
水無月は彼の側に寄ると彼の頬に伝う涙を指で遮り、こう言った。
「泣くな、泣くんじゃない、青紫。お前が流すべきものはもっと違うものだ」
「…?」
「涙の分だけ、汗を掻け。その分お前は強くなる。
悲しさの涙と同じ量の、努力の汗を流すんだ」
優しく、赤子を宥めるように水無月はそう言った。
下川はその水無月の後ろ側に立つと、水無月の頭上から声をかけた。
「いいか、青紫。
お前はLeafの未来をしょって立つんや。泣いている場合やない。
努力しろ。世界で一番努力せなあかん。身体が壊れてまうぐらい努力するんや。
今まで悔しくて泣いていた時間を使って、汗を流すんやで。
そんで誰よりも多く、何より自分に負けず、努力し続けるんや。
そうすればお前は日本で、いや、世界で一番の作家になれる」
高橋がその言葉に頷いて続けた。
「お前は沢山失敗したけどな―――。
その分、お前は強くなれる。強くならなきゃいけない。仲間を信じて、立ちあがれ、青紫」
高橋はその剛胆な腕に力を入れて青紫を立ち上がらせると、彼の肩を抱き横顔を近づけると―――
投げた。
青紫が気付けば目線は赤色に染まる天井を向いていた。
何が起こったのか全く分からなかった。理解できなかった。
「わははは!」
高橋の笑い声が頭上から聞こえた。
「相変わらず投げられ易いな、くくく」
その声は無邪気な悪戯っ子の声であった。そしてその感触は懐かしさに満ち溢れていた。
「青紫ぃ、お前、なんてマヌケな顔をしてるんだ?」
笑いを噛み殺しながら水無月はそう言った。
「お前が投げられるの見んの、懐かしいなぁ」
下川も満面の笑みを浮かべながら青紫に近付いていった。
「何でやろなぁ、笑いが、止まらへん」
近付いている途中も、苦しそうな顔をして下川は笑っていた。
そうしてその場所は、懐かしさに包まれた。
「…くくっ」
高橋も顔を抑えて笑っていた。
微笑みと同時に、一滴の涙も溢れてきた。
「なんでだろうなぁ、なんで…」
高橋は同じ言葉を繰り返す。
「…なんで、俺達、離れたんだろうな…」
水無月は過去を振り向きそう言った。
「えぇやないか…。またこうして、集まってんから」
下川は未来を示し、青紫に視線を送った。
青紫はまだ床に倒れて呆けたままだった。赤味が差した頬には雫の軌跡が残っていた。
「あ、そうや…」
何かを思いついたかのように、下川は近くにあるCDラジカセのスイッチを入れた。
「これ、久々に聞こか」
しばらくして、ある聞き覚えのある音楽が青紫の耳を貫いた。
これは―――いつかどこかで聞いた曲、理想と希望によって奏でられた、新緑の音だ。
*
「To Heart、初回ロット完売おめでとう!」
「青紫、お前のシナリオも好評だぞ!
ほらみろ、こんなに手紙が来てる」
溢れんばかりの葉書を青紫に向かって投げつけ、がはは、と高橋は豪快に笑った。
葉書は机へと散りばめられ、青紫はその中から一つの手紙を抜き出した。
暫くしてもう一枚の手紙を取り出し、読み耽った。
どれも殴り書きされたような、それでいて本心を書き連ねられたかのような書き方であった。
そしてどれも、彼への賛美を送っていた。
「―――奇跡だ」
青紫はその大きな感動に震えた。自分が認められたことが嬉しかった。皆に幸せを与えられたことが嬉しかった。
「馬鹿野郎! これは決して奇跡っていうもんじゃあない!
これに関わった人全ての力が集まって完成した、必然という事象だ!」
そう云うと、高橋は渾身の力で青紫を投げ飛ばした後、声高らかに笑った。
青紫の身体は宙に浮き、御菓子の散りばめられた机へと着地した。
と同時に上から液体が降って来て目に入った。
「うぎゃああああああああァァァッッッ」
「わはは、どうだ青紫、勝利の味は!」
「痛い痛い痛いいたひいたひひたひ……」
「そうかそうか、嬉しいか。わははは!」
水無月が無邪気に笑い、青紫の頭から冷えたビールを浴びせていた。
そこで青紫は無類の痛みを味わった。
数分後、落ち着きを取り戻した彼の耳に入ってきたのは優しい旋律であった。
下川がCDプレイヤーの前に立ち、音量を調整していた。
青紫はそんな彼にゆっくりと近付くと、彼にこう尋ねた。
「専務、この曲は?」
「ああ、俺の未公開曲や。この日の為に作ったんやで。いい曲やろ」
「ええ、何と言うか、心が震えるみたいで」
「詩的やなー」
ギャハハ、と紅い頬をした下川が笑った。酒臭かった。
「何て言う曲なんですか?」
「タイトルか?」
「はい」
「そうやなー。お前が決めろ。いや、決めて下さい、青紫超先生!」
「専務、酔ってるでしょ」
「酔ってない、酔ってないでー!」
そう言いながら下川は千鳥足で高橋の元へと向かった。
肩を組んで楽しげに談笑しているのを見届け、青紫は一人、部屋の隅へ向かった。
笑っている。皆が笑っている。この会社に来れてよかった、本心から彼はそう思った。
片時さえも離れたくない友人らに恵まれた。
あの曲はまだ流れている。恐らく延々とリピートしているのだろう。
―――『永遠』なんていうのはどうだろう。
とっさに彼は奏でられる曲に名前をつけた。
自分達がこれから永遠と一緒に居られますようにと、願いを込めた名前であった。
彼は眼下に広がる黄昏の町を見詰め、口を動かした。
出した声は仲間達の喧騒によって掻き消された。
でもそれはきっと届いた、と彼は思った。
彼が向けたその人に。素晴らしい日々をくれた、あの恩人に。
青紫の眼から微かに光る雫が一筋流れた。
その雫は夕焼けの色に彩られ、やがて床へと染み込んでいった。
冷やりとする窓のガラスに彼は手を当て、日輪を仰ぎ見た。
*
魂をも揺るがす旋律は、あの頃と全く変わらず青紫の耳へと吸い込まれていく。
あの日と変わらない夕焼けの日輪は今も青紫を祝福してくれている。
そして仲間も、あの時と変わっていない。
彼女はあの雲の上で、いつも笑ってくれていた。自分だけは知っていた。
彼は自分の足で立ち上がると、窓へと近付き、大きく息を吸いこんだ。
彼の眼は窓から見える、天空に浮かぶ紅い雲の先を捉えていた。
「僕は世界一のライターになってみせる!
