145 :
生物兵器:
リフキーとフィルムーンを結ぶ街道の林
心地いい木漏れ日を浴びながら拓也と源五郎とマルチは歩いていた。
この調子で行けば夕刻にちょうど宿場町にたどりつくだろう。
「…長瀬さん、マルチちゃん、ちょっと待って」
そういって拓也は源五郎とマルチを制した。
「どうしたんですか?」
「もしかして…」
源五郎とマルチは不安そうな顔をした。
「囲まれています。たぶん、野犬か、なにかかだと思います」
拓也がそういうと源五郎は怪訝な顔をしていった。
「まさか、この街道で野犬が出るなんて…」
実際、この街道は共和国の中で最も整備された街道であり、幾たびにも渡るモンスターおよび、野犬狩りのおかげで野犬などはほとんどいないのだ。
「ええ、確かにおかしいですけど、この気配は野犬としか」
拓也は自分の傭兵としての勘と経験が自分たちが危険に晒されてることを告げていることを確信していた。
「犬さんですかあ。楽しみですねえ」
そんなマルチの言葉を無視して拓也は続けた。
「とにかく、二三匹打ち払えば尻尾を巻いて逃げていくでしょうから、それまで怪我をしないように気をつけてください」
「…ちょっと待ってくれ」
源五郎が考え込む。
146 :
生物兵器:02/05/09 01:32 ID:uuYLrVnK
「どうしたんですか、長瀬さん?」
「お父さん、深刻な顔して大丈夫ですかあ?」
「月島君、たぶんやつらは犬飼の刺客だ」
源五郎が悲しそうに言った。
「犬飼って?」
「犬飼のおじさんがどうしたんですか?」
「ああ、月島君は知らなかったね。せっかくだから手短に話しておこう」
そういって源五郎は話を続けた。
「犬飼は僕のアカデミー時代以来のライバルだった男だ。奴とは算術、魔法倫理学、歴史学、古代研究学、新技術研究、全てにおいて互角で、アカデミーの首席を争いあったものだ」
「アカデミーの首席…」
拓也は感嘆の声を漏らした。それもそうだ。アカデミーはリフキーや他国の留学生での天才たちを一同に集めた総合学術機関でそこに在籍できたという事実だけでかなりの栄誉となる。
「僕たちはアカデミーを卒業した後、一緒に来栖川に召抱えられて新技術の開発にいそしんでいた。僕の研究も奴によって大いに助けられたし、僕もまた奴の研究を必死になって手伝ったもんさ」
源五郎の声に懐かしさが混じる。
「そう、僕たちは親友だった。杜若さんが死ぬまでは…」
そして再び哀しみがその声に満ちる。
「犬飼は彼女の死でおかしくなってしまった。反魂の研究に没頭し、どんどん狂人と化していった」
「…長瀬さん」
「…お父さん」
「犬飼はマルチの生命の石を欲しがっていた。マルチがこんな目にあってるのも…」
そこで源五郎はため息をついた。
147 :
生物兵器:02/05/09 01:32 ID:uuYLrVnK
「で、長瀬さん、野犬とその犬飼の関係は?」
拓也は聞いた。野犬達との緊張が切れかけてると彼の勘が告げていた。
「犬飼の研究の中に動物を改造して、高等な知能を与える技術がある。僕が最後に見たときは喋る鴉と猫止まりだったが、最終的には改造した動物に野生動物を操る力を与えるつもりだといっていた」
「つまり、野犬たちの中にボスが居てそいつがこの野犬の群れを率いていると?」
「ああ、そういうことになる」
拓也は思案した。今から野犬の群れを突っ切るのは無理だろう。倒すにしても源五郎とマルチを守りながらは厳しいだろう。
「拓也君、君はすぐにボスを探して倒してくれ」
源五郎は言った。
「それでは長瀬さんとマルチが…」
「僕も一応武器を持ってきてるんでね。少しの間ならマルチを守る自信はある」
源五郎はそういって胸を張った。
「わかりました。3匹倒して逃げないようでしたら一気にボスを倒しに行きます」
「ああ、頼む」
「はわわ、わたしはどうしたら?」
二人が難しい話をしていたために置いてけぼりを食っていたマルチがここで口を挟んだ。
「マルチは僕から離れないようにするんだ。まあ、マルチには攻撃してこないはずだから安心してみてるといい」
「はい…お父さん」
「では行きますよ。すぐに野犬たちはここに来るから気をつけてください」
「ああ」
「はい」
月島は自分の勘が一番怪しいと告げる方向に向かって走り出した。
月島拓也【野犬ちの群れに特攻】
源五郎、マルチ 【警戒態勢】