「お母さん」
食後の片付けも終わり彩が一息ついていると、娘のさやかが話しかけて来た。
「どうしたのさやか?」
「一緒にお風呂入って良い?」
「うふふ。さやかは甘えん坊さんね」
「だってお母さんと一緒に入ると早く綺麗になれそうなんだもん」
「……わかったわ。一緒に入りましょ」
「俺は?」
唐突に現れる和樹。一緒にお風呂と言う言葉に吊られてきたに違いない。
「お父さんはだめー。……だって、恥ずかしいし……」
「……和樹さん」
わかった、と和樹がその場を去った。
「やっぱりお母さんの髪っていいなぁ」
彩に髪を洗ってもらいながら、さやかはそう言った。
無論目は閉じている。
「……どうして?」
「だって長いし、綺麗だし……」
「さやかの髪だって、和樹さんの色で素敵よ。長さだって、ちゃんと伸びてるでしょ」
そう言って、丁寧に髪を洗っていく彩。
さやかの髪は、彩ほどではないが長い。色艶は彩に劣っているわけではない。
表情は心地よさそうだが、それでも不満を洩らすさやか。
「うん。 でも、お父さん、お母さんみたいな髪が好きだろうし……フクザツ」
「……さやかは和樹さんの事好き?」
「お父さんもお母さんも大好きだよ。それに、晴美ちゃん、樹くん、穂希ちゃんいすずちゃん
みんな大好き」
「……さやかは幸せね」
不意に彩の表情が陰るがさやかには気付かれない。
「そうなのかな…………きっとそうだね。 お母さんはどう?」
「……どうかな……。水流すけど良い?」
「あ、ちょっと待って。 ……良いよ」
ざー
さやかの髪からあわが流れ落ちる。
「さやか」
「何? お母さん」
彩がさやかを後ろから抱きしめた。
「私もね、さやかがいるから、和樹さんがいるから幸せよ……」
「なんか照れるね」
さやかは顔を赤く染めた。
脱衣所にいた和樹は、彩の頭をなででやろうと心に決めた。