最萌トーナメント支援用SSスレッド

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299金曜9時2分 1/7
 夜の9時過ぎ。 
 テレビの画面に「金曜ロードショー」というテロップが映り、
哀愁を誘うトランペットが印象的なテーマ曲がスピーカーから流
れ出す。
「いいの? 本当に見るの?」
 私の問い掛けに対し、浩平が力強く頷く。
 こうなってしまってはもう梃子でも動かないだろう。
「ふぅ・・・・・・まあ、無理はしないでね」
 そうため息を吐きながら私は浩平からテレビの画面に視線を移
した。
 エイリアン2。
 そう画面には映し出されていた。
 意外と怖いものが駄目な浩平にとって、苦手な部類の映画だ。
 先週のバタリアンでは途中で逃げ出してしまった程だ。
 しかし逃げ出したものの、自分の部屋に行って一人でいるのも
怖いらしく、結局はテレビが見えない位置にいて番組が終わるま
で耳をふさいでいた。
 怖いのなら見なければいいと思うのだが、どうもそうもいかな
いらしい。
 次の日のクラスの話題は金曜ロードショーの話題で持ち切りに
なるらしく、絶対見逃せないのだそうだ。
 今日は・・・・・・どうだろう。
 すでにもう、CMに入る前に流れた映画本編の予告で浩平は落ち
着きを無くしている様子だった。
 ここまで怖がりだともう、可愛いとすら思えてしまう。
 映画が始まった頃、冷蔵庫から缶ジュースを持ってきて浩平に手渡す。
 私は缶ビール。
 これでもう集中する体制は整った。
 後は浩平が最後まで見れるかどうか、それだけだった。
300金曜9時2分 2/7:02/02/07 00:40 ID:XSKSTgCW
「ひっ」
 時折、浩平の短い悲鳴が上がる。
 画面には主人公の女性の腹部からエイリアンが飛び出す様子が
映し出されていた。
『ヒィイイイッ!』
 という悲鳴がテレビから上がると、浩平の身体がビクッと大き
く震えた。
「そんなに怖がらなくても・・・・・・」
 と私が苦笑すると浩平が恨めしげに睨む。
「叔母さんは・・・・・・怖くないの?」
 CMに入ったとたん、浩平がそう切り出した。
 多分誰かの声、それも生の声を聴かないと安心できなくなって
きているのだろう。
 私はまた苦笑しながらもそれに答えた。
「うーん、叔母さんはこういうの苦手じゃないから」
「・・・・・・裏切り者」
 私の返答が気に食わなかったのか浩平がそう呟く。
「まあ、これ映画だからね。本当に起こったら怖いかも知れない
けど」
 そう付け足すと、浩平が頬を膨らました。
「でも、怖いよ・・・・・・」
「浩平は特別怖がりすぎるの」
 とまた笑うと浩平が拗ねたのかそっぽを向いてしまった。
「あ、CM終わったよ」
 画面を指差しながらそう伝えると、浩平はうー、と唸りながら
も画面に視線を移した。
 映画はまだまだ始まったばかり。
 私は2本目の缶ビールを取りにキッチンへと向う事にした。
 居間を出る時にふと思い立って振り返ってみた。
 浩平はやはり、時折ビクッと身体を震わせていた。
301金曜9時2分 3/7:02/02/07 00:40 ID:XSKSTgCW
『さぁ!掛かってらっしゃい!』
 画面の中では女性がウォークリフトを無理やりロボットにした
ような物に乗り込み、エイリアンの親玉と対峙していた。
「・・・・・・かっこいい」
 浩平が見惚れたように呟く。
 まさかクリスマスプレゼントにアレを買ってくれとは言わない
だろうか。
 ちょっと心配だ。
 私の心配を他所に、浩平は食い入るように画面に見入っていた。
