葉鍵板最萌えトーナメント!!準決勝 Round165!!
たったったっ
「まったく……忘れ物するなんてついてないわね……」
放課後。
忘れ物に気付き、大急ぎで教室に戻る。
スケジュール詰まってるのに、やれやれ。
がらがら
戸を開け、教室に入る。
あれ、誰かいる……?
一人で、掃除してるみたいだけど……?
「セリオ……?」
その子は、セリオ。
私たちのクラスメイトで、来栖川電工からテストのため送られてきたメイド・ロボット。
「−−緒方様……?」
「様、はやめてよ、クラスメイトなんだから」
「−−あ、はい。緒方…さん」
「で、あなたどうして一人で掃除を?」
本来なら六人一組で掃除をするはず。
「−−はい。皆様は都合がお悪いとのことで」
「で、あなたが引き受けちゃったわけ?」
「−−はい」
呆れた。
それって、体よく掃除押し付けられただけじゃないの。
「なんで?」
「−−人間の皆様のご命令に従うのが、私たちの義務ですから」
「あなたは、それでいいの?」
「−−人の代わりに働くため、私は作られました。だから別に問題ありません」
さすがに律儀ね。
悲しくなるぐらい。
だけど、私はそこで気付いた。
私も、セリオと変わらないことを。
彼女は、人のために働くように作られて、人のために働いている。
私は、「緒方理奈」を演じるように定められてきたし、「緒方理奈」を演じている。
私が望んだとか嫌だとかそんなことじゃなくて、「定められて」いるから。
だから、私は彼女に強くは言えなくなる。
「分かった」
私は、手近にあったホウキを、手にとる。
「じゃ、一緒に掃除しよ」
「−−え、ですが、緒方様」
「『緒方さん』でいいって。一人より二人のほうが早いわよ」
ま、レッスンのほうはちょっとくらい遅刻したっていいよね。
だいたい、今のセリオほっとけるわけないじゃない。
「−−私の負担ならお気になさらずに」
「それに、楽しいわよ。二人でしたほうが」
「−−……仕方ないですね」
やがて、思案していたセリオが、口を開く。
「−−緒方さんはそちら、私はこちらでよろしいですか」
「OK!」
セリオはホウキを取ると、掃除に取り掛かる。
さてと、私もやりますか。
「やっほー、セリオ! 帰ろっ!」
掃除をしていると、ガラガラと扉を開けて、一人の生徒が入ってくる。
その人は…
「−−綾香様」
来栖川綾香先輩。
この学校では知らない人はいないだろう、有名人。
「綾香でいいってば、セリオ。あら、掃除?」
「−−ええ」
「それにしちゃ人、少ないわね」
「−−私が引き受けましたので」
「え、なんで?」
いぶかしそうに言う先輩。まあ、そりゃそうか。
「みんなセリオに押し付けて帰っちゃったみたい」
横からつい、口を出す。
「あ、やっぱり。ダメよセリオ、そういうのは引き受けちゃ」
「−−……そうなのでしょうか」
「そうよ。どうせ『人間のために働くのがロボットだから』って言って引き受けたんだろうけど、引き受けたりするのは彼女たちのためにならないわよ」
「−−でしょうか」
「ま、引き受けちゃったものはしょうがないわね。私も手伝うわ」
そう言って、先輩がホウキを手にとる。
「とっと終わらせて、一緒に帰ろ」
結局その日の掃除は三人で終わらせた。
セリオと綾香先輩と一緒の掃除、それは結構楽しかったかも。
……レッスンには遅刻しちゃったけどね。