そして気づくと、私がいたのは虚無の空間。
私と灰色の世界。
終端がない、始まりもない。
私は何もすることがないから、そこで横になった。
冷たくも暖かくも、硬くも柔らかくもない空間。
そこで横になって瞳を閉じた。
再び瞳を開けると、
私はこの土手にいた。
強く吹き付ける風。
空はややうす曇り。
まわりにあるのは、ただ黄土色の細い道と、
道を惑わさん限りのたくさんの麦。
既に穂は伸び、すっかり刈り取ることが出来る状態。
ただひとり、誰も周りにいない。
はるか遠く、あの、虚構の街が見える。
私はどうすることもなく土手を歩き始めた。
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やがて、だんだんと募る寂しさ。
私は寂しさを紛らわせるため、麦を一本引きぬく。
綺麗にそろった穂と緑の葉。
そう思ったのは一瞬、穂が強い風の中にばらけて私の後へと流れてゆく。
少しだけ、根元の部分に穂を残して。
わずかに穂が残った一本を捨てて、もう一本引きぬく。
でも、全く同じ、みんな、離れていってしまう。
もう一本、もう一本、何本も、何本も、同じことを続ける。
いつのまにか頬を涙がぬらしていた。
でも、それにも構わずいつまでも私は続ける。
でも、変わらない、みんな摘み取った瞬間に穂がばらけてしまう。
みんな消えてしまう、私の手元から。
私はそのままその場に立ち尽くして大きな声で泣いた。
右手にわずかに穂が残る麦を一本持ったまま。
でも、誰もいない、誰も見ていない。
虚無の街へはまだ遠い。
私はただうずくまって泣いていた。
いつもと同じ、不思議だけど悲しい夢。
いつも私は最後にはひとりぼっち。
誰も私に手を差し伸べてくれない。
誰も私を助けてはくれない。
詩子も、お母さんも、そしてあの人の両親も、
みんなが忘れてしまったあの人も。
夢の世界だから、そう思えばとても気が楽だろう。
でも、それでも、あまりに悲しすぎる夢だから、
私はそう思うこともできず、朝が来ても、目が覚めても、泣き続けていた。
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でも、今は…
悲しい夢でうなされたとき、
あまりに悲しくて飛び起きたとき、
すぐに抱きしめてくれる人がいる。
優しく撫でてくれる人がいる。
その人のぬくもりが感じられるベッドの中、
悲しい夢を見る回数も減っていった。
私はこうしていつか悲しい夢を見ることもなくなるのだろうか。
嬉しさもあるけれど、少し寂しさもある。
でも、いつかは吹っ切らなくてはいけないことだから、
それをわかっているから。
私は抱きしめてくれるその人の胸に、ぎゅっと顔を押し付けて呟く。
「あなたは…いなくならないですよね…」
ずっと一緒にいてほしい、その願いを込めて。
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以上だよ。