グズでノロマで、どうしようもない馬鹿だけど……僕は、僕は努力だけは知ってるんだ!
馬鹿みたいに努力して、この業界のトップライターになってやる!
願いは叶うんだ、絶対に―――!」
青紫は滲んだ日輪に向かって吼えた。
そしてより強く夕日に照らされた彼は目を細めて小さくこう付け加えた。
そうだよね、おかあさん、と。
一ヶ月程度でしたが、これにてLeafの再集結編を最終話とさせて頂きます。
続きを書きたい方などはどうぞご自由にお書き下さい。
それではROMに戻ります。短い間でしたが、ありがとうございました。
Goooood job!!(゚ー^)b
こっちも完結か…
今までありがとう。
超先生に愛を告白しる!!
さゆりん☆サーが編に続きleaf再結成編も…
いままでありがとう…最高の作家さん方…
嗚呼、綺麗に片が付いた。ついてしまったなぁ……。
2作品の完結を喜ぶとともに、惜しむ。
そして、Key編のエピローグのアップを切に望む。
あと、リクエストしたい人って本当に誰なんだろう。知りたいな。
ともかく、これまでの作品に感謝。
……さらに。
R氏が記す物語も、これから順調につづられ、
やがては完結へとたどり着くのだろうと思うと、それも寂しい感じだ。
そのときがこのスレの最後なのだろうか。
それとも、他に新たな書き手が併走しているのか。
逆に、他の作家さんの作品があがらないと、
R氏も張り合いが無いんじゃないか、とか。
でも、頑張ってほしい。
R氏の作品には、今回完結した2作品とは別ベクトルの魅力があるのだから。
葉鍵板一の良スレ!
新作がアップされる度に心が躍ります。
ありがとうありがとう
新たなる物語期待保守
ありがとう いわないよ
ずっと しまっておく
脳味噌は感謝の言葉よりネタに使え
オレモナー
めんてっ、だよっ!!
おつかれさまでした!
まだまだ
327 :
長回し:02/06/23 17:49 ID:HWs02y4G
『この世界で生き続けることは常に勝利のシャワーを体に浴びる事だ。
敗北の海に浸る知る余地も無い位に闘い続ける者が勝者なのだよ、んふん』
起床
おやびんとの接触とミキハラの戦いから幾日が過ぎた。
『日常』と言う空間はいつもの朝を創り出し、窓から眺める空は蒼すぎる。
中尾さんのアパートからもう何度この景色を眺めた事だろうか。
国分寺の家から離れ、数十回目の朝を大阪で迎える。
非日常と日常の境界すらまだあやふやのまま僕は時を過ごしている。
まだ知らない、幾重もの戦いの前の喜びと儚さを持ち続けて…
原田宇陀児
328 :
長回し:02/06/23 17:51 ID:HWs02y4G
時刻は8:29
TVでもあれば少しは暇つぶしにでもなろうものだが残念ながら中尾さんの家
にはパソコンしかない。
する事が無いというのもあれなので壁に掛けてある上着のポケットに手を入れ
葉巻を取り出し、火をつける。
去年からある一定のリズムで体を壊し医者の世話になっていたが、ニコチンと
ミステリだけは僕は手放す事が出来なかった。
そして、今ここにスヤスヤと寝ている大切な友と呼べる人間を…
その寝顔をみていると『こいつは本当に強いのか?』と思えてしまうくらいに
穏やかな顔をしている。まあそれはいいとしてだ、本当に僕はコナミとの戦い
に巻き込まれているのだろうか?と思えるくらいに平穏を満喫しているし、
また、中尾さんもリストラされて仕事する気力もなく、只趣味に埋没して現実
逃避バリバリでダラダラした自慰行為「アフーン」って感じに耽る中年男性の
ような毎日を送っている。(僕が見る限り)
あの接触以降、未だはっきりとして『敵』は僕達の前には現さず、ただ貯蓄をいたずらに食いつぶすように一日を送っている。
かと言ってこちらから手を打つと言う手段を講じる訳でもなく、ただネットを
眺め情報を収集し、朝・昼・夜と健康的に食を採りそして寝る。
と、言う生活を僕達は送っている。
ああ、あれだね。[ネットで情報]と言うのは実はちょっとだけ有益な手段かもしれない。
そう、例えば『痕』リニューアルとか『ルーツ』なんかがそれだ。
329 :
長回し:02/06/23 17:52 ID:HWs02y4G
「山は動いたんだよね…高橋さん」
小声で呟き、近くにあった灰皿をとりだし葉巻を消す。
全ては時が来るまでの用意周到な根回しだった。
高橋さんも水無月さんも動いたことはLeafにとって+でもあり−でもある。
結局、僕以下、陣内や閂くん等々が去り人材不足は否めないという事実を露呈
してしまったのだ、Leafは。
だから、高橋さん達が再び出るしかないし世もそれを望んだ結果がこれだろう。
Leaf=高橋・水無月の方程式を取り外すに値する傑物はやはり出なかった。
その事実だけが僕の肩を重くした。
かつては同じ職場でいた者として…
330 :
長回し:02/06/23 17:54 ID:HWs02y4G
彼等は戻った。
僕等は戻らなかった。
彼等は復帰を望んだ。
僕等は望まなかった。
それが、世界を分けたという事に今頃気づいてしまった…
ああ僕は…ナンテ愚かで、そしてこんなに脆いのだろう。
331 :
長回し:02/06/23 17:56 ID:HWs02y4G
涙…?
