葉鍵板最萌トーナメント2回戦Round105!!

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206千鶴支援2/3
 数日前から夏休みを利用して、柏木邸には従弟の耕一さんが遊びに来ていた。
 久しぶりに会う耕一さんは、あの頃の雰囲気を残していたけれど、別人のようにたくましくなっていた。
 耕一さんが来てから、家の中の雰囲気が目に見えて明るくなったのが判る。
 あれほどはしゃぐ初音を見たのは、本当に久しぶりだった。
 私も、自分でも驚くほど自然に笑顔を造ることができた。

 しかし、彼を家に迎えるまでに、私と妹たちは二つの傷痕を乗り越えなければならなかった。
 彼は亡くなった叔父様の息子さんなのだ。
 会ってみると、彼は外見の特徴よりむしろ人柄が叔父様にそっくりだった。
 何年も父親のように一緒に暮らしてきた人の面影が、息子である耕一さんにはしばしば重なって見える。
 そのことは、ときおり振り切ったはずの心の傷痕を疼かせる。それは妹たちも同様のはずだ。

 そしてもう一つ、彼もまた柏木家の血を引いているということ。
 幸いなことに、耕一さんにその兆候は見られなかった。
 幸い…というのは少しおかしいかも知れない。
 いずれ容赦なく訪れる審判の時を、ほんの少し先延ばしにしているだけなのだから。
 こうして与えられた猶予の日々こそが、もっとも残酷な思い出になるかも知れないというのに。
 今は妹たちのためにも、“そうでないこと”を祈りたい。
 私は決して自分のために願ったりしない。
 もし“そうだった”ときに、私が迷うことは許されないのだから。
 だから、せめて妹と耕一さん自身のために祈りたかった。
<続く 2/3>
207千鶴支援3/3:02/01/23 16:42 ID:k8qb7r/U
 いつの間にか、ブラインドの隙間から洩れる光が弱くなっていた。
 山の稜線に日が落ちつつある日を透かして、慌てて帰り支度を始める。

 ――そのとき、ある気配が私の人ならざる知覚の糸をわずかに震わせた。
 知覚よりわずかに遅れて、思考がその意味するところを理解する。
 戦慄した。
 全身の毛が逆立つほど、戦慄した。
 まだ分からない。まだ可能性の問題にすぎない。まだ何も始まっていない。まだ…。
 ループする思考を強引に断ち切って、私は会長室を飛び出した。
 早鐘のように打ち続ける胸の奥で、心の一部がなぜか氷のように冷え切っている。
 当然かも知れない。
 最初は父を…。そして次に叔父を…。
 私の心は、もう温もりを使い果たしてしまった。
 だから――。
『ワタシはもう祈ったりシナイ』
<FINていうかゲーム本編へ続く 3/3>