葉鍵板最萌トーナメントブロック決勝Round143!!
ある日曜日。あたしは物思いに耽りながら、喫茶店で紅茶に口を付けていた。
話があるから、と松本からこの喫茶店で待ち合わせする約束をしていたのだけど、
まだ来ない。
松本から携帯に「ごめん、もうちょっとでそっちに行く」というメールが入って
10分経つ。どちらかというと時間にはルーズな松本だったけど、また遅刻か・・・。
呼び出しておいて遅刻するなんて。来たら文句の一つも言ってやらないと。
時計を確認すると、来ると言っていた時間から20分ほど経ってしまっている。
・・・それにしても、とひとりごちる。
直接会って話したい事って何だろう?
まさか、恋の悩みとか。可能性は・・・無いとは言い切れないな。
もしそうだとしたら、相手は誰だろう?
思案して真っ先に思い浮かんだのは、よりにもよって自分が好意を寄せている
男の子の顔だった。
急に顔が熱くなってくる。と共に不安な気持ちも頭をもたげてくる。
松本が恋のライバル?もしそんな事になったらヤだな・・・。
そうなったら勝てないだろうな・・・なんだかんだ言って松本可愛いし。
あたしなんて・・・。
カランカラン、と喫茶店のドアについているベルが来客を告げる。
自分の思考を中断させると、そこには小さく手を振りながらこっちに向かって
歩いてくる松本の姿があった。今は夏。松本は汗だくになっている。
どうやらここまで走ってきたらしい。
「吉井ごめんねー、待った?」
「松本、遅いよー」
「えへへー、ごめんねー。
・・・どうしたの?何か顔が赤いけど」
松本に言われてみて、自分の顔が火照っている事に改めて気が付いた。
「えっ、べ、別に何でもないよ?さっき私もここまで走ってきたからだよきっと」
「?」
言ってしまって気付いた。あたし、汗かいてないや。しまった。
一瞬不思議そうな顔をした松本だったが、すぐにさっきと同じ表情に戻る。
どうやら適当に思いついた理由で納得してくれたみたい。
・・・あ、でもその理由じゃ松本の遅刻に何も言えないや。
松本は自分の向かいに座って、
水を持ってきたウエイトレスにアイスミルクティとショートケーキを注文する。
「早速だけど。で、何なの?会って話したい事って」
「あ、うん、その事なんだけどさー・・・」
松本はあたしにこっそりと耳打ちしてくる。ごにょごにょ。
「イベントのキャラクター役ぅ!?」
「しーっ、吉井声でかいよ〜」
自分の声が思ったより大きかったのであわてて口を塞ぎ、周りを見渡す。
とりあえず今の声で他の人から注目されるような事は無かったみたい。
以前、この夏休みの間に岡田と松本とあたし3人でどこかアルバイトしようかと
いう話が出ていたのだけど、そのアルバイト先の候補がなかなか思い浮かばず
とりあえず保留になっていた。そこに松本がそのアイデアを持って登場。
・・・それにしても、何でこんな変わったバイト先を選んだんだろう?
あたしが思いあたって聞いた疑問に松本が答える。
「一番の魅力はやっぱり働いている時間の割にバイトの時間給が高いから、って感じ?」
確かに、他の飲食店とかのアルバイトの時間給に比べて1.5倍は高い。
でも、高いって事はそれだけ大変だって事じゃ・・・。
「あと、家から近いって事もあるしー」
もしもし?近いのは松本の家だけなんですけど。
「それに、もう一つ理由があるんだ」
松本は手元のバックからは本、表紙を見るに、
多分演じる予定であるアニメキャラクターの設定資料集らしい・・・
を取り出し、ペラペラとページをめくりつつ、
「世の中には偶然ってのがあるものよね〜」
その手を止めて、あたしにやって欲しいと思われるキャラクターを指差した。
そこにはあたしと同じ髪色&髪型を持った女の子の姿。
「ね?吉井と見た目そっくりなキャラクターだと思わない?」
ね?って言われても・・・。
「他の2人のキャラクターも髪の色とかだいたい同じで、
岡田の髪を下ろせば、ほらあたし達3人と同じ姿。本当に凄い偶然!」
松本、舞い上がってるよ・・・でも、松本に言われてみるとその通り。
「でも第一、岡田が納得しないでしょ。そういうのに興味なさそうだし」
「岡田にはすでにOK貰ったよ?」
えっ!?本当に?
松本は岡田がやるであろうキャラクターを指さして、
「最初は絶対やらないって言ってたんだけどー。
『この役は岡田、貴方にしか出来ない!』って言ったら、何か急にOKしてくれた」
岡田・・・いくら何でも単純すぎるよ・・・。
結局、断ろうとあれこれ言ってみたんだけど、断り切れなかった。
最後の最後に、
「・・・ねぇ、この松本の一生のお願い、みんなで良い思い出作ろうよ!」
松本はぎゅっと目を閉じて、自分の目の前でパン、と手を合わせる。
これが松本の何度目の一生のお願い事だったか忘れてしまったけれど、
今までこの決め台詞が飛び出た時に、あたしは断わりきった試しがない。
「・・・ダメ?」
片目だけをあけて、あたしの様子を伺ってくる松本。
「・・・仕方ないなぁ・・・」
こうなったら最後まで付き合わないと駄目だよね。一蓮托生。
だってあたし達、友達だもの。