葉鍵サバイバル 公開2日目

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582RTO:02/05/30 00:00 ID:ybOp0KUe
【アレイ、広瀬達の追跡を決意】


感想スレ大誤爆。申し訳ないです。
583遺志と魂と(1/5):02/05/30 14:59 ID:Ft2wEYjl

 唐突に……足がもつれた。
 木の根にでも躓いたのであろうか、広瀬の体は一瞬宙を舞い、ぬかるんだ地面に叩きつけられる。
「……ぐぇ!」
 食い千切られた腕の先が地面にぶつかり、広瀬は激痛のあまり身体を丸めて、呻き声をあげた。
「……痛……っ…」
 激痛に喘ぎながら、広瀬は泥の中から何とか体を起こす。
 震えながら傷口に手をやると、七瀬の巻きつけてくれたハンカチに指が触れる。
「七瀬……」
 何度となく敵対し、いがみ合っていたはずなのに。
 自分を逃がすために七瀬はあの場に残り、そして恐らく今ごろは………
「うっ……く……ぅ」
 堪えようとしても零れる嗚咽に、広瀬はうずくまって右手で顔を覆う。
「んに……」
 唐突に聞こえてきた声に、広瀬はびくりと顔を上げた。
 倒れた拍子に手放してしまったみちるは、少し離れたところに転がっている。
 そのみちるが、ぼんやりとした目で広瀬を見ていた。
「目が……覚めたの」
「うん……長い長い、夢が覚めたみたい」
 みちるはどこか虚ろな瞳で立ち上がると、不意に森の奥に視線を向けた。
「そこにいるのは知ってるから……出てきて」
「えっ!?」
 一瞬、さっきの女がやって来たのかとも思った。
 だが、みちると広瀬の前に現れたのは、もっと別の、長身で髪の長い女だった。

 全身を白衣に包み、その表情は濡れそぼった前髪に隠れて、伺う事ができない。
 胸元に印刷された通天閣の文字だけが、ただ場違いなまでに日常を残していた。
584遺志と魂と(2/5):02/05/30 15:02 ID:Ft2wEYjl

「だ、誰なの、あんた……」
 せっかくの人が現れたにも関わらず、彼女の持つ雰囲気に、広瀬は安堵することさえできないでいた。
 みちるの声が無ければ、幽鬼とでも勘違いしたかもしれない。
 だが、彼女は広瀬をまったく無視すると、みちるの方に顔を向けた。
「………君は………確か遠野君の」
「みちるだよ」
「そうか………みちるか」
 それきり、彼女は押し黙ってしまう。
 その時ようやく広瀬は、だらりと垂れ下がった彼女の両手に、鋭い刃物が握られている事に気付いた。
 いや、白衣を着ている事から考えれば、それはメスなのかもしれない。

「聖、美凪がどこにいるか知らない?」
「………知らないな」
 奇妙な低い声で尋ねるみちるに、聖も押し殺した声で返す。
 だが、それを聞いて、みちるは僅かに肩を振るわせた。
 聖と同じく、濡れた前髪が、みちるの表情を覆い隠している。

「嘘つきはドロボーの始まりって、美凪がよく言ってたよ」
「そうか」
「嘘つく子は悪い子なんだって。だから、みちるは嘘つくのは嫌い」
「そうか」
「でも、聖は嘘つくんだね」
「………」
 顔を上げたみちるは、能面のような無表情で、聖をじっと見詰めた。

「美凪がね、悲しい悲しいって……聖が私を殺したから、悲しいって言ってるよ」
585遺志と魂と(3/5):02/05/30 15:03 ID:Ft2wEYjl
 驚愕が、広瀬の目を見開かせた。
 だが、それを言われた聖の方の驚きは、それ以上だったようだ。
 能面のような無表情の中で、僅かに強張った頬が、劇的なまでの内心の動揺を表している。
「……まさか、見ていたのか?」
「ううん、美凪が教えてくれたの」
 みちるは自分の薄い胸にそっと指を這わせると、か細い声で囁いた。
「美凪は、今ここにいるの」
「………」
 凍りついたような無表情で、みちるは聖をまっすぐに見詰めた。
「死んじゃった美凪の魂が、みちるの中にいるの」
「魂……だと?」
 その時初めて聖の無表情が壊れ、憎悪と憤怒の激しい感情がほとばしり出た。
「魂! 魂だと!! そんなもの、あるはずがない!! あるとするなら出して見せろ! 佳乃の魂をだ!!!」

「……霧島先生……愛する人を失ったからといって、他人を傷つけていい理由にはなりません」
 悲しげに首を振るみちるに、聖はぎょっとした顔で彼女を見返した。
「なん……だと?」
「霧島先生、雅史さんが逃げてしまったのだって、何か理由があるんだと思います。ですから」
「猿芝居はやめろ!!」
 絶叫と共に投げつけられたメスが、みちるの頬を深く切り裂いた。
「はっ、遠野君の真似でこの私をたぶらかすつもりか! そんな事では誤魔化されんぞ!!」
「霧島先生……佳乃さんを探すべきです。もしかしたら、どこかに流れ着いているかもしれません。
 川に落ちたからといって、必ず死ぬとは限らないです」
 今度こそ、聖はその場に立ち尽くし、驚愕の表情でみちるを見返していた。
「何故だ……どうして……本当に遠野君だと……」

「みちると美凪は一緒になったの………魂の器として」
586遺志と魂と(4/5):02/05/30 15:05 ID:Ft2wEYjl

 仮初の肉体に宿る、もうひとつの魂……美凪とみちるは、一枚のコインの表裏。
 僅かな奇跡のかけらを元にして作られた、偽りの存在である、みちる。
 だがその希薄な魂は、本体である美凪の魂を取り込むことで、初めて実体を得ていた。

 長かった雨が、ようやくあがろうとしていた。
「美凪が聖に殺された時、みちるの中に、美凪の声が聞こえてきたの。
悲しい悲しいって……痛いよりも苦しいよりも、いっぱいいっぱい、聖と佳乃の事心配してた」
「………」
 ようやく立ち上がった広瀬は、俯いている聖の肩が僅かに震えているのに気付いた。
「美凪は、死んじゃう自分の事より、聖の事を心配してたんだよ。だから、美凪がみちるに魂をくれたの」
「………遠野君が」
「みちると美凪の魂は繋がってたから……」

「見つけました!!」
 突然の叫びが、みちるの言葉をさえぎった。
 はっと顔を上げる広瀬のとみちるの前に、荒い息を上げながら、アレイが立っていた。
「……死んでください……ルミラ様のために」
「あ、あんた……七瀬、七瀬はどうしたのっ!!」
 広瀬の悲痛な叫びに、アレイは僅かに頬を強張らせながら答える。
「私が、殺しました」
「…………っ!!」
 目を見開き、絶望に口元を押さえる広瀬。
 そして、アレイは彼女の命を奪うべく、ゆっくりと剣を構える。

 だがそのアレイを遮るように、彼女が立ちはだかっていた。
587遺志と魂と(5/5):02/05/30 15:07 ID:Ft2wEYjl

「あなたは……」
 見た事のない女に、一瞬アレイに戸惑いが生まれる。
 その瞬間だった。
 じゅぷ……と湿った小さな音を立てて、一陣の光がアレイの眼球を貫いていた。
「……っああああああああああああああああ!?」
 そこは、どれほどの鎧を身に纏おうとも、決して遮る事のできない場所。