雫…?
目から発生する水滴が部屋の畳を濡らす。その、愛すべき世界を放棄して
僕は戦わなければならないという事に…そしてそれを望んだ自分に…
「うっ、…うっ」
寝ている中尾さんに気づかれないように歯を食いしばり、声を押し殺す。
決して後悔は無いのだ。ただ、高橋さん達がいる『あそこ』に、自分が存在
しないことが何よりも辛かった。
(三十路近い男が情けない)
そう思うと少し笑えてくる。
自虐的な『笑い』だ。
「フフフ、ハハハハハハハハ」
顔は泣いて口は笑う。感情の制御が出来ていない証拠だ。
「これじゃ寝ている中尾さんに見られたら何を言われるか…」
と、呟いた時
「いや、あの…実は起きてたんですけど……」
そう言って瞼を開け、上体を起こし僕を見つめる彼。
「……」
「……」
「………」
「……………てへっ」
(「てへっ」じゃねーだろ。オイ)
332 :
長回し:02/06/23 17:57 ID:HWs02y4G
「おはようございま…」
ガッ!
挨拶途中で僕は中尾さんのボディに一撃を加える。
「おぶぅ!な、何をするんですか原田さん!!痛いじゃないですか」
「当たり前だ!狸寝入りなんかするからだ!」
「そんな事言われても…」
「どこから起きていたんだね?」
「いやぁ、何ていうかタイミングが解らなくて・・・まあ泣いている思った頃
位ですけど、そしたら急に笑い出して…なにがあったのかと思った時に名前
呼ばれたんで…ハハ」
後ろでに頭をボリボリと掻き、スマイルを浮かべる中尾さん。
「で、そんな感情起伏の原因は何なのです?」
そういって僕の肩に馴れ馴れしく手を掛ける彼。
怒る気も失せる。
「……言わない」
「そんな意地悪しないでくださいよ。謝りますからぁ」
「……」
「原田さぁ〜ん」
先程の感情とは一転して僕も冷静さを取り戻し
「何でもないよ。ただ考え事をしてたら『考え事の世界』にトリップして
深く入り込んでフェイク鬱になっただけだ。」
そう言って僕は立ち上がり
「そんな事より朝ごはんにしよう、話はそれからだ。僕達には来たるべき
戦闘の前に悠久の平穏を満喫する権利があるのだから…ね」
僕がそういうと中尾さんは首を傾げ
「あ、あんまり言っている意味が理解できてませんけどまあ、深入りするのは
やめます。とりあえず朝飯ですね。そうしましょう、そうしましょう。まだ
準備期間はあるようですから」
中尾さんも意味深な台詞に気を止めることなく台所へ向かった。
333 :
長回し:02/06/23 17:58 ID:HWs02y4G
(駄目だ)
流し台の前に立ち、中尾さんの雰囲気に飲まれている自分に反省する。
(嫌じゃないんだ。あの人の独特の空気は嫌いじゃない。ただ真剣に考えて
いる時にあの温和な笑顔と空間を精製されたらシリアスな問題も宙に浮いて
しまう)
そう考える。
ただ、本当に僕は中尾さんのそういう所が良いところでもあり悪いところでも
あると思う。
かつて中尾さんはあのBBSでこう言ってくれた。
『ハラダさんは真剣に悩む傾向がある様なので、もっと逆境を楽しんでみては
いかがでしょう?(笑) たのしいぜー。おいしいよー。ぎゃーやめてくれ〜〜って感じ。』
「……」
「……」
やっぱり僕にそんな精神の持ち合わせは無い。
334 :
長回し:02/06/23 18:00 ID:HWs02y4G
でも、あれが中尾さんなりの僕への気遣いなのだ。あの人はそういう人だ。
Leafに居た頃も微笑みかけながら馬鹿やって和ませていた。
それにつられて僕も笑い、陣内や閂くんも笑っていた。
[いたるとH]発言もリップサービスだ。
あれを見て僕達は爆笑していた。(まあ、深くは言わないがね)
だから、今だけは僕も中尾さんにつられて逆境を楽しむ事を心がけよう。
『KONAMI〜輝ける版権へ〜』とか言ってね…んふん!
大切な友が発する言葉を噛み締めて…僕はまたアンバランスな日常を
過ごすのであった。
To be Continued
凄いのがまた読めて嬉しい限り。
頑張ってください。
どうもです。
コナミの方も書きたいのですが、ちょっとハラダパートが必要以上に長くなってしまいました。
スミマセン。
と、自分の方はさておき、さゆりん☆サーが編・leaf再結成編が終わりましたか。
本当にご苦労様でした。
ただ、これで現状、俺一人(?)というのは少し寂しいですね。
Keyの方はそんなに知らないので詳しく書けないし、Leafも書けない部分はあるし・・・
どうも、今書いている話はどうも本来の仮想戦記とは異質らしいので・・・
でも、正直楽しんでくれている方がいるのはイチ書き手として本当にやる気が出て
ありがたい事です。
俺の方は収集がつくのかわかりませんがこれからも書いていく所存っす。
それまで長い目でみてくれればこれ幸いです。
337 :
R(長文スマソ):02/06/23 21:42 ID:HWs02y4G
今回のノリも好きだよ。頑張って続けてほしい。
ただ、個人的にはもう少し柔和な感じを希望w<イラスト
エロピーグ
保守
時間がないので保守だけ。
後でじっくり読ませていただきます。
保守〜
頑張って下さい。>書き手
下がってきたのでホシュホシュ。
落とさせん
コナミ・神戸
ミキハラが原田に敗れるという一報は翌日になりコナミに届けられた。
地下
一般の社員では入れない鉄で覆われた薄暗い闇にポツンと男は立っていた。
赤い髪にサングラスを掛けた男は低い声でこう呟く。
「不甲斐無い」
と
しかし男は考察する。
(何故ただのスタッフ如きにこちらの人間が負けなければならないのだ?
