とりあえず、なんといったらよいものか。
ぴかぴかといい加減まぶしい『それ』を見ながら、彼女は一つ息をついた。それから事態を把握してみる。
まず『彼女』には連れらしき存在はいないようだ。
格好からすると、魔法使いのようである。これは単純にすごいことだ。
そして、メガネ。貴族階級、あるいは一部の富裕層のアイテム。それをしていることからして、お金持ちかもしれない。
しかしそれでも。関わりたくないと思った。
「じゃ、そーゆーことで」
漆黒の鎌を手にした女性は、しゅたっと片手を上げると、きびすを返す。
「………!」
途端、何故か片足だけ重くなったが、気のせいにすることにした。
足を前に進める。ずるずると何かを引きずる音がしたが、気にしない。
どれくらい歩いただろうか…
ゴブリンたちの残りモノが気にならない程度の距離なので、長くはないが、けして短い時間でもない。
それだけ歩けば、いいかげん足もだるくなってくる。
はぁ。ため息一つついてから、彼女、美坂香織は立ち止まった。
「あのね。いいかげん離してくれない?」
ブンブンブン。自分の左足にしがみついて、泣きべそかいている少女は思いっきり首を横に振る。
どこか甘えたような上目づかいに香織は少し苛立ったが、とりあえずそれは押し殺した。
「パーティと別れて心細いって気持ちはわからないでもないけどね、私には私の用事があるのよ。あなたを護衛するとか、ましてや仲間のところまで送り届けるなんて、できないの。悪いけど」
再びブンブンと首を横に振る少女。
首を振りながら、その少女は地面に何かをなぞる。文字のようだが…
「…こんな所で放置されたら死んじゃいます、せめて人里まで同行させてください…?」
独特の癖があって読みにくい文字を、眉をひそめながら読み上げる。
ブンブン、今度は首を縦に振る。
「だから、さっきから言ってるでしょう?私は先を急ぐのよ。もっとも」
香織はにこりと笑みを浮かべる。それは、温かみという要素を微塵ほども持たないものだった。
「懐が少し寂しいことだし、先立つものがあれば、別だけど?」
結果だけ述べれば、砧夕霧は美坂香織との交渉に成功した。
しかし、その代償は大きかった。今回の冒険で手に入れたお宝の大半を譲渡する羽目になった。
おまけに、香織は自分のペースで先に進んでいく。体力のない夕霧はついていくだけで精一杯になる。
これだから、パーティ行動は嫌なんだ…自分の不幸を呪いながら、殆ど休みなし出歩き続ける。
日が暮れたころにはすっかりクタクタになっていた。
「…今日はここで野宿かしら」
香織の言葉に、その場で腰を降ろす。足が痛くて泣き叫びたい気分だった。口が利けないので出来ないが。
そんな夕霧に、香織はあくまでクールだ。
「やわねぇ。幾ら魔法使いだからって、もう少し体力つけたほうがいいんじゃない?」
魔法が使えれば、体力なんか使わなくても!…と言い返したかったが、やっぱり口が利けないので俯く。
「魔法とか異能力って、確かにすごいけどね。でも、万能じゃないわ。付け込むスキはある。ま、高い授業料だったと思うことね」
高すぎる。暴利だと思ったが、香織の言う事は一々もっともなので、結局俯くしかない。
夕霧がへばって俯いている間も、香織は動き続ける。適当な火種を集めると、火打石で火を熾した。
「特に単独行動をするのならね…命が助かっただけでも、上等なのよ、あなたは」
交渉するときに、一通りの事情は明かしている。自分が単独で冒険している事も、メガネの不可思議な呪いのことも。
でも。夕霧は思う。自分は、彼女の事情を知らない。
「この調子なら、明日にも街道に出られるわね…」
とりあえずの食事を終えた後、空を見上げながら香織は呟いた。
別段、自分に話し掛けているわけではないだろうが、夕霧は地面に文字を書く。
(レフキー街道?)
「ええ。一旦街道に出て、レフキーに向かう。あなたとはその途中の宿場町でお別れだけど」
(あの、出来ればレフキーまで同行したいんですが)
「構わないわよ。今日のペースが保てればね」
酷い。夕霧は内心泣きたくなった。何で、この女性はそんな冷たいことを平気で言えるのだろう。
涙は出ても額は光っても、結局文句は言えないので、夕霧は俯くしかなかった。
深夜。疲れたのか、深い眠りにはまって身動き一つしない夕霧の隣りで。
香織は、自分のエモノ…漆黒の鎌を構えた。今は変わった形の杖にしか見えないが。
「………ッ」
手首を返した瞬間、鎌の刃が延びる。
大昔の奇特な武器職人が作った奇特な武器だと、香織は聞いていた。不思議な構造だが魔法の類いは一切使われていない、とも。
純粋な鋼であるが故の最強。作った本人はそう豪語したそうだが。
それを思い出すたび、香織は思う。
「何てことない、ただの玩具よね…」
その玩具を使い続けている自分も相当どうかと思うが。
それでも、香織は香織なりにこの武器には愛着がある。
この…死神を思わせる鎌には。
香織は鎌の刃を戻した。
街道に出ればレフキーまで後少し。これを使うような事態が、起こらなければいいのだけれど。
そんな事を考えながら。
【美坂香織 目的地はレフキー】
【砧夕霧 美坂香織に同行】
と言うわけで『香里と夕霧』をお送りします。
放置っぷりがあまりにも不憫だったので書いてみました。
って…カオリの漢字が間違ってる。スマソ…
香里の素性や目的、凸がどこまで同行するかはお任せ。
つーか、誰か書いて…オレハクビツッテクル
mente mente
圧縮も近そうだからな……
念には念を入れて…
355 :
必殺仕事びと:02/07/15 23:38 ID:61tY1+VZ
唐揚げ
誰か書いて…
357 :
必殺仕事びと:02/07/17 02:25 ID:DkOivGYU
試験が終わったらとか、
試験の合間にとか、もう試験真っ最中じゃ・・・。
ほしゅ
「さて、何事も起こらずにこの管理人室に辿り着けた訳だが……」
「またここに戻ってくる事になるとはなぁ……」
分厚い鉄の扉が唯一の出入り口となる管理人室。ここを鼠――アルジャーノンに襲撃されたのだ。あまりいい思い出は浮かばない。
未だに壁に空けられた穴も残っている。これからもこの穴同様に管理人室は手付かずのまま放置されていくのだろうか。
「あなた達、そんな事言ってないでさっさと開けてあげないさよ」
名雪は一人で何袋も担いでいるのだ。本人は余裕たっぷりの様子なのだが。
「今開ける…よっとっ!」
鉄製の扉を押し開く。光球によって照らされた室内は出た時と、なんら変わりはなかった。
「ふぃー疲れたぜぇ……」
なんて言って、ベッドに倒れこむ北川。名雪もとりあえず部屋の片隅に小麦の袋を積み重ねていく。
作戦の最終目的地だ。この部屋に火薬を仕込み、誘き寄せた群れを一網打尽にする、という作戦。
「……ふぅ。本当に実行する気なの。こんな狭い部屋にアルジャーノンの群れが入り切るのかしら。それに脱出するって…出入り口は一つしかないのよ?」
友里は心配そうに問いかける。
その問いに大志はただ笑みを返すのみ。――その不敵に笑ったカオが、ふっふっふっ。愚問だな名倉女史、と告げていた。
「それにしても……腹減ったなぁー」
部屋でごそごそやっている他の三人を尻目に北川がぼやく。
この下水道に入ったままで何時間経ったのだろうか。感覚が麻痺している所為かよくわからなかった。加えてこの閉塞感だけは慣れそうも無く、精神が摩り減っていく。幸か不幸か、臭いだけはもう気にならなくなっているが。