「ふふふ……どうしたのだ? 君だって、人を殺したのだろう?」
 顔を押さえ、苦しみもがくアレイに、聖は優しげとさえ聞こえる声をかけた。
 だらりと下げた両手に、幾本ものメスを下げて。
 聖は、アレイの行く手を阻んでいた。
「聖っ!?」
「……みちる……いや、遠野君と呼んだほうがいいのか」
「……みちるはみちるだ」
 背を向けた聖の表情は、二人からは伺う事はできない。
「例え君がどう言おうとも、私は佐藤雅史を殺す」
「………」
 一瞬、みちるの表情が、苦痛にも似た色をたたえる。
「行ってくれ、みちる。今回だけは……見逃してやる」
「………」

 何とか目からメスを引き抜き、立ち上がったアレイは、霞む視界の中で、広瀬とみちるの姿が遠ざかるのを見た。
「………なぁ、君………君はどうして、彼女たちを殺そうとするんだ?」
 囁くような聖の声に、アレイは苦痛に悶えながら、きっぱりと言い放つ。
「わ、我が主ルミラ様の為、魂を集めなければならないんです!」
「大切な誰かの為、か………それを聞いて安心した」
 アレイの返答に初めて、聖の顔に狂気じみた笑みが浮かんだ。
「これで遠慮なく、君を解体できる」
588長瀬なんだよもん:02/05/30 15:17 ID:Ft2wEYjl
【みちる&広瀬 聖に遭遇】
【みちるが目を覚ます。美凪との魂の融合】
【聖、アレイと交戦。聖はアレイの片目を潰す。その間に広瀬とみちるは逃げ出す】


毎度毎度、長くなってすいません。長瀬です。
またもや今回、NG覚悟で書いてしまいますた。なぎー&ちるちる融合です。
ハカサバ初NGを出した書き手ですけど、一回も二回も同じかなと(ぉ

マーダー聖VSマーダーアレイは、どちらが勝ってもおかしくない組み合わせですが。
それでは、誤字脱字修正NG要請ありましたら、指摘よろ。
589悪寒:02/05/30 21:24 ID:vw2kO8zi
(おかしい…)
 …戦闘開始から約10分が経つ。
 光岡は、疑念を抱いていた。
 それはまるで水面に落とした油の様に彼の心に不審の膜を張っていく。
(余りにも、手応えが無さ過ぎる…?)
 廃屋から出てきたゾンビ達は光岡と浩平によって次々と倒されていく。
 自分はともかく、素人同然とも言える浩平にも、だ。
 数が多く、再生能力も大した物だが、緩慢な動き、肉体の脆さ。
 戦闘能力という意味では問題にならない。
(早く倒して、長森君とリアンを追わなければ…)
 
奇襲故に敵の戦力が解らず、彼女達を逃がした事が悔やまれた。
 この程度ならば、守りながらでも十分に戦えたかもしれないのに…。
(もし、彼女達が逃げた先で襲われたら−−)
 そこまで考えて、光岡は背筋に悪寒が走ったのを感じた。
 それはまるで、見えざる手で心臓を鷲掴みにされたかのような。
 もし、目の前に居るゾンビ達が囮で、自分達から戦闘能力の無い彼女達を引き離す為の罠であったら−−−?
 
 それは何の根拠も無い、ただの勘。
 しかし、光岡は戦場で勘を軽んじる程素人では無かった。
 一流の戦士の勘は今までの数々の経験の積み重ねの結果である事を知っていたし、
 何よりも、光岡自身それに救われた事が何度もあったから。
590悪寒:02/05/30 21:27 ID:vw2kO8zi
 そこからの光岡の行動は早かった。
 目の前のゾンビを切り伏せ、浩平に向かって叫ぶ。
「浩平君、ここは私が食い止める、長森君達を追え!」
「な?でも光岡さんは…」 
「これは罠だ!私達を長森君達から引き離す為の!」
「!?」
 浩平の顔が驚愕の色に変わる。
 だが、光岡は浩平が落ち着きを取り戻すまで待ってはいなかった。
 今は一分一秒の時間さえ惜しい。
「だから行け!私は一人でも何とかなる! だが彼女達は何の力も無いのだぞ!」
「わ…解った! でも死ぬなよ、光岡さん!」
 …そう行って駆け出す浩平の背後に迫る一匹のゾンビを光岡は一刀の元に切り捨てる。
(…これで良かったのか? いや、他に手は無い。 後は浩平君を信じるしか…)
 光岡の勘は、まだ危険を告げている。
 それは、まるで見えざる何者かの手によって操られているような感覚。
 遠ざかる浩平のジープの音を聞きながら光岡はどうしようもない焦燥感にかられるのであった−−−。
591名無しさんだよもん:02/05/30 21:28 ID:vw2kO8zi
【光岡 ゾンビと戦闘中】
【浩平 ジープで長森達を追う】
【ジープは無事】

ジープについては触れたけど、
合流話に関しては触れると恐ろしく長くなりそうなので盛り込むのを諦め。
…一番気になるのは光岡の口調。
何か間違いあったら指摘よろ。  
592一つの推理(1/6):02/05/31 02:15 ID:IWNPd8w7
「……あの馬鹿女が……」

 目の前のウィルという人が私の目の前で発した言葉でした。
 一体誰のことを指しているのか、それ以前に何の事を話しているのか私に分かるはずが
ありません。掠れた声で懸命に言葉を発していました。
 目に見える範囲の傷は回復したつもりです。だが、完全に回復させたというわけではな
いので無理はいけないと、先程話したのにも関わらず更に言葉を続けようとする。人の話
を聞いていなかったようでした。
「今無理に口を開かなくても……」
「……もう大丈夫だ……」
「どう見たって大丈夫じゃないですよー」
「うるせぇ女だな……自分の体のことぐらいは分かる」
 ウィルさんは傍若無人な言葉を吐き、私を睨みつけてきました。
 その視線からはとてつもない威圧感を感じました。
 私は思わず体をびくつかせてしまい、それ以上何もいう事が出来ませんでした。
 ――数え切れないほどの戦いを潜り抜けてきた戦士――
 そんな印象をこの人から感じることが出来ました。
593一つの推理(2/6):02/05/31 02:17 ID:IWNPd8w7
「うっ……おい」
 ウィルさんは再度私を睨みつけてきます。
 ただ、先程とは違って不満を顔に表していました。
「……傷……まだ治りきってねぇ……。どうなってんだよぉ……」
「だから〜、まだ完治したわけじゃないですから〜」
「それを早く言えよ……」
 ため息を吐きながら、ゆっくりと横になりました。
「……とにかく、今はここはどんな状況になってるんだ。俺、あまりここがどんなのかし
らないからさ……」
 多少彼が落ち着いた感じになったのが窺えたので私はこの島の現状を知っている限りで
話すことにしました。

