葉鍵ファンタジーV

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1名無しさんだよもん
レフキー、という都市がある。
人々の夢を奪いつつ、また同時に与え続ける都市。
夢を抱いた若者なら、必ず一度は訪れる都市。
この街を、昔から住んでる人々はこう表現する。
「全てが有り、そして全てが無い街」(ALL AND NOTHING)
皆に伝えたい物語・伝説も数え切れないほどあるのだが、
今回は、『これから』物語を作る(であろう)人々の話を語るとしよう………。


過去ログ、関連リンク、お約束等は>>2-10

2名無しさんだよもん:02/02/05 17:27 ID:SwWQxIV5
【過去ログ】

葉鍵ファンタジーU
http://wow.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1010300239/

葉鍵ファンタジー
http://wow.bbspink.com/leaf/kako/1009/10093/1009367766.html


【関連リンク】

葉鍵ファンタジー感想&討論スレ
http://wow.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1011115518/

過去ログ編集サイト
http://ha_kagi.tripod.co.jp/fantasy/

葉鍵リレー小説総合スレ
http://wow.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1007821729/
3名無しさんだよもん:02/02/05 17:27 ID:SwWQxIV5
【書き手さんのお約束】

○書き手さん、絵師さん、新規参加募集中!
○ただ、新規参加の方は過去ログには目を通すように願います。
○SSを投稿する際には、どこのパートからのリレーなのかリンクを張っておくと
 読み手さんにもわかりやすくなります。
○後書き、後レスなど、文章中以外での補足説明は避けましょう。
 SS書きはSSで物事を表現することが肝要です。
○作品の最後に書く補足説明は、作品内の纏め程度に考えてください。
 補足説明とは、作品内で書いていない設定を述べる場所ではありません。
○新キャラを登場させる際は、強さのインフレも念頭に置きましょう。


【読み手さんのお約束】

○感想は常時募集中です。感想スレの方にお願いします。
○書き手叩きは控えましょう。
○指摘や意見は、詳しいほど書き手さんのためになります。
 逆に、ただケチを付けるだけでは、書き手さんのためにも、
 また他の読み手さんのためにもなりません。
○読んでる内に、新たに書き手さんになりたくなった方は、
 【書き手さんのお約束】を参考にして下さい。
○絵師さんも随時募集しております。


4名無しさんだよもん:02/02/05 22:56 ID:ixg0bK/s
  ビクッ. ∧ ∧ ∧ ∧ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
  Σ(゚Д゚;≡;゚д゚) < なんすか、このスレは?
     ./ つ つ     \______________________
  〜(_⌒ヽ ドキドキ
 ブッ ω)ノ `Jззз      ζ
5あいつからの手紙:02/02/05 23:24 ID:SwWQxIV5
『拝啓天沢郁美様、お元気ですか?僕は元気だよ』
…あの馬鹿、なに考えてるんだか。
手紙が来たというから、何かと思ったらあの黒い名無しからだった。
晴香か琴音からの報告かと思っていたが違った。
それにしても二人ともさっぱり音沙汰無しだ。
『今日はスペシャルな情報を特別に教えてあげようと思ったんだ』
相変わらず、うそくさい。けれどこの雰囲気は懐かしい。
こいつがいなかったら宗団をのっとるなんて真似できなかったとも思う。
『この前、ひかみんに会ったんだ』
ひかみん?
『ああ、氷上シュンのことだよ。確か郁美探してただろ?』
なんだ。氷上シュンか。……氷上シュン!?
『あいつは変な奴だから普通にあおうと思っても会えないからね』
確かに会えないけど。
『今度ひかみんは長瀬祐介にあいにいくんだってさ」
長瀬祐介?
『ひかみんの可愛いあの子の笑顔を見るためには祐介君の力が必要なんだってさ』
可愛いあの子?
相変わらず、一方的だ。けれど慣れてしまって気にならない。
『だからひかみんにあおうと思ったら祐介君に会うといいよ』
長瀬祐介…か。
『だけど祐介君はちょっと危ない奴だから気をつけたほうがいいよ。彼が本気を出したら人間なんてあっさり壊しちゃうからね』
壊す?
6あいつからの手紙:02/02/05 23:24 ID:SwWQxIV5
『なんと祐介君はそっちの名簿には載ってないけどSクラス分類者だよ』
Sクラス…いまいち基準はわからないが氷上シュン以外にもいたのか…
しかし、この中途半端な助言もあいつらしいと思う。
『あと、ひかみんの可愛いあの子に会うっていう手もあるね』
可愛いあの子に会う?
『彼女は秘法塔にいるよ。ひかみんはロリコンで彼女にラヴラヴ(死語かな?)だから彼女に頼めばあわせてくれるんじゃないかな?』
ラヴラヴは古いかもしれない。
いや、そんなんじゃなくて秘法塔の女の子…川澄舞のことか?
『でも秘法塔の彼女より祐介君の方がお勧めかな』
…むう、長瀬祐介に接触してみる必要があるかも。
しかし、晴香からの連絡が途絶えてしまっている。
秘法塔がどうなっているかよくわからない。
『まあ、どっちにしても危険な相手だから油断しちゃダメだよ(はぁと)』
はぁとって…気が抜ける。
まあ、あいつらしいっちゃあいつらしいか…
『とにかく頑張ってね。追伸、僕も面白い人を見つけたんだ。また会うことがあったら紹介するよ』
とりあえず洋子さんに相談してみるか…
「お〜い、よ〜こさ〜ん」
7名無しさんだよもん:02/02/06 01:48 ID:e8IrenEK
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    /∵∴∵∴\
   /∵∴∵∴∵∴\
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  |∵ |   __|__  | < ドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラァーーーーーー!!!
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8名無しさんだよもん:02/02/06 02:11 ID:yV9PoChy
9名無しさんだよもん:02/02/06 02:46 ID:a6TxXeuH
登録出来ねーじゃん(詩根
で、おもろいんか?(藁
10名無しさんだよもん:02/02/06 02:48 ID:a6TxXeuH
スマソさげ忘れ
とりあえず10スマン・・・↓
11名無しさんだよもん:02/02/06 14:03 ID:pok54XyF
一応メンテ
12黒衣聖銃:02/02/07 04:23 ID:3zea41tV
「象牙の塔」で為すべき事を済ませ(もちろん「おしるこ」もその一つだ)、なつきは塔の外に出た。
 遠く青空を見やると、どこかしら荒れそうな気配を感じる。
 空模様が、ではない。世界の気配に、穏便ならぬものを感じるのだ。
「ふぅ……わたしが出向く必要がなければいいんですけど……」
 誰にともなく呟いた独り言に、
「全くだな」
 しかし返事が返ってくる。
 なつきはそのままくるりと後ろを振り向く。そしてぺこりと頭を下げた。
「お久しぶりです。ロウロード」
 わかっているのだ。彼が現れるときには、かならずわたしの後ろに立っている。
「その呼び方は格好悪いからやめてくれと、前も言っただろう?」
「でしたら、昔のように呼びましょうか、先生?」
 顔を上げてなつきは、にっこり微笑んだ。

 なつきが「カオスロード」を拝命する際に、世話になった人物。
「カオスロード」の対として、人間の手の届かぬ範囲で世界の均衡を守る「ロウロード」。
 だが、彼の名は誰も……この塔を守る「執事」ですら知らない。
 ただその容貌から、彼は昔から「髭」と呼ばれていた。
13黒衣聖銃:02/02/07 04:23 ID:3zea41tV
【前レスから1行アケで】
「ところで先生は、今日はどのようなご用向きで? やはり執事殿に呼ばれたのですか?」
 なつきの問いに、しかし髭は答えず、逆に問い返す。
「清水、最近の世界の動向をどう読む?」
「そうですね……高い能力を持った者が多すぎる気がしますね……先の大戦の頃とは比べものにならないくらいに。
 しかも地理的にも、王都レフキー近辺に集中している。世界が不安定になっているように感じます」
「ふむ……60点といったところだな。不安定因子だったら『秘宝』を忘れてはならんだろう」
 髭は自分の顎を撫でながら続ける。
「力ある探索者が増えたせいか、『秘宝』の方も活性化しているようだ。まるで自らの使い手を捜すかのように。
 時の狭間に埋もれた『秘宝』まで表舞台に出てくるかも知れぬ。困ったことにな」
 髭の視線を受け止めて、なつきが答える。
「確かに……あまりに『秘宝』が狭い範囲に集中するようですと、世界にいい影響は与えませんね」
「そうなると、我らの出番が来ることになるやも知れぬ……そんな事態は避けたいものだが」
 そう言って髭は、右手で黒衣の胸の辺りを押さえた。手に伝わってくる、聖銃の存在。

  この世界に銃が生まれる以前から存在していたと伝えられる聖銃。
  その一撃は、あらゆる「世界の異端」を根源から滅ぼすと伝えられる。
  しかし、髭が聖銃の主になって以来、一度たりとも振るわれたことはない。
  聖銃は、それ自体が世界に歪みを与えるものだからだ。軽々しく使えるものではない。
14黒衣聖銃:02/02/07 04:23 ID:3zea41tV
【前レスから1行アケで】
「いずれにせよ、わたしたちが動く必要がなくなればいいんですけどね」
「それが、世界が安定している証だからな……だが、無理だろうな」
 かぶりを振って髭が答える。まるで未来が読めているかのように。
「だが、そうなることは祈っておこうか」
「ええ……祈りが通じたらいいですね、先生」
「そうだな……それでは、またな」
「はい、失礼します」
 なつきはぺこりとお辞儀をして、その場を離れてゆく。
 そしてそれを見届け、髭は塔の中へ入っていった。


【髭:傍観者 ロウロード 聖銃使い】
15みおせる ◆Mio.cel. :02/02/07 04:26 ID:3zea41tV
以上、#151「黒衣聖銃」でした。
#119「象牙の塔」の続きになります。


いいのかね、自分。こんな作品書いちまって(w
16一目惚れ:02/02/08 00:47 ID:EksURCVj
ここは魔法学園の廊下だ。
入学の手続きに来て重大な事実を思い知らされた。
「…編入試験があったんだ」
魔法学園に入学しようと思ったものの、試験の存在を忘れてた。
しかも授業料もない。
いや、持ち合わせはあるにはあるのだが路銀をここで使いすぎるわけにもいかない。
「まあ、当然だよね」
雅史君がさも当然のように言った。いや、もちろん当然だけど。
様子から察するに準備万端のようだ。
「どんな問題がでるかしってる?」
幸い試験受けるだけなら只だった。
授業料も編入試験の出来がよければ免除になるということだ。
くだらない悪巧みのはずなのに難度が高すぎるような気がしてきた。
「筆記試験と魔力審査と面接、それにすでに魔法を覚えてる人は実力テストをするんだって」
「うん。それで?」
「筆記試験と面接は人格と好奇心が評価されるんだって。
 魔力審査は魔法の素養の有無を見るもので少しで才能があれば合格。
 実力テストは魔法を使って見せること」
激しく駄目な気がしてきた。
授業料免除してもらえるほどの好奇心も探究心も熱意も自分にあるとは思えない。
「はぁ…」
「人格の調査はもちろん魔法を悪用する輩が出ないためのものだね。
 魔力審査は魔力がない人間が魔法を覚えようとしても…」
雅史君の説明は続くが、僕はこの悪巧みを諦めようと思う。
所詮はつまらない思い付きだったんだ。
「試験は明日、お互い頑張ろうね」
雅史君、僕は実は…
17一目惚れ:02/02/08 00:48 ID:EksURCVj
「きゃっ」
「うわっ」
あいたたた、誰かにぶつかってしまったようだ。思わず尻餅をついてしまった。
「す、すいません」
「こ、こちらこそ」
すぐに謝る。そして体を起こして相手を見ると…
「あ…」
「だ、大丈夫ですか?」
綺麗だ。すごく…。そして優しそうな人だ。
「だ、大丈夫です。心配しないでください」
慌てて言う。胸がバクバク言っている。頬が熱い。
「すいません。よそみしてて。大丈夫ですか」
あ、謝ってる…
な、なにか言わないと。
「い、いえ僕が試験が駄目なんじゃないかなんて、あのその。そ、そっちこそ大丈夫ですか?」
「私は大丈夫ですけど、本当にすいません」
「こ、こっちこそごめんなさい」
とにかく謝らないと…
「はは、彰さんもそこのあなたも落ち着いたらどうです? さっきからお互い謝りっぱなしですよ」
「そ、そうだね」
「そ、そうですね」
雅史君の一言でかなり落ち着いた。でもまだ、胸はドキドキ言っている…
18一目惚れ:02/02/08 00:48 ID:EksURCVj
「とりあえず自己紹介でも。僕は佐藤雅史といいます」
「七瀬彰です」
「澤倉美咲といいます」
美咲さんか…いい名前だ。
「ここの学生ですか?」
「ええ、黒魔術師クラスです。まだまだですけど」
へえ、黒魔術師なんだ。見た感じ、白魔術っぽいのに。でもそのギャップが萌えな気がする。
「僕たちはこの魔法学園に編入しようと思ってるんですよ。試験日は明日ですね」
「頑張ってくださいね」
美咲さんが微笑みながら言った。
可愛い…本当に、そして僕は思わず
「はい!!頑張ります」
なんて大声を出してしまった。なんかすごい注目されてるような気もするがこの際気にしない。
「ご、合格できるといいですね」
そうだ。絶対合格してやる。
合格して美咲さんと楽しいスクールライフ…ひゃっほう。
「彰さん、そろそろ行きませんか。宿に戻って最後の試験勉強をするんで」
名残惜しいが仕方ない。
「じゃあ、本当に頑張って」
「ええ、さようなら」
「また、会えるといいですね」
美咲さんに見送られながら学園の外に向かう。
宿に戻ったら勉強だ。雅史君、当てにしてるからね。
【彰、雅史。宿に試験勉強するためにむかう】
【美咲、黒魔術師クラスの生徒】
19作戦会議:02/02/08 22:42 ID:YzHOxEzQ

「奴らは、どの程度の命令を受けているのだろか?」
 不意に、蝉丸が口を開いた。
「帝国の目的が秘宝だとして……どの程度動く可能性があるだろうか。最悪、目の前で村人を人質にされれば、手も足も出なくなる」
「村人の安全が第一と考えて、いいですよね?」
 少し不安げな声を出したのは、彩だった。
「それなんだけど、そんなに心配しなくてもいいんじゃない?」
「…どうしてですか?」
「だって、ここは共和国内でしょ。いくら帝国でも、たかが秘宝一つで共和国にケンカ売るだけの理由がないじゃない」
 志保の言葉に、蝉丸も考え込むように腕を組んだ。

「確かに……例え村人一人でも、それは共和国の民だ。帝国が表立って殺すような事があれば、
 各国の非難を浴び、共和国に大義名分を与える事になる…」
「いくら帝国でも、真っ向から共和国にケンカをしかけるには、リスクが大きすぎるもんね」
「しかし、直接我々に対する人質としては、充分ではないか? 目の前で殺されそうになれば、見捨てては置けんぞ」
 今度は、志保が沈黙する番だった。
「それに、彼らを殺されて困るのは、共和国とて同じだ。面子を傷付けられれば、急進派が黙ってはいまい。
 だが、レフキーを始めとして、共和国内が平和に保たれているからこそ、今の繁栄があるのだ。
 下手に帝国との関係を悪化させ、商人達の足が鈍ってしまえば、経済に大打撃を受けかねん」
「……なんか、どっちもドン詰まりって感じねー」

 とはいえ、戦争にはならなくとも、両者の関係を悪化させるには、充分過ぎる火種だ。
 いわゆる冷戦ともなれば、互いの国家が疲弊するだけの泥沼になりかねない。
 共和国にしても帝国にしても、それは避けたい所だろう。
20作戦会議:02/02/08 22:42 ID:YzHOxEzQ

 かといって、直接戦争にまで雪崩こむには、互いにリスクが大きすぎる。
 共和国の一部とは言え、戦略的に見ればここは大した場所ではない。
 チェスで言えば、ビショップでポーンを取るようなものだろう。
 それも、次の一手で確実にビショップが奪われるような位置で、である。
 サクリファイス(捨て駒)としては、少々非効率的すぎる。
 戦略的に見れば、もっと不意を討つに適した都市は、レフキーの回りにいくらでもあるだろう。

 共和国にしても、今帝国といざこざを始めるのは、百害以上の何ものでもない。
 共和国の財源は、平和によって培われた経済だ。
 だが、その基盤は案外脆く、戦争……それも長期戦ともなれば、まず経済が持たない。


「どうやら、帝国にはあんまり有能な政治家はいないみたいね〜」
「いえ、ひょっとしたら、辺境伯の独断かもしれません」
 政治の話となれば、浩之や七瀬達にはもはやちんぷんかんぷんである。
 七瀬は木によりかかって小さく寝息を立てているし、健太郎は干し肉を齧っているだけだ。
 だが、不意に浩之が思い出したように顔を上げた。
「辺境伯って言えば、前志保に言い寄って来てた、橋本とかいう奴がいたなー」
「そういえばいたわねー。ふーん、もしあいつなら、このずさんな行動も納得いくわね」
 志保はふんふんと頷く。
「…そうだ、長岡さん、ひとついい考えを思いついたんですが」
「いい考え?」
 ぱっと顔を輝かせる彩に、志保だけでなく、全員が顔を向ける。
「でも、この案は長岡さんの協力が、必要不可欠なんです」
21作戦会議:02/02/08 22:50 ID:YzHOxEzQ
「今、秘宝は舞さんが持ってますよね。ですが、帝国の人達は、それを知らない。
 という事は、私達が秘宝を持っていると、考えているんじゃないですか?」
「そりゃあ、そうだろうけど」
 いまいち話が見えず、志保は首をかしげる。
「それを逆手に取るんです。彼らにダミーの秘宝を渡せば、大人しく引き下がってくれるんじゃないでしょうか」
「ダミーって言ったって、何が……あ、まさか」
「はい」
 彩はにっこり笑って、志保の胸元の『スチュワートの血玉』を指差した。
「これだけ貴重な宝石なら、きっと騙されてくれますよ。何しろ、『誰も見た事の無い秘宝』ですから。
 その正体が伝説の呪われた宝石であれば、向こうも信じずにはいられないでしょう」
「えー!これあたしが貰った奴なのにー……」
「いいじゃない志保、私もいい案だと思うわ。あなただって、手放したがっていたじゃない」
「手放したかったんじゃなくて、呪いを解いて欲しかったのよぉ……ううう、最近損してばっかり……
 呪われるし、血も吸われるし、モアも、旅費も、宝石も、飛翔の剣だって……」
「まぁまぁ……」
 いじける志保を宥めながら、ルミラは密かに笑いを噛み殺していた。
 志保についているネコミミと尻尾が、面白いくらいにその心情を語っている。
 耳はへなりと倒れ、尻尾も力無く揺れていた。見ると、他の面々もクスクスと笑っている。

「セリオ、そういう訳だから、ひとつ偵察をして来てくれ。
 敵の戦力と陣形……それに、士官の質と能力を大体で。
 その間、ルミラは大至急、宝石の呪いを解除して欲しい。
 村に入るメンバーは、志保、七瀬、ルミラ、セリオの4人が適当だろうな。
 俺は面が割れている可能性があるし、残りはお荷物だ。
 何かあったら、ここからサポートする。奴らも秘宝が手に入れば、共和国になんか用は無いだろう。何か質問は?」
 蝉丸はぐるりと全員を見まわし、大仰に頷く。
「それでは、作戦開始だ! 健闘を祈る」
22取引:02/02/08 22:51 ID:YzHOxEzQ

 モアで、村を下る事しばし。
 佐祐理は、自分達の考えが甘かった事を思い知らされた。
「佐祐理、見張りがいる」
 村に繋がるいくつもの橋は、すべて落とされていた。
 河は決して浅くないし、モアはそもそも水の中に入りたがらない。
 仕方なく、森を抜けて街道を通ろうとした矢先だった。

「間違い無く、帝国の兵士達ですね……」
 手に槍を持ち、所在なげに佇んではいるものの、その兵士特有の訓練された動きは、間違うはずも無かった。
 森の茂みから彼らを伺いながら、佐祐理はじっと思案する。
 今、秘宝は舞の胸の間で揺れていた。万一見つかれば、没収される事は間違い無い。
 かといって、強行突破など不可能である。
 森の中を抜けて行くという手もあったが、帝国がそれを見逃すとは思えなかった。
「どうすればいいんでしょう……」
「佐祐理……」

 その時、いきなり後ろから肩を叩かれ、佐祐理は跳び上がるほど驚いた。
 思わず舞も、ぺたん、とその場にへたり込む。
「あっ…ご、ごめんなさい。そんなに驚かせるつもりはなかったのですが」
 小さな声で謝りながら、魔導士風のその女性は頭を下げる。
「……どうやら、あなた達も訳ありのようですが、ここは一つ、協力しませんか?」
 そう言いながら、彼女は佐祐理に手を差し出し、にっこりと笑った。
「おい、茜……ここはまずい、場所を変えよう」
 後ろから来た戦士風の男が、彼女に声をかける。茜と呼ばれた女性は、頷くと舞と佐祐理を促した。
「彼らに掴まっている仲間を救い出したいのですが、人手が足りなくて困っていたのです……
 ……協力してくだされば、あなた達にも助力致しますよ」
23長瀬なんだよもん:02/02/08 22:56 ID:YzHOxEzQ

【志保の持つ呪われた宝石を、秘宝代わりにして、帝国を誘導する作戦】
【セリオ 偵察に】

【佐祐理、舞、茜達と遭遇】

今年の風邪は怖いですねー。
頭痛のあまり眠れない夜というものを、初めて体験しました。

それでは、誤字脱字抜けを見つけましたら、指摘よろ。
24自警団本部:02/02/09 01:32 ID:BUD3I8rT

「ふー、やれやれ。やっと着いたわね」
柚木詩子は、そう言うと、正面の建物を見上げた。
そんな詩子に、悪態つく晴子。
「ふん、これが自警団の本部かい。えらいショボいなぁ」
「見てくれはね。でも地下の牢屋は広いわよ。朝は冷えるしね」
「………」
「あう〜」
さらりと言う詩子の言葉に、思いっきりへこむ晴子と真琴。
にはは…と曖昧な笑みを浮かべる観鈴。と、ふと見ると。
「……?」
痩身の少年…長瀬祐介が、来た方を真剣な目で見ている。
何だろう、と倣って自分も見てみたが、そこには取り立てて目をひくものはなかった。
そんな二人の様子に、詩子は気付く。
「祐介君、どうしたの?」
「…いや…なんでもないよ。気のせいだと思う」
視線を返し、入り口の方を見る祐介。
彼が何を感じて、何を気にしていたのか、それはわからなかったが。
「ま、緊張する気持ちもわからないでもないけどね。それじゃ、中に入りましょうか」
25自警団本部(2):02/02/09 01:32 ID:BUD3I8rT

自警団の本部は使い古された建物で、お世辞にも綺麗だとは言い難い。
だが、よく掃除されていて、白を基調とした屋内は清潔な雰囲気がある。
本部に入ると、まず正面に広いカウンターがあり、数人の男女が何か作業をしている。
彼らは、入ってきた詩子の姿を見ると、はきはきした声で言った。
「お疲れ様です」
「ただいま」
詩子はヒラヒラ手を振りながら、カウンターの隣にある扉に向かう。
扉に手をかけたところで、詩子は祐介を見た。
「…そうだ。これからこの三人を牢屋に放り込みに行くんだけど。
祐介君は連れて行けないんだよね。一応、決まりなのよ」
「…そうなんだ。じゃ、僕は…」
「少し待ってて。そうね…」
詩子はカウンターに身を乗り出すと、女性の職員と何か話し、そしてすぐ、祐介の方に振り向いた。
「それじゃ、祐介君は二階の会議室にいて。いろいろ手続きがあるから、少し時間がかかるけど」
「別に、構わないけど」
「ごめんね。二階にはこの子が案内してくれるから。じゃ!」
そう言うと、詩子は扉を開けて奥に入っていく。
それに続く晴子、観鈴、真琴。
「どなどなど〜な〜ど〜な〜」
誰が陰気な声で何か歌っていたが、とりあえず祐介は気にしないことにした。
26自警団本部(3):02/02/09 01:33 ID:BUD3I8rT

会議室は広くもなく、狭くもないといったところで、部屋の中央に円卓、それを囲んで10脚ほど椅子が並んでいる。
祐介はテーブルにもっていた木箱を置くと、椅子の上に座った。
疲れた…そう言えば、朝から歩きっぱなしだった。
詩子はまだまだ余裕だったようだが、祐介は元々好んで出歩く性質ではない。
何で、こんな事になったんだろう…ぼんやりと、そんな事を考えていた。
数日前までは、静かな田舎で暮らしていて。叔父の研究を手伝いながら、静かに生きていた。
それが、今は貿易都市フィルムーンの、自警団本部の会議室にいる。

きっと、何かが起こっているのだろう。
そう…つい先日、レフキーに戻る事を叔父に告げられた、あの時から。

レフキーか…祐介は、思う。
僕はやはり、あの街のことを嫌っている、と。
嫌な事しかなかった所。逃げ出した故郷。色のない街。それが、祐介にとってのレフキー。
…シュン…僕は、まだ迷っているよ…

そんな取り止めのない事を考えてどれだけの時を過ごしたか。
かちゃり…背後の扉が、開く音に、祐介ははっと我に帰った。

【祐介 自警団本部到着、会議室で待機中】
27名無しさんだよもん:02/02/09 01:35 ID:BUD3I8rT
というわけで、『自警団本部』をお送りします。
誰が入ってきたかはお任せ。
祐介がどれくらい考えていたかもお任せです。
28策略の村(1):02/02/09 07:52 ID:+GSGuZai

「……さて。これから我はなにをすれば良いのかな……?」

 澪が、歪に口許を歪めて発した問い。
 実のところ、岡田はそれに対する明確な答えを持ってはいなかった。
 ただ捕虜の有効な利用法を考えていたとき、黒い鳥――ガディムの御使いと目があった、それでぱっと思い浮かんだアイディアを実行に移しただけなのだ。

 ではこの少女を手駒として、それからどんな布石を打つか。
 その種の頭脳労働は……そう、彼女の仕事だ。

「吉井。どんな策が、一番効率が良いと思う?」
「……そうだね」

 腕を組み、納屋の壁に背中を預けた岡田からのその問いを、吉井もまた予期している。
 色々と気にかかることは多かったが、それはそれ。個人的な感情は、後回しにしなければならない。
 すでに幾つかの策は頭に浮かび、その内の多くに否定的な答えを出した。

 一番手っ取り早いのは、少女をコントロールされた人質として扱い、交渉の道具とすることなのだが……この少女が共和国と繋がっているのかがどうにもわからない。

「御使いよ、この少女は共和国特務部隊と関係があるようですか?」

 少女、澪の身体と精神を支配するラルヴァに尋ねても、

「わからぬな。この娘が慕っている連れの女が何やら高い地位についているようなのだが。詳しいことは知らぬらしい。ただ、貴様たちが帝国の兵であるということは、すでに漏れているようだな」
「なるほど……うーん、そうですか」
(一行空け願います)
29策略の村(2):02/02/09 07:53 ID:+GSGuZai
 答えはあまりに曖昧だった。
 さらに、自分達の素性が一部に漏れていると言うおまけまでついていた。
 そのくせ相手の素性がよくわからないのでは、到底人質には使えない。
 使えない上に、たとえ彼女が共和国の軍属でも、或いはただの冒険者でも、相手もこちらと同じ軍人だ。
 任務を優先し、少女(ラルヴァに拠れば、上月澪と言う名前らしかった)を見捨てるという可能性は極めて高い。

 それなら一度彼女を特務部隊に回収させ、罠のほうへと誘導して一網打尽にする機会を作り出す方が良い。
 圧倒的兵力で包囲して恫喝してやれば、特務部隊と言えども無理はしないだろう。
 今回の作戦は『共和国に恥を掻かせる』が主眼だから必ずしも戦う必要はないのだけれど、彼らが無理を挑むようならこれを撃滅するまでのこと。
 彼らがこちらの素性に気付いていても同じく、だ。

 村を出た後、特務部隊より先に里村という女に回収される可能性もあるが、その時はその時だ。
 どうせ、こちらの素性を知っている存在を野放しにはしておけない。
 そして、特務部隊は徒歩である上に、すでに近場の橋という橋は全て落とされている。共和国兵に退路はないのだ。
 少々力技になるが、里村一味を捕縛したあとに騎馬で共和国を追い、これを捕捉殲滅すれば良い。

 しばらくの黙考の末、吉井はそう結論付けた。
 そして、その結論をさらに何度か推敲して、ようやく岡田とラルヴァに開陳する。

「……そうね。それじゃこの策で行くか」

 吉井に策を任せた岡田の側に、無論のこと否はない。
 ぽんっとサーベルの柄を叩き、にやりと笑みを浮かべ、持たれていた壁から身を起こす。
 澪=ラルヴァもまた同じ。
 策が決まったなら、次は実行に移すのみ。
(一行空け願います)
30策略の村(3):02/02/09 07:53 ID:+GSGuZai
 ―――なのだが。

 いくらなんでも、と岡田は険しい視線を森の向こうへと向ける。
 そこに、鬱蒼と多い茂った森から空へと聳え立つ、秘宝塔の威容があった。 

「それにしても、塔に張り付けておいた歩哨から連絡がないわね。共和国の連中、中で全滅でもしたかな?」

 もちろん、岡田たちは歩哨が居眠りぶっこいて、塔から出て来る特務部隊を物のみごとに見過ごしたなどとは知る由もない。
 ましてや、彼女らがこちらをたばかろうと逆に策を練っていることなど想像の範疇の外だったのである―――


【岡田・吉井・澪=ラルヴァ 陰謀渦巻く村の中】

前スレ474-479、そして本スレ>>19-23からのリレーです。
誤字脱字、矛盾点などがあれば指摘よろしくお願いします。

31――もう始まっている:02/02/11 00:10 ID:7HMQ0eu5

「……もう、戻れないってのか、俺は」

 失意の中で、暗い、闇の向こうを見据える、少年。彼の側には二人の男女がそれぞれ「ふははははっ! これが世界征服への第一歩かっ!」とか、「ふぁいと、だよっ♪」などと励まし(?)の声をかけていた。

「はぁ。こうなったらせめてあの銀色鼠の首を取って帰えんないとなぁ。秋子さんに会わせる顔がないぜ」

 軽く手を上げ肩をすくめる。そんな少年に青色の髪の少女が、そっと耳元に近寄り――その時少女の揺れた髪が少年の頬を撫でた――囁く。
「大丈夫だよ。ちゃんと、活躍出来たらお母さんに上手く言っとくから、安心して?」
 今ではすっかり聞き慣れた少女、水瀬名雪の声が少年の耳元から聞こえる。

「同志達よ! 心の準備はいいかっ!? 出来たのなら我輩に続け!!」
 そして、ついさっき、少年と出会った魔術師風の男、九品仏大志の声が反響音と重なり響く。

「ったく、しょうがねぇなぁ……」
 少年は呟きながら銃の感触を確かめ、空を見上げる。日はまだ照っている。


――場所は、レフキー。その都市にある、一つの下水口。そこから彼、北川潤の初の冒険が始まった。





「暗いね……」
「ナニも見えんな」
「……当然だろ」
32――もう始まっている:02/02/11 00:12 ID:7HMQ0eu5

 下水口から下水道内に進入した一行。しかし、数歩進んだ所で先が完全な暗闇と化していた。
 ジメジメした空間に静かに水の流れる音だけが耳に届く。――いや勿論。臭いもそれ相応だが。
「ふん。仕方あるまい。我輩の魔術、剋目せよっ!!  サン・ライト!!」
 なにやら、派手な動きのアトに――暗闇でよく見えなかったが――大志が呪文を叫ぶ。すると大志の周りにポワーっとした感じの光球が現われ、下水道を照らした。

 おお、と歓声が漏れた。照らされた下水道は、かなり広かった。
 左端と右端の間に水が流れており、どうやら真ん中が溝になっている様だ。その溝の深さかは判らなかったが幅はニメートル強、左右の端の幅は、二人がやっと肩を並べられる程度。天井は大志が手を伸ばせば届くぐらいで、曲線を描いていた。

「これが魔法ってやつかぁ……。こりゃ、便利だな」
 北川が感心した様子で辺りをキョロキョロしながらで呟く。
「……ふっ。便利とは、な。……さて、そろそろ行こうか諸君。まだ始まったばかりではないか」
 踵を返し大志が先頭に立ち、先に進む。そのアトに名雪が続いた。
 それに続く様に北川が歩を進め様とした瞬間に、あるモノが目に入った。
「あれは……倒れこんできた男と同じ……?」
 入り口から見て右端の方から北川達は下水口に進入していたが、その反対側、つまり左端の方に落ちていた布の切れ端が北川の目に留まった。
(あの切れ端、よく覚えては無いけど、倒れて入って来た男のモノと似てる……。という事は……?)
 北川の思考を中断したのは暗闇だった。前を見てみると大志達はかなり奥へと進んでいた。北川は小走りになって追いかけた。


「分かれ道だね、それに木の板があるよ」
 北川が丁度追いついた頃、道がT路地の様になっていた。それに沿って汚水も流れていたが、その溝に分厚い木の板がかけられていて向こう側に渡れる様になっていた。
「これが意味するところは、私たち以外にも人がいるってこと。だよね?」
33――もう始まっている:02/02/11 00:14 ID:7HMQ0eu5

「まぁ、賞金まで掛かっている鼠だ。我々同志以外にも目的を同じとする輩がいても不自然ではなかろう」
 名雪の問いに簡潔に答える大志。北川も異存は無かった。が、ある一つの仮説も同時に浮上していた。
(ってことは……あの倒れてきた男ってのは、もしかして返り討ちにあって、それで……)
 体内に鼠をいれたまま青の錫杖まで歩いてきた、って事になる。――そんな事が有りえるのだろうか?
 北川が悩んでいる間、左に進むか右に進むかで揉めていた二人だが、結局左に進む事になった。
 左に進むとすぐに曲がり角があり、そこを注意深く、三人は覗いた。


「壁だね……」
「我輩の行く手を阻むとはいい度胸だな」
「なかなか進まないな」


 角を曲がると数歩の所で行き止まりになっていた。溝には鉄格子がしてあり、その奥からも汚水が流れている事が判る。
 三人はそれから無言で来た道を引き返し、そのまま真っ直ぐ進む。分かれ道を通り越し――右を向くと下水口から光が漏れていた――道を更に進んだ所で北川が口を開いた。
「そういえばあんたの眼鏡って……”あの”眼鏡なのか?」
 今度は名雪、大志、北川の順で進んでいた三人。北川は詳しくは知らないが、眼鏡が貴重品である事を知っていた様だ。
「むっ。同志北川よ。流石、と言っておこうか。これはだな……」

「――誰かいるよっ!!」

 と、大志が言い掛けたところで名雪の声が響いた。その声に弾かれるように大志が身構える。
34――もう始まっている:02/02/11 00:15 ID:7HMQ0eu5

 大志の光球によって照らされた人影は、女であった。

「あぁっ! 良かったぁ……どうやら助かったみたい……」
 女は名雪達に気付くと緊張を解き、安心した声を出した。まだまだ若い女性が壁伝いにこちらに歩いてきていた様だ。
「出来れば事情を話してもらえないかな?」
 一見して短剣と胸当てしか装備してないその女性に対し、大志がややキツメに問う。女性は気にした様子もなく事の次第を話した。

 女性が言うには――三人パーティーでこの下水道に進入したらしい。目的は銀色の鼠。しかし、鼠が急にたくさん襲い掛かってきて、その混乱の中(その時、松明も水の中に落としたらしい)、バラバラに逃げた、そうだ。
 一人は出口へ、もう一人は奥へとそれぞれ逃げて、その後どうなったか判らない、と言った。

 顔を見合わせる名雪と北川。それからその女性は自らを――名倉友里――と名乗った。名雪達もそれに合わせて自己紹介する。
「お願いがあるんですけど、貴方達も鼠退治に来たんでしょ? 奥へと逃げた仲間が心配なんです。どうか一緒に、私も連れて行ってくださいませんか?」
 「いいよ、たくさん人が居た方が楽だもんね〜」
 と、名雪はあっさり了承した。その時大志が――おそらく、一番近くに居た北川にしか聞こえない声量で――「綺麗過ぎるな……」と呟いた。北川は、まるで信じられないモノを見たかの様に大志の顔を見詰めた。その顔は真剣だった。
 そして、北川も友里を観察する。――整った髪。意思の強そうな瞳。小奇麗な服装。小振りな短剣。顔には汚れ一つ無かった。光に照らされたその容姿は確かに、綺麗だった。
35――もう始まっている:02/02/11 00:16 ID:7HMQ0eu5

