葉鍵板最萌トーナメント!! 決勝 Round172!!

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291石蕗 ◆TiduruHM
多分、寝る前の最後の支援いきます。
4レス分で、シリアス、
寝不足も手伝って、己の趣味のみです。

……やべ、書くとき萌えを念頭に置くの忘れた。
292石蕗 ◆TiduruHM :02/03/09 07:20 ID:Ww/Nq3Dr
(1/4)

 裏面月夜

 すべては最初からわかっていたことだった。
『ここを自分の家だと思っていただいていいんですよ』
 そう言ったのは、他でもない千鶴自身。
 家族を失う痛み。
 最愛の人を失う悲しみ。
 命を奪う恐怖。
 一度に来るそれらに耐えきれるはずは無かった。
「ああっ……ああああああああっっ!!!」
 泣き叫ぶ。
 己が身を掻きむしる。
「うぁっ、うぁっ、ああああっっっ!!」
 それでも、それでも、生きなければならない。
 支えねばならない妹たちがいる。
 強くならないと。
 両親が死んでから、それだけを考えて生きてきたのだから。
293石蕗 ◆TiduruHM :02/03/09 07:21 ID:Ww/Nq3Dr
(2/4)

 ようやく現れた安らげる人は、父や叔父のように千鶴を裏切った。
 鬼の血の覚醒。
 それが良い方向に働かない者は多い。
 凶行を繰り返し、自ら命を絶つことも出来ず、
 良心との狭間で苦しみ抜き、やがては死に至る。
 そこから解放される手段を、千鶴は『死』しか知らなかった。
 止めを刺す間際、耕一は優しい言葉を贈った。
 その優しさは、千鶴の心に一際大きな棘として、刺さった。
「耕一さん……耕一さん……」
 命を奪ったのが自分であることも忘れ、千鶴は泣いた。
 のどが裂けるほど声を上げ、一生分の涙を流し。
 抱きしめた腕の中で、熱を失い亡骸へと変わっていく耕一。
「どうして、私……わた……しっ!」
 自分の心がボロボロになっているのがわかる。
 ひび割れから血が流れ出し、痛みをこらえ嘘の表情を浮かべる。
 もしかすると、家族のためというのも、自分への言い訳なのかもしれない。
 そしてついに、最愛の人に対しても偽りの笑みを向けてしまった。
 夢ならば、覚めて欲しい。
 心からそう願った。
294石蕗 ◆TiduruHM :02/03/09 07:21 ID:Ww/Nq3Dr
(3/4)

「……あ」
 千鶴は不意に目を覚ました。
 数瞬間ぼうとした後、ハッとして周囲を見る。
 すぐ隣で寝ている耕一を見つけると、ようやく息を付いた。
「どうしてんですか、千鶴さん?」
「え、耕一さん、どうして……?」
「いや、寝てたんですけど、なんかとっても怖がってるような気配がして。
 例の意志疎通能力とかのせいかもしれませんけど」
「恐ろしい夢、でした」
「夢?」
「私が犯してしまうかもしれなかった罪の、続きです」
「……千鶴さん。
 良かったら詳しく聞かせてもらえませんか?
 千鶴さんほどじゃないですけど、俺にも夢判断ができるんですよ」
「耕一さん……はい、それではお願いします」
 千鶴は話した。
 夢の中の自分、耕一を手にかけ泣いている自分。
 罪に苛まれ、心が死にそうになっている自分。
 耕一は無言で聞く。
295石蕗 ◆TiduruHM :02/03/09 07:21 ID:Ww/Nq3Dr
(4/4)

 すべてを聞いた後、耕一は神妙な顔をして言った。
「わかりました。それは……」
「それは?」
「千鶴さんがとっても俺を好きだってことです」
「……え?」
 耕一は堪えきれないように笑う。
「だって、ようするにそれは、俺に離れてほしくないってことでしょう?
 大丈夫ですよ。俺は頼まれても離れませんから」
「耕一さん……」
「でも、ちょっとだけホッとしたよ」
「なんで、ですか?」
「ほら、俺の方が年下じゃないですか。
 だから、なんというか、頼りにされてないんじゃないかって、思ってたんです」
「そんな……耕一さんがいなかったら私は……」
「ええ、それがわかったから嬉しいんです。
 千鶴さんに必要とされているのが、心から」
「耕一、さん……」
「俺は今、こうして生きてるんですから、もう自分を責めるのはやめてください。
 千鶴さんなら、それがどんな千鶴さんでも、俺は愛してますよ」
 千鶴は泣いた。
 夢の中とは違う、暖かい涙が流れた。