あっちは只のゲーム屋、こっちは闇で活動する人間……)
どう考えても男の思考の先に行き付く結論は『油断』であった。
(次はこうはいくまいて…)
サングラスと外し辺りを見回す、そしてこう言い放つ。
「コシキはいるか?」
その声に反応するようにヌッと闇から現れる。
「はっ、シオリ様」
コシキと言われた人物は赤い髪の男をシオリと呼んだ。
「昨日の一報でミキハラがやられたのは知っておろう。本人の聞くところに
よるとやられた人間は原田宇陀児と一一だそうだが、俺はどうも解せんことが
ある」
「はぁ」
気の無い返事を返すコシキ。
「決して過信して俺は言っているのではない。ただ、相手はゲームスタッフだ。
その普通のスタッフ如きに我々がやられるのか?」
口調から慢心や驕りなどは見えないものの疑問を抱くシオリにコシキはこう述べた。
「シオリ様の言う事は最もです。我々は確かにその辺の素人に、ましてや日々
電磁波を受けパソコンに向っている労働者などに負ける理由などこのコシキに
は到底考えつきません」
「では、何故ミキハラは負けたと思う?この状態のミキハラを…」
ブッン
シオリは目の前にある100インチ程度の巨大モニターの電源を入れる。
映し出された光景にはミキハラがいた。
その場所は病院と見受けられる場所だった。
そこでミキハラは精神を病み、狂気と錯乱に満ちた表情が二人の前に映し出
されていた。
『ヒヒヒヒ、コワイヨ、拳ガ、拳ガ僕ノ顔ニ…イヒャヒャハ…ナンデダヨ?
普通ノ人間ダト思ッテイタノニ…ナンダヨアレ、笑ッテルンダゼ、薄笑イヲ
浮カベテ…アハハハハハハハ。アンナノナイヨ…カアサン…ウヘウヘヘヘヒ
ャハハハハ』
「……」
「……」
押し黙る二人。
そしてそっとリモコンに手を付け電源を落とす。
「薬を打たれたとかではない。ただ、全身、特に上半身と顔を殴打された傷は
酷かった。ミキハラは多少紳士ぶって相手を見下す傾向があったが、逆に言
うならそれは己の力に自身があるからこそだ。我々はこの敗北者から学ばねば
次も同じ目にあうのは必定!どう考える?」
シオリにそう問われるとコシキは
「どういう状況で倒されたかはわかりません。既にこちらが発見した時はミキ
ハラの精神は既に正常ではありませんでした。判ったのは原田宇陀児と一一に
やられたというのが限界でした。それ以上の事を聞くと奴はもう…」
「ふむ」
「察するに…」
顎に手を当ててコシキは述べる
「ミキハラは原田と一と戦い、想定できる事は二人がかりがやられたのではと
思うのが限界です。流石にミキハラといえども大の大人二人を再起不能に陥れ
るには相当の体力を要します。あと、付け加えるならばミキハラ自身の慢心が
原因かと…」
そうコシキはシオリに考えれる事を語った。
「なるほど、一理ある。だが我々とて『FOX HOUND』程では無いしろ
ある一定の戦闘訓練を受けてきた。それがむざむざとあんな状態になるまで
嬲られるとは俺には想定がつかぬ」
「シオリ様…」
「それにもう一つ解せん事は原田宇陀児と言う男だ。聞くところによると原田
はLeaf退社時に東京の国分寺に戻った筈だ。何故そんな奴が今頃伊丹で
遭遇するのだ?」
「それは残念ながら…」
「考えれぬというのか?」
「申し訳ありません」
深く頭をたれるコシキ
「ぬぅ、ならばタテバヤシに伝えろ!明日にでも東京に飛び原田宇陀児の実家
とその近辺の調査を行えと、場合によっては家宅侵入も構わんと!」
「ハッ!直ちに」
シオリの荒げた声にコシキは即座に反応しその場から消えた。
一人だけになるとシオリは熟考する。
(我々とて一定の戦闘力を有する軍団だ。それを一介のエロゲースタッフに
敗れるというのは、やはりミキハラの驕りゆえの結果か?それとも彼らが我々
より強いとでもいうのか…)
「ありえん!」
ガン!!
近くにある壁に拳をぶつける。痛みを感じるほど柔な肉体ではない。
(もうミキハラは使えまい。あとは我々でなんとかいなくては閣下に申し訳
がつかぬ……この事は我々『ときめき12人衆』でなんとか処理せねば…)
シオリにはすこしだけ焦りがあった。
今まではコナミの名さえだせば中小ゲーム企業は萎縮し従えて来た。
脅迫・暴行・圧力
警察沙汰にならない程度限界のラインで自分たちは活躍し
その様々な闇の行動によってこの10年名声を得ていた。
だがそれに抵抗され、尚且つ敗れたと言うことは衝撃でもあった。
お世辞にも『ときめき12人衆』はチームワークが良いとは言えなかった。
各個人がそれぞれの行動でそれぞれの結果を出してきた。一つの集まりとして
存在はしていたが、集団行動は皆無だった。それだけ自分たちは優れている
ものだという自負が自信となりそして強さの原動力だった。
しかしそれは原田宇陀児と一一の出現によって打破された。
それは、いままでに無い出来事であった。
(そうだ、偶然だろうよ。タテバヤシならなんとかしてくれるさ…)
そのシオリの思惑は後に甘い打算だと気付くのに時間は要さなかった。
352 :
R:02/06/29 04:56 ID:BjKnVh8m
「…下級生2…か……」
>352
ビックリしたよあれ。
サングラスをかけた赤い髪の男→シオリ
って、ヴィジュアルを創造すると笑えてくる。やっぱりロングのストレートなんだろうかw
悪い意味で気になったのは、誤変換の幾つかを初めとする、今回の荒削りさ。
今までのR氏のテキストに比べると、今回のはあまり推敲とかしてないような、
そんな印象を受けたんだけど、どうか。
それにしても、ここへ来て下級生2情報はアレだよね。
ストーリーに組み込むかどうかは微妙なところだろうけど、
とにかく続きを楽しみに待たせてもらいます。
R氏がんばれ。
保守
ホモ
意地でも保守
ほしゅったらほしゅなんだよ!
