879 :
琉一:
何度も自分に、『前と同じに戻っただけ』『先輩は、すぐに帰ってくるんだから』と言い聞かせた。
だけど励ましてくれる声も、心配してくれる声も、誉めてくれる声も、何一つない。
それが無性に悲しかった。寂しくて寂しくて、心が壊れそうになった。
言い換えれば、どれだけ浩之という人間が、自分にとって大きい存在になっていたかが分かる。
「先輩の、声が聞きたい……」
『え? 今の、もう一回やってくれないか?』
『葵ちゃんは、俺なんかよりずっとすごいからな』
『よっしゃ! いいぞ、葵ちゃん!』
浩之の言葉、顔、しぐさを思い出すたび、かえって悲しさは募った。
思い出というものは、悲しみを埋めることはできないんだと、初めて知った。
「先輩、先輩、先輩…………」
名前を呟くたびに、こぼれてくる涙。
悲しみが生み出す心のかけらが、零れて頬を伝う。
それはひどく綺麗なのに、ひどく残酷なものに見えた。
「う……わ…………ああああああぁっ!」
絶叫のような泣き声が、喉から溢れた。