「あ、そういえば私パン持ってきてたんだよ〜」
そう言って、懐から取り出したのか、幾つかの美味しそうなパンを皆に配りだす。
「気が利くな。流石、我が同志。いやっ! まいしすた〜名雪!」
困った様に微笑み、残りの二人に配る。
出来立てではなかったが十分に美味しかった。秋子さんが作り置きしていた物を勝手に持ち出してきたのだろうか。
アトが怖い話だった。
(まだ鼠の黒焦げは残ってんのかなぁ。誰かが処理してるのか……お客さん、ちゃんと来ているのかなぁ……)
北川はパンをかじりながらそんな事を思う。更に杞憂は加速していく。
(秋子さん、怒ると怖そうだよな。それに例え350メートルぐらい離れた所から狙撃しても避けそうだしなぁ。おまけに何時の間にか背後に立っていて『甘過ぎですね、北川さん。そんな貴方には甘くないジャムでも……』なんて囁かれて――)
「そんな馬鹿な」
呆然と、ベッドに腰掛けたまま『そんな馬鹿な』と、呟いた北川に全員の視線が集まる。ある者は哀れみを、又ある者は痛々しいモノを見守るような視線を送る。
「しっかりしろ、まい同志。街の命運は我等に懸かっていると云っても過言ではないのだぞ」
大志は作業をしていた手を止め、北川の目を見据える。
「なんだか……大袈裟だな。実感が湧かねぇよ。だってほら、名雪さんが一人で青の錫杖に行ったって何にも起きなかったじゃないか。まぁ……俺もその間に銃弾を込めたりする余裕があったけどさ」
「まさか、遊び気分ではなかろうな、同志北川。本来なら我輩はこんな、アカデミーの尻拭いなど捨て置くのだがな。放っておいたらこのレフキーが最悪、壊滅寸前まで被害がでるのだぞ」
言って、ちらりと名倉友里の方を一瞥し、続けた。
「それは我輩の野望に害を為すことだ。更に、目を覚まさない幼女を一人、預かっているのだしな。全く……アカデミーも地に堕ちたものだ」
深と沈黙が訪れる。
賞金が掛かった鼠を退治しにきたのに、蓋を開けて見ればそれは群体型自立生体戦略兵器。しかもそんな軍事目的で造られた失敗作によって、住み慣れた街が脅威に晒されているのだ。堪ったものではない。
そんな事が世間に知られたらアカデミーに明日はないだろう。何しろ既に被害者が多数出ており、そんな危険な実験をして、失敗する度にこんな事態になるのを見過ごす訳がないからだ。国も人も。
――力を過信し、生命すらも創り変えられると驕っていたアカデミーはその生み出した力によって滅亡へと向かっている。
自業自得――驕っていたアカデミーは自ら生み出した力によって制裁が加えられるのだ。
尤も、言い逃れなど幾らでも出来るのだろうし、アカデミーの関係者以外でそれを知っているのが、この場にいる三人だけというのが不安だが。
「そ、そういえば、ここに立て篭もった時は何故か壁に穴まで空けたのに入ってこなかったね〜」
場の雰囲気に耐えられ無いのか、名雪が場を取り繕うように沈黙を破った。
「そ、そういえばそうだな〜。どうしてかな? 大志」
北川もこんな雰囲気には慣れていないのだろう。大志にさり気無く話を振った。
「……あれは名倉女史曰く『決まった時間に、決まった場所で、集団で眠りにつく』という事だろう。まさしく絶妙なタイミングだったがな。他に説明は付きそうに無い」
淀み無く答える大志。北川はそれを聞いて、胸を衝かれた思いだった。
「そ、そっか。流石……大志だな。冷静で、いつも質問に何しかしらの答えを示してくれる。その点、俺は冒険で言えばルーキーだ。正直、俺達のこの手に街の命運が懸かっているなんて思うと、プレッシャーに負けてしまいそうに、なる」
「北川くん……」
こんな北川を見るのは名雪も初めてだった。掛ける言葉が見つからない。
だが、大志は事も無げに言う。
「らしくないぞ、まいぶらざー。ムードメーカーがそんなんではパーティーの士気に支障が出る。なぁに、我輩に任せておけ。同志北川は後ろで馬鹿な事をやっていればそれでいいのだ……判るか?
――それが正確無比な銃の腕前よりも、心強い同志北川の持ち味だと我輩は思っているのだがな」
言って、大志はにやりと、斜に構えた視線を投げかける。
北川は訳も無く、涙しそうになったが、堪えた。――上手く堪える事ができたかは判らなかったけれども。
「なんだよそりゃ。それじゃぁ俺が何の役にも立ってないみたいじゃないかっ。しかも俺をかなり馬鹿にしてるだろっ!?」
「ふはははははっ! ではそろそろ休憩は終わりだ。仕掛けの準備も終わった。もうこれ以上時間は掛けられまい。本格的に作戦を実行に移すぞっ!」
「無視してんじゃねぇーよ!」
そんな二人を名雪は微笑ましく見守っていた。
そして、その輪に入れずに傍観するアカデミーの名倉友里。彼女は何を思って彼等を眺めているのだろうか――。
【一同作戦開始】
お話としては「軍師の条件」(
>>325-329)の続きです。
案の定展開が進みませんでした(ぉぃ ファンタジーは書くと長くなりすぎます(;´Д`)
どうしてかな……
変なところがあったら、指摘お願いします。
「陛下っ、女王陛下!!」
勢い良くドアが開かれ、一人の男が食卓の間に転がり込んでくる。
横に20人からは座れそうな極端に細長いテーブルの上座に、詠美は座っていた。
その前には、詠美が食べ散らかした皿が並び、ちょうど食後のデザートが運ばれてきた所だった。
「ちょっとぉ、あんた何勝手に入って来てんのよぉ。ちょおムカツク!」
「そ、それどころではありません!」
今まさにデザートに手を伸ばそうとした所を邪魔され、彼女の機嫌が目に見えて悪くなる。
だが、男はむくれる詠美に怯みながらも、何とか顔をあげた。
「我がレフキー海域の沖合いに、謎の島が現れました!」
「ふーん。それで」
勢い込んだ男の気勢を削ぐような、実に面倒くさそうな声で詠美は聞き返す。
男は一瞬絶句してから、慌てて報告を続けた。
「は、はい。ギルドからの連絡によりますと、沖合い50キロの地点に、濃霧が発生し……」
「のおむ? 何で土の精霊が、海の中に出てくるの」
「あ、いえ、濃い霧の事であります!」
詠美は僅かに怯んだ顔をしてから、すぐさま眉をつりあげた。
「ふ、ふんだ。そんな事知ってたわよ! あんた、したぼくの癖にちょおナマイキ!」
「も、申し訳ありません……」
慌てて頭を下げる情報員(35歳。妻子持ち)
女王に直接目通りを可能とする地位にあるとはいえ、しょせんはしたっぱ、立場は弱かった。
お付きの侍女数名が、彼に同情の視線を送る。
「そ、それでですね。その島には、古代の秘宝が隠されているという情報もありまして。
もしそれが本当ならば、我がレフキーの威信をかけても、手に入れるべきかと。
それに、一応の戒厳令は敷きましたが、帝国に知られるのは時間の問題です。
奴らが黙ってみているとは、到底思えません」
「…………古代のひほうねぇ」
頭を下げる彼にはもう見向きもせず、詠美は自分のあごに手を当てて考え込む。
秘宝塔の秘宝は、帝国の思わぬ暴挙によって奪われたばかりだ。
これで、レフキー沖の秘宝まで先を越されたとなれば、レフキーの威信は地に落ちる。
………まぁ、詠美の思考の中では「帝国に盗られてばっかりだと、ちょおムカツク」ということなのだが。
「んじゃ、梓を呼んできて」
「は」
