行くわよ乙女! 七瀬スレ 其の九

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 ヒクつきそうになる頬と、吊り上がりそうになる眉とを懸命に作り笑顔で押し隠すあたしである。
 ――この馬鹿は、本当にもぅ。 普通、そんな事他人に相談するか?
 目的の為に必死になると周りが何一つ見えなくなるのは、あの頃と全然変わっていない。
「ね、ねぇ、広瀬、どうしよう、どうしたらいいかなぁ?」
 悩んでるんだか惚気てるんだかどっちかにしろっ、とアタマの一つもハタいてやろうかと思ったけれど、ちょっと「良い事」を思い付いた。 今度は浮かんで来るヨコシマな笑みを抑えるのに必死なあたしである。
「駄目ね、七瀬。 男心ってものを判ってないわ」
 自信満々にお説教してやる事にする。
「……え?」
「少し別の刺激が欲しくなったのよ、浩平君は」
「……刺激」
「そう刺激」
「で、でも、刺激って、どうすれば良いのかな、あたし」
「そんな事は自分で考えなさい、と言いたい所だけど」
 あたしは「秘策」を耳打ちする。 この位の悪戯は許されても良いよね?
「そ、」
「そういうの、嫌う男は居ないものよ」
 七瀬は気付かないだろう。 こんな事、あたしだって知識としてしか知らない、なんて。
「そ、そ、そうかな?」
「そ・う・よ」
「う、うん。 試してみるっ。 ありがとっ」
 言うが早いか、七瀬はたたたと駆け去った。 何処かに仕舞ってしまった「それ」を捜しに行くのだろう。
「頑張ってねー」
 あたしは遠ざかって行く七瀬を見送る。 幸せな奴だ。 羨ましいくらいに。
 その姿が見えなくなったところで、振っていた手をだらんと下げる。 そして、何となくため息をついた。
「私って割と良い奴だったんだなぁ」
 ――少しだけ、自嘲的な笑みを浮かべて。

 一人称で書き直してみる。
 えと、広瀬は実は浩平狙い説を採用した上でお読みいただければ幸いです。