「実は……」

(二行あける)
594一つの推理(3/6):02/05/31 02:18 ID:IWNPd8w7
「……成る程な。 
 早い話がその超先生って奴が魔物を作り出して、それを人に襲わせているって訳か。
 道理でこの世界にはいないスキュラやドラゴンやバンシーやゾンビが我が物顔で徘徊し
ていたんだな。よくそんなものを作り出すとはご苦労なこったといいたい所だが……」
 ウィルさんは一旦ここで言葉を切り、私が差し出したコーヒーを少し啜りながら考え込
みました。体には爪痕や火傷が多く点在していました。彼もまたこの島に上陸してから、
傷だらけの体で魔物と格闘したようです。
 少しして後、口を開きました。
「しかし……ドラゴンやスキュラなら人間でも作り出せないことはないが、アンデッド系
統や精霊系統の魔物となるとそいつだけが作り出したとは考えられねぇ。あんたの知って
る限りじゃ、そいつは魔力を操れるタマじゃないはずだよな」
「ええ……私はそう聞いています。ただ、実際の所はそうだと断言できかねるのですが」
「まあいい。とにかくこの騒動には人間以外の奴――天使か悪魔が関わっていねぇと到底
起こせるもんじゃねぇ。アンデッド系統の魔物や精霊系統の魔物を作り出すには精霊を自
由自在に操ることが必要だ。一体操るだけでもとんでもない量の魔力と体力がいる。下手
をするとそいつ自身の命と引き換えにするほどな。
 しかも今回の場合は数え切れないほど存在しているわけだ。人間一人がそこまでの数の
ゾンビを作り出せるわけがねぇ。第一、魔力を多少持った人間でも一体のゾンビを作り出
すにもまずは悪魔と契約して魔力を増幅でもさせない限り到底不可能だと言ってもいい。
 もっとも、その超先生って奴が大天使や大悪魔をも超える魔力を持っていたとしたら話は
別だが、そこまでの奴なら天界の連中が見逃しているわけがねぇ。何かしらの形でマーク
されている筈だ……」
「と、いいますと……?」
595一つの推理(4/6):02/05/31 02:20 ID:IWNPd8w7
「早い話が大天使、もしくは大悪魔クラスの奴が関わっている可能性が極めて濃いってこ
とさ。超先生はそいつと結託もしくは拘束して魔力を利用しているってことが考えられる」
 ウィルさんは長々と話し終えた後、手にしていたコーヒーを一気に飲み干しました。
「……」
 私はじっと黙ったままでした。
 彼が話した推測に多少は驚きましたが、それよりもやっぱりと思う気持ちの方が強かっ
たようです。今回のこの島の出来事にはとんでもない魔力を持った人外の者が関わってい
るという事は大方予想がついていました。もっともその正体は私たちがずっと追っている
”あいつ”だと私は思うのですが……。
 
 私はふと窓の外に目をやりました。
 真っ暗な夜空の中で延々と降り続く雨。
 勢いよく雨水が窓の叩きつけているので大きな音を立てていました。
596一つの推理(5/6):02/05/31 02:21 ID:IWNPd8w7
「……だが、それでも解せねぇ」
「え?」
 突然、ウィルさんが発した言葉に私は思わず彼の顔の方に向き直りました。彼はそれに
気付く様子は無く、ただぼそぼそと独り言を口にしました。
「……ユンナがこの島に来ているのは確かだとは思うが、あいつがこれほどのとんでもね
ぇ魔力を持っている訳がないし……」
 そこまで言いかけたとき、ようやく彼は私が目の前にいることを思い出したらしく、
すまないと謝りながら話を続けました。
「実は俺はある事情でユンナっていう天使を探してこの島にきたのだが、そいつはこれほ
どのとんでもない魔力を持った奴ではないのでね……。
 そうだ、確かこの島に来た奴らはその超先生って奴に招待されて来た訳だろう?」
「ええ、そうですけど。それが何か?」
「その招待客のリストかなんかはあるか?」
「残念ながら……私たちにはそういったものは持たされていません」
 私はすぐさま返答しました。無いものは無いのだから仕方がないのです。
 ウィルさんはさらに招待客の中に人以外の者が紛れ込んでいたかという事も訊いてきま
したが、やはりこれもいいえというしかありませんでした。私の知っている限り、そのよ
うな人はティリアとサラとマルチさんを除いて見かけていません。(もちろん、マルチさ
んにはそのような魔力をお持ちでないことも知っています)
597一つの推理(6/6):02/05/31 02:22 ID:IWNPd8w7
「そうか……」
 ウィルさんは少し残念そうな顔をして窓の外をじっと見ていました。
「でも……浩之さんたちならひょっとしたらそのような方をお見かけしているかもしれま
せん。後で私が尋ねてみます」
「そうか……悪いな。是非、頼む。
 それとあんたは今煙草を持っているかい?」
「ええ。浩之さんらがいろいろ調達していたのを見ていましたから」
「なら持ってきてくれ。できればハッカ入りのほうがいい」
 ウィルさんの頼みに一旦私は部屋を離れました。そして、この資料館の入り口にあった
自動販売機から浩之さんらが勝手に盗んできた煙草とライターを一通り持って、ウィルさ
んのいる部屋へと戻ります。
「マルボロライトメンソールにセーラムピアニッシモにクールか……重いやつがいいな」
 ウィルさんはすっとクールとかいう煙草を取り出して、手馴れた手つきで煙草を取り出
して火をつけます。すうっと一息吸いながら、彼はじっと窓の外を見ながら独り言をぼそ
っと口にしました。

「……ユンナ……てめぇは何がしたいんだ……」
598名無しさんだよもん:02/05/31 02:30 ID:IWNPd8w7
【ウィル、意識が戻る。但し、全身が完治するにはまだまだ時間が掛かる模様】
【エリア、懸命にウィルの看護をしている】
【浩之ら、隣の部屋で休息中】

 多少リスクはあるかなとは思いながらもウィルの話を進めてみました。
 気になるのはこのときに雨が降っているかという事と、登場人物の口調が
気になるのですが……。
 なお、ウィルも含めユンナとデュラル一家との事情は存じないという事を
前提としていますが、その辺も微妙な所です。
 間違いしてきおよびNGあれば指摘よろ。
 なお、行空けおよび書き込みの間の行空けは注の無い限り一行でお願いします。
599敵は吸血鬼:02/05/31 21:43 ID:NHLX1rJb
 最終的に矢島、香奈子、晴香、茜の四人がワクチンを取りに病院を出たのは朝日が昇ってからだった。
 彼らは一刻も早く出発したかったが、さすがに真夜中に動くわけにもいかなかったのだ。
 あゆと瑞穂にはとりあえずカーテンを閉ざした部屋に入ってもらっている。
 太陽光が彼女らにどう作用するのかはわからないが、念のためにとの智子の指示だった。
 しかし、そうなると瑞穂に対して吸血鬼のことを説明せざるをえない。
 瑞穂は今のところ、冷静にそれを受け止めてくれたようだ。

 智子はさっきからずっと考え込んでいた。
 あゆと瑞穂に関してはワクチンを取りに行った面々に任せるしかない。
 そちらはそれでいいとしても、まだ考えなくてはならない問題があった。
 それは大元となった吸血鬼のことだ。

 吸血鬼は昨晩、誰にも気付かれずに病院に侵入し、二人の女の子を噛んで、再び出ていった。
 どういう方法を取ったのかは知らないが、モンスターの襲撃にはみんな警戒していただけに呆れるほどの手際のよさと言える。
 きっと吸血鬼にとって彼女らの目を盗むことは赤子の手をひねるようなものだろう。
 その吸血鬼が、昨晩の成功に満足してもうやってこないということがあるだろうか?
 可能性は低そうに思えた。
 他の犠牲者を出すためか、それともあゆと瑞穂を連れ去るためか、ともかく吸血鬼はもう一度、近いうちにやってくる。場合によっては今晩にでも。

 それが智子の読みだった。
 だが、そこまでは読めてもそれでどうしたらいいのかがわからない。
 吸血鬼といったら、ホラー映画の花形だ。強力な再生力とパワー。霧になる力や狼をしもべにする力をもっている。
 銃器だって効くかどうかわからない。
 この病院に集まっている女子供や怪我人たちでどこまで対抗できるのか、それが疑問だった。
600敵は吸血鬼:02/05/31 21:44 ID:NHLX1rJb
 ただし、希望もないではない。
 吸血鬼は確かに恐ろしい。だが、多くの弱点を持つ怪物であることも事実だ。
 オカルトに興味のない智子ですら三つ四つの弱点くらいそらで言える。

