みさきさんの支援二次小説、
『旋律に感じる風景』 全4レスを投下します。
「みさき、明日なんだけど」
「うん、どうしたの?」
少し肌寒い部屋の中、
浩平はストーブをつけながらみさきに話しかける。
「夕方から出かけないか? 市民会館」
もうすぐで3月になるというのに、寒の戻りが続く。
「うん、なにかあるの?」
「柚木って知ってるか? 学校によく遊びに来てた」
「柚木…?」
部屋の中のわずかに澱む風は、首をかしげたみさきの髪をなぜる。
「詩子ちゃんのことかな? 澪ちゃんや茜ちゃんと一緒にいた」
「ああ、そいつだ」
懐かしい思い出、元気そうに学校を駆け回っていた詩子。
他校の生徒だと聞いていたけれど、全然そんな感じはしなかった。
みさきは、そんなことを思いながら、先を促す。
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「その柚木から手紙が来て、ピアノの発表会があるから来ないか、だってさ」
「うん、行きたいな」
昔から音楽が好きなみさき。
学校にいたころの芸術選択はすべて音楽。
単位計算上、必要のない3年のときも取得していた。
歌うことも、聴くこともみんな好き。
かなわなかったけど、いろいろな楽器を演奏したいとも思っていた。
「明日の夕方からだから、一度帰ってくる、それから一緒に行こうか」
「うん、それなら、私も帰ってくるまでにおめかししてるね」
「ああ、わかった」
やがて、ファンヒーターから熱風が流れ出す。
その風に寄せられるように、みさきは前に座布団に腰掛けた。
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静まった会場、
前のほうの席に座るみさきと浩平。
詩子の順番は3番目。
今、まさに本人が出てくるときだった。
「ぱちぱち…」
広がる拍手にあわせて、みさきと浩平も拍手をする。
「詩子ちゃん、どんな格好してる?」
「…あいつ、本当に発表会だと思ってるのか? 普通の格好だ」
「くすっ、詩子ちゃんらしいね」
小声でささやきあい、演奏開始を待つ。
きんと張り詰めた空気、澱む風。
やがて流れ始める旋律。
外国の情景を思わせるようで、
それでいて懐かしい、旋律。
ふたりも、会場の中も、みんな静かに聴いていた。
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やがて、2分ほどの演奏は終わりを告げる。
詩子は前にたってお辞儀をして、
去り際、浩平とみさきを見つけて小さく微笑む。
ふたりは大きな拍手をして見送っていった。
「浩平君、曲名はシチリアーノ、だっけ?」
「ああ、プログラムにはそう書いてあるな」
念のためプログラムを開いて確認する。
みさきは頭の中で曲を思い出す。
ときどき宣伝などで流れているのを聴いたことはあるが、
全部を聴いたのは初めて。
優しくも懐かしいその流れに少しだけ胸が熱くなる。
「素敵な演奏だったね」
「ああ、どんなやつでもひとつぐらいはとりえがあるもんなんだな」
「それはかわいそうだよ」
小さく笑って、みさきは言葉を続ける。
「シチリア島って言う島の曲なんだよね、確か。
なんとなくだけど、詩子ちゃんの演奏で様子がわかった気がするよ」
揺れる瞳、嬉しそうな顔。
浩平はその笑顔を見ることができただけで、
連れてきてよかったと、思うのだった。
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↓使用曲はこちらだよ。
http://cgi.tky.3web.ne.jp/~junhelm/img-box/img20020303134113.jpg