もしも茜が司のことを中途半端に忘れてしまったら…
そんな試みで書いてみたよ。
『わすれもの』 全2レス
とてもたいせつなこと、わすれたこと、ありますか?
けっしてわすれてはいけないこと、わすれたこと、ありますか?
普通なら、忘れてしまったら、
忘れたことさえ、忘れて、
ずっと思い出すことは、ないはずなのに、
…私は、なにを忘れてしまったのだろう。
なにかを忘れてしまったことは知っている。
大切なことであることも知っている。
でも、肝心の内容が思い出せない。
ヒントはたくさんあるけれど。
詩子に逢うとき、雨の降っている日、
近所の空き地の横を通りかかるとき、
わずかに動く、心のよどみ。
胸が少しだけ、締め付けられる。
でも、思い出せない、その内容。
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だから、忘れてしまおうと思った。
忘れていることがあることも。
でも、忘れられなかった。
忘れたくても、忘れられなかった。
そのたびに心が揺れるから。
忘れてはだめと、心の中が訴えるから。
だから、私は思い出そうとした。
詩子が逢いにきてくれるうちに、
ふと思い出すのではないかと思った。
雨が降る日に、窓を伝うしずくを見ているうちに、
ふと、記憶がよみがえると思っていた。
近所の空き地でしばらくたたずんでみた。
ふいに、桜の花びらが水面に降りるように、
私の記憶が舞い戻るのではないかと。
でも、だめだった。
何も思い出すことはなく、
心のよどみが揺れるだけ。
忘れることもできない、
思い出すこともできない、
私は出口のない迷路を、
ただひとり、今日もさまよいつづける…
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