当確が出たところで

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103ユズ葉
――そうだ。俺は何を迷っていたんだ。
過去なんかどうでもいい・・・とはいえない。決して拭い去る事は出来ないかもしれない。
でも俺たちはあの日であった。
出会って、話して、また会って、話して、会えないときは思い描いて・・・

――俺は今、ラルクに会いたい

――あの日見た憂い顔の暗い影が焼きついて離れない

――あの告白の時、服をめくる手は震えていただろう?

――彼女の生命を肯定する強さがほしい・・・
104ユズ葉:02/03/19 23:10 ID:yCvEH8gm
だから話をしなくちゃいけないんだ。
走った距離は短いようで、途轍もなく長かった気がする。マラソンでさえこんなに走った事は無いんじゃないか?
「・・・・・・」
けれどもその結果、俺はラルクの目の前にいた。
激しく息を切らせる俺に目を丸くする。そして、そのままクルリと背を向ける。
「ま・・・待ってくれ・・・」
「・・・あのさ」
振り向かずに彼女。その声は硬く。
「何が面白いのかわからないけどさ。わたしは知っての通り性悪の穀潰し、生まれついての疫病神なんだよ。・・・もう関わら」
「俺は!」
息はまだ上がっているが、勢いのまま、ラルクの言葉を遮ってはきだす。
「俺は、お前が疫病神だなんて思わない! 一緒にいると楽しいんだ。いつもお前のことだけ考えてる。俺は・・・」
・・・苦しいな。疲れすぎて考えがまとまらない。けれど言わなければ・・・
「俺は、ラルクに会えて、本当に良かったって、そう思ってるんだ」
「っ!」
ギチリ。ラルクが・・・振り向いた。とめどない涙を呑み込むようにして、俺を見て
「わたしも・・・」
泣き笑いしながら
「わたしも、思ってるよ。もっと・・・早く、あなたと会えればどんなに良かっただろうって。
・・・せめて体だけは穢れないうちに会いたかったよ・・・でももう駄目」
「ラルクっ」
「来ないでっ」
激しい拒絶の言葉。

――やっぱり、俺は駄目だ。
105ユズ葉:02/03/19 23:11 ID:yCvEH8gm
「きちゃ駄目・・・貴方はもっと純粋な、健常者の娘と結ばれるの。わたしなんか忘れて普通に暮らしなさい」
「俺が、嫌いか?」
「・・・いい人ね。とってもいい人。だから、駄目なのよ。苦しいの」

――どうして人を傷つけずに入られないのか

「・・・さよなら」
ギチリ。カラカラ・・・
車を回し、再び背を向けた。今度は行ってしまう。
俺は駆け出した。
足音が聞こえたのか、少し顔を傾けた彼女を・・・俺は抱きしめた。

――傷つけずに愛する事は出来ないのか

「ちょっ、なによ・・・」
抗議の声を無視して彼女の瞳に向き合う。まだ止まらない涙。
その向こうに俺が映っていた。
「あのな。さっきから俺が迷惑っぽいとか言ってるけどそんなことはどうでもいいんだ。
いやそうじゃない、俺の幸せはお前なしではないんだよ、ラルク」
「わたしみたいな穢れた女っ」
「あのな。過去はぬぐえないかもしれない。そういうこと軽軽しく言える程の男でもないよ、俺は。
でもな、俺とお前がであったのは今だ。過去のためにどうのこうのなんておかしい。
お前は誰よりも素敵な女性だと、俺は思う」
「・・・・・・」
「生きていてくれてありがとう・・・これからは、俺が守るから。お前が好きだ」

――ならその分だけ守り抜こうと。
106ユズ葉:02/03/19 23:11 ID:yCvEH8gm
「・・・どうせ裏切るんでしょ。そんなことばかりいって」
「裏切ったりしない。約束する。誓う。お前が好きだ。愛してる」
「・・・信じられない。人はみんな汚いんだから」
だがそれ以上の抵抗は無かった。震える肩を抱きしめ。

沈黙が続いて。
やがて、わずか身じろぎした。
「・・・ふん。貴方を、恨むよ。こんな、こんな仕打ち・・・」
「・・・そうだな。ごめん。恨んでくれ。往来でこんな恥ずかしい事。
一方的な気持ちばかりで」

――今は精一杯恨んでくれれば。どんな気持ちでも、思ってくれたならいつか

「違う」
「ん?」
「生きる価値なんか見せるから。・・・愛なんか教えるから、恨むのよ。馬鹿・・・」

――凍った心すら溶かせる

そうか・・・
その笑顔が見たくて、ここまできたんだ。

――――――――――――――――この思いに偽りは無いだろう?
107ユズ葉:02/03/19 23:13 ID:yCvEH8gm
―――2年が過ぎた。

俺は就職したが、会社帰りには相変わらず病院通いを続けている。
そして今日も。

病室のドアをあけると、そいつもやっぱり相変わらずパソコンを叩いていた。
表情からして、いつもどおりどこかのスレッドを荒らしているに違いない。
思わず苦笑してしまうが・・・まぁ只鬱を決め込んでいるよりは良い傾向ではあるかもしれない。
「・・・ふぅ。今日は早いのね」
窓からやってくるのが見えたのだろう、大して驚きもせずにこちらを振り返った。
やっぱり彼女の声は可愛いと思う。笑った時は特に。
今もキーボードから手を離し、
「ほら、パパがやってきまちたよ〜」
(本当に、生きてくれてありがとうと思うよ)
俺もそばに行く。わが子を抱え上げる彼女。そして・・・

http://members.tripod.co.jp/tyfyhujiko/ralced020319.jpg










「・・・そろそろ授乳の時間ね・・・」
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