 名倉友里を最後尾にして――すれ違う時に北川の腰に下げられた銃を見て友里は驚いていた。背中の銃はマントで見えなかった様だが、あえて北川は二丁持っている事を教えなかった――彼等は進む。今度は名雪、北川、大志、友里の順だ。
「なんか…忘れてる気がするんだよなぁ……」
 と、首を傾げる北川。その声に、名雪が反応した。「どうしたの〜?」と歩きながらステップを踏み、ファイティングポーズをとっている。

「ん〜? そういえばさぁ……名雪さんは素手で戦うのかい?」
 何気に聞いた質問だった。名雪は軽くジャブ――舞い落ちる木の葉を10枚くらい楽勝で取れそうな風切り音――を放ちながら答える。
「えへへ。流石にそんな事はしないよ。お母さんにね、特別に創って――」
 と言い掛けて、名雪が前方に注意を配る。北川もそれにデジャヴを感じながら身構えた。
 こちらがわの反対側から一人の――戦士風のがっちりした体格の――男がよろよろと近寄ってくる。大志と友里もそれに気付いた。
「あ! あの人です!」
 指を差しながら友里が主張する。その声によってこちらに初めて気付いたかの様に男が目線をこちらに向けた。

――瞬間。それは、起きた。

 彼の顔、腹、胸といわず、すべての所が内側から破裂する。黒い本流が、皮膚を尽き破り、飛び出した。正体は判ってる、何百――おそらく青の錫杖に現われたのと同じ数――もの鼠だ。

「きゃぁぁぁああああああああああああああっっっ!!!!」

 友里の悲鳴が木霊する。――超音波の様に響くその声に北川は意識が飛びそうになった。
(何度見ても慣れねぇよな――ッ!)
 北川と名雪にとって本日二度目の光景。更に今回は耳も塞いでいる。

 鼠はそのまま汚水を挟んだ向こう側から、溝を通り、ずぶ濡れで飛び掛って来る。銀色の首輪を付けた鼠はまだ、確認出来ない。
36名無しさんだよもん:02/02/11 00:29 ID:7HMQ0eu5
【北川潤・久品仏大志・水瀬名雪/鼠と遭遇】
【名倉友里/見た感じでは短剣所持/鼠と遭遇】

なんつうかこいつら勝てるんですかね?w
ってゆーか、この三人は書きづらいです(ぉ

話としては前スレ、「青の錫杖」からの続きです。

それはさておき、下水道の内部構造ですがかなり自信無いです。
こんな広い下水道あるんすかね?
んでも、ある程度広くないとお話になりせんし……
アトこの時代にこんな下水道が相応しいかどうかも自信無いです。
最悪NGも了承です(なら書くなよ
それとは別に、変なところがあったら、指摘お願いします。
37郁未と葉子(1):02/02/11 01:49 ID:PcxaALyI

さて、どうしたものかなぁ…
天沢郁未は、ぼんやりと考えていた。
目の前の鹿沼葉子は、あの手紙を読んでいる。恐ろしく、無表情で。
理由は…考えるまでもない。郁未はほんの少し、溜息を漏らした。
葉子は、あの少年の事を嫌っているのだ。
何故かは、知らない。でも、彼の事を口にする度、決まってこんな表情になる。そして、微妙に機嫌が悪くなる。

「で、さ。葉子さん…この手紙の内容だけど…」
「はい」
うッ…郁未は少しひるんだ。やっぱり、どこか機嫌が悪い。
郁未は気を取り直すと、大きく息を吸い込んだ。

「あの馬鹿が何のつもりでこんなふざけた手紙をよこしたかは知らないけど
 て言うかおおよその予想は付くって言うか単なる暇つぶしなんだろうけど
 内容的には一応確認しとかないとまずいかなって思ったりするのよね
 まあそれが狙いって言うかそういう罠なんでしょうけど
 だからって無視して放っておくのもそれはそれで勿体無い気がするし
 餌貰って喜んでいるようで嫌だなって気持ちがないわけじゃないけど
 ここは一つプライドより実益をとってあいつの言いなりになってみるのが
 最善じゃないかなぁなんて思ったりなんかしたりする次第なんだけど」

一気に言い切ってから、ちらり、と上目遣いで見る。
葉子は相変わらず底冷えのする目で手紙に視線を落としていたが…
「そうですね。郁未さんの言う通りです」
顔を上げ、微笑を浮かべたので、郁未は内心ほっと胸を撫で下ろした。
38郁未と葉子(2):02/02/11 01:50 ID:PcxaALyI

「それで、今後どうするかってことだけど…まずは、その手紙にある長瀬祐介と接触してみるのはどうかな」
「長瀬、ですか…」
葉子の表情が微かに曇る。郁未は首を傾げた。
「何か気になる事でも?」
「調べてみる必要がありますが…彼は長瀬一族かもしれません」
「長瀬一族?何それ。貴族とか、王族なの?」
郁未の言葉に、葉子は首を振る。
「いえ。平民ですよ。帝国、共和国共に、要職についている人物は、今は一人もいません」
「今は…てことは、昔はいたの?」
「ええ。でも、長瀬一族が有名なのは、別に身分が高いからとか、権力を持っているからではありません」
「じゃあ、一体?」
「端的に言うと…そうですね。
 神と魔王と天才と変態を混ぜて捏ねると長瀬になるそうです」
葉子の言葉に、郁未の頭の中に一人の面影が浮かぶ。
つまりは、そういう存在なのだろう。郁未は嘆息してみせた。
「…何となく、言いたいことはわかった」
「とにかく、彼に接触することは賛成ですが、彼はどんな人間なのか、彼にどのような力があるか。
 慎重に事を運び必要がありますね」
「うん。でも、晴香も姫川さんも行方が知れないし」
「巳間さんはホワール地方にいるようですから、フィルムーンから少し遠いですね。
 姫川さんはレフキー近郊にいるようですが、位置的に秘法塔のそばです」
「それじゃ、姫川さんに川澄舞と接触してもらうとして…誰に行ってもらおう。晴香は論外だし」
「宗団のエージェントを派遣しましょうか?」
「うーん…それしかないかなぁ…」
難しい表情の郁未。あまり、乗り気ではない事が、はっきりと見て取れる。
39郁未と葉子(3):02/02/11 01:51 ID:PcxaALyI

「何か、気になることでも?」
「これよ」
郁未は、少年の手紙の、一節を指差した。

だけど祐介君はちょっと危ない奴だから気をつけたほうがいいよ。彼が本気を出したら人間なんてあっさり壊しちゃうからね

「人間を壊す…どういう意味かしら」
「………」
葉子は、黙っていた。彼女は、人間を『壊す』ことが簡単である事を、知っていたからだ。
つまりは、長瀬祐介もそういう人種なのだろう、そう解釈した。
しかし、郁未は別の事を気にしていた。
「何で、『壊す』なんだろう…『殺す』とか『やられる』とか『死ぬ』とか、そんなんじゃなくて、
 どうして、『壊す』なのかしら」
真剣な表情で、もう一度、その一文を読む。そして、
「何か意味があるわ。あいつのやる事なすこと一々そうだった。
 これまでずっと音沙汰なしだったくせに、こんな白々しい手紙を出してきた事だって、そう。
 何か隠されている。間違いなく」
「それは…」
ぽつり、と呟く葉子。だが、すぐに何時もの口調に戻る。
「…いえ。郁未さんがそう言うなら、そうなのでしょう。
 しかし、テンプルナイトは全員出払っていますし、困りましたね」
よくわからなかったが、葉子さんがいいと言うのなら、詮索する事はないだろう。
郁未はそう考えて、気にしないことにした。
40郁未と葉子(4):02/02/11 01:51 ID:PcxaALyI
「うーん…誰か、いないかなぁ…」
「外の人間と交渉が出来て、そこそこ戦闘力があって、あとは自分で考えて行動できる人でいいのですが」
そんな人がいたら、テンプルナイトに昇格させるよ…と内心郁未は思ったが。
不意に、別の事を思いついたので、それは言わなかった。
「そっか、いるいる。そんなのが」
「本当ですか?」
「うんうん。毎日暇して過ごしてるのが約一名いた」
「どなたですか?」
郁未は指先を…自分の顔に向けた。
「………」
「どう?適任だと思うけど」
「…………」
「まあ、交渉の方はともかく、あとの二点はクリアしてるし」
「……………郁未さん」
「何?葉子さんもそう思うでしょ?」

――――数時間後。

廊下を歩く葉子に、宗団の近衛兵が敬礼する。
葉子は軽く敬礼を返すと、近衛兵の耳元に口を寄せた。
「宗主のご様子は?」
「は…今は、お休みになられているようです」
「そう…結構。宗主から目を放さぬように。不貞の輩がどこから狙っているかわかりませんから」
「はい!命に代えましても」
「頼みますね」
葉子は、くすりと微笑を浮かべた。
41名無しさんだよもん:02/02/11 01:54 ID:PcxaALyI
というわけで『郁未と葉子』をお送りします。
>5-6の続きになります。
なんか非常に中途半端なところで終わっていますが…
まあ、次の方にお任せということで。
42騙し討ち:02/02/12 01:05 ID:yPE75Fsi

無数の火花が、空気をきな臭い匂いに変える。
いわゆるオゾンの臭いだが、問題は術にあった。

「うぐぐぐ、ちょっとルミラ、早くしてよね!!」
「っ……この呪い、結構しつこい……!」

目の前で鳴り響く閃光に、流石に悲鳴こそ上げないものの、志保は引きつった顔で硬直している。
「この……せいっ!!」
とうとう、ルミラは魔力に任せ、強引に呪いを引っぺがした。
「んぎゃっ!?」
ばんっ、と一際巨大な火花が走り、志保は思い切り引っくり返った。
「あだだだ……うう、お尻と頭打っちゃったわよ……」
「もっと時間さえあれば、安全確実な術も使えたんだけどねー…で、どう?」
ルミラに訊ねられ、志保はごそごそと胸元を探り、次いでそおっと頭の上を触ってみる。
「……っやったー!! 大成功じゃないの!!」
「……ふぅ、一応ね」
取り合えず、術の成功に安堵しながら、ルミラは苦笑した。

「彩、もういいわよ……術を解いて頂戴」
「あ、はい」
彩が力を抜くと、ふうっと周囲の空気が新鮮なものに変わった。
さすがに、ルミラの呪文や音が聞こえるとまずいので、彩に頼んで、大気の壁を作ってもらっていたのだ。
未熟な彩の作るものである。大して強度のある壁ではないが、音を遮るのには役に立っていた。
43騙し討ち:02/02/12 01:07 ID:yPE75Fsi

「結構時間が掛かったな……そろそろ、セリオが戻ってくる頃だ」
結界が解かれたのがわかり、蝉丸も腕を組みながら、志保に近寄ってくる。
そうして、志保の足元に落ちている、血のように紅い宝石に目をやった。
「しかし、これがあの『血玉』か……」
「触らないで!」
蝉丸が触れようとした瞬間、ルミラの鋭い制止の声が飛んだ。
「強引に志保から分離しただけだから、まだ呪いは生きてるわ…あなたにスチュワートの血が混じってないとも限らない。
これを持つのは、志保と私だけにして欲しいの。志保は一応、この呪いには耐性が出来ているはずだし」
赤い宝石を拾い上げ、袋にしまいながら、ルミラが注意を促した。
蝉丸も、そうか、と重々しく頷く。
そこに、浩之が、セリオが帰ってきた事を伝えに来た。
「わかった。セリオ、ご苦労だが、村の様子と戦力を話してくれ。みんなも集まってくれ」

再び車座になりながら、セリオは地面に村の様子を書き出す。
「村の入り口と周辺は、全て偽装した帝国兵によって固められています。
一応、村人に変装している帝国兵が幾名か、村の内部を見回っているようです」
「変装……ねぇ。すると奴らは、騙し討ちで来るつもりか……成程」
あごを捻り、蝉丸はうんうんと頷く。
「陣形そのものは基本的なもので、入りやすく出にくい構造です。
村長の屋敷が、兵士達の詰め所のような役割を果たしているのは、間違いありません。
……それともうひとつ…村娘風の女性が一人と、帝国の鎧をつけた女性が一人、彼らに指令を下していました」
「女騎士って所か。得物は?」
「騎士風の女性は、レイピア。それに、腰に銃を下げています。村娘風の女性は、目立った武装はしていません」
蝉丸の言葉に、セリオは的確に返答する。
「ちなみに、偽装している兵士たちは剣を、隠れている兵士たちは、槍を装備している模様です」
44騙し討ち:02/02/12 01:09 ID:yPE75Fsi

「銃か……多分、暴発覚悟の粗悪な銃でしょうけど……」
「はい。近距離の切り札として帝国の一部階級に支給される、単発式の銃です」
よし、と蝉丸は膝を打った。一同は顔を上げて、彼を見る。

「作戦は、ある程度融通が利いた方が、動きやすいだろう……本筋さえ決めておけばな。
取り合えずお前たちは、塔から出てきたフリをして、奴らに遭遇する。
陣形と偽装から考えると、奴らの作戦は、何食わぬ顔で冒険者を待ち受け、完全に囲い込んでから捕らえる形のようだ。
堅実で順当な策だが、それゆえにハプニングに弱いはずだ。

お前たちはそのまま騙されたフリをして、奴らに接触する。
奴らが仕掛けてくるのに合わせて、俺たち第二班が外で陽動を開始、奴らの気を引く。
その隙を突いて、第三班が開けておいた穴から、第一班は脱出してくれ。
ここで重要な事は、その『血玉』を奴らに取られるようにして、渡す事だ。
最低、帝国の面子を守ってやらなければ、奴らは何をしでかすかわかったもんじゃないからな。

志保、この面子の中では、お前が一番演技が上手そうだから……なるべく自然に渡るようにしてくれ。
配置はわかるな?
第一班、志保、七瀬、ルミラは塔に。
第二班の、俺と彩、健太郎は東から。
第三班は、セリオと浩之でやってくれ。
火は、ちょうど出口を遮る形で展開する。わかったら、即座に動くぞ!」

蝉丸の号令一番、彼らはいっせいに動き出した。
45名無しさんだよもん:02/02/12 01:13 ID:yPE75Fsi
えっと、ややこしい事書いてすいません。

まとめると、
【作戦:帝国に宝石をわざと奪い取らせてやる】

【志保、七瀬、ルミラ……宝石組】
【蝉丸、彩、健太郎………陽動組】
【セリオ、浩之………脱出経路組】

ですね。
46名無しさんだよもん:02/02/12 15:00 ID:CjAciLIM
一応メンテ
47名無しさんだよもん:02/02/14 00:17 ID:9ghaE4dS
むしろage
48名無しさんだよもん:02/02/14 12:41 ID:uHiLHRFT
めんて
49:02/02/14 23:27 ID:3ZLrBh5d

取り調べとは古今東西、退屈なものに決まっている。

「なんやと、もういっぺん言ってみぃ!?」

……ハズなのだが、今回に限って言えば、少なくとも退屈だけは味合わずに済みそうだった。
その代わり、掴まっても威勢のいい大声の女と、正面切って尋問しなければならなくなったが。
「……だから、あなた達の目的は? 得物は何? 規模は? 仲間はどこ?」
「いくら掴まったかて、そんな事言うわけあらへんやろ。常識で考え!」
しれっとそう言う彼女(名前もまだ言ってない)に、詩子の額に青筋が浮かぶ。
「そう、でも言わせる方法はいくらでもあるのよ」
「ほー、拷問かいな。うちのこの柔肌に傷一つでもつけてみい、倍にして返したるわ」
「もっと別の事よ」
どこか面白そうな彼女の口調に、詩子は苦虫を噛み潰したような顔になった。
それは、いわゆる眠らせない、という形の尋問方法であったが、時間は掛かるし、何より詩子が嫌いな方法であった。
「しょうがないわね……次の子に聞いてみるとしましょう」
とたん、飄々としていた彼女の様子が、一変する。
「あんたらっ、うちの可愛い観鈴に傷一つでもつけたら、百倍にした上にどろり濃厚1g飲ませたるからな!!」
「……そんな事しないって……」
ほとほと困り果てた顔で、詩子は溜め息をついた。
この妙にハイテンションで押し付けがましいノリは、今まで詩子が体験した事のないたぐいのものだ。
おかげで、いつになく消耗している。
「連れてきました」
「……そう、ありがとう。ついでに、尋問も代わってくれると嬉しいんだけど」
50:02/02/14 23:29 ID:3ZLrBh5d
取り合えず、尋問係の仕事を引き継いでから、詩子は尋問室から出て行った。
「……あう〜」
「なんや、連れてこられたんて、真琴やないか」
眉を寄せ、いかにも困った顔で、真琴は腕を引っ張られていた。その手には、きちんと手錠が嵌められている。
「よし、座れ……そうだ、一応さっき確かめたが、改めて武器を持っていないか確かめる」
新米らしい彼は、少し緊張した様子で、真琴に詰め寄った。
「なんやあんた、イヤラシイなー。女の子縛って、無抵抗で身体触りよるんか!?」
「ち、違うっ、これはあくまで警備上の……」
「いいから、早くしろよ」
相棒らしき彼が、呆れたように急かす。それでようやく、その男も気を取り直すと、真琴が武器を持っていないか調べ始めた。
とはいえ、晴子に言われた事が気になっているのか、おっかなびっくりである。

「……一応、武器は無いみたいだが」
「そうだな。それに、こんな小娘に危害を加えられるとも思えないしな」
肩をすくめ、男は晴子の代わりに真琴を椅子に座らせようとして……目ざとく、それに気付いた。
「おい、武器じゃないが、その鈴……腕につけているその鈴、マジックアイテムじゃないか?」
言われたとたん、真琴と……そして、晴子がぎょっとした顔をその男に向けた。
「あ、あかん、その鈴は取ったらあかんのや!」
「……ほう。おい、いいから調べてみろ」
「は、はいっ」
とっさに、真琴は手を振り回し、男から逃れようとするが、男の方が動きが速かった。
「あああっ……真琴の鈴が!」
ちりん、と……鈴が微かな音を立て、真琴の腕から外される。
だが次の瞬間、真琴が頭を押さえて苦しみ始めたのを見て、男達の表情が変わった。
「……あーあ、しらへんで……その『封印』はなぁ、祐一以外には付け直しできへんねんで……」
苦しみだした真琴の身体が、淡く光り始めたのを見て、晴子は低い声で笑った。
51:02/02/14 23:32 ID:3ZLrBh5d

【晴子、真琴、尋問室】
【真琴の鈴(封印)が外される】

凄いひさしぶりですなー。
52名無しさんだよもん:02/02/16 14:04 ID:za5lb6ej
メンテ〜
53名無しさんだよもん:02/02/16 22:37 ID:cPDqHy3Y
                           
54名無しさんだよもん:02/02/17 13:42 ID:VMfM0Eu7
 
55名無しさんだよもん:02/02/17 14:41 ID:vxxenY3y
誰も書かない企画になってしまったんなら、無理に延命することは無いわけで。
56次回予告(笑):02/02/17 23:29 ID:hH5gXaKR
「秋子です。最近鼠が増えまして、レフキーの台所事情はとても大変な事になってるそうです。
 何故か私の宿屋内には全く現われないのですが、……早く何とかして欲しいですね」
「ところで最近、私は新しいジャムを試作するのに熱中しています。失敗作ばかりなのですが、
『失敗は成功の母』という言葉を信じて、美味しく食べて頂く日を楽しみに頑張ってます」

………特に、北川さんに。(ボソッ)

「さて、次回は
『舞とまいと……』『下水道の大激闘』『爆裂・ゴッド凸』
 の三本です♪ 皆様、早く戻って来て下さいね♪」

「……マスタぁー。壁に何か傷でもついてたんですかぁ?」
「いえ、何でもないですよ」「あ、それならいいんですけどね」
………ウフフフフフ♪
57名無しさんだよもん:02/02/17 23:31 ID:hH5gXaKR
【一発ネタ】

………何か???
58名無しさんだよもん:02/02/17 23:41 ID:hCnP1em3
>>55
みんながんばれ〜、書き手様が戻るまでの辛抱じゃ!
59ハプニング!:02/02/18 01:58 ID:E7p5TnBW

「こんなもんでいかしらねー?」
 腰の袋に例の宝石を入れ、志保はぐるりと回って見せた。
「しっかし、さりげなく相手に渡すって言われてもねぇ……」
「だから、それは志保の演技力にかかってるのよ」

 志保、七瀬、ルミラの1班は、再び塔の前までやって来ていた。
 ここから再び村へと向かい、さりげなく帝国と接触しなければならない。
「ヒロ達は上手くやってるかしらねぇ……」
「今は人の心配よりも、自分の心配をした方がいいと思うけど?」
 ルミラが、ちょん、と志保の肩を突付く。
 七瀬もたくみに視線を逸らしながら、塔の脇、村へと進む道の横手に潜む、偵察兵の姿を捉えていた。
 その男がそそくさと村へ引き返すのを見て、3人はにんまりと笑った。
「……それじゃあ、行くとしましょうか」
 なるべく自然を装いながら、村へと続く道を歩く。

「あ、そーだ。七瀬はなるべく後ろの方にいてよね。七瀬って隠し事下手だから」
「う……確かに、感情が顔によく出るって言われるけど……」
 正面切って志保に言われ、七瀬はちょっと落ち込んだ。
 しばらくして、村の入り口までたどり着く。
 見た所、はじめに来た時とそれほど変わった様子には見えない。
 とはいえ、志保も七瀬もルミラも、来た時はこの村はほとんど素通りだったのだが。
「さ〜て、ここからは演技力が勝負よ」
 堂々と村に入ろうとしたところで、3人は入り口に立っていた男に呼び止められた。
60ハプニング!:02/02/18 01:59 ID:E7p5TnBW

「あの……貴方達、あの塔に入ったんですか?」
「ええそうよ」
 志保は一歩前に進み出ると、胸を張って答えた。
 ルミラも七瀬も、交渉役は志保に任せ、素早く周囲に視線を回す。
(そこかしこで見張られてる……兵士らしき人間は、ざっと15人って所かしら)
(とりあえず、いきなり弓で射られるって事は無いと思うけど……)

 七瀬とルミラが、ひそひそ話している間にも、志保の方はすでに話が佳境に入っていた。
「そこで出てきたのが、巨大な岩の怪物よぉ! それを、このあたしがばったばったと薙ぎ倒し……」
「………」
「絶好調ね……」
 真っ赤な嘘をぺらぺらとしゃべる志保。
 こういう真似は、他の誰にもできない芸当である。
 呼び止めた男の方も、あまりの長話に、引きつった顔をしていた。
「……そうして、このあたしの美声が響き渡り……」
「ちょっと志保、いつまでやってるのよ!」
「うひょ!?」
 七瀬に背中をひじで突かれ、志保は変な声をあげた。
「……あー、まぁとにかく、凄い冒険を繰り広げてきたのよ……って、その目は信じてないわね!」
「え!? あ、いや、そんな事は……」
 ようやく弁舌から開放されると思っていた男は、不意を突かれてしどろもどろになる。
「いいわ、見せてあげるわ……その証拠……『秘宝』をね」
 すかさず志保が、腰の袋から紅く光る宝石を取り出した。
 そして次の瞬間、見張り達に……目の前の男も含めて……さっと緊張が走った事に、三人とも気付いていた。
61ハプニング!:02/02/18 02:01 ID:E7p5TnBW

 紅く輝く『スチュアートの血玉』……魔の宝石ではあるが、その美しさは誰をも魅了する。
 吸い込まれるように志保の手の中の秘宝を見ていた男は、ようやく我に返った。

「あ……す、すいません。しかし、これが『秘宝』ですか……」

 志保が腰の袋に宝石をしまうのを、食い入るように見詰めながら、男は呟いた。
「あの、もしよければ塔での話など、村長の家でお聞かせ願えないでしょうか?」
 来た、と志保はぐっと拳を握り締める。後ろの二人も、はっと息を呑むのがわかった。
「……そうねぇ、料理をご馳走になれるんだったら、考えてもいいけど」
「それは勿論」
 爽やかな笑い……というには少し難有りだが、笑顔の彼に連れられて、志保たちは村長の家へと向かう。

(まずは第一関門突破……ヒロたち、上手くやってるかしらねぇ?)

 不安を押し殺しながら、志保はなるべく自然に見えるように彼の後に着いて行った。
「はい、ここが村長の家です……どうぞ」
 一回り大きな家に案内された志保は、扉の前に一人の少女が佇んでいる事に気付いた。
「ようこそ、私、村長の娘の友子といいま………」

 笑顔でそこまで言った彼女が、凍り付いたように動きを止めた。
「お、お前は……長岡!? 何故こんな所に!」
「げっ……あんた、吉井!?」
 志保は引きつった顔で叫ぶと同時に……自分たちの作戦が失敗した事を悟った。
「くっ……長岡、お前には橋本卿から、捕縛命令が出ている……無傷で捕らえろ、とな」
 苦々しい顔で、吉井はそううめいた。
62ハプニング!:02/02/18 02:04 ID:E7p5TnBW

 この場合、志保と吉井が顔見知りな事が、裏目に出た。
「志保っ、どういう事か説明してよ! 顔見知りだったの?」
 いきなり、村中から村人に変装した兵士が飛び出してくるのを見て、七瀬は慌てた声を出した。
「うーっ、あたしが前、橋本卿から求婚された事はしってるでしょ……その時にもいたのよ」
 帝国軍人であると志保に知られている以上、お芝居を続ける必要は無い…そう吉井が判断するのは、当然であった。
「塔に冒険者が入ったとは聞いていたが……まさかお前とはな、長岡」

 村娘風の姿に、剣を抜き放ちながら、吉井は忌々しげに呟いた。
「おかげで、こっちの計画が水の泡だ」
(それは、こっちだって同じよ!!)
 思わず叫びだしたい衝動に駆られながら、志保は後ずさる。

 捕獲、という条件付の為か、帝国兵たちは弓で狙う事はせず、じりじりと輪を狭めていた。
「……だが長岡、お前には借りがあったな」
「そ、そうだっけ?」
 汗をかきながら、志保は首をかしげる。
「……この場合、傷の一つや二つ……橋本卿も許してくれるだろう」
「じょ、冗談じゃ……!」

 だんっ、と吉井が剣を手に踏み込むのと、その切っ先を七瀬が受け止めるのは、ほぼ同時だった。
「………!」
 思わぬ力で切っ先を逸らされ、吉井は間合いをあけた。
 七瀬の方も、その鋭い突きに相手の実力を悟ったのか、いつになく慎重な構えである。
「吉井、だっけ……悪いけど、これでもあたしの友達なのよ……」
 “飛翔の剣”を青眼に構え、七瀬は眼光鋭く吉井を見据えた。
「志保を捕まえるって言うなら、このあたしを倒してからにしてちょうだいよね!」
63長瀬なんだよもん:02/02/18 02:09 ID:E7p5TnBW

【蝉丸たちの作戦潰れる】
【吉井、七瀬と交戦】
【帝国兵たちは、志保を捕獲する為に偽装を放棄】

おはこんばんちは。
皆さん何処にいるんでしょうかね?
それはともかく、塔編がより一層煩雑に……ごめん。
では、誤字脱字抜けその他あったら、指摘よろ。
64やりのこされた仕事:02/02/18 22:26 ID:E7p5TnBW

いつまでもベッドに横になっているわけにもいかないので、マナは早速宿で働かせてもらう事になった。
なったのだが………

「あ、あの、秋子さん……これは?」
「ああ……それね」

最初の仕事………それは……

「この大量の鼠の死骸を、かたずけて欲しいの」
「………」
自分に合うサイズの制服を着せてもらったのはいいが、1番最初の仕事が、死骸の片付けだった。
動揺から、マナの額に脂汗が滲む。
「ごめんなさいね、マナちゃん。でも、取り合えずこの死骸の山を何とかしないと、お客も入ってこないのよ」
「い、いえ……ここで働かせて欲しいっていったのは、私ですし……」
流石に顔を引きつらせながらも、マナは溜め息を押し殺してシャベルを手にした。
マナの想像していた、『ウェイトレスのお仕事♪』は、こうして無残に打ち砕かれたのだっあt。

微かに鼻をくすぐる、焼け焦げた肉の臭い。足を天に向け、硬直した鼠たち。
無残に黒焦げになった死骸は外側は炭化していたが、内側に行くにしたがって、ウェルダン・ミディアム…
そしてレアと、様々な焼け具合が楽しめる状態になっていた。
「楽しめない、楽しめない……」
「そうそうマナちゃん……この中で、よさそうな死骸があったら、この樽に分けて入れておいて頂戴ね」
この死骸は何処から湧いたのか、良さそうな死骸はどんな基準なのか、そもそもそれをどうするつもりなのか。
正直疑問は尽きなかったが、もはやマナには訊ねる気力も無かった。
65名無しさんだよもん:02/02/18 22:33 ID:E7p5TnBW

【マナ、鼠の死骸を片付けさせられる】
66名無しさんだよもん:02/02/18 22:35 ID:E7p5TnBW
うっ、すいません。
誤字修正です。

>『ウェイトレスのお仕事♪』は、こうして無残に打ち砕かれたのだっあt。
『ウェイトレスのお仕事♪』は、こうして無残に打ち砕かれたのだった。

吊って来ます……
67焦りの中の閃き:02/02/19 01:26 ID:Mve/asV3
 塔付近の森の中、男が上半身裸であぐらを掻いて座り込み、女がその身体に白い布―――
 包帯を巻いていた。
 男が脱ぎ捨てた服は、背中部分がいくつか裂けており、血痕がついている。

「……ちっ。すまんな、セリオ」
「謝る必要はありません。普通なら、動くことも困難な裂傷なのですから」

 俺は散開したあと、セリオに止められて半ば強引に応急処置を受けさせられた。
 蝉丸のオッサンや彩さんまで誤魔化せたのに、彼女に対しては無意味だった……なぜだ?
 それよりも……時間をロスした焦りから、言葉が荒れてくる…… 

「どうするんだ!? 脱出口を開くったって……奴らの数が多いっ! その上、俺の―――」
「それから先は言わないで下さい。私にも責任がありますので」
「くっ……わかったよ……焦ったら負けって事だろ」
「そのとうりです、浩之さん」

 ……焦ったら負け。口に出して改めて思う……状況は最悪。
 圧倒的に数が違う、陽動なんてたった二人。さらに志保達が敵陣のまっただ中……
 突破なんてまずムリだ……絶望そのもの……くそっ!
 セリオは一体……何を考えてるんだ……?

「……早い……ですね」
「早いって、何が?」
「彼等の侵攻です。これは私の推測ですが、軍馬を使って押し寄せて来たかと……」
68焦りの中の閃き:02/02/19 01:29 ID:Mve/asV3
 ……軍馬、だって?
 たしかに馬の鳴き声が先刻からうるさいが……ん? 馬? ……ソイツだっ!
 暴れ馬1匹止めるには4人ぐらい必要だろうし、下手に止めようとすれば
 蹴り飛ばされるのがオチ―――いけるぞっ!

「なあセリオ。奴らは――― 40人以上は居るんだろ?」
「そうです。そして、それだけの馬がいるのなら――― 少々野蛮ですが」
『村の中に、馬の群れを突っ込ませる(ます)!』

「……一致、しましたね」
「脱出口が開ける! 陽動のフォローも出来るし、うまくいけば奴らの頭数も減らせる!」
「鳴き声の方向からして、入口からやや離れた所に集めているようです」
「そうと決まれば、急ぐぜ!」
「では、参りましょうか」



【セリオ、浩之のケガを応急処置】
【帝国の軍馬を強奪し、村の中に突っ込ませようと行動開始
69錯誤の布石(1):02/02/19 10:30 ID:lyFXkx12
 立て続けに、剣戟の音がつい先ほどまで長閑な様子を見せていたはずの農村の中に鳴り響く。
 指揮官目指して帝国陣を縦に切り裂いていくのは、力任せに大振りが続くようで、それでいて繊細な軌道を描く七瀬の剣技。
 その切っ先が立て続けに二本のハルベルトの切っ先を切り飛ばし、三人の兵士を地に沈めたところで、吉井は全体指揮から自ら剣を振るわざるをえない状況に追い込まれた。

 村内に潜伏している岡田の兵、その主力はまだ出て来ない。おそらくはこの突発事に、状況を把握しかねているのだろう。
 志保の件は帝国の軍務ではなく、橋本辺境伯家の私事だ。
 これにかかわずらって共和国兵の村落周辺の通過を見過ごしました、というのではお話にならない。

(もっとも、長岡たちも秘宝塔から出てきたのよね。なんらかの関係があるのかも……)

 あるいは陽動、おとりの類か。
 ならばなおのこと、岡田の判断は正しい。
 ……正しいが、どうやらこの敵、特に銀髪の女(到底人の持ちうる強さとは思えなかった)を相手取るには兵力が不足しているような不安が残る。

「吉井様……!」
「良い。一騎打ちだ、手を出すな。あんた達は、総懸かりであっちの二人を捕縛して」

 黙考に費やしたしばしの間を吉井の動揺と取ったのか、数名の兵が武器を構えて彼女の前に出ようとした。
 それを軽く手で制し、吉井は表情を引き締めて間合いを詰める。

「銀髪の女は殺しても……いや、かならず討ち取れ。長岡には、絶対に歌を歌わせる機会を与えないように」
「……はっ」

 捕縛、程度の覚悟ではこちらが返り討ちにあるだけだろう。
 それを見越しての吉井の指示に、一瞬とまどいを見せたものの、兵どもは一礼すると志保とルミラと戦う同輩のもとへと駆けていく。
 その背中を見送ってから、彼女はあらためて七瀬の方へと向き直った。少し、苦笑を浮かべて言う。
70錯誤の布石(1):02/02/19 10:30 ID:lyFXkx12
「あの銀髪の女ならともかく、あなたなら私一人でも渡り合える……かな?」
「大人数で待ち伏せなんてしてたわりには、変なトコでいい覚悟ね」

 やりとりの合間も油断無く身構えていた七瀬が、わずかに呆れたような声で言った。
 だがそれもつかの間のこと、すぐに表情を引き締めた彼女が次に発するのは高らかな名乗りの言葉。

「一応名乗っておいたほうがいいのかな。あたしは七瀬留美。乙女を目指して武者修行中の身よ」

 わずかに名乗って良いものか逡巡したが、どうせ志保には正体を知られている。なら、隠すこともないだろう。

「……私はニノディー三銃士の一人にして、レザミア帝国ニノディー辺境伯付き参軍、吉井ユカリ。参る!」

 そう名乗り終えた直後、両者の剣が閃いた。
 まず、七瀬の立て続けの連撃。
 一撃一撃が迅く、重いその切り込みを、まともに受けては細身のサーベルなど一たまりもない。
 可能な限り刀身に負荷がかからぬようパリーに徹しつつ、吉井はわずかの隙をついて反撃の一閃を送り出す。
 だが防具の隙間、とりわけ肩口を狙っての攻撃は予想の範疇だ。七瀬の微妙な体捌きで、吉井の攻撃はことごとく弾き返されてしまう。

 吉井の反撃の後には、七瀬のさらなる反撃が続いた。
 必殺の突きをしくじり、やや体勢を崩したのを好機と捉えたのだろう。
 脳天から股間まで一息に叩き割る勢いのその一撃から、吉井は辛うじて身をかわす。

 それこそがまさに、吉井が待ち望んだ好機。

 勢い余って土に食いこんだその剣の背を、体重を乗せて踏みつけた。
71錯誤の布石(3):02/02/19 10:31 ID:lyFXkx12
「殺った!!」

 一直線に七瀬の喉へと走る、サーベルの鋭利な切っ先。
 だが、それを見据える彼女の瞳に諦めの類は見られない。

「やああああぁぁぁぁぁっ!!」

 裂帛の気合が七瀬の喉からほとばしったかと思うと、吉井の視界がぐるりと大きく回転した。
 自分の身体ごと相手が剣を跳ね上げたのだ、それを事実として理解するよりも早く、吉井の身体はこの危機的事態に対して反応している。
 背を丸めて受身をとり、地面に落下するとそのまま止まることなく勢いよく転がる。
 すんでの差で、七瀬の放った追い討ちの斬撃が吉井の着衣を大きく切り裂いた。
 もう一回転加えて間合いを取り、敏捷に身を起こすと、着衣の下、太股に巻いたベルトから取り出したピストルの銃口を相手へと向ける。



 ―――そして銃声。



「………………あぶな……」
「…………なんて馬鹿力!」

 銃弾が掠めた右上腕の裂傷に七瀬が手を当てて呟くのと、跳ね上げられたときからまだ安定しない視界の中、吉井が忌々しげに毒づくのがほぼ同時。
 銃弾が空しく敵手の向こう、家屋の壁に虚しく弾痕を穿っていた。