(来栖川先輩がいたらもっと教えてくれるやろな。ま、この場におらん人をアテにしても始まらんけど)

 つまり弱点をつけば、智子たちにも充分勝ち目があるはずだ。
 しかし……。そう、しかし事情はそう甘くはない。
 相手が吸血鬼と言ったってわかっているのは噛んだ人間を吸血鬼に変えてしまうということくらい。
 この島にいる吸血鬼がどこまで伝説上の吸血鬼に近い存在なのか、そのあたりがさっぱりわからない。

 夜に現れたところを見ると、太陽に弱いのはおそらく確かだろうが、それ以外はどうなっているのか。
 例えば吸血鬼に十字架は本当に効くのか。効くとしても単に十字に組み合わせただけの棒でも問題ないのか。 
 そういうことがわからなくては手の打ちようがない。
 役に立つかどうかもわからない武器で強敵と戦うなんて無理に決まっている。
 智子はため息をつく。

(あーあ、せめてどっかに実験に協力してくれそうなおとなしい吸血鬼でも落ちとらんかな)

 アホ、そんなん落ちとるわけないやろ。
 関西人の習性なのか、そう心中でノリツッコミをしようとした智子。
 その頭の中に電光のようにそのアイデアがやってきた。
 智子は大きく目を見開いて、口をぽかんと開けた。
 吸血鬼の弱点を探るための具体案。
 なんでこんな簡単なことを思いつかなかったのか。

(そう……そう、おるやん。おとなしい吸血鬼。実験に協力してくれそうな……女の子が二人も!)

        (3行開け)
601敵は吸血鬼:02/05/31 21:46 ID:NHLX1rJb
 智子は二人が閉じこもっている病室を訪れた。ノックをしてから、
「入るで」
 一声かけて中に入る。中はカーテンをかけているせいでひどく暗かった。
 あゆと瑞穂は二人ともベッドに入っているようだった。

「起きとるか、二人とも」
「……はい」
「僕も、起きてるよ」
 ベッドの方から二人分の返事が来る。
「そか、実は二人にな、話したいことがあんねん」
「……なにか、困ったことでも?」
 そう瑞穂が聞いたのは智子の口調に暗いものが混じっていたからかもしれない。

 実際、智子は気が重かった。
 このアイデアの有効性自体は疑ってはいない。二人に協力してもらえば必ず吸血鬼と戦うときの助けになると智子は考えていた。
 だが、吸血鬼に噛まれて、自分が人間ではなくなっていく恐怖に怯えているであろう二人に「実験体になってくれ」とはいいづらい。
 そんな智子の心の動きが態度の端々にまで出てしまっていた。

(それでも、言わないわけにはいかへん)

 智子は意を決して二人に説明することしたした。
 吸血鬼が再び襲って来る可能性があること。吸血鬼を撃退するためは相手の弱点を狙う必要があること。そのために、二人に実験に協力してほしいことなどを。
602敵は吸血鬼:02/05/31 21:50 ID:NHLX1rJb
 二人は智子の手際のよい説明をだまって聞いていた。
「……その、こんな話、二人にとっては酷なことかもしれん。
 吸血鬼に噛まれたいうことを受け入れたばかりやのに、実験に協力せえなんて。
 だから、断られるのもしゃあないと……」
「……智子さん」
 瑞穂が智子の話の途中で口を挟んだ。
「わたし、やります」
「藍田さん……」
「わたし、やります。このままその吸血鬼をほうっておけばみんな危ないんでしょう?
 わたしたちだけでなく、香奈子ちゃんや他の人たちまで危ないんでしょう?
 それなら……。わたしで役に立てるのなら、なんでもやりますから」
 暗い部屋なので表情までは読み取れなかったが、その声には断固とした意思が感じられた。

「ボクもやるよ」
「あゆちゃん……」
「ボク、昨晩からずっと怖かった。自分が自分じゃないみたいで。
 このまま吸血鬼になっちゃったらどうしようって。怖くてずっと泣いてた。
 ……こんな怖い思いをするの、ボクたちだけで十分だよ」
 震える声で、それでもあゆは言いきった。
「……あんたら……」
 智子の声がつまる。ちょっとだけ、泣けた。暗い部屋でよかったと智子は思った。
 涙声を気付かれたくなくて、智子は景気のいい声を出す。
「よう言った!
 そんなら、夜中にしのび込んであんたらを襲った不埒な奴は私がきっちり退治したるわ。
 大船に乗ったつもりでまかしとき!」
(どこの馬の骨か知らんけど、こんなけなげな子たちに手ぇだしたこと、今にきっちり後悔させてやるで!)

 そう、智子は言葉と心で同時に誓いを立てたのだった。
603旅猫:02/05/31 21:58 ID:NHLX1rJb
【病院組、ワクチン捜索組、共に2日目朝へ】
【保科智子、あゆと瑞穂の協力を得て、吸血鬼撃退の準備を開始】

こんにちは。新入りです。なんか矛盾とかあったら指摘してください。よろしく。
ちなみに特に記入がなければ1行開けってことで。
後、あゆのセリフで一人称が僕になっている部分がありますが、間違いです。
正しくはボクなんでよろしく。
604旅猫:02/05/31 22:10 ID:NHLX1rJb
も一つ訂正。
瑞穂の苗字が藍田になっています。
藍原でしたね。
605真世界:02/06/01 06:54 ID:Vqz4vEAs
〜序曲〜

「そろそろ時間か…」
朝鮮製はそう言葉を発すると、椅子に座り、モニターを見ながら、コンピューターの
操作を始めた。
「くくく、やっとこの時が来たか」
そう言いながらも、彼女はコンピューターの操作を続ける。
朝鮮製、彼女はモニターに話しかける癖があった。
(2行空けで)

〜指揮者〜

「ふふふ、参加者達よ。君達が私のことをどう思っているかは知らないが、
この島をこのように作り上げたのはこの私だ。つまり、私はこの島の神なのだよ。
そして、君達はその神の手の中にある物でしかないのだ」
朝鮮製は誰に話すわけでもなく、ただモニターに向かって独り言を言っている。
いや、モニターにではなく、モニターに映る参加者全員に言っているような感じだ。
「君達は私の物だ。ビデオゲームで例えるなら、私がコントローラーでプレイする
プレイヤーで、君達はそのゲームの中の登場人物だ。楽しいゲームになってくれよ」
(2行空けで)
606真世界:02/06/01 06:57 ID:Vqz4vEAs
〜レクイエム〜

 作業をし始めてから1時間。
「しかし…」
 朝鮮製はそう言うと、作業している手をいったん止めて、自分の顎に右手を
 持っていき、考える格好をしてた。
「思っていたよりも参加物がたくさん死んだな。本当はもっと生かすつもり
 だったのだが、難度が高すぎたか?そのことを考えると、ここまでこれなかった
 物達には悪いことをした。思えば、死んだ物のほとんどが未成年の若物だったし、
 中には即死できず、苦しみながら死んでいった物もいる。それを考えたら私は…」
 朝鮮製は涙声になりながら、悲しい顔している。
 自分のやったことに対して、罪悪感を抱いたのだ。
「…だが、君達は結局、私の物だ。所持者がどうしようと勝手だ。
 この程度死ぬような欠陥商品はいらないな」
 さっきまでとはうらはらに、朝鮮製はまたコンピューターを操作し始めた。
 彼女の心にはもう罪悪感などなくなっていた。
(2行空けで)
607真世界:02/06/01 07:00 ID:Vqz4vEAs
〜真世界〜

