Fブロック、2回戦。神尾晴子、HMX-12マルチ。そして……松原葵。
史上初の、三つ巴の決戦開始まで、後僅か。
今まで幾多の戦士達が抜けてきた通路を、葵もまた、くぐってゆく。
その先に、待っている人影があった。
「すぐに追いつくから……先に行ってなさい」
坂下好恵が差し出した手に、軽く拳を掲げ、触れさせる。
「待っているわよ……葵」
腕組みをして微笑む来栖川綾香に、力強く頷く。
「葵ちゃん……」
そして、もう一人。
「先輩……」
藤田浩之の前で立ち止まり、じっと見つめる。
浩之がなにか言いかける前に、葵が口を開いた。
「あの……いつものあれ、やってくれませんか?」
「いつもの、って……あれ?」
「……はい」
言いだした葵も、さすがにちょっと照れる。
綾香はからかうような眼差しを浩之に、坂下は呆れたような苦笑を、浩之に送る。
浩之は、照れ隠しに頬を掻いてごまかしながら、
「ったく、しょうがねぇなぁ……いくぞ」
葵のほっぺたをふたつの手のひらで挟むように、ぴちっと叩いた。
葵は一瞬痛みに目を閉じると、すぐに真っ直ぐ俺を見つめてくる。
「いいか……? ……葵ちゃんは強いっ!」
ピクンと葵が震える。
「葵ちゃんは強いっ! 葵ちゃんは強いっ! 絶対に、強おぉーーーいっ!」
叫び、そして最後に葵の頬をもう一度打った。
さらに肩を掴み、葵の魂を揺さぶるように、力強く続ける。
「いつもと同じだ、勝ち負けなんてどうだっていい!
ただ、悔いの残らないよう、思いっきり戦ってくるんだ!」
「悔いの残らないよう、思いっきり……」
「そうだ! 一回戦は確かに奇跡が起こったのかもしれない。
さらにもう一人加わった、晴子さんだって十分強敵だっ!
だけどな、一回戦での俺たちの熱狂は、投じられた一票は、紛れもなく葵ちゃんの強さの証だっ!
その葵ちゃんの力を、気持ちを、思いっきりぶつけてこいっ!」
葵の瞳に、闘志と精気が宿る。
「いけるか、葵ちゃん? 思いっきりぶつかれそうか!?」
「はいっ!」
「よし、それじゃ……行ってこーーーいっ!」
「はいっ! 頑張りますっ!」
葵は頼もしいほど強く頷き、駆けだしていった。
異様に盛り上がった観客席も、体を震わすほど響く歓声も、今はなんのプレッシャーにもならない。
その数万の声さえ制して、葵が強く叫んだ。
「お願いしますっ!」
〜松原葵、入場〜