 両者それ以上、その一撃のことについて意識は払わない。
 戦いは、まだ続いているのだ……いったん間合いを取って仕切りなおし。
 そして第二ラウンドの再開である。
72錯誤の布石(4):02/02/19 10:32 ID:lyFXkx12
(五行あけでお願いします)
 初っぱなから策が破れ、なにやら雲行きが怪しくなりつつあるその状況を、岡田は大きな納屋の二階の窓から冷静に観察していた。
 吉井と女の一騎打ちは押されているとはいえ決定的な不利とも見えない。
 兵どもは銀髪の女に良いように弄ばれているとはいえ、長岡に歌を歌わせないという目的は達している。

 二十人近くで掛かってたかだか三人を捕縛できないのは、精強で鳴る帝国軍の名折れではあったが……

「あの女、高位の魔族だぞ。我が力を貸してやらなくても良いのか?」
「よくはありませんが……今はお待ちください。御使いよ、あなたはこの策の肝なのですから」

 もちろん本当は今にも吉井救援に向かいたいけど、この局面であんたが出てけば何のためにその娘に憑りつかせたかわからないでしょうが。
 いかにも尊大で、その上思慮のない澪=ラルヴァの問いに内心一人ごちて、岡田は薄暗い背後を振りかえる。

 初老の男がそこにいた。荒縄で腕を縛られた上に二人の兵士に両脇を固められ、ご丁寧にもグレイブの石突で床に這いつくばらせられている。

「村長。村を経由して塔へと向かったのは、白髪の青年と長い黒髪の女の組み合わせの他は、男一人と女二人の組み合わせが二組ずつと言ったな?」
「…………はい」
「ふん。では、あの中に見覚えのある者はいるか?」
「こ、こんな遠くからではとても……うぐっ」
「案ずるな。これは遠眼鏡と言ってね。遠くのものが間近にあるように見える」

 岡田は薄く笑い、抗弁する村長の白髪をぐいと掴んで窓辺に寄せると、その右眼に腰に下げた絹の袋から取り出した円筒を宛がった。
 無理な体勢を取らされて苦痛のうめきを発する村長の耳元に口を寄せ、彼女はなんの躊躇いもなく冷酷な警句を告げる。

「見えないとは言わせない。知らないなんてウソをついても無駄よ? 階下の息子夫婦と孫の命が惜しくないなら、試してみることね……」
73錯誤の布石(5):02/02/19 10:33 ID:lyFXkx12
 古典的な手段ではあったが、その恫喝の効果は覿面だった。
 傍目にも明らかなほど、彼の顔色が蒼白に歪む。がくがくと、壊れた人形のように首を縦に振る。

「ひっ……ウ、ウソなど申しません! ですから、なにとぞ家族、村の者には……!!」
「判れば良いのよ……で?」

 満面の笑みを浮かべる岡田とは対照的に、村長は脂汗を浮かべて遠眼鏡の中の女たちの表情に見入った。
 どれも平和な日常でその顔立ちを観察する機会に恵まれたなら、ちょっとした幸運を感じるであろう容姿の持ち主ばかりだったが……そのような余裕は今のこの老人にない。
 ひたすら機械的に顔面を構成するすべてのパーツを記号として読みとって、まだ新しい記憶中の情報と照合する。

「は、はい! ええと……あ。剣士風の女と、あの逃げ回っている女には見覚えがあります。銀髪の女は……知りません」
「ふうん? となると、男と女を見間違えた?」
「……いえ、まさかそんなはずは……おかしいな。全身重そうな鎧を纏った若い男でしたから、見間違えるわけが……」

 しどろもどろになって、しかし真剣な様子で訴える村長の様子に、岡田はウソがないことを確信した。

 ではこれはどういうことか。
 限られた情報の中から、岡田は読み取れることを吟味する。

 塔の中か、外かは知らない。
 少なくともこの一行は、一度はパーティを組替えた。
 銀髪の女と入れ替わりになった男、それに姿を見せないほかのパーティは塔の中で死んだか……

(あるいは、こちらの存在に気付いて村落の周囲に潜んでいるかね)
74錯誤の布石(6):02/02/19 10:36 ID:lyFXkx12
 おそらくは後者だろう。岡田はそう断じた。
 冒険者が生還し、共和国兵が姿を見せないのは不審だ。共和国兵が冒険者どもを取りまとめ、こちらの警戒をすり抜けようと図っているに違いがない。
 これは実のところ軍人として冒険者が軍人より劣っていると見る岡田の予断なのだが、結果として今はそれが当を射ている。

「周囲を警戒する歩哨に伝えろ。敵がまだあたりに潜んでいる。必ずこれを捕捉発見し、報告せよ」
「はっ」
「我が隊は、その報告を待って出る。各家屋に潜む分隊に伝令を出し、違反する者は後で斬ると厳命せよ!」
「承知しました!」

 騒ぎに乗じて通過しようとすれば、歩哨の網に引っかかる。
 連中を助けようと飛び込んでくれば、その時は村の中央まで来たところで伏兵を解き、総掛かりで叩くまでのこと。
 矢継ぎ早に指示を下しつつ、彼女はこの任務の成功を確信していた。
 トラブル続きであるとは言え、ようやくにも敵の尻尾を捕まえた以上は、たとえ敵に魔族がいようが数に勝るこちらが不覚を取るはずがない。

 それがしょせんは過信に過ぎないこと、傍らでラルヴァが魔族への認識の浅さを嘲っていることに、岡田はついぞ気付かなかった……



【吉井・七瀬 一騎打ち】
【(志保・ルミラ) 雑兵の包囲下】
【岡田・澪 付近の家屋に兵と共に潜伏中】

ども、Uスレの1です。
>>67-68のリレー、帝国パートです。
登場人物少ないのに、むやみと長くなるのは俺の悪弊の一つか……
妙なところ、誤字脱字ありましたらご指摘よろしくおねがいします。

しかし、ほんとに職人さん達どこ言っちゃったんでしょうね(笑)
そろそろ戻ってきてくれるといいなぁ……
75へたれ:02/02/20 20:56 ID:eB3dmJ9V

――ドゴッ、バキッ!!

「はぁ、はぁ……ちっ!」

 路地裏でしつこく追い駆けられ、仕方なく相手する。曲がり角ですれ違い様に鳩尾を。
 その間に警棒を振り下ろしてきたもう一人には、半身にしつつ垂直に突き上げた掌底でアゴを打ち上げた。

――まだ、手の震えが止まらない。

 二人組みで追い駆けてきた自警団の連中を一瞬で無力化した次の瞬間にはもう、駆け出していた。――刻まれた傷痕に痛みを感じながら。

「なんなんだったんだあの男は……」

 陽動の為に爆弾を爆発させた、その直後――そう、爆煙がはれるよりも早く――現われた、あの男。
 あの初撃の剣閃。思わず、身震いした。
 角度とか。
 それに、あの目。人を殺すのになんの躊躇いも持たない目。まるで、狩りを楽しんでいる様な目。興奮しながら、冷徹さを失っていない目。
 何より――あの男は全然本気じゃなかった。

――恐怖が、追い駆けてくる。

 切り刻まれた傷痕よりも、刻み込まれた恐怖で足が竦む。
 まるで、振り返った瞬間、そこにあの男が笑って立っている様な感覚。
 対峙していた時には麻痺していた感情が、徐々に、ゆっくり、確実に、解けていく。

――それとも、一人になったせいだろうか?
76へたれ:02/02/20 21:00 ID:eB3dmJ9V

「くそぉ……冬弥さん…冬弥さんっ……すまないっ!」

 握り締めた拳に力が入る。今更後悔してるのかも知れない。――冬弥さんを見捨ててきた事を。
 キャプテン。なんでこんな穴だらけの作戦を立てるんですか……。
 ホントにあの先代の実子なのか……? もしかして……先代が、何かの機会でレフキー辺りに行った時に拾ってきた子供、だったりしたら……。
 どうすればいいんだ。
 いや、どうもしないだろ。……そんな事、関係無い。私達……いや、私は”先代の後継ぎだから”キャプテンに命を預けてる訳じゃ、ないから――。
 とにかく……今は、真琴達の事はキャプテンに頼るしかない。
 きっと、今頃、キャプテンが真琴達救出に間に合って、お宝を運んで船で待っているハズだ。
 そう。だから今は、私も一度船に戻り、皆と合流して。それから冬弥さんの救出を考えればいい。それにまだキャプテン達が帰ってきてなくても、犬飼さんならこの状況を打破する、いいアイディアを出してくれるかも知れない。


――でも、キャプテン。もし失敗してたら、この不肖、坂下好恵は貴方の事を”へタレ野郎”と呼びますよ――ッ!!




 ワケノワカラナイ誓いを胸に秘め、全力疾走で――恐怖を、仲間を想う気持ちで消し去りながら――彼女は市街地をなんとか抜けだした。
「はぁ、はぁ。アト……少しで……」

 一息付いたアト、海岸線――船が停泊している場所――に辿り着く手前で、彼女は足を止めた。

――前方に人影が見えたからだ。

 それを確認した彼女は思わず心の中で突っ込んだ。


(……ッ!? なんでこんな所にいるんだよっ!!)
77名無しさんだよもん:02/02/20 21:07 ID:eB3dmJ9V
【坂下好恵/停泊している船の手前にて人影発見】

微妙ですねー☆(;´Д`)
変なところがあったら、指摘お願いします。

と、何事もなかったかの様に振舞うテスト。
78名無しさんだよもん:02/02/22 01:35 ID:o3AfTdsq
めんてしとこう
79剣舞:02/02/23 23:51 ID:PN7YlP93

「土塊より産まれいでよ、仮初めなる大地の化身よ!」
 ルミラの呪文と共に、トパ−ズが地面に放り投げられる。
 次の瞬間、地面が瞬く間に隆起し、巨大な人型となった。
 その額には、トパ−ズが鈍い輝きを宿している。

「ソイルゴーレム!」

 突然に出現した異形の存在に、兵士達に動揺が走った。
 その隙を逃さず、ルミラは両手から放った雷撃で、兵士の一人を撃ち払う。
(……まいったわね、キリがないわ)
 舌打ちする間も惜しんで呪文を唱えながら、ルミラは跳びかかって来た兵士を素手で叩きのめす。

 ゴーレムは実は、圧倒的な姿とは反して、決して戦闘力が高いわけではない。
 何より、土から作った即席の代物である。
 動きは遅いし、何より土なものだから、かなり脆い。一応、回復力だけは旺盛なのだが。
 今は兵士たちが動揺してくれているからいいものの、額の宝石を槍で抉り出されでもしたら、簡単に壊れる。
 結局、こけおどし以上の役には立たないのだ。
(……まぁ、しばらく盾になってくれれば、それでいいけど)

 気になるのは、先ほどから浴びせられている嫌な視線である。
 納屋の二階から、こちらを見ているようなのだが……どうも、魔族に近い感じがする。
(嫌な予感がするけど……どうしようもないのよね)
 広域破壊魔法を使えば話は早いのだが、関係無い村人を巻き込むのは、『魔族代表』としては避けたかった。
「……そろそろヤバイんだけど……蝉丸達は、いつまでぐずぐずしてるのよ……!」
80剣舞:02/02/23 23:52 ID:PN7YlP93

 一方志保の方は、そこそこ善戦していた。
 次々と跳びかかって来る兵士たちに対し、倒れている兵から奪った剣で応戦している。
 剣士としての腕はせいぜい2流なのだが、持ち前の素早さと、巧みな駆け引き(小手先のワザとも言う)で、
 数人の兵士相手に、互角に近い戦いを繰り広げていた。
 とはいえ、状況は決して分がいいとは言えない。

「はぁ、はぁ……ったく、最近本当にツイてないったら……っ!」

 突き出された槍の石突を剣で払い、志保は身軽に跳び下がった。
 兵士達の目的は、あくまでも『生け捕り』である。そうでなければ、志保は自分がとっくに倒されていると自覚していた。
 幾度も浴びせられる、捕獲用のネットから身をかわし、荒い息を必死で整える。

 捕まえる事こそ出来ないでいたが、兵士たちは『志保に歌を歌わせない』という当初の目的は達成していた。
 間断なく襲い掛かってくる兵士を捌きながら、『歌』を歌うことなど、不可能に近い。
 何より、朝からの強行軍、塔の中での冒険、そして、『歌』の連続使用による喉の酷使は、確実に志保を疲弊させていた。
 すでに疲労はピークに達し、全身にはびっしょりと汗をかいていた。

「はぁ……ここで掴まったら、あの変態伯爵にテゴメにされちゃうのかなぁ……」
 らしくも無い弱気な事を呟いて、志保は自分の首に手をやった。
 そこには、黒いネックバンドが付けられている。
 金属製のプレートには、古代文字で、封印を意味する文字が彫られているはずだった。

「………ええいっ、弱気になるなんて、あたしらしくない……気合よ気合っ!」
 目の前に来た兵士を思い切り蹴飛ばし、志保は剣を握りなおした。
81剣舞:02/02/23 23:54 ID:PN7YlP93

 真正面からの斬撃を、吉井は剣で滑らせるように受け流す。
 七瀬の力は、この幾度かの剣戟で嫌と言うほど思い知っていた。
 だが、決して怪力のみに奢っている剣ではない。

 吉井と七瀬、その戦いはほぼ互角に見えた。
 鋭い火花が飛び散り、剣舞にも似た体捌きで、互いの必殺の一撃をかわし、反撃する。
 力では圧倒的に七瀬が、速度では吉井が僅かに、互いを上回っていた。
 技量なら、傭兵を生業とする七瀬が吉井よりも若干上だったが、それも決定的な差ではない。


 七瀬はとっくに、この“飛翔の剣”の弱点に気がついていた。
 それは、剣の強度だ。
 度重なる激戦の結果、刀身に無数の細かい亀裂が走っていた。
 何しろ、戦斧ですら砕いた“まい”に、何度と無く打ち込んでいたのである。
 この細身の剣が折れなかったのは、ひとえに魔法剣だったからに他ならない。

 だがそれでも、刀身に施された微細な彫刻が、剣の強度を弱めているのだ。
 それをフォローする為に、保護呪文が掛かっているようだったが、そろそろ七瀬の力に負けようとしていた。

 そして……これの目玉の“飛翔”だが……はっきり言って、七瀬にはあまり役に立っていなかった。
 元々、不意打ちなどという卑怯な手は、七瀬の性にはあっていない。
 それに、イメージで飛ばしている間、自分はほとんど無防備になってしまう。
 オート飛行モードもあるにはあったが、はっきり言って自分で振りまわした方が、10倍は速い。
 吉井ほどの技量の持ち主なら、飛翔する剣を叩き落し、無防備な七瀬を倒すくらい、わけないだろう。
82剣舞:02/02/23 23:56 ID:PN7YlP93

 一方の吉井も、決して余裕があったわけではなかった。
 速度では若干こちらが優位だったが、力と技量では、相手の方が上なのだ。
 おまけに、銃も一度相手に警戒されてしまえば、下手な間合いでは抜いている間に腕を切り飛ばされる危険が高い。


 足元を狙って薙ぎ払われる七瀬の剣をスウェイバックで避け、吉井はサーベルで七瀬の小手を狙う。
 その切っ先を剣の根元で受け止めると、七瀬はそこを軸に一気に間合いを詰める。
「くっ!?」
 勢いが着いて止まらない吉井は、まともに七瀬の肩にぶつかった。
 あっさり力負けし、吉井はバランスを崩して地面に倒れこむ。
 そこに、七瀬の剣が横から来た。
 とっさに転がってかわすものの、切っ先がわき腹を掠め、吉井は小さくうめく。
 鎧を身につけていれば何でもない攻撃だったが、偽装の為に村娘の格好をしていたのがあだになった。
 じんわりと血が滲むわき腹に顔をしかめながら、吉井は再び銃を抜き放った。
 転がりながらの不安定な体勢だが、それでも吉井は何とかねらいを定め、引き金を引く。
 次の瞬間、乾いた音と共に、七瀬は弾かれたように横に跳んでいた。

「見切られたっ!?」

 達人ともなれば、相手の目線、引き金の指の動きからタイミングと射線を見切り、銃弾すら避けると聞いていたが……
 動揺を押し殺し、吉井はすぐさま飛び起きた。
 優秀な剣士か否かは、いかに自分の心を、素早く切り替えられるかどうかにかかっている。
 銃を太もものフォルダに仕舞い、吉井は再び七瀬と間合いを詰める。
 例え自分が不利だからと言って、引き下がるわけにはいかないのだ。

 吉井と七瀬は再び、死の剣舞へと己が身を投じる。
83名無しさんだよもん:02/02/23 23:59 ID:PN7YlP93

【ルミラ、志保、帝国兵と戦闘中】
【七瀬、吉井と交戦】

さて、浩之や蝉丸たちの動きも気になりますねー
84名無しさんだよもん:02/02/26 00:51 ID:8lkDCzHV
落ちかねないので。
85襲いくる敵:02/02/26 01:14 ID:I9OFCS54

「圧倒的不利だっ、逃げろっ!!」
瞬間、北川の叫びに、ファイティングポーズを取りかけた名雪も、さっと踵を返した。
もちろん、大志もそれに従う。
だが……
「何してるっ、早く来い!!」
仲間の変わり果てた姿、大量に襲い掛かってくる鼠の群れに、友里は恐怖のあまりその場に凍り付いていた。
北川はその腕を掴むと、強引に引きずって走り出す。
しかし、そのすぐ真後ろまで鼠の絨毯が迫ってきていた。
とっさに振り返った大志が、両手を北川に向けて突き出し、早口に呪文を唱える。

「同志北川っ……! 『萌えとは何かっ!? それは、熱くたぎる心の発露なりっ! 萌え盛れ、漢の炎っ!』」

大志のよくわからない呪文と共に、突如北川の真後ろに炎の壁がそそり立った。
呪文は意味不明だったが、その効果は絶大だった。
飛んで来る火の粉に、北川は悲鳴を上げながら、名雪と大志の所へ転がり込む。
「あちちっ……た、助かったぜ、大志!」
「いや……どうやら、時間稼ぎにしかならんようだ」
大志の硬い表情に、北川は慌てて振り返った。
鼠達は、耳障りな鳴き声を発しながら、次々と炎のない下水へと飛び込み、再び足場へとよじ登って来ていた。
「げっ……」
「走れ、同志北川!」
へたり込む暇もなく、北川は再び走り出した。そして、友里、大志と続く。
だが、友里が逃げる一瞬、大志は彼女の意味ありげな視線に気付いていた。
その視線を追って、背後を振り返った大志の視界に、きらり、と銀色の輝きが瞬いてた。
86襲いくる敵:02/02/26 01:17 ID:I9OFCS54

「三人とも、こっちだよ〜!」
その俊足で並ぶ者の無い名雪が、突き当たりで3人を待っていた。
すぐ横に、頑強そうな鉄の扉がある。
「でかした、同志名雪!! みな、あの扉に飛び込め!」
大志に言われるまでも無く、北川も友里も、必死でその扉まで走った。
かなり古く、錆びている扉だったが、名雪はまるで紙でできているように簡単に押し開く。
「早く早く!」
名雪に急かされ、北川、友里、大志、そして最後に本人が急いで中に入ると、すぐさま扉を閉じた。
北川は一瞬、閉じられるドアの向こうに、床一面を覆い尽くす鼠の群れを見たが……すぐに分厚い鉄扉に遮られてしまった。

魔法の明りが、ドアの向こうに取り残されてしまったので、大志は改めて呪文を唱え、光を呼び出す。
「………これは…」
ふっ、と光球に照らされた室内を見て、北川は驚きの声を上げた。
そこは、恐らく下水の管理人の部屋だったのだろう。
中央に古びた机が一つ、向かいにはベッドが横たわっていた。
いち早く動いた大志が、丁寧に机を調べ始める。
「何かみつかったか?」
「………いや、この手のものにつきものの、日記の一つさえ無い」
引出しを全て開け、大志は失望したように肩をすくめた。
「見たところ、すでに何年も以前に、この部屋は使われなくなっていたようだ……引出しの中は、全て空っぽ……手掛かりの一つさえない」
「これからどうするの?」
ベッドに腰掛けた名雪が、少し不安そうに北川を見た。
「………とりあえず」
「とりあえず?」
「………飯にしよう」
87名無しさんだよもん:02/02/26 01:19 ID:I9OFCS54

【北川・名雪・大志・友里 管理者用の部屋に立て篭もる】

ちょっと間が開いていたので、続きを書いて見ました。
88温度差:02/02/27 00:38 ID:Tx57bfam

「なつみ。ちょっと、いってくる」
「……? 何処に?」
 なつみ、と呼ばれた少女は、後からの声に振り向きもせずに答えた。
「さっき、ここを通っていった女の子に『うぐぅ』の事を、少々な」

「…………」

 そして、スタスタと歩いていく気配がする。秋子さんは何も聞こえていない様な顔をしていた。……そろそろ帰ろうかなぁ、とか思ってたら不意に、秋子さんに声をかけられた。
「ちょっと……これは、好奇心なんですけどね」
 秋子さんは手を休め――。




「……うぅ……っ……」
 目の前には黒い山。それを一人で崩す少女。――それは勇気の証明か、それとも愚者の象徴か。
 その光景に暫しの間、呆然と見上げる視線が一つあった。
「……ちょっと、いいかな?」
 それは、男の子の様な声だった。
「…………?」
 少女はキョロキョロと周囲を見回したアト、はぁ、幻聴まで聞こえるなんて相当精神マイッってるわね……と、呟いた。
「下だよ下ぁっ!!」
 突然の大声にびっくりする少女。そして自分を見詰ている猫に視線がいった。

「……猫が、喋ってる……私、もうダメなのかなぁ……?」


 少女は天を仰ぐ。陽光が揺らいだ。一羽の鳥が翻った。
89温度差:02/02/27 00:40 ID:Tx57bfam

「説明するのもメンドウなんだけどな……。それでも一応言っとく。まぁ、いわゆる自慢話で恐縮だけど、俺はね。喋れるネコなんだよ、そういう訳だから、納得してくれ」
「……なに電波な人みたいな事言ってんのよ……」
 呆れた顔で、応対する。ホントに疲れてるのかも知れない。
「ちなみに、名前はピロだ。覚えておいて損はないぞ?」
「……私は、観月マナよ……あぁ、ホントに私、猫と会話してるよ……」
「お疲れのところ悪いんだけどさ。マナマナ。うぐぅ、ってどんな意味か知ってるか?」
「ちょっと……その『マナマナ』ってのは止めてくれない? ちなみにうぐぅなんて知らないわよ。まぁ。いかにも食い逃げ少女が喚きそうな語感だけど」

 鼠の死骸を背に、ネコに向かって発言しているその姿は端から見たらちょっと、いや、かなり、ヤバイ人かも知れない。

「そうか? 幼馴染みも言いそうな単語じゃないか? マナマナ……ぢゃなかったな。チビガキ」
「っ! チビって言わないでよっ!!」
 ノーモーションで繰り出される低空から突き上げるかの様な蹴りが容赦なく繰り出され、ピロは直撃を喰らった――かの様に見えた。
 そのまま上空まで吹っ飛ばされ自由落下する丸い物体。しかし、その物体は地面に激突する直前に、両手足を揃えキレイに着地した。そしてその物体、ピロは――体の具合を確かめたアト――言った。


「なんだ今の。レフキー式の抱擁か?」
90温度差:02/02/27 00:40 ID:Tx57bfam


 一瞬。マナの表情が驚愕に揺れた。

「……へぇ。手加減したとはいっても今のスネゲリ……もとい蹴りを喰らってまだ減らず口を叩けるなんて貴方が初めてよ?」

――実際。マナは記憶が無い。

「ナニ言ってんだよ? 動物愛護精神のカケラも持たネェくせに。それでも武士か?」
「言ってる意味はよく分からないけど、貴方みたいな化け物にそんな上等な精神は、使うだけ無駄よ」
 その発言に、ピロは口元を吊り上げた。――もっとも、それは微妙な変化だったが。
「この俺を化け物だと? ふん。まぁ…聞き慣れた単語だがな……」
「見たまんま言っただけじゃない?」
「ならお前もチビガキだろ? チ・ビ・ガ・キ」

 フッ――。

 と、マナは一笑した。
 怒り――ウェイトレスの初仕事が鼠の死骸の処理だとか、こんな変なネコに馬鹿にされてる事や、記憶を失った不安。もあるかも知れない――を通り越し、呆れ果て、なんだか無性に可笑しくなってしまったらしい。

 その突如、沸き立った感情のレベルを例えるなら――地平線を超え、宇宙まで一気に吹っ飛ぶ感じ。 閣下、あれがコロニー落としです。うむ。敵ながら見事な戦略だな。

91温度差:02/02/27 00:42 ID:Tx57bfam

「フフッ………上等よっ!! このクソネコがぁぁああっっ――!!」
「特別に許可してやろう。この俺と拳を交える事をなぁっっ――!!」

 時を止めたり、吹っ飛ばしたり。あるいは空中でじゃんけんするかの様な雰囲気の中、始まってしまったこの死合。

 ……果たして、勝負が決まるのが先か、秋子さんに殺されるのが先か――。




――手を休め、秋子さんは続きを言った。
「銃の腕前は……どのくらいかしら?」
 頬に手を当てにっこりと、微笑む。それは、まるで祭の準備をしている時の様な顔だった。
 私は少し戸惑い、正直に答えた。
「三メートル位の距離で、五発撃って、四発当たるぐらいです……十メートルならかろうじて一発は……固定標的限定の話ですけど」
「あらあら……」
 流石に秋子さんも閉口気味だ。
 この腕前は自分でも情けないと思っている。でも、一発撃つ度に跳ね上がる銃身。金属照準器を見据えるにも慣れないし、何より――撃つ機会が少なかった。
 知っての通り、銃は高価だ。だから銃弾もそれなりに高い。そう、高い。賞金稼ぎの資格も持たない流れの旅人が幾つも買える様な金額じゃ、なかった。それでも、抜き打ちの訓練は欠かした事はなかったけど。
 幸い、私の持っている銃はありきたりの銃弾を流用できたから助かった。

「まぁ……密着して撃てば絶対、当たりますから……」

 と、言っても人を”撃ち殺した事”はまだ、無い。大抵の人は銃を見ただけで、降伏してくるし。それでもダメだったら威嚇射撃――と言って、ホントに当たった事もあったけどね――で泣きながら降伏してくる。
 なけなしのお金で買った銃弾もそのほとんどが、射撃訓練で消えていった……。

「……それならですね。こう思った事は無いですか?」
 秋子さんの声も、表情もどこも変わった様子はなかった。なのに、何故か私は、緊張してしまった。
92温度差:02/02/27 00:44 ID:Tx57bfam

「どんな事……ですか?」
「その銃は、もの凄く価値のあるモノです。きっとそれなりのお金持ちに売ってしまえば一生遊んで暮らせるお金を出すぐらい、価値のある、銃です」
 秋子さんは一度目を伏せ。続けた。
「今までそんな話も幾つかあったでしょう? それに、そんな事はなつみさん。貴女が一番判ってるハズです。……何故、売らずに、危険な旅をしてきたのですか?」
 秋子さんの言ってる事は事実、旅をしてきた以上。たくさんあった話だった。付け狙われた事も、あった。――もっとも、こんな質問は初めてだったけれど。

 私は一度、銃を手に取り、目を閉じ、数瞬の間、想いを馳せた。――それからゆっくりと銃をしまってから、言った。

「それは……この銃が。父…・両親の、形見だから、です」
 静かに、力強く、言った。
「そう……不謹慎かも知れないけど。言わせてもらうわね。――とても、いい返事だったわ」
 そう言って、秋子さんはにっこり、と微笑んだ。
 私は、帽子を被り直し、立ち上がって、言った。

「ありがとうございます」

――私はきっと微笑んでいたに、違いない。
93温度差:02/02/27 00:47 ID:Tx57bfam

「…って、なにしてるの? ピロ」
「なつみ。取り合えず蹴っ飛ばしたアトに言うセリフじゃない、とだけ言っておくよ」

 宿、青の錫杖を出てみたらなにやら「特別に許可してやろう」とか怒号が交錯する中で、向かいの少女――さっき見掛けた人――に飛び掛っていくピロが視界に映った。だから、両者が接触する前に一方を突き放したのだ。蹴って。

「……ちょっと。貴女が飼い主さん?」
 タレ目にはどう見ても見えない少女だった。ちょっと怒り心頭って感じだ。――そう。隙あれば何時でもスネ辺りを蹴ってきそうなくらい。
「アハハ。ま、そんなとこかな。……どうやら迷惑を掛けたみたいで……ごめんね。ほら、そろそろ行くよ、ピロ」
 ピロに視線を送る。へいへい、とか言って、ピロは近づいてくる。
「貴女ねぇ? ちょっと教育がなってないんじゃないの? そもそも――」
「えーと? 後の物体をはやくなんとかしないといけないんじゃないのかな……?」
 彼女の後方に指を指し、遮る様に言った。放っておくと面倒な事になりそうだったから。
 後方を振り返る、彼女。――瞬間、身を震わせ硬直する。一体どんな顔をしているのだろう? 想像すら、出来ない。

「さて、行こうか、ピロ」
「そうだねー」
 硬直している彼女を置いて、棒読みのピロも気にせず私は歩き出した。――と、少し歩いた所でピロが切り出した。
「で? これから何処行くの?」
「柳也さんとこ……もう帰って寝よう。ふかふかベッドが私を呼んでるんだよ……」
「は? もう戻るの? てっきり鼠退治でもするのかと思ってたのに……」
「もう何人かいってるんでしょ……? 私の出番なんて無いよ。……それに」
「それに?」
「せっかくレフキーに来たのにいきなり下水道なんて、行きたくない」
 
94温度差:02/02/27 00:59 ID:Tx57bfam

 私は即答した。
「それがホンネかよ……それじゃぁ、レフキーにきたら一度は食べたい、って言ってたTAIYAKIはどうするのさ?」
 私はその『タイヤキ』という単語に、思わず足を止め、これ以上無い、ってくらい迷ったアト、凛とした声で、言った。


「――空腹は最高の調味料、って言葉。知らない?」

【牧部なつみ・ピロ/帰路の途中】
【観月マナ/鼠の処理未だ終わらず】

お話としては<<64の続きです。
マナ萌えな方。申し訳ありませんでした(死
ってゆーか書き込みミスった(;´Д`)
しかも長いし……読みづらかったですか……スマソ。
変なところあったら、指摘お願いします。

……先輩勝ったんだなぁヽ( ´ー`)ノ
95虎穴:02/02/27 01:06 ID:/szkOCpo

「まずい……これは最悪の一歩手前だ」
 村の状況を遠目に見て、蝉丸は苦々しく呟いた。よくはわからないが、こちらの正体がばれていたらしい。
 七瀬、志保、ルミラが、帝国兵達と戦っていた。
 幸い、まだ捕獲されるといった最悪の事態にはなっていないものの、このままでは多勢に無勢、掴まるのは時間の問題だ。

「彩、そっちはどうだ?」
「……あ、はい……」
 蝉丸が考えていた陽動とは、単にそこらの家に藁を置き、それぞれに彩の炎の鳥で火を付けさせる、というシンプルなものだった。
 志保の捕獲の為、見張りが動いたので、藁を入手するのは簡単だったが、今の状況でそれがどれだけ役に立つのか……
「……蝉丸さん、セリオと浩之が!」
 健太郎の声に、蝉丸ははっと振り返った。
 木々が立ち並ぶ、彼が指し示した方向に一瞬、特徴的なオレンジの髪が垣間見えた。
「あっちは、村の入り口近くだが……そうか、馬を使う気か!」
 合点がいった蝉丸だが、すぐに慌てた顔になった。
「い、いかん、軍用に訓練された馬は、素人の手で誘導できるような代物じゃない」
「どういう事ですか?」
 いまいちよくわかっていない彩と健太郎に、蝉丸は顔をしかめ、必死で何かを考えながら言葉を紡ぐ。
「……馬ってのは、元々臆病な動物だ。それを戦争で使おうってんだから、その調教も並じゃない。
 目の前で剣や槍を振り回されても動揺しないように、徹底的に訓練されてる。
 それこそ、尻尾に火でも付けない限り、暴れだしたりはしない」
「じゃあ、火を付けるんじゃないですか?」
「……見張りを全員倒し、十数頭はいる馬全ての尾に、火をつけて回れるのか……?」
 押し殺したような蝉丸の声に、健太郎は沈黙した。
「大体、軍馬ってのは気が荒いんだ。ケツに火をつけられれば、真っ先に後ろにいた奴が蹴り飛ばされるぞ……」
96虎穴:02/02/27 01:07 ID:/szkOCpo

「おっ、見つけた……」
 草むらを進むことしばし、浩之とセリオは、ようやく馬小屋らしきものを見つけていた。
 そこには、十数頭からの馬が繋がれている。
「思ったより少ないかな……」
「いえ、むしろ丁度扱いやすい数でしょう。ですが、見張りが5人……外に4人、中に一人」
 セリオの言う通り、馬の周りには数人の男たちがたむろしていた。
 それぞれに槍を持ち、暇そうに周囲を見張っている。

「しまったな、見張りは考えてなかった」
「私一人で倒すには、少々多すぎますね……二人倒している間に、救援を呼ばれる可能性が高いです」
 やはり、無理な考えだったのだろうか?
 腕を組み、考え込む浩之だったが、ふとセリオの方に向き直った。
「そう言えばセリオ、どうやって馬を暴れさせようと思ったんだ?」
「あ、はい……時間があれば、飼葉にトウガラシでも入れようと思ったのですが、どうもそんな暇はないようですし……」
「火をつけるものは無いか?」
「火……なら、クルス商会の新製品で……」
「くれ」
 一瞬金貨一枚、と言いそうになったセリオだが、非常事態な上、浩之が金を持っていそうに無いので、大人しく言葉を飲み込んだ。
「……火薬と燐を擦り合わせ、発火させる“マッチ”です。配合が微妙なのか、暑い日だと自然発火するのが困りものですが。
……どうする気ですか?」
 ぼろ布に、せっせと酒を降りかけ始める浩之に、セリオは怪訝そうな顔になった。
「小屋を燃やす」
「なっ……!?」
 絶句したセリオに、浩之は片目をつぶって見せた。
「馬小屋を燃やすんじゃなくて、隣の小屋に火をつけてやるのさ。いくら奴らだって、知らん顔はできないだろ」
97虎穴:02/02/27 01:10 ID:/szkOCpo

「危険すぎます! 確かに今、兵士達の注意は長岡さん達の方に向いていますが、最悪こちらに大量の兵士が押し寄せてくる可能性も……」
「それはむしろ好都合だろ。奴等の注意を引き付けられるんだから。そこで、馬を解き放つんだ」
 セリオは黙ったまま、じっと浩之の顔を見詰める。
「………私には、わかりません」
 深刻なセリオの口調に、浩之の手が止まった。
「例え彼女たちを助けても、私達が捕獲されれば、元の木阿弥でしょう?」
「大丈夫、なんとかなるだろ」
「……何故そこまでして……助けようとするのですか……?」
 アルコールを含んだ布を引き裂き、浩之は苦笑した。
「あいつな、馬鹿だから」
「………」
「馬鹿だから、この俺が手助けしてやらねーとな」
 ちらり、とセリオが村の方へと視線をやった。
「……恋人だったからですか……?」
 セリオの台詞に、浩之は一瞬目を丸くし、ぶっ、と吹き出した。
「…浩之さん!」
「くくく……悪い悪い。どうでもいいが、あいつと俺が恋人だったなんて、一体誰から聞いたんだ?
そりゃ、昔はよく二人でつるんでたけどな。あかりにもよく叱られたぜ、二人でおかしな酒場に出入りするのは止めろって。
そうだな、なんて言うか、腐れ縁ってのが一番しっくりくるかな………まがりなりにも、恋人なんて関係じゃなかったさ……
………できた」
 布を持ち上げ、浩之はにやりと笑った。
 一つは、大きなサイズの布で……この辺りは古い木の家だから、よく燃えるだろう……二つ目は、細いロープだった。
「セリオ、こいつをあの小屋……多分、飼葉とかを収めてある小屋だろ…に火をつけて投げ込んでくれ。
俺は、時期を見計らって、馬のくつわを切ってから、このロープで尻尾を結んで回る。これなら、一度に火がつく」
 アルコールの染みたロープを手に、鋭く小屋を見詰める浩之の口元には、かすかな笑みが浮かんでいた。
「虎穴にいらずんば……ってな。自分の力と知恵が試される瞬間ってのは……わくわくするだろ、セリオ?」
98名無しさんだよもん:02/02/27 01:14 ID:/szkOCpo