「よし、後はここをクリックするだけで終わりだ」
 そう言うと、朝鮮製は椅子の背にもたれかかった。
「これでリアル・リアリティーの準備は終わりだ。ここよりさっきが私の
 求めっていた世界となる」
 朝鮮製は2つの要素により、自分のリアル・リアリティーが完成すると考えていた。
 1つは、檻により外に出れないモンスター達を開放し、参加者達と一緒に
 リアルの痛み、リアルの死を感じさせること。
 そう、痛み苦しむのは、何も参加者だけじゃない。モンスター達もまた同じなのだ。
 そして、もう1つは参加者のほうだ。モンスターの檻は外した。
 しかし、参加者のほうの檻はまだ外していない。正確に言えば、
 外すのに時間がかかる。
 その時間のかかる参加者の檻とは、作り出した自分。世間体、常識、道徳、
 今まで社会によって作られてきた自分。
 この島に対して、そんなものがある以上、自分の求めるリアル・リアリティーは
 完成しない。必要なのは解き放たれた心だ。
 ならば、どうすればそれを取り除けるのだろうか?
 そこで考えだされたのが、人間のリミッター解除による極限状態。
 朝鮮製はまず、この島にリミッターを解除させる結界をはり(結界の作用により、
 リミッター解除をしても体が壊れたりなど副作用はない)、参加者全員のリミッタ―を
 解除させる。
 結界により、リミッターは徐々に解除されていく。
 しかし、これには素質があり、それがない物はリミッターを限界まで
 解除できないのだった。
「私のリアル・リアリティーは物を選ぶ。この程度の素質がない物は
 私のリアル・リアリティーにはいらない。
608真世界:02/06/01 07:04 ID:Vqz4vEAs
 そして、この島は素質のないものは生き残れないようになっている。少なからず、
 気づいている物もいるようだが、おかしいと思わないか?
 ただの人間がモンスターを倒したり、銃を正確に撃てたりするのは。
 これらはすべてリミッター解除の効果なのだよ。力や集中力が上がるのは
 もちろんのこと、聴覚、視覚までも上がっている。
 運でモンスターを倒したというのも、運ではなく、第6感。
 いわゆる勘というやつで瞬時に判断して倒しているのだよ。
 しかし、ここで大切なのは君達が強くなることではない。限界まで
 強くなるということは、逆に言えば、それ以上能力が上がらないということ。
 そう、大切のはそこ。自分の限界を知り、すべての力を出しきっても
 どうにもならない極限状態で見せる人間として、自分としての本当の性質だ。
 そう、自分すら知ることのない隠してきた本性。
 そして、そこから生まれる行動を私は求めている。
 モンスターの檻が解除され、人間の檻も解除された時、
 そこにこそ私のリアル・リアリティーは存在する」
 参加者が映るモニターを本当の神なったかのように見る。
「ここからは前のように甘くない。モンスターのレベルを上げるからな。
 こうなったら、必ず死ぬことはないにしろ、もう無傷ではいられない。
 それが肉体的か精神的かはわからんがな」
 そして、朝鮮製は午後12時になると同時に、マウスに手をかけ、クリックをする。
「さあ、見せてくれ、君達のリアル・リアリティーを!!」
 その言葉に共鳴するかのように、モンスター達が雄叫びを上げた。
 モンスターの雄叫びが島中にこだまする中、
 朝鮮製はうっすらと笑いを浮かべていた。


【モンスター達のレベルが上がる】
【時間は午後12時ジャスト】
609まかろー:02/06/01 07:07 ID:Vqz4vEAs
最初のレスは空白入れるの忘れていました。
すいません。他にもミスがありましたら、指摘を
作品のほうですけど、かなりNGは覚悟です。
610名無しさんだよもん:02/06/01 09:11 ID:OJLze6En
「おお……何だかオラ、強くなっているぞ……」
「何言ってるんだ浩之ーっ!!」

【浩之 覚醒】
611知的な狂気、愚鈍な正気:02/06/02 08:46 ID:YPN0EFnV
「解……体?」
 虚ろにつぶやくアレイ。彼女の目に映る世界は、その半分が朱に染まっていた。
「わるいが、君と問答をする気はないんだ」
 冷酷な宣告とともに、再びメスをアレイに向かって投げつける聖。
 しかし、そのメスは、彼女に届く前に彼女の手に持った半透明の盾によってはじかれていた。
舌打ちする聖、アレイは盾を掲げた状態を維持しつつ聖に向かってきていた。
普段と違い、軽い鎧を身に着けた彼女の動きは意外に機敏で、すぐに聖に近づき大剣を振るう。
 だが、やはり片目では遠近感が狂ってしまうのだろう。
アレイの一撃は聖には当たらず、巻き起こった剣風が聖の前髪をなびかせただけだった。
聖は、後ろに飛び退って間合いを開ける。
アレイはそれ以上深追いすることもなく、改めて剣を下段に構えなおし、じりじりと聖に近づく動きを見せた。

 そんな彼女を見やりながら、聖は自分の頭をフル回転させて作戦を練り始める。
メスはそもそも相手に投擲することを考えて作られたものではなく、その有効射程は短い。
 ましてや、相手は全身を鎧に覆われていて当てればダメージを与えられるとは限らないのだ。
少なくとも3m以内には近づいてからメスを投じたい、それ以上はなれては狙った部分にメスを当てることはできないだろう。
 しかし、相手の持つ武器は刃渡り二メートルはあろうかという大剣だ。
彼女が一歩間合いを詰めてこちらを攻撃すれば、3mという距離はあってないようなものとなる。
 となれば、結論は一つしかなかった。
612知的な狂気、愚鈍な正気:02/06/02 08:47 ID:YPN0EFnV
 聖は両手にメスを握り、右手のそれをアレイに投げつけ、同時に一気にアレイに近づく構えを見せた。
「無駄ですよ!」
 その言葉どおり、アレイの持つ盾は、あっさりと聖のメスをはじき返した。
 そして、こちらに向かってくる聖に対して、アレイは下段に構えた大剣をふるう。
 もし、そのまま聖が突っ込んでいれば彼女の体は上下に切り分けられていただろう。
 しかし、彼女の動きはフェイントに過ぎなかった。
アレイの振るった一撃。それをぎりぎり届かない間合いで踏みとどまりやり過ごす。
「もらった!」
 常識外のサイズの大剣は重い武器だけに威力は高いが、はずせばその隙は非常に大きいものとなる。
左手のメスを右手にもちかえつつ間合いを詰める聖、このまま一気に近づき、相手にメスをつきたてるつもりだった。
 しかし、それを悟ったアレイは、無理に大剣を構えなおそうとはせず、聖に向かって背を向けた。
 そして、後わずかのところまで間合いを詰めた聖がメスを振りかぶったそのとき、彼女の左側面を強い衝撃が襲った。
アレイが盾を持った左腕を聖にたたきつけたのだ。
弾性のあるポリカーボネートの盾は、その面積が大きかったせいもあって、
ダメージはそれほどでもないが、そこに込められた力は人間の常識外のものだった。
 聖はあっさりと1mほど吹き飛ばされ、右肩から地面に落ちる。
「くぅぅぅっ」
うめき声を上げつつも、必死で地面を転がるようにしてさらに間合いを離し、勢いよく立ち上がる聖。
(マズイな……)
 右腕がしびれてうごかなかった、骨折や脱臼をした時ほどの痛みではないにしろ、これはかなりまずい状況だった。
(逃げる、しかないか?)
 状況は圧倒的に不利だ、このままでは相手に有効な一撃を与えることは不可能だろう。
(佳乃……!)
 聖は心の中で今は亡き最愛の妹を思い浮かべた。
613ナマ月見:02/06/02 08:48 ID:YPN0EFnV
【聖、右腕にダメージ】
614サトリ:02/06/02 12:27 ID:L8TDnF7k
 ピチャ、ピチャ…。
 水が床に落ちる音で、長森は目を覚ました。
 朦朧とする意識、記憶がはっきりしない。
(私は…?) 
 重い頭で何とか記憶の糸を手繰り寄せようとする。