男が出ていき、数分とたたない内に、近衛隊長の梓が姿を現した。
「浮島の事は聞きました。それで、いかが致しましょうか」
「……梓、その前に、浮島って何なの?」
詠美の問いに、梓は自分の中の知識を思い出すように、小首を傾げる。
「………浮島というのは、大地に固定されていない島の事です。
軽い岩盤で出来ていたり、内部に空洞があったりして、海や湖の上に浮かんでいる島を、浮島と呼んでいます。
その為、海流に乗ってふらふらと海を放浪するため、決まった場所に無いんです。
以前に現れたのが1000年前だとすると、よほど大きな海流に乗って移動しているようですね」
「なーんだ、空中じゃなくて、海の上に浮かんでるだけなんだ」
「有名な浮島の話だと、サルガッソーという海に、海藻が集まって出来た島があったそうです。
島だと思って上陸すると、海藻の隙間に足を取られ、藻が絡まって身動きが取れなくなり、生きながら魚に食われるそうです。
その島には、そうやって死んだ海賊や船乗りの骨が、あちこちに絡まってるとか」
「ふ、ふみゅーんっ! そういうのは嫌っ!」
「ああ、今度のは全然違うみたいなので、怖がらないでください」
ビビる詠美に、梓はけろりとそんな事を言った。
「それで、どうします? 我々も島の捜索を出しますか?」
「………うーん、それなんだけど、なんか嫌な予感がするのよね」
真っ先に面白そう、とか言い出すのかと思いきや、詠美は口をへの字に曲げた。
それを聞いて、僅かに梓の表情にも緊張が走る。
この詠美の勘……あるいは、モノの流れを読む力とでも言うのか……は、常に正確に未来を見通して来た。
一種の超能力かとも思っていたが、どうやら本当にただの勘のようであるらしい。
しかし、今までにその“勘”が99%の成功率を誇り、このレフキーを発展に導いたのは、周知の事実だ。
その詠美が嫌な予感がすると言うのだから、間違いなくその島は一筋縄ではいかないものなのだろう。
詠美は散々悩んだ挙げ句、知恵熱でも出したのか、顔が真っ赤になっていた。
「……うーん、あいつに頼るのはヤなんだけど、しょうがないか……長瀬源之助に連絡して」
「源之助に?探索の方はよろしいのですか?」
驚く梓に、詠美は頷き返した。
「うん、あの図書館なら、島の事で本か何かがあると思う。
取り合えず情報が揃うまでは、共和国は表向き、何もしないでいて。
ただ、準備だけはやっとく事……何が起こるかわからないから」
いつに無く真剣な顔の詠美に、梓は一礼して部屋を後にした。
【大庭詠美 表向きは行動を開始せず。長瀬源之助に情報を集めさせる】
「クカカカカッ。どうも、汝には狩人には合わぬようだな」
愉快げな笑声が、暗く重い空気を震わせる。
そう、震わせるだけだ。
どれほど愉快げに、明るく聞こえる笑い声だとて、打ち払いはしない。室内に満ちる闇を。
何故なら、その笑みもまた濃厚な闇の属性を持つモノなのだから。
ここが、幼帝を担ぎ帝国の執政を独占すると言われる悪辣な宰相の邸宅、それも宰相の寝室だと言っても、誰も信じることはないだろう。
それほどに簡素。それほどに寂寥とした室内だった。
だが、わずかに室内を彩る調度品、また部屋の造り自体は木材を多用した重厚で趣のある造りとなっている。
もしそこらの貴族の邸のように、多くの豪奢な調度品が室内を埋めていれば、その趣は生まれまい。
飾り立てない事で風格を引き出す、それを追求しての設計なのだ、この邸は。
室内には、老人の域に入った男が二人がいた。
一人は帝国宰相、シケリペチム公ニウェ。部屋の主、そして笑声の主でもある。
その笑いが上辺だけのものである事は、多少鈍いものでもその瞳を見返せばわかるだろう。
前方に投げられた眼差しは、人を見る眼差しではない。
喩えるならば、そう、このところ老いを見せる猟犬の処遇を見定めるかのような目付き。
「宗純よ……虎を狩るのに、ネズミを差し向ける阿呆がおるものか」
「……面目ない」
宗純と呼ばれたのはニウェに対し、深々と平伏す初老の男。
大柄な体躯から滲み出すその威厳は、背中を丸め額を床につけたその姿勢でさえいささかも喪われてはいない。
帝国を闇より支える高倉忍軍当主、高倉宗純。それが男の名前である。
「抜け忍一人追いまわすため、レフキー内の諜報網がずたずたよ。
汝が狩りを愉しみたいというならそれも構わんが、少しはワシの都合も考えてもらいたいものよの」
「申し訳もござらん。里より新手を差し向けてただちに抜け忍の駆逐と原状回復に当たらせまする故、今しばしのお待ちを……」
更に深く、額を床に沈める宗純。その背中に向け、ニウェは尚も厳しい言葉を投げ付ける。
「待てば朗報が来るならば、それも良いがな。続けての失敗は許されんぞ?
アレが何を手にしているか……汝も忘れたわけではあるまい」
「……承知しております」
重々しく答える宗純に、しばらく宰相は湿度の高い視線を送る。
その視線を肌身で感じながら、宗純はぴくりとも体を動かさない。
沈黙は十秒ほども続いただろうか。
「まぁ、良い」
沈黙を破ったのは、宰相の側だった。
「それにも絡むことだが、浮島の件な……兵を派することにした。無論、教団の者どもを尖兵にしたててな」
「宰相……それは共和国を無闇に刺激することになるのでは?」
ようやく面を上げた曹純の問いは、問いであって問いではない。答を求めているものではないのだ。
ニウェの口許には、軽く歪な笑みが浮んだのみ。
予想した通りの反応だった。主は、この戦を愛し戦のために生きる主は、新たな戦争を望んでいる。
――それ自体は悪いことではない。帝国が、戦によりその版図を広げるのは、高倉忍軍にとっても悪い話ではない。
戦争は、忍軍、すなわちスパイ網がもっともその威力を発揮できる瞬間なのだから。
だから、ぐっと表情を引き締め身を前に乗り出す高倉宗純の懸念は他にある。
「それに、ガディムの徒の力を借りるのは如何なものかと。
確かにあの連中の力は大きい。しかし危険な存在であることに変わりはないはず。
……近頃、いささか頼りにし過ぎておいでではあられぬか?」
ガディム教団は、確かに帝国の国教だ。
だが、民衆どもはいざ知らず、ある程度の知識階級ともなれば彼らの神官階級がいかに危険な存在であるかを知らぬものはいない。
その危険な教義をもとに、政治にあれこれと介入する彼らを忌み嫌っている、と言っても良い。
それでも彼らを排斥できなかったのは、武神を崇める民衆の力と、教団構成員そのものの力が極めて利用価値が高かったからだ。
利用できる間は利用すれば良い。
そして、彼らを利用しているつもりで帝国は常にガディムの僕に利用されつづけてきた。
先帝とニウェ公の登場まで、の話になるが。
「クカカッ、またその話か。くどいな、汝も。
余とて、別に彼奴らに信をおいておる訳ではない。駒として利用しているに過ぎん」
ニウェの応えは予想通りだった。
先の大戦でも、先帝と宰相はガディム教団の力を多いに利用し、利用し尽くしてグエンディーナとキィを手に入れたのだ。
この宰相ならば、過ちはあるまい――
そのはず、なのだが―――と、宗純の中に不安が残る。
何かが違う気がする。どこかで道を誤った気がする。
宰相は宰相だ。異変はない。外にも、内にも変わりはない。
だが、宰相が宰相であるがゆえに、ガディムの輩との繋がりの中で、何か危険なものがあるのではないか―――?