メンテ
めんて
保守
362 :
名無しさんだよもん:02/07/05 22:41 ID:oxCFhjGo
たまにはageてみる。
何で引き際を悟れねーんだよ。
そんなこと言われても……。
続きを書くと言ってる書き手がいるのに、落とせというのかい?
東京・向台町
同人生活に身を染めてもう随分長くなる。
年の初めに原田の家に行って以降、ここ数ヶ月連絡は取っていない。
と言うのも最近はやれ飲みだの遊びだのイベントだのであいつと絡む
暇がなかったのが実状だ。
んなわけで…
「お前もくるよなぁ、閂ぃ」
俺の隣にいる口元にマスク掛けた男の肩に手を掛けて馴れ馴れしく言う。
と、いつもながらの行き当たりばったりな我が人生に…
陣内ちから
「遠慮しておくよ。俺はここでのんびりしておくし…勝手にすれば」
「テメェ!家主の俺が出ると言うのになんでお前がゆっくりするんだ」
「陣内が呼んだから俺は来たまでだよ。んで来たらお前のサークルのゲスト
原稿だって判ったら来なかったよ」
「友達甲斐の無い奴だ」
「どっちが!大体ワザワザつくばから来てやったのに人を酷使しやがって…
そしたら今度は原田さん所に何しにだよ?」
閂がそう理由を聞くので俺は
「いや、遊びに…」
「俺のゲスト原稿は中断でいいのか?」
「また、後でタンマリ描いてもらおう…」
「…この自己中心基地外野郎め」
「うるせぇ。いいから行くぞ!ほら!」
「待てよ、その前にアポ取れよ。いくら親しくても無断で行くな」
「ふぅー。わかったよ」
閂がもっともらしい事を言うので、ズボンのポケットからさり気なく携帯電話
を出し、短縮ダイヤルで原田の電話番号を掛ける。
Prrrrrr
Prrrrrr
「ちっ、出ねぇ」
8回ぐらいのコールが終わると電源を消しポケットにしまう。
「んじゃやめようか?居ないの判ってんなら意味無いじゃん」
「……」
「陣内!」
「よし、じゃあ行こうか?」
「はぁ?」
『何で?』って顔で閂は俺を見る。まあ、確かにそうなのだが俺統計で言うと
原田が電話に出る確率は低い。
知らない電話番号なら完全黙殺だし、俺の様な人間でもあいつの気分が悪かったら(都合が悪い・だるい・うざい・等の個人的理由)でない傾向がある。
「電話出なかったんなら行っても仕方ないだろ」
閂の言葉に気を止めることなく
「あいつは電話に出ないのが趣味なんだ」
「嘘つけー!」
適当な事を言うと俺はギャーギャー言う閂を無理矢理連れ出し、マンションを出る。
そして一路 奴の自宅・国分寺を目指す事にした。
俺たちはその辺のタクシーを拾いそれに乗る。
後部座席に俺と閂は乗ると運転手に奴の住所を告げると国分寺を目指し始める。
「なあ陣内、いないのなら…」
「だから、あいつは電話に出ないのが趣味だって言ってんだろ」
俺は無理矢理閂に言い聞かす。
が、実の所ここ数回原田に電話を掛けたがまったく音沙汰がないのだ。
んでそのままあいつの家に乗り込んでいったのだが、家に人の気配はしないし
鍵も掛かっている。あいつは自宅に居ても居なくてもは鍵はあけっぱなしなのだが…。(このご時世に無用心な奴だ)
だから俺は数回勝手に上がっていると後で気付くあいつが特に怒るわけでもな
く適当にだべって遊んでは帰っていた。
だが、この最近のあいつはおかしい。
とは言っても本当に1月以来直接会ってはいないし連絡も無い。
だから今日は何があろうともあいつの家に乗り込む!と俺は決意した。
原田邸に着く。
自称貴族(真偽の程は知らない)にしてはかなり普通の平屋だ。
タクシーの運転手に金を払うと玄関まで来る。
「まったく人のいる気配が無いんだけどな…」
来て開口一番、閂がだるそうに呟く
「……」
「やっぱ帰ろうぜ陣内。原田さんいないのに」
「まあ待て」
ドンドン
「おーい原田ぁ〜」
ドンドン
「いるのかぁ〜?」
ドンドン
「宇陀児ぅ〜」
返事が無い。やはりいないのだろうか…
と、どうせ鍵が掛かっていると思い扉に手を掛ける。
ガラガラガラ
「……」
「……あら?」
開いていた。そして廊下を見て俺達は不思議な光景が映っていた。
「陣内…開いたな」
「ああ」
「けど何か様子がおかしいと思うんだけど…」
「同じく」
「これはつまる所の…」
「空き巣だな」
玄関を伝う廊下に目をやるとくっきりと浮かぶ土足の跡、そして周囲に散乱
した衣類・画材道具・食料…どうやら原田の家に泥棒が入っていた痕跡が
俺と閂の間に見えた。
「ど、どうする?原田さんに連絡を…」
