772 :
オガタリーナ230:
「ええ、約束ね」
智子が差し出した手を、理奈は強く握り締めた。
「それじゃ、行くわ。私」
控え室を出て、通路に立つと、遠くから声援が聞こえる。
「あ、ちょっと待ちいや」
歩き出そうとする理奈を、智子が呼び止めた。
「頬の涙の跡は、しっかりぬぐってから行くんやで」
驚く理奈。智子もまた、気づいていたのか。理奈の不安に。
「……ええ、わかったわ」
微笑んで答え、理奈は歩き出した。
「頑張りや。あたしが見届けたるからな」
智子の呼びかけに、理奈は片手を上げて答える。
もう、振り向いている暇はない。
また一つ、譲れない理由が理奈には出来たから。
スポットライト。
歓声。
そして、理奈は再びステージに立つ。