「何となく思ったんだけどさあ……」
放課後の教室。
岡田が思いつめた表情で私に語りかけてくる。
「もしかして私達さ、男子の人気って低い?」
何を言うかと思ったら、そんなことか。てっきり真剣な悩みでもあるかと思
ったのに。
でもとりあえずは答えを返しておかないといけないよね。岡田にとってはそ
れでも重大な問題なんだろうし。
「少なくとも岡田は人気ないと思うよ。目つき悪いし、胸とかもないし〜」
私が答える前に松本が答えた。
だけど松本、それって言っちゃヤバイよ。目つきと胸のことは、岡田には禁
句なんだから。
ほら、岡田ってばしっかりと拳を握り締めてる。
次に不用意な発言したら、鉄拳制裁は確実。
「ねえ、岡田。松本の言ったこと、あんまり気にしない方がいいよ」
ここは松本を黙らせるよりも岡田をなだめなきゃ。
このままほっとくと、絶対に松本がとどめの一言を言いそうだし。
「吉井……」
「なに?」
岡田の表情、さっきよりも不機嫌そう。
もしかして余計なこと、言っちゃったかなぁ……。
「目つきのことはそりゃあ私も諦めてるけど……」
「う、うん。それで?」
岡田の顔が私の眼前にまで迫ってる。
ちょっと近すぎなんだけど……。
「胸のことまでは言われたくないのよ。松本はもちろん、あんたにもね」
「え? え?」
一瞬、何が起こったのか分からなかった。
でも胸から感じる妙な感触に私は気づいた。
えーと、要するにアレ。
岡田の両手が私の胸を鷲掴みにしてる。って、なんで突然!?
「お、岡田! ちょっと何してるの!?」
「ほら、やっぱり吉井も私より大きいじゃない。あーあ、胸に余裕がある人は
羨ましいわ」
そう言って、ようやく手が離れていく。
……岡田、そんなに気にしてたんだ。
さすがにこればっかりは何も言えない。
だって、私も松本も1年生の時より少しだけど大きくなってる。岡田だけほ
とんど成長してないのに。
「で、でもさ、岡田。男の子って、別に胸だけで判断するわけじゃないよ」
「そうそう。岡田ちゃんってば、気にしすぎだよ〜。目つきが悪くて、胸の小
さい女の子が好きだっていうマニアな男子もいるかもしれないしさ〜」
「ま、松本……。それはさすがに言っちゃ失礼だよ……」
胸の件はともかく、友達として岡田を慰めようとしたのに、松本がまた余計
な発言。
「マ、マニア向け……。私が……?」
あぁー、岡田がブルーになっちゃってる。
松本ってば、自分の発言で岡田にダメージ与えてる自覚ないよね、絶対。
「岡田、ファイトだよ〜」
しかも岡田の肩を叩いて、励ましてるし。
松本が原因だっていうのに……。
「はぁ……」
私は松本達を見ていて、思わずため息をついてしまう。
私が頑張って、岡田を慰めようとするのを松本が台無しにする。
よく考えてみれば、ここまで私が苦労する必要ってない気がしてきた。友達
だからって、胸がどうした人気がどうしたなんてことまで責任持てないし。
結構、損な役回りなのかなぁ……私って。
「ん? 吉井ちゃん、どうしたの〜? やけに暗いよ〜」
「ったく、辛気臭いわねえ、吉井は。どうせ自分には個性がなくて、男子に人
気がないとか思ってるんでしょ?」
私が黙り込んでいるのに気づいたらしく、松本が私の顔をのぞきこんでくる。
ついでに岡田も。松本に何を言われて立ち直ったかは知らないけど、目つき
と胸のことは受け入れたみたい。
それどころか、何故か逆に私のことを哀れんでる。
……でも結局これだから、私が立ち回る必要性はホントにないなぁ。
今度、揉めそうになったら静観してようかな? なんて考えてみても、無理
なんだけどね。最後には場の雰囲気を良くしようって頑張っちゃうだろうし。
「もうそのことは諦めてるからいいよ。いつだって私が頑張るのが普通なんだ
から」
「吉井、なに言ってるの〜?」
松本が不思議そうな顔をしている。
そりゃあ、分からないよね。
勝手に私が納得したことを口にしてるんだから。
「ほらほら、吉井も松本も早く行くわよ!」
岡田がいつのまにか、教室の入り口に立ってる。
本日の教室での雑談はこれで終わりだ。
「それじゃあ行こっか、松本?」
「うん。行こう〜」
私は松本の腕を引っ張って、岡田の所まで駆けていく。
「この後はカラオケでも行くわよ!」
「うん」
「おっけ〜」
いつもこんな風に仲良くしてれば、私も苦労しないでいられるんだけどな。
ま、今はそんなことどうでもいいよね。
皆で楽しむことを考えないと!
で、数日後。
「やっぱりツインテールって、男子に人気ないのかしら?」
「岡田の場合、髪型よりも目つきのせいだよ〜」
この前とまた同じことの繰り返し。
2人共、少しは成長してほしいよ。
そうしないと私の苦労が絶えないんだから……。
「はぁ……。今日も頑張ろう……」
私は覚悟というよりも諦めのため息をついてから、一触触発状態な2人の間
に入っていった。