【浩之、セリオ 放火作戦】

さて、どうなる事でしょう……?
99活路へ:02/03/01 00:16 ID:qXaYbrNP

戦況は硬直していた。
七瀬と吉井の実力は伯仲し、勝負はなかなか着かない。
その一方で、志保とルミラを捕らえるべく動いている帝国兵たちも、今だその目的を達成できずにいた。

七瀬の繰り出した剣の切っ先が、浅く吉井の腕を掠める。
だが同時に、カウンター気味に突き出された吉井のサーベルが、七瀬の足を傷つけていた。
「くっ」
「やるわねっ……!」
互いに、すでに幾つも浅い手傷を負っている。
七瀬にしろ吉井にしろ、決着を早くつけたい気分ではあったが、相手の実力がそれをさせてくれなかった。
双方剣を構え、しばし、じっと睨み合う。
―――その時だった。
村の入り口、馬を繋いである辺りから、煙が立ち昇り始めたのは。

「煙っ……! 別働隊か!?」
動揺から、一瞬吉井の気が逸れる。すかさず七瀬が走りこんで斬りつけるが、それは服を掠めたに過ぎなかった。
だが動揺は、志保とルミラを囲んでいる帝国兵たちの方が大きかった。
次々に手を止め、煙の方へと視線を送る。
「……もらいっ! 七瀬、ルミラ、志保ちゃんリサイタル、一曲いくわよっ!!」
「しまった!」
志保がルミラの方へ大きく下がると、マイクを手に歌い始める。
吉井は舌打ちし、だが即座に叫ぶ。
「全員耳をふさげっ!! 『歌』を聞くと、長岡に操られるぞっ!!」
100活路へ:02/03/01 00:16 ID:qXaYbrNP

魔法というものは、それを使えない一般の人間にとっては、大きな脅威である。
少なくとも、大半の人々の間ではそう信じられていた。
魔法にも欠点があり、決して万能ではない……熟練した戦士なら、あるいは魔術師本人なら、それは周知の事実である。
当然兵士としての訓練でも、『魔法の非万能性』を徹底して教え込まれるが、染み付いた魔法への迷信は、簡単に消えるものではない。
それが、世界に数人しかいない『呪歌』なら、なおさらである。

歌姫の『歌』に対する幻想は、必要以上に彼らを刺激した。
兵士たちは慌てて剣を捨て、自分の耳をふさぐ。
「ちっ……だが、例え私たちの手を塞いでも、お前ら自身も手を使えなければ……何っ!?」
真っ直ぐに七瀬が突っ込んでくるのを見て、吉井は目を見開いた。
その手は、しっかりと剣を握っている。

そして――――――志保の、にんまりとした表情を見て、吉井はようやく自分が謀られた事に気付いた。

「『呪歌』じゃない……! 全員耳を塞ぐなっ!! これは普通の……!」
みぞおちにめり込んだ七瀬の拳が、吉井の声を中断させた。
耳を塞いでいる兵士たちには、当然、吉井の叫びは聞こえない。
指揮官が倒され動揺するものの、耳を押さえている手を放せる者は、ひとりもいなかった。
そして……「暴れ馬がそっちに行ったぞ―――!!」という絶叫も、彼らの耳には届かない。

尾に火を付けられた馬たちが、一斉に村のど真ん中を爆走して来た。
「うわっ、危なっ!!」
蹄に蹴られそうになって、志保は慌ててルミラの傍に駆け寄った。
だがそれに気付かなかった不幸な兵士が数人、馬に跳ねられ、悲鳴を上げる。
101活路へ:02/03/01 00:17 ID:qXaYbrNP
わずかでも戦場を体験すれば、馬に踏まれる事が何を意味するのか、嫌でもわかる。
人間5〜6人分の体重が、鋼鉄の蹄で踏みつけ、蹴ってくるのだ。
足や腕は簡単に砕け、引き千切れるし、胴体を踏まれれば、まず間違いなく死ぬ。
徒歩の兵にとっては、騎馬は馬そのものが、大きな脅威となるのだ。
だがさすがに馬の扱いにはなれているのか、帝国兵たちはむやみに暴走する馬に近寄ろうとはせず、
素早く馬たちから距離を取り、壁の近くに避難する。

「くっ、こんな馬鹿な事考えるのは、ヒロ以外にないわね」
「馬の尾に火をつけるか……動物愛護がなってないわね」
吉井を気絶させ、馬に潰されないように肩に担ぎながら、七瀬は志保たちと合流していた。
互いに軽口を叩きながらも、七瀬の目は油断無く周囲に配られている。
「志保、吉井をちょっと預かっといて。殺すにはしのびないから」
「しのびないって……ちょっと、何する気!」
暴れる馬たち、その一頭に狙いを定めた七瀬は、素早くその轡を掴んだ。
信じられない事に、馬が七瀬に力負けし、勢いよく引き戻される。
「嘘っ!?」
無理に引きずられ、余計に暴れる馬を、七瀬はとうとう地面に引き倒した。
「ふうっ、ルミラ、尾の火を消してあげて……どうしたの?」
「いや……何でもないわ」
七瀬の人間離れした怪力に、あっけに取られていた志保とルミラだったが、慌てて馬の尾の火を消してやる。
ようやく起き上がった馬に、七瀬が飛び乗った。
「3人なら、何とか乗れるでしょ………ルミラ、どうしたの?」
「……志保、七瀬、先に行ってて。私は少し用事ができたわ」
「そう、わかったわ」
何か言いたそうな七瀬を、志保が制した。ルミラは高位魔族……それも魔界の貴族にまで登りつめた存在だ。
例え一軍に囲まれていようと、ルミラ一人なら、抜け出るのはたやすい。
「足手まといにならないように……さっさとヒロ達と合流しましょ」
102活路へ:02/03/01 00:22 ID:qXaYbrNP

【七瀬と吉井の戦闘、決着が付く】
【馬が大暴走】
【志保と七瀬は馬に。ルミラは別行動】

>>82からの続きです。
それでは、誤字脱字抜けその他ありましたら、指摘よろ。
103依頼:02/03/01 21:28 ID:Orudgz/Z
ぱちぱちと焚き火が音を立てる。
月島拓也、長瀬源五郎、マルチの三人はリフキーが野宿をしているのだ。
拓也は実のところ街道に点在する宿まで行きたかったのだが、マルチのせいで思うほど先に進めなかったのと
源五郎が野宿をしたいというので渋々野宿をしていた。
「なあ、月島君」
「なんですか?」
「単刀直入に聞くがマルチの事をどう思う?」
「と、突然何を言ってるんですか?」
拓也が慌ててマルチのほうを見ると、マルチはもうスゥスゥと寝息を立てて寝ているところだった。
「自慢の娘がどう思われてるか気になるじゃないか?」
源五郎が意地悪い笑みを浮かべる。
「どんな風にって言われても…」
拓也が困ったように言う。
「やっぱりドジで出来が悪いってことかな」
源五郎が寂しそうに言った。
「そ、そんなことありませんよ、素直で一生懸命でいい子じゃないですか」
「そうか、やっぱりそうだよな」
源五郎は笑みを浮かべて言う。
「で、月島君。そんなマルチがゴーレムだって言ったら信じるか?」
「……え?」
拓也は驚きの声を出した。ドジをして必死に謝る、そんな人間らしいゴーレムなんか聴いたことがないと思ったからだ。
「古代の遺跡から掘り出した生命の魔石を使って作られた、最も人間らしいゴーレム、それがマルチだ」
源五郎の言葉にはどこか誇らしげな響きが含まれていた。
104依頼:02/03/01 21:28 ID:Orudgz/Z
「秘宝ってことですか?」
この世界に眠る秘宝、古代種族やら神やら悪魔やらが残したとされる宝。拓也はマルチがゴーレムだというなら十分に秘宝という奇跡を体現してると思った。
「そう秘宝というやつだ」
「マルチが…秘宝」
呟きながらなんてありがたみのない秘法だろうと思う。
「たいしたことないと思うかもしれないが人間らしいゴーレムというのはすごいぞ。模造品のセリオと比べてみればはっきりわかる」
「セリオ?前も言ってましたが…」
拓也は聞いてみることにした。
「来栖川は企業だからマルチの研究結果も儲けるために使うってことだ」
「もしかして兵器ですか?」
「その通り、生命の魔石を必死に模造してよりによって兵器を作る、人間とは因果な生き物だ」
言って源五郎は哀しそうにため息をついた。
「少し哀しいですね」
拓也も素直に源五郎にあわせる。
「まあ、それはともかくマルチがすごいってことはわかっただろう」
「ええ」
「で、そのマルチが狙われているんだよ」
狙われている、その一言で雑談から仕事に話が移った。
「敵はだれなんですか?」
「まず帝国だ。皇帝が生命の魔石を使えば不老不死の力を得られると考えてるらしい」
「帝国、そんなやばい仕事だったのか…」
「次に共和国だ。女王の秘宝狩りのターゲットに入ってるらしい」
「共和国もか…」
秘宝なんだから仕方ないな。そんな思いが拓也の胸をよぎる。
「そして闇の王と闇の声だ。好事家が依頼を入れたらしい」
「…どおりで依頼料が高いわけだ」
拓也は言いながら貧乏くじを引いたな、と思った。
この三つの勢力全てを敵にまわして明るい未来が待ってるとは思えない。
105依頼:02/03/01 21:29 ID:Orudgz/Z
「問題はこの3者全てがマルチではなく生命の魔石を欲しがってることだ。つまりマルチを殺して動力である魔石だけ奪おうとしているということだ」
「……秘宝は命よりも重い。そういうことですか」
「奴らからマルチを匿ってきたがもう限界だ。そこでマルチを今度のレフキーの学会で発表し、魔術アカデミーの研究対象にさせる」
「そうか、魔術アカデミーなら完璧に治外法権だ」
魔術アカデミーは古くからの権威を持ち、魔法使いたちの総本山とも言える存在であり帝国も共和国も闇の勢力もそう簡単には手出しを出来ない。
「本当は普通の人間として生活させたかったが仕方がない」
「でもなんでそんな話を?」
「共和国が本格的に動いてないのと、帝国と闇の勢力が牽制しあってるのもあるが今回のマルチの移動はうまく奴らの目を盗んだおかげで
たいした刺客も来なかっただろう」
「…まあ、その3つが絡んでる割には」
拓也は自嘲気味に言った。正直、そのたいしたことないやつらに大分苦戦したからだ。
「レフキーについてから発表までの間が本当の戦いになるはずだ。レフキーにつくまでに僕を殺すと目立ってしまうから奴らは鳴りを潜めてるが
今も虎視眈々と機会をうかがっているはず」
「……」
それを聞いて拓也はあたりをなんとなく見渡した。
「月島君、マルチを守ってやってくれ」
「仕事の延長ですか」
レフキーにつくまでの護衛が仕事だった。それを発表まで守り抜かなければならない。
つまりそれは本気の刺客を相手にしなければならないということだった。
「君ならマルチを全力で守ってくれる。そうだろう?」
「……」
本来ならこんな危険な分の悪い仕事は降りるはずだった。
しかし、拓也はもうマルチのことを見捨てられないほどに愛着を持ってしまっていた。
だから言ってしまった。
「わかりました」、と
【マルチ、秘宝が狙われている】
【拓也、源五郎の依頼を受ける】
106依頼:02/03/01 21:31 ID:Orudgz/Z
前すれ144・145からの続きです。
不味いところがあったら言ってください。
107交差する道:02/03/03 01:56 ID:HvmDMraQ

「これでよしっ、と……」
 空になった馬小屋をざっと眺め、浩之は額の汗を拭う。
 セリオが上手く誘導してくれたおかげで、浩之は何とか目的を達成できていた。
 馬の手綱を全て切り、なんとか外に引っ張りだすと、固めて酒を含んだ布で繋ぎ、それに火をつけたのだ。
 まぁ、15頭の内、半分くらいしか連れ出せなかった上、火をつけることができたのは、
 その内のさらにわずか3頭だけだったのだが、幸いその馬たちが大暴れしてくれたおかげで、
 他の馬たちもパニックに陥り、期待通りに村目掛けて走り出してくれたのだ。
「さて、セリオと合流しなきゃな……」
「いたぞっ、あそこだ!!」
 いきなり、予期しない声を浴びせられ、浩之は慌てて振り返った。
 見れば、そこには槍を手にした帝国兵たちが五人、血走った目で浩之を睨んでいる。
「貴様っ、よくもやってくれたな!!」
「ぶっ殺してやる!」
「じょ、冗談じゃねぇぜ!」
 一斉に跳びかかって来た男たちに背を向け、浩之は一目散に逃げ出した。
 帝国兵たちが来る事は予想の範疇だったが、思ったより時間が掛かった為、隠れる暇がなかったのだ。
 さらに、馬小屋を曲がった所で、向こうから来た帝国兵とばったり鉢合わせしてしまう。
 慌てて方向転換をする浩之だが、おかげでセリオとの待ち合わせ場所から、どんどん遠ざかってしまった。
(くそっ、やべぇな……このままだと、いつか捕まっちまう……)
 足は浩之の方が速いのだが、いかんせん向こうは人海戦術が可能なのだ。
 その上、一歩踏み出すたびに、背中に鋭い痛みが走る。傷口が開いたのか、熱いものがじんわりと広がるのがわかった。
「いたぞっ、あそこだっ!」
 その声と共に…………一本の矢が、浩之の足を貫いていた。
「………ぐっ!」
108交差する道:02/03/03 01:57 ID:HvmDMraQ
 
 射抜かれた足を引きずり、なんとか一軒の家の裏に回ったものの、もはや浩之は限界に来ていた。
 焼け付くような背中の痛みに加え、矢は完全にふくらはぎを刺し貫いている。
「はぁ、はぁ………ちっ、ここらが年貢の納め時か」
 その場に座り込むと、浩之は苦笑した。
 半ば無理やり佐祐理に連れられて来たこの旅だったが、それほど悪くはなかったと思う。
 どたどたと足音が近付き……浩之は自分の最後を覚悟する。
(まぁ、そんなに悪い人生でもなかったが、ちょっと終わるのが早すぎたかな……
あかりの奴、修行の旅にでてるみたいだが、今どうしてるかな……俺が死んだって聞いたら、泣くかもな。
佐祐理さんは無事に脱出できたかな……捕まってなきゃいいけど。
志保は……殺したって死ぬような奴じゃないから、どうでもいいか。あんな奴でも、俺が死んだら泣くだろうか?)
 何となく、志保は一人だけ怒りそうな気がして、浩之は笑いが込み上げて来るのを感じた。

「…………あなた、何やってるの?」

 いきなり、聞き覚えのある声をかけられ、浩之は顔を上げた。
「……あれ、ルミラ?」
「あれ、じゃないわよ。セリオはどうしたの? それから、随分怪我してるみたいだけれど」
 浩之の服にまで滲んでいる血に、ルミラは顔をしかめる。
 勿体無い、と口の中で呟いて、ルミラは浩之に手を貸して立ちあがらせた。
「セリオとは、はぐれちまった。馬を突っ込ませたまでは良かったんだが、兵士に見付かってな……」
「無茶するからよ……しょうがないわね……私に治療術でも使えたらよかったんだけど」
 止血の魔法と、痛覚緩和の魔法を浩之にかけてやりながら、ルミラは嘆息した。
 大抵の高位魔族の例に漏れず、ルミラもめったに自分が怪我をしないため、治療の術を覚えていないのだ。
 簡単な応急処置の術なら2,3知っているが、とても今の怪我に間に合うような術はない。
109交差する道:02/03/03 01:57 ID:HvmDMraQ

「いや、大分楽になった。すまねーな」
 ルミラに肩を借りながら、浩之は取り合えず安堵していた。助かってみると、やはり死ぬのは惜しく感じる。
 家の影から出てみれば、路地に焼け焦げた死体が三つほど転がっていた。
「あなたの後姿が、チラッと見えたからね」
「そっか……志保たちは?」
「あなたが放した馬を捕まえて、それに乗って脱出しようとしてるわ。蝉丸たちは知らないけど」
「ルミラはなんで戻ってきたんだ?」
 浩之に問われ、ルミラはしばし沈黙する。
「どうも……きな臭い臭いがするのよね………近くに、同属の気配がするのよ」



「岡田様、潜伏していた共和国の特務部隊を発見しました!」
「そうか……」
 ようやく岡田は重い腰を上げた。
 この場に、澪=ラルヴァはいない。
 吉井が倒された時点で、ラルヴァに救出に向かってもらったのだ。
 正直誤算以外の何物でもないが、いくら岡田でも、同僚を……それも苦楽を共にした吉井を、見殺しにはできなかった。
 剣と銃を手に、岡田はその小屋を後にする。
「共和国特務部隊……その実力の程、確かめさせてもらうわよ」
 そうひとりごちながらも、岡田は奇妙な胸騒ぎを禁じえなかった。
 岡田、吉井、松本……『三銃士』がここまでバラバラに行動した事など、今までなかった。
(……ちっ、どうしてこう……嫌な事ばかり!)
 舌打ちと共に、岡田は走り抜ける。
110交差する道:02/03/03 01:58 ID:HvmDMraQ

「……ふむ」
 壁に背を預け、気絶している吉井を前に、澪=ラルヴァは軽く腕を組んでいた。
「殺さないか……冒険者にしては珍しいくらい甘いな。特務部隊ならなおさらだ」
 周囲では、暴れ馬を押さえようと慌てる兵と、連絡をもたらす兵とで大騒ぎになっていたが、
 丁度吉井が寝かされていた場所は、家の陰になっていて、外からは見えにくい。
「うっ……く」
「気付いたか」
 澪=ラルヴァはくい、と眉をあげると、うっすらを目を開いた吉井に顔を近づけた。
「ここは…そうか、負けたのに生き残ってしまったか……」
 自嘲気味に呟く吉井だが、澪=ラルヴァは小さく笑うと、その傍に座り込んだ。
「吉井よ、心配する事は無いぞ」
「…………!?」

 ずぶり………と、澪=ラルヴァの細い手が、自分の腹に突き刺さるのを、吉井は呆然と見ていた。

「か……は……」
「くくく……生身で味わう女の中は、また格別なものだ……」
 内臓を掻き回され、激痛に身悶えながら、吉井は澪=ラルヴァを睨みつける。
「な……何故……」
「お前が死ねば、岡田はより追い詰められ……激しく全てを憎悪するだろう……我々の思惑通りにな」
「くそ……お、岡田……松本……」
 ずぶり、と吉井の中から手を引き抜くと、澪=ラルヴァは鮮血を舌で舐め取る。
「三銃士の一人、吉井は共和国特務部隊に殺された……くくく、やはりこうでなくてはな」
 痙攣している吉井には構わず、立ち上がった澪=ラルヴァの目に、ふと二人の女が見えた。
111交差する道:02/03/03 01:59 ID:HvmDMraQ

「むっ……あれは」
 一人は、どこかの貴族か、富豪の娘……そしてもう一人の娘は、どこか不可解な気配をまとった娘だ。
 だが何より、その娘の胸元に輝いているのは………
「あれは、間違いなく秘宝……なるほど、そういうからくりか」
 思わずにやりと笑うと、澪=ラルヴァは二人の娘がいる茂みに、そっと近づいていった。
 手に付いた血は、すでに無い。
 この幼い子供の身体なら、容易くあの二人に近づき、『本物の秘宝』を手にできるだろう。
「くく……帝国になど、あの呪われた宝石で充分だ。真に力ある秘宝は、我らが手にするべきだろう」
 その表情が一転、怯えた少女のものへと変わった。澪は震えながら、がさがさと茂みを掻き分ける。
「誰っ!」
「舞……この子、あの茜さんが言っていた……」
「あの、助けて下さい……帝国兵に捕まっていた所を、やっと抜け出してきたんです……」


 吉井の意識は、半分闇に沈んでいた。
 腹に開いた穴から、血がどくどくと溢れていくのがわかる。
(………あたし、もう死ぬのかな……つまらない死に方だな……)
 浩之と正反対の感想を浮かべつつ、吉井が意識を手放しかけたその時だった。

「………まだ、生きていますか?」

 腹の激痛が、ほんわりとした温かさに取って代わっていく。
「あんた、は………?」
「あなたに聞きたい事があります……ですから、まだ死んでもらっては困ります」
112交差する道:02/03/03 02:04 ID:HvmDMraQ
 
 豊かな金髪を、みつあみにしたその少女は、すっとかざしていた手を下ろした。
 そうして、吉井は腹の苦痛が、ほとんどなくなっていることに気付いた。
「……凄い……」
 ようやくはっきりして来た意識の中で、吉井はポツリと呟く。
 治療術というのは、魔法の中でも特に高度なものとして分類されている。
 だが、吉井は自分が死にかけていたと自覚していた。
 これだけの重傷を癒せる白魔術師は、帝国首都で捜し歩いても、10人はいないだろう。

「あんた、運が良かったよ。茜ほどの白魔術師じゃなければ、それだけの傷、どうにもできなかったろうからな」
 治癒魔法を受けた時の、独特の疲労感を感じながら、吉井は茜と呼ばれた少女を見上げた。
 だが、彼女の瞳は、氷山よりも冷たい氷で覆われているようだった。
「帝国将軍のあなたなら、ご存知でしょう……澪に……あの子に何をしたのか、話して下さい」
 凍えるような声で、彼女は吉井に囁く。
 その手にナイフが握られているのを見て、吉井は唾を飲み込んだ。
「……返答次第では、やっと閉じたお腹の傷が、再び開く事になりますよ」
「お、おい茜、それは……」
「あなたは黙っていてください……帝国将軍さん、聞かせてください」
 すっ、と茜の瞳が細められるのを見て、吉井は諦めと共に口を開いた。
 殺されかけた時点で、ラルヴァに対する義理などというものは、星海の彼方にまで飛んでいっていた。


【浩之、ルミラと合流。ラルヴァを追跡】
【岡田、蝉丸たちの所へ】
【澪=ラルヴァ、吉井を殺害(したと思っている) その後、澪の振りをして舞、さゆりんと接触】
【吉井、ラルヴァに殺されかけるも、茜に治療してもらう】
【茜、吉井を尋問】
113長瀬なんだよもん:02/03/03 02:09 ID:HvmDMraQ
こんばんは、長瀬です。
吉井の受難、そして茜さんが悪役っぽくなってしまいました。
……どうか許してください(ぉ

それでは、誤字脱字抜けその他ありましたら、指摘よろ。
114動かぬ者と走る者:02/03/03 21:34 ID:o373hgvY
村から少し離れた森…
蝉丸、彩、健太郎ら第二班はそこへ身を隠し、
第一班が暴れ出したところで森を抜け、村へ出て陽動作戦を開始する。
…はずだった。
「哨戒している兵がいたとは迂闊だったな…」
「どーするんだマジで…どんどん増えていくぞ…」
「…………」
蝉丸達第二班は森を移動中、哨戒中の兵にバッタリ出くわしてしまった。
敵の数がさほど多くなかったため、容易に撃退できた。

しかし、敗残兵が信号弾を打ち上げたところで、事態は急転した。
みるみるうちに哨戒部隊が集結…結果、十数名の帝国兵と戦う羽目になった。
しかも頑丈な鉄鎧に身を包んだ鋼鉄兵…

「いいか、俺は前衛で敵兵を捌く、彩は後衛で何とか踏ん張ってくれ」
「俺は?」
「健太郎…俺が突破口を開くから、お前は七瀬達のところへ行け」
「なるほど、援軍を呼んで来いってわけか?」
「違う、それだけでいい」
「はぁ?」
蝉丸の見当違いな発言に驚愕する健太郎。
「どうして…どうしてだよっ!」
「これは元々、俺達共和国と帝国との戦いだ。これ以上お前達を巻き込みたくない」
「強がるなよっ! どうやってあんなに大勢の帝国兵を倒すんだよっ!」
「俺達には力がある」
蝉丸はぼろぼろに刃毀れしたなまくら刀を見せ、
彩は過剰な魔力消費でふらふらになるのを必至で抑え、微笑みを見せる。
「あんたら…」
115動かぬ者と走る者:02/03/03 21:38 ID:o373hgvY
ガッ!
拮抗する刀と剣…
敵兵を蹴倒し、活路を開く蝉丸。
「さあ、本隊が到着する前に行ってくれ!」
「…絶対に戻ってくるからな」
邪魔な兵を突き飛ばし、木々の間を疾走する健太郎…
「ひとり逃げたぞっ!」
「追えっ!」
帝国兵は慌てて駆け出す。
「させるかっ!」
蝉丸の鉄拳が追撃しようとする兵を殴り飛ばす。
鋼鉄を殴った拳からは、ポタポタと血が滴る。
「ここからは先は一歩も通さんぞ! 通るならこの俺を倒してから行け!!」
「……うおぉぉぉぉぉぉっ!!」
一人の兵が蝉丸めがけて突進する。
刀と甲冑が激しくぶつかり合い、甲高い音をたてる。
「くっ…そぉっ!!」
蝉丸は兵の足を払い、鋼鉄の鎧と共に兵の体を地面に叩きつける。
間髪いれずに槍兵が蝉丸に襲いかかる。
動体視力を鍛えられている蝉丸にとって、この程度の槍兵など、脅威ではない。
鋭い矛先をすり抜けるようにかわすと、身をよじるようにして腕刀を繰り出す。
「がっ!?」
槍兵は顎に強烈な一撃をもらいよろめき、地に沈む。
「どうした帝国兵!! 次はどいつだ!? かかってこい!!」
116動かぬ者と走る者:02/03/03 21:40 ID:o373hgvY
(三行空けでお願いします…)
五人の剣士は、比較的ひ弱そうな少女を追い詰めていた。
「へぇ…いい女だな」
「変な気を起こすな、相手は術士だぞ」
くぐもった声で会話する鋼鉄の兵達。
話の断片を聞き、怯える彩。
「なに、捕まえちまえば好き放題だぜ」
「それはそうだが…あの娘、自然術士だ…しかも魔力を殆ど使い切っている」
「じゃあなおさら好都合じゃねーか」
躊躇する兵三人を残し、二人の兵は彩のほうへ歩み寄る。
目障りな枝を剣で薙ぎながら…
「おい、自然術士のどこが危険なんだ?」
残った兵のひとりが、博識な兵に訊く。
「自然術っていうのは元々、自然物の力を借りる術なんだ…」

「……樹よ…森の守護者よ…全てを砕く槌となれ…」
彩の呪文に応えた木の幹は水のようにしなやかな動きでゆっくりと槌の形になる。
二人の兵は気にせずに、小枝を切り払いながら詰め寄る。

「だからもし、魔力が無い状態や、未熟な術士が使うと―――――」

次の瞬間、目の前にいた二人が視界から消える。
木の根に体を打ちつける二人の男……強固な鋼鉄製の鎧は無残にもひび割れている。
二人を葬った木槌は怒り狂うように暴れている。
それを見て一番驚いていたのは、術を発動させた彩本人だった。

「自然物が暴走を起こす…」

どうやら木は、突然の訪問者にご立腹らしい。
117名無しさんだよもん:02/03/03 21:40 ID:po8CVx+E
メンテ
118動かぬ者と走る者:02/03/03 21:41 ID:o373hgvY

(またまた三行空けでお願いします)
「はぁ…はぁ…」…
健太郎は走る…
後ろを見ず、足元も確認せず、前だけを見て…
木の根に躓き、何度も転ぶ。
地を蹴るたびに木の葉が舞い、鎧がガチャガチャと虚しく音をたてる。
本当はあそこに残って三人で戦いたかった。
あのとき、逃げてしまったのが悔しかった。
「…ちくしょう…俺にもっと力があれば…ちくしょう…ちくしょう…」
しかし健太郎は走る…
今はそれしかできないから…

【蝉丸・彩   帝国兵と交戦中】
【健太郎    七瀬達の所へ】
【岡田     蝉丸達の所へ】
1191 ◆mYCw53h6 :02/03/03 21:44 ID:o373hgvY
ども、1です…
トーナメントやら一連のお祭りから抜け出せたので続きを書いてみました…
誰の支援をしていたかは内緒(w

間違いか何かあれば、ご指摘お願いします。
そして、続きは次の(略)
120名無しさんだよもん:02/03/04 01:44 ID:QVgRXAMG
ほしゅ
121予想と期待と現実と:02/03/04 01:58 ID:VQaEZn33

「飯にしよう、って何、食べるの?」
 その質問に不敵な笑みを浮かべ名雪に近づく北川。
「……へへッ! 食べるのはお前だ〜〜っ!!!」
 突然、絶叫と共に北川は名雪に飛び掛ったっ!!
 宙を舞う北川。その姿は、カエルの様で――なんて、無様。

「私のお母さんの事、まだ覚えている?」

 その言葉にびくっ、と反応し、失速した。
 秋子さん。内側から吹き飛ぶ人。鼠に全身包まれる人。そして、丸焦げの鼠。――走馬灯の様に流れる思考。主に、食欲が失せる様なのばっかりだが。ベッドの手前で哀れにも北川は床に全身を打ち付けるのであった。
 そして、北川はそのままの体勢で、いやまさかハハ今のは冗談だお約束のボケだろ本気なんかじゃぁないよ全然、と早口で言った。

――ただ、その光景を異常とも取れる眼光で睨んでいる視線が一つあった事に気付けた人間は居たのだろうか?

「同志諸君」
 その重く、響く声に全員が視線を向けた。壁に寄り掛かかっている男に。
「この様な状況で遊んでいられるのも一つの強さであろう。だが、今は考える時である。各自、気付いたことを述べたまえ。……まずは、同志名雪。頼む」
 ベッドに腰掛けている名雪に視線が集まる。
「あのね。ねずみの天敵を放ったらどうかなぁ? ねこさんとか、蛇や、梟も、たくさんいた方が楽だもんね〜」
「へぇ〜、梟も鼠を食べるんだな……なら、イタチなんかも……」
 無邪気に話し込む二人。
「……次。名倉女史。頼む」
 苦笑しつつも口元に笑みを浮かべ、大志は言った。
 丁度、扉から最奥に位置する場所に座り、俯いていた友里だったが、少し、考えた後に言った。
「……特にないです」
「……そうか。仲間の死は悲しいかも知れんが、今は悲しむ時では、無い。判るな。では同志北川。頼むぞ」
 名雪と鼠のおいしい調理法を検討していた北川だったが、すぐに真面目な顔になって言った。
「ああ……気になる事と言えば……一つあったな」
 そして北川は、落ちていた布の切れ端が青の錫杖に現われた男のモノと似ていた事を話した。それで、もしかしたらその人が友里さんの仲間かも、と言った。
122予想と期待と現実と:02/03/04 02:07 ID:VQaEZn33

――友里の表情が絶望に染まった。見てとれるように。

「……決定的とは言えんな。それに何故、あそこに現われたのかも解せん。名倉女史に聞くが、青の錫杖へ行く動機があったのか?」
「いえ、どうして鼠達がその場所へ行ったかは判りません……」
 大志は、目を瞑り。一つ溜め息を吐いた。
「鼠達、ではない。名倉女史の仲間の事だ。そもそも何故鼠退治に向かったのだ?」
 友里は、素直に言った。――仲間と食事中に、店内に倒れこんできた人。駆け寄る人達。内側から破裂する肉塊。なんとか退ける事に成功した彼女等(彼女等以外は全員重傷だったそうだ)はそのまま鼠退治に来た。らしい。
 ああ、俺たちと似てるなぁ、と北川は呟いた。――しかし、大志はその双眸を細めていた。
「店に倒れこんできた時点でもう、死んでる、と思いましたから……なら、それは本人の意思ではなく、鼠の意思で、店に入った。という事だと思うんです」
「ふむ。そうか。我輩も事の一部始終を見ていた訳ではないのでな。……しかし、今の話がホントなら鼠、おそらくあの銀色が、何か目的を持って動いてる事になるな」
「目的……? 確かに、何か引っかかるんだよなぁ。まるで下水口に誘い込む為に店に現われてるとしか思えない……」
「同志北川。そもそもあんな電撃も炎も効かない鼠が自然発生するハズが無い。更に、わざわざ人がたくさん居る場所に現われる理由……」
 そこで大志は言葉を切ってしまった。そして何かを思案したアト、言った。

「ところで、だな。秘宝を知っているか?」
 いきなり全然関係ない話を持ち出した大志だったが……それに突っ込む人間は、残念ながらここにはいない様だ。
「秘宝? ってあの秘宝の事か? あんたまさか……あんな存在しないモノがこの世にあると本気で思ってんのか?」
 北川は鼻で笑う。秘宝――神話。伝説。お伽話。伝承。言い伝え。と云った具合の世界に登場する宝。古代遺跡に眠っているとか、神や悪魔が残したとされる宝。
「どんな話を知っている?」
 大志の意味ありげな視線を受け、答える北川。

「……そうだな。有名なやつで『秘宝塔』だろ。この近くにもあるみたいだし。それから悲愴の伝承。アトは神の獣。あの、”奢った人間に制裁を与える為、神が放たれたセイジュウが地上を浄化した”って話ぐらいかなぁ……」
123予想と期待と現実と:02/03/04 02:08 ID:VQaEZn33

「あっ! 悲愴の話なら知ってるよ! 端的に言うと、”とある昔。大木から落ちた少女を見捨てた男の子”の話でしょ? それでその大木を天使が削って創造したのが悲愴だって、お母さんから聞いたよ」
「結構長い物語なんですよね……でもそれは悲愴の逸話の一つで、他にも話があった様な……」
 名雪の話に相槌をうつ、友里。そこで北川が口を挟む。
「ああ……知ってるぜ。確か、”昔、鬼と人間が恋をした。けれでも、二人は追われる立場で、ある満月の夜、人間を逃がす為囮になった鬼が千の槍、呪術の槍で貫かれ、羽になってしまった”って筋書きの話。で、その呪術の千の槍が結晶化したのが悲愴って話だったよな」
「それですね。そのアトの続編の話もありましたよね。遺された者達って、感じの話で……一体、誰が考えたんでしょうか」

「――とまぁ、秘宝には様々な解釈が存在する訳だが。中には逸話も多くあるのも事実だ。ちなみに神の獣の話は実は、聖獣ではなく聖銃って説が今は有力……と言っても、秘宝に関する話では氷山の一角に過ぎんがな」
「で? その秘宝がどうしたんだ?」
「ああ。秘宝に関する伝説でこういうのがある。”ありゃぁ、人間の皮を被った化け物だぜ。見ただけでゲロっちまう”ってのがな。ちなみにこれはその秘宝を見た、賢者の言った言葉だがな」
「……なんか、厭な感じな賢者様だな……って、どういう事だ? その秘宝は生きてるってのか?」
 北川がまくしたてるが、大志は落ち着いた様子で、
「いや、これは厳密に捉えれば秘宝と称されるモノでは無いかも知れん。なにせ、我輩がこの話を知ったのが二、三年前の出来事だからな、情報が足りん」
 何の話をしているの? といった感じの名雪と対照的に友里は押し黙っていた。

「――さて、この話には続きがあるのだがな。どうやらお喋りの時間は終わりの様だ。先に、この現実をどうにかせねばな」
 大志が一歩前に出る。その視線の先に、全員が注目した。

――壁にヒビが入っていた。細かい破片も散っている。更に耳をすませば削る音も聞こえてきそうだ。

「じょ……冗談だろ……?」
 北川は、目を見開く。呆れた口調だ。
 当然かも知れない。鉄製の扉の近くの壁からヒビが広がってきているのだから。おそらく、鼠が壁を崩しながら進んでいるのだろう。
124予想と期待と現実と:02/03/04 02:10 ID:VQaEZn33

「同志諸君。このぐらいの危機を自力で突破出来ない様では、この先の冒険の結末も知れているというものだ」
 大志はこの状況――いつ壁を突き破って鼠が襲ってくるか判らない中――でゆっくりと、諭すように言った。

「我輩の見立てでは、壁に空く穴は小さいものだろう。しかし、楽観は出来まい。何が起こるか判らないからな」
 大志の言葉を皆は黙って聞いていた。――その間にも壁のヒビは増していく。
「同志名雪。我輩の魔術もこの狭い空間では本来の力を発揮出来まい。……悪いが前線で頑張ってくれるか?」
「う〜ん。人間相手だったら大丈夫なだけどね。でも、頑張るよ〜。アト、ね。お母さんが言ってたけど、引き際を見極める力も冒険者には必要ですよ、って」
 と、笑顔で。言った。――大志は、そんな名雪の肩を両手でガシッ、っと掴み、言った。
「同志名雪。今の言葉、しかと心得たぞ……っ!!」
 名雪は、ふぁいと、だよ。と微笑む。それから大志は北川の方を見て、言った。
「同志北川の業は一撃必殺だ。一発で数匹倒しても、意味はない。銀色の鼠が現われたら、……頼んだぞっっ」
「任せとけよ? 一瞬で終わるからさ」
 北川が笑ってみせる。それから大志は名倉友里の方を見て、言った。
「名倉女史。もし、我等が見逃したザコ鼠が同志北川に近寄ってきた時は、守ってやってくれ」
 友里は頷く。――手に握り締めた短剣が小刻みに震えていた。

