最萌トーナメント支援用SSスレッド#2

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毎朝繰り返される光景。
「く〜…」
かえるのぬいぐるみを幸せそうに抱き、夢の中にいる名雪…。
「朝よ、名雪。…起きなさい」
いつもの呼びかけ。
「うにゅ…」
いつもの反応。
「ホントに困ったわね…」
毎朝繰り返されるつぶやき。
「く〜…」
しかし、今日からは違ったのだった…
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「しょうがないわね…これでも起きなかったらホントお手上げね」
あらかじめ持ってきた瓶のふたを開け、その中にスプーンを差し入れる。
「まずはこのくらいね…」
イチゴジャム。名雪が小さい頃から好きな食べ物だった。
イチゴが使われている食べ物なら、何でも良いようなのだけど…。
「名雪、口を開けてくれる?」
私は、寝ている名雪にそう問いかけた。
「うにゅう…」
名雪は寝ているにもかかわらず、私が言った言葉が理解できたようで、口を開けてくれる。
「はい、あ〜ん…」
「…あ〜ん…」
小さな口がわずかに開かれたので、綺麗な赤色のジャムがのったスプーンを口に運ぶ。
「……」
「……」
「…ん…? イチゴジャム…」
…反応があった。普通に起こすより目覚めが良いようだ。
私はすかさず名雪に声を掛けた。
「おはよう、名雪。もう朝よ?」
「…あ、お母さん。おはよう」
いつもの挨拶より心持ち軽やかに聞こえる。
「お母さん、さっきイチゴジャム食べた夢みたよ」
「そう。イチゴジャムおいしかった?」
「うんっ! お母さん、今日もイチゴジャム食べてから学校行きたい」
「はいはい」
私の作戦は成功だった…。
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−−数十日後−−

あれから、名雪は朝すぐに起きてくれるようになった。
ジャムをつかってだけれど…。
しかし…
「おはよう、名雪」
「うにゅ…おふぁよう〜」
「名雪、もう走らないと遅刻よ?」
「え……」
…ジャムはほとんど効かなくなってしまった。
スプーン一杯のイチゴジャムでも名雪は
『じゃむおいしい……く〜』
とまた寝てしまい、ジャムでお目覚め作戦は振り出しに戻ってしまった。
「困ったわね…」
あの子が急いで学校に行った後、また新しい作戦を考えてみた。
好きな物では起きてくれない…だったら、嫌いな物はどうか…。
「嫌いな物で起きない…って事はないものね」
新しい作戦はあっさり決まった。
「そうと決まったら、まずは人参をジャムにしてみようかしら…」
秋子「人参だったら、ジャムにしてもおいしくないということはないものね」
そう一人つぶやくと、私は新鮮な人参を買いに商店街に行ったのだった…。
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−−翌日−−

名雪の部屋に、いつものように入る。
「起きなさい、名雪。もう、朝よ?」
「……」
名雪は『けろぴー』を抱いて幸せそうに寝ていた…。
何度か呼んでみたけど、起きてくれる様子がなかったので、昨日作ったジャムをスプーンにすくう。
「さぁ、どうなるかしら…」
「ほら、名雪。ジャムよ…口を開けて…」
「にゅぅ…イチゴジャム…」
いつものように小さな口が開かれる。
「はい、あ〜ん…」
「じゃむぅ〜…」
「……」
「……」
無反応。
「………」
「!!!」
がばぁっ!
びっくり。ものすごい効果があった。
「お、おかあさぁ〜ん…。さっきの…なに?」
「ジャムよ?」
「…な、何ジャム…?」
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「人参よ」
「ふぇーん…お母さんのいじわる〜」
名雪は、目尻にわずかに涙をためていた。
「ほら、起きたなら支度しましょうね」
「人参嫌いー」
「あまりおいしくないよぉ…」
「えっ、あまり??」
名雪の言葉に少し驚いてしまった。
「うん…いつもの人参よりはおいしかった…」
「そう。人参もホントはおいしいのよ?」
「そうなのかなぁ…」
新しい作戦…これは大成功だった。
あの子が、嫌いな物を少しでも『おいしい』といってくれた事も嬉しかった…。

−−数ヶ月後−−

「名雪、最近人参残さないわね…」
「なんか、人参食べれるようになっちゃった…」
「…あのジャムのおかげかしら?」
「そうかも。人参ジャムのおかげだよ。たぶん」
だから、なのね。最近また朝起きれないときがあるのは…。
…またジャム作ろうかしら…。
嫌いな物を克服できてしまうこの「ジャムでお目覚め作戦」は、名雪にとっても、私にとっても好都合だったから…。
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−−数日後−−

……
「あさよ。起きなさい、名雪」
「うにゅぅ…」
「…だめね…もう、人参ジャムじゃ…」
人参は、名雪の嫌いな食べ物「だった」ということになってしまった。
「くー…」
「次のジャムの出番ね…」
らっきょ…名雪が嫌いな物の一つ。
別に、好きな方がいいわけでもないんだけど…。
それにしても…
「らっきょジャムなんて聞いたこともないわね」
自分で作っておいてなんだけど…。
「名雪、ジャムよ…口を開けてね…」
ここ数ヶ月、ずっと続いてるジャムの目覚まし。
この子にしか効かないんでしょうね…。
「じゃむー? わたし、にんじん食べれるもん…」
「あ〜んして、名雪…」
「あ〜ん…」
秋子「名雪…?」
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「……」
「!!!!!!」
がばぁぁぁぁっっ!!
効果抜群だった。人参ジャムの時よりも…。
「うぅ〜〜〜っ、おかあさぁ〜ん…またジャムかえたでしょ〜〜」
「ええ。どう? おいしい?」
「らっきょでしょ…これ…味で分かるよぉ…」
「うー…おいしくない…」
「そう? そのうちおいしくなるわよ??」
やはりらっきょジャムは、お気に召さなかったらしい。
「…う〜、この微妙な甘さと酸っぱさが嫌だよー」
「さぁ、遅れるから早くしたくしなさいね」
「らっきょさんきらいー」
「う〜」
…またしても成功ね。人参みたいに、食べられるようになってくれると良いんだけど…。
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−−数ヶ月後−−

