最萌トーナメント支援用SSスレッド

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574詩子さん ◆SHIIko2U
 そして気づくと、私がいたのは虚無の空間。
 私と灰色の世界。
 終端がない、始まりもない。
 私は何もすることがないから、そこで横になった。
 冷たくも暖かくも、硬くも柔らかくもない空間。
 そこで横になって瞳を閉じた。

 再び瞳を開けると、
 私はこの土手にいた。
 強く吹き付ける風。
 空はややうす曇り。
 まわりにあるのは、ただ黄土色の細い道と、
 道を惑わさん限りのたくさんの麦。
 既に穂は伸び、すっかり刈り取ることが出来る状態。
 ただひとり、誰も周りにいない。
 はるか遠く、あの、虚構の街が見える。
 私はどうすることもなく土手を歩き始めた。

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575詩子さん ◆SHIIko2U :02/02/17 11:29 ID:v//89X4C
 やがて、だんだんと募る寂しさ。
 私は寂しさを紛らわせるため、麦を一本引きぬく。
 綺麗にそろった穂と緑の葉。
 そう思ったのは一瞬、穂が強い風の中にばらけて私の後へと流れてゆく。
 少しだけ、根元の部分に穂を残して。
 わずかに穂が残った一本を捨てて、もう一本引きぬく。
 でも、全く同じ、みんな、離れていってしまう。
 もう一本、もう一本、何本も、何本も、同じことを続ける。
 いつのまにか頬を涙がぬらしていた。
 でも、それにも構わずいつまでも私は続ける。
 でも、変わらない、みんな摘み取った瞬間に穂がばらけてしまう。
 みんな消えてしまう、私の手元から。
 私はそのままその場に立ち尽くして大きな声で泣いた。
 右手にわずかに穂が残る麦を一本持ったまま。
 でも、誰もいない、誰も見ていない。
 虚無の街へはまだ遠い。
 私はただうずくまって泣いていた。

 いつもと同じ、不思議だけど悲しい夢。
 いつも私は最後にはひとりぼっち。
 誰も私に手を差し伸べてくれない。
 誰も私を助けてはくれない。
 詩子も、お母さんも、そしてあの人の両親も、
 みんなが忘れてしまったあの人も。
 夢の世界だから、そう思えばとても気が楽だろう。
 でも、それでも、あまりに悲しすぎる夢だから、
 私はそう思うこともできず、朝が来ても、目が覚めても、泣き続けていた。

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576詩子さん ◆SHIIko2U :02/02/17 11:29 ID:v//89X4C
 でも、今は…
 悲しい夢でうなされたとき、
 あまりに悲しくて飛び起きたとき、
 すぐに抱きしめてくれる人がいる。
 優しく撫でてくれる人がいる。
 その人のぬくもりが感じられるベッドの中、
 悲しい夢を見る回数も減っていった。
 私はこうしていつか悲しい夢を見ることもなくなるのだろうか。
 嬉しさもあるけれど、少し寂しさもある。
 でも、いつかは吹っ切らなくてはいけないことだから、
 それをわかっているから。
 私は抱きしめてくれるその人の胸に、ぎゅっと顔を押し付けて呟く。
「あなたは…いなくならないですよね…」
 ずっと一緒にいてほしい、その願いを込めて。

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以上だよ。