葉鍵板最萌トーナメント!! 準々決勝 Round158!!

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784琉一
「それじゃ、始めようか。まずはボールに慣れた方がいいから、軽くパス出しからね」
「はい」
「分かりました!」
 浩之も交え、四角形を作る。インサイドで軽く蹴り出して、セリオに送る。
 セリオは教科書通り、インサイドで受け止め、そのままマルチに送った。
 サテライトサービスは使ってないといったけど、基本的な動作はできるみたいだ。
 マルチは送られてきたボールに大きく踏み込んで、
「でぇりゃあぁ〜〜〜〜っ!」
 と叫び、足を思い切り振り上げる。いや、そんな姿勢取ったら……ほら、転んだ。
「はわわ〜〜失敗しましたぁ」
「いや、パスの練習なんだから、そんなに思い切り蹴ろうとしなくても……」
「でも浩之さんから勉強のために借りたマンガでは、こう蹴っていたんです」
 浩之を視線で責めると、きまり悪そうに目を逸らした。
「……えーと、あれでサッカーの勉強をすると、歪んだ知識が身に付くから、やめとこうね」
「残念です……。いつかセリオさんと一緒に、スカイラブハリケーンを決めたかったのに……」
 ちょっと想像した。セリオを発射台に空高く飛ぶマルチ。
 それはそれで楽しそうだけど……落ちてきたマルチがどうなるか、想像に難くない。
「私が上ですか? 私が下ですか?」
 やる気だし!
「えっと……浩之さんが発射台です!」
「俺は語尾に”タイ”とかつけるのか!?」
「いや、あれは着地が未完成だから、やめた方がいいよ」
 そんなことで来栖川の試作メイドロボが大破したら、ここの人も泣くに泣けないだろうし。
 セリオも残念そうにしていた。……そんなにやりたかったの?
785琉一:02/03/01 09:57 ID:8rGx0hGx
「それじゃ、次はドリブルね」
 コーンを5つ立てて、まず見本を見せる。
 足の表裏を使ってボールをコントロールし、コーンの間を縫ってゆく。
「こんな感じで、こっちまで抜けてきて」
「では、行きます」
 セリオのドリブルは、すごくゆっくりだけど、丁寧に、コーンを倒さないように抜けてくる。
「これでいいのですか?」
「うん、いいよ。次はもう少し速くね。あのスピードじゃ、簡単に取られちゃうから」
「速度を重視すると、精度が落ちてしまうのですが」
「そこら辺の兼ね合いが難しいんだけどね。少しずつ速くしていけばいいよ」
 セリオは不思議そうな顔をしながらも、「善処します」と答えた。
 無表情に見えても、しぐさや言葉の間とかで、結構感情が出てくるんだ。
「でりゃでりゃでりゃでりゃあぁぁ〜〜〜〜っ!」
 その声だけで、なにをするか予想が付いた。
「浩之、止めて」
「おう」
「はわ?」
 首根っこをひっ掴まれて、じたばたするマルチ。
「なにするんですかぁ、浩之さん〜〜」
「おまえ、コーンを蹴散らして直進しようとしただろ」
「はいっ! 日向君の、直線的ドリブルです! 三杉君の心臓くらい蹴破って見せます!」
「ばかものっ! これはそういう練習じゃない」
「今の私は、牙をはやした檻の外の虎なんですぅ〜〜」
 結局マルチはいかにも不器用そうに、コーンを蹴倒しては直しつつ、ドリブルしてきた。
「マルチはもっとゆっくりでもいいから、丁寧にね」
 マルチはしゅんとして、「はう……。善処します」と答えた。
 同じメイドロボなのに、どこか似ていて正反対な二人。なんだかおかしい。
786琉一:02/03/01 09:57 ID:8rGx0hGx
「じゃあ、次はシュート練習だね」
「待っていました! 世界のエースストライカーを目指します!」
 うん……やる気だけは買うんだけどな。
「それでは私はセンターサークルで待機ですね」
 ちがう! そんなとこからシュート撃つやつ、現実にはいない!