「浩平、そんなに画面に近づくと目が悪くなるよ」
 あまりにも近づきすぎていたのでそう注意する。
「うん」
 しかし浩平はそう生返事を返したきり、また画面に見入る始末
だった。
「もう、しょうがないわね」
 その様子に少しだけ呆れ、私は浩平の身体を掴み、丁度いいと
ころまで引き摺って画面から離した。
 しかしそれでも浩平は画面に集中し続けていた。
 私はもう、苦笑するしかなかった。
 やがて映画も終わり、浩平が画面からようやく視線を離す。
「今日は最後まで見れたね」
 来週の予告が流れ出した頃、そう声を掛けると浩平は満足げに
頷いた。
「うん。最後まで観れた」
 浩平はそう言って、欠伸を漏らした。
 そろそろ睡魔が襲ってくる時間だろう。
「それじゃ、寝ようか」
 と私が言うと、浩平は頷きながらまた欠伸を漏らした。
302金曜9時2分 4/7:02/02/07 00:40 ID:XSKSTgCW
 戸締り、ガスの元栓のチェックなどをして、ようやく私も2階
の自分の寝室に向った。
 浩平はすでに自分のベッドの中で夢を見ているようだ。
 私も自分の寝室のベッドに横になる。
 ビールを飲んだせいか、すぐに心地よい眠気が襲ってきた。
 今夜は熟睡出来そうだった。
 瞼を閉じ、眠る事だけを考えようとすると、こん、こんと控え
めにノックする音が聞こえた。
「浩平?」
 身体を起こし、部屋のドアの方にそう呼びかけると、かちゃ、
とドアが開いて自分の枕を抱いている浩平が姿を見せた。
「どうしたの?」
 薄闇の中、入り口付近にぬぼー、と立っている浩平に声を掛ける。
 暗いせいか、その表情までは見えなかった。
「あの・・・・・・」
 浩平はそう言ったきり、体をもじもじさせて何も言おうとしな
かった。
 ま、大体の予想はつくけど。
「ほら、いらっしゃい」
 布団を捲り上げ、浩平の分のスペースを作る。
 すると浩平はとてとて、と嬉しそうに飛び込んできた。
「やっぱり怖かったんでしょ?」
 ちょっとからかい気味にそう訊ねる。
「怖くないなんて一回も言ってないよぅ」
 すると浩平はひねくれ気味にそうやり返してきた。
「ぷっ」
 それを聞いて思わず笑ってしまうと、浩平はそっぽを向いてし
まった。
「ごめんごめん。ほら、もっとこっちに寄りなさい」
 謝りながらそう言うと、浩平がもそっと動いて私にくっついた。
303金曜9時2分 5/7:02/02/07 00:40 ID:XSKSTgCW
 何か嫌な予感がして急に目が覚めた。
 暗闇の中、目を凝らしてステレオの時計に視線を定める。
 どうやらまだ眠ってから数時間しか経っていないようだった。
「うう・・・・・・」
 という浩平のうめき声に気付いたのはその直後だった。
「浩平!?」
 すぐに揺さぶり起こそうとする。
「んはっ・・・・・・ううぅ・・・・・・」
 慌てて浩平を抱え起こすと、浩平は苦しげに息を吐き出した。
 パジャマはびっしょりと汗に濡れている。
「浩平、どうしたの!?」
 再度、今度は先ほどよりも強く揺すった。
 すると浩平の瞼がうっすらと開く。
「浩平?」
 もう一度呼びかけると、浩平は急に声を上げ、泣き出した。
「ひ・・・・・・うぁああんっ!叔母さ・・・・・・わぁああんっ!」
 とりあえず浩平が目を覚ましたので安心出来た。
「ほらほら、どうしたの?」
 あやすように浩平の頭を撫で、ゆっくりとそう訊ねると、浩平が私のお腹に手を当てた。
 そして確かめるように何度も強く押す。
「・・・・・・良かった・・・・・・ぐしゅっ・・・・・・ひぐっ」
