あゆまこの史上最大の作戦(1)
キーンコーンカーンコーン・・・。
四時間目終了を伝えるチャイムが鳴り、教室は喧騒につつまれた。
「あうーっ、お腹すいた・・・」
「うぐぅ、お腹ぺこぺこだよう・・・」
机の上に突っ伏しているのは、制服姿のあゆと真琴。
「2人ともどうしたんですか?」
怪訝そうにクラスメートの栞がたずねた。いつもなら退屈な授業から
解放されてはしゃぐ二人なのに、今日は元気が無い。
「ボクたち、お小遣いは昼食代も一緒に貰ってるんだけど・・・」
「調子に乗ってつい、少女漫画と肉まん買い過ぎて・・・」
「ボクはたい焼きで・・・」
「「全部使っちゃったんだよー」」
「まあ・・・」
「祐一ったら人が困ってるのに、『無駄遣いしないようにって、あれほど言っただろ、
今月はひもじい思いをして、教訓を体に叩き込んだ方がお前たちのためだ』なんて
いうのよーっ!」
真琴が祐一の口調を真似て口を尖らせた。
「お弁当作ろうにも、ボクたち料理できないし・・・」
「そもそも朝早く起きられないし・・・」
「「はあー・・・」」
顔を見合わせても、出るのはため息ばかりだ。
あゆまこの史上最大の作戦(2)
「あのう、よかったら私のお弁当食べますか?」
「えっ!いいの?」
「うん、今日はあまり食欲がないから・・・」
「うぐぅ、駄目だよ真琴・・・いくら何でもそこまで栞ちゃんに迷惑かけられないよ」
「あう・・・」
どのみちボリュームの乏しい栞の弁当を山分けしても満腹からはほど遠い。
「あたしに考えがあるわ」
真琴が瞳を輝かせた。狐がブドウの沢山なっている
農園を見つけた時、こんな顔をするかもしれない。
あゆと真琴は学生食堂の前に居た。どこから持ってきたのか、真琴は両手で
ピコピコハンマーを握り締めていた。
「いい?作戦を確認するわよ。今日は祐一は学食で男友達と昼食を取っているわ。
私がこの真琴ハンマーで祐一に不意打ちするから、ひるんだ隙に昼食の載ったトレイを
あゆが奪うのよ」
「うぐぅ、ホントにやるの・・・?」
「当たり前じゃないの。このままじゃ我が軍は戦わずして、むじょうけんこうふく
することになっちゃうわよ。我々のけいざいえんじょの要請を断った祐一が悪いのよ!」
あゆはなおも躊躇したが、結局真琴に押しきられる形になった。
あゆまこの史上最大の作戦(3)
「名雪さんはお昼休みはクラブの部長会議に出るっていってたよ」
「好都合だわ」
陸上部の名雪が居なければ追いつかれる心配もあるまい。
2人は食堂の柱の影に隠れて様子をうかがった。
「いくわよ!」
「祐一、かくごぉ!」
ピコーーーーン!
甲高い音が食堂中に響いた。
「おわっ!な、なんだ!?」
突然の出来事に椅子から滑り落ちる祐一。
「うぐぅ、祐一君、ごめん!」
あゆが祐一のAランチのトレイを掴んで駆け出した。
あゆの逃げ足は商店街仕込みだ。2人は人の波を器用にすり抜けて、
食堂から裏庭へ続く廊下を疾走する。出口から漏れる裏庭の明かりが大きく
なったその時―――
「こらーーっ!!!」
出口で腕を組んで、仁王立ちしていたのは香里だった。あゆは慌てて立ち止まろうと
したが、足がもつれて、派手に転倒した。あゆにつまづき、真琴も転ぶ。
かつてAランチであったものはそこら中に散らばっていた。
あゆまこの史上最大の作戦(4)
「うぐぅ・・・重いよ〜」
あゆは真琴の下敷きになって息も絶え絶えだ。
「あゆさん、真琴さん、ごめんなさい・・・」
香里の傍らには栞がすまなそうな顔をして立っていた。
「あうーっ、栞ぃ、裏切ったわねーっ」
「何言ってるのよ、貴方たちがやってることは犯罪よ。
栞がどれだけあんたたちの事を心配してるかわかってるの!?」
「あう・・・」
あゆと真琴は、香里と祐一からこっぴどく怒られ、もちろん廊下の
掃除もさせられる羽目になった。
「うぐぅ、真琴にのせられてひどい目にあったよ・・・」
あゆがモップをかけながらため息をついた。
「なによう、あんただって反対しなかったじゃない」
「2人とも喧嘩しないでください。明日からは私が3人分のお弁当を
作ってきますから・・・」
「本当に!?」
「やったー!」
ぱっと目を輝かせるあゆと真琴。
「だからもう他の人の食事を奪ったりしないでくださいね」
「うん、しないしない!」
「した事も無いよぉ!」
「うふふ、調子良いんだから・・・」