「決心」(2/4)
それはそうだ、自分の思い出の場所が変わり果てていたら……それは……
「大丈夫、おれがついてる……」
「うぐぅ……うん。まってね、今鍵あけるから……」
そして、俺達はあゆが昔住んでいたという家に入った……
そして、俺達が中に入ったとき……ぞろぞろぞろと、何かが出てきた。
「うぐぅ〜っ!!ねずみ〜っ!!」
「何十匹いるかわからないな……こりゃ」
「うぐぅ〜っ!!!!」
あ、やっぱあゆでもねずみは怖いのか。あいかわらずコートで顔を隠してるよ。
「ほら、もう行ったから、顔出せよ」
「うぐぅ……本当に?」
「大丈夫だっての、本当だから」
「うぐぅ……うん……」
どうにかこうにかあゆをなだめて中に入る俺達……
「うわ……ここまでひどくなるのか……」
「…………」
外見に負けず、中まで完全に廃墟になってる家の中……ぼろぼろのソファー、雲の巣だらけの
テーブルや電化製品……錆びた台所……
「うぉっ!!」
「祐一君!?大丈夫?」
くそ……いきなり床が抜けやがった……しかし、この家の側に交番があるせいか、荒らされた
跡はないな……
「決心」(3/4)
「ああ、そういえば、あゆの部屋ってどうなってるんだ?2階か?」
「うん、そうだよ……ってもしかして祐一君も来るの?」
「あたりまえだ、あゆ1人で行かせられないだろ」
というのは建前……あゆの昔の部屋を見てみたいという願望が無かったとはいえない。
「うぐぅ……恥ずかしいよ……でも、うん、わかったよ」
そして、あゆの部屋に行ってみる俺達。
「あ……」
「ここもか……」
ここもかなり痛みがひどい……カーテンやら布団やらの色は抜けてしまい、埃だらけだ……
でも、何とかなりそうな物がそれなりに結構ある……ん?
「あっ!!おかあさんだ……」
そこには写真立と1枚の写真……これがあゆのお母さんか……
「あゆ……ちょっとだけその写真、貸してくれるか?」
「え?う、うん、いいけど……どうするの?」
聞き返すあゆの手を俺はぎゅっと握って写真に向き直る。
「え、ちょ……ゆういちくん!!」
「いいから、少しだけこのままでいてくれ……」
そして、俺は決心して写真に向かって言った。
「……こうして、写真でしか会えないのが残念です、けれど……あゆはこうして元気になり
ました。今は俺があなたの代わりに可能な限り側にいてあげられるようにしています……
まだまだ、頼りないですが……あゆは俺が幸せにします……どんなことがあっても必ず……」
「ゆういちくん……」
その時、俺は確かに決心した……俺があゆを幸せにしてやらないと……あゆにもう2度と
寂しい思いをさせないように……そして……俺はあゆを抱き寄せて……力いっぱい、キスを
した……あゆを2度と失わないように……
「どこにも行くなよ……お前は……俺の一番大事なものだから……」
「う……うんっ……ありがとう、祐一君」
「決心」(4/4)
そして……とりあえず整理は後にするという事にして今日は帰ることになった……
あゆは玄関に待たせておいた。俺はもう1度、今度は1人であゆのおかあさんに話をしたかっ
たから……ただ黙って写真立てをじっと見つめる俺。その時、俺は確かに聞いた。
あの言葉を俺は生涯忘れないだろう……絶対に。
『娘を……よろしくおねがいしますね……祐一さん』
あゆ支援SS 「決心」 完