「それにしても、な」
宗純の内心の危惧を知ってか知らずか、ニウェはからかうような声を彼の腹心に向けた。
「さては……汝、もしやワシが汝の忍軍とガディム教団を秤に掛けているのではと怖れておるのか?」
「その様なことは、断じてない! ただ、わしは衷心より諫言申し上げておる!」
主君のからかいに気色ばんで怒声を張り上げ、面白がるようなニウェの顔に自分が見事に挑発に乗ってしまったことに気付いた。
精神を常に平衡に保って然るべき忍びの長が、なんと無様。
自身を罵りつつ一つ呼吸をおいて、宰相に最後の諫言を試みる。
「……そう、この宮廷においては、全ての者が全ての他者に対しておのればかりは他者を利用しているもの、と思っているでしょうな」
「クカカ……なればこそ、面白いのではないか」
一笑に付す。
まさしくその表現が相応しい答え。
是非もなし。
やはり予想通りの答え、予想通りであるが故に宗純は瞑目する。
「狩猟民の血濃きこの我が身とて、何時狩られる側に周るかも知れぬ。その緊張感がなくては、余がこの宮廷に身をおかねばならぬ道理が立たぬわ」
二十年の年月を掛け、育て上げた獣ももはやおらぬと言うのにな。
そんな囁きが耳に入ったが、宗純はそれをすぐに忘れた。臣下の知るべき事ではないのだ、それは。
「クク……じきに、良き季節がまた巡る。
長雨はなく、民草は畑への植え付けを終える。
日は高く、夜は短い。地は陽に照らされて暑気高まり、国々の間には焔が立つ……」
そこまで歌うように告げた後、ニウェはやおら立ちあがると壁際に歩み寄った。
宗純がさすがにぎくりと表情を強張らせる。天井に掛けた大薙刀を、ニウェが掴みとってこちらに向き直ったからだ。
そのまま何事かと身構える宗純には目もくれず、ニウェはもとの位置にまで戻ると、机上の地図をねめつける。
「三年…………クカカッ、折角の獲物を喪って、新たな獲物を見定めるまでに三年よ……」
搾り出す陽に呟くまでに、幾ばくかの間。
―――そして呟きからグレイヴが閃き、分厚いテーブルを容易く叩き切るまでが一瞬の間。
「カカッ、クカカカッ! 戦争だ!
三年の月日を経て、素晴らしき戦争の季節が巡ってこようぞ!!」
ニウェは哄笑する。彼にとっての痛快なる未来を夢想して。
―――地図を机ごと両断したその線は、レフキーを、そして帝国をすら一線に分断していた――
【ニウェ 帝国宰相】
【高倉宗純 高倉忍軍棟梁】
とりあえず、一本書いてみますた。
Uスレの1です。
せっかくなので、最初の方に出て来た高倉忍軍(マナの所属組織)を引っ張ってきて見たり。
こんな感じで進めて行きたいと思うのですが、いかがでせう?
NG覚悟、忌憚なくご意見お願いしたく存知ます。
メンテ
373 :
メンテ:02/07/25 00:01 ID:jseUJ0Kf
交錯する思惑…渦巻く陰謀…血に染まる大地…
若者達の行く手に巨大な影が立ちはだかる。
葉鍵ファンタジーIV、次回もお楽しみに。
ここはどこだろうか。人目もふらず、ただひたすら走りつづけ、足がもつれて倒れた僕は、ふとそんな事を考えた。
建造物は、無い。地面には丈の短い雑草が生えている。身を起こすと、月明かりの向こうに港町と、どこまでも広がっている海原が見えた。
…昼間来た丘、だろうか。遠くまで来たようで、中途半端なところで力尽きる辺り、なんとも自分らしいと、僕は笑った。
笑って…そして、叔父さんのことを考えた。
叔父さんの「内」に、僕の姿はなかった。これは間違いないことだ。僕の力は、嘘を許さない。
ならば、僕の力は実は欠陥品だと言うことだろうか。それも違う。少し精神のアンテナを伸ばせば。
チリ、チリ、チリ…
ほら、聞こえてくる。音にならない精神の波長が。世界が奏でる軋みが。
だから。もし何かがおかしいのだとするならば。一番おかしいのは。
「みんな…僕の、妄想だったってことかな」
ありもしない記憶を作って。叔父さん…いや、長瀬源五郎を巻き込んで。
自分を慰めるために偽りの家族を作り上げた。いかにも、僕らしいじゃないか。
ふ…あはは。咽喉の奥で、笑みが洩れた。どうしようもない、救いがたい奴だ。
こんな時まで、妄想に逃げ込んでいる…それに、気付いたから。
段々と、笑声が大きくなる。そして、それが外気に吐き出されようとしたその時だった。
「こんばんわ。いい夜ね」
はっと我にかえると。僕の後ろに、一人の少女が立っていた。
暗くてよく見えないが、長い髪にすらりとした細身の体。
何よりも、どこか悠然とした雰囲気に、僕は息を飲む。
「…誰?」
「人に名前を聞くときは、まず自分から。って学校で習わなかった?」
涼やかで、どこか人を食った返事に僕は呆気に取られた。
なんと答えてよいものか…少し考えてから、口を開く。
「生憎、学校に言った事無いから…でも、気を悪くしたなら、ごめん」
「いいわ。どの道、あなたの事は知っていることだしね。長瀬祐介君?」
……!?
