最萌トーナメント支援用SSスレッド

このエントリーをはてなブックマークに追加
224MITUKI ◆XqniXHe2
 茜戦では支援できなかったので、ブロック決勝用に。
 2回戦で投下した支援の続きですので、先にそちらを書かせて
下さい。既出でごめんなさい。
 (3/3)、つづけて新規のやつ(4/4)です。
225優しくはない……(1/3):02/02/03 17:01 ID:lI/gBza9
『こんにちわ、なの』
「……こんにちは、澪さん」

 澪さんと偶然会ったのは、いつもの空き地へ向かう途中だった。

『どこへ行くの?』
「……いつものところです」
『今日は寒いの、ずっと立っていると風邪ひいちゃうかもなの』
「大丈夫です、慣れてますから」

 澪さんは、いつものように無邪気に、“話かけて”くる。

『どうしていつもあそこに居るの?』

 そして無邪気に―――無神経に、そう聞いてくる。


 澪さんと知り合いになったのは、“あの人”がまだこの世界にいた頃だった。
 最初はただ挨拶を交わすだけの間柄だったけれど、次第に親しくするように
なり。
 そして“あの人”が消えてからも、その関係は続いている。

 素直で、無垢で、純粋で。

 私は、上月澪というこの少女が……


 大嫌いだった。
226優しくはない……(2/3):02/02/03 17:02 ID:lI/gBza9
 空き地へ向かう私の後を、ずっとついてくる澪さん。

「ついてこないで」

 そう言いたくなるのを我慢する。
 無神経さに苛立つ。
 この気持ちを直接ぶつけることができたら、どんなにか楽になることだろう。

 ……わかっている。
 そんなのが、ただの八つ当たりだということくらい。
 だけど苛立つ気持ちが消えるわけではない。

 澪さんは、人の心に土足で踏み込んでくる。
 何事にも前向きで、一生懸命が故に。

 あの人もそうだった。あの人も、しつこいくらいに私に付きまとって、私の
心に入り込んできた。
 澪さんは、あの人に似ているのだ。
 姿形ではなく、その内面が。あまりにも、似ているのだ。

 だからこそ、大嫌いだった。

 澪さんと“話し”ていると、あの人を思い出すから。
 今は居ない、帰ってくるかどうかわからないあの人を、思い出してしまうから。
 あの人がもう居ないことを、思い知らされてしまうから。
227優しくはない……(3/3) :02/02/03 17:02 ID:lI/gBza9
「澪さん、あなたは……」
『なになに?』

 言いかけて、躊躇う。
 聞いてどうするというのだ。
 だが、私の口は躊躇う私の意思に反して、言葉を紡いだ。

「この世界が好きですか?」
『え?』
「答えてください、あなたは、この世界が好きですか?」

 唐突な問いだったのだろう、澪さんはしばらくきょとんとした顔をし。

 そして、“言った”。


            『大好き、なの』

 ああ。
 やっぱり、聞くのではなかった。聞くべきではなかった。
 答えなど、わかりきっていた。
 彼女ならきっとそう言うだろう。そして、あの人もきっと同じ事を言うに
違いないのだ。

 だから私は……


 この子が、大嫌いなのだ。
228……この世界で(1/4):02/02/03 17:03 ID:lI/gBza9
『とっても、大好きなの』

 続けてそう書いた澪さん。
 不意に、私は嚇っとした。

「どうしてですか! どうしてそんなこと笑顔で言えるんですか!」

 頭の中が真っ白……ううん、真っ赤になって。

「あなたは喋れないでしょう!? 生きていくの、辛いでしょう!?」

 自分が、いま何を口走っているのかも分からぬままに。

「なのに、どうして!」

 私は、人として最低の言葉を澪さんにぶつけていた。


 叫んだ後、少し冷静になって。
 自分の言ったこと、口に出してしまったことがどれだけ酷いことかわかって。
 自己嫌悪に押し潰されそうだった。
 澪さんに申し訳なくて、自分が情けなくて。
 このまま、消えてしまいたかった。

『茜さんは、この世界が嫌いなの?』

 だから、澪さんがそうスケッチブックに書いて見せた言葉に、気付くのが遅
れた。

「え……?」
229……この世界で(2/4) :02/02/03 17:03 ID:lI/gBza9
『答えて』
『茜さんは、この世界が嫌いなの?』

 あんな醜い言葉をぶつけた私に。
 どうしてあなたは笑顔でそんなことが聞けるの……?

「わ、私は……」

 「嫌いです」「こんな世界、あの人のいないこんな世界、大嫌いです」
 私は、すぐさまそう口に出すつもりで

 ――言えなかった。

 あの人のいた、この世界。
 あの人と心を、身体を重ね合わせたこの世界。
 私がこの世界を嫌いになってしまったら、あの人はどこに帰ってくればいいの
だろうか。

 何も言えなくなってしまった私に、澪さんは微笑みながらスケッチブックに
ペンを走らせた。

『生きていくのは、つらいの』
『この世界は、優しくはないから』

『でも、それでも』

『私はこの世界が大好きなの』

 笑顔で、笑顔のままで。
 澪さんは、泣いていた。
230……この世界で(3/4):02/02/03 17:04 ID:lI/gBza9
「あっ……」

 とめどなく溢れる涙を拭わぬままに。
 それでも笑顔で、澪さんはペンを走らせ続ける。

『だから茜さんも、嫌いにならないで』
『この世界を嫌いにならないで』

「あっ、ああっ……」

『この世界は、優しくないけど』
『きっと、悪いことばかりじゃないの』

「ああっ、あうぅ……」

『ね?』

「う、あ……うっ…うあああぁぁぁ!」

 気付けば。
 私は澪さんを抱きしめ、泣き叫んでいた。
231……この世界で(4/4):02/02/03 17:04 ID:lI/gBza9
 この世界は、優しくはない。
 あの人自身を、皆の記憶に残ったあの人を、そして澪さんの声を。
 この世界は、全て奪い去っていった。

 私はこの世界を好きにはなれない。
 あの人のいないこの世界。
 私はこの世界を嫌いにはなれない。
 あの人のいたこの世界。そして、いつか帰ってくるであろうこの世界。

 私と同じように、ううん、きっともっと辛い十字架を背負っているであろう
澪さん。それでもこの世界を好きだと胸を張って言える澪さん。
 強い人だ。こんなところまで、あの人にそっくり。

「澪さん」
『はいなの』
「私と、友達になってくれますか?」

 澪さんはしばらくきょとんしていたが、やがてにっこり笑ってスケッチブック
にこう書いた。

『ずっと前から友達なの』
「はい、友達ですよね」
『茜さん、変なこと言うの』
「そうですね、変です、私」

 お互いに涙でぐちゃぐちゃになった顔で、笑いあう。

 私はきっといつか、この世界を好きになれると思う。

 優しくはない、この世界を。
232MITUKI ◆XqniXHe2 :02/02/03 17:05 ID:lI/gBza9
 >>225-231

 以上です。ありがとうございました。