「んー、佐祐理さんの膝枕、ホントやわらかくて気持ちいいな」
「こうしていると、祐一くんって可愛いね」
「なっ…」
「あははっ、赤くなったーっ」
佐祐理さんは、手を俺の頭に載せ、やさしく撫でている。ゆっくりとゆっくりと
規則正しく。なんだか本当に自分が子供に戻ったような気がする。
すぐ上を見ると、目を細めてこちらを覗き込む佐祐理さんと目があった。
恥ずかしくて目をそらす。
「もうー」
佐祐理さんは、小さく口をとがらせ、俺の顔を正面に固定した。
覗き込む佐祐理さんの顔が徐々に近づくと、甘い香りに包み込まれたように頭がぼおっとしてくる。
「祐一くん、大好き…だよっ」
恥ずかしそうに笑うと、ちゅっとくちびるに軽く触れた。
顔をあげた瞬間、目と目が合ってしまう。くわっ、照れるっつうにっ。
「あははっ…。えっと…、そ、そうだっ、祐一くん、耳そうじしてあげよっか」
佐祐理さんも顔を真っ赤にして、もじもじしながら、早口にまくしたてる。
「お、おう、じゃあ、お願いしようっかな…」
「うんっ、ちょっと待ってねーっ」
俺の頭をそのままに身体をひねり、ちゃぶ台の上の小物入れから耳かきを取り出した。
「はいっ、横を向いてくださーい」
もぞもぞと身体を90度回転させる。それまで髪の毛ごしに感じていた佐祐理さんの太腿が今度はすぐ耳の下にある。頬に吸い付くような佐祐理さんの素肌。ほんの少し汗ばんでいるかも。
「いきますよー」
すぐ上から声がすると、耳に棒が入ってきた。
くいくいっと壁をこすり、さらに奥に入り、こすこすと何度も耳垢を掻き出す。
なんかこんなところまで佐祐理さんにさらけ出していると思うとこっぱずかしくなってくる。
上からは、んー、とか、ふぇーとか、はー、とか、佐祐理さんの洩らす声が聞こえている。
時折、佐祐理さんのやわらかい髪が垂れて首筋を撫で、くすぐったい。
耳を掃除しているだけなのに、体中をくすぐられているみたいだった。動いちゃいけないと拳をにぎりしめ、佐祐理さんのなすがままにされていた。
右が終わると今度は左。佐祐理さんの手にくるまれ、頭を入れ替える。
「祐一くんの耳って……、きれいだね」
「なっ……!」
「あははーっ、また真っ赤になってるーっ」
顔をあげると、佐祐理さんも顔を真っ赤にして、恥ずかしそうに笑っている。
体がイグニションしてバーニングしてそのままローリングして摩擦係数ゼロで
第一宇宙速度でそのまま星になりそうな勢いでどうにかなりそうだぞ、おい。
しかし、ここで動いてはこの場所、楽園、約束の地を失うことになってしまう。
俺は頭を佐祐理さんの太ももに押し付けた。むにゅと潤いのある肌がすいつきながら
押し返してくる。
「ぬう……」
「どうしたの、祐一くん?」
はえ?と口をあけてこちらを覗き込む佐祐理さん。
「ぬう……萌え死ぬ」
「ふえ?」
「はーっ、お疲れさまー」
最後に、何度か耳に息をふきかけると、佐祐理さんは声をかけた。
「うんうん、ありがとう、佐祐理さん」
「あははーっ、佐祐理もなんだか嬉しいです」
「じゃ、俺もごほうびあげちゃおうっかな」
佐祐理さんの太腿を指でつーっとなぞった。
「は……ぅ、ん、祐一くんのエッチ。どうしていつもそうなるかなー」
そう言って佐祐理さんは、俺の耳をひっぱった。構わず、さわさわと太腿を撫で、スカートの中に手を忍び込ませる。
「もーっ、あっ…ダメ…、だめだってばぁ」
「ダメじゃないっ。じっとしてなさいっ」
「あーん、もう、ダメダメぇ」
やんやん、と両手でスカートを押さえ、ぷるぷる頭を振る佐祐理さん。その素振りが
火にガソリンを注いでいるっつうにっ。
「わかった…」
「ふぇ?」
佐祐理さんは信じられないという様子で、あんぐりと開けた口に手を
あてていた。とはいえ、なんだかちょっと残念そうな顔をしている佐祐理さん。
俺はできるかぎりの神妙な顔つきで口を開いた。
「じゃ、今度は俺が佐祐理さんの耳を掃除してあげる、というのでどう?」
つづく……たぶん。