「どうして、僕のことを…?」
「長瀬、あなたの叔父さんからね、聞いていたからよ」
「叔父…さん」
「ついでに言うと、つい数時間前に彼に会ってついさっきまで彼と同じ宿で寝ていたわ。なんか彼の部屋で騒ぎがあって起こされちゃったけどね」
すらすらと、まったく澱みなく言う。
あまり、人と話すことが得意じゃない僕とは、すごい違いだ。
「あなたは…誰ですか」
「私?綾香よ。来栖川綾香」
その女性は腰に手を当てる。
「来栖川…?…って、あの?」
「多分『その』来栖川よ。自己紹介はそれだけで十分でしょ?『あの』長瀬であるあなたには」
その言い方に。僕は少しカチン、と来た。
「僕は、長瀬じゃない」
「だったらなんだって言うの?誰に聞いても、あなたを知る人はあなたを長瀬だって言うでしょ?家とか血筋とかそういうのめんどくさいけど、結局は逃げられないものなのよ」
…それは、その通りだ。僕は、長瀬祐介として生きてきた。だから、僕は長瀬祐介だ。
だけど、世間一般で言われる『長瀬』は僕じゃない。長瀬という一言で済まされたくない…
「ま、この際どうでもいいことだけどね」
だが、彼女は僕の感情をあっさりと切り捨てた。どうでもいい、と。
「今問題なのは、あなたの叔父…長瀬源五郎のことよ」
「僕の…叔父」
「ええ。あなたが部屋から出て行った後にね、何の騒ぎかと思って彼の部屋に行ってみたのよ。そしたら顔も知らない少年がいきなり部屋に入ってきて自分の事を叔父と呼んで、否定したら喚き騒いで出て行った」
「………」
「まあ彼も長瀬だからね、そういうイベントもあるかもしれないとそのときは思ったわ。でも、すぐに気付いたわ。何かおかしいって。そしたら…」
「叔父さんは、僕に関する全ての記憶を、失っていた…」
「彼があなたと一緒に暮らしていた事は、彼自身から聞いているわ。なのに今の彼はあなたの存在だけが刳り抜かれたように忘れている。いえ、忘れたって表現は正しくないわね。あなたがいた過去が、あなたのいない過去にすりかわったというべきかしら?」
「…すりかわった…?」
「記憶を封じられたのなら言動や思考にどこか矛盾が生まれるのよ。でも、彼には矛盾が無い。形だけ残して別の人間がすりかわったとしか思えないわ」
それは…そうかもしれない。叔父さんの記憶は、なんの綻びもなかった。ただ、僕がいない。
だから、僕は叔父さんは実は他人で、僕が妄想して思い込んでいただけかもしれない、そう思ったのだ。
でも、彼女…来栖川綾香は、僕の事を知っている。叔父自身から聞いたといっている。
矛盾だ。何かがおかしい。
「ねぇ、何があったの?何か、思い当たる事は無い?」
「………わからない」
でも…なんだろう。前にも、こんな事がなかったか…?
確かにあった筈の記憶から消えてなくなった、そんな事が…そう、それは。
「シュン…?」
「やはり、始まったね」
その少年は、そこにいた。音も無く気配も無く、初めからそこにいたかのように。
「…ッ!」
ばッ、と身を翻し、構える来栖川さん。
シュンは、そんな彼女には気にもとめず笑みを浮かべた。
「始まったって…どういうこと?」
「意味はそのままだよ。君だって気付いているんじゃないかな?」
相変わらず、シュンのいいたいことは理解しがたい。
僕は、少し声を荒げた。
「よくわからないよ。それに余裕もないんだ。シュン、何か知っているのなら、教えてくれないか」
「僕の知っていることなんて些細なものさ。ただ、君の身に何が起こっているのかはわかる」
「僕はそれすらも知らない。だから、教えて欲しい」
と。シュンの表情から笑みが消えた。薄氷のような、冷たく色のない表情。
それは、いつかどこかで、見たような気がする…
「祐介。君はこの世界に消されようとしているんだ」
「世界、だって…?」
「君は強すぎたんだよ。その力は世界の理すらも変えてしまう。世界は維持と調和を好む。例えそれがツギハギだらけの歪なものであったとしても、変わらない事が世界の在り様なんだ」
「よく、わからない」
「世界を変えうる個人の存在を、世界は認めないってことさ。だから、世界が君を排除しようとしている。無かった事にしようと、ね」
「だから、叔父さんは僕を忘れてしまった…?」
なんだよ、それは…
僕はこの世界に違和感を感じている。でもそれと同じくらいに世界は。
僕に違和感を感じている…と言うことだろうか?
「でも、食い止める方法がないわけじゃない」
「…え?」
「確かに、大きな力は歪みを生む。でも、それ以上の歪みが…世界自身が生み出した歪みを手にすれば、世界は君を世界自身の歪みとして見るだろうね」
「歪み…世界自身が生み出した?…それって」
シュンは肯くと、右腕を空に掲げた。
鈍い赤色の光が、どこからとも無く溢れる。
「『秘宝』と言えばいいのかな。世界自身が生み出した、世界自身を変えうる力の結晶だよ」
そして、シュンの手元には、赤い、どこまでも、この暗闇の中でもひたすら赤い槍があった。
ぞくりと、薄ら寒い何かが背筋を伝う。
「『秘宝』…これが」
「力は力を呼ぶ。祐介、君はもう導かれている筈」
音も無く、槍が輝く。視界は赤く塗りつぶされ、そして目を開けていられなくなる。
そして。僕は完全に目を閉じた。
「後は、それを手に入れるだけだよ」
どれくらい経ったのか…目を開けると、夜の闇が広がっていた。
さぁっと、風が地面の雑草を揺らす。彼の姿は…氷上シュンは、もうそこにはいなかった。
「なんだったの?あの人、あなたの知り合い?」
どこか鋭い目付きの来栖川さん。ゆっくりと構えを解くと、溜息をつく。
「まったく気配に気付かなかった。世界は広いわね」
「………」
どうやら、来栖川さんには彼の記憶が残っているようだ。
何故かはわからないけど…でも、何か気になった。
「世界と言えば、あなたの事もね。何がどこまで本気なんだか」
「さぁ。ただ…」
「ただ?」
「…シュンは、意味の無い事を言う奴じゃないよ」
「じゃあ、何かの思惑があるってことね」
「多分ね。でも、今はどうでもいいよ。まずは、秘宝を手に入れる」
シュンの言った導かれていると言うのはあの青い鉱石の事だろう。
あれを手に入れれば、また何かが起こるはず。
「いいわね。そういうシンプルなの、好きよ」
「…来栖川さん?」
「綾香、でいいわ。こっちにもこっちの都合があって叔父さんは元に戻ってもらいたいの。あなたに協力するわ」
そう言って、来栖川さんはウィンクして見せる。僕は肯いてから空を見上げた。
シュンは、世界が僕を排除しようとしているといった。
僕の力に何の意味があるかはわからないけれど。正直スケールが大きすぎてよくわからないけど。
何かが始まろうとしている…いや、
何かが始まったのだ。それだけは、わかった。
【長瀬祐介 秘宝探しに本腰】
【来栖川綾香 祐介に協力】
【氷上シュン 姿を消す】
というわけで、『世界の歪み』をお送りします。
氷上と源五郎の話が中途半端のままであれなんですが、氷上に色々語らせてみました。
