葉鍵キャラを監禁したいんですが・・・

このエントリーをはてなブックマークに追加
766研究員A・私的記録
130日目

どのくらい時間が経ったか判らない。
数分のようにも、数時間のようにも感じられる。
拘束室はただ白く静かで、何の音かは判らないが、低い妙な音がずっと聞こ
えていた。
頭がおかしくなりそうだ。

私はこんな部屋に何ヶ月も、琴音を一人で置いていたのか?

その時突然、照明が消えた。
辺りが暗闇になってから、さっきから聞こえていた音が私の独り言だったのに
気付いた。
自分の掌も見えない、完全な闇だった。
一切の光が、電子ロックの作動灯も消えている。
期待を込めて扉を押すと、あれだけ強固だった障害があっさり開いた。
767研究員A・私的記録:02/03/04 23:54 ID:twVqKAXF
拘束室の外も、状況は変わらなかった。
停電時に作動する筈の非常灯も点いておらず、完全な闇の中、どこからか怒号
だけが聞こえてくる。
その中に、一発の銃声も混じった。
何だか判らないけど、琴音の元に行かないと。
手探りで数歩進むと、私を呼ぶ声が聞こえた。
一番聞きたかった声、琴音の声が。
その姿は全く見えないけど、軽い足音は迷わず私の元へ進んでくる。
闇の中に伸ばした手の先に温かい物が触れると、それを抱き寄せた。
この手触り、大きさ、匂い。間違えるはずが無い。琴音だ。
私の琴音がここにいる。確かに生きて存在してくれている。可愛い顔が見れ
ないのが残念だけどここにいる。
確信した後も、強く抱いたり撫で回したりして、琴音の存在を確かめた。

しばらくなすがままになってから、琴音は私の手を取り、傷付いているのに
気付くと腕を掴み、外に出ようと言って歩き出した。
闇の中で一切迷わず、しっかりした足取りで。
どうやっているのか聞くと、手探りで歩いているそうだ。
念動力で手探り!
しばらく歩くと、廊下の向こうから銃声が響き、閃光が断続的に走った。
明らかにこっちを狙っているが、銃弾は私達にかすりもしない。
そして発砲の閃光の中、暗視ゴーグルを付けた警備員の首が真後ろを向く
のが見え、静かになった。
首の骨が砕ける音は、銃声で聞こえなかった。聞きたくも無かったが。
768研究員A・私的記録:02/03/04 23:56 ID:twVqKAXF
外に出ると、夜の闇は青く薄まっていた。
全てが影で構成された世界でも、琴音の白い肌と銀髪は自ら輝くように
浮かび上がり、私に笑顔を向けてくれる。
季節は初夏でも山奥の明け方は冷えたが、寄り添っていればそれも感じない。
所内は暗くて気付かなかったが、私達の背後には十数人の人影が後を付いて
来ていた。
実験体として監禁されていた超能力者達だ。
彼らは解放された喜びを口にするでもなく、ただ後ろを付いて来ている。
玄関前の敷地を抜けて、威圧するように大きな門を押すと、見かけによらず
軽く開いた。
門をくぐって脱出したという実感を得たのか、手の傷がいきなり疼き始めた。
心配する琴音には無理矢理笑顔を見せたが、脂汗は隠せない。
すると琴音の瞳が急に鋭くなり、研究所の方を見て
潰しちゃいましょう
と言うと同時に、何かが砕ける音が響いた。
音だけが数秒鳴り響いてから、白亜の建造物は上から崩壊し始め、轟音と土煙
の中に消えた。
土煙が晴れると、山中に似合わない4階建て建造物は、言葉通りぺしゃんこ
に潰れていた。
あの巨大な建物が一瞬で・・・
769研究員A・私的記録:02/03/04 23:57 ID:twVqKAXF
目の前で同僚達が圧死したというのに、気が付くと私は笑っていた。
私の手は自業自得だが、奴らは琴音を殺そうとしたのだ。同情は沸かない。
しかし琴音の力は、私の予想を、人知を遥かに越えていたのだ。
素晴らしい、素晴らし過ぎる!
私は手の痛みも忘れて、琴音を強く抱いた。
ふと、周囲の超能力者が何故言葉を発しないか気付いた。
琴音を恐れているのだ。
同種だというのに、同種だからこそ、助けてくれた感謝より、強大な力への
恐怖が勝っているのだ。
彼らから向けられる視線は、一般人と同じ畏怖のものだった。
しかし琴音は気にしないし、私も気にしない。
世界中の誰もが恐れても、私は琴音を恐れないから。
私は琴音の心も身体も能力も、全てを愛しているから。
冷ややかな視線の中で、私と琴音は満たされた気持ちで抱き合い、唇を重ねた。


 完