「では、同志北川。常に最悪の事態を想定しておくのだ。――後は頼んだぞ」
 ”ウシロハタノンダゾ”という言葉に多少の違和感を感じたが、それを閉じ込め。北川は、自分の『世界』に入りながら、『的』に意識を集中していった。

 的――未だ見えぬ、銀色に。
125名無しさんだよもん:02/03/04 02:18 ID:VQaEZn33
【北川・名雪・大志・友里/立て篭もったていた部屋】
【何かが部屋の壁を突破してきようとしている】

お話としては『襲いくる敵』の続きです。
あんまり影響はないとおもうんですけどねぇ……
変なところがあったら、指摘お願いします。

ってゆーか後悔。真面目に支援しとけばよかった……
126名無しさんだよもん:02/03/04 14:33 ID:D9SN8byg
dat落ち・・・してないよね?
保全age
127名無しさんだよもん:02/03/04 20:44 ID:SeUQut2Y
age
128逃亡者と逃亡者候補:02/03/04 21:59 ID:x6+BqKAp
「綾香、なんでこんなところにいるんだ?」
船に戻った私を待ち受けていたのはこともあろうか、来栖川綾香だった。
「やっほー好恵、やっぱり会えたわね」
手なんか振りながら言ってくれる。
「質問に答えろ。何しに来たんだ?」
構えをとる。綾香のことだ。海賊退治などといいかねない。敵になるのだったら容赦はしない。
最後にしあった時は私の負けだったが、あれから私も成長している。
あっさり負けはしないだろう。
「ちょっと好恵、別に今日は争いに来たんじゃないんだからもっと楽にしてよ」
綾香が笑いながら言った。まあ、嘘をつく奴ではない。
「で、なんでここにいるんだ?」
構えをといて綾香に3度目の質問をする。
「ちょっと犬飼に会いに来たのよ」
「犬飼さんに?」
あのおっさんは素性がいまいちわからなかったが綾香と関係があったのか?
「そうそう、あの裏切り者を今日こそぎったぎたにしてやろうと思ってね」
「裏切り者?なんのこと?」
全く話が読めない。
「はぁ、犬飼のこと全く知らないみたいね…」
綾香がオーバーなアクションをとりながら言う。
なんか、むかついた。
「まあ、いいわ。説明してあげる」
「……」
なんか釈然としなかったがおとなしく聞いておくことにする。
129逃亡者と逃亡者候補:02/03/04 21:59 ID:x6+BqKAp
「犬飼は元々来栖川の学者だったのよ」
「…来栖川の関係者だったのか」
どこかの学者であるとは思っていたが来栖川だったとは…
「結構優秀な学者だったみたいよ」
「そうだろうな」
犬飼さんはあまり作戦会議に加わろうとはしなかったがたしかに機知に富んだ作戦を考えていた。
「でもある日突然、自分の研究結果と来栖川研究部の研究資料をもちにげしたのよ」
「…持ち逃げ?」
「そうよ。で、持ち逃げしたものを全部、共和国やら帝国やら成金やらに売り飛ばしたってわけ」
「ほう」
「おかげで無駄になった研究もたくさんでるわ。遺跡の発掘品の隠匿で御上に絡まれて発掘品を没収されるわ。大変だったんだから」
綾香が全然困ってなさそうに言った。
「大変だったんだな…」
「なによりHMX計画が大幅に遅れたのが痛かったわね。さすがにマルチは没収されなかったけど、
 あの事件がなければセリオだってもう量産大勢に入っててもおかしくないのに」
さっきまでと違って今度は本当に悔しそうだった。
「で、犬飼さんをどうするんだ?」
話を聞いた限り、犬飼さんに制裁を加えるつもりなんだろう。仲間をみすみす引き渡すわけにもいかない。
130逃亡者と逃亡者候補:02/03/04 21:59 ID:x6+BqKAp
「もちろん、とっつかまえて痛い目にあってもらう、といいたいところだけど」
「だけど?」
「もうとっくに逃げちゃったみたいね」
「え?」
「書き置きがあったわよ」
…犬飼さんが逃げた?
「書置きだと!?」
「やばそうなんで逃げるって…
 たぶん、この作戦は失敗するだろうからこのメモを見る余裕があるんだったらとっとと逃げた方が懸命だそうよ」
…ああ、その通りだ。作戦は失敗した。
犬飼さん、なんで失敗するとわかってて止めてくれなかったんですか?
「好恵、犬飼の言うとおりもう相沢一家は終わりよ。
 どうせ、あんたも敗走してきたんでしょ?
 いずれ自警団がやってきてこの船も拿捕されるわよ」
綾香が言った。
「そんなことあるわけ…あるかもしれない」
悔しかったが事実だ。そうやらキャプテン達はまだここに戻ってきてないようだ。
たぶんキャプテン達が戻ってくるより先に自警団がここに来るだろう。
ヘタレキャプテン、そうしてこんなことに…
「で、好恵、あなたはどうするの?このまま海賊の一味として捕まるの?」
「わ、私は…」
【犬飼、いちはやく逃亡】
【綾香、目標を失う】
【坂下、愕然とする】
131名無しさんだよもん:02/03/04 23:36 ID:4/yyDt1F
「わ、私は…」
「ほら、これ見てみなさいよ」
 狼狽えている私に綾香は持っていた紙を渡した。
 そのメモには確かに犬飼さんの字だった。
「ほら、さっさとしないと捕まっちゃうわよ」
 綾香が私の不安を煽る。
 と、そこで私は妙なことに気が付いた。
 このメモ、何かがおかしい。
「好恵!」
 綾香が私を呼んでいるがそんなことはどうでもいい。
 これはひょっとして……。
 メモを何度も読み返す。
 間違いない、これは。
「綾香」
 私は綾香に話しかける。
「ふぅ、ようやく結論が出たみたいね。で、どうするの?」
「あぁ、私はこのままみんなを助けに行く」
「はぁ?ちょ、ちょっと好恵、正気なの?」
 綾香が慌てた口調で言ってきた。
「私は正気だ。じゃあ、そういうことだから」
 私はそう言うと綾香を置いて街の方へと走り出した。
「好恵!待ちなさいってば!」
 後ろから綾香の制止の声が聞こえてくるが無視する。
 あのメモに残されていた犬飼さんの私達へのメッセージ。
 今はそれにかけるしかない。
 頼みましたよ、犬飼さん。

【好恵 街に戻る】
【綾香 おいていかれる】
132そんな猫(1):02/03/05 00:29 ID:x05unfWn
 くん、と微かに鼻をひくつかせると、夜露のにおいがする。
 足元に感じる石畳の凹凸は、おそらくびっしょりと濡れているのだろう、いつもと違う足音がした。
 この季節にしては暖かく、空気のやわらかさを伴う湿度の高さが感じられる。
 -----霧が出ている。そう思った。

 心のどこかで鳴り響く、警告の叫び声を信じて飛びだしてきた。
 迷いなど、なかった。
 自分を信じることができなければ、光なくして剣士など出来ようはずもない。

     *     *     *

 みさきは、とくに行くあてもなく徘徊している。
 岩切の手伝いをしようにも、自分は人探しには向かない。
 考えた末に、やっぱりほかの酒場にでも転がり込もうかな、と思ったときに生物の気配を感じた。
 人ではない。
 -----わずかな、獣のにおい。たたずまいには野生を感じさせない落ち着きがある。
 そう思うと同時に、結論が出た。
「たぶん、楓ちゃん」
「は……はい。こんばんは、みさきさん」
 猫の暗視力ですら見分けがつかない濃霧のなか、ずばりと言い当てたみさきに対し、楓は半ば感心しつつ
 驚きを言葉に重ねて答えた。

 ふたりは、盗賊ギルド絡みの顔見知りである。
「あいかわらず、黒猫さんなんだね?」
「はい。これも、修業になりますから」
 そうなんだ、と楓のきまじめさを言外に称えながら、みさきは首を捻った。
「これから、帰るところ?」
「はい、と言いたいところですが……急用が、ふたつ入ってしまいました」
 そう言って、黒猫がため息をつく。普通、そんな猫は居ない。  
 みさきは奇妙なおかしみを覚えて、くすりと笑った。
133そんな猫(2):02/03/05 00:31 ID:x05unfWn

 それを見て、今度は楓が首を捻る。
「……どうか、しましたか?」
「ううん、なんでもないんだよ。これから鶴来亭以外の、どこかの酒場にでも行こうと思っていたから、どうせなら
 一緒にどうかな、って思ったんだけど。残念だよ」
 答えになっていないような、なっているような返事をして、みさきは肩をすくめた。
 ところが、楓の答えは予想外のものだった。
「それなら、ご一緒します」
「お仕事、いいの?」
「たぶん……いえ、きっとこの時間だと、酒場で仕事をすることになりますから」
 そう言いながら、優雅にみさきの足元をくるりと回りこんで、楓は向きを変えた。

「-----仕事のひとつは、冒険者を雇うことです」
「珍しいね」
 みさきは歩いているうちに、いつの間にやら楓を抱きかかえ、更に気が付けば頭の上に載せて歩いている。
 普通、そんな運ばれ方をする猫はいないのだが。
「マルチとかいう物品の捜索を依頼されたのですが、ギルドの人員はあまり裂けませんので」
「浩平くん、大忙しだね」
「悪い冗談を言うことを除けば、朝寝坊だけが最近の娯楽みたいですから」
「寂しい娯楽だね。でも忙しい人にとっては、最高の贅沢だよ」
 そう言ってふたりは、少しだけ意地悪な笑いに時間を費やした。

「……もうひとつは、岩切さんを探すことです。尋ね人が、こちらで先に見つかりましたので」
「ふうん。傭兵ギルドの、槍兵さんだっけ?」
 聞いてないようで聞いている。みさきは、そんなひとだ。 
 楓は自分にない余裕-----鋭利さを隠す茫洋さ-----を少しだけ羨ましく思いながら答える。
「はい。見つからないはずです……姉さんと、交渉中でしたから」
「灯台、もと暗しだね」
 そう答えながら、みさきは立ち止まる。
 鼻を一度だけひくりとさせ、向きを変えたその正面に、酒場の看板があった。
134そんな猫(3):02/03/05 00:32 ID:x05unfWn
 
     *     *     *
 
「ここは……”青の錫杖”ですね」
「うん。楓ちゃんはこの匂い、どう思う?」
 やはり鼠のことは専門家に聞かないと、などとどこかズレた事を口走りつつ、みさきは尋ねた。
「……鼠、ですね。焼いた鼠」
「さっきまで凄かったんだけどね。もう、食べちゃったかな?」
「さあ……普通は、片付けるものだと思いますが……」
 姿が猫になると、精神も猫に偏りはじめる。
 そうならないように自分を律することが楓のいう修業なので、残念ながらみさきに同調することはなかった。
「そうなんだ。もったいないね」

 人の姿なら頭を抱えるところだが、猫ではそうもいかない。楓は少しだけ言葉の温度を下げて、みさきを促した。
「……とにかく、入りましょう」
「楓ちゃん、そのままで平気?」
 少しだけ心配そうに、みさきが尋ねる。
「話す猫の一匹や二匹、ここの店長さんは気にしませんから」
「うん、たしかにその通りだね。でも話すなんて-----」

  -----そんな猫、他には居ないよ、と。
  そう言おうと思った、その瞬間。

 店の裏庭からひとりと-----いっぴきが、出てきていた。
「-----TAIYAKIは、どうするのさ」
 話したのは、猫。 普通、こんな猫はいない。
 連れ合う少女は、迷いを断ち切るように答える。
「-----空腹は最高の調味料、って言葉。知らない?」

  ”そんな猫”は、たしかに居た。
135名無したちの挽歌:02/03/05 00:35 ID:x05unfWn
【川名みさき:雪見から逃亡する途中、楓と遭遇。青の錫杖へ】
【柏木楓:岩切捜索&マルチ捕獲のため雇える冒険者を捜索。塔の住人捜索は、後回しになっています】
【牧部なつみ・ぴろ:帰路の途中】

「温度差」(>>88-94)、「依頼」(>>103-105)、126話「鶴来亭」、133話「かげろう。」の続きです。
楓は65話「魔族の剣」以来ですが、話の間に盗賊ギルドに戻っていることが判ると思います。


毎度。挽歌でございます。
いろいろ意見はあるでしょうけれども、やっぱりまったり書くですよ。

読むと違和感を感じるであろうマルチに関する発言(物品、捜索等)ですが、微妙に真実と違うのは、
”ちょっとした配慮”かもしれません。
浩平が楓に配慮したのか、楓がみさきに配慮したのかは不明ですけれども。
136名無しさんだよもん:02/03/05 03:29 ID:inMkyHr6
あ、タイトル入れ忘れてた。
>>131のタイトルは「転機」でお願いします。
ご迷惑かけてスミマセン
137平穏:02/03/07 01:33 ID:ZkXHgSCT

馬車は、相変わらず揺れが激しかった。

「きゃあ、可愛い〜」
「みちるちゃん、これ食べる〜?」

同席者達の黄色い声を聞きながら、清水なつきは憂鬱に空を見上げていた。
(うぷ……吐きそう……やっぱ、おしるこ30杯は食べ過ぎだったかな……)
眼鏡を外し、青い顔でなつきは目を閉じた。

「FeelingHeart〜〜〜♪」
「わあ、松本、歌上手じゃない」
「ぱちぱち……おこめ券、進呈しちゃいます」

「……クソうるせぇ……カオスの海に沈めるぞ小娘どもが……」
額に青筋を浮かべ、ぼそりと呟くなつきだったが、幸か不幸か、その声は松本達には届かない。

「ふう、歌ったら疲れちゃった……どっこいしょ」

どすん

「……………!!!!」

松本は何故か、なつきの膝の上に座ってしまった。
(…………殺す)
なつきは本気で殺意を覚えた。
138平穏:02/03/07 01:33 ID:ZkXHgSCT

「………あ」
異変に気付いたはるかと美凪が、慌てて身振りで松本に知らせる。
(松本、それあなたの席じゃないよ)
(その人、凄い顔色真っ青です……)
「………あれ?」
(いいからどけぇぇぇぇ、このクソ女あああああぁぁぁぁっ!!)
蒼い顔で、でも口を開けば黒い物体を吐きそうで、なつきは『魔眼』で松本を睨みつける。
全ての生ある者を破壊し、死へと追いやる『魔眼』だ。
(殺す、絶対ぶっ殺す!! カオスロードの力、思い知れ! あんじょう往生しいや!!)
「あ、すいません〜ていうか、顔色悪いですよ〜」

ゆさゆさゆさゆさゆさゆさゆさ

(……あかん、私の負けや……負けやからそっとしといてや……)
効かなかった。
カオスロードになって10年、なつきの完敗だった。
なつきはコンブのように、松本に揺さぶられてぐらぐらと揺れている。
「て言うか、もう顔色、白通り越して、黒いんですけど……」
(ああ、もう限界……これ以上揺さぶられたら、もう死ぬ……)
「ひょ…ひょっとして……お姉さん、アレですか?」
(そうだよ! 気持ち悪いんだよ! テメーわかってるクセに白々しいこと聞くんじゃねーよ!)
「ごめんね、そうとは知らずに無神経に振る舞っちゃって……
 けど安心して、そういう場合に備えて、とっておきのものを用意してあるから」

(がさごそ)
139平穏:02/03/07 01:44 ID:ZkXHgSCT

「はい、おしるこ〜。お腹がすいてたんだよね。私のオヤツあげる。
 ちょっと生ぬるいけど」

「ぐおおおおおぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーっ!」


「この人、どうしたんだ?」
「失神しちゃいましたね……」
完全に意識を失ったなつき(ある意味幸せかもしれない)は、敬介の横に置かれていた。
元凶の松本は、どうしちゃったんだろ〜、と何もわかっていない。
「ひょっとして、お腹すいてなかったのかな?」
「おしるこが嫌いだったんじゃないの?」
好き勝手な事を言い合う松本とはるかの声に、不幸にもなつきは目を覚ましてしまった。
そして、思う。

(………ロウロード……世界は私に冷たいです……うぷ)

元はと言えばレフキーへ向かう途中で、偽装の為に普通の馬車に乗り込んだのがいけなかった。
運悪く、乗り合わせた面子が、彼女らだったのだ。
(しかも……この人は誰?)
そして何故かなつきの横には、カエルのように引っくり返って、うんうん唸っているおっさんが寝かされていた。

……なつきの受難は続く。
140長瀬なんだよもん:02/03/07 01:51 ID:ZkXHgSCT

おしるこはキツイだろ(お約束)

【清水なつき レフキーに向かう馬車の中で、松本たちと遭遇。吐く寸前】


どうも。サバイバル共々、また止まってしまいましたね。
今回は何故かクロマティ仕立てです。
でも、手元に今ないんで、うろ覚えです。変なノリで……スンマソ

では、誤字脱字抜け+異議申し立てありましたら、よろしく。
141名無しさんだよもん:02/03/08 00:54 ID:noDwZhWg
メンテ
142男の決断:02/03/09 01:23 ID:bReINgPX

弾けた閃光が、角から出てきた兵士のひとりを打ち倒した。
ルミラの相変わらずの強さに、浩之は嘆息する。
「っていうかルミラ、あんた一人でこの村の兵士を全滅させるのも、簡単なんじゃねぇの?」
「そうね、村人を皆殺しにしてもいいんだったら、可能だけどね」
目を細め、あっさりと言い放つルミラに、浩之は沈黙した。
ルミラに助けられた浩之は、取り合えず仲間と合流する為、村の出口に向かって進んでいた。
帝国兵を避けて森の中を進んではいるものの、時折今のように不運な兵がまぎれ込んでくる。
「……あら?」
ふとルミラが顔を上げ、訝しげな声を上げた。
「どうした?」
「いえ、今魔力の波動が乱れたような……」

「浩之、ルミラ!!」

いきなりかけられた声に驚いて振り向けば、そこには健太郎の姿があった。
「健太郎! お前、どうしてこんな所に?」
「はぁ、はぁ……蝉丸と彩が、大変なんだ……帝国兵に見付かって……」
幾度も転んだのだろう、その鎧にはあちこちに泥と土がこびり付き、健太郎の顔も傷だらけだった。
荒い息をつきながら、健太郎は悔しげに拳を握り締める。
「俺は、また何もできなかった……あまつさえ逃げ出して……二人を助けなきゃいけなかったのに……っ!」
「……健太郎」
「頼むルミラ……二人を助けてやってくれ!」
「……残念だけど、だめね」
冷たく否定するルミラに、浩之は驚いたように彼女の顔を見詰めた。
143男の決断:02/03/09 01:25 ID:bReINgPX

「どうしてだ!?蝉丸だって彩だって、仲間じゃないか!」
「それはあなた達人間の話でしょう。彼らは共和国軍人よ。魔族の私が何の義理があって、助けなければいけないの?」
 ルミラの言葉に、思わず浩之は口篭もった。
「この際はっきり言っておくけど、私は帝国とか共和国のいさかいに荷担する気はないの。
彼らにしたって、元は舞の秘宝を狙ってここまで来たんでしょう?
敵に回る事はあっても、助ける理由なんか無いわよ」
「……確かにそうだよな。俺が間違ってたよ」
「健太郎?」
 俯いて頷く健太郎に、浩之は戸惑った声をかけた。
「他人を当てにしてたら駄目なんだ。自分が……今の俺が何とかしなきゃ、いつまでも逃げてる訳にはいかないんだ」
 その言葉は、一言一言、心に刻むように紡がれる。

 ぱっと上がった顔は、もはや何の迷いもない、男の顔だった。

「俺は二人を助けてくる……確かに、彼らは軍人だし、これは帝国と共和国の戦いだ。
けど、蝉丸と彩は、確かに俺の仲間だったんだ。ここで仲間を見殺しにしたら、俺は永遠に臆病者のままだ!」
 自分に言い聞かせるようにそう言うと、健太郎は浩之とルミラに背を向け、再び走り出した。
「……いい事言うな、健太郎の奴……という事で」
 ルミラから離れ、浩之は自分だけで立った。
「俺もちょっと行って来る。仲間を見殺しにする奴は、臆病者だからな」
「足手まといよ。下手したらあなたのせいで、死人が出るかもしれないわね」
「…………」
 一瞬で気力を奪われ、浩之は硬直した。
 さすがに自分のせいで死人が出る、とまで言われて、動ける人間はあまりいない。
144男の決断:02/03/09 01:27 ID:bReINgPX

「ルミラさんの言う通りですよ、浩之さん」
「セリオ!」
 ひょい、と森の奥から顔を出したのは、行方不明になっていたセリオだった。
「私ではなく、浩之さんが行方不明だったのです」
「あ……悪ぃ」
 そう言えば、セリオの事ほったらかしだったよな、と浩之は反省した。
「お二人の所へは、私が加勢に行きます」
「本当か!?」
 セリオの意外な言葉に、浩之は思わず声をあげた。
「はい。クルス商会と致しましても、他人に恩を売る機会は逃すなと、そう社訓にもありますので」
「………な、なんでもいいが」
「浩之さんは退避する事だけを考えてください。それでは」
 セリオは一礼すると、さっと健太郎が駆けて行った方向へ走り出した。
 それを見送ってから、浩之は腑に落ちない顔のまま、再び村の出口へと歩き出す。

「……なぁ、ルミラ……」
「ストップ……おしゃべりはここまで。目的のものを見つけたわ」
「へっ?」
 立ち止まったルミラの視線の先に、見知った二人を見つけ、浩之は目を丸くした。
「佐祐理さん、舞!!二人とも、どうしてまだこんな所に……って、その子は?」
 二人の間に、小さな女の子がいた。
 魔術師風の格好をして、怯えた表情を浮かべている。
「浩之さん!無事だったんですね。はい、この子は澪ちゃんと言うそうです」
 浩之と再開し、思わず佐祐理は笑顔になった。
145男の決断:02/03/09 01:28 ID:bReINgPX

「なんでも帝国に捕まっていて、この騒ぎの中逃げ出してきたんだそうです」
「へぇ……大変だったな……ん?」
 その時、ふと浩之は、舞が険しい顔をしている事に気付いた。
「どうしたんだ、舞?」
「……その子、嫌い」
 ぶすっとした顔で、舞は澪を睨みつける。
 その眼光の鋭さに、澪は怯えたように佐祐理にしがみ付いた。
「その子、佐祐理を遠くにやろうとしてる」
「あははー……」
 佐祐理にしがみ付く少女に、ますます不機嫌になる舞。浩之と当の佐祐理は苦笑するしか無かった。
「……いいか舞、いつまでも佐祐理さんべったりって訳にもいかないんだぞ、わかるか?」
「……わからない。でも、この子は気に入らない」
 今にも噛みつきそうな舞に、佐祐理も困った顔をするしかない。
「あははー、どうしましょう?」
「俺に言われてもな」

「解決法は簡単よ」

 次の瞬間、一条の雷撃が、澪の足元を焦がしていた。
「なっ……!」
「ルミラ!?」
 氷河のような冷たい表情で、ルミラは澪を睨みつけている。

「その子を放しなさい、佐祐理。“それ”は悪しき同胞……私の敵よ」
146名無しさんだよもん:02/03/09 01:28 ID:bReINgPX

【健太郎 元来た道を逆戻り。蝉丸、彩を助けに戻る】
【セリオ 蝉丸を救援に向かう】
【浩之&ルミラ 舞&佐祐理組(+澪)と合流】
【ルミラ 澪を攻撃】
147偽りの茶番劇:02/03/10 01:14 ID:VaDXAhdT

狭い密室、脱出経路無し、そして壁には今にも穴が開きそうで、そこからは人間を食らう鼠が入って来ようとしている。
状況は最悪だったが、大志は決して諦めていなかった。
ぴし、ぴし、と石で出来た頑丈な壁が、次第にひび割れていく。
その時だった。

「アルジャーノン……」
ぽつり、と呟いた友里に、大志は鋭い視線を投げかける。
「あるじゃーのん?」
「あ、はい……おとぎばなしに出てくる、知恵有る鼠の話です……」
きょとんとして聞き返す北川に、友里は詠うように、その“おとぎばなし”を口にする。


ぎんいろ、ぎんいろのねずみ
とってもおりこうな、ぎんいろのねずみ
まちのみんなをこまらせる、ぎんいろのねずみ
おじさんも、おばさんも、へいたいさんも、おうさまも、まほうつかいのおじいさんも
ぎんいろねずみにはかなわない

とってもかしこい、ぎんいろアルジャーノン
おじさんも、おばさんも、へいたいさんも、おうさまも、まほうつかいのおじいさんも
アルジャーノンにたべられた
むしゃむしゃぱくぱく
まちじゅうぜんぶ
アルジャーノンでいっぱいだ
148偽りの茶番劇:02/03/10 01:14 ID:VaDXAhdT

「私の故郷に伝わる、他愛もない、どこにでもあるおとぎばなしなんです……
親の言う事を聞かない悪い子は、アルジャーノンに食べられるって……そう叱られるんです」
「……事実は童話より奇なりってか……」
実際にそのアルジャーノンに追い詰められている今は、シャレにもなっていない。
「アルジャーノン……アルジャーノンだと……?」
大志が唇を噛み、必死で何かを考えている。
次の瞬間、とうとう石壁に小さな穴が開き、そこから鼠の鼻面が覗いた。
「げっ!」
だがすぐさま鼻は引っ込み、暗い穴の奥から、赤く光る目が室内の北川達を睨みつける。
とっさに、その目めがけて、銃を放とうとした北川だったが、慌てて大志に押え付けられた。
「よせ、同志北川っ……まだ奴じゃない」
「……あ、ああ」
だが、何故か鼠たちは室内に飛び込もうとはせず、じっとこちらの様子を窺っているだけだ。
「どうしたんだろう……?」
「わからん……」

その赤い目に見詰められ、北川はぞっとした。
銀色鼠ではない……にも関わらず、その鼠の目には、確かに知性の輝きが存在している。
(どういう事だ……まさか知性を持っているのは、銀色鼠だけじゃないのか……?)
その想像は、北川たちの作戦を根底からひっくり返すものだった。
一匹の、知性の高い銀色鼠に統率されている群なら……銀色を倒せば、群は四散する……はずだ。
だが、もし全ての鼠に、高い知性があるのだとしたら……?
(……冗談じゃない、そんな事あるはずない……第一、この下水に住むごく普通の鼠じゃねーか……)
必死で頭の中の想像を打ち消しながらも、北川は込み上げて来る震えを押さえる事ができなかった。
149偽りの茶番劇:02/03/10 01:15 ID:VaDXAhdT

しかし……次の瞬間、唐突に赤い瞳が消え去った。
「え………?」
身構えていた北川、名雪は、いきなり遠のいた気配に、ぽかんとした顔になった。
「ど、どういう事?」
「俺に聞かれても……」
困惑する二人とは対照的に、大志は僅かに目を細めると、友里に声をかけた。
「名倉女史……先ほどと違い、随分落ち着いてきたようだな」
「え?あ、はい……そうですね、まだ何がなんだか……呆然としていた、と言った方が、正しいかもしれません」
一瞬戸惑ったものの、彼女は淀み無く、大志に返答する。
大志はちょっと眉を上げ、しかしそれ以上は何も言わず、名雪の方を向いた。
「同志名雪、外の気配は、どうなっている?」
「うん、もう何の気配も感じないよ。どこかに行っちゃったみたい」
「そうか。ご苦労だが、扉を開けてくれないか?」
大志に頼まれ、名雪は苦も無く重い鉄扉を開いた。
名雪の言った通り、しんと静まり返った下水が、ただ広がっているだけである。
流れ落ちる水の音が反響し、僅かに響いていた。

「……逃げたのか?」
信じられない、と言った声で呟いたのは、北川だ。
「そうみたいだよ」
名雪の声にも、困惑が入り混じっている。
「良かったではないか」
平然とそう言い放ったのは、大志だった。
「死なずに済んだ、これは大変な幸運だと言わねばならない」
150偽りの茶番劇:02/03/10 01:16 ID:VaDXAhdT

「それはそうだが……なぁ」
釈然としないまま、北川は銃を収めた。
それを待って、大志は厳かに口を開く。
「それでどうするかね、同志北川。奴の脅威は充分にわかった。
正直我々の実力では、退治する事はおろか、まともに相手ができるかどうかも疑わしい。
同志名雪の言う通り、引き際を見極める事もまた勇気だ。判断は全て委ねる」
大志の言葉に、しばし北川は沈黙した。その北川を、大志も、名雪も、友里も見詰めている。

「……確かに、奴はヤバイ」
ぽつり、と北川は呟く。
「何せ人間の皮を被って外に出歩き、高い知性を持ってて、おまけに壁に穴まで開ける化物だ」
誰も何も言わず、北川の話を聞いている。
「……けどな、俺達が何とかしなきゃ、また新たな犠牲者が出る事になる。
そりゃ、いつかは誰かが退治するんだろう。
けど、だからってそれまでに出る犠牲者を、指を咥えて見てるだけなんてできない。
駆け出しには分不相応だってのもわかる。
けど、ここで尻尾を巻いて逃げたんじゃ、何のために冒険者になったのか、わかんないじゃないか」

北川の言葉に、大志も名雪も、うんうんと頷く。
「しかし、このまま無策で進むわけにもいくまい……何か、作戦のようなものを立てたい所だ。そこで名倉女史」
「え、は、はいっ?」
いきなり名指しで呼ばれ、友理は素っ頓狂な声をあげた。
「あなたは、一番に奴らと遭遇し、逃げおおせた人物だ。ほんの僅かな事でもいい、奴等の事で思い出した事は無いかね」
「………そう、ですね」
151偽りの茶番劇:02/03/10 01:19 ID:VaDXAhdT

彼女は考え込むように俯いた。
てっきりまた、「わからない」と言うだろうと、北川はそう思っていたのだが……
しばし、悩むように俯いていた彼女だったが……思い出すと言うより、こちらの方が近いと思った……溜め息と共に言葉を吐き出した。
「…そう言えば、あいつら決まった時間に、決まった場所で、集団で眠りにつくみたいなんです」
「ほほう?」
くい、と眉を上げ、大志は面白そうに呟く。
「勿論その場所は、憶えていらっしゃるんでしょうな?」
「はい、なんとか案内なら出来ると思います」

まるで申し合わせたかのような二人の会話に、北川は目を丸くした。
「お……おいおい、いくらなんでも、都合良過ぎないか?」
「はっはっは、何を言ってるんだ同志北川。事実とは得てしてそういうものさ」
がしっと北川と肩を組むと、大志はそっと小さな声で北川に囁いた。
(……疑問は尽きないだろうが、今は我輩の言う通りにしてくれ!)
「……大志……」
誰に聞かれたくないのか……その相手が、何となくわかった北川は、彼女に気付かれないように小さく頷く。
「ようしっ、名倉女史、さっそくその場に案内してもらおう。同志名雪も遅れるなよっ」
「う〜〜わかったよ」
納得いかない顔のまま、名雪もしぶしぶついて来る。

そして、名倉友里を先頭に、再び一行は下水の中を歩き始めた。


【何故か鼠達は退却、北川一行は、部屋の中から出る】
【友里に案内され、鼠達が休息を取る場所まで移動】
152ココロを刃に:02/03/11 01:57 ID:TDu89Jz8

――遠過ぎて見えないのか、
   近過ぎて見えないのか――

「――空腹は最高の調味料、って言葉。知らない?」
 すまし顔で言い放った言の葉。視線を下げてみるとネコが、やれやれだぜ……、なんて首を振りながら返している。
 と、その首が一方向に固定され――次の瞬間には驚愕に打ち震えた声が。
「お、おい。なつみ。……猫が、頭…人の頭の上に乗ってるぞ……っ!」
「……そん――」
 そんな馬鹿な。と、続くハズだった言葉が、なつみと呼ばれた少女の視線に広がる現実に否応無しに、打ち消された。

――猫が、頭の上に乗っている。

 ……いや、事実としてはそれだけの事なのだが、普通。頭に乗る猫も、頭に乗せる人間も、いない。
「……なんだか、『重大な事』を無視して驚いてる気がするぜ……」
 なつみの足元のネコは、冷や汗たらたら、といった感じで呟く。
 気付けば向こう――もちろん、人間の方だ。ついでに猫――もキョトン、とした顔でなつみたちの方を見ている。
 そしてなつみは、思った。


 ああ。私もあんな顔してるんだろうなぁ、と。


 鼠のニオイが密かに漂う中で、呆然と見詰め合う、二人と二匹。
 一方は、異国の装束に長い黒髪、その上に黒猫が。そして二本の曲刀。
 もう一方は、マントに麦藁帽子、側にはネコが。そして見える位置にナイフ。

 その光景は、一枚の絵の様に時間が止まっていた。――もちろん。それは錯覚にすぎないのだが。
153ココロを刃に:02/03/11 01:59 ID:TDu89Jz8

 何時の間にか、黒髪の女性が猫――黒猫。なつみの側のネコとは気品がまるで違う猫――を乗せたまましっかりとした足取りで近づいてきていた。
 なつみにはその姿が酷く、魅力的に思えていた。……私にはあんな笑顔は出来そうに、ない。私には、欠けている、と。

 その女性はなつみたちのちょっと手前で止まった。そして、顔をわずかに下にずらす。
 にも関わらず、頭に乗っている黒猫は器用に重心を移動しているのか、落ちてくる様子は無い。

「……珍しい、猫さんだね」

 何処を見ているのか、よく判らない瞳。
 数瞬遅れて、なつみは気付いた。彼女の瞳が何も映せない事に。

「ったく、この街の奴等はどうして…気味悪がらネェのか、不思議で仕方ないぜ」
 ぶっきらぼうに言い放つそのネコの仕草が、やけに、人間っぽかった。
「よく…猫だ、って判りましたね?」
 言って、もう少し気の利いた言い方があったな、となつみは自己嫌悪と共に思った。
 女性は、なつみの方に顔を向け、微笑む。黒猫は足元のネコを凝視している。
「雰囲気、かな。……私、これでも人と、猫を見る目はあると思うんだ。――目は見えないんだけどね」
 その言葉に足元のネコが顔を上げ、僅かに口篭もる。
「……もしかして、風の噂で聞いた盲目の剣士、双剣のみさき、って――」
「うん、たぶん。そうだよ」

 なつみに緊張が走った。無理も無い。
 目の前の女性は一見したらお嬢様と云った――今は、その装束と二振りの曲刀の所為で陰を潜めているが――容姿にも関わらず。
 ”あの”双剣のみさきだと言うのだ。

――それが、目の前にいる理由。なつみには、ちょっと、いや、多分に心当たりがあった。
154ココロを刃に:02/03/11 02:25 ID:TDu89Jz8

 尤も、レフキーに来てからはまだ派手な事はしてないし、帝国領内のギルドと双剣のみさきに接点がある、なんて話も聞いた事がない。
 更に云えば派手に振舞っていたのも緒方理奈に出会う以前の話である。
 不意に、なつみは自分を変えた出来事を、断片的に思い出してしまった。

 緒方理奈の護衛。予想通り襲ってきた男達。
『何故戦意を失っている者にも刃を向けるの?』 言われた言葉。
 『この炎よりもアカイモノを見ないと気が、狂いそうに、なっちゃうの』 言った言葉。
 「バチィ!!」と音が響く、数瞬後に頬が熱くなった。――彼女はなつみには持ち得ない『強さ』を持っていたのだ。
 それから時が経ち、そこは、なつみの”居場所”に成り得る場所になっていたのだが、ココロがそれを許してくれなかった。

 なつみはこの出会いが故意ではなく、偶然であって欲しいと願った。

「……どうしたの?」
 みさきは少し――下から覗き込む様な視線で――不安げに訊ねた。なつみの顔が綻ぶ。
「……いえ、自己紹介が遅れちゃったね。私は牧部なつみ。こっちがピロです。みさきさんの噂は、私も聞いた事がありますよ」
「まぁ、これもナニかの縁かな。よろしくな、みさき」
「改めて自己紹介だね。私の名前は川名みさき。よろしくね、なつみちゃん。ぴろくん。――ところで私の噂ってどんなのかな?」
 本人としては、どんなものでも興味がある――それが噂という奴だ。なつみには未だ、信じられない噂なのだが。
「えっと……古いやつなんですけどね。入った店から出る時には必ず『閉店』の札が……ってやつです」
 それを聞いたみさきは少し、困った笑みを浮かべる。
「昔は私も若かったからね……だから、最近は手加減してるんだよ。若気の至り、ってやつだね」
 みさきの冗談めかした台詞に、なつみの表情が引きつった笑みに変わる。
 そんな、なつみの心情を知ってか知らずか、ピロが悪戯っぽく、言った。