彼の話をどう解釈するかはお任せです。デマカセか真実か、どっちでも問題ない程度に押えたつもりです。
あと、綾香が源五郎に同行していない理由も何とかなったかな、と。
何かおかしなところがあったら教えてください。
381 :
名無しさんだよもん:02/07/27 22:39 ID:NoFB7/rz
そろそろあげてみます。
部屋の中央に小麦の入った袋を置き、念を入れて周囲にも軽くばら撒いておく。
パンを食べ終わった一同は、鼠退治に黙々と作業を進めていた。
細かい作業と言うことで、名雪は友里と少し離れた場所で休んでいる。
小麦を撒き、袋の全てに火薬を仕込んだ北川は、大きく伸びをした。
「……っ、ふ〜。なぁ大志」
「なんだね」
先ほどから、うろうろと部屋の外と中を行ったり来たりしていた大志は、呼ばれて振りかえる。
「どうしてアカデミーの奴らは、軍事用の兵器なんぞ作ってたんだろうな」
「……」
大志はちら、と離れた所にいる友里を見てから、小声で囁いた。
「先ほど、名倉女史の話の中に“某商会”というものが出てきただろう。
これほどの実験をバックアップし、自社からも研究員を出せる商会となれば、一つしかあるまい」
「……クルス商会、か」
「商会の中でも、穏健派と先進派がいるのだろうが……
小耳に挟んだ所によれば、遺跡から発掘したゴーレムを、軍事目的に利用しようとする者もいるらしい」
「軍事目的ね……」
「軍事ともなれば、多額の金が動く。下手をすれば、その発注元は共和国かもしれん」
「……はぁ、これだから魔術師は……あ、大志は別だぞ」
口に出してから、北川は慌ててフォローを入れる。
だが、当の大志は怒るどころか、唇の端に苦笑を浮かべながら、肩をすくめた。
「……いや、同志北川。あの場ではああ言ったものの、我輩にとっても決して他人事ではないのだよ」
「同志北川の言う通り……
およそ魔術師という人種は、己の全てをかけても成し遂げたい野望の一つや二つ、持っているものだ。
それがいかに恐ろしい事でも、天に唾吐く事であろうとも、知的好奇心の充足のためには、己の命すら投げ出す者とている」
「あんたもか?」
北川の真っ直ぐな視線に笑顔で答え、大志は白い歯を見せた。
「そうだな、我輩も生涯をかけた野望がある……その野望の為なら、命も惜しくはない。
だが、男ならそういった野望の一つや二つ、持っているものだ。違うかね、同志北川」
大志の鋭い視線に、思わず北川は目を逸らした。
「けど、誰かを傷つけるしかない兵器ってのは、やっぱあってはならないと思うんだけどな」
「では聞こう、同志北川……お前がその腰に下げているもの、背に担いでいるものは何の為にある?」
銃……この世界では特異な武器。その役目もまた、誰かを傷つけるものでしかない。
誰かを守る……あるいは、降りかかる火の粉を払う……いくつもの言葉を紡ごうとして、結局北川は何も言わずにうな垂れた。
どのような詭弁をろうした所で、恐るべきその破壊力を誤魔化す事など出来ないのだ。
大志はにやりと笑うと。俯いた北川の肩を思い切り叩いた。
すぱーん、と下水の中に景気のいい音が響き渡る。
「ってー!! 何すんだ、大志!!」
「同志北川! 誤魔化す事が出来ないのであれば、残るは開き直るしか道はなかろう!」
「ひ、開き直る?」
ぽかんと大志を見返す北川に、大志は愉快そうに言葉を続けた。
「そうだ。ああは言ったが、我輩もあの鼠の存在を許す事は出来ぬよ。 ならば、彼奴を残らず消滅させるしかなかろう。
誰かを、何かを傷付けるしか出来ないならば、せめて自分が納得出来るように使うのだ。
よいか同志北川。 悩むなとは言わん、だが立ち止まるな!!
お前はいつか必ず、大きな事をしでかす男だ!! 何せ、この我輩が見込んだ男なのだからな!」
「いてっ、いててっ、わかったから、背中叩くなっ!」
悲鳴を上げる北川に、大志は腰に手を当て、かんらかんらと笑う。
女性陣二人は、それを呆れたように見ていた。
「では、そろそろ出発しよう。 行くぞ、同志諸君」
「……大志くん、出発はいいけど、奴らがどこにいるかわかるの?」
「確証は無いが、恐らくはあの場所にいる可能性が高い。 例の魔術師の死体のあった場所だ」
暗い地下道を歩き出しながら、大志は小さな声で名雪に返事をする。
「では作戦をおさらいするぞ……
まずマイシスター名雪が、奴らの群れに小麦の袋を投げつける。
次に、同志北川はそれに向かって、銃を撃って引火させ、奴らを挑発させる。
奴らは怒り狂って襲いかかって来るだろうから、撤退しつつそれを繰り返す」
「おう」
「わかったよ〜」
大志は頷く二人から、今度は友里に視線を移した。
「次に名倉女史……あなたには二人のサポートを頼みたい。
同志北川と名雪は、小麦袋を使って奴らを挑発し続ける必要がある。
だから、その間二人はほぼ無防備になる。 そのガードを“風”使いのあなたに頼みたい」
口調は丁寧だが、大志の言葉には有無を言わせぬ響きがあった。
友里は静かに頷くと、軽く腕を組む。
「そして例の部屋に来たら、風で壁を作り、奴らの逃げ道を塞いでくれ。後は我輩に任せろ」
自身満々に言って、大志はふんぞり返った。
「さあ、そろそろ例の場所だ。
マイブラザー北川、マイシスター名雪、お前達に鼠がいるかどうか、偵察を命じる。
ただし、作戦は我輩の合図があってからだ。くれぐれもフライングのないようにな!」
ぱん、と二人の肩を叩いて、大志は薄暗い角を指差す。
「へいへい、わかったよ…」
「じゃ、袋は置いていくね〜」
二人の影が消えるのを待ってから、大志は大きく息を吐き出した。
壁にゆっくりと背を預けた大志の額に、いくつも汗が浮いているのを見て、友里は僅かに眉を寄せる。
「あなた、大丈夫なの? 随分無理をしてたみたいだけれど」
「ふっ、これしき……と言いたい所だが、確かに疲労しているのは間違いない」
大志は壁に背を預けると、僅かに苦笑を浮かべた。
「同志達には気付かれなかったのだが……流石に鋭いな」
「同じ魔術師だからね……そんなに、あの子達が大切なの?」
僅かに刺の混じった言葉に、大志は笑いながら手を振った。
「我輩は、人を見る目は確かなのだよ。 あの二人、特に北川は何かを成し遂げる男だ。
そして我輩は、そんな彼らの軍師を努める事を買って出た。
ならば、我輩は軍師として、また彼らを導く者として、弱みなど見せてはならない。
どれほど優秀な兵でも、軍師がへタレでは勝てる戦も勝てん」
魔術師の力の源は、本人の精神力と体力だ。
精神力が無ければ術を制御できないし、体力が無ければすぐに撃ち止めになってしまう。
多くの魔術師と違い、大志の体力には目を見張るものがあるが、それでも限界はある。
魔術の疲労は、始めは単なるだるさに留まるが、使い続ける事で命そのものを削る事さえある。
生命そのものを奉げる事で、魔術を発動させる……魔術師以外には決してわからない、魂を削る疲労の、絶対的なおぞましさ。
