葉鍵板最萌トーナメント2回戦Round99!!

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296素人三等兵 ◆Moe.Apg.
『片翼の天使』1

『うん……約束、だよ』

誰の言葉かは既に覚えてない。
けど確かに誰かと約束はした。
その内容は既に覚えている訳も無く、只その言葉だけが記憶に残っていた。


「うぅ、寒い。一体何時になれば来るんだよ」
寒い雪の中、少年…相沢祐一は体を震わせながら呟いていた。
「確か秋子さんが『1時に名雪が迎えに行くから、待ってて下さい』と言った筈なのに」
チラッっと駅前のロータリーの真ん中にある時計塔を確認し、
「もう3時前じゃないか、何やってんだ名雪は」
コートのポケットに手を突っ込み、体を丸めながらひたすら待っていた。
「…さて、どうしたもんかなぁ」

気が付くと、何時の間にか雪が止み風が治まっていた。
297素人三等兵 ◆Moe.Apg. :02/01/18 05:48 ID:qUAxXyde
「方翼の天使」2

「夢なのか?」
祐一はふと我に返った。
「確か、寒い雪の中で名雪を待ってた筈だが…」
寒くも無く、周り全てが真っ白なのだが、何故か心地よい感じがした。

「祐一君」
呼ばれて振り返ると、そこに一人の少女が立っていた。
…いや、浮んでいた。
「君は……、誰?」
「………」
「………」
一瞬の沈黙、そして…、
「うぐぅ、忘れたの?ヒドイよ祐一君」
「…えっと、おれの記憶には羽根を生やした人との知り合いはいないと思うのだが」
そう、その少女の背中には羽根が生えていた。
「うぐぅ、あゆだよ〜。……ホントに忘れたの?」
「…なんてウソだ」
見間違える筈も無い、何故なら彼女の姿は7年前と“全く”変わってなかったからだ。
「うぐぅ、相変らずヒドイよ祐一君は」
と、あゆはポカポカと祐一の胸を叩いた。
298素人三等兵 ◆Moe.Apg. :02/01/18 05:49 ID:qUAxXyde
「片翼の天使」3

「で、どうしたんだその格好は?」
あゆは自分の姿を確かめながら、
「えっ!?変かな、この格好は?」
「変と言うより、なんで背中から羽根を生やしているか知りたいのだが」
言われてからあゆは自分の背中を見て、
「……あっ!!ホントだ。なんなのこれ?」
「いや、それはおれが知りたい」
「でも綺麗な羽根だね」
と、あゆは愛おしくその羽根を撫でていた。
確かに綺麗な羽根だ、けど本来なら対で生えている筈の羽根が“片方”にしかない。
しかもその色は深く澄んだ“黒”であった。
「で、久々の再会でなんだが、どうしたんだ?迷子か?」
「………」
「………」
「…あ!?、本当の目的を忘れてたよ」
と言いながらニッコリと微笑み、右手を差し出して、
「…約束。迎えにきたよ、祐一君」

あゆが差し伸べたその手は、柔らかくそして………冷たかった。
299素人三等兵 ◆Moe.Apg. :02/01/18 05:50 ID:qUAxXyde
「片翼の天使」4

「うぅ、遅刻だよ〜」
雪の中を少女が走っていた。
「祐一、怒ってるかなぁ?」
約束の時間から既に二時間近く経っている。
「そうだ!お詫びの印に何か暖かい物でも買ってこよ〜」
待ち合わせのベンチ近くの自販機でコーヒーを買おうと思った……のだが、

『がやがやがやがや………』

「うにゅ?何か騒がしいなぁ」
ベンチの周りには数名の人だかりがあり、
『おい!大丈夫か君?』
『誰か救急車は呼んだのか!?』
などと、叫んでいた。

「えっ!?」
いにしえぬ不安が少女を襲い、慌てて駆け出した。
「うぅ、退いて下さい〜」

人込みを掻き分けて入ったそこには、

「祐一ぃぃぃ!!」

冷たくなった少年と、
片側の羽根が壊れている天使の人形だけがあった。

〜了〜