(待合所の入り口で雨を凌いでいたら突然建物の中からゾンビが出てきて…、
 浩平が逃げろって叫んで、リアンちゃんを背負って逃げ出して、それで、森に入った所で…)
「入った所でぇ、どうしましたか〜〜?」
「!!」
 突然耳元で聞こえた声に跳ね起きる。
 蛍光灯の光に慣れるまでいくばくの時間を要した彼女が目にしたのは1人の男。

 その男は…正直、この殺し合いが展開されている島では余りに場違いな格好をしていた。
 黒のタキシードとシルクハット。
 手にはステッキを持ち口元にはくるりと巻かれたヒゲ…。
 英国紳士とやらを解り易く図解すればこんな感じだろう、という印象を受ける。
 それだけに、長森にはこの男が非常に浮いて見えた。

「あなたぁ、私の事おかしな人だと、そう思いましたね〜??」
「い、いいえ、そんな事…」
「いいや、思ってましたぁ。私に隠し事は通用しませ〜ん!
 何せ私はぁ、人のこころをぉ、読む事ができるからで〜す!!」
「……え?」
615サトリ:02/06/02 12:28 ID:L8TDnF7k
 とんでもなくイントネーションが狂った日本語の為、
 長森はその男の言葉が一瞬理解できなかった。
(心を…読む?)
「そうっ、でーす!!」
「ひゃあっ!!?」
 突然目の前に男の顔がどアップで現れた為腰を抜かした長森にのしかかり
 いきなり彼女の胸をもみ始める。
「む〜、この感覚、たまりませんね〜」
「え…きゃ、や…やめて下さい!!」
 バシィッ!!
「ギャプェ!!」
 とっさに出てしまった長森の平手を食らって、男はゴロゴとロ床を転がる。
「し、しまったで〜す。つい、手を出してしまいました…紳士の風上にもおけませ〜ん!」

 長森は、この人は格好は紳士のようだが、
 中身は単なるスケベオヤジでは無いかと思ったが、それにツッコミは入らなかった。

 …そこでようやく落ち着くと、長森は今自分の置かれている状況を確認する。
 どうも、何処かの建物の中らしい。
 かなり広く、何かの資材が多く積まれている所を見ると、倉庫か何かだろうか?
 自分達2人は目の前の男にここに連れ込まれたのだろうか…。
 そこまで考えて、長森は自分と一緒に居た少女の事をようやく思い出した。
「そうだ!リアンちゃんは…、リアンちゃんは何処ですか!?」
「おおぅ!!忘れてました〜!」
「……」
 
 長森は、この人は格好だけ見ると頭は良さそうだが、
 実は結構馬鹿なのでは…と思ったが、それにもツッコミは入らなかった…。
616サトリ:02/06/02 12:29 ID:L8TDnF7k
「そうそう、それで、リアンさんですねぇ〜…あぁ、私の事はぁ『サトリ』とお呼び下さ〜い。」
 恐らく昔話に出てくる心を読む妖怪の事だろう。
 そんな自己紹介をしながら、サトリはリアンを柱の影から引っ張り出してきた。
 先の魔力の暴走のせいか、未だ眠っているようだが外傷は無く無事のようだ。
「リアンちゃん! …キャッ!」
 思わず駆け寄ろうとした長森の足元に一本のナイフが突き刺さる。
 何時の間にかサトリの手には数本のナイフが握られている。
「ノンノンノン…いけませんねぇ〜」
「そ…その娘を、どうする気ですか!? リアンちゃんを返してください!」
「駄目で〜す…。この娘はぁ、ユンナ様の元へ連れて行かねばならないのですから!」
 そこで大仰に仰け反ると、後ろにこける。
 ……起き上がった…、後頭部を抑えている。
「…し、心配は無用ですよ、大丈夫ですから」  
 …と言いつつ後頭部を抑えている。
 とても大丈夫そうには見えないのだが…。
「大丈夫と言ったら大丈夫なので〜す! がっ…!」
 そんな長森の心を読み取ったのであろう、サトリは声高に叫び…今度は舌を噛んだようだ。
 …何だか、こんな人間に捕まったのかと思うと、内心情けなくなってきた。
「し、失敬な! 私を何だと思っているですか、貴方は!?」
「え、え〜と…」
「……」
 一時の間。
「そ、そんな風に思われているなんて…ショックで〜す…」
 どうやらダメージは大きかったようだ。
617サトリ:02/06/02 12:32 ID:L8TDnF7k
 サトリ曰く、雨が止むまではこの倉庫に居るらしい。
 その後はユンナという人物の元に連れて行かれるそうだ。
 最も、それが何者なのか、という事は教えてもらえなかったが…。
「あの……」
「何でしょ〜か?」
「リアンちゃん…寝苦しそうだから、膝枕してあげていいですか?」
 おそるおそる…とは言っても先ほどのやり取りである程度緊張がほぐれたのだろう。
 そう尋ねた長森にサトリはリアンを長森に渡す。
「別にいいでしょ〜、逃げるつもりは無いようですしね」
「あ…ありがとうございます」
 サトリは、リアンを膝枕している長森を見ていると口を開く。
「一つ…聞いてよろしいでしょ〜か?」
「はい?」  
「その娘は…そんなに大切なのですか? 昨日今日会ったばかりなのに?」
618サトリ:02/06/02 12:33 ID:L8TDnF7k
「…はい」
「ジープが彼女の力で暴走した時、貴方が光岡さんの言いつけ通り離れていれば、
 貴方は攫われずに済んだはずで〜す…。後悔はしてませんか?」
 心を読んだのか、それともその時から監視していたのか。
 その質問に少し笑って長森は答える。
「私が、浩平に戻るように言ったんです…。自業自得です」
「戻ったのは、姉を失った彼女に対する同情ですか?それとも使命感?」
「……多分、違うと思います」
 少し考えた後、長森は口を開く。
「こんな島に居るから…、私、とても怖くて…。
 でも、こんな女の子があんな風な事になっても頑張ってる…。
 それを見てると、私も頑張らなきゃいけないって気持ちになれるんです。だから…」
「そうですか…貴方は正直で、優しい方で〜す…」
 長森の言っている事に嘘が無いと解っているのだろう。
 サトリはそう言うと穏やかに…だが少し寂しそうに笑った。
「貴方は将来、いい母親になるでしょ〜…そこで、今のうちに私にもその温もりを!」
「え、きゃっ、やめ…やめて下さい!」
 そしてまた、倉庫に乾いた音が響いた…。