友里の見た所、大志の体力はそろそろ限界に近づき、生命そのものを削る段階にまで来ていた。
赤の他人の為に、自分の生命を分け与える……友里には、理解しがたかった。
「……ふふ、確かに、我輩とした事が、今回は少々張り切りすぎた」
少しばかり自嘲気味に呻いて、大志は目を閉じる。
「だが、この程度では我輩は死なん……野望を達成するまでは、何があろうとも、どんな手を使おうとも……!」
ぐっと拳を握り締める大志に、友里は少しだけ羨ましそうな視線を向けた。
それに気付いて、大志は唇の端を持ち上げる。
「にしても、あなたに他人を気遣う気持ちがあるとは、少々意外と言ったら失礼かな」
「……ま、あなた達に嫌われてるもの。 仕方ないわ」
友里はちろっと舌を出すと、大志の横に並んで背を預けた。
「アカデミーの責任は、全員の責任。
例え研究に加わっていなくとも、実験動物を逃がしてしまった事は事実だものね。
言い訳も言い逃れもする気はないわ……でも、一つだけ聞かせて」
友里は真っ直ぐ大志の瞳を覗き込む。
「あなたも魔術師であるなら……魔術師を苛む呪縛から、目を逸らす事は出来ないわ」
「我輩を縛るものは、ただ我輩の心のみ。 それ以上でもそれ以下でもない」
僅かな迷いもなく、きっぱりと言いきった大志に、友里はふっとため息をこぼした。
「……初めて会った時は、プライドの高そうな嫌な奴だと思ったけど……思ってたより、ずっといい男みたいね」
初めて見せる友里の好意的な笑みに、大志は苦笑した。
「誉め言葉と……そう受けとっていいものかな」
「最上級のひとつ手前。 あともう一押しあれば、彼女がいるかどうか聞いてた所よ」
「それは惜しい事をした。 我輩も今フリーなのだよ」
恐らく、それは大志なりの精一杯のジョークだったのだろう。
「大志っ、お前の予想通り、奴らさっきの場所でまたたむろってるぞ」
ぱたぱたと駆けて来る北川と名雪に、大志はツ、と笑みを浮かべた。
「ふむ、やはりな……魔力が失われ、眠りの間隔が短くなってきているのだ……やれるぞ」
大志が北川に頷き、北川は全員を見まわした。
「……じゃあみんな、作戦開始だ!」
【鼠退治、作戦開始】
チーム・北川でした。
このチームは大志が美味しいんですけど、友里もいいかな、と思ってみたり。
それでは、誤字脱字修正ありましたら、指摘よろ。
388 :
黒い鼠:02/07/29 00:29 ID:F1PlVaPf
北川が先頭に、そのアトに名雪、友里、大志の順で進む。足場の悪いこの通路では二人が平行して歩くには適さない。
角を曲がると、光源に照らされて白骨と、鼠の群れが鮮明になる。
――人間の都合で勝手に兵器にされ、殺される、憐れなイキモノ。
光に気付きギラギラと光る瞳がこちらに向けられる。それが合図のように、北川の後ろから名雪がその群れに小麦が詰まった袋を投げつける。ほぼ水平線を描き袋は鼠の群れを直撃した。
「今だまいぶらざー!」
大志の掛け声と同時に最前列の北川は引き金を絞った。狙いなんてもうとっくに定めていた。
銃声が木霊する。幾重にも反響する。袋に群がっていた鼠は炎に包まれ断末魔の悲鳴を上げ、悶え苦しみ転げ回った。
見ていて気持ちの良いものではない。決して。
その幾つかの炎の塊りは下水に音を立てて落ちていった。――だが、残りの鼠が襲い掛かってくる気配は無かった。
「なんかあっさり風味だな……」
気の抜けたように呟く北川。それから大志が弾を詰め直す様に言おうとした瞬間に――ぱらぱらと天井から埃の様な物が落ちてきているのに気付いた。
「何か……変な振動音が聞こえるけど……」
それと同時期に名雪が独り言のように呟く。しかしその音は直に誰にでも聞こえる程の反響音を持って段々と大きくなっていく。
何かがオカシイ。誰もが思った。
だが作戦通り来た道を逆戻りする。それが作戦なのだから。そして曲がり角を曲がった時、最初に大志が、気付いた。
389 :
黒い鼠:02/07/29 00:32 ID:F1PlVaPf
――光も届かぬ通路の、先の闇。
「ちょ、ちょっと? 急に止まらないでよ」
『最初に遭遇した時は、ただの烏合の衆だったの』
嫌な予感が拡がる。それを裏付ける様に、ゆらゆらと燃え上がる鼠の向こう側。――その先の、光も届かぬ通路の先の闇を見据えながら北川が吼える。
「お、おい。アレってもしかして……!」
名雪の息を呑む気配。ぱらぱらと肩に落ちるカケラ。反響する振動音。
――その先の闇の中に、ある。
『私が外に連絡を取りに行っている間に、残りのメンバーも次々に死んじゃったみたいで』
「罠にハメられてたのは俺達だったってのか!?」
おそらく北川も大志と同じモノを、通路の先に見たのだろう。――その先の闇の中には、光る、
――無数に光る、赤黒い、目が。
しまった、と大志は舌打ちする。
一流の狩人は罠に追い込むのではなく、罠に誘い込むのだという。思えば北川達も青の錫杖からこの地下下水道に誘い込まれたのだ。
ただ、今回で云えば大志達は後手を踏んだ。大志達が準備している間に鼠達もこのレフキー中の鼠という鼠を集めていたとしたら。そして、一度たむろしていた場所で待ち伏せしていたとしたら。
更には青の錫杖に現れた男がアカデミーのメンバー――友里の精鋭部隊の一員――だと仮定したら、それはほんの数時間前の話だ。
ならば、魔力の供給など必要ない。数時間前に四人分の最高クラスの脳味噌と魔力を頂戴したばかりなのだから。そもそも隙を見せれば人間は簡単に仕留められると既に“学習済み”なのだ。あの生物兵器は。
「罠……ってどういう事? 北川くん!」
「ヤバイぞ名雪さんっ!! きっと俺達挟み撃ちされてる!」
名雪がその言葉を理解する前に黒い塊りが、さながら波の様に動き出す。その波の色は黒く、その振動音は重い。
二の句を次げる前に、名雪は小麦の袋を力一杯投げつけた。地面に付く事なく、袋は波に当たり――波に飲み込まれた。
「は、これはまた……食欲旺盛な事で」」
冗談のような光景に思わず笑い出しそうになる。実際、北川の口元は笑みの形を作っていた。恐怖に竦むよりは余程いい。
390 :
黒い鼠:02/07/29 00:34 ID:F1PlVaPf
「同志名雪! 小麦の袋を一袋だけ残して、他は全てここに置けっ! さっきの管理人室まで走るぞっ!!」
大志の一喝は場に沈む絶望感を払拭する。言ってしまえば、頼りになるのだ。名雪も持っていた袋を急いで床に落としていく。その小麦の袋はちょっとした山の様になった。
「ど、どーすんだよっ!? そっちにも鼠の群れがいるんだろっ?」
「笑止! どうするも何も作戦は何も変わりはしない! 我輩の行く手を阻むモノはなんであろうと――排除するのみ!」
走り出しながら豪語する。その底無し沼のような自信は、一体何処から湧いてくるのかはまったくもって不思議である。
それに続き友里と小麦の袋を曲がり角にほとんど放置した名雪も続く。仕方なく北川もそれに続く。――北川の方の鼠の波は結構近づいてきている。群れの大きさ故かその進軍スピードは思いの他ゆっくりに感じる。