「ただいまー」
「お帰りなさい」
「ねぇ、お母さん。らっきょっておいしいんだね」
「え?」
「今日、給食にでたから思い切って食べてみたんだよ」
「なんかおいしかったんだ。きっと、お母さんのジャムのおかげだね」
らっきょを食べられるようになった名雪は、嬉しそうだった。
「…そう。じゃあ、また何か考えないとね」
「え…」
「大丈夫よ」
「お、お母さん〜…」

−−そして数年後−−

「名雪、朝ですよ。起きなさい」
「く〜…」
こまったわね…。もうこの子の嫌いな食べ物はないものね…。
人参から始まった『嫌いな物ジャム作戦』も、名雪が嫌いな物を食べれるようになってしまっては、意味がなかったのだった…。
でも、そのおかげで嫌いな物がなくなったんだから良い事よね。
「うにゅ…」
「ほら、起きないと遅刻しますよ」
「にゅぅ…」
「……」
だめね、やっぱり何か考えないと…。
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−−数日後−−

考えた末に、会社で提案したジャム…このジャムだけは通らなかった…を使うことにした。
「このジャムとてもおいしいと思うんだけど…」
「なぜか不評だったのよね…」
一緒に提案した三つのうち、このジャムだけ不評だったのだ。
実を言うと、一番自信があったジャムでお気に入りでもある。
そのジャムは綺麗なオレンジ色をしたジャムで、甘くないのが特徴だった。
「名雪は気に入ってくれるかしら…」

−−翌日−−

「く〜…」
今日も名雪は気持ちよさそうに眠っていた。
「名雪、朝よ。また走らないと遅刻になるわよ」
「…うにゅ〜」
気持ちよさそうに、布団の中で寝ている名雪…。
…このジャムの出番ね…。
「ほら、名雪ジャムよ…。口を開けて」
「…じゃむ〜、おいしい…」
「まだ食べさせてないんだけど…。はい、ジャムよ」
「……」
「!!!!!!!!!!!」
なぜか…今までの記録を更新しそうな勢いで起きあがる名雪。
そして…なぜか名雪は涙目だった…。
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…お、おかあさん…なななな、なに? これ…」
「じゃ、ジャムじゃないよね…?」
名雪は、さっきからどもりまくっていた。
「ジャムよ。おいしかった?」
「……」
「お母さんの自信作なんだけど…」
「うそ…」
名雪は、心底信じられない…というような顔をしてそう言った。
「…すっっっっっごい、変わった味だと思う…」
「そう? 甘くないジャムなんだけど、どうかしら?」
「会社では、不評だったのよね…。自信あったんだけどね」
「わたしも、おいしくないと思うよ…」
どうやらあの子の口にもあわなかったようだった。
「……」
「きっと、そのうち慣れるわよ」
「えっ…お、お母さんっ…こ、これからは自分で起きるっ!!」
「ほんと? なんか残念ね…。でも、お母さんも助かるわ」
「だって……その、あのっ…と…お…ったんだもん…」
「じゃあ、走らないと間に合わない時間になったら起こすわね」
「…うん…たぶんもう大丈夫だと思う……」
「がんばってね」
「…うん…」
その日、あの子が陸上部に入ったということを聞いた。
秋子「そんなにおいしくなかったのかしら…?」
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−−数日後−−

「おかあさん、おふぁようございます〜」
あの日以来、名雪は自分で起きることが出来るようになった。
…いつも遅刻ぎりぎりで、学校に到着してるそうだけど…。
「あはよう、名雪。起きてくるの遅かったから、パンにジャム塗っておいたわよ」
「ありがとう、お母さん」
パンにぬって置いたのは、あのジャムに少し手を加えた物だった。
どうしても、おいしいと言って貰いたかったのもあるんだけど。
「じゃむっ、ジャムっ。イチゴジャム〜」
今度のジャムは前のジャムより自信があった。
今までのジャムの中では一番だと思う。
「あれ? マーマレード? う〜ん、イチゴジャムが良かったな〜」
「でも、お母さんの作るジャムは好きだから良いけどっ」
…おいしくなってると思うんだけど…どうかしら…?
「いただきます〜」
はむ…
「………………」
「…………………………」
「……………………………………」
ぱた…
大きくかじられた後があるパンがお皿に置かれる。
「ご、ごちそうさまっ!!!!」
「あら、もう良いの?」
「ぶ、部活があるんだよっ!!!!」
秋子「そう、気をつけてね。行ってらっしゃい」
「い、行って来ます〜〜っ!」
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………。
「自信あったんだけど…。あの子の様子からして、また口にあわなかったみたいね…」
名雪が残していったパンを食べる。
「おいしいと思うんだけれど…」


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「ということがあったジャムなんですよ」
「……」
「……」
「な、なるほど…」
「そうなんだ…」
「名雪がどうしても起きなかった時に、このジャムのおかげで何度も助かったんですよ」
「味もですけど、そういう理由でお気に入りなんです」
「それで…材料は何なんですか…?」
「ボクも気になる…」
「それは…やっぱり、企業秘密です♪」