「まあまて、もしかしたらこれはあいつが狂気乱舞して自分の家を散らかしたとは…」
「思える訳ないだろ!」
「そうだな」
見当違いな発言をする俺に閂は即答で否定する。
そして、その時だった。
「あ……」
閂が突き当たりの台所に目を向ける。
俺もそれにつられて見る。
すると台所の暖簾を手押し、ヒョコッと顔を出す。
「何だ、やっぱりいた……」
相手を原田だと思っての言葉を投げかけた時…その異様な姿に俺と閂は戦慄した。
190はあろうと思われる身長・分厚いサングラス・リクルートスーツ・そして…日本では絶対と言って良いほどの不自然な黄緑色の頭髪。
俺と閂はただそいつを見据えていた。
言葉が出ない。(と、いうよりも浮かばない)
どう見ても原田の知り合いとは思えない。不自然な姿・辺りの物の散乱具合、
とりあえずこみ上げる、得体の知れない恐怖を抑えることに必死だった。
閂は呆然とそれを見ている。
その時、それが声を発した
「お前が原田宇陀児か?」
「いいや、人違いだ」
「なら、すぐこの場から消え去る方がいい。そうすれば無事に帰してやる」
ドスを聞かせた口調、ヤクザと遜色が無いように思えるが、頭髪が妙に不自然
な色のためだろうか?…いや人間としてありえない色合いなので間抜けである。
とりあえず反論する。
「いや、今来たばっかりだし、それにこの惨状を見てそして知り合いの家に
そう不自然は状況と不自然な頭をしてグラサン掛けている奴がいて『はいそうですか』と帰るほど常識が無い訳ではない」
「知り合い?ならお前達は何者だ」
徐々に頭を整理して状況を把握し、気持ちを落ち着かせる。
「そういうのはまず自分の事を言ってからいうのが礼儀ってもんだろ」
「そうだな」
男は一呼吸すると一歩俺達の前に出る。
「俺の名はタテバヤシ…」
「タテバヤシ?」
あっ!
それならその色合いも納得できる。そうか、そうだったのか…
そう、前に襲われた事のある『あの一味』だという事に俺は理解した。
「つまり、ときめも12人衆の一人って訳か…」
「??…どうやらこちらの事情を知っている様だな。で、お前の名は?」
だるい。しかし礼儀として言って置かねばならんので…
「俺は陣内…陣内ちからだ。で後ろにマスクしてるのが閂 夜明だ」
原田邸の玄関で俺達は馬鹿丁寧に自己紹介をした。
俺達の名を言うとタテバヤシと名乗る男は
「陣内?…ああ、お前もLeafのスタッフか…」
「残念だが、もう辞めているんでな。それより不法侵入じゃねえのお前。
早いところ出ていきな。今なら原田にゃ黙ってやるからよ」
「残念だがそうはいかん。それに…お前達も只で返す訳にはいかなくなった」
「ほう、辞めてもLeafにいたという事実だけで抹殺されるのか…たまらんなぁこれは…」
幾分、精神的に余裕が出てきた俺。
「なあ陣内、俺達何か余計なトラブルに巻き込まれてる?」
「そのようだ」
「何でお前と行動するといつもこうなんだ!」
「いいじゃねぇか。楽しくは…」
「ねぇよ」
「そうかい…」
と
「お喋りはそこまでにしてもらおう」
低い声でタテバヤシは一歩、また一歩廊下を歩き俺達に近づく。
「悪いがお前達二人にはここで少し眠ってもらう」
「遠慮しておこう、生憎…睡眠時間は十分とってあるんでね」
「その減らず口を叩いた事を後悔するがいい」
瞬間、巨体のタテバヤシが俺に目掛けて突進してくる。
間合いが瞬時に狭まる。
しかし冷静にみればその体躯故に動きは遅い。
俺がアクションと取ろうとしたとき…
「俺を無視するな!」
閂が俺より先に動いていた。
タテバヤシめがけて閂がタックルする。
「ぬぅん!」
しかしガタイの差から軽く受け止められ…両腕で奥の台所まで投げ飛ばされる。
ガシャーン
「ぐっぁあああ」
「閂ぃ!!」
低いうめき声と共に閂は台所のテーブルに体をぶつけそのまま倒れる。
「ただのゲーム屋如きが俺に歯向かうなど10年早い」
パンパンと埃を落とす仕草を見せそして悠々と俺に近づいてくる。
「さて、次はお前だ」
「……」
一歩、二歩と近づいてくる。
閂は痛みのせいか動けないようだ。
しかし今は閂に構っている様子ではない。
そして攻撃の間合いに十分達した時
奴の拳が俺をめがけて放たれた。
ガッ
「!!」
驚きを隠せないタテバヤシ
それもその筈、奴の繰り出した拳は俺の右掌に納まっている。
「どうした?そんなもんか」
「くっ、何故だ?体格も無いお前が何処にそんな力が…」
体格?
