葉鍵板最萌トーナメントブロック決勝Round147!!

このエントリーをはてなブックマークに追加
142柏木千鶴入場2/2
 公衆電話から聞こえてくる道順に、千鶴は注意深く耳を傾けた。
『八重坂高校なら俺が知ってる。そこから真っ直ぐ東に行けば大通りに出るから、そこから…』
 夜風にたなびく千鶴の黒髪は、まるで黒い絹糸を梳き流したかのようだ。
 受話器に耳朶をなぶらせながら、薄紅を引いたような唇が物憂げな吐息を紡ぐ。
「それはなんとなく判ったんですけど…。耕一さん…東ってどっちかしら?」

 梓はこめかみを押さえて唸っていた。
 しばらくして、もうお手上げというジェスチャーでため息を吐く。
「ありゃダメだ…。耕一、しょうがないから今夜は特別だ。迎えに行ってやんなよ」
「私も、それがいいと思います。夜中ですし、道を使うわけでもないですから…」
 楓の言葉に、初音もうなずいた。
「もう時間もないしね。そうしようよ、お兄ちゃん」
 耕一が出ていった後のドアを見ながら、初音が誰にも聞こえない声でぽつりとつぶやく。
「でも、お姉ちゃん、ちょっとうらやましいな…」

 ――数分後。耕一は後方に飛び去っていく風景のなかを疾っていた。
 人ひとり腕に抱えた程度では、羽毛ほどの重量感もない。
 覚醒した鬼の能力は、お互いの温もりも残らぬほどの速さで千鶴を会場に運んでいた。
「また、迷子になるのもいいかしら…」
 少し名残惜しそうに、わずかな余韻を残して手が離れた。
「ちづ姉! 下らないこと言って時間つぶしてるヒマはないよ!」
「お姉ちゃん、急いで!」
 狭い会場の廊下を、姉妹四人プラス一名が駆け抜けていった。

 前を走る妹たちの背を追いながら、千鶴が耕一にそっと耳打ちをする。
『今度、またお願いしますね。耕一さん』
『いつでもお供しますよ。でも、今度は急がないときがいいな』
 入場口が見えてくると、二人の若い鬼はいたずらっぽく笑い合った。
<柏木千鶴 入場>