鈴木宗男@葉鍵

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128名無しさんだよもん
野中「…あの子は、どうしてますか?」
不意に野中が口を開いていた。
俺はその言葉で救われた気分になる。
最後に会った時、野中は俺に告げた。
『もうこれ以上巻き込まないで』と。
だから俺からその話を持ち出すわけにはいかなかったのだ。
俺はいつだってそのことを野中と話したかった。話して、現状を把握していきたかった。
不安で不安で仕方なかったのだ。
純一郎「いろいろ変わってしまったよ。野中と話していたころからな」
野中「なにかありましたか?」
純一郎「ムネヲは…まるで手のひらを返すように、いろいろな議員や党員が離れていってる」
野中「離党勧告を出しましたね」
純一郎「ああ、出した」
野中「……」
野中「力が失われているとき、雲隠れするようです」
純一郎「それは……予兆、ということなのか」
野中「予兆……いえ、本来ならば、それで終わっていたのでしょう」
野中「ただ、思いが強いだけに、不完全な形で今も居続けているんです」
ずっと前から始まっていたのだ。
以前からムネヲの政治活動における不備は目についていた。
あれこそが予兆だったんだ。
外務省に圧力をかけるのもそうだったし、私設秘書のパスポートを偽造するのもそうだった。
よく顔を赤くしながら大声で怒鳴り散らすのも、そうだったのかもしれない。
そして今回の証人喚問で、一気に政治生命が縮まってしまった。
でもぎりぎりのところで、ムネヲは持ちこたえた。
ならばもう、ムネヲの思いはいつ費えてもいいような状態なのだ。
野中「もう離党は免れることはできない、と思ってください」
ムネヲはそんなにも権力にしがみつきたいのか。あんな、アホの坂田のようになってまで…。
純一郎「そして、どうなるんだ、あいつは…」
野中「消えます。初めからいなかったかのように」
129名無しさんだよもん:02/03/18 20:38 ID:dBI9514L
俺は目を瞑り、顔を伏せた。なんて言っていいか、わからない。
純一郎「……」
野中「……」
野中は、ただ黙って、俺が次の言葉を促してくれるのを待っていた。
そんなふうに見えた。
野中なら、もしこれ以上話を続けたくなければ、簡単に俺を置いて去れたはずだからだ。
これまでもそうだったように、俺の知っている野中とは、そういう人間のはずだった。
純一郎「なんでもいい。話をしてくれ」
野中「…他愛ない昔話です」
純一郎「いいよ。聞かせてくれ」
野中「北方領土は、ご存じですね」
純一郎「……」
ここからでは建物が邪魔して見えなかったが、俺が目を向けた方向で合っているはずだ。
ムネヲが、長い間返還を求めている、という島のことだ。
通称をそう呼ぶことを同時に思い出した。
純一郎「ああ」
野中「その北方領土には、友好の家が建てられたのだそうです」
野中「古くからそれはムネヲハウスと呼ばれ、形は家のそれと同じ」
野中「多くのムネヲの関わった建築物が、裏金まみれとなるのだそうです」
野中「ムネヲが姿を現した国はことごとく汚職に見舞われることになり、その頃より厄災の象徴として厭われてきました」
野中「現在に至るまでです」
すぅ、と野中は小さく息を吸った。
野中「ただそれだけの、どこにでもよくある昔話です」
純一郎「それが、あいつだと言うのか」
野中「……」
野中「…小泉さん」
野中「あの子は、小泉さんに災禍を見舞いにきたのですよ」
純一郎「……」