萌えるキャラのスペック

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349名無しさんだよもん
 前方を歩く地獄車は商店街の店頭に飾り付けられたオブジェクトやショーウィンドウの
向こう側に置かれたきらびやかなアクセサリーを興味深げに眺めながら、不規則な動きを
繰り返していく。
 まるで俺の事を無視するかのように。
 俺など居なくても平気だと言わんばかりに。
 だが、時折こちらをちらちらと気にする仕草が地獄車の本心を赤裸々に語っていた。
 俺は相変わらずな地獄車に苦笑を浮かべながら、まるでお姫様をお守りする従者のように
ゆっくりと歩いて行く。
「…あ」
 それから約20歩程度進んだ頃だろうか? 突然の呟き声と共に前方の地獄車が突然
立ち止まる。
 そしてまるで王子様に憧れる幼い少女のような表情を称えながら、お人形のようにその場に
立ち尽くす地獄車。
 俺はそんな地獄車の元へそっと近付いて行き、細い肩に手を乗せる。
「…え、あ…!?」
「どうしたんだ? 何か欲しいモノでもあるのか?」
「べ…別に」
 と、言いつつもディスプレイの向こう側に視線を散らす地獄車。
 俺もその仕草に促されるように横目で地獄車の目線を追ってみる。
 そこはファンシーショップ。
 小さな女の子が被るような色とりどりのかわいい帽子が店内を覆い尽くすように飾り付け
られていた。中には動物の耳を象った少々珍しい帽子も置かれている。
350名無しさんだよもん:02/03/17 21:21 ID:3CjNqy45
「ん、何だ? 帽子が欲しいのか?」
「別にそう言う訳じゃあないんだけどさ…」
「よし、今日の遅れたお詫びに買って来てやるよ。どれがいいんだ?」
「だ、だから、あたしは…」
 地獄車が少々戸惑いながら、俺への言葉を探って行く。そうして待つ事数分。
 何かを思い付いたかのような会心の笑みを浮かべながら、地獄車が俺に言葉を返して来る。
「じゃ、じゃあ買って来てもらおうかな?」
「ああ、いいぜ。で、何がいいんだ?」
「じゃあ、『リアルうんち帽子』で」
「…は?」
 耳の調子が悪くなったのだろうか? 俺は再び聞き直す。
「だから『リアルうんち帽子』だってば。前から欲しかったのあたし」
 と、子悪魔のような笑みを浮かべながらディスプレイの向こう側を指差す地獄車。
 俺はその示された場所に目を向け、しばし絶句する。
 確かにある…。
 『リアルうんち帽子』が…。
351名無しさんだよもん:02/03/17 21:22 ID:3CjNqy45
「じゃ、よろしく」
「あ、ああ…」
 そして、ひらひらと手を振る地獄車を後に店内へと赴く俺。
 地獄車と同世代の女性達が店内をうろうろしている。
(それにしても…)
 俺はその光景に少々気後れしながら、先程の地獄車の言葉に少なからず疑問を抱かずには
いられなかった。
 あいつは本当に『リアルうんち帽子』なんて欲しいのだろうか?
 確かに少々変わった趣味をしているのは確かだが、あの時、俺が見た地獄車の表情は
そう言った、明らかな色物を欲しがっているような雰囲気ではなかった。
 もっと、こう…。幼い少女が憧れを抱いた時に浮かべるような、そんなもっと純粋な瞳を
煌かせていたような…。
「あ…」
 そして誰ともなく小さな声を呟く俺。その自分の発した声に促されるように俺は女性で
埋め尽くされたディスプレイへと踊り込んでいった…。
352名無しさんだよもん:02/03/17 21:22 ID:3CjNqy45
「買えた?」
「ああ、何とかな…」
 ようやく店内から抜け出た俺は購入したばっかりの物品を抱えながら、地獄車の元へと
駆け寄っていく。
「どう? 恥ずかしかった?」
「確かに恥ずかしかったかもな…。ほれ、頼まれてたモノ」
「ありがと」
 そう言葉を返しながら、いつもの飄々とした仕草で俺からのプレゼントを受け取る地獄車。
 そして、勝ち誇ったような笑みを浮かべながら袋の中の物品をまさぐる。が、その瞬間。
「…え?」
 地獄車が大きく目を見開きながら、俺と袋を交互に見渡す。
 そして、しばしの沈黙。俺はいつのまにか少女の顔に戻った地獄車を眺めながら頬を掻く。
「どうして…?」
 そして小さな声を紡ぎ出しながら、ゆっくりとした仕草で袋の中に入った帽子を取り出す地獄車。
 だが、それは地獄車が先程頼んだ『リアルうんち帽子』ではなかった。
「…本当はそれが欲しかったんだろ? お前の考えている事なんてお見通しだ」
「馬鹿…」
 そう恥ずかしそうな声で呟きながら、袋の中から取り出した猫の耳を模した帽子、通称『ネコミミ帽子』を
ぎゅっと抱きしめる地獄車。
 うっとりとした表情に瞳を潤ませながら。まるで幼き少女のような趣きで。
「…ほ、ほら。じゃあそろそろ行くぞ。せっかくのデートなんだからもっと楽しまなくちゃな」
「…え。あ…うん…」
 そうして俺は地獄車の子供のような小さな手をぎゅっと握りしめる。突然の俺の行動にちょっと
慌てながらもいつしか俺の手を握り返して来る地獄車。
 地獄車の手は春の木漏れ日のように暖かく柔らかだった…。