【長森、リアン、サトリ 雨があがるまで倉庫で待機】

122話「はなたれるもの」で出てきた
ユンナの刺客×2の内の1人を出してみる。
後、合流話のフォローも入れてみた。
何か間違い等あったら指摘よろ。
619夜間飛行:02/06/02 16:16 ID:rDMNZK6k
(畜生…っ!)
 心の中で、折原浩平は何度も呟く。
(どこに居るんだ、どこに居るんだよ、長森っ!)
 アクセルを踏む足が震える。心だけ焦っても仕方が無いのは判っ
 ている。だけど…。
 
 折原浩平が光岡悟と別れてもうすでに30分が経っていた。相変
わらずの勢いで降り続ける雨の中、長森がリアンを背負い走り去っ
た方向へ折原浩平はずっとジープで走り続けた。長森瑞佳、そして
リアンを折原浩平はまだ見つけることが出来ていない。
 折原浩平の中でだんだんと焦りが大きく膨らんでいく。
(所詮、俺は何も出来ない子供にすぎないのか…? サバイバル能
力、戦闘能力、判断能力。全てにおいて光岡さんとは比べものにな
んかならないほど俺は低い…。それに…俺は愛する人を守ることす
ら出来ないのか?)
 悔しくて、折原浩平は下唇を噛んだ。一筋の血が流れ落ちる。
620夜間飛行:02/06/02 16:18 ID:rDMNZK6k
 それは一瞬のことだった。
(しまったっ…!)
 そう思った時にはもう遅かった。
 目の前には大木。
 スローモーションで世界がぐるりと回った気がした。
 雨だというのに鳥たちが一斉に飛び立つ。
 地面に体が叩き付けられた。
 体全体に一気に電気が駆けめぐるような感覚。
 雨と汗で滲んだ片手がハンドルから滑り落ち、舵を失ったジープ
は大木へと突入したのだった。
「長…森…」
 ジープから放り投げ出された体が凄く痛み、うまく言葉を出すことが出来ない。
(カッコ悪ぃ、俺…)
 灰色の空を仰ぎ、降り注ぐ雨に打ちひしがれながら、折原浩平は静かに目を閉じた。


【折原浩平 重症 】
621偽者(前編):02/06/02 22:49 ID:p1B0n3EA
「これは……食べられるのか?」
 高く伸びきった木が茂る森の中で、久瀬は目の前に生えてあるキノコを手にとり、
 それをじっと眺めていた。
「まあ、相沢に食わせてみればわかるか……」
 当人が聞いていたら憤慨する事間違えない台詞を言い、僕はそのキノコを袋の中に仕舞う。
 袋の中身は、僅かな数の木の実。
 そう、彼は完全に見落としていた。
「まいったな。もう少しはあると思っていたんだが……」
 この島におけるモンスター以上の難関、食料の確保だ。


 その事に気付いたのは、少し前の話。
「こ、これだけしか残ってないのか……」
 休憩所の一角で僕は『携帯型ハートーッチップル』と表記してある缶詰を手に取り、中身を空ける。
622偽者(前編):02/06/02 22:50 ID:p1B0n3EA
「しかも、食べるとくさくなる以前に、腐ってるじゃないか……」
 意外にマニアックな事を言い放った久瀬は、落胆した顔で中身を放り投げ、部屋を出た。
 扉の向こうには、こちらも浮かない顔の相沢と北川がいた。

「だめだ、ここにある食料も全部腐ってる」
 あるのはハートッチップルだけだったが。
「なぁに、そんなに気落ちする事はない。食料が無いのなら、外で集めればいいだろう?」
 さすがは僕、ナイスな判断と鋭い考察。
 この二人とは頭の回転が違うって事が、また一つ証明されてしまったな。

「てめぇ……いい加減にしろよ!」
 急にキレ出した相沢が、僕の襟元を掴み、激しく前後に揺らしている。
 まったく野蛮な奴だ、育ちの悪さが窺えてしまうぞ。
「や、やめろよ相沢! こんな事で仲間割れしたってしょうがないだろ!」
 おっ、北川のほうは冷静だな、一般生徒にしておくのは惜しい逸材だ。

「いいや! 我慢できねぇ! 大体残っていた缶詰はコイツが食っちまったんだぞ!
 その上でこの言い方……怒らないお前のほうがどうかしてるんだよ!」

 確かに部屋の隅には、大量に開けられた缶詰が転がっている。
 昨日彼らが開けた缶詰は微量だったので、久瀬は相当な量を食べていた事になる。
623偽者(前編):02/06/02 22:52 ID:p1B0n3EA
「わ、わかったわかった、とにかく食料を集めよう。この島でなら、手分けして三十分も探せば
 朝食分ぐらいは集まるだろう」
 さすがにこの事に関してはに悪いと思ったのか、友好的な口調を示す久瀬。
 だが、彼の後ろに積み上げられた缶の山が、それを台無しにしていた。


「しかし、やはりキノコと木の実だけでは辛いな。売店でもあるといいのだが……」
 と、半ばキノコ狩りのような状態に彼が辟易としていると、

「きゃああああああああああああっ!」

 久瀬の耳に入ってきたのは、森に響きわたる恐怖の声。
(!! 今の声は!)
 勘違いかもしれない、だが、もし本人だったら……
 久瀬は声のした方向を見定め、全力で走り出す。
 すぐに森は終わり、小高い崖に出て、視界が一気に開ける。
「くっ! どこだ? どこにいる?」
 確かに声はこちらから聞こえてきた、近くに必ずいるはずだ!
 細心の注意を払い、辺りを見渡す。
 そして、視界の隅に見覚えのある人物を見て、
 僕の推測は確信に変わる。
 間違いない! あの姿は――
624名無しさんだよもん:02/06/03 03:01 ID:+YDR8j0W
625ただ、憎しみを:02/06/04 01:17 ID:tdkQsl9K
 その少女は、全てを憎んでいた。
 全ての幸せを知る人間達を。
 自分を実験体と称して研究し続けて来た人間達を。
 人となった母を、実験体と称して犯し、殺し、標本という肉片にした人間達を。
 そして……。

『あなたを助けたのも、あなたがその人の姿を維持出来るのも、全ては私のお陰。その恩は、忘れてないわよね?』
『……はい、ユンナ様』
『ふふ、余り無理して嘘をつかなくてもいいわ。そのかわり、ひとつだけ任されてくれるかしら?』

 ユンナが私に差し出した、一枚の写真。リアンという、女。
 この女を生きたまま連れて帰れば、あとは私は自由になるという。


『リアンさえ殺さなければ、そうね……あとは貴方の自由にしていいわ』
『…………』
626ただ、憎しみを:02/06/04 01:17 ID:tdkQsl9K
『人間たちが憎いんでしょう?』
『…………』
『聞くだけ野暮かしらね。あなたはもう記憶も命も捨てて、ただ憎しみだけを頼りに人化したのだから……』

 私は走る。
 リアンという女を探すため。
 そして、実験体という地獄の日々、その一時も忘れなかった憎しみの対象を、探すため。
 ユンナが私にくれたこの力も、全てはその時のため。

『7年前、重傷で動けなかった貴方たちを見捨てた人間も、貴方たちの味わうはずだった幸せを全て奪い取った貴方の姉も、この島にいるはずよ』

 相沢祐一。
 そして、沢渡真琴。

【妖狐、放たれる】
627名無しさんだよもん:02/06/04 01:19 ID:tdkQsl9K
ユンナの刺客のもう一人のつもりで、名前は決めてませんし、ユンナがくれた力もここでは決めていません。
憎しみで動くマーダーであり、島に潜むモンスターでもある、という方向性で考えてみました。
ちなみに時間帯不特定です。
628偽者(中編):02/06/04 22:37 ID:zyvvuXBt
「くそっ!」
 降りる所を探していたのでは間に合わない。
 覚悟を決め、15mはあるであろう崖から久瀬は一気に飛び降りる。
 一瞬の浮遊感の後、物凄い勢いで体が落ちていく。
 落下の速度に歯を食いしばりながら、右手に持っていたM16を撃ち、
 崖下の女性に襲いいかかろうとしている怪物を牽制する。
 直後、凄まじい音と共に地面に体を打ちつけ、激痛に見をよじらせる久瀬。