「ところでなつみに何か用なのかな? 道を尋ねようとしたとか。実はなつみの暗殺を頼まれてるとか。何かをついでに依頼しようとか。誰かに追われてる時に偶然出会っただけとか。……どれか当たってる?」
 その場に居るピロ以外の二人と一匹――正確には三人――にぞれぞれの度合いで動揺が走った。
155ココロを刃に:02/03/11 02:38 ID:TDu89Jz8
「あれ? どしたの、皆さん?」


【川名みさき・柏木楓/現状維持】
【牧部なつみ・ピロ/青の錫杖付近にて話し込む】

お話としては「そんな猫」の続きです。

こういう話は難しいな……(汗
しかも最後に「本文が長すぎます!」が出て、結構削ったけど結局、最後の一文がどうしても入んなかったyo!(;´Д`)

変なところがあったら、指摘お願いします
156名無しさんだよもん:02/03/12 11:30 ID:WIPKnSKi
age
157名無しさんだよもん:02/03/12 11:36 ID:WIPKnSKi
過去ログをうpしてるサイトってないですか?
物語の方でなく、過去スレ自体のデータをうpしてるサイトです。
ハカロワとかであるような。
 (物語の合間の話し合いや設定談義を読みたいので……)
158名無しさんだよもん:02/03/12 14:32 ID:vI5bz9PV
>>157
うーん、それはないなぁ。
ただ、過去スレなら
http://wow.bbspink.com/leaf/kako/1009/10093/1009367766.html
http://wow.bbspink.com/leaf/kako/1010/10103/1010300239.html
ですでに過去ログ化してるし、打ち合わせ自体は結構早い時期に感想スレに移行してるよ。
あと、この手の話題は今後、議論感想スレでよろ(これに対するレスも含めてね)
159名無しさんだよもん:02/03/13 12:36 ID:rEyvNFzb
メンテ。
160勇気と決断と:02/03/14 01:21 ID:dC5INar9

「彩!」
蝉丸の声が耳に届くが、彩は指ひとつ動かす事はできないでいた。
自然術を暴走させたものの末路……それは、悲惨なものだった。

「うっ……せ、蝉丸さん……」

彩は、自らが喚起した樹木に、飲み込まれようとしていた。
すでにその半身は幹に取り込まれ、木と一体化しようとしている。
彩は知っていたはずだった。
未熟な術士が自然術を暴走させれば、自然からしっぺ返しが来ると。
その結果が、木と同化しつつある今の状態だった。

桜の木の下には、死体が埋まっているという伝説がある。
ドライアードやトレントといった樹木の精は、それ自体で人間を襲ったり、殺したりするような事はほとんどない。
だが、それらは時に人間を誘惑し、自らの中に取り込んでしまう事もあるのだ。
人ならぬ美女の姿となり、あるいは、偉大なる知恵を持つ賢者となって。

彩も見た事があった。
図書館の奥深くに眠る古文書の挿絵に、美女の誘惑に負けた男が、樹の根元で朽ち果てる姿を。
あるいは、樹木の持つ偉大なる知恵を欲し、木と同化した古代の賢者の異形を。
トレント……森の賢樹とは、そういった古代の魔術師と融合を果たした、木の精ではないだろうか。

彩はおぼろげな意識の中、必死で木を制御しようと、力を振り絞っていた。
161勇気と決断と:02/03/14 01:22 ID:dC5INar9

岡田がその場に辿り着いた時、すでにそこは惨憺たる有様だった。
虎の子の鋼鉄兵たちは、すでに二人が倒され、残りの10人も、その多くが負傷している。
「……何をやっているのだ、馬鹿者どもが! 帝国の精鋭部隊が、たった二人の共和国兵を倒せぬなど!!」
岡田の凛とした声が、周囲に響く。
その声に、鋼鉄兵たちは慌てて振り向いた。
「お、岡田様……」
「気を付けて下さい、こいつら、相当の手慣れです!」

岡田は無数の根と枝を、触手のようにしならせている木と、刃毀れした刀を手にしている、満身創痍の男を順に眺めた。
木には、術士らしき娘が、身体の半分を取り込まれようとしている。
そして、その根元に転がる鋼鉄兵たちまで見てから、岡田はゆっくりとその“木”の方へ歩き出した。
「岡田様!!」
「騒ぐな。お前達は向こうの男を何とかしろ。三人一組で、必ず連携を組んで叩け」
「は…はいっ」
冷静なその一言に、兵士達も統制を取り戻し、再び蝉丸に襲い掛かる。

「くっ……彩っ!!」
三人一組という戦法、そして訓練されたコンビネーションによる連携に、蝉丸はあっという間に窮地に追い込まれた。
今までは、敵が二人であるという帝国兵の奢りを突いて、上手く相手を翻弄していたのだが、それも通用しなくなっている。
(あの岡田という奴……かなりの手馴れだ。戦士としても、指揮官としても……)
横から突き出された槍の穂先が脇腹を掠め、蝉丸は舌打ちした。
一瞬で現場の空気を引き締め、指揮を取り戻してしまった。
「くそぉっ……彩、気をつけろっ!」
162勇気と決断と:02/03/14 01:24 ID:dC5INar9

絶えず侵食しようとする木の意志に抵抗しながら、彩はなんとか蝉丸を助けに行こうとしていた。
だが、その前にひとりの女が立ちはだかる。
「ふん……自然術士か。敢えて術を暴走させ、“トレント”と融合して戦うとは……大したものだ」
これは完全に岡田の勘違いだったが、共和国特務部隊という肩書きからすれば、それくらいは当然なのかもしれない。
「だが、相手が悪かったな」
岡田を敵と見なし、木の根が一斉に襲いかかってくる。
だが次の瞬間、岡田の剣がそれら全てを、風のように薙ぎ払っていた。
本体から切り離された枝は、地面に落ちる前に砕け、崩れ去る。
「はあぁぁぁっ!!」
その隙を逃さず、一瞬で間合いを詰めた岡田は、己の剣を木に突き刺していた。
「彩あぁぁぁぁぁぁっ!!」
蝉丸の声が響き……次の瞬間、その木は粉々に崩れ去っていた。
粉砕された木の破片の中に、彩が崩れ落ちる。

「……男、この女の命が惜しければ、抵抗するな」
気絶している彩の襟元を掴んで、その首筋にぴたりと剣を当てると、岡田は言い放った。
「……くっ!」
蝉丸の動きが鈍った瞬間を狙い、一斉に鋼鉄兵たちが蝉丸を取り押さえる。
腕を捻られ、地面に引き倒された蝉丸は、上目使いに岡田を睨み付けた。
「貴様、今彩に何をした……」
「『断魔斬』……帝国で開発された、魔力撃退用の剣技だ。
魔法の火球、光弾、それにマジックアイテムや自然術のゴーレムなど……そういった魔力を帯びた存在を粉砕する業。
まだ実験段階で、それほど強力な魔法を解呪する事はできないが、この程度の精霊を破壊するには充分だ」
蝉丸が暴れないよう、しっかりと彩の首筋に切っ先を突き付けながら、岡田は呟いた。
163勇気と決断と:02/03/14 01:25 ID:dC5INar9

気絶したままの彩を抱かかえ、岡田は顎をしゃくる。
後ろ手に腕を掴まれたまま、蝉丸は立ちあがった。
「貴様、名は?」
「………」
「だんまりか……まぁいい。共和国特務部隊を捕らえただけでも、大きな収穫だ」
小さく笑みを浮かべ、岡田が呟いた……その時だった。

「うおおおおおおおおおおおぉぉぉぉっ!!!」

蝉丸も、岡田も、帝国兵たちも、その気迫の篭った声に思わず動きを止めた。
「!?」
「健太郎っ!!」

いきなり凄いスピードで突っ込んできた全身鎧の男に、一瞬岡田は戸惑った。
彩を人質にしようとするプランが浮かんだが、あの自殺的な速度だと、途中で止まれずに突っ込んでくる可能性が高い。
彩を突き飛ばし、盾にして自分は逃げる手もあったが、下手をすれば彩が死んでしまう。
口の固そうな蝉丸よりも、どちらかといえば彩の方が、人質としての価値が高い。

その迷いが、岡田の動きを鈍らせた。
素人の突発的な行動が、プロの判断を迷わせる……まさに、これはそういった状態だった。

とっさに彩を突き飛ばし、その反動で暴走する健太郎の進路から逃れようとする岡田だったが、突き出た木の根に足を取られてしまう。
バランスを崩し、膝を付いた岡田は、足に鋭い痛みが走るのを感じ、鋭く吐き捨てた。
「ちっ……共和国め!!」
164勇気と決断と:02/03/14 01:26 ID:dC5INar9

「うおおおぉぉっ、どいてくれえええぇぇぇぇぇ〜〜〜〜〜!!!!」
「う…うわわわわっ!?」
あまりの出来事に、槍を構えることさえ出来ず、タックルされて鋼鉄兵たちは吹き飛んだ。
その内のひとりを巻き込んで、健太郎は豪快にすっ転んだが、魔法の鎧のおかげで事無きを得ていた。
「健太郎っ、どうして俺の言う事を聞いて、逃げなかった! そんな事では、軍法会議ものだぞ!」
自分の刀を拾い上げ、続けざまに動揺している兵たちを打ち払いながら、蝉丸が怒鳴った。
「仲間を見殺しにするような奴は、冒険者失格だ! 第一俺は、軍人じゃないしな!!」
起き上がりかけた兵士の一人を殴り飛ばし、健太郎も怒鳴り返す。
何とか体勢を立て直した兵士が、蝉丸に向けて槍を突き出した。
だが、その間に割って入った健太郎の鎧が淡く輝き、その全てを弾き返す。

「マジックアーマーかっ!」
痛む足を堪え、岡田は立ちあがると、今度は健太郎に狙いを定めた。
「気をつけろ健太郎っ、そいつは、魔力を消滅させる……!」
「遅いっ!!」
足を挫いてなお、健太郎よりも数倍は早い速度で、岡田は『断魔斬』を繰り出した。

だが、剣が鎧に触れた瞬間、凄まじい光が迸る。
きぃん……と澄んだ音をたててへし折れたのは………岡田の剣だった。

「馬鹿な……これほどの反応は、秘宝に匹敵する……!?」
呆然と呟いた岡田に、健太郎は引き攣った笑みを返した。

「悪いな……この鎧は特別製なんだ。代々我が家に伝わる、由緒正しいS級の品なんでね」
165名無しさんだよもん:02/03/14 01:29 ID:dC5INar9
【健太郎 蝉丸の所に乱入】
【彩 気絶】
【岡田 剣が折れる】

彩の触手プレイを期待してた人がいたら、ごめんなさい〜
166月光の下で:02/03/15 00:09 ID:K38UyhBr
野外。
夜闇の中。
密林のなか、少年と少女が、絡みあっていた。
「これでいいの、ぽてと」
「ん……、上手いよ、まいか」
「はぁ……はぁ……」
少年の上で少女が動く。
ひとしきり少年の上で動くと、少女はぐったりする。
全身が上気し、少女の足がぴくぴくと痙攣している。
「まいか、少し休むか?」
 少年が気遣うと、少女は首を振った。
「ううん。がんばる」
体勢を入れ替え、4つんばいのような姿勢になったまいかに、
少年は後ろから覆い被さった。ぴちゃぴちゃと水音がする。
「あ……」
少女はくるしそうに悶える。
「挿れられそうか?」
「大丈夫……だよ……あ。入った……」
かすれた声でまいかが応える。
「ね……ぽてと、おねがい……もっと右……」
「こう?」
「ん……いい……。……あ、あ」
「はぁ、はぁ」
「あ……」
びくん、と少女の身体が震える。少年の身体も震えた。
しばらく、二人とも動かない。
ただ、ぐったり疲れた二人の吐息だけが響いていた……。
167月光の下で:02/03/15 00:10 ID:K38UyhBr
……と、
がちゃん。
ぎいぃぃぃぃ……。
かすかに軋む音を立てて、古めかしい堅固な石門が開いていく。
「よし、鍵は開いたな」
「だっしゅつ、せいこうだねっ」
「……いや、苦労したな。高いトコの仕掛けは肩車しないと届かなかったし」
「ひくいとこのしかけは、まいかをだっこしてもらってとどいたんだよねー」
「なかなか鍵が挿入できなくて大変だったな」
「からだがいたくて、声がかすれちゃった。えへへ……」
「……」
「……」
「なんか説明的だな、俺たち」
「そうだねっ」
 ぎゅ、っとまいかが少年の腕に抱きつく。
 少年はふっと半眼になって宙の一点を睨んだ。
「……なに見てんだゴルァ」
「どうしたの、ぽてと」
「いや、なんか観客さんのブーイングを感じて、な」
「?」
(……ま、いいか)
 不思議そうに見上げるまいかの頭を撫でて、少年は空いた手で
額の汗を拭う。
 いくぞ、とまいかの手を引いて、空いた門を通り抜ける。
「苦労させやがる。こういうのは苦手なんだよ。ったく、犬の姿にまで戻る
はめになったし」
「いぬさんのときのぽてと、ぴこぴこかわいいよね〜〜」
 けっきょく仕掛けは幾つもあって、一度は細い穴の奥の仕掛けを動かすため
犬の姿に戻ることさえ余技なくされ、少年はご機嫌ナナメだった。
 ぐっ、と汗をぬぐってポテトは周囲を観察する。異常はない。おおむねは。
168月光の下で:02/03/15 00:10 ID:K38UyhBr
(まったく、シェイプチェンジャーも楽じゃないぜ)
 だいたい、なんだってこんなハメになったのか。
 犬の姿で捕まらなければ、珍獣だの好きほうだい言われてカゴに入れられなければ、
よりにもよって厄介な場所に贈り物扱いで届けられなければ、と色々ifは考えつくが、
後になって後悔しても仕方のないことでもあった。
「ねー、ねー、ぽてとはどんな場所だったら幸せだったの?」
「んー。とにかく、どこでもここよりゃマシだろ。たとえば白魔術士の医者とか……」
(……そう、そんな場所なら、俺は今よりはマシな状態でとっとと脱走
できてたのか……?)
 しばらくこの命題を考えみて、少年はブルブルと首を横にふった。
「…いや、ムダだな。きっとマッドな医者で、『妹が大変喜ぶんだ。とかいうわけで
君は一生その姿でいてもらおうか』とか、メスを首筋にあてられて脅されそうな
気がする」
「それはぽてとの考えすぎだよ〜〜」
 くすくす笑うまいかの相手をしながら、少年は思う。
 まあどちらせよ、捕まらないのが一番なんだけど。
169月光の下で:02/03/15 00:11 ID:K38UyhBr
「で、どちらへ行かれるのですか、ダリエリ陛下」
 最後の門を出た先に、女性がいた。壁によりかかるように立っていた彼女は、こちらに
向き直り、月光を背に、剣を腰に、こちらを見た。
「放せっ! タイヤキと肉まんがオレを呼んでいるっっ!」
「まいかをよんでいる〜〜〜」
「はあ……帝国の皇帝ともあろうお方が、何をバカなことを言っているのですか」
 がっかりしたように肩を落として女性剣士は少年の肩を掴んだ。
「放せっ、放すんだゴルァ」
「ごるぁ〜〜〜〜♪」
意味もわからずぴょんぴょんと飛び跳ねるまいかを見て、女性はさらに頭をかかえる。
「皇女まで……なにやってんですか、二人して」
その衣装は間違いようもなく、帝国の公式な……皇女の夜着だ。刺繍はもちろん、薄く、
肢体さえ透けて見え隠れするような扇情的な夜着は皇女用だ。
「まったく、さっさと皇女を押し倒してお子を作ってくれればいいのに」
「な、な、な、何を言ってやがるゴルァ」
「皇女だってその気ですのに」
「ねー」
「テメエら、いい加減にしやがれ! 俺はこんな飼われてるような環境はイヤなんだよっっ」
「はいはい、帰りますよ。子供じゃないんだから。それでも皇祖ダリエリの再来とまで
呼ばれたダリエリ13世陛下ですか。ダリエリの名を冠せる時点で最強クラスなんです
から、もっと威厳らしいものを持ってください。臣下が見たら泣きますよ。もう。ホント
子供じゃないですか」
「い〜〜や〜〜だ〜〜〜」
 抵抗虚しく、ずるずるひきずられていく少年。
 こうして、彼の野望は今日も失敗に終わった。
170名無しさんだよもん:02/03/15 00:12 ID:K38UyhBr
 帝国皇帝陛下、脱走に失敗。

【少年(ぽてと) 帝国皇帝ダリエリ13世】
【しのまいか   帝国皇女】
【????    女性剣士】
171マタドールのステップ:02/03/15 04:25 ID:KPA0ISjZ
「彩、大丈夫か?」
蝉丸は倒れた彩を抱きかかえると、
艶やかな黒髪についた木の葉を払いながら体を揺さぶり安否を確かめる。
「…うっ……ん……」
彩の無事を確認すると、蝉丸の顔から不安の色が一気に消し飛ぶ。

「…気を失っているみたいだが、命に別状は無さそうだ」
「そうか…良かったな」
「お前のおかげだ、礼を言う」
「よせやい…俺は絶対帰ってくるって言っただろ? 俺は俺の約束を守っただけだよ」
「健太郎…すまない」
「こらぁ!! 我々を無視して和むなぁ!!」
「ん? 小娘、まだいたのか? 早く散れ」
「き、貴様……」
無様な切れっ端のみとなったサーベルを投げ捨て、二人を睨みつける岡田。
プライドが高い岡田にとって敵に無視され見下されることは、この上ない屈辱であった。
元々ツリ目な岡田の目がさらに釣り上がり、怒りを露にサーベルの切れ端を投げ捨てる。
「お、岡田様…?」
「よこせっ!」
「ひえぇ!」

手近にいた兵からロングソードを奪い取るとつかつかと蝉丸達のほうへ歩み寄る。
「よくも私を小娘呼ばわりしてくれたな共和国兵っ! 一騎討ちだっ!!」
長剣の切っ先をビシッ!と蝉丸に向け、岡田は決闘を申し込む。
「いいだろう…健太郎、彩を頼む」
もはやボロボロで使いものにならなくなった刀を携え、岡田の前に立ちはだかる蝉丸。
「小娘、言っておくが…手加減はしないぞ」
「望むところだっ!」
帝国兵達も固唾を飲んで見守る森のなか、
帝国の猛者と共和国の精鋭との一騎討ちが始まった。
172マタドールのステップ:02/03/15 04:26 ID:KPA0ISjZ
はっ! たぁっ!」
ヒュッ、ヒュッ!…と、風を切りながら連続で繰り出される斬撃。
蝉丸はそれを受け流し、あるいは回避するのみで一向に手を出さない。
…と、いうよりか、傍から見れば女の子と男が剣の稽古をしているようにも見える。
「くっ…! 貴様っ、手加減しないと言ったくせにっ!」
「貴様こそ、この程度の技量で一騎討ちを申し込むなど10年早いぞ小娘」
「なっ―――――」
プツッ…
蝉丸が初めて繰り出した攻撃は、岡田のブレストプレートの留め具を破壊した。
当然、岡田の胸を保護していた鉄板は剥がれ落ちる。

「おおっ…」
そのあざやかな剣技への関心か、はたまた別のモノに見惚れてか、
帝国兵達は感嘆の声を上げる。

「…っ!」
岡田は攻撃のスキを与えてしまったことへの悔しさと、
男達の視線を一身に浴びていることへの羞恥心に顔を歪める。

「結構あるな…」
「あんなに小さな留め具を狙って斬るとは…」
「反応が可愛い…」
「あの共和国兵…隊長相手に余裕だな、スゲェ」
キッ!
岡田のナイフのように鋭い視線が兵達を睨みつける。
兵達は叱られた子猫のようにビクッと身を震わせる。
「(…貴様ら、後で殺す!)」
彼女の目は、そう言い捨てていた。
173マタドールのステップ:02/03/15 04:28 ID:KPA0ISjZ
「フン、これで己の非力さが分かっただろう…おとなしく剣を退け小娘」
わざと意地が悪そうなニュアンスで罵る。
「…小娘と言うなぁっ!!」
その言葉に逆上し、岡田はついに銃士の象徴である銃を抜く。
「むっ!?」
間髪入れずに間を詰め、引き金を引く。
蝉丸はとっさに身をよじり、わざと体勢を崩す。
「死ねっ!!」
ドゥン!!
漆黒の銃が火を吹き、鉛弾が牙をむく。
幸い弾は肩をかすったようだが、バランスを失いよろめく。
「っと…」
「えっ? きゃあっ!」
ドサドサっ!
見るも無残なくらい豪快にすっ転ぶ蝉丸。
しかし、痛みは無い。
それどころか、着地した地面は柔らかく温もりまである…なぜかいい匂いもする。
「む」
「あっ……」
巻き添えを食らって転んでしまった、蒼い髪の地面と目が合う…
先程まで剣を交えていた猛者とは思えないほど、綺麗な瞳だった…
「す、すまんっ! この勝負はお預けだっ! 失礼!」
慌てて飛び退き、走り去る蝉丸。
「…………」
「…………」
そのままの体勢で硬直し続ける岡田…
見かねた兵士の一人が声をかける。
「あの……岡田様? 迫撃…なさらないんですか?」
「…ついげき? ……はっ!」
岡田がやっと正気を取り戻した頃には、健太郎も彩も蝉丸も…既に姿を消していた。
174マタドールのステップ:02/03/15 04:29 ID:KPA0ISjZ
「―――敵軍、追撃してこないようです」
セリオは後方を警戒しながら事務的な口調で報告する。
「それにしても、あの女剣士…スッゲー剣幕だったな」
「ああいうプライドの高そうな者は見下されるとムキになって噛み付くものだからな」
実はあの時、セリオの到着に気付いた蝉丸と健太郎は、
この場を早々と離脱するために敵である岡田を利用したのだ。
案の定、帝国兵達は二人の決闘に釘付けになり、健太郎達にまで目が回らなかった。
その間にセリオが開けておいた脱出経路に従って逃走を図ったのだ。

「しかし、セリオが助けに来てくれるとは思わなかったな〜」
「いえ、私はクルス商会の社訓に従ったまでで―――――」
「またまた〜、ホントは俺達のこと心配してきてくれたんだろ〜?」
「―――複雑です」
セリオは俯きながらやや事務的な口調で答えた。

「ところで、蝉丸」
「なんだ?」
「…あの女剣士と抱き合ってたのも作戦だったのか?」
「むっ…見てたのか?」
「うん」
「……あれは…不慮の事故だ」
「彩ちゃんに見られなくて良かったな」
「そ、それは言うな」
健太郎の言うとおり、あの時…自分の腕の中で眠っている少女…
彩が気絶していて良かったと思ってしまう蝉丸であった。

【蝉丸、彩、健太郎、セリオ  他の仲間のもとへ】
【岡田    蝉丸達を取り逃がす】
【彩     未だ目覚めず】
【蝉丸    肩に軽傷】
1751 ◆mYCw53h6 :02/03/15 04:40 ID:KPA0ISjZ
(;゚д゚)< うわっ! >>172の一番最初、"「"が抜けてるよ!
(;゚д゚)< うわっ! >>173で(改行無しでお願いします)入れようと思ったのに改行多すぎで入れられなかったよ!

やってしまいましたね…いや……イマイチです……どんな批判でも受け入れる覚悟です…
とりあえず、この後の展開は後腐れなく次の書き手さんの解釈に一任します…

ヽ(´ー`)ノ がんばれ次の人、ふぁいとっ…だよ ヽ(´ー`)ノ
176名無しさんだよもん:02/03/15 04:45 ID:YAGkMaxC
>>175
173のどこに(改行無し)を入れる予定だったのですか?
1771 ◆mYCw53h6 :02/03/15 19:20 ID:KPA0ISjZ
>>176
一番上ッス…
でも、改行があった方が読みやすそうだから大丈夫です…

レス…だいぶ遅れてしまいましたね。 スマソ…
178絶対の力:02/03/16 01:57 ID:8Qy0tect
「こんにちは」
金髪の女性が入ってきて挨拶をしてきた・
「こんにちは」
とりあえず、挨拶を返しておくことにした。
「長瀬祐介君ね?」
「ええ、そうですけどあなたか?」
その女性が僕の名前を尋ねてきた。なんだか少し馴れ馴れしい気がしないでもない。
「シンディ宮内よ」
「宮内って…」
「そう宮内貿易公司の代表としてあなたに会いに来ました」
…宮内貿易公司のお偉いさんが僕に何の用だ? まだお礼が来るには早すぎる気がしないでもないし
「あなたが運びだした。赤い布がかかった箱はどこかしら?」
「それならあそこに」
部屋に隅に置いておいた箱を指差す。やっぱり大事なものだったらしい。
「無事みたいね」
「ええ、責任もってそれを守りますよ」
よほど大事なものらしい。少しだらけていたがまじめに仕事しないとな。
「長瀬君、ここに金貨50枚があるわ」
「………?」
宮内さんはいってずっしりと重い袋を僕に向かって差し出した。
「この金貨をあげるからあの箱を渡してくれないかしら?」
「…え?」
金貨50枚…長瀬の家からしてみればはした金かもしれないが一般人から見たら十分な大金だ。
「外にダミーの箱が用意してあるわ。それを代わりにここに残していくからあなたはあの箱のことを忘れる。それだけでいいのよ」
179絶対の力:02/03/16 01:58 ID:8Qy0tect
「……なんでそんなことする必要があるんですか?」
貿易公司の関係者を装った海賊かもしれない。しょうがないので電波で探りを入れる。
チリチリチリ…一歩誤れば、人を変質…壊しかねない。慎重に力を扱う。
「…それは」
『一級禁制品の密売がばれたら貿易の認可の差し押さえをくらいかねないわ』
「一級禁制品の密売!?」
「…なんでそれを?」
しまった。思わず声に出してしまった。
「………」
思わず黙ってしまう。なんて言い訳すればいいんだ。頼む、何も聞かないでくれ。
「…まあ、いいわ。それよりあの箱の件受けてくれないかしら?」
「え、ええわかりました」
力のことを追求されるのが嫌でつい頷いてしまった。
「ありがとう」
シンディさんが頭を下げる。
そしてふと気づく。自分がシンディさんに対して力をつかってしまったことに。
そう、電波の力でシンディさんを他人に何も聞かない人間に変質させてしまったのだ。
迂闊だった。僕の力はあっさり人を変えてしまう。
…電波の量は少なかったからしばらくしたら効果は切れるだろう
「…すいません」
謝罪の言葉を口にする。
180絶対の力:02/03/16 01:58 ID:8Qy0tect
しかし、効果が切れたからといって元の人格と一致するわけじゃない。これはそういった力なのだ。
チリチリチリ…イタイ…自己嫌悪によって集まった電波が自分を犯すのがわかる。
そう僕自身、こんな自分変わってしまえとどこかで思ってるのだろう。
「そう…」
シンディさんが力ない声で言う。
『なんで謝るのか?』
そう聞けないからうまく考えられない、ということだ。
「……とりあえず、ダミーの箱ってどこに?」
こうなったらシンディさんの頼みだけは聞くことにしよう。自警団に迷惑がかかることもないだろう。
「うわぁー」
その時、叫び声が耳に入る。下のほうで何か騒ぎが起こったようだ。海賊かもしれない。
「シンディさん、ここで待っててください」
言って駆け出す。もし海賊だったら力をつかわなければならないかもしれない。
僕はこうやって人を、もしかしたら世界さえもあっさり変えてしまうこの力が怖い、そして嫌いだ。
叔父さんは死なないように力を使えといった…
けど、僕はこの力で死を回避しても、結局この力自体が僕を殺す…そんな気がしてならなかった…
【祐介、騒ぎを聞きつけ下の階に】
【シンディ宮内、電波酔い】
181名無しさんだよもん:02/03/16 01:59 ID:8Qy0tect
>24-27の続きです
祐介の力を書いてみましたけど…
どう考えても強くなりすぎちゃって…
182光の少女たち(1):02/03/17 00:40 ID:ECQQG2/w
柚木詩子はへばっていた。元々行動の人である彼女は、じっとしているのが苦手だ。
忍耐を要求される事はもっと苦手だ。
今回の事も簡単な調書だけとって他部署に回してしまおうと思っていたが、
「はぁ…まいったなぁ」
そう言えば、会議室に祐介を待たせっぱなしである。
仕方ない、今日のところは事情を話して引き取ってもらおうか、
そう考えて席を立った、その時。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

響いてきた恐怖の叫び声に、騒然とする室内。
詩子は机の上に投げ出してあった得物の警棒を手にとると、すぐさま駆け出した。
ドアを開け、廊下を走り抜け、階段を飛び降りる。
そして、その先に見たものは。
吹き荒れる烈風の中、全身を青い光に包み、宙に浮く少女の姿。
光は時折火花の如く散り、周囲に拡散していく。その様は、少女の背後に巨大な尾が生えているようでもあった。
「ふああ…!ふぅぅ…!!」
呻き声としか言いようのない、少女の声。そのたびに、堅牢な地下室が激しく鳴動する。
「な…何よ、アレ!?」
「知りたいか?」
答えたのは、晴子だった。手錠を嵌めたままの状態で、すぐ隣りの壁に背をつけ、じっとしている。
詩子は咄嗟に身構える。
「…あなた」
「おっと、勘違いする前に言っとくけど、これはあんた等の自業自得やで。 あと、あんま動かん方がええ」
「ぁぁぁ!!!」
一際高い少女の絶叫。壁に蜘蛛の巣の如く、皹が入った。
183光の少女たち(2):02/03/17 00:41 ID:ECQQG2/w
「真琴はものすごい魔力をもっとってな。しかも難儀な事に、その力を制御できんときとる。
その魔力がどこから来るのか、なんでそんな魔力を持ってるのかは、知らん。ただ、あれを止められるのは…祐一だけや」
「祐一…相沢一家の棟梁のことね?」
「そういう事や。暴走しとっても、あれの力は祐一だけには向かんのや。
力とか、そういうんやない。本当に信頼しているからこそ、受け入れる…それだけのことや」

「うぅぅぅ…ァ…ぅ…ああ!!」

再び絶叫する真琴。色も音もない波動が、見る見るうちに地下室を崩壊させていく。
その凄まじさに、歯がみする詩子。
「くッ…こんなの、どうしろって言うのよ」
「嵐が去るのを待つんやな。いくら莫大とはいえ、無尽蔵じゃあない。
ま、このオンボロが吹っ飛ぶのは間違いないけどな」
「で、あなたはその隙を狙って逃げようっての?」
「当然やろ」
あっさりと答え、愉快そうに笑う晴子。
だが、その表情も、すぐに消し飛んだ。あまりにも急な変化に訝しげに背後を見る詩子。
そこには。
「真琴ちゃん…」
「観鈴!?何でここに?何やっとるんや!?」
烈風に髪を揺らしながら、少女が立っていた。
少女は、にはは、と緊張感のない笑みを浮かべる。
「えっと、何でここにいるかっていうのは、私、すぐ向こうの部屋で取り調べ受けていたから。
自警団の人は、慌ててどこか言っちゃった」
「犯人を残したままで?…まったく」
溜息を付く詩子。そんな彼女の反応にもう一度笑みを浮かべ、
「それで、何をやるかって言うと、真琴ちゃんを止めるの」
すッ、と表情を引き締める。その瞳には凛とした決意が篭っていた。
184光の少女たち(3):02/03/17 00:41 ID:ECQQG2/w
「観鈴…あんた」
「お母さん、言ったよね?私の力には意味があるって…もしそうなら、本当に意味があるのなら。
多分、こういう事のためにあるのかもしれない、って思う。だから…」
刹那。眩い光に、咄嗟に目を庇う詩子。
その合間、少女の背中に、白い光の翼が生まれたように見えた。

「この力で…魔力を打ち消すこの力で、真琴ちゃんを苦しめる源を断つ」

……おそらくは、一瞬の事だっただろう。
ゆっくりと目を開いた詩子の視界に、ボロボロになった室内に倒れている二人の姿が映る。
「ホンマ、馬鹿やな、観鈴は…せっかくのチャンスを無駄にして」
悪態をつくもの、限りなく優しい声色の晴子。
倒れている観鈴の傍に歩み寄ると、楽な姿勢に横たえてやる。
「一体、そういうこと…?」
「…観鈴にも、難儀な性質があってな。魔法とか魔力とか、その手の事がまったく効かんのや」
「それって、難儀なの?」
「当り前やろ。怪我とか病気しても、薬は一切効かへん。
人ってのは脆いもんでな、そういうのは自力ではなかなか治らんのや」
「………」
詩子は、二人の少女に目を向けた。
莫大な魔力を持て余す少女と、魔法の恩恵を受けることの出来ない少女。
ある意味呪われているといってもいい、そんな二人は、安らかな表情で気を失っていた。


【真琴・観鈴 気絶】
【自警団地下牢 辛うじて全壊は免れるが、収容するのは無理】
185名無しさんだよもん:02/03/17 00:42 ID:ECQQG2/w
というわけで、【光の少女たち】をお送りします。
観鈴に『難儀』な事情をつけてみました。
まぁ、まだ往人や敬介たちが動くほどのモノではないので、補完する必要はあるでしょうけど。
それは他の方にお任せ、と言うことで。
後、真琴にもごっつい設定が付けました。こういう設定、ホント好きなんすよ。
186184修正:02/03/17 00:47 ID:ECQQG2/w
誤「一体、そういうこと…?」

正「一体、どういうこと…?」

です。ごめん。
187名残:02/03/17 14:40 ID:A00zV6BI
――軌跡を辿る。ヒトが残した足跡。
   その先に有るのは一条の光でも無く、
     終わってしまった闇でも無く、
  更に続く、軌跡が有るだけ。残したヒトが立ち止まらない限り――



「――では、これからテストの準備をしよう」
――ギ。
 目前には愛らしい姿。
  ギ、ギィ。
 あくまで事務的な、無機質な声。
  ギリッ――
 その姿からは想像出来ない程の暴力的な事実が頭を支配する。
 何かが、擦れ合う音が聞こえているが、僕にはソレが何なのか理解出来なかった。
――本気で、頭にきていた。



「おはよう。よく眠れたかい?」
 昨日知り合った少年は爽やか過ぎる笑顔で、朝のお決まりの挨拶をしてきた。ナイスガイだな、なんて思ってしまう。
 それと同時に、朝起きて、女の子の顔が目に映らない朝。ってのも久方ぶりだなぁ――なんて世の報われない男性に聞かせたら、殺されそうな事を思ってみる。
「おはよう。雅史君。今日が試験の日だね。昨夜の勉強の成果ってヤツ示してやろう。お互いにね」

 床が違った所為か。女の子を見なかった所為か、いやはや。困った事に。何時もと違う思考回路が働いてる気がした。

 彼――七瀬彰――は魔法学園に入学する為に、この時期に、偶然にも編入したがっていた少年――佐藤雅史――と共に、適当な宿で勉学に勤しんだ。
 その動機は世間から見れば不純と貶められるモノかも知れないが、その気持ちは輝いてたに、違いない。

――と。いってもだ。彼の師であり、母でもある霧島聖の英才教育は伊達ではなかった。彰にとっては、常識的な事柄が問題と称して立ちはだかる。
188名残:02/03/17 14:44 ID:A00zV6BI

 そんなモノがなんの障害になろうか? これで筆記試験は楽勝だぜ! と、真夜中に踊り出しそうになったのを冷静に抑えたのを彼は覚えている。
 次の難関は面接。だが、それも問題無い。長い間に医者として培ってきた、人望から見れば彼の人格がどんなモノか推測するのは容易い。
 ……問題は好奇心だが、それは単に本人が無欲なだけで、興味の対象が現われれば自ずと芽生えるモノだ。
 残るは、魔力審査と実力テスト。これについては、最早。語ることなど無い。

 朝、起きて、直に魔法学園に突入した彼等は、昨日、手続きに来た場所に行った。

「いやぁ……この時期の入学希望者はヒジョーに珍しくデスネぇ――」
 ハゲが目立つ中年男が、脂ぎった体躯を揺らしながら、この学園――魔法学園――の構造や、歴史を語る。
 そのハゲデブは、そんな事を長々と語りながら試験会場――といっても、受けるのは二人だけなのだが――に向かいながら歩いてく。
 その後に距離を保ち、二人の男が付いて行く。一人は熱心に聞き入っているが、もう一人は心此処に在らずと言った感じ――焦燥とも取れる動作で校内を見回していた。だが、彼は風景など認識してはいなかった。