 浩平は私のお腹に手を置いたまま、そう呟くと、ようやく泣き
止んだ。
 とは言っても号泣がすすり泣きに変わっただけだが。
「・・・・・・ほら、もう大丈夫だから。ね?」
 未だすすり泣きをやめない浩平の頭を撫で、そう言うと、浩平
は頷いた。 
 でも、何でこんなにうなされて、そして泣き出したのか私には
理解出来なかった。
304金曜9時2分 6/7:02/02/07 00:41 ID:XSKSTgCW
 すっかり汗でびしょびしょになってしまった浩平を別のパジャ
マに着替えさせると、浩平がぽつり、ぽつりと話し出した。
「叔母さんのお腹からエイリアンが出てきてね、叔母さんが死ん
じゃうの・・・・・・」
 浩平はそう言うと、また瞳を潤ませた。
「僕は一生懸命、叔母さんを助けようとするんだけど・・・・・・助け
られなくて・・・・・・ひっ・・・・・・それが・・・・・・ひぐっ・・・・・・悔しくて」
 言い終えると、浩平がまた泣き出した。
 たまらなくなり、浩平を抱きしめる。
「馬鹿ね・・・・・・」
 呟きながら、さらに強く抱きしめた。
 嬉しかった。
 本当に嬉しかった。
 夢の中とはいえ、浩平がそんなにも私の事を大事に思ってくれ
ているなんて。
 ああ、私は浩平に大事に思われている。
 そう実感する事が出来る。
 それが私にはとても誇らしかった。
 そこまで思われているという事は、私は浩平にとって『大事な
人』になれているという事だから。
 多少なりとも、浩平の『親』代わりになれていると言うことだ
から。
「浩平・・・・・・叔母さん、とっても嬉しいよ」
 浩平にそう伝えると、浩平は涙を拭いて笑顔を見せてくれた。
「ありがとうね」
 浩平を抱きしめたまま、ベッドに横になる。
「もう、怖い夢見ない?」
 浩平が私を見上げ、呟く。
 私は浩平の頭を撫でながら、ゆっくりと頷いた。
 このまま、浩平を抱いたまま眠るのもいいだろう。
305金曜9時2分 7/7:02/02/07 00:41 ID:XSKSTgCW
「本当に立派な世界地図ね」
 小さくなっている浩平にそう咎めるように声を掛ける。
 すると浩平が肩を落とし、さらに縮こまる。
 もう一度、庭の物干しに干してあるベッドマットに視線を移す。
 そこには黄色い染みで出来た地図が広がっていた。
「どうしてトイレに行かなかったの?」
 地図から視線を浩平に移し、そう言うと浩平がぼつりぼつりと
弁解を始めた。
「トイレ行きたくなって起きたんだけど・・・・・・やっぱり怖くて」
「・・・・・・我慢しているうちに眠っちゃったわけね」
 ふぅ、とため息を吐くと、玄関の方から聴き慣れた声がした。
「浩平ー、学校いこうよー」
 一瞬だけ玄関の方に視線を移し、また浩平を見る。
 すると浩平が急に落ち着きを無くし、懇願するように喚く。
「瑞佳には内緒にしてっ!お願いだよぅっ!」
 必死の形相で浩平が何度も繰り返す。
「もうしないからっ!お願いだよぅっ」
「うーん・・・・・・」
 いたずら心で一度言葉を止めて焦らしてみると、浩平が半泣き
になりながら私の足にすがり付いた。
「お願いっ」
 あんまりいじめるのも可哀想なので、今回は許してあげよう。
 ・・・・・・嬉しかったしね。
「しょうがないわねぇ・・・・・・ほら、瑞佳ちゃん待ってるよ」
 ウインクしてそう言うと、浩平はカバンを引っつかんで、嬉し
そうに『いってきまぁす!』と叫んで飛び出した。
「いってらっしゃい!」
 玄関先からそう声を掛けると、浩平が振り返り手を振った。
 さて、これから会社に行く準備をしなければならない。
 会社に行って仕事をして、そして・・・・・・。