「痛っ! いくらなんでも無理をしすぎたか……」
 どうにか痛みを堪え、立ち上がってその女性に襲い掛かろうとしていたトカゲのような
 化物に視線を移す。
 それはリザードマンと呼ばれている、爬虫類系のモンスターだ。
 命中した場所が悪かったのか、目の前にいる二匹は、あまり動じることなくこちらを睨みつけている。
 その喉が急速に膨れ上がり、それを見た久瀬の思考が、警告を鳴らす。
「危ない! 下がるんだ!」
 その女性に一声掛け、久瀬は全力でリザードマンに突撃する。
 数瞬遅れて久瀬の立っていた場所の土が弾け、土砂が舞い上がる。
 リザードマンが得意とする、水砲だ。
 本来は水辺や湿地などで使ってくる技なのだが、昨晩の雨で島全体にできた水溜りのせいであろう。
 二体のリザードマンは、絶え間なく水の帯を撃ち続けて来る。
「無理だ無理! 少しは手加減しろ!」
 痛みでふらつく足を叱咤し、久瀬はM16を構え、銃口をリザードマンに向け引き金を引くが、
 弾丸を放つはずの銃から聞こえてくるのは、カチッっという弾切れを示す音のみだった。
 ――くそっ、そういえば大蛇に撃った後、僕はこの銃に弾を込めていない!
「と、とにかく弾を……」
 そこで浅はかにも目をバッグに移したのが――二つ目の油断。
 替えのマガジンを取り出した瞬間、腹部に熱い衝撃が走る。
 リザードマンの口から飛び出した水の弾丸によって久瀬は吹き飛ばされ、崖に背中を派手に打ち付ける。
629偽者(中編):02/06/04 22:39 ID:zyvvuXBt
「ぐううっ!」
 再び駆け巡る、衝撃と痛み。
 加えて先程の水砲、腹部からこみ上げてくるものを堪えもせず、久瀬は吐捨物を撒き散らす。
「今日は……よく叩きつけられる日だな……」
 胃の中のものを全て吐き出し、頭を振って前を見据る。
 久瀬の視界に写ったのは、再び水砲の姿勢とっているリザードマン。
 目標は、痛みにより足腰の立たない自分ではなく、
「久瀬さん!」
 あの、女性だ。

 ――撃つ気か? あの人に?
 ――駄目だ! ここであの人を見殺しにしてしまったら、親父になんて言われるか!
「化物! こっちを見ろおおっ!」
 腹に力を込め、久瀬はあらん限りの大声で叫ぶ。
 それが功を奏したのか、りザードマン二体は自分に視線を移す。
「よし、お前等にとっておきのプレゼントだ……受け取れ!」
 そう言って久瀬は、あらかじめ手を突っ込んでいたバッグからコーヒー缶のようなものを取り出し、
 リザードマンに向って放り投げ、地面に体を投げ出す。
 それを危険と感じたのか、上空に浮かぶそれに水砲を撃つりザードマン。
 水の片方がそれを捉え、缶は破裂する。
 ――それで、いい。
 久瀬はそれを確認すると、口の端を歪め、目を閉じる。
 ――それがお前達の見る、最後の光景なのだから。
 破裂した缶から生まれたのは、膨大な――光。
 ――せいぜい、よく見ておけ。


 凄まじい音と共に、目などとても開けていられない光が視界を飛び回る。
 その光を直に見てしまったリザードマン達は目を手で覆い、
 視界の見えない恐怖に怯え、のた打ち回る。
630偽者(中編):02/06/04 22:41 ID:zyvvuXBt
 そのうちの一体が唐突に、背中から突っ伏す。
 ――後ろを取られた、殺される、あの男の持つおかしな武器でコロサレル!
 狂ったように水砲を乱射する、半狂乱のりザードマン。
 体中に残っている余分な水分を限界まで使い、水を打ち尽くす。
 そこで薄っすらと、見えた。
 自分が撃っていた相手が、同族である事に。
 そのリザードマンは、ズタズタになった仲間より、自身の身を案じる。
 ――じゃあ、あのニンゲンは何処に?
 その答えは、至極簡単。
「だああああああっ!」
 仲間が倒れこむのと一緒に、その背部にいた男――久瀬が現れたのだから。

 軋みを上げる身体に鞭を撃って、久瀬は一気に間合いを詰める。
 化物は再び水を吐き出そうとしているが、もう遅い。
 窄まった化物の口に、今度はしっかりと弾を込めたM16を突っ込み、
 容赦なく、引金を引いた。
 途端、リザードマンの口内で暴れまわる無数の弾丸が頭部をメチャクチャにする。
 後ろに仰け反るリザードマンが、完全に動かなくなった事を確認すると、
「つ、疲れた……」
 疲れと痛みで久瀬は、ゆっくりと地面に倒れこんだ。


「久瀬さん! 大丈夫ですか? しっかりしてください!」
 ――あの人が駆け寄ってきて、僕を優しく抱き起こしてくれる。
 ああ、貴方は無事ですね。それなら頼みます、久瀬秀一は立派に貴方を守ったと、
 自分は最高の男であると、貴方のお父上に伝えてください。
 そこんとこお願いしますよ? 倉田先輩。
631偽者(後編)
「く、倉田先輩……勘弁してください」
「いいえ、久瀬さん傷だらけじゃないですか……手当てして差し上げます」
 そういって僕の身体に倉田先輩は僕のバッグから救急セットを取り出し、傷を診てくれている。
 ……なんというか、少し恥ずかしい。
「あ、そういえばさっきの光、あれはどうやって起こしたんですか?」
 腕に消毒薬を吹きつけながら、倉田先輩は興味津々といった様子で聞いてくる。
 意外なものに気を留めるんだな、と少し戸惑いながら僕は同じ物をバッグから取り出し、
 それを倉田先輩に手渡す。
「これはスタングレネード、もしくは閃光手榴弾と呼ばれるものです。殺傷能力は皆無ですが、
 強烈な爆裂音と多量の光で相手の視力、聴力を奪うことができる代物です」
 ――と、武器庫に書いてあった事をそのまま復唱してみたりする。
 そこでふと、思い出す。
 あの少女――上月澪にもこの閃光手榴弾を渡した事を。

『絶対駄目なの 助けるの』
「そうかい。それじゃあ、ここからは別行動だね。
 僕は余計なリスクを背負うなんて馬鹿な真似はしたくないんでね」

 あれからほぼ一日。
 順当に考えれば、彼女は死んでいるだろう。
 あの時見つけたドラゴンの血で集まってくるモンスターか、あるいはドラゴン自身に。
(いや、結構な数の武器をあのバッグには詰めたし、もしかしたら生きているかもな)
 まぁ、僕にはもう関係ないことだ。
 そう締めくくって僕は、この事に着いて考えるのはもうやめにした。
 そうさ、過ぎた事をあれこれと考えていても、仕方ないだろ?


「そうだ……倉田先輩、川澄さんはどうしたんですか? 一緒に来ているんでしょう?」
 間違いない、昨日一度だけ姿を見た。
 睨み合うだけで、会話など成立するはずもなかったが。