葉鍵板最萌トーナメント!! 準々決勝 Round158!!

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751六@ ◆UIvLjB/c
「巡り逢い」(1/2)
航宙日誌 20172.6、1級宇宙飛行師、ヤスノリ・カトー。
退役真近の国際宇宙ステーションで、最後のミッションをこなしている。
ここにはサブオペとして、宇宙用にカスタムメイドされたセリオが常駐している。
彼女も宇宙は長い。生身で船外活動可能、サブコンピュータとして使用可能、
ヒトに入用な物資を節約可能、etcetc、宇宙ではロボットはメジャーな存在だ。
ステーションを廃棄し、陸に帰ったら退役するセリオには、新たに俺の苗字が付く予定だ。
周囲は反対したが、俺の中では彼女は無二の存在だ。ためらう事は無い。
日本名の苗字とカタカナの名前になると、明治生まれの人のようになるのも
面白いんじゃないかと馬鹿な事を考える。
セリオと雑談を交わしながら、外部モジュールを切り離し、燃え尽きる角度で大気圏に突入させる。
今の所、全て順調だ。
ふと、セリオが虚空を見上げ、つぶやく。「駄目…」コンソールを打つ手が早まる。
手首からコードを出し、メインコンピューターと直結する。「間に合わない!」
鈍い衝撃が、俺達がいる最後のモジュールを襲う。
「小天体の衝突です。船内気圧低下中。修復の見込みはありません。
船内は20分後に真空になります。速やかに脱出して下さい。」
用意されている脱出装置は、ごく簡素なものだ。
宇宙服と同じ素材でできた直径2m程度の小さな球体に、酸素供給装置、誘導ビーコン、
それに小さな窓しかついていない。
この中で陸からあがって来る救助隊を待つ事になる。最後の手段として使われるそれは、
宇宙飛行士達の隠語で、「骨壷」と呼ばれている。
半ば押し込められるようにそれに乗せられると、セリオはそのまま外部エアロックを開き、
骨壷を掴んだまま、宇宙へ飛び出した。
死の空間で怯えながら救援を待ち続けるのは、飛行士でも過酷な事だ。
中には発狂する者もいる。
その為、気を紛らわせる為に外を眺められる小窓がついている。
セリオと一緒なら、耐えられる。そう思っていた。