最萌トーナメント支援用SSスレッド

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389理想的な共犯者(1/8)
「ふぅ、さっぱりした〜」
頭にバスタオルを巻いた名雪が、居間に入ってきた。
夕食後の水瀬家。あゆと真琴の二人は、秋子さんに買ってもらった
家庭用ゲーム機で、麻雀ゲームに熱中している。
最近、水瀬家では静かなブームなのだ。名雪も時々やっているらしい。
「あゆちゃんも真琴も、あんまりゲームやりすぎたら駄目よ」
「「はぁーい」」
そのやり取りをぼんやりと眺めている俺の隣りに名雪が座った。
心地よいシャンプーの匂いでふっと我に返る。
「ねえ、祐一。明日の約束、覚えてる?」
「・・・何だっけ?」
「もう〜。明日は私の陸上の大会でしょ」
「あ、そうだ、応援しに行くんだった」
我ながら間の抜けた返答だ。そんな事、すっかり忘れてた。
それを聞きつけたあゆが俺たちのところにやってきた。
「祐一君、今の話、ホント?」
「なんだあゆ。何か問題でもあるのか?」
「だって、明日はボクと映画見に行く事になってるのに・・・」
「あ・・・」
そういえば、確か1週間くらい前に、そんな事を言われたような気がする。
秋子さんが仕事先からもらったチケットを、あゆに渡したんだったか。
すると真琴もコントローラーを放り出して、こちらに口を挟んできた。
「ちょっと待ってよ。明日はあたしと『国際肉まん見本市』に
行くんでしょ。忘れたの?」
390理想的な共犯者(2/8):02/02/08 13:31 ID:inbYO0Ul
「ひどいよ、祐一・・・」
「映画のチケット、指定席なのに・・・」
「このイベント、明日までなのよ。どうするの祐一?」
俺は返答に窮した。どの約束も微妙に時間がかぶっていて
順番に、というわけにはいかない。いつもなら名雪やあゆは
譲り合いそうなものだが、よっぽど俺と行くのを楽しみに
していたのか、退く気配はない。
「三人とも、喧嘩しちゃ駄目よ」
そこに、会話を聞いていた秋子さんが、仲裁に入った。
「それなら、麻雀で白黒つけるというのはどう?」
「麻雀で・・・?」

かくして、麻雀に勝った者が、俺を明日一日独占できる権利
を得ることになった。公平を期すため、秋子さんが参加する。
俺が入ると、誰かをアシストするかもしれないからだ。
俺に発言権はない。というか、俺は景品だ。

コタツの板をひっくり返し、麻雀牌を広げる。昔ながらの練り牌だ。
起家はあゆ。左回りに名雪、真琴、秋子さんの順に座る。
ギャラリーの俺は、あゆと秋子さんの手が見える位置に腰を下ろす。
もちろん、アドバイスは禁止されている。
こうして、運命を賭けた真剣勝負が始まった。
391理想的な共犯者(3/8):02/02/08 13:32 ID:inbYO0Ul
序盤は意外にも真琴が速攻でペースを掴む。
「チー!ポン!・・・ツモ!さあ何点かしら?」
「点数もわからないでいばるな!」
何でも食い散らかす、滅茶苦茶な打ち方だが、
そのスピードに他の三人はついて行けない。
速い流れの中で、名雪は面前で丁寧にアガリを重ねて、
懸命に真琴に追いすがる。出親を蹴られたあゆは、
いまいち流れに乗り切れないようだ。
南場に入ると、あゆにようやくドラ三のチャンス手が入る。
「うぐぅ、リーチだよ!」
三つ鳴いて四枚しか手牌のない真琴が放銃した。
「あう〜」
秋子さんは傍観者の立場を決め込んでいるのか、
目立った動きを見せていない。
あゆ、名雪、真琴の三者が僅差のまま、ついにオーラスを迎えた。

泣いても笑っても、これが最後の局だ。三人とも、
トップの可能性が残っているので、目つきは真剣そのものだ。
親の秋子さんが、優雅な手つきでサイを転がす。
「五ですね」
三人は配牌とにらめっこしながら、手作りを考えている。
めくられたドラに気付かず、一巡目で切りかねないほどだ。
392理想的な共犯者(4/8):02/02/08 13:32 ID:inbYO0Ul
運のいいことに、トップのあゆの配牌には、白が暗刻で入っていた。
早アガリにはうってつけの手だ。
秋子さんの方は―――
「☆※∬!?」
「静かにしてよ、祐一君」
「祐一さん、勝負の邪魔をしてはいけませんよ」
おれはパニックを起こしかけた脳をなんとか鎮めようとした。
あ、あ、あれは・・・。
三巡目。
「あら・・・?ツモりました」
そう言って、秋子さんが開いた手は国士無双。役満だ。
「「「ええー!?」」」
「このアガリで、私のトップですね」
親のアガリやめで、ゲーム終了。
あまりの出来事に、秋子さん以外の三人は言葉もない。
待てよ?秋子さんが勝ったらどうなるんだ?
秋子さんと・・・デート?
「祐一さん、明日はよろしくお願いします」
「は、はい・・・」
信じられないような逆転劇。だが、俺は見てしまったのだ。
あがる直前、秋子さんがツモ牌と王牌をすりかえるのを・・・。
393理想的な共犯者(5/8):02/02/08 13:32 ID:inbYO0Ul
日付も変わり、ひっそりと静まりかえった薄暗い廊下を、
俺は音を立てないように歩きながら、秋子さんの部屋に向かう。
コン、コン・・・。
そのドアを、ためらいがちにノックした。
「・・・だれ?」
「祐一です。お聞きしたい事があるので、入って良いですか?」
「こんな時間にですか?」
「どうしても、いま聞きたいんです」
「・・・わかったわ祐一さん。どうぞ」

