葉鍵板最萌トーナメントブロック決勝Round143!!
試合会場への廊下を、ひとりのアイドルがレポーターに囲まれながら歩いていた。
ともすれば移動の邪魔になるのだが、突撃する方もされる方も素人ではない。
雲霞のようにマイクを引き連れたまま、理奈の足が止まることはなかった。
いまでは、これも理奈の生活の一部になっている。
「次の対戦相手も強力だと言われています。自信のほどはいかがです?」
「自信…ね。私はいつだって自分を信じてるわよ?」
「勝敗に関してはどうでしょう?」
トップアイドルの瞳が楽しげに揺れている。
スッと、形のいい唇の端が絶妙の角度で持ち上がった。
「負けるシーンはあまり考えてないわ。相手にもそうあってほしいと思う」
「勝つ自信があるということですか?」
「結果なんて判らない。でも、私と彼女とで最高の舞台を作る自信はあるわよ」
トーナメントを進むごとに、足場はどんどん狭くなっている。
だからこそ、理奈はそれを楽しむ余裕を持っていたかった。
戦うとしても、“敵”は対戦相手ではない。
彼女は芸能生活のなかでそのことを学んでいる。
「最後にひとつだけ質問を…。諸田真というのは一体…」
気が付くと、会場のざわめきはすぐ近くまで来ていた。
「ごめんなさい、もう時間だわ」
マネージャーからの目配せを受けて、理奈は笑顔で質問を断ち切った。
ここから先はアクターの時間。
意志をたたえた瞳が、壁を突き抜けて舞台を見据えている。
がんばってきた自分と、応援してくれるみんなを否定しないために――。
がんばってきた相手と、彼女を応援するみんなに礼を尽くすために――。
苦しいほど高鳴っていた胸は、舞台に立った瞬間にピタリと治まっていた。
『私は……ううん、“私たち”はできる』
規則正しいリズムのなかで、理奈は最高のステージを予感していた。
<緒方理奈 入場!>