どうやらこの男は体格を筋肉で全てを見定めているようだ。
これはどうも認識を改めさせねばならんようだ…
過信した人間ほど、弱い者はいない。
ギリギリ
掴んだ拳を握り潰しにかかる。
「うおっ」
苦悶の表情を見せたその瞬間、俺は体重をストンと落とし、左で渾身の力を込める。
「とりゃ」
タテバヤシの鼻っぱしに俺の拳がヒットした。
怯むタテバヤシ、こういうときは躊躇している暇などあたえてはいけない。
「陣内ちからの『力』の部分をみせてやろう(本当は主税なんだがね)」
俺はスッとタテバヤシの背後に回り、両手で抱え
「え?」
「バックドロップだ」
ドシンと
「グハァ」
タテバヤシの体が力なく原田邸の廊下で倒れる。
受身が取れなかったタテバヤシはそのままダメージをくらう。
起きてこない奴にそのまま俺は首を締め上げに掛かる。
チョークスリーパーだ。
「ググググググ」
低い声で唸る。そんなもんはお構いなしで一気に締め上げる。
やがて泡を口から吹き出し…そして
タテバヤシは意識を失った。
正直、あっけなかった。
また、タクシーを拾い、自宅へ戻る。
とりあえず、閂を俺のベットへ寝かす。まだ痛みが引かないらしい
「なあ、さっきからかなり疑問に思えることがいくつかあるんだが…」
「ん?なんだ言ってみろ」
「あいつ、ほっといてよかったのか?」
「ああ、あれね。いいんじゃねえの。また挑んでくるのなら潰すだけだ」
「なんかもっと…あいつに聞く事あったような感じがしないでもないんだけどなぁ俺は」
「あの類はそう簡単に口は割らんさ」
「で、やっぱコナミ関係なのか?」
「だろう、あんな姿でタテバヤシって名乗っているんだ。それに俺、前に
原田と一緒に居た時にカタギリって奴に襲われた事あるしな。その類だろ」
「でも今更なんで原田さん所にいて物色してたんだろ?」
「あいつは自称(あながち嘘でもないが)『真実の墓場』だからな。コナミも
多分未だにVNの版権とかでLeafに関わった奴をなんとかしたいんだろう。
んで、俺らも知らない事情を色々握っているからなんとかして接触したかったんだろうよ」
「でもさ、もう俺らがあの例の文書(2・14)で騒がれてもう一年過ぎてるのにさ、葉鍵板の奴らもこの事はかなり風化してるっていうのに、なんで他企業のコナミなんかが今更俺等っていうか原田さん追い回す必要があるんだ?」
?
確かに、閂の言う事は最もかもしれない。しかし俺にも腑に落ちない点がいくつもある。
だが、今はそれを考えるのもなんていうか…だるい気がする。
「ま、どれだけ経ってもよ、俺もお前も原田も、そして中尾さんも、ずっーと『かつてLEAFにいた』って冠がつくんだ。その業からはにげられないのだろうよ。それを脱した人間ってのは多分会った事もない折戸さんぐらいだろう」
「そうだな。いまのままじゃいつまでも『Leaf』ってのを払拭できないんだね。俺達」
「そういうことだ」
「なんか…悔しいよな。それって」
「まーそれはそれとしてだ、とりあえずよお前はしばらくは俺ん所で安静してろ、つくばに帰るのもその体じゃ面倒だろ?微妙に打撲してるみたいだしな」
「すまない、陣内」
「ま、その代わり原稿依頼のページは増やすけどな」
「………」
閂の俺を睨みつける。こっちだって只で置いておく訳にはいかない。
それに…さっきのアレ見てると、こいつが一人で居るときにでも襲われたらもっと大惨事になっていただろう。何か手がかりを掴むまでは俺の側にいたほうが安全だ。
そして俺が…最初にとる行動…
それは
原田に連絡が取れることだ。どうやらそこからでないと話は始まらないようだ。
「ところで、陣内」
「ん?」
「お前さ、あんなに強かったけ?かなり圧倒的にみえたけど何か武術とか格闘
でもやってたのか?」
「……」
「陣内!」
「……秘密だ」
「なんだよそれ!ケチ」
「いや、ケチとかって問題でもないだろ……まあゆくゆく教えてやるよ」
「本当だな」
「お前をのけ者扱いしたことがあるか?」
「…かなり」
「俺を信用しろって!別に言わないって言っているんじゃないただ…そう、気分が乗らないんだ。それだけだ」
「わかったよ」
そういうと閂はスッと目を閉じ睡眠に入る。
せめてマスクぐらいは取れよな…
閂が眠りに入ると(マスク付けたまま)、俺はとりあえず今日の出来事と前々か
らの出来事を脳内で整理にかかる。
で、要点
1 何故原田は電話にでないのか?
2 原田邸にどうしてコナミの人間がいて物色していたのか?
3 中尾さんの事が関係しているか?
ピックアップする点はこの3つぐらいだろう。
まあ、閂の場合は
4 俺の強さの秘密
5 コミケ原稿
6 今後の行動
とかあるのだろうが・・・それは後回しだ。
そう、いまはとりあえず、この気だるい気分を取り除くために俺も寝よう。
起きて気が向いたら原田にでも連絡を取ろう。
こうして、俺は眠りについた。
後先なんて…知ったこっちゃねぇ。
To be Continued
381 :
R:02/07/07 13:35 ID:F+SQWFHp
1 現実に起きた出来事になるべく沿って話しを進める
2 仮想戦記なのでとりわけ気にせず適当に進める
3 その他
最近このへんで方向性悩んでます。以上
4 そもそもネタスレで、遊び心を失ってしまい、
真面目に文芸小説じみたものを、四角四面に書こうとしてる
シャレの通じない、こわばった空気のおかしさに気が付く。
383 :
R:02/07/07 15:28 ID:F+SQWFHp
1 現実に起きた出来事になるべく沿って話しを進める
2 仮想戦記なのでとりわけ気にせず適当に進める
3 その他
最近このへんで方向性悩んでます。以上
また七夕ネタみたいなのが読みたいな。
北!!
1は、気にして欲しいけど、書くのに邪魔になるくらいなら、2で。
考えたストーリーと異なる事件が現実に起こったりして迷ってるのかもしれないけど、
基本路線は2でもいいんじゃないかな……?
おー、陣内キター
久し振りに陣内の同人誌が読みたくなってきたから読んでみよ〜と。
mente
MENTE
メンテ
めんて
392 :
必殺仕事びと:02/07/12 23:19 ID:khsyR1Uw
メンテとか言うなら揚げてやる。
うりゃ〜〜〜!!