「サッカーは10秒あれば1点取れると伺いましたが」
「そうかもしれないけど……まずは無難にPKの練習をね」
 キーパーは浩之。どこから出したのかアディダスの帽子を斜めにかぶっている。
「ペナルティラインの外からのシュートはきめさせねぇ!」
 いや、PKなんだけど。
「基本はね、ゴールの4隅を狙うんだ。キーパーから見て左下が一番取りにくいって言うけど、隅に決めちゃえば、取れないから」
 軽く助走をつけて、ゴール右下隅を狙う。
 予想通り、浩之は蹴ると同時に左下隅に飛び……ボールがネットを揺らした。
「こんなかんじで、キーパーの読みを外すのも大事なんだ。真ん中に打つのもありだけど、素人にはお勧めできない」
「隅を丁寧に狙えばよろしいのですね」
 セリオは素直に頷くけど、マルチは浩之を叱咤していた。
「ダメですよ浩之さん。読みが外れたらポストを蹴って、逆方向にダイブです!」
 ……あれ、絶対反則取られるけどね。
「それでは行きます」
「おう、来い! S・G・G・Kの実力を見せてやるぜ!」
「スーパー頑張りゴールキーパーって、悪口だと思いませんか、雅史さん?」
「うん。僕もそう思う」
 なんて相づちを打っていると、セリオが助走を始める。
 力強さには欠けるけれど、動作の滑らかさや、踏み込みのタイミングは完璧だ。
 ボールはのんびりと……のんびりと? 隅に向かって吸い込まれていく。
 反対側に飛んだ浩之が危うく追いつきかけるスピードだったけど、ボールは見事、ゴールに収まった。
 勝利のポーズか、セリオは指を1本立てる。
「浩之さん。今はまだ1点差ですが……」
「はわわっ! それは私のセリフですぅ!」
787琉一:02/03/01 09:57 ID:8rGx0hGx
 マルチは相変わらずオーバーアクションで、芯を外したぼてぼてシュートの連続だった。
 しかも「私が決めるまでは、私の順番なんです!」と俺ルールを適用し、浩之を辟易とさせている。
 おかげでセリオと僕は、すっかりヒマになってしまった。
「マルチさん。楽しそうですね」
「そうだね。上達の方向性としては間違っているけど、サッカーを楽しむのはいいんじゃないかな」
「楽しい、ですか?」
「うん。セリオはどうだった?」
 セリオは少し悩んでいるようだった。
「……難しいです。サッカーは足でボールを扱うので、どうしても精度が落ちます」
「サッカーはミスを前提としたスポーツだからね」
「ミスを前提?」
「うん。足を使っているから、どうしても完璧にはコントロールできない。
 だから、うまくいったときが楽しいんだよ。
 セリオは上手くやろうとし過ぎているんじゃないかな?
 失敗から学べることもあるから、もっと思い切りやった方がいいよ」
「もっと思い切り……」
「うん。そうした方が、きっと楽しいよ。ほら、マルチもあんなに懸命にやっているから、あんなに楽しそうなんだよ」
 セリオはしばらく考えていたようだったが、なにかを決意し、顔を上げる。
「……分かりました。では……」
 セリオは肘と膝のサポーターを外した。
 外されたそれは、ゴトン、と重い音を立てて地面に落ちる。
「リミッターを解除します」
「ちょ、ちょっと待って! それって……」
「私が最大出力を出すと、マルチさんが壊れてしまうと言われたので、装着していました」
「えっと……具体的にはどんな感じになるの?」
「能力測定でボールを蹴ったときには、足元でボールが破裂しましたが」
 さらりとそんなことを言うセリオ。
「とりあえず……リミッターだけはつけておこうか。思い切りはその範囲内で」
「……残念です。この状態であれば、センターサークルからでもネットを突き破れるのですが」
 セリオが言うと、本当にできそうで恐い。