 まだ、朝の早い時期だからどうかは知らないが、すれ違う人はいなかった。唯、遠くに様々な色のローブを纏った人を数人見掛ける事ができるだけだった。
 どうやら、学部や、年齢、といった具合に纏うローブの色に違いがある、という事はなんとなく理解出来る。要は識別の為だ。

「おおぉ……着きましたぞ、若人達よ」
 廊下の途中にある教室――今は使われてない――の前で、ハゲデブは大仰な身振りで告げる。
 結局。彰は探していた人物は発見できなかった。それは誰か? と、本人に問うたなら、彼はなんと答えたのだろうか?
 二人が教室のドアに近寄ると、ハゲデブがそれを制した。
「ここに入るのは七瀬彰くん。君だけだよ。雅史くんとは別々に受けてもらおう」
 二人は思わず顔を合わせた。

――喧騒とは程遠いこの世界。彰は既に戻る道さえ、覚えていなかった。
 ……もちろんそれは、入学したアトに美咲先輩にじっくり案内してもらう――予定に過ぎ無いのだが――時により感動する罠にハマる為だぜ。ちくしょうっ!! とか、思っていたからであるが。
189名残:02/03/17 14:57 ID:A00zV6BI

「静かでしょう……今日は、生徒達全員が休講なのですよ。もちろん、君たちの為にネ。ホントウならもう少し賑やかなのデスよ」
 作りもの笑顔。というモノを貼り付けた顔をして、ハゲデブは言った。
 二人だけの為に休講とは大掛かりですねぇ……、と雅史は言う。ハゲデブは、イきますよ、とか言いながら廊下の先を進んでいく。

「それじゃ! お互いに頑張りましょう!!」
 年下の少年の――余裕のある、爽やかな――笑顔と激励に、背中向けながら片手を振り、応え、彰は、ドアに手を掛け――開けた。


 その教室には、教壇の位置に、神経質っぽいおっさんが一人、白髪の初老と思われる男が一人と、こちらをニヤニヤした視線で見詰める、女が一人。居た。
「そこに座って」
 神経質っぽいおっさんがぽつん、と置かれた机と椅子を顎で示す。僕はそれに軽い会釈と共に座った。
「時間は今から四十分。始めてくれたまえ」
 女が筆記試験用と思われる紙を手渡しにきた。……何故か今まで受けたことの無いような視線で僕を見詰ている。僕が何かしたのかよ? と、問い詰めたいが、今はそんな時ではない。
 手渡された紙に目を通した。――教室の風景なんか、眺めている暇はない。


 ――四十分後。僕は最後の難問の答えを、時間ギリギリに書いた。
「ふぅ……」
 知らず、溜め息が出た。――問題の五割は白魔法どころか、魔法とは関係の無い問題だった。っていうか、心理テストみたいだった。
 例えば、『動物を飼っていて時期はありますか?』とか『戦争は悪い事だと思いますか?』とか書いてあるんです。もうね、アホかと、馬鹿かと。
 何を考えているんだろうかこの学校は……と、思ったけれど、雅史君が筆記試験で人格を試すとか言ってた気がするけどこれの事だったのかな……?
 仕方無いので全問答える事にした。中でも印象的だったのが『何処の都市が一番発展していると思いますか?』の問だった。僕はこう答えた――グエンディーナと。
190名残:02/03/17 14:59 ID:A00zV6BI

――グエンディーナ。科学と魔法が互いを刺激しながら発展する都市。どちらかを蹴落とすのではなく、どちらの存在も認めた都市。その結果。もの凄い勢いで両者の発展が加速した。――という、内容の書物を偶々読んで知ったのだ。
 ……もしかしたら国だったかも知れないがそんな事は覚えていない。何処にあるかも書いてはいなかった。それほど幼い頃に知ったのだ。それに、誇張の部分もあるだろうし、その書物自体が絵本っぽくてなんだか嘘っぽい、夢みたいな都市だった。

――だから、覚えていられた。

 で、そんな調子で最後の問題まできたと思ったら、『あなたにとって萌えとはなんですか?』とか書いてあるんです。
 そこでまたぶち切れですよ。っていうか「萌え」ってなんだよ?
 そんなこんなで終了時間ギリギリまで考え、悩み、苦悩の果てに得た結論を、僕は……書いてしまった。――それを無言であの女が取っていった。

「ご苦労様だね。筆記試験はこれで終わりだ。次は実力テスト、その次に面接、最後に魔力審査でもしようか」
 白髪の男が告げる。入学手続きの時に確かに、実力テストを希望した。
「――では、これからテストの準備をしよう」
 言葉を残して、神経質そうなおっさんが教室を出て行った。そして直に戻ってきた。
――手には可愛らしい子猫が。
「……今からこの子猫の傷を治してもらう」
 神経質そうなおっさんの手には輝く刃が、子猫には傷なんて、無い。つまりは……きっと。僕の予想通りの事実がこれから展開されるのたろう。
「その子猫をわざと傷つけて、僕に魔法で治癒しろと言うのですか?」
「ん? ああ。そうだよ。何か問題でもあるかね? それとも自信が無いかい? 気にする事はないよ。この学園に通う全ての者達も魔法を覚えたら、この実力テストを受ける事になる」

 弱い者を理不尽な暴力で傷つける。――吐き気がする。こいつらは――ッ!!
――人を傷つける姿なんて、見たくない。
 幼馴染みが血に染まる姿を想像し、あまつさえ甘美、などと思ってしまった自分を、僕はその時、恥じた。
――彰が人を傷つける姿なんて、私は見たくない。
 ああ。僕だって彼女の言っている意味の全てを理解している訳じゃないけど、今行われようとしている事実が間違っている、って事ぐらい、判っているつもりだ。
191名残:02/03/17 15:05 ID:A00zV6BI

 ダンッ!! と、机を叩く音がした。ギリ、ギリ、とさっきから聞こえていた音が歯軋りの音だと気付いた。
「あんた達は……そんなことして何にも思わないのかっ!?」
 今にも刃を振り下ろそうとしていた男に向かって叫ぶ。
「ふむ。君は治療できるんだろ? ならば、何にも問題は無いのではないかな?」
「ならあんた達を死ぬ寸前までぶちのめして治療してやろうか?」
 教室の温度が下がった気がした。僕は教室から出る為に、歩き出した。
「……残りのテストは受けんのかね?」
 白髪の男がそんな事を言った。何を今更、と思い、僕は教室から出て行った。後から、試験の結果は明日発表ですよ、なんて声を聞きながら。


 彰は今、魔法学園の敷地と思われる場所に居た。何故、彰がそんな所にいるかというと、道に迷ったからである。
 ――あのアト、勢いで教室を飛び出した彰は、雅史の事など忘れて学園からとにかく出ようとして、迷ってしまった。一応、建物から出たのだが、ここは雰囲気から察するに、中庭みたいな場所だろう。
 くそ、と彰は地面を蹴った。あの神経質っぽいおっさんが言った言葉――
『この学園に通う全ての者達も魔法を覚えたら、この実力テストを受ける事になる』
――つまり。美咲さんも、この実力テストを受けて、合格したからこの学園に居られるという事なのだろう。魔法を覚えた者の進級テストみたいなモノだろうな……と彰は思った。
 ……まぁ、いいさ。と、彰は笑う。

 ヒュン。トス。っと、歩き出そうとした彰の前髪を通り抜け、何かが近くの木に刺さった。
 彰は呆然として、今起きた出来事を認識するのにたっぷり十秒の時間を要して、木に刺さっているモノがメスなのだと気付いた。――ああ、しかも。矢文ならぬ、メス文ときたもんだ。
 こんな神業ができる人間に、心当たりは一人しかいない。その”らしさ”に彰は思わず苦笑する。――変わっていない、と。
 偶々この学園に寄ったのか、ずっとこの町で暮らしていたのかは判らないけれど。そう――
192名残:02/03/17 15:14 ID:A00zV6BI

――僕は聖先生を追い駆けて、この町に来たけれど。
 そこで待っていたのは、先生の温かい言葉でもなく、先生が居なかったという事実でもなく。
  思えば、僕が外で遊びたい、と言うのに時間が掛かった様に、僕があの町から出るのに7年も要した様に。
   先生はすぐに遠くに行ってしまう。なら、僕は。走って追い駆けるまでさ――。

【七瀬彰/魔法学園の敷地内/メス文はまだ読んでいない】
【佐藤雅史/まだ試験中かも?】
【メス文/メスに手紙が巻きつけてあるから彰が命名。誰が放ったかは不明である】

お話としては「一目惚れ 」の続きです。

ああ……全然ファンタジーっぽくない気がしますが(苦笑
長い上に、展開進めすぎですが、いやはや、困ったモノですね(ぉぃ
変なところがあったら指摘お願いします。
193洛葉。:02/03/17 17:33 ID:AFVacQ8H
 やけに長い時間待っている気がする。気がするというか、既に燦々と輝く太陽が真上に辿り着き、
 自分の影が既に短くなってしまう時間まで待っている訳だから、実際に待っているのだ。多分、四分の一日くらいは。
 ――集合時間は、明朝の筈だったのに。
 一人呆然と立ち尽くしながら、ふらふらと眩暈を覚える。ああ、彰先生に長い年月の間、身体を治して貰ったというのに、
 まだ自分の身体は、たかだが数時間待ちぼうけを喰らうくらいで日射病に陥るような、そんな脆弱なものか。
 ……暑い。吐き気がする程暑い。今日、何度なんでしょうか。
 ああ、なんか、心の底から冷えるような冷たいものが食べたい。氷菓子を、貪るように食べたいです。
 流石にイライラも募ってくる。足の裏でとんとんと地面を踏みならしながら、唇を尖らせながら、
 待ち合わせ場所の時計台広場で美坂栞は今日二十二度目の溜息を吐く。
(いけないいけない、こんな事で怒っちゃあ彰先生のお嫁さんにはなれないですっ)
 って、それが正常なのか。そりゃそうだ。どんな献身的な女の子が、風来坊の彼氏を数時間も待つというのだ。
 しかも待っているのは、まいすぃーとっの彰先生ではなく、その妹なのである。
 ……何で、何でなんですかっ。待ち合わせ時間ぴったりに来るわたしが駄目だったと云うんですか。
 馬鹿なんですかっ。

「おまたー」
 とことこと、大きな荷物を抱えて、栞の待ち人である少女――しのさいかが現れる。
 大人げないとは判っている。
 だが、それでも栞は右手に力を溜める、そして、油断して笑っている彼女の頬に、全力で平手を叩き付ける!
 抱えている荷物の重量にもやられたのだろう。叩かれた衝撃で倒れたさいかは、ころころと転がっていく。
「ひ、ひどいよぅ、しおりっ」
 しばらく転がった後に身体を起こしたさいかは、赤くなった頬を押さえながら、少し涙目で訴える。
「いじめだ、ようじぎゃくたいだっ、かんきんじけんだっ」
 何処でそんな言葉を覚えるのだ。……誰が教えたんだ。まあ、大体検討はつくけど。
194洛葉。:02/03/17 17:34 ID:AFVacQ8H
「ひどくないですっ! 何分待たせるんですかっ」
 さいかはその言葉を聞くと、少し照れた顔で頭を掻く。
「きのう、たびのじゅんびするまえにねちゃったから、いままでたびのじゅんびをしてたの」
 その笑い顔に殺意を抱いてしまったのだけど――栞はなんとか、怒りと悲しみと後悔とを耐えた。
 そう。ここでもう一発平手を叩き込んだら、それこそ可愛いお嫁さんにはなれない。
「……もう良いです。赦してあげます。それで、護衛役の若者さんは何処なんです?」
「あり? まだきてないの?」

 ――良く、耐えたと思う。人間とは此処まで耐える事が出来るのだ。ある意味大発見である。
 その待ち人がやって来たのは、それから更に三時間後であった。
「……頭、痛え」
 住井護は、頭をぽりぽり掻きながら二人の前に現れた。もう、なんだかよく眠れたあ、という感じの顔である。
 漂ってくる匂いは、あまり得意ではないお酒の匂い。
 自分と殆ど同じくらいの歳だというのに、おっさん臭い。
 ……いや、それはどうでも良い。……なんでやねんっ。
 妙齢の女の子が待ってると知って、遅刻するような事があっていいんですかっ。
「おそいよー、すみいー」
 唇を尖らせるさいかは、別にそれ程機嫌が悪そうなわけでもない。
 そりゃそうだ、幼い子供にとっては時間は早く流れるものだから――。
 時間の流れは平等ではないのである。
 ――それでも、栞はなんとか、耐えた。なんとか……。
「こんなに待たせる人たち、大っ嫌いですっ……」
 そもそも、早く彰先生に逢いたいから出発しようとしたのだというのに、何でこんなに待たなくちゃいけなかったのだろう。
 とにかく――体感的には、やーっけに長い待ち時間の後に、彼女らは出発する事になったのである。
 実際の時間で述べるなら、七瀬彰が出発した、次の日の昼にであった。
195洛葉。:02/03/17 17:34 ID:AFVacQ8H
「いや、本当に遅刻してすまんね、わはは」
 街を出た後も頬を膨らませて怒っている栞に、全く反省の色を見せず、住井は話しかけてきた。
「遅刻する人と口なんて訊きたくないですっ」
 全くの本心である。まったく、彰先生と対極にいるようなタイプの人間だ。
 だらけ症だし、しまりのない顔だし、ちゃらちゃらしてるし、子供っぽいし。
 早く彰先生に逢いたいです。栞は小さく溜息を吐きながらそんな事を思う。実に今日二十五度目の溜息であった。
 ――そんな機嫌であったから、真っ白なローブを来た旅人にすれ違っても、それに気を払う事もなかった。

「なんかな……誰かに薬盛られたみたいなんだけどな……だから俺遅刻した訳でさ……。
 の割に、目覚めた後はなんかやけに身体すっきりしてるし、持病の腰痛も陰を潜めてるし」
 相手をして貰えないと判ったのだろう。住井は誰にも聞こえない程度の低い声で、そんな独り言を云った。
 ――実際、身体の様々な関節が、筋肉が、頭が、いつもでは信じられない程にすっきりしているのだ。

  巳間晴香が彼に盛った薬。その正体は、簡単に云えば身体のあらゆる部分に対する「特効薬」である。
  人間の身体に溜まった「汚れ」を一気に払い落とす。
  普段自分が気付いていないような傷までも、その薬の力が埋めるのである。
  人間の身体に制限があるのは、この「汚れ」が溜まっている為である、と云われる。
 「汚れ」が落ちた住井の力は、多分、新人冒険者とは思えないくらい強いものになっている筈だ。
  どれくらいの間効果が持続するかは知れぬが、まあ――彼女ら二人を目的地に送り届けるくらいの間は、持続するだろう。
  当然希少な薬であり、巳間晴香という薬剤師の力を以て、この薬を一人分作るのに数ヶ月の時間を必要とする。
  材料集めの時間を除いてであるから、推して知るべしであろう。
  しかし、その事を住井が知る筈もなかったが――。

 ともかく、彼女らが目的のホワールに到着するのは――
 七瀬彰が魔法学園の試験に、本人の意志はともかく、パスしたその次の次の日の事になる。
 彼が入学するか否かは、この時点では明らかになっていない。
196洛葉。:02/03/17 17:35 ID:AFVacQ8H
 ――そして、一つ補足しよう。

 彼女達が旅立った、本当にその直後に――霧島診療所前に立つ、真っ白なローブを纏った旅人を目撃した、という声が聞かれた。
 何やら東の方からやってきて、酒場にも宿屋にも寄らず、真っ直ぐに診療所へと向かったのだという。
 目撃したのは、広場で遊んでいた子供達であった。
 そのうちで親切なものが「彰先生はホワール市に旅行に出かけている」という趣旨の事を告げたのだという。
 その言葉を聞いたその旅人は、被っていたローブを取り、真っ黒な長い髪を、ふわ、と羽根のように舞わすと、
 何処から取り出したのか、その子にキャンディを渡し、ありがとう、と、本当に柔らかな声で云った。
 子供が見上げて、彼女の顔を見ようとする前に、その女は既に遠くに走り去っていたのだと云う事だった。
 彼女は、再び東へ向かっていたのだという。
 ――その子供は、ありがとう、という言葉の前に、彼女が呟いた言葉を聞いていた。
 すなわち、こんな言葉である。
「……折角用があって7年ぶりに帰ってきたというのに、あの馬鹿め――何ですれ違うかな、まったく」

 大人達は、その旅人が誰であるかすぐに判ってしまった。そんな事を云う人間は、多分一人しかいないからである。
 ――彼女がこれまで何処にいたか、という手掛かりは、子供が貰ったキャンディにあった。
 この種の飴玉は、ホワール市で特に盛んに作られていた者であるからだ。

 霧島診療所の主は、まったくもって風来坊である。



【聖先生 これまでホワールにいたらしき形跡があり、何かの用で久し振りに故郷の街に戻る。だが、再び東へ】
【しのさいか 美坂栞 住井護 紆余曲折を経て、漸く出発】
197洛葉。:02/03/17 18:17 ID:AFVacQ8H
>>187->>192の即リレーとなります。
さいかと栞と住井に関しては忘却の彼方。
198一方その頃:02/03/17 23:40 ID:jU5TYowE
「マスター、これからどないしますの?個人的にはこのまま逃げた方がいいと思いますぜ」
「それはできんな。まだ奴らには利用価値がある」
「あらあら、さいですか」
 物陰から話し声が聞こえてくる。
 一人の男が肩に乗せたカラスに話しかけているというある意味危険な光景である。
「でもどうするんでっか?マスターと私だけしか居ませんよ」
 男の肩に乗ったカラスが人間の言葉で話しかけている。
「一つ策がある。これならお前一人でも出来るだろう」
「一人って…、もしかして私一人っすか?」
 カラスが目を丸くして聞き返す。
「当然だ。こっちもやらなければならないことがあるからな」
「ヘイヘイ、分かりましたよ」
(相変わらず人使いの荒いお人だ)
 胸の中で毒づく。
 そうして男がカラスにある事を話し始めた。
199一方その頃:02/03/17 23:41 ID:jU5TYowE
(三行空け)
「……と言うわけだ。分かったか?」
「…えーと、マスター。これマジでやるんですか?」
 カラスが恐る恐ると言った口調で質問する。
「勿論だ」
 男が即答する。
「そんな無理っすよ!無理!大体ほとんど私一人が働いてマスターほとんど働いて無いじゃないですか!」
「いいからやれ」
「マスター。この際だから言わせてもらいますけどね。マスターは私に対する感謝が足りないんじゃないですか?」
 カラスが突然男に対して文句を言い始める。
「いっつもマスターの目の代わりしてあげてるんですからもうちょっと私のこと労って下さいよ」
「………」
 段々と興奮してきたのかカラスの声が大きくなってくる。
「もう、そんなことだからぴろ君とかみんな逃げちゃったんでしょ」
「……」
「そりゃマスターが私達を作ったのは確かですけどもうちょっとこう優しさというか何というか…」
「…今夜は焼き鳥にするか」
 更にヒートアップしてきたカラスの演説に男が一言ボソリと呟いた。
「へ?」
「カラスの焼き鳥が旨いかどうかは分からんがな」
「や、やだなぁ。じ、冗談っすよ、冗談。マスターに仕えられて感謝してますって」
「冗談だ、本気にするな」
 男があっさりとカラスに言う。
(目がマジだったんですけど……)
「時間がないな。そら、結構は30分後だ。それまでに準備を済ませておけ」
 ブツクサ言っているそらに男が言い放つ。
「ヘーイ、了解しました」
 そらはそう言うと男の肩から空へと飛んでいった。
200一方その頃:02/03/17 23:41 ID:jU5TYowE
(二行空け)
「きよみ…、待っていろよ」
 そらが飛び立った後、犬飼はそう呟くと目的地へと向かった。

【犬飼俊伐 人質救出作戦開始】
201 ”月” ―黄金色―:02/03/19 23:59 ID:ormJ919/

 巴間晴香。
 薬学の知識も豊富な上、白魔術にも長けている、騎士。
 テンプルナイト――”パラディン”の名を冠するモノ。
 FARGO宗団内においてもその信用は高い。

 彼女には兄がいる。
 彼女の親友が母を追ってFARGO宗団に潜入したように。
 彼女も又、己の兄を追い駆けてFARGO宗団に潜入した。

 そこでどんな出来事が起きたかは、彼女と彼女の仲間達しか知らない。

 結果、彼女は未だに兄の行方を知らぬままだ。
 そして、彼女の親友が未だ母を捜しているように。
 彼女も、未だ己の兄を捜している。
 唯、彼女は彼女の親友よりも直情的で――もちろん、立場の違いも多分にあるのだが――FARGO宗団の本部で情報を待っているよりも彼女は外回りを望んだ。

 彼女の兄は一種の天才だった。
 そして、彼女の兄がFARGO宗団の”裏の”勢力に何らかの形で関わっていた事も、彼女の兄の記録が完璧に抹消されている事から、推測出来ていた。きっと、行われていた研究にも関わっていたに違いない。

 そして、三年前。これは彼女の与り知らぬ事なのだが。奇しくも、FARGO宗団の”裏の”勢力が激しく揺れたのと同時期に、とある地方の領主が変わった。
 その領主もいわゆる天才と呼ばれる男だった、が。その代わり、いや、それ故に、か。

――頭のイカレ具合も天才的だった。
202 ”月” ―黄金色―:02/03/20 00:05 ID:PLtSyxbW

 彼女は、今。レフキーから一山越えた所に在ると云われる、『秘宝塔』へと向かっていた。
 FARGO宗団の実権を握っていると言って差し支えのない、女の指令で、だ。
 彼女はレフキーに存在する盗賊ギルドとはあまり、繋がり無い。
 そういう外部との交渉のそのほとんどが鹿沼葉子に任されている所為――かどうかは判らないが、彼女はギルドの親玉と会う方法すら知らされてはいない。

 黒衣のローブを纏った女がレフキーに着く頃には彼女は既にレフキーにて仮眠を取っていた。彼女の足なら、夜中にレフキーを発てば次の日の昼頃には秘宝塔の周辺に着いている頃だろう。
 そして、彼女はその山道を進んでいる。既に夜のとばりは落ちている。
 暗い、夜道。
 唯一の光源は空に真円を描き、強く輝く――。

「よぉ、姐ちゃん。わりぃけどよ、荷物置いていってくんねぇかな?」
 暗がりでよく見えないが、彼女の行く手を遮る様に、薄汚れた格好をした、定番のガラの悪い男が五人並んでいた。
「うひょぉ! こりゃぁ……随分と上玉だぜぇ」
「げぇっへっへ」
「キツ目で……イイ!!」
 男達はこんな良い条件で獲物に出会えた事に興奮し、笑い合っている。
 
 彼女は男達には意にも介さずそのまま衝き動かされる様――衝動的――に進んでいく。
 その口元は微かに、吊り上がっていた。

 そんな彼女の態度を見て、その男達は獲物を逃がすまいと取り囲んだ。
 彼女は少女に薬を渡す為、パッと見で、目立つ程の武装をしていた訳ではなかった。青いビー玉もまだ幾つか残っているが、そんなモノを見せられたとしても、怯える人間など、いまい。
 一方、男達は余裕だった。数日前に行方知れずになった仲間の事もあり、不測の事態に備え三人から五人に増やして活動していた彼等。数が増えただけで、虚勢が張れる単細胞な彼等の事だ。
 まぁ、だから彼女がカモとして見られたとしても、仕方が無い事。


――そう。これから何が起きても仕方が無い事。
203 ”月” ―黄金色―:02/03/20 00:05 ID:PLtSyxbW

「……えっ?」
 別段、派手な音はしなかった。近寄ってきた彼女を、押さえようとした腕を見詰めて、その男の顔は驚きと不可思議で染まった。
――おそらくは、視覚からの情報量が彼の脳の処理速度を上回っている所為だろう。まぁ、それも一瞬だ。
 遅れて、悲鳴を上げた。
「ヒィィィイイイッッッ!!
「五月蝿い……」
 苛立ったような口調。そして、男の声が止まった。
 男の心の臓に刃が食い込んだ。いや、食い込み貫き刃が背中から飛び出した。


「……こっ! このヤロウ!!」
「ぶっ殺してやる!!」
 彼女に近寄った男の腕が一閃のアト、吹っ飛び、腕を吹っ飛ばされた男が手をばたつかせ悲鳴を上げながら彼女に絶命させられるまでの間、傍観者の様に立ち竦んでいた四人の男達が一斉に山刀を抜き放ち、彼女に襲い掛かった。

 男達が気付かぬ速度で抜き身をさらした刀身。ソレに突き刺さっている死体を彼女は蹴飛ばした。
 その死体にぶつかりそうになって二人が止まる。そして、彼女は左右から迫ってくる残りの二人の内の右の男の方へ、一歩踏み込み、腕を伸ばして首の動脈を突き切り、軸足をそのまま回転させ、振り向き様に左から迫ってきていた男の両腕を切断した。
 振り上げられていた山刀が手から落ちた。
 死体に気を取られていた男の内、一人が短い悲鳴を上げるが、もう一人は怒鳴りながら彼女に斬りかかる。彼女よりも二回りもデカイ体躯の男を彼女は悠然と見上げる。

――その瞳はつまらないモノを見下す目。

 男の山刀が振り下ろされた。
 けれでも、彼女は既に男の脇を一息で駆け抜けており、すれ違い様に胴を薙いでいた。
 最後に残った男は、上半身を滑らしながら崩れ落ちる仲間や、血を撒き散らしながらのた打ち回る仲間の姿など捉えていなかった。
 逃げる事も、襲い掛かる事も、悲鳴を上げる事さえも出来ずに、その男は目の前の――爛とした天上の明かりしか届かぬこの山道で幽鬼の様に佇む――その、二つの目に、釘付けだった。


「無意味に生き続ける生命……」
204 ”月” ―黄金色―:02/03/20 00:08 ID:PLtSyxbW

 男は彼女が何を言ったのかは理解出来なかったが、彼女が何かを言ったのは理解出来ていた。
――そして、僅かに戻った理性が、このままでは死ぬ、と。そんな、馬鹿でも判るような事を男に告げた。
 男は限界まで伸ばされたゴムの様に、弾けた。振り返り、彼女に背を向け、走ろうとして――転んだ。
 彼女は無様に転がった男を見下ろしていた。
 男はうつ伏せの身体を両の腕で仰向けにして彼女を見上げた。
 足は上手く動かない。――何故なら両足のアキレス腱をざっくりと切られて、動かせる訳がないからだ。

 男は彼女を見上げながら、震える腕だけで後退した。
 それでも彼女から目が逸らせなかった。
 逆行――見上げる先の真円――の所為で、彼女の表情はワカラナイ。ただ、彼女の両の瞳だけが――
「ひっ! ひぃぁ……っ! みっ、三つ目! 三つ目のっ、バッ…化け物っっ!!」
 ――その逆行の中で、欄と、輝いていた。

 そしてそれが男が最後に見た光景になった。


「……化け物とはシツレイね」
 彼女は自家製の薬を飲み干したアトに、呟いた。
 彼女に、不意に、けれども周期的に訪れる。
 衝動。
 最近はその周期が段々短くなってきている気がしていた。もちろん。それは杞憂に過ぎ無いハズだと、彼女は思っている。
 彼女が飲んだのは、彼女用に、特別に調合した精神安定剤みたいなモノだ。例えそれが気休めに過ぎ無いとしても、無いよりはマシなのだ。

 そして彼女は踵を返して進もうとして――視界に入った輝く物体に思わず、目を奪われた。
「…………気付かなかった」
 盲点だ。と言わんばかりの語気。そして彼女は、ワラッタ。

「今夜が、満月だったなんてね……」
205名無しさんだよもん:02/03/20 00:16 ID:PLtSyxbW
【巴間晴香/秘宝塔までもう少し】

お話としては「下ごしらえ」の続きです。

いやぁ……こういう話なら数時間で書けるんですがね(爆
時間軸の矛盾はないと思いますが、まぁ……
変なところがあったら指摘お願いします。
206名無しさんだよもん:02/03/20 00:24 ID:PLtSyxbW
ああ、すいません訂正です。

>204
>逆行――見上げる先の真円――の所為で


逆光――見上げる先の真円――の所為で

に、編集する時に、訂正お願いします……
207名無しさんだよもん:02/03/20 00:59 ID:PLtSyxbW
ああ、

――なんて、無様。

すいませんもう一個、訂正です。

>204
> ――その逆行の中で、欄と、輝いていた。


――その逆光の中で、爛と、輝いていた。

に、編集する時に、訂正お願いします……

誰かさんに十八分割されて死んできます……
208名無しさんだよもん:02/03/20 10:22 ID:EmrbxRd1
一応メンテ
209狡猾なる闇:02/03/20 23:46 ID:t/WlSifU

「……ルミラ、どういう事だ?」
 事態が飲み込めない浩之は、おずおずとルミラに尋ねる。
 ちら、と一瞬浩之の方に視線を送ってから、ルミラは怯えた表情の澪に目を戻した。

「私たち魔族が、基本的に中立だって事は、話したわよね。
特定の国の政治に関わる事なく、人間同士の争いに荷担する事も無い。
私達魔族には、個人を対象とする場合を除き、人間への国家レベルでの干渉を禁じる条約が存在するの。
早い話、国を牛耳るとか、世界征服を企むとか、そういった事を禁止してるのよ。
人間の保護、魔界の秩序維持とか、理由は色々あるけど、人間界と魔界の平和維持の為に必要なルールよ。
……けれど、中には条約を無視し、国家を意のままに操ろうとする、魔族の面汚しも存在するの」

「それが、あんな小さな女の子だって言うのか!?」
 目を丸くして、澪を見つめる浩之。だが、それはあまりに信じがたい話だった。
 当の少女にしがみつかれている佐祐理も、困惑した顔でルミラを澪を見比べる。
「確かに、小さな女の子の姿をしてるけど……それは単に、その子の身体に憑依しているだけに過ぎないわ」
「そんな………」
 佐祐理には、怯えながらがたがた震えている澪が、演技をしているとは思えなかった。
「ルミラさん……あの、何かの間違いなのでは……」
 金色の瞳のルミラに、冷めた目で見詰められ、佐祐理は言葉を途切れさせる。
「あなたがそう言いたくなるのはわかるけど、この臭い、間違うはずも無い……
……“ラルヴァ”、ガディムを長とし、帝国に巣食う魔族の裏切り者よ。佐祐理、その子を放しなさい」
 ぱちっ、とルミラの手の中に、蒼い炎が浮かび上がる。
「“ラルヴァ”、さっさと正体を現したらどう?
これだけバレバレでまだお芝居を続けるなんて、あなたには恥という概念が存在しないのかしら?」
210狡猾なる闇:02/03/20 23:47 ID:t/WlSifU

 だが、ルミラの挑発にも、澪はさらに怯えながら、佐祐理にしがみ付くばかりだ。
 内心ルミラは舌打ちしていた。
(こいつ……ただの三下じゃない……挑発に乗って来ないなんて、随分いい度胸してるじゃないの)
 状況は、圧倒的にルミラに不利だった。
 ラルヴァがいつまでも澪の振りを続ける為に、浩之まで疑念の目を向け始めている。
(帝国兵が来れば、まずい事になる……こうなったら、強引にその正体を暴いてやるわ)

 突如、ルミラが弾かれたように走り出した。
 風のようなその速度に、誰もが反応出来ない。
 ルミラは流れるような動作で澪の首を掴むと、軽々と佐祐理から引き剥がし、放り投げた。
「!!」
 宙を舞い、頭から地面に落ちそうになった瞬間、澪は身体を捻り、身軽に受身を取った。
「ラルヴァ、その娘の身体を解放なさい……!」
 着地点を狙い、逃れようの無いタイミングでルミラは蒼い炎を澪に投げつける。
 狙い違わず、澪の身体が炎に包まれた。
「いやあぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「る、ルミラっ!?」
「安心しなさい、浩之、佐祐理。あれは精神の炎。相手の魂だけを焼き、肉体には傷一つ付けない……っ!?」
 次の瞬間、澪の足元に六紡星が描かれたと思うと、ルミラの炎は跡形もなく消し飛んでいた。
「………誰っ!?」
 澪がその場に倒れ込むのと同時に、ルミラは術を打ち消した相手に、素早く視線を向ける。
「……澪を傷付ける者は、例え誰であろうとも赦す訳にはいきません」
「………」
 新たなる乱入者は、金色の編んだ髪をなびかせ、ゆっくりと姿を現した。
211狡猾なる闇:02/03/20 23:50 ID:t/WlSifU

「茜さん……」
 倒れている澪に駆け寄った佐祐理は、彼女の顔を見て、驚いた声を上げた。
 そんな彼女を一瞥し、ルミラは鋭い視線を茜に投げかける。
「……あなた、どうやらその娘の知り合いらしいけど、その子には今ラルヴァという魔物が……」
「知っています」
 茜ははっきりした声でルミラを遮ると、明義が背負っている少女に目を向けた。
「事情の程は、この帝国将軍の方からお聞きしました。はっきり言って、あなたよりも詳しいはずです」
「んーんー!」
 そこには、猿轡をされ、縄でぐるぐる巻きにされた吉井がいた。
 ここまで吉井を背負ってきたらしい明義は、顔中汗だらけで、ぐったりしている。
 ルミラは目を細め、鋭く茜を睨み付けた。
「その上で庇うというの?」
「彼女の話によれば、ラルヴァは澪が眠っている間に、融合を行ったそうです。
前後の状況から考えれば、澪の魂は人質に取られていると見て、間違いないでしょう。
あのような乱暴なやり方をしても、ラルヴァが澪の精神を盾にしてしまえば、ラルヴァ本体は無傷のままです」
「………」
 それでも、澪の精神を破壊してしまえば、ラルヴァにもダメージが通る。
 一瞬そう思ったルミラだったが、さすがにそれを口には出さなかった。
「なら、どうするつもり?」
 ぐったりしている澪に、舞と浩之が近寄った。浩之は心配そうな表情で、舞は唇を尖らせて、澪と佐祐理を見ている。
「きちんとした手順を踏んだ儀式を行えば、憑依した魔族を、犠牲者を危険に晒す事なく堕とす事ができます。
ですから、その子を私に預けて……あっ!?」

 次の瞬間、気絶していたはずの澪の手が動き、舞の胸元の“秘宝”を掴み取っていた。
212狡猾なる闇:02/03/20 23:52 ID:t/WlSifU

『………っ!』
 とっさに動こうとした茜とルミラだったが、澪=ラルヴァの視線に晒されて、その場に凍りついた。

 澪=ラルヴァの細い指先が、正確に佐祐理の頚動脈に当てられている。

「あ……」
「動くな、術士、同朋。僅かでも動けば、この娘の頚動脈を引き千切る」
 澪=ラルヴァは満面の笑みを浮かべたまま、茜とルミラ、それに舞と浩之に言い放った。
 その表情は、今までの怯えた少女のものではない……ラルヴァの本性そのままの、邪悪な代物だった。
「…いかにそこの白魔術師が優秀とはいえ、千切られた頚動脈を修復する事は出来まい?
例え出来たとしても、数刻でも脳に血が送られなければ、重い脳障害が残る事になるだろうな」
 手の中の“秘宝”を転がし、澪=ラルヴァはクスクスと笑う。
「……怯えた少女の次は、死んだ振り? 随分と演技が上手な事……裏切り者らしい姑息な手ね」
「ふふ、そうでなければ、人の間ではやっていけぬよ、同朋」
 挑発を受け流し、澪=ラルヴァは涼しい顔でうそぶく。反対に、ルミラの眉が吊りあがった。
「下賎なラルヴァごときが、私の事を同朋と呼ぶな……!」
「これは失礼した。ルミラ・ディ・デュラル……! デュラルの当主殿。その名を思い出した時は、流石に胆を冷やしたぞ」
 一歩も動けない彼女らの前で、澪=ラルヴァはゆっくりと立ちあがる。
「そうそう、この身体だが、随分と使い勝手がよいので、もうしばらく預からせてもらうぞ」
「なっ……!」
 思わず澪に駆け寄ろうとする茜の前で、澪=ラルヴァの足元から、黒い影が吹き出した。
 影は澪=ラルヴァを飲み込み、次の瞬間には、その身体ごと消え去っていた。
「そんな………澪……」
 澪が消えた場所に膝をつき、茜は呆然と呟く。そんな茜に、誰も掛ける言葉が無かった。
213長瀬なんだよもん:02/03/20 23:54 ID:t/WlSifU

