50日目
ここ数日、私は暇さえあれば琴音の部屋のモニターを眺めている。
彼女と話がしたければ出向けば良いのだ。
私以外にコミニュケーションの出来る人間が居ない彼女は、拒みはしない。
だが彼女は実験体で、私は研究者。
その垣根を超えて深く係わるのが怖いのだ。
前回の実験以来、彼女は随分と友好的になった。
原因が私自身でも、私に依存した生活を送ることで、ここで頼る者が私以外
にいないと理解したのだろう。
訓練にも協力的になり、念動力も少しは制御できるようになってきた。
得る物の無かった実験だったが、その意味では大収穫といえよう。
しかし今だ彼女は、眠る時にも照明を消そうとしない。
彼女が負った心の傷は、決して浅くは無い。
いつものように彼女がシャワーを浴びる準備を始めると、私はモニターを
切った。
私以外の者に彼女の肌を見られるのが耐えられなかったのだ。
姫川琴音という少女は、私の中でどんどん大きな存在になりつつあった。
しかし明日の実験で、私はまた彼女に新たな傷を刻もうとしている。