しかしめんて
慮りめんて
陣内がタテバヤシを一蹴した翌日の事であった。
コナミ神戸・地下
一般では入れない鉄で覆われた薄暗い部屋に二人の男が立っていた。
一人は赤いストレートのロングヘアーで黒いサングラスを掛けていた。
男はシオリと呼ばれていた。
もう一人はピンクのショートヘアで同じく黒いサングラスを掛けていた。
男はコシキと呼ばれていた。
シオリと呼ばれた男は自分の髪に手をやりこう呟く。
「タテバヤシが病院送りにされたという話は本当か?」
訊ねられたコシキは淡々とした口調で
「はい、間違いありません。現地の病院で直接『サオトメ』が会って
おります。幸い気絶していた程度だったのでミキハラほど思い症状では
ありませんが…」
「が…何だ?」
「タテバヤシはこの件から手を引きたいと言っておりますが…如何致しまし
ょうか?」
「フン!怖気づいた奴などほおっておけばよいわ。で、今度は誰に負けたのだ」
「えっとですね…」
コシキは懐から分厚いシステム手帳を取り出しパラパラと紙をめくる。
「ああそうそう。相手は陣内…陣内ちからです」
「陣内ぃ?」
「はい。前にカタギリが一度だけですが接触しています」
「で、どんな奴なのだ」
シオリに訊ねられるとコシキはパラパラとシステム手帳をめくり・・・
「陣内ちから…元Leafの背景グラフィッカーです。昔はエロ漫画家で
雑誌投稿などもしていたようです」
「そんな奴にまたしても我々は負けたというのか!」
ガン!と近くの鉄の壁を掌で叩く。
シオリの顔は怒りで紅潮していた。
「ですがシオリ様」
「何だ!」
荒々しい声を出すシオリ
「原田宇陀児・陣内ちから・いずれももはやLeafには在籍しておりません。むやみな戦闘は避けるように残りのメンバーに通達してはどうでしょうか?
確かに、彼ら達は昔Leafにいました。しかし今は辞めて無縁の身の者達
です。今更我々に危害を加えるとは思えませんが…」
「何を言うか!現にミキハラとタテバヤシはその『元Leaf』の面子にやら
れているのだ。特にミキハラは精神崩壊まで至ったのだぞ!それをお前は無害
だとでも言うのか?」
怒りにわれを忘れるシオリを諭すようにコシキは
「落ち着いてくださいませシオリ様。誰も無害だとは言っておりません。ただ、
こちらから戦闘をしかけるような事は避けるべきだと私は言いたいのです。
我々の目的はLeafと言う企業からどのような形であれVNの版権を手放
す事。そして我々はそうさせるような圧力を掛け続ければよいのです。
ですから彼らから手を引くべきです…」
と、コシキが冷静にシオリに言うが
「なら我々はこの敗北を引きずってLeafに圧力をかけろというのか?負けっぱなしの状態で過ごす事にお前はなんら屈辱を感じないのか?我々ときめき
12人衆にそんな軟弱な奴はいらぬ!」
「し、シオリ様…」
と、シオリが熱弁を振るっていたとき
パチパチパチ
「!!」
「!!」
二人が音のする方向へ顔を向ける。
そこには灰色の紙の色をした男がシオリに向って拍手していた。
「それでこそ我々のリーダーです。シオリ様」
「おお、カタギリではないか」
男はシオリにカタギリと呼ばれた。
カタギリと呼ばれた男はこう言う。
「コシキの言う事は最もであり、理に適っています。ですが我々のプライド・面子からすればこのまま引き下れと言うのは恥辱を背負ったまま生きろというのと変わり無いでしょう。そのような事ではFOX HOUNDの連中にも笑
い者にされる所です」
「カタギリ…私はシオリ様に…」
コシキはカタギリを抑制しようとするが
「コシキ、いつからお前はそんな軟弱者に成り下がったのだ?我々は『ときめきメモリアル誕生以来、ずっとこのコナミを影で支えてきたという自負とプライドがある筈だ。一度や二度どこの馬の骨にやられたというだけで手を引くと
言うのはそれこそ愚の骨頂ではないか?」
「しかし…」
コシキの言葉を遮りカタギリは
「シオリ様、この件は俺に任せてください。陣内ちからとはかつて接触しています。陣内の事は俺に一任を!」
カタギリをそういうとシオリに跪くと…
「カタギリよ」
「ハッ!」
「関東方面はお前に一任する。ただちに東京へ向かい奴等を倒すのだ!」
「御意!」
シオリにそう言われるとカタギリは闇へ消えていった。
カタギリが去るとコシキは
「……シオリ様」
「コシキ、お前の言う事は正しい。俺とて馬鹿ではない。だがな!
コナミを裏で支え数々の隠密活動の末に戦い抜いて来た我等が一介の
ゲームスタッフ如きに負けた事が解せんのだ。せめて…お前の考える事は
原田・陣内を倒してからにしてくれ…」
「し、シオリ様…」
シオリは低い声で…
「このままで済むと思うなよ…Leafの残党達よ…」
部屋に気味悪く声が響く。
再び、戦いの戯曲は奏でられるのであった。
400 :
R:02/07/14 18:10 ID:ZNd04Qig
一言
「今年中に終了できるかなぁ・・・」
保守
気長に待ってます
403 :
名無しさんだよもん:02/07/16 19:19 ID:R8ScqwU7
何下に
↑炉が足りない
期待sage
めんて
保守保守
メンテ
410 :
名無しさんだよもん:02/07/22 04:30 ID:p0mhABIg
テコ入れage
保守sage
412 :
名無しさんだよもん:02/07/23 00:44 ID:R+q0Fg7a
凸入れage
413 :
名無しさんだよもん:02/07/23 00:46 ID:KCKZC7cl
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