それはただの錯覚だったかも知れない。
一方、大志の方の鼠の波は光球により、先程より明確にその姿をアピールしている。爛々と点る赤黒い知性の光との距離がどんどん近くなっていく。ちゅーちゅーとか可愛らしい鳴き声でも上げれば幾分、心休まるかも知れない。
「――冗談でしょ!? こんな分厚い生物の群れを風で弾き飛ばせる訳が無いわ」
「そんな事は判っているっ! 我輩が言っているのはそういう事ではなく、一点でもあの群れを崩せないかと訊いているのだっ!」
結局人に頼ってんじゃネェか……と、内心北川は思ったが口には出さなかった。
「はぁ――やってみるわ」
「なるべく我輩達の足場寄りの方を頼む」
通路の上から下。底から天井を、どうやっているのか下水の上までも隙間無く埋め尽くす掌もの黒い鼠。波のように蠢きながら押し寄せてくる。飲み込まれたら十秒と待たず骨になる――と想像するのは決して大袈裟なんかには感じられない程の迫力。
ふわっ
と、風が、生まれた。
呪文の詠唱もなく――友里が片手を垂直に突き出しただけで――名倉友里の周りに風が纏わり付いたのだ。瞬間、わぷっ!? と名雪が喚く。巻き上げられた髪の毛が顔に直撃したのだ。
391 :
黒い鼠:02/07/29 00:37 ID:F1PlVaPf
「同志北川っ! 言い忘れていたが後ろから――曲がり角から鼠が現れたら迷わず、撃てっ!」
「へ? うつ、って何を?」
と、間抜けな呟きと共に立ち止まり、後ろに振り向く。見れば、小麦の袋が山になっている。――そして今、北川が見守る中で曲がり角から鼠の波が現れ、小麦の袋の山に津波のように襲い掛かる所だった。
頭が一瞬遅れて理解する。そして理解していた時には既に――その袋の山は鼠の波に覆われる瞬間だった。
そして北川も既に銃を構えており、アトは引き金を絞れば弾丸が、あの爆薬じみた小麦の山を貫く事すら、北川には“見えて”いた。
だから、撃った。北川には覆い被さった鼠の群れが膨れ上がり爆発したように見えた。その爆発は本当に目の錯覚の様な小規模だったけれども、鼠の群れの足止めには、十分だった。
「この為に小麦の袋をほとんど置いていったんだな」
一人納得したように頷くと視線を前に戻す。――数秒の、出来事だった。
前に三人も居るので前方は見難い。しかも皆は、何時の間にか立ち止まっていた。友里の突き出した片腕が印象的だ。自然とそこに視線も泳ぐ。今ままで気にもしなかったが、リストバンドがされていた。別段、不思議ではない。
――だが、垂直に腕が上がっている所為か少し下にずれていたのだ。
(――ん? あれ? 手首に……傷痕!?)
まるでリストカットしたかの様な――生理的嫌悪感を生み出すような痕に、見えた。
痕――未だ癒えぬ、傷痕、に、見えたのだ。
だが、それを確認する前にその腕が前方に突き出されるのと同時に、貫け――ッ!! という意志力に満ちた声が響く。
風が、槍の様な風が、唸りを上げて黒い波の隅に直撃する。鋭利な刃物めいた切れ味をもって、鼠の波に寸断された穴が空く。だが、一瞬の内に穴は塞がった。
「ふむ、これを繰り返せば鼠の群れを八つ裂きに出来るかも知れんな」
「その前に死んでしまう、という案を考慮して欲しいものね」
冗談なんだか本気なのだか判らない会話。
「何言ってんだよ!? もう鼠の群れは直ぐ目の前に来てんだぞ?」
「どうやって突破するの?」
「こうするまでだっ!! “内から駆け巡る雷鳴の如く痺れる、感動の萌えっ!”」
ついに頭が逝かれてしまったのかと、その場の誰もが思った。
392 :
黒い鼠:02/07/29 00:41 ID:F1PlVaPf
だが、視界が暗くなるのと同時に大志の手元から一条の光が幾重にも放たれる。その雷撃は丁度、下水と鼠の境目に命中した。
次の瞬間、目を開けていられない程の色彩と光量と音量が一度にきた。
鼠の群れがびくんと跳ね、動きが緩慢になった。下水に触れていた鼠は即死だろう。
「――さぁ!! 今の内に友里女史の風で邪魔なヤツ等を吹き飛ばしながら進むのだっ!!」
その本人は壁に背を付けて脂汗を浮かべながら言っている。先程の強い光の所為で目が眩んだが友里は素早く先頭に移動した。
「ねぇ! 大志くん、だいじょうぶ!?」
大志の状態が尋常では無いと察したのか名雪が駆け寄る。その後ろには北川が心配そうな表情で立っていたが、何も言わなかった。
――大志が何を言っても『大丈夫だ』としか言わない事が判っていたからだ。
「大丈夫だ。しんぱいするな、まいしすた〜。すぐに、良くになるに、決まっているではないか」
――甲高い音が耳を貫く。風が吹き荒れる。
「ほら、さっさと行くわよ」
何気なく行って鼠の群れに突っ込む。名雪は何か言いたそうな顔をしてから、言った。
「大志くん、動ける? 動けないなら担いで行くよ?」
「まいしすたーよ。言っている内にもう担いでいるではないか」
名雪は大志を器用に肩に担ぐと反論の隙も与えずに、友里のアトを追った。道は片方の通路だけ切り取られた様に鼠の群れが少なかった。根こそぎ吹っ飛ばしているのだ。
それでも死んでいる訳ではない。名雪は小麦の袋を持っいる所為か狙われている。両腕が塞がっているにも関わらず、大志に鼠が飛び掛らない様に上手く庇いながらその身を盾にしつつ突っ切っている。
北川もその後ろで、長銃を振り回しながら二人をフォローしている。――この状況で名倉友里の風が三人の周りを吹き荒れれば、三人とも無事では済まないから、友里は援護してくれないのだと、北川はこの時、認識していた。
鼠の群れを突っ切って、思わず後ろを振り向くと、さっき小麦の袋の山で吹っ飛ばした鼠の群れと、大志の電撃で一時的に弱っていた鼠の群れに追いつく所だった。
その光景に胆が冷えた北川だったが前を振り向くと、二人とも結構進んでいたので慌てて走り出した。
393 :
黒い鼠:02/07/29 00:49 ID:F1PlVaPf
走る北川の胸には、何か腑に落ちない気持ちが満ちており自分を不安にさせていた。
例えば――銃とあの鼠達が同じ兵器と呼べるのかとか、友里が外に連絡しに行ったならそろそろ援軍が訪れてもよさそうだとか、あの一瞬だけ見えた友里の傷痕の事とか、最初に比べ視界が暗くなってきている様な気がする事とか――
――アルジャーノン、あの銀色の鼠の姿をまだ見ていない事とか。まぁ、いずれも些細な事ばかりなのだけれども。
◇
【名倉友里/手首に傷痕らしきものがあるらしい】
【水瀬名雪/小麦の袋一個と九品仏大志を担いでいる/鼠に飛び掛られたダメージは不明】
【北川潤/銃は二つとも未装填】
【九品仏大志/意識は残っている/すぐに良くなるらしい】
【鼠・アルジャーノン/被害状況不明】
お話としては「決意を込めて」(
>>382-387)の続きですね。というか即リレーですが。
無茶な展開のような気がしますが……きっと己の気のせいですね(ぉ
変なところがあったら、指摘お願いします。
メンテナンス
M