【浩之、佐祐理、舞、ルミラ、茜&明義&吉井と遭遇】
【吉井、簀巻き状態】
【舞、秘宝をラルヴァに奪われる】
【澪=ラルヴァ、秘宝を手に姿を消す。澪の身体を乗っ取ったまま】


吉井の受難その2。
茜の行く先、澪の肉体の行方は、次の方にお任せいたします。
214名無しさんだよもん:02/03/21 12:50 ID:8XTA+s92
メンテしておきます
215名無しさんだよもん:02/03/21 15:21 ID:vmD5pyBg
どうせならageメンテ
216名無しさんだよもん:02/03/23 00:27 ID:nxf6eWJK
もう少しメンテ。
217怪盗現る:02/03/23 23:36 ID:P2PFLHnt

「お茶、ご馳走様でした」
「構わないよ。長瀬さんが帰ってきたら、あんたが来た事を伝えておくから」
結局、目的の長瀬源一郎には会えずじまいで、久瀬は彼の家を後にしていた。
「まぁ、あまり期待はしていなかったけど、居ないとなるとちょっと困ったかな」
通りを歩きながら、久瀬はそうひとりごちる。
実のところ、久瀬が源一郎に会いに来たのは、彼のネットワークを当てにしていたからなのだ。
『ネットワーク』……このレフキー、いや、世界中から情報が集まる、最も高度な情報網。

通称『長瀬ネットワーク』とも呼ばれるこの情報網は、世界中に存在する何百、何千とも言われる
“長瀬”某によって構成されるネットワークなのである。
特に秀でた異能の力を持つとされる、長瀬一族。
そんな彼ら一人一人の情報が束ねられ、この巨大なネットワークが成り立っているのだ。
そしてそれは、長瀬一族と限られた人間にだけ、アクセスを許されていた。

久瀬の前の団長である長瀬源一郎は、そのネットワークの管理者をやっていたのだ。
最近、代替わりしたらしいが、やはり源一郎に勝る管理能力者はそういない。
新管理者は源一郎の育ての娘で、久瀬も顔は知っていたが、苦手な部類に入る相手だった。
なんでも長瀬の遠い親戚だとかで、その情報処理能力は源一郎も一目置くらしいが。
「えっと、何て名前だったかな……長……長山…じゃない。長がついたのは確かだ……確か……」
「うぐぅ、どいてどいて〜〜〜っ!!」
考え事をしながら歩いていた久瀬は、いきなり真横から突き飛ばされて、派手に地面に突っ伏す。
「がほっ!?」
「うぐぅ!?」
思いのほか少女の体重は軽かったが、膝がまともに鳩尾にめり込んだせいで、久瀬は呼吸困難に陥いっていた。
218怪盗現る:02/03/23 23:36 ID:P2PFLHnt

「うぐぅ、ひどいよ、どいてって言ったのに……」
「がほがほがほ……い、いきなり人の鳩尾に蹴り入れておいて、その言い草か……」
鳩尾に手を当てながら、久瀬はよたよたと立ち上がる。
少女の方は、あれほどの衝突にもかかわらず、案外けろりとした顔をしていた。
「貴様、待ちやがれ〜〜〜〜〜っ!」
「うぐぅっ!?」
だがそこに、いきなりの罵声があびせられ、少女はぎくりと身体を強張らせる。
見れば、後ろから皮鎧を身につけた、自警団らしき若者たちが、大勢追いかけてきていた。
「説明は後っ、とにかく逃げるよっ」
「その前に、この私の手を放してから、一人で逃げろ」
さすが冷静でならした久瀬、この状況にも、平然と少女が握った己の手を指摘する。
「うぐぅっ!?」
「むっ!?」
だが、いきなり飛んで来たネットに、さすがの久瀬も顔色を変えた。
間一髪かわしたものの、今度はボーラまでが投げつけられて、久瀬は慌ててあゆと逃げ出す。
「何故だっ、何故この私まで狙われてるんだ! お前、一体何をやったんだ!?」
「うぐぅ、知らないよぉ……昨日食い逃げしたけど、今日はまだだし……」
「………」
久瀬の灰色の脳細胞が、凄まじい速度で回転する。
食い逃げ。食い逃げと言ったか。何と言う事だ、食い逃げなどをするコソ泥と知り合ってしまうとは。
だが、たかが食い逃げでネットを持った自警団が追いかけてくるとは思えん……
これはひょっとすると、まだ何かあるのかもしれない。関わり合いになりたくは無い……が。
今自警団に捕まれば、最悪レフキーでの興業が出来なくなるかもしれん。ここは逃げた方が利口か。

そう考える事一秒、久瀬はあゆと共に全速力で走っていた。
219怪盗現る:02/03/23 23:47 ID:P2PFLHnt

通りを駆け抜け、裏道を走り、人様の軒先を潜って、ようやく二人は追っ手を撒いていた。
一軒の宿の裏で、二人はぜいぜいと呼吸を整える。
「……はぁ、はぁ……酷い目にあったよ…」
「それはこちらの台詞だ。で、うぐぅ星人よ」
「うぐぅっ!? 何それ!?」
いきなりの変な呼ばれ方に、あゆの目がまん丸になる。
「うぐぅと鳴くから、うぐぅ星人だと思ったのだが」
「違うよっ、ボクは月宮あゆって名前があるんだよっ!」
「そうか。まあ二度と会う事も無いだろうが、今後私に迷惑をかけるような事はしないでくれ」
ほとんど表情の変わらない久瀬に、あゆの顔に怯えの色が浮かぶ。
「うぐぅ……」

「ここにいたのか、月宮あゆ」
とそこに、久瀬と似たような無表情で、岩切が顔を覗かせた。
「い、岩切さん……」
「いきなり逃げ出すから、どうしたかと思ったぞ、月宮」
「うぐぅ、だっていきなり、怖い人たちに追いかけられたから……」
「……反射的に逃げたと、そういう事か……」
珍しく苛立ちを露にしながら、岩切は首を振る。
「昨日折原が言っていたぞ……近頃、ギルドに属さない盗賊が、この辺りを荒らし回ってると」
「へ……そ、そんなっ、ボク知らないよっ! 上納金を誤魔化したりもしてないよっ」
「違うなら構わないが……はぐれ者にあまり無茶をされると、ギルドも黙っていられないからな…」
岩切は嘆息しながら、あゆの腕を掴んだ。
「さて、引き続き、篠塚弥生探しを手伝ってもらうぞ……情報が足りないのだ」
「うぐっ……」
220怪盗現る:02/03/23 23:50 ID:P2PFLHnt

「あなた、ひょっとして盗賊ギルドと繋がりが?」
その時、今までずっと黙ったままだった久瀬が、おもむろに岩切に尋ねた
「そうだが……誰だか知らないが、あまり詮索しない方が身の為だぞ」
「いや、取引をしたいだけだ」
岩切の脅しを無視し、久瀬は淡々と言う。
「実は私は、旅芸人一座の団長などしているのだ。そこで、少しばかりギルドの顔役に繋ぎを取っておきたいのだ。
この街で興業を成功させる為には、盗賊ギルドの協力あった方が便利だからな」
「………成程、旅芸人か……で、取引というのは?」
「ああ。それなんだが……」

「あっちに隠れたぞ!!」
突然の鋭い声と共に、人相の悪い人間たちが、ばらばらと岩切達の前に現れた。
「あっ、月宮! やっぱりお前か!!」
「てめぇ、ギルドの掟を忘れたとは言わせねーぞ!」
「う、うぐぅ……!?」
いかにも悪人面のチンピラたちにすごまれ、あゆの目に涙が浮かぶ。
「自警団の次は、チンピラか……月宮、お前よくよく運が無いな……」
呆れの混じった声で呟くと、あゆを庇うように、岩切がずい、と前に出た。
「お前たち、何の騒ぎだ?」
「あっ……岩切さん……いえ、実は今しがた、またそこで盗みがあったんです」
「しかも、“乳牛”の所でですよ!」
乳牛とは、チンピラ用語で、盗賊ギルドの保護を受けている商店を差す。
『上納金』を収める事で、ギルドに保護してもらい、盗みに入られないようにしてもらっている店の事だ。
「ギルドの面目丸つぶれですよ!」
「……落ち着け、月宮はさっきからずっと私と一緒に居たぞ」
221怪盗現る:02/03/23 23:53 ID:P2PFLHnt

岩切に諭され、チンピラたちは困ったように顔を見合わせた。
「岩切さんがそう言うなら……わかりやした、他を当たってみます」
「ああ、気を付けてな」
チンピラたちが姿を消し、あゆは大きく溜め息をついた。
「うぐぅ、怖かったよぉ……岩切さん、ありがとう」
「事実を言ったまでだ……で、そこに隠れている奴、出て来い」

驚くあゆと久瀬を尻目に、岩切はすっとナイフを酒場の樽に投げつけた。
はたして、樽の裏から、そろそろと一人の少女が顔を出す。
「えっへっへ、見つかっちゃった……」
「貴様か、最近好き勝手にやっている盗賊というのは……」
「へっ?」
彼女は一瞬きょとんとすると、慌てて手をパタパタと振った。
「とんでもな〜い、私そんな事しませ〜ん。誓って、あたしゃ怪しいものじゃありませ〜ん」
何の真似か意味不明だが、彼女は大仰に天を仰いでみせる。
身体にぴっちりとしたオレンジ色の服、頭の上には色眼鏡。
小さなお下げが、ちょこんと後ろ頭から出ていた。
「あたしはコリン。ただのちりめん問屋のご隠居の、風来坊の旗本三男、じゅげむじゅげむ後光の擦り切れです〜」
「…………なんだと?」
あまりに怪しすぎるコリンに、岩切ですら二の句が告げなかった。
「んではでは、あたしはこれで」
言いたい事だけまくし立てると、しゅた、と片手を挙げ、コリンは風のように走り去っていた。
ひゅるり、と風だけが虚しく、3人の足元を吹き抜けていく。
「………なんだったんだ、今のは………」
ぼそり、と呟いた岩切の台詞は、そのままあゆと久瀬の内心を現していた。
222名無しさんだよもん:02/03/23 23:56 ID:P2PFLHnt

【あゆ&岩切、久瀬と遭遇】
【久瀬 岩切に取引を持ちかける】
【コリン ギルドに属さない盗賊(らしい)】
223名無しさんだよもん:02/03/25 00:56 ID:n2BJmRMb
メンテ
224かのりんふぁいとぉ:02/03/26 00:15 ID:/6yUrpTK
――そもそも最初がいけなかった。
落ち着ける所を見つけるまで何を言われても和樹に引っ付いていけば良かった。
それをあの変態魔術師が、
「なんだ、同士二人してまだまだ一人立ちができん様で、クックック」
なんて煽るからいけないんだ。
あんまり頭に来たから三人して別々の方向に駆け出したんだっけ。
レフキーは大都市だって聞いてたから、実際周りに人がたくさん居たから、まぁなんとかなるだろうなんて考えて適当に二人の姿が見えなくなる様に角を何度か曲がったりした。

そうしたら真っ暗な裏路地に居た。周りには人っ子一人居ない。
あんまり心細くてちょっとべそなんてかきながら右も左もわからない状態で進んでたら、人が居る所に着いた。
着いたんだけど居るのはなんだか怪しい格好をした人達ばっかり。
どうしたら良いかわからず立ち尽くして居たら歩いていた誰かと肩がぶつかってしまった。
「あっ、ごめんなさい!」
「いえいえ、こちらこそ余所見をしていて…」
慌てて謝ったら丁寧におじぎまでしてくれて、
「お嬢さんみたいなのがこんな裏世界に迷い込んでたら大変だ。あっちの道をまっすぐ行けば表通りに出られるよ」
道まで教えてくれちゃったりしてくれた。
「あ、ありがとうございます!」
あたしはもう嬉しくて嬉しくて、その人の顔を見るのも忘れて言われた方に駆け出した。

「……人だ」
人、人、人、明るい往来。
「ふぃ〜…」
あたしはあまりの安心感に腰が抜けてその場に座り込んでしまった。
目にはちょっと涙まで浮かべてたりして。
実際何分あの暗い路地裏で迷ってたんだろう。もしかしたら数時間かもしれない。いや、事によると数日…ってわけないか。
そんな事を考えて苦笑いなんかしてたら、
ぐぐぅ〜…
と、おっきくお腹が鳴った。そういえば迷ってる間なんにも食べてないもんね。
よし、あのおいしそうな匂いのする露店で何か食べよう。
225かのりんふぁいとぉ:02/03/26 00:16 ID:JB80g3lF
「おじさん!えっとこれ…ワッフル?三つください!」
「あいよ」
ちょっとガッつき過ぎかな?あんまり食いしん坊だなんて思われたくないな。
なんて考えながら懐のお財布を取り出し……お財布を取り出し……取り出し……お財布……
「財布がないっ!?」

――そうして現在に至る。
当然あの時のワッフル三個はお預け、それどころかあれ以来三日三晩飲まず食わずで街を彷徨う始末。
大都市って便利な様に見えて、無一文には凄く冷たいのね。
人情が足りないよ。
自分でももうヤバイなーなんて感じ始めちゃったからレフキーを出た。
街中で倒れるのはなんか恥ずかしかったから、その時はまだそんな事を考える余裕があったんだろうね。
街を出て二、三分も歩かない内にすぐに歩けなくなった。
今は大きな木の幹に寄りかかって座ってる。

なんでこんな事になっちゃったんだろう。そもそもどうしてレフキーに来たんだっけ。
あの男ども二人は最強の剣士だか世界征服だか変な事叫んでたわね。
でもあたしはそんなのどうでも良かった。
ただ、怖かったから。ずっと、幼い頃からずっと一緒に育ってきた二人が村を出るって聞いた時、
あたしだけこの田舎に残って結婚して畑仕事して子供産んで、死ぬのかなぁなんて考えたらなんだか急に怖くなったから。
そう思ったら叫んでた。あたしも行くって。

「そういうナァナァで出たのがいけなかったのかなぁ……」
視界がかすむ。何故かあの変態の言ってた事を思い出してしまった。
『ふははははっ!!ついに来たぞ同志諸君!夢と絶望の都市・レフキーに!!』
あはは、夢と絶望の都市とは良く言ったもんだね。あたしは今その絶望に飲み込まれる所みたい。

和樹どうしてるかなぁ。まさかあいつもどこかで行き倒れなんて事になってないでしょうね。
和樹、もう一度会いたかったなぁ……
226かのりんふぁいとぉ:02/03/26 00:19 ID:9es1zCnO
ゆっくりと目を閉じて目を開く。そうしたら世界は色彩を失った。木も草も、道もレフキーの城壁も、みんな灰色になった。
いよいよもっておしまいかな……いやだなぁ。
そうして、
目から涙が一粒こぼれ落ちたと同時に、あたしは心地よい、けれどどうしようもない眠気に身を任せた。










――頬に誰かの手が触れる。ひんやりとして気持ちがいい手。
誰だろう?もしかして死神ってやつ?
わずかに覚醒し、そしてまたズブズブと沈んでゆく意識の中で考える。
目も開ける事ができないでいたらその手が今度はずるずるとあたしをどこかへ引きずっていく。
三途の川へご招待?
「んしょ、んしょ。大変だよぉ」
あはは、随分と可愛らしい声の死神。
「はぁ…はぁ……ふぁいとぉ…いっぱぁぁつっっっ!」
あんまり一生懸命に引きずってるみたいで少し可哀想になった。だけどこっちはもう動けないんだからしょうがない。
「ひぃ…ふぅ……かのりんふぁいとぉ…」
ふぁいとぉ、と心の中で死神の声真似をしながら、あたしはまた深い眠りについた。

【高瀬瑞希 財布を失う】
【霧島佳乃 瑞希を拾う】
227救出作戦:02/03/26 01:29 ID:2nsEbmjJ
「……ちくしょう」
祐一は後悔していた。
自分の失敗で捕まった仲間たちを助けることが出来なかったからだ。
「あの時、飛び出してればどさくさにまぎれて晴子達は逃げれたんじゃないか?」
こんな無謀な作戦を立てたにも関わらず、仲間が自警団本部に連行されるのを見送ってしまった。
そのことで祐一は延々と本部の前で煩悶していたのだ。
「俺は…どうしようもないヘタレだ」
ちなみにその姿は多くのものに見られているがさすがに海賊だとはおもわれなかったらしくつかまらずにすんでいた。
「なんとしてでもみんなを助けないとどうすればいいんだ?
 ……………こうなったら突入して騒ぎを起こす。そのどさくさにまぎれて」
祐一はそう決意すると爆弾を懐から取り出し本部入り口のドアに手をかけようとすると
「このヘタレ!!何考えてるんだ!?」
「………!?」
「まったく、使えない奴だな。お前も」
「誰だ?」
祐一は慌てて周りを見渡したが周りに人はいない。
「ここだよ。ここ」
カラスが飽きれたように言った。
「か、カラスが喋ってる。魔物か?」
「私はそら、もしかして覚えてないのか?」
「……え〜と、もしかして犬飼さんが時々えさをやってるカラス?」
祐一が自信なさげに言う。
228救出作戦:02/03/26 01:29 ID:2nsEbmjJ
「そうそう、正解」
「…なんで鴉がしゃべれるんだ?」
「まあ、俊伐様が偉大な科学者だってことだ」
そらが自慢げに言った。
「そういえば、犬飼さんは無事なのか?」
「とっくに逃げ出したよ。ミラクルカノン号はもうそろそろ自警団に拿捕されててもおかしくねえんじゃねえか?」
「……ミラクルカノン号が」
祐一はがっくりとうなだれる。
父から引き継いだ海賊、相沢一家はどうやら今日でいったん滅亡らしい。
「暗くなんなってみんなでまじめに働いて船を買ってまた海賊をやればいいじゃねえか」
「まじめに働く、海賊がどこにいるんだよ」
「いや、船がなくなったら海賊行為なんか出来ないんだから海賊でいるのは無理だろ。その間まじめに働くのはありなんじゃねえか?」
「そうかもしれないな」
「そうそう、でまじめに働く同士を助けるためにお前がやらなきゃならないことを伝えに来たのよ」
「やらなきゃいけないこと?もしかしてお前が囮をやってる隙に俺が華麗に晴子達を助けるとか?」
「全然違うぞ」
そらはうんざりしたように呟いた。
229救出作戦:02/03/26 01:30 ID:2nsEbmjJ
(俊伐様、こんな馬鹿に利用価値があるとは思えませんぜ)
「じゃあ、どうするんだ?」
「まもなく自警団が藤井冬弥をしょっぴいてくるはずなんでそれをお得意の無茶で助けてくれ」
「冬弥さん捕まってたのか…」
最後に別れたとき、嫌な予感はしてたが…
「爆弾があるようだし、なんとかなるだろ。で、藤井冬弥を回収したらこの辺に潜伏しててくれ」
「この辺にいたら捕まらないか?」
祐一が聞く。
「大丈夫だ。俊伐様の偉大な科学力があるから」
「そうか、それなら安心だ」
祐一はあっさり納得する。
(こいつ、筋金入りの馬鹿だな…。なんでこれだけで信じるんだ?)
「じゃあ、祐一。俺は次の仕込みに行くから頑張れよ」
「おう!!」
【相沢祐一、藤井冬弥を救出するために待機】
【そら、次の準備に向かう】
230名無しさんだよもん:02/03/28 01:15 ID:W2WZC52H
 
231名無しさんだよもん:02/03/28 01:25 ID:o77Ecfve
ちょいメンテ
232退却、そして……:02/03/30 01:29 ID:oUU/vR53

 血が滲むほどに、岡田は己の唇を強く噛み締める。
「おのれ…おのれ……おのれっ!!」

 すでに兵たちには、隊をまとめ、集合するように指令を出してあった。
 これ以上の追撃は無意味……そして、被害を大きくする理由もない。
 司令官としての岡田はそう判断を下していたが、感情はそれについていっていなかった。
 へし折れた自分の剣を鞘に収めると、岡田は苛立ち紛れに、近くの木に拳を叩きつける。
 自分をまるで子供扱いした、あの共和国の男。
 あの男の事を考えるだけで、苛立ちと憎悪と、不可解な感情が湧きあがってくる。

「……随分とご機嫌斜めだな、岡田」
「っ……御使い殿か」
 兵士たちは全て指令に出させ、この場にはいない。
 木々の間から、まるで影のように染み出す澪の小柄な身体を見て、岡田は眉根を寄せた。
 澪=ラルヴァは目を細め、落ちている岡田の剣の切っ先を拾い上げる。
「ほほう……この剣が折られるとは、敵もなかなかやるな」
「……奇妙なマジックアーマーを持った男だ。断魔剣を弾き、逆に剣が負荷で折れた」
 端的に説明する岡田に、澪=ラルヴァはますます面白そうな顔になった。
「そうかそうか……しかし岡田よ、己の剣でなければ技も使えぬとは……『魔導剣士』とは不便なものよな?」
 図星を刺され、岡田は渋面になる。
 魔法と剣に精通し、その両方を極めたものだけが、“魔法”剣士になれるという。
 『魔導剣士』とは、魔法剣士よりも遥かに少ない修練で、魔法剣を扱えるようにした者たちの総称であった。
 『魔導』の名の通り、魔法と剣を合わせた特殊な剣技を使う事が可能だ。
 その反面、単体の魔法を使うことは出来ないし、『魔導剣』と呼ばれる特殊な剣でなければ、技も発揮できない。
233退却、そして……:02/03/30 01:30 ID:oUU/vR53

「くく……技に溺れるあまり、剣技の修練を怠るとは本末転倒」
「うるさいっ! 吉井と同じ事を言うなっ」

 岡田、吉井、そして松本の3人は、それぞれ違う分野と能力に秀で、互いの欠点を補う形で組んでいた。
 岡田は魔導剣による特殊な剣技と兵士の指揮を、吉井は通常の剣技と策略を、それぞれ担当していたのだ。
 松本はまた、二人とは別なのだが……

「松本と吉井さえ……いや、せめて吉井だけでもこの場にいれば……」
 岡田のように魔導を扱わない分、吉井のほうが剣技では遥かに上だ。
 あの共和国の男にさえ、そう易々と取られる柔な剣ではない。

「……そう、その吉井なのだがな、岡田よ」
  ふと思い出したかのように、澪=ラルヴァが囁いた。
「殺されたぞ……あの、共和国特務部隊の男に」

「な……んだと」

 一瞬、岡田の表情が抜け落ち……次の瞬間、烈火のごとく頬を紅潮させて、澪=ラルヴァの胸倉を掴んだ。
「ふざけるなっ、そんな事があるはずがないっ!! あの、あの吉井がっ……!」
「しかし、現に腹を……」
 ぎらぎらと異様に輝く岡田の目に凝視され、澪=ラルヴァは言葉を失った。
「いいか……我々三銃士は、常に行動を共にして来た。
貴様ごときが窺い知れぬだろうが、吉井は常に沈着冷静で、最善の方法を取るに長けた女だ。
剣技にしろ、智謀策略にしろ、私などよりも遥かに……!」
234退却、そして……:02/03/30 01:31 ID:oUU/vR53

「岡田様っ!!」
 突然響いた声に、岡田はハッと我に帰った。
 緩んだ手の中から抜け出し、澪=ラルヴァは大きく息をつく。
「どうした?」
「あ……はい。その……吉井様の剣と銃が、焼け跡から発見されました」

 岡田の顔から、一切の表情が消え去った。

「しかもその場所には、大量の出血の後が……死骸は出ておりませんが……恐らく」
「よい」
「はっ?」
「下がって任務を遂行しろ」
「は、了解しました」

 その男が去ってから、岡田は驚くほど低く、しわがれた声で澪=ラルヴァに訊ねた。
「………御使い殿、その状況を……見ていたのか?」
「うむ。吉井があの貴様と同じ髪をした女と戦っている間に、後ろから剣で切られたようなのだ。
その後、奴らは吉井に止めを刺し、逃走する為に出て行った」
「………そうか」
 堅く、あまりにも強く握り締められた岡田の拳から、下草にぽたぽたと鮮血が滴り落ちた。
「あの男が……到底、そんな風には見えなかったが………所詮は……共和国と…言う事か…」
 声を動揺に震わせながら、岡田は必死で頭を回転させる。
 吉井なら……冷静な彼女ならどういう戦略をとるか、何度も何度も思考を続ける。
 吉井の仇を取りたい、そう思う気持ちを必死で押し殺し、やおら岡田は顔を上げた。
「全軍、撤退する……これ以上の戦闘は、無意味だ」
235退却、そして……:02/03/30 01:32 ID:oUU/vR53



「岡田よ」
 全軍をまとめ、軍馬にまたがった岡田に、澪=ラルヴァが声をかける。
 何事かと振り返った岡田に、白く美しい宝石が、投げ渡された。
「これは……」
「秘宝塔の『秘宝』だ…………本物の、な」
 美しく輝く宝石に、心奪われたように凝視する岡田に、澪=ラルヴァはからかうような声で言う。
「それを持ち帰れば、吉井を失った件、この村で失った被害も、帳消しにして余りあるだろう。
なにせ、恐るべき力を持った一族の、魂の結晶でできた『秘宝』なのだからな」

 岡田は無言で一礼し、馬の首を翻らせた。
 背を向けた岡田に、澪=ラルヴァは暗く、そして堪らなく嬉しそうな笑みを見せる。
(くく……岡田よ、貴様はここで潰えてもらっては困るのだ……貴様には、もっともっと活躍してもらわねば、な)

 帝国兵たちが、次々と退却していく。
 それを見守る村人たちの表情には、安堵の色が濃かった。
 だが、決して手放しで喜べるものではない。
 共和国によって付けられた火(岡田は村人にそう説明した)は、村の大半の家々を焼き尽くしていた。
 家畜も、穀物も、その多くが失われていた。
 このあたりの村は、決して裕福な暮らしを営んでいるわけではない。
 最悪、このままでは餓死者が出る可能性さえあった。
 

 藪に潜み、帝国兵たちを見送りながら、蝉丸は憂鬱に溜め息をつく。
「城に帰ったら、すぐさまこの村に援助を送ってくださるよう、女王に進言せねばな……」
236長瀬なんだよもん:02/03/30 01:38 ID:oUU/vR53

【帝国兵、退却】
【岡田、吉井が蝉丸に殺されたと、澪=ラルヴァから聞かされる】
【吉井を攻撃したのは、ラルヴァ。吉井は死亡していない】
【岡田、秘宝を入手】


ついに帝国兵を退却させてしまいました。
長かった秘宝塔編、自分が終わらせちゃうのは、やはり緊張します。
しかし、まだ完全に決着が着いた訳でもありません。

それでは、誤字脱字修正ありましたら、指摘よろ。
237名無しさんだよもん:02/04/01 12:26 ID:sEWA2+pi
メンテしとく
238名無しさんだよもん:02/04/01 13:23 ID:eSwJZDzm
 
239トラブルメーカー:02/04/01 13:40 ID:6w1lT15s

レフキーの一角に、巨大な教会が建っている。
細かく掘られた彫刻、高くそびえる尖塔、その全てが芸術品とも称されるべき代物である。
荘厳で格式高いこの教会は、伝説の建築技術士、ガウディの手によるものだと言われている。
今もまた、レフキーの迷える民、信心深い人達が、この協会を訪れていた。

「司祭様、ありがとうございます…!」
「いえ、どうか神のご加護がありますように」
司祭の神聖術によって癒された老人が、涙ながらに彼の手を握る。
まだ随分若い司祭だ。
保守的な宗教の世界にあって、この歳で司祭と言うからには、大変な努力と才能の結果なのだろう。

その老人が帰り、彼は大きく伸びをして肩をほぐす。
「やれやれ……今日の来客は、これで終りかな……」
「よ〜しはるっ♪」
安堵していた芳晴の背中が、氷でも突き付けられたかのように、ぎくん、と伸びた。
「そ、その脳天気で何も考えてない声は……」
大きな十字架の像の後ろから、ひょい、と顔を覗かせた少女に、芳晴は顔を真っ青にした。
「こっ、こっ、こっ……!」
「ん、何、ニワトリの真似?」
「コリンっ!!」
びし、と指を突き付けられ、コリンはにっこりした。
「コリン……お前、また何かやらかしたのか……?」
「やぁね、人がまるでいっつもトラブルを持ち込むみたいに」
「そのまんまだろ!!」
240名無しさんだよもん:02/04/01 13:42 ID:jW4Qboxp
5
241トラブルメーカー:02/04/01 13:41 ID:6w1lT15s

コリンは小走りに芳晴の元に近付くと、悲しそうに首を振る。
「芳晴……それは誤解だってば」
「誤解も何も、お前がいっっっつも何かする度に、俺がどれだけ迷惑してると……」
「聞いて、芳晴」
潤んだ瞳で見上げられ、思わず芳晴の声が途切れる。
(くっ……だ、騙されるなっ……これがいつものこいつの手なんだっ)
「確かにあたしは、芳晴に迷惑を掛けてるかもしれない……でも、本当は芳晴にもわかって欲しいの」
「な、何をだ……」
ばくばく、と脈打つ心臓を必死で自制しながら、芳晴は尋ねる。
「あたし、好きでトラブルを引き寄せたいと思ってるんじゃないの……だって……」
「……」
「本当なら楽して金儲けできれば、それが一番だと思ってるし」

芳晴は無言でコリンの首を締めた。

「ぐえっ、くるしっ、ギブアップギブアップ!」
「………はぁ……またどうせ、俺の家に勝手に上がり込む気だろ……」
「あ、ぴんぽ〜ん。ほとぼりが冷めるちょっとの間だけでいいから、ね?」
ケロっとした顔のコリンから手を放し、芳晴は大仰に溜息をついた。
「大体、人様の物を盗むって事が、どれだけ悪いかわかってないだろ……」
「わかってないのは芳晴よ」
しれっとそう言うと、コリンはびしっ、と彼に指を突き付けた。
「よく言うでしょ、『お前の物は俺のもの、俺のものも俺のもの』」

……芳晴は無言でコリンの首を締めた。
242トラブルメーカー:02/04/01 13:43 ID:6w1lT15s

「ぐぇっ、ほ、ホールドアップホールドアップ!!」
見苦しくもがくコリンの首を締めながら、芳晴は何となく物悲しい気持ちになった。
コリンの首から手を放すと、芳晴はもう一度ため息をつく。
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……あ、あのね芳晴、司祭様ともあろう人間が、女の子の首締めていいと思ってんの!?」
「……」
芳晴は胸元のロザリオを握ると、何とか精神を落ち着かせようと深呼吸を繰り返した。
「そーそー、落ち着いて芳晴。興奮するのは身体に毒よ」
「やかましいっ!」
コリンを怒鳴りつけ、芳晴は天を仰いだ。
「ああ……なんでこんな奴と知り合っちまったんだろ……」
「運命よ運命」
びしびし、と芳晴の背中を叩き、コリンはしたり顔でそう言った。
「運命と言えば、さっきまた仕事に行ったんだけど……」
「盗みだろ……」
「そう、盗み」
反省の欠片も無いコリンに、芳晴は目眩を覚える。
「……で」
「それでさ、空飛んで逃げたんだけど、あたしびっくりしたわよ。
なんと、あたし以外にハネの生えたシーフがいたのよ!」
「何っ!?」
さすがにそれには驚いたのか、芳晴の声が大きくなる。
「あ、ハネと言っても、リュックについた玩具みたいなハネなんだけど。
それでね、傑作なんだけど、あたしを追いかけてる奴ら、あたしとその子を勘違いして、
その子の方が犯人だと思ってるのよ。困ったものよね、あはは」
243トラブルメーカー:02/04/01 13:44 ID:6w1lT15s

「あはは、じゃないっ!!」
思わず絶叫した芳晴は、慌てて周囲を見回し、誰もいない事を確認する。
溜息を付いてから、心持ち声を抑えてコリンに説教を垂れる。
「お前、また人に濡れ衣を着せて、よく平気でいられるな……
いいかコリン、その人が濡れ衣を着せられて、どんだけ迷惑をしたと思っているんだ。
ひょっとしたらお前の代わりに、その人が吊るし首とか拷問とかされているかもしれないんだぞ」
「またって……んー、でも別にいいんじゃない? 向こうだって芳晴の言う『泥棒』なんだし」
「そいういう問題じゃないっ」
「大丈夫大丈夫、あたしその子と会ったけど、なんか偉そうな人が庇ってたし」
ぱたぱたと手を振るコリンに、芳晴は怒鳴りつけたいのをぐっと我慢した。

「なんで…お前は……昔からそうなんだ?」
「何が?」
「泥棒したり…人に迷惑掛けたり…それでいて平然としてたり……」
しんみりとそう言う芳晴に、コリンは戸惑ったように口篭もる。
「だ、だけど、あたしってほら、凄い事やる予定の人間だし」
「凄い事って……泥棒だろ?」
げんなり呟く芳晴に、コリンはちっちっち、と指を振って見せた。
「あたしはね、『盗賊王』になる女なのよ!」
「一繋ぎの財宝でも探すってか……」
芳晴はぐったりと椅子に腰掛けると、手で目を覆った。

思い起こせば少年時代、いつもコリンにいいように扱われ、パシリをやらされていた。
時代が移ってからも、コリンに迷惑を掛けられ、コリンに酷い目に会わされ、コリンに……
244トラブルメーカー:02/04/01 13:45 ID:6w1lT15s

「どうして俺って、お前と一緒にいるんだろうな……」
「は? い、いきなり何よ?」
唐突な芳晴の質問に、一瞬コリンは目を丸くした。
「いや……何とかして、お前との縁を切れないもんかと……」

目を覆っていた芳晴は気付かなかったが、その瞬間コリンの目に、動揺と焦燥が見え隠れした。

「……ふふ、甘いわね芳晴、腐れ縁ってのは、切れないから腐れ縁なのよ」
だがそれもすぐさま、軽いノリの中に埋没していった。
「ま、あたしとあんたは運命共同体って言う、あか〜い糸でぐるぐる巻きなのよ、うん」
ぽんぽん、と馴れ馴れしく芳晴の肩を叩き、コリンは気楽に言う。
「なんたって、泥棒を家に匿った事がある時点で、十分共犯だもんね。泥舟泥舟♪」

……芳晴は無言でコリンの首を締めた。

「うぐぐっ、ステップアップステップアップ!!」
苦悶の表情を浮かべながら、意味不明なパフォーマンスをするコリンに、芳晴は言い知れない疲労を感じた。
(こ、このまま……このままこいつを殺せたら、俺は楽になるんだろうか……?)
「おのれえぇっ、ジョジョおぉぉっ!!」
ちょっとずつどす黒くなっていくコリンの顔を見ながら、芳晴はさらに手に力をこめる。
「ぐぇっ、ちょ、ちょっとよしはっ…マジ締まってっ……ぐぇ」

コンコン
唐突に聞こえたノックの音が、芳晴を現実に戻した。
245トラブルメーカー:02/04/01 13:47 ID:6w1lT15s

「司祭様、こちらにいらっしゃいましたか」
「あ……ああ」
ばくばく、と高鳴る心臓の音を聞きながら、芳晴は努めて平静に応えた。
「はて…まだ誰かいたように思いましたが」
「いや、気のせいだろう……ここにはずっと俺一人だったし」
「そうですか。いえいえ、お恥かしい。それでですね、今年の南地区の布教の件でですね……」
初老の男はそこまで言って、ふと気付いたように天井を見上げた。
「司祭様、あそこ……ステンドグラスがひとつ、抜けていませんか?」
彼に言われ、芳晴はようやくそれに気付いた。
「あ……いや、あそこにはたまに鳥が巣作りに来るんでね……」
「そうですか。いや、さすが司祭様、お優しい事です」

ふざけてはいるが、コリンの盗賊としての技量は一流である。
芳晴の気が逸れた瞬間を狙い、手から逃れると同時にあそこまで跳んだのだろう。
手の中には、まだコリンの首の温もりと感触が残っていた。
芳晴は自己嫌悪に陥りながら、ふと違和感にとらわれた。
(……何でコリンの奴、その間違われた子と会ったんだ…? その子が誤解されたのが心配で……? まさかな……)
「おや……司祭様、羽根ですぞ」
「え……?」
足元から拾い、男が差し出したオレンジがかった不思議な羽根を、芳晴はぼんやりと眺めた。
「ほほ、どうやら司祭様の守護天使が、どこかで司祭様を見ていらっしゃったようですな」
「………守護天使…ですか」
あのトラブルメーカーなコリンが守護天使とは、芳晴は苦笑するしかなかった。
246トラブルメーカー

【城戸芳晴 教会の司祭。コリンとは腐れ縁で、迷惑を掛けられまくり】
【コリン 自称、盗賊王になる女。芳晴にちょっかいを出すのが趣味】

萌えキャラコリン登場記念。