前回落としたものの続きみたいなもの…
『茜と詩子のヴァレンタイン』
「はい、あかねっ」
「では、私からも、どうぞ」
2月14日、茜の家、
休日にザッハトルテの交換はしたけど、
大切なこの日は、チョコレートを交換する日。
これも毎年の約束。
毎年茜のチョコレートは志向を凝らしているからとても楽しみ。
あたしはかわいい、茜らしい包装を解いて箱を開ける。
中から出てきたのは少し大きめのハート型チョコレート。
チョコスプレーで綺麗にふちが飾りつけられているチョコレート、
そして…
「あ、茜…これはちょっと恥ずかしいよ…」
「…私の気持ですから」
そこにはピンク色のチョコで「I Love You Shiiko」と書いてあった。
あたしは顔がとても熱くなるのを感じている。
茜も真赤な顔をしてうつむいてしまった。
1/6
「もったいないからこのまま残しておこうかなぁ…」
「えっ?」
茜の心がこもっているのがよくわかる、
綺麗な装飾、そして、恥ずかしいけど嬉しい言葉。
せっかくだから残しておきたい、このまま。
「せっかくですから食べてください!」
いつもより強い口調で茜は告げる。
あたしは少し驚いた顔で茜の顔を見る。
茜の顔はまだ少し怒ったまま。
「でも、こんなに心のこもったチョコレート、本当に嬉しかったから」
真赤な顔のまま、あたしは茜に伝える。
少しだけ茜の顔から怒っている表情が消えるけど、
まだまだ少し怒っているみたい。
あたしは頭の中で考えをめぐらす。
2/6
「そうだっ!」
「…どうしました?」
あたしは少しだけ茜に顔を近づけてささやく。
「食べてあげる…茜の口移しなら、ねっ♪」
「あ、はい、わかりま…えっ!」
怒った顔から突然にびっくりした顔に。
あまり見ることのない茜の表情の豹変にあたしもびっくりしてしまう。
でも、気を取り直して茜の顔をじっと見つめる。
茜は恥ずかしそうに目をそむけてしまう。
「ねっ、いいでしょ?」
向いた方向に体を動かし、再び瞳を見ながらお願いしてみる。
茜は再びそっぽを向いてしまう。
その方向へあたしも再び体を動かす…
そんなやり取りを何度かするうちに茜は観念したのか、
「わかりました…いいですよ」
小さな声で答えてくれた。
3/6
「はい、お願いね」
あたしはチョコレートを茜に渡す。
そのチョコレートを茜はまじまじと見つめて、
いまいち躊躇しているようだった。
「ほら、溶けちゃうから」
その一言に茜は少しだけ肩を震わせたが、
それで思い切ったようにチョコレートを口ではさんだ。
「し、詩子、これでいいですか?」
恥ずかしそうにぎゅっと瞳を閉じて茜はたずねてくる。
「うん、それじゃ、こっち側、いただくね」
茜のかじっているのと反対側をあたしはかじる。
「ぱきっ」
そんな音がして、チョコレートは真ん中で折れてしまう。
「う〜ん、あまりうまくいかないね」
あたしは自分の口でかじっている分を取り出して、再び茜のチョコにかじりつく。
さっきより近いくちびる、先ほどより感じる体温。
茜も真赤な顔で少し震えているようだった。
くちびるを重ねたいけど重ねられない、
あたしはそんなもどかしさに我慢できずに、
「えいっ、全部もらっちゃおっ!」
そう言って、茜とくちびるを重ね合わせた。
4/6
「んふんっ…」
突然のことで、茜は再びびっくりしたような顔であたしを見つめる。
でも、あたしは気にもせずにまず茜の口にあるチョコレートをもらう。
チョコレートの味と茜の滑らかな唾液の感触が口の中に広がってゆく。
そのまま、あたしの舌は茜の口の中をなぞってゆく。
いつも綺麗な白い歯の表面、その上、
ところどころでチョコレートの味が感じられる。
もう少し先へと舌を伸ばしてゆくと、
おずおずと、震えながら茜の舌があたしの舌に触れてくる。
ゆっくりと、チョコの味がする茜の舌を舐めてゆくと、
茜の舌もあたしの舌をゆっくりと舐めていくのを感じる。
そのままずっと舌を舐め続けていると、
やがて、チョコレートの味がしなくなり、
茜とあたしの唾液だけがお互いの口の中で混ざり合っていた。
5/6
「ちゅく…」
軽い水音がしてあたしたちの唇が離れてゆく。
一筋、銀色の糸が名残惜しむようにあたしたちのくちびるの間を渡っていった。
「詩子…突然はひどいです…」
またもや少し怒ったような顔をしている茜。
「ごめんね、だって、茜がかわいいんだもん」
あたしはその頭をなでて謝った。
茜は真赤な顔をして下を向いていたけれど、
「…詩子には勝てないです」
そう言って上げた顔は笑顔だった、
とてもやさしい表情をたたえた…
6/6
以上だよ。