秋子さんは寝間着の上にカーディガンを羽織っていた。
深夜の突然の訪問にも、さほど慌てている様子はない。
妙な駆け引きなどするつもりもなく、単刀直入に切り出した。
「秋子さん。さっきの麻雀、オーラスでイカサマしてましたね?」

俺が秋子さんの配牌を見たときには、すでに一、九、字牌―――
いわゆるヤオチュウ牌が十二種もあった。サイの目が五で秋子さんの
山からの取り出しである事を考えると、積み込んだ可能性が高い。
だがそれだけだは八枚しか欲しい牌が来ないので、ドラをめくる前に
山を直す振りをして、四枚ぶっこ抜いたのだろう。そばにいた
俺が気付かなかったのだから、大胆というほかはない。
394理想的な共犯者(6/8):02/02/08 13:33 ID:inbYO0Ul
「あら・・・見られてたんですか?」
秋子さんは、意外なほどあっさりと、その事実を認めた。
「ええ。見えたのは、すり替えの時だけですけど」
「残念です。しばらく打ってなかったから、私の腕もだいぶ
なまってしまいましたね。素人の方に見つかるなんて」
一体、どこの鉄火場で打ってたんですか?秋子さん・・・。
頭の中で疑問が渦巻いた。が、口にしたのはもうひとつの疑問だった。
「どうして、あんな事を?」
「三人とも、あの時、だいぶ熱くなっていました。あんな状態では
三人のうち誰が勝っても、あとでしこりが残りますから・・・
いっそのこと、私が勝ってしまおうと思ったんです」
確かに、秋子さんなら誰も文句は言えないな・・・。
「でも、イカサマを見られて、わたしは祐一さんに秘密を握られて
しまいましたね。・・・困りました」
そう言って、秋子さんはため息をついた。
頬に手を当てる仕草が悩ましげだ。
「ははっ、誰にも言いませんよ、秋子さん」
「ありがとうございます、祐一さん」
いつのまにか、秋子さんがそばに来ていた。
顔を寄せて、俺の耳元でささやく。吐息が熱い。
「口止め料は・・・私の体でお支払いしますね」
な、な、なんですとぉ!
395理想的な共犯者(7/8):02/02/08 13:33 ID:inbYO0Ul
少しの間、眠っていたらしい。
ベッドの上で漂っていた俺は、ゆっくりと意識を取り戻した。
体を起こして周りを見渡すと、秋子さんが隣りで穏やかな
寝息を立てていた。

俺はさっきまでの情事を思い返してみた。
立場が上な筈の俺は、完全に秋子さんにリードされていた。
俺の上で秋子さんは激しく動き、俺も秋子さんも、
繰り返し絶頂を迎えていた。

(よりによって、自分の叔母と関係を持つなんて・・・)
快楽の波が過ぎ去った後に来るものは、後悔の凪だ。
だが、俺には目の前に転がり込んできた好機を
見逃す事など、到底出来なかった。
美貌の肉親との、ばれる心配のない密通。
それはあまりにも、甘美で背徳的な果実だった。

秋子さんを起こさぬよう、忍び足で俺は自分の部屋に戻った。
すぐにベッドに体を横たえる。疲れ切っているにもかかわらず、
気持ちが昂ぶって、なかなか眠りはやって来なかった。
396理想的な共犯者(8/8):02/02/08 13:33 ID:inbYO0Ul
「おはようございます、祐一さん。
・・・どうしたんですか?なんだか顔色が悪いわね」
「ははっ、秋子さんとデートだと思うと、緊張して眠れなくて」
「もう、お上手ですね、祐一さんは」
「名雪の奴はもうでかけたんですか?」
「ええ。大会が終わったら、陸上部のみんなと打ち上げに
行くと言ってました」
あゆと真琴は、仕方ないので二人で映画を見たあと、
『国際肉まん見本市』とやらに行って、試食しまくるつもりらしい。
呉越同舟の二人はどんな騒動を巻き起こすのだろうか。

俺と秋子さんは支度を整えて、玄関から外に出た。
秋子さんの後姿を見ているうちに、ふっと頭に閃いた事があった。
もしかしたら、ゲーム機と麻雀ソフトを買ったのも、あゆにチケットを
渡したのも、麻雀による勝負を提案したのも、全て秋子さんの
計算だったのかも知れない。ひょっとしたら、俺にだけ
イカサマを見られたことさえ。
「考え過ぎですよ、祐一さん」
と、秋子さんがいきなり言ったので、心臓が止まる思いがした。
いつのまにか、こちらをじっと見つめている。
自分の考えを口にする悪い癖が出てしまったのだろうか。
それともただ物思いに沈む俺の心中を見透かしたのか。
秋子さんの表情からは、何の解答も得られなかった。
「さあ、行きましょ。早くしないと、日が暮れてしまいますよ」
そう言って、俺の腕を取る。いつもと変わらぬ微笑みを浮かべて。
今日からずっと秘密を共有していく共犯者たちは、二人にしかわからない
視線を交わしながら、